梅ごよみ 深川情緒 2004・12・12

7日に歌舞伎座昼の部を見てきました。

主な配役
丹次郎 段治郎
芸者仇吉 玉三郎
芸者米八 勘九郎
お蝶 春猿
半次郎 門之助
芸者政次 笑三郎
千葉茂兵衛 弥十郎
古鳥左文太 猿弥


「梅ごよみ」のあらすじ
序幕
向島三囲堤上の場
隅田川川中の場
ここは向島三囲の土手。傍らの茶屋では唐琴屋丹次郎はがお蝶と会っていた。お蝶は吉原の大店、唐琴屋の娘、丹次郎はその家の養子で二人は許婚なのだが、今ではわけあって二人とも家を出ている。

久しぶりに会えたのをお蝶は喜ぶが、丹次郎は今深川芸者・米八に面倒を見てもらっている身だ。丹次郎がお蝶を家に送ろうと渡し場へ向かうと、舟から上ってきた米八と鉢合わせ。丹次郎はやきもちを焼く米八をようやくなだめて、お蝶と舟に乗る。

丹次郎たちが乗った舟は一艘の屋形舟とすれちがう。その舟には芸者の政次と仇吉が乗り合わせていた。仇吉は初めて見かけたの丹次郎の美しい姿にいつまでも見とれていた。

第二幕
深川尾花屋入口の場
同奥座敷の場
ある日、深川の尾花屋の前では、古鳥左文太という侍と唐琴屋の番頭・松兵衛がなにやらひそひそと話している。その話というのは、畠山家の重宝「残月」の茶入れのことで、この茶入れはもともと丹次郎の主筋である千葉半次郎が預かっていた。

だがこれを何者かに盗まれ、半次郎は切腹のところを茶入れ詮議のため、100日の猶予を与えられて丹次郎の家の身を寄せていた。その茶入れを盗んだのは左文太で、松兵衛がこれを預かっていたのだ。この二人の密談を仇吉が立ち聞きする。

ところかわって、尾花屋の奥座敷。仇吉から手紙を受け取った丹次郎が人目を忍んでやって来る。茶入れの行方が知れたと聞いて喜ぶ丹次郎に、仇吉は作ってやった羽織を着せ掛ける。

そこへ来合わせた米八は嫉妬のあまり、丹次郎が来ていた羽織をはぎとって土足で踏みつけ、仇吉と激しくなじりあう。それを見た丹次郎はこっそりとその場を抜け出す。そこへ半次郎の身内・千葉茂兵衛が現れ、その場を収める。

第三幕
深川中裏丹次郎内の場
深川松本離れ座敷の場
深川仲町裏河岸の場
ここは、勘当された半次郎が身を寄せている、深川中裏の丹次郎の家。そこへお蝶が訪ねてくる。ところが、深川で一二を争う売れっ子芸者の仇吉と米八の喧嘩は読売りにまでなる始末で、様子を聞きにきた読売屋を丹次郎はようやく追い払う。

そこへやってきたのは仇吉と政次。仇吉は今夜捨て身の覚悟で、丹次郎が探している茶入れを手に入れる代わりに、「米八命」と彫った丹次郎の腕の刺青を消して欲しいと迫る。承知した丹次郎の腕の刺青を、熱した簪で焼きつぶし、仇吉は引き上げる。

その後へやってきた米八が丹次郎への怒りをぶちまけるのを、お蝶がなだめる。そこへ半次郎を召し捕りにきた本田次郎と丹次郎は出かけていく。

ここへ戻ってきた政次は「丹次郎が出かけたのは、仇吉に会うためだ」と偽りを言う。嫉妬に狂った米八は、深川のニ軒茶屋・松本へと急ぎ、お蝶も心配して後を追う。

松本の離れでは仇吉が、言い寄る古鳥左文太から茶入れを手に入れようとしている最中。そこへ血相を変えたが米八がやってきて、座敷に下駄を投げ入れる。

ところがそこにいたのは丹次郎とは全くの別人。仇吉は座敷を汚したと米八を責める。米八は政次に騙されたと悟るが、詫びをいれようとはしない。

怒った左文太が米八を手討にしようとするところへ藤兵衛が仲裁に入り、仕方なく米八は詫びを入れる。ところが羽織の一件を根に持つ仇吉は、投げ入れられた下駄で米八の頭を下駄で打ち据える。米八は悔しがるが、この場はお蝶とともに立ち去る。

