斑雪白骨城 新作歌舞伎登場 2003.3.22

19日、国立劇場で新作歌舞伎を見てきました。

「斑雪白骨城」の主な配役
黒田孝高(如水) 中村梅玉
鶴姫 片岡孝太郎
宇都宮鎮房 坂東吉弥
小山田新之介 中村玉太郎

「斑雪白骨城」(はだれゆきはっこつじょう)のあらすじ
時は戦国時代、豊前の国、中津城城主黒田孝高(よしたか)は城井谷城(きいだにじょう)をせめあぐねていた。そこで城主宇都宮鎮房(しげふさ)と和睦をむすび、証として孝高の嫡子長政と鎮房の娘鶴姫の婚礼を行うこととし、今日はその当日。斑雪のふる中、鎮房と鶴姫は中津城へ到着し婚礼の準備をしている。

豊前、中津城本丸
鶴姫は黒田長政との婚礼が嬉しくてたまらない。天下を掌握するにちがいない黒田家に輿入れするのは、「天下取りの妻になりたい」という幼い日からの夢を実現する事になるからなのだ。 しかし侍女、汐路(実は幼馴染の小山田新之介という若侍)は「この婚礼は策略ではないか」と疑っている。

一方大広間では黒田家の家臣に取り囲まれ、孝高と鎮房は酒を酌み交わしていたが、隙を見て孝高は鎮房を惨殺する。孝高は秀吉から「豊前平定のため鎮房一族を抹殺するように」との指示をうけていたのだ。

鶴姫は父ばかりか婚礼についてきた家来150人も合元寺(ごうがんじ)で虐殺され、城井谷城も攻め落とされたと聞かせれてもあくまで毅然としている。そんな鶴姫に黒田孝高は強く惹かれ、新之介に「鶴姫を守護して生きながらえろ」と申し渡す。

合元寺門前
二年が経ち、今日は宇都宮一族の命日である。150人の家来が惨殺されたここ合元寺の白壁はそれ以来、何度塗りなおしても血が染み出してくる。しかしながら豊前が平定されて以来、黒田の評判は高く、領民にも慕われている。

そこへ今は隠居して如水と名乗っている黒田孝高が、宇都宮一族を弔う法要を営むためにやってくる。その時如水を狙った一発の銃声が響き、鶴姫と新之助が狙撃犯として捕らえられる。しかし如水は「新之助と夫婦になって、二度と姿をみせるな」と言って見逃してやる。なおも切りかかろうとする新之介は黒田の家臣によって両目をつぶされてしまう。

凶首塚
鶴姫は夢を見る。夢の中では父鎮房は元気なのだが、いつのまにかそれが如水に入れ替わってしまう。目覚めてみるとそこは凶首塚。合元寺の一件から十年、盲目となった新之介と共にこの祠にすみ、如水が宇佐八幡へ戦勝祈願に詣でるのを待ち伏せしているのだ。

新之介は、いつのまにか如水に惹かれ始めている鶴姫に「如水のことはもう忘れて欲しい」と進言するが、本心を見透かされて激怒した鶴姫は、新之介を突きのけて大雨の中に飛び出していく。

富来城(とみくじょう)を望む陣営
一方如水は天下をとる夢を持ち続けていて、徳川軍を打ち破る機会をうかがう為に、関が原の戦いには息子長政を徳川の陣営に送り込んでいる。この戦いが長引けばその間に自分が天下をとることも可能だと計算しているのだ。

しかし如水は、築城中の天守閣が土台さえ築けず、それは「天下が取れぬという兆しではないか」と気に掛けていた。それをもれ聞いた鶴姫は如水の前に姿を現し、自分を人柱にたてるようにと言う。誇り高い姫は天守閣の礎に築きこまれれば、如水が自分を忘れる事はないだろうと考えたのだった。

そこへ息子長政から、「徳川が天下を取った」と知らせが来て、如水の天下取りの夢は潰える。

中津城、天主閣櫓土台前
そしてその冬の初め、鶴姫が人柱に立つ日が来た。如水は止めるが姫の決意は固い。このときになって鶴姫に強く惹かれていると語る如水。姫を救いに来た新之助も切られて死に、如水の本心を知った鶴姫は満足しながら大柱と共に地中へと姿を消す。如水は姫のために、世にも美しい天守閣を築こうと決心するのだった。

