仮名手本忠臣蔵 御園座顔見世 2009.10.31 W257

22日、名古屋御園座で「仮名手本忠臣蔵」を昼夜通しでみてきました。

主な配役
大星由良之助 團十郎
早野勘平 仁左衛門
顔世御前
おかる(七段目)
福助
おかる(道行、六段目) 孝太郎
高師直
不破数右衛門
左團次
塩冶判官
寺岡平右衛門(七段目)
橋之助
桃井若狭之助
斧定九郎
愛之助
足利直義 新之介
鷺坂伴内 亀蔵
原郷右衛門 家橘
斧九太夫 橘三郎
大星力弥 新悟
薬師寺次郎左衛門
千崎弥五郎
彌十郎
石堂馬之丞 我當
与市兵衛 寿猿
おかや 竹三郎
一文字屋お才 秀太郎
小林平八郎 男女蔵

「仮名手本忠臣蔵」 あらすじはこちらです。
大序
鶴ケ丘社頭兜改めの場

三段目
足利館門前進物の場
同 松の間刃傷の場

四段目
扇ケ谷塩冶判官切腹の場
同 表門城明渡しの場

浄瑠璃
道行旅路の花聟

五段目
山崎街道鉄砲渡しの場
同 二つ玉の場

六段目
与市兵衛内勘平腹切の場

七段目
祇園一力茶屋の場

十一段目
高家表門討入りの場
同 奥庭泉水の場
炭部屋本懐の場

歌舞伎座さよなら公演もあと7カ月となったこのごろ、今月は御園座、そして来月は歌舞伎座、そして来年の一月は松竹座と「忠臣蔵」の通し上演が各地で続いて予定されています。どんな時でも出せば入りが良いので独参湯と言われたという「忠臣蔵」はたしかによくできた面白いお芝居で、何度見ても見あきないことは確かです。けれど場所が違えば見る人も演じる人も違うとはいえ、ちょっと出しすぎなのではないかという気もします。

さて今月の忠臣蔵、まず大序では昨年平成中村座で師直も演じ、どちらかというと若狭之助のイメージが強い橋之助が塩冶判官を演じたのが新鮮に感じられました。師直の左團次は顔世に対する邪な想いをはっきり出して、強欲で好色な師直をわかりやすく演じていました。若狭之助は愛之助でしたが以前よりも口跡のもちゃつきが減った分さわやかさが出ていました。

顔世の福助は花道を出てきたところなどは大名の奥方としての品があって良かったですが、兜の中に明らかに雑兵のものと思われる質素な兜が混じっているのを見て「まさか、そんな粗末な兜のはずがないでしょう」といわんばかりに口元をゆがめるのは世話じみていると思いました。

切腹の場の判官にはすでに死を覚悟した人の透明感がありました。判官が刀を腹に突きたてたその時、駆け込んでくる大星の團十郎はいかにも判官が頼りにするようなどっしりとした人物で、重たげな台詞まわしと線の太さがぴったりとはまっていました。

斧九太夫は橘三郎でしたが、この役には少し持ち味が軽すぎたのではと思います。力弥の新悟は見るからにまだ成長途中というところですが、きちんと務めていました。城明け渡しの場では門はぶっちがいの封印はしていなくて、大星が歩くにしたがって斜めに大道具がひかれる江戸風のやり方でした。我當の石堂は扇の要を抜いて判官の遺骸の背中ののせるのではなく、扇の上にのせた御書を背中にそっと落として扇は回収していましたが、これは初めてみるやり方。

「道行」の勘平とおかるは仁左衛門と孝太郎でしたが、恋人という雰囲気は私にはあまり感じられませんでした。亀蔵が演じる伴内の衣装が、「えっさっさ」とまわっている間に引き抜かれて襦袢姿になるのが、珍しいと思いました。

五段目からは仁左衛門のあやういほどの若さを感じさせる勘平にぐいぐいひきこまれました。仁左衛門の勘平は花道七三で二発目の鉄砲を撃ちませんし、猪も猪突猛進というとおり、まっすぐに上手に入っていったのは納得。愛之介の定九郎は与市兵衛が出てくる前に花道から出て稲村に姿を隠すところから演じていました。

勘平が千崎とめぐりあって金を調達すれば仇討の仲間になれると知って浮き立つ思いで喜ぶ場面、猪と思った獲物が人間だと知った時の驚愕する場面、悪いことと知りながら死人の懐から金をとり、千崎に届けようとあせる花道の引っ込み、家に帰って両親と相談の上おかるが自分のためにと身を売って金を作ってくれたことを知り深く感謝する場面、自分が撃ち殺したのは舅だったと思いこんで悩みもだえ苦しむ場面。

追い詰められ申し訳なさに腹を切る場面、舅を殺したのは自分でなかったと知り安堵する場面、もはや見えなくなった目で仇討の連判状に判を押し死ぬ場面。どこをとっても仁左衛門の勘平は繊細で美しく、ゆらめく不安感、高揚する気分、そして絶望に惹きつけられました。

おかやの竹三郎が十二分に勘平を責めていたのも良く勘平もやりやすかっただろうと思いました。時として戻されてしまうこともある血染めの縞の財布は、今回お金と一緒にちゃんと不破が大星のところへ持っていったようで安心しました。

七段目の一力茶屋は團十郎の由良之助。この場の由良之助はやる人によって全く味わいが変わるものだなぁと面白く感じました。團十郎は蛸を食べさせられたあと、一瞬すさまじい殺気をはらんだ表情で九太夫を睨むところと三人侍を適当にあしらうおどけたところの差が顕著。たくまざるユーモアを持ちあわせている團十郎の由良之助は可愛げのある男に見えました。

平右衛門の橋之助は、持ち味は気分の良い奴にぴったりで、由良之助に対する心遣いにも優しさがありました。筋書きのインタビューに、兄福助のおかるでこの場の平右衛門を演じるのは幼いころからの夢だったとありましたが、ちょっとはりきりすぎたのか、勘平が死んだことを知ったおかるが嘆くところなど、二人ともがんばりすぎで聞いていてちょっと疲れました。

今回は浄瑠璃では一番重いとされている九段目の山科閑居が省かれ、そのかわりに11段目の討入りの場がありました。中身がないと評価の低い討入りの場ですが、あればやはりすっきりとおさまりが良くカタルシスを感じました。

この日の大向こう

最初のころはボツボツ声がかかるという感じでした。切腹の場には余計な声はかからなくて良かったです。四段目は御園座でも30分間途中入場禁止になっていました。

八栄会の大向こうさんたちも3人ほどいらしていて、特に七段目から後、活発に声が掛かっていました。中におひとりお声も間もほど良い方がいらっしゃり、好ましく思いました。

しかしながらこの日携帯の電源を切らない人が10人ほどいて、判官切腹の最中にさえ携帯が鳴ったのには本当にあきれました。

御園座10月演目メモ
「仮名手本忠臣蔵」通し上演
團十郎、左團次、橋之助、愛之助、福助、亀蔵、寿猿、我當、秀太郎、進之介、孝太郎、男女蔵、桂蔵、竹三郎、由次郎、家橘、彌十郎

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