「助六」 現身の助六 2004.6.16 | ||||||||||||||
12日、歌舞伎座夜の部を見てきました。
助六のあらすじ はこちらをごらんください。 成田屋の襲名には欠かせない演目である「助六」今回登場する人数は、総勢なんと約100人。昔は芝居小屋全体を吉原に見立てて飾りつけたという、お祭気分一杯のお芝居で、これぞ歌舞伎という豪華絢爛さで、海老蔵の門出にこれほどふさわしい演目は無いと思います。 海老蔵の助六は、イキが良くて鼻っ柱が強い、まさに日本一の良い男助六そのもので、声質と口調が助六のべらんめえにいかにもぴったりでした。 海老蔵には先輩の役者に対して全くひけをとらない肝の据わったところがあって、助六がツラネを述べる時、くわんぺら門兵衛の吉右衛門とあさがお仙平の歌昇は辛い中腰の姿勢をずっと続けているのですが、それに全く遠慮することなく、たっぶりと演じていたのが印象に残りました。「先輩の胸をかりるにはガチンコで行かなくっちゃ」という海老蔵の言葉を思い出しました。 意休に向かって「抜け、抜け、抜け!抜かねぇ〜か!」というところはまさに裂帛の気迫に満ちていましたし、喧嘩をふっかけた相手が母だと知ると青菜に塩のようになる、母親には頭があがらない助六には柔らかさとそこはかとない可笑しみが感じられて、剛柔両面に持ち味を発揮できるのが海老蔵の強みだなと感じました。 ところで兄祐成に喧嘩のやり方を教えるところで、「こりゃまた、な〜んのこったぃ」というところは今回初演時に聞いたのとは全く違う言い方をしています。 前のときは「鼻の穴へ屋形舟蹴込むぞ。」の続きとしてほとんど調子を落とさずに言っていましたが、今回は自嘲気味につぶやいているという感じとでも言いますか。元々が意味不明の言葉ですから、いろいろ考えながら演じているんだろうなぁと、海老蔵のそういう研究熱心なところにも好感が持てます。 海老蔵は昔のことを調べて、その意味を深く考えて実際に演じてみるということをよくしているようですが、今後も失敗を恐れずどんどんやってみせて欲しいと大いに期待しています。 揚巻の玉三郎は圧倒的な美しさで立女形としての貫禄を見せていました。お正月のしめ飾りの伊勢海老が背中についたいわば歌舞伎的な衣装を立派に着こなしていたこともさることながら、最後の「墨絵で牡丹の花を描いた白の打掛」を着て後ろ姿で極まった姿は、だれにもまねのできない優雅さと気品に満ちていました。 せりふも前半は調子の高い声を多用するのがちょっと気になりましたが、じっくりと聞かせた悪態の初音にはすばらしく説得力があり、「鬼の女房にゃ鬼神とやら」という、張りと意気地とを充分に表現していて、とても良い揚巻だったと思います。 ところでいつもは女性のほうが多い河東節の浄瑠璃がこの日は全員男性でした。アマチュアのコーラスを連想させる素朴な浄瑠璃でしたが、助六の出端のかたりが助六自身とぴったり一致して、よく理解できたのは私にとって大収穫でした。 白酒売の勘九郎は、江戸和事のこの役にはぴったりで、持ち味の愛嬌を存分にいかしいかにも気持ちよく演じていて、白酒売ってこんなに良い役だったのかと改めて見直しました。 通人の松助は、白いマフラーにサングラスをかけて人気の韓国ドラマのスター・ヨン様スタイルで股くぐりをしたり、五月の千穐楽の「暫」でも使われたのだそうですが「おーい、お茶」といってペットボトルを持ってこさせたり、花道七三では「エール」という曲をかけて「皆さんも新海老蔵さんにエールを送ってください」といったりしてました。 他には吉右衛門と雀右衛門の「傾城反魂香」。先月体調を崩していた雀右衛門は、立ちあがるときに吉右衛門が何度か手を貸していたのがやはり目につきましたが、お元気そうで一安心。 もう一つは菊五郎、菊之助の「吉野山」。菊五郎の衣装は銀色の紋だけが源氏車になっていて、ちょっと地味だなと思っていましたら、肌脱ぎになると襦袢は赤に金の源氏車が飛ばしてあって、なかなか華やかで素敵でした。忠信を踊る菊五郎はとても若わかしく、初役で静御前を踊った菊之助と美しい一対でした。 |
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この日の大向こう | ||||||||||||||
週末の夜のためか、はじめからたくさんの声が掛かっていました。会の方も多いときで6人いらしたとか。ところがこの日私の座っていた席は一階奥の上手、二階部分の下だったので、大向こうからの声が聞こえにくいところで残念でした。 「傾城反魂香」に沢山声が掛かったのはやはり義太夫狂言には声が掛けやすいということではないかと思います。 おとくが二重の上で入れ歯と呼ばれる階段に片足を落とすとき、ここで「京屋」と掛けた方もいらっしゃいましたが、実際はその直後に、小さく極まった時、沢山の声が掛かりました。これは何度も見ていないと掛けられないところだなぁと思いました。 |
壁紙:「まなざしの工房」 ライン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」