勧進帳 五分五分の対決 2004.7.23

7月17日、大阪松竹座、夜の部を見てきました。

主な配役
弁慶 海老蔵
富樫 仁左衛門
義経 鴈治郎

勧進帳」のあらすじはこちらをご覧ください。

5月に歌舞伎座で富樫を演じた海老蔵が今月は大阪松竹座で弁慶を演じ、仁左衛門の富樫との対決で、期待を裏切らない堂々とした舞台を見せてくれました。

海老蔵の弁慶は、非常に落ちついた印象で「智者としての弁慶」だと感じました。花道で義経が「いかに弁慶」と言うのに対して團十郎は低い声で「は〜っ」と言いますが、海老蔵は無言で頭を下げただけでした。

勧進帳を読むところでも、「そ〜れ〜」と團十郎は「れ」を非常に低く言いますが、海老蔵は平らに言っていたので、極端に低い声を避け、無理の無い中音域の声を使って弁慶を演じようとしたのではと思います。

しかし関所を押し破ろうと提案する仲間たちを押しとどめる第一声は、深々とした良く響く魅力的な声で、劇場中の耳目を一身に集めました。

関所の番卒に義経が見咎められて、もはやこれまでと詰め寄る仲間を抑えるところで、海老蔵は金剛杖を両手とも下から上に外へ向けて持っていました。

先日三津五郎も講演会で、このことについて話をされていましたが、両手とも外に向けて持つ場合は弁慶に戦うつもりがなく、「富樫は必ずここを通してくれる」と信じていることになるとか。片手が内側を向いていれば、いざと言うときは金剛杖で立ち向かおうという心積もりだそうです。これでいくと海老蔵弁慶は、富樫が必ず通してくれると信じていたわけです。

主人の義経を心ならずも杖でなぐってしまったことを泣いてわびる海老蔵の弁慶は、地面に頭を擦りつけんばかりで、涙を誘われました。

最後の飛び六方も力強くて勢いがあり、もう一度見たくなるような良い弁慶だったと思います。

仁左衛門の富樫は、無駄なことを一切せず、シテの弁慶に対してワキとしての分を守りながらも、充分に富樫の心情を表現していて、洗練された素晴らしい富樫だったと思います。声の調子も良かったようです。

今回の勧進帳、海老蔵がじっくりと大人の弁慶を演じ、富樫の仁左衛門に一歩もひけをとらない五分と五分の対決だったと思います。

鴈治郎の義経は花道へ登場したあと、「山かくす」のところで、普通だと杖を斜めにもって花道外側を見ていますが、90度左に回転して客席奥を見る特殊な型で演じました。

そのほかには「沓手鳥孤城落月」と「弁天娘女男白浪」。淀の方の鴈治郎、激昂して言う台詞が何を言っているのかさっぱり聞き取れなかったのは私だけなのでしょうか。珍しく時蔵が立役の秀頼を演じていました。

弁天小僧の菊五郎は、黙阿弥のセリフの美しさを充分に堪能させてくれました。厄払いの最後、「弁天小僧菊之助たぁ、俺のことだ」というところでも、以前手間取って穴があいてしまったことがありましたが、今回はスルッと上手く肌脱ぎになれて、形良く極まっていました。

ところで額を割られた後、手代たちに取り囲まれながら、鬘を「がったりの鬘」にかけかえるのが今回初めて見えました。もちろん本当は見えてはいけないものですけど、ずっと疑問に思っていたので、やっぱりかけかえることが確かめられて嬉しかったです。男と見顕されてから簪を落とす時は、簪の房に手をかけて落とすやり方でした。

浜松屋は弁天小僧が菊五郎、南郷が段四郎、玉島逸当実は日本駄右衛門が仁左衛門と風格のある役者が揃い、見ものでした。段四郎は「自分は世話物が苦手だ」とインタビューで語っていますが、悪という感じではないものの、存在感があり見慣れた南郷が新鮮に感じられました。昼の部の瀬尾、和泉屋多左衛門と、段四郎の活躍が目立ちました。

稲瀬川勢ぞろいの場では、傘の模様がきちんと上手から「しら浪しら」と揃っていて、やっぱりこの方がきれいだと思いました。花道から本舞台に行くと全員の順序が変わるので、それぞれの出す字も変わるんだということにも今回気がつきました。

忠信利平の海老蔵は、弁慶で全エネルギーを使ってしまったのか、ボーっとした感じでセリフにも目つきにも生気が感じられませんでした。たしか海老蔵は「襲名披露の全ての狂言にちょっとでもいいから出たい」と言っていたと思いますが、これでは出ないほうが良かったかもしれません。

赤星十三郎の菊之助は、「偲ぶ姿も人の目に、月影ヶ谷神輿ヶ嶽今日ぞ〜〜」というところを、快く聞かせてくれました。

この日の大向こう

東京から三人の会の方が遠征していらしていたそうです。

弁慶の飛び六方で、もしかしたら手拍子になるのではと恐れていましたが、そんなことにならず盛大な拍手の中を勢い良く引っ込んで行きました。弁慶の花道の引っ込みには「たっぷり」と声が掛かっていました。

「浜松屋」では弁天小僧の厄払いで「知らざぁ言って、(音羽屋!)聞かせやしょう(まってました!たっぷり!)」と声がかかりました。音羽屋はここをゆったりと間をとって言うので、こう掛けられるわけです。

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