左文太は茶入れを仇吉にやり、自分のものになるようにと口説く。そこへ半次郎が現れ、茶入れを盗んだ左文太と斬り合いになり、藤兵衛が加勢して左文太を討つ。

仲の橋のたもとでは、米八が仇吉を待ち伏せしていて、さっきの仕返しにと茶入れを奪おうと斬りかかる。恋の鞘当に加えて、深川芸者の意地から、どちらもあとに引こうとはしない。

そこへ割って入ったのは丹次郎。仇吉が手に入れた茶入れは偽物で、松兵衛が所持していた本物を既に取り戻したと話す。ついで左文太を討ち果たした半次郎、藤兵衛、そしてお蝶が顔を揃える。

茶入れを取り戻した半次郎は無事に帰参が叶うことになり、喜ぶ丹次郎を見て仇吉、米八の二人も仲直り。藤兵衛はこれを機会に丹次郎とお蝶に祝言するように勧める。

仲良く寄り添う二人の姿を見て、仇吉と米八の二人は「しらけるねぇ」と意気消沈するのだった。

為永春水の人情本が原作「梅ごよみ」は、木村錦花が脚色した今回の台本では昭和二年が初演で、丹次郎を十五代目羽左衛門、仇吉を六代目梅幸、米八を七世宗十郎をいう配役で大当たりしたそうです。

以前序幕・隅田川川中の場の魅力的な演出のことを織田紘二著「歌舞伎モノがたり」で読み、一度見てみたいものだと思っていました。

三囲の土手で、丹次郎とお蝶が乗り込んだ舟が花道にさしかかると、土手が真ん中から二つに割れて左右に引かれ、舞台は奥行き一杯に川の中。そこに一艘の屋形船が浮かんでいます。すると舞台がぐるっとまわって屋形船の窓が正面に来て、政次が顔を見せるのです。

この場面は期待通り、隅田川のさわやかな風が感じられるようでとても気分が良く、情緒がありました。

丹次郎の後ろ姿を見送る玉三郎の仇吉は、まさに浮世絵の美人画から抜け出たかのよう。後で丹次郎の腕の彫り物を簪で焼くところも、辰巳芸者らしい鉄火なところをみせて玉三郎ならではでした。政次を演じた笑三郎の芸者姿もとても美しく、しっくりと合っていてよかったです。

勘九郎の米八は、最初の三囲の土手では、辰巳芸者特有の言葉のせいか、なんだか男っぽかったですが、松本の座敷に乗り込んでいって、騙されたとわかった後の「加賀見山」のぞうり打ちを踏まえたという下駄打ちのところでは、辰巳芸者らしさを充分に見せてくれました。

段治郎の丹次郎は登場した時の印象こそ弱いですが、江戸前のつっころばしのような丹次郎を、なかなか上手く演じていました。二人の芸者を手玉にとり、最後は許婚と一緒になるという調子の良い男ではなく、あれこれ世話されると断りきれない人の良さが感じられて、良かったと思います。なんといっても立ち姿の美しい人ですので、玉三郎と並んでも絵になりますから、これからに期待したいです。

猿弥の左文太はちょっと遠慮しすぎて、小さくなっていたように思いました。春猿はいつもは声がすぐにひっくり返るのが気になるのですが、今回はそれがほとんどなくて良かったです。

最後は切り口上で、玉三郎と勘九郎が半分ずつ口上を述べました。このときの玉三郎のベージュの地に黒い鳥の模様の着物が素晴らしく粋でした。

その他には、福助の「嫗山姥」。猿弥が意表をつく三枚目の侍女、お歌を好演。煙草屋源七実は坂田蔵人を演じた信二郎はこの役にぴったりの二枚目で煙草尽くしの台詞を面白く聞かせました。八重桐の福助は、通力を得てぶっかえっての立ち廻りがきりっとしていてとても綺麗でした。

勘九郎の右京、三津五郎の玉の井の「身替座禅」。つい先日南座で見たばかりでしたが、比べてみても勘九郎は思いのほか真面目にこの役を演じていました。夜の部の桃太郎を思いっきり演じるためにこちらは正攻法でという事なんでしょうか。

三津五郎の玉の井は目の下のちょっと離れたところに隈のような赤い線を太く引いていたのが印象に残りましたが、そのほかは特別に滑稽な化粧ではありませんでした。

この日の大向こう

猿之助さんを欠いた澤瀉屋一門と玉三郎さん、勘九郎さんの合同公演ということで、掛け声はどういう風に掛けられるか、興味がありました。

段治郎さん、笑三郎さん、春猿さんたちにはいつものように名前で掛かったり、花道の引っ込みなど場に一人の時には「澤瀉屋」と掛かったりしていました。大向こうの会の方は4人ほど見えていたそうです。

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