四谷怪談忠臣蔵 7年ぶりの再演 2010.4.13 W270

2日に新橋演舞場で上演されている「四谷怪談忠臣蔵」を見てきました。

主な配役
足利義貞、暁星五郎
直助権兵衛、義平
右近
高師直、宅悦 猿弥
お袖、塩冶判官 笑也
お岩、小仏小平、お軽 笑三郎
斧定九郎 春猿
民谷伊右衛門 段治郎
お熊 寿猿
与茂七、おその 門之助
由良之助 彌十郎

「四谷怪談忠臣蔵」―「仮名鑑双繪草紙」(かなでほんにまいえぞうし)のあらすじはこちらです。

今年の3月「猿之助四十八選」の中の「復活通し狂言十八番」の一つに選定された「四谷怪談忠臣蔵」が7年ぶりに再演されました。

2003年の初演で、猿之助が演じた直助、暁星五郎、天川屋義平に加え、足利義貞の亡霊の計四役を右近が務め、また昨年5月から膝の故障のために舞台を休んでいた段治郎がほぼ一年ぶりに復帰するのが注目の的。

序幕、右近が足利義貞の亡霊で出て、すばやくその息子の暁星五郎に替って出るところは、この筋が一般的でないこともあり、段四郎が義貞を猿之助が星五郎と分けて演じた初演時より、さらにわかりにくく感じました。早替わりするためか、右近の藍隈も平面的で凄みがなかったですし、ここは無理に二役演じることもないと思いました。

右近は直助になると悪党らしいアクの強さが感じられて良かったです。しかし台詞まわしがとかく師匠猿之助の声色のようになりがちで、なんとなく嘘っぽいのはもったいないことだと思いました。身のこなしも踊りで鍛えられきびきびと気持ちよく、新しい役では驚くほどの魅力を発揮する右近なのですから、もう師匠のお面はぬぎすてて右近自身となって演じた方がずっと良いのにと思います。ところで直助が左側でなくて右側のこめかみに黒子をつけていたのはなぜだろう、このお芝居が四谷怪談のパロディだということを強調するためなのかしら?とちょっと不思議でした。

宙乗りと最後の大滝の立ち廻りだけ出てきて活躍する暁星五郎は若干とってつけたような感もありますが、幕合に入る前の宙乗りは華やかで観客の心を浮き立たせ、大滝の本水の立ち回りも最後の見せ場として魅力がありました。しかしあれこれと欲張っていろいろなお芝居の要素をつめこんだため、ゴチャゴチャのおもちゃ箱という感じもしました。

伊右衛門を演じた段治郎は、塩冶館の場で並んだ侍たちの端に座っていたところが、悪のオーラというのか、青白い炎のようなものが感じられ、声も台詞廻しも気持ちよく、立った姿には華があり、やはりこの一座にはなくてはならない花形役者。

心配された膝は立ったり座ったりにもほとんど違和感はなく、立ち廻りは最初は少し慎重に思えましたが、泉水の場では思いきって力強く演じていました。世話場になると台詞に力みが感じられるのが、これからの課題かと思われます。

このお芝居では普通の四谷怪談ではめったに出ない「三角屋敷」と「天川屋」が面白く、お袖を演じた笑也の清楚な美しさが魅力的でした。お岩・小平・お軽を演じた笑三郎は見せ場があまりなくて気の毒に感じました。

敵役ではない斧定九郎の春猿は、男なのか女なのかわからなくなる両性具有という感じの妖しい存在に見えました。筋とは関係なく両国橋の場は花火も華やかに盛り上がりました。猿弥の師直はどっしりとふてぶてしい敵役を好演。ただ中啓で塩冶判官の胸や刀の柄を思いっきりビシバシたたくのは、やりすぎではないかと思いました。宅悦は思い切ったこわがり様が秀逸。由良之助の彌十郎はいかにも実事師という、実直さを絵に描いたような雰囲気でした。

この「四谷怪談忠臣蔵」は趣向満載でスピード感もあるし、場面場面ではなかなか面白いところもあります。けれど(それをいうのは酷かもしれませんが)芯となる役者の存在感と求心力が今一不足している感はいなめず、全体として強い印象を残すまでにはいたりませんでした。

この日の大向う

最初のうちは全く声がかからず、寂しく思いました。そうした時、こらえきれないというように最前列の女性の方が右近さんの見せ場で「澤瀉屋」とびしっと掛けられたのが、なかなか素敵でした。大きさはそれほど大きくなく、けれども良い間で掛けられ納得のいく声でした。

この方は宙乗りの時にも右近さんに掛けられていましたが、やはり間がよくお芝居を見なれた方ではないかと思いました。なによりも贔屓の役者へのひたむきな気持ちが感じられたのが良かったです。

この日は一階にボソボソと何を言っているのかわからない声を頻発する方もいらっしゃり、その度にとても気になりました。掛けるのならどうかはっきりと掛けて欲しいと思いました。

4月演舞場演目メモ
「四谷怪談忠臣蔵」―右近、段治郎、笑三郎、笑也、猿弥、春猿、寿猿、門之助、彌十郎

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