国立劇場新作歌舞伎脚本入選作品、岩豪友樹子作「斑雪白骨城」は、 史実を基に脚色して作られたそうですが、独創的な見せ場があって面白い芝居でした。演出は梅玉が担当しています。

一番印象的だった「鶴姫の夢の場」は暗い首塚の情景で、血をイメージしている様な大きな朱色の鬼百合の花の茂みが舞台のあちこちにあって幻想的です。はじめは鶴姫の父鎮房の首が塚の上に置いてある様に見えましたが、やがて黒い布がとりはらわれるとその首は生きた人間になって鶴姫の方へ歩いてくるのです。

スッポンから登場した鶴姫の衣装は茶系のキラキラと光る透けた布でできた豪華な打掛で、その模様を綺麗に見せるためか、中の着物の袖はTシャツのような腕にピッタリした袖でした。髪飾りも同じ朱色の鬼百合でした。この作品全体の衣装コーディネートは森英恵が担当。この「夢の場」の衣装は森英恵製作です。

この「夢の場」は踊りとして表現されていたのですが、いささか長く感じられました。この場の最後に降ってきた雪はキラキラと光り輝く雪で、とても綺麗でした。

この一つ前の「合元寺の場」で塀の壁が血がにじみ出て赤くなるところは、赤く染めたスクリーンを回転させるという原始的手法でしたが、残念ながらあまり不気味さが感じられませんでした。

最後の「天主閣櫓土台前」は衝撃的な場面。大きく掘られた穴の上にこれから埋けられようとする天主閣の巨大な柱が上からつるされて、その根元に鶴姫が人柱として十字架のように両手を広げて縛り付けられているのです。

キリスト教の殉教者を連想させるような演出ですが、黒田如水はキリシタンだったとか。本物の鶴姫は川原で磔になったのだそうで、『人柱になった』というのは、あまりにも哀れな鶴姫の最後を悼んだ作者の創作です。

この作品では鶴姫はもともと野心的な女性としてえがかれていて、おちぶれても気位が高く、結局如水に忘れられない印象を残すために自ら人柱に志願するエキセントリックな人物です。ちょっと「沓手鳥孤城落月」の淀君に似たところもあります。

その鶴姫役の孝太郎、この愛と復讐にとらわれた激しい性格の女性を熱演していました。
「実朝」と「斑雪白骨城」の両方の主役を演じた梅玉は、実朝のほうが合っていたと思います。梅玉の黒田如水は、鶴姫の親子と150人の家来をだましておびきよせ虐殺するような人物には見えませんでした。

もう一作品は岡野竹時作「実朝」。
「実朝」は「頼朝の死」を思わせるセリフ劇。演出の織田絋二は「プラスしきれるだけしてきた飽満状態の歌舞伎から、極めて意識的にマイナスできるものは全てマイナスしきってみようというのが、今回のテーマ」と書いています。

その言葉どうり、道具もとても簡素で現代的な感じでした。あんまり寂しいのでせめて音楽をとの配慮で、幕開け、幕切れ、暗転のつなぎの音楽を小椋桂が担当していますが、これはなかなか良く雰囲気に合っていたと思います。

「実朝」は作者が歴史の中に登場する実朝の評価に疑問をもち、いろいろな資料をもとに新しい解釈を試みた意欲作ですが、その主旨が歌舞伎という舞台では、十分には生かされなかったように感じました。この題材はどちらかというと小説などの方が向いているのではないかと思います。

この日の大向う

「頼家」の方は2人の大向うさんが上手と下手に別れて、渋い声で合いの手のように上手く掛けていました。
「今日は良い調子だな」と思っていたのに「斑雪白骨城」になったら二人とも帰ってしまわれたようで、全く声が掛からなくなりました。

新作だという事もあって、どこで声を掛けたらいいのかも良く判らないので、誰一人声を掛けないまま最後の場面までいってしまいました。そこで鶴姫が人柱となって穴の中に沈められるクライマックスで思い切って「松嶋屋」と掛けてみたんです。

ところがあわててしまったので、思うような声が掛けられずガックリ。最後の「高砂屋」にはとうとう掛けそびれてしまい、やはり日ごろからよく練習しておく必要がある事と、気力十分でなければ掛けられるものではないという事を痛感した次第です。

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