桜姫 斬新な演出 2009.7.16 W249 | ||||||||||||||||
15日、渋谷シアターコクーンの昼の部をみてきました。
「桜姫東文章」のあらすじはこちらです。 いつも斬新な企画や演出で観客をひきつけるコクーン歌舞伎。今回はまず舞台がとても変わっていました。お相撲の土俵(それよりは大きい)をおもわせる、柱のない一面だけの破風がつるされていて、真四角な舞台には丸い廻り舞台が切りこまれているのが見えます。この正方形の舞台の四辺を囲むようにベンチ席というものが配置されていて、舞台の奥の高いところにもその席が設置されています。 この廻り舞台がたとえば権助と桜姫の濡れ場のような時にぐるっと一周して後の席の観客にも見えるようにするわけですが、そんなに何度もまわるわけではないので、舞台奥のベンチシートの方はほとんど役者さんの背中を見ることになりますが、そのかわりに時々清玄や桜姫がこの席の中央をとおって現れたりするという特典がついています。 発端で清玄と白菊丸の心中の場面がまず演じられ、白菊丸は海へ飛び込むまえに「生まれ変わったら女になってあなたとそいたい」というのが、清玄がホモセクシャルだけではなかったという証で、清玄が桜姫に恋をしてもおかしくないという布石になっていると、勘三郎が筋書きに書いています。 先月今月の舞台と双子のような関係という南米版の「桜姫」が同じ舞台で公演され、それを見のがしたのは残念に思えましたが、先月とはここが大きく違う点だとか。 勘三郎の清玄は、想像以上に清らかに見え良かったです。清玄が無実の罪で寺を追放されるかもしれないという時の憂いにみちた顔が素晴らしく、桜姫に執着心をいだくところの心の変化が無理なく表現されていました。 清水寺の場では登場人物すべてが大小のハコのようなものにのって出てきて、一切自分からは動かずハコが動いて演技していたのが遊園地の自動車のようで、扇雀などは座布団がぐるっと一周したり飛び上がったりまるで漫画の世界。おふざけの大部分を長浦の扇雀と残月の彌十郎が引き受け、清玄と桜姫は終始真剣に芝居をしていたのも良かったです。 今回の上演で原作と違うのは逡巡したあげく父と弟の敵の権助実は忍の惣太を討った桜姫は、どうしてもわが子を殺すことができなかったということ。子供を抱いたまま、もとの吉田家の息女として迎えられた桜姫は後を振り返るその悲しげな横顔がとても印象的でした。 七之助は姫としての気品があり、情熱的な色気もあって良かったですが、風鈴お姫と呼ばれる伝法な台詞になるとお姫様がおちぶれて蓮っ葉な女郎になった面白さが十分表現されているとはいえず、ここはもう少し工夫の余地があると思います。演出はきわめて斬新でしたが、七之助はあくまで正攻法で桜姫をつとめていて好感がもてました。 ラストの場面で桜姫の手元から人魂のような光るものがシャボン玉のように空へとのぼっていき、だんだん最後は大きく巨大な桜色の玉となって宙にういていますがあれは一体何なのか、それは観客それぞれの想像にまかされているのでしょう。 桜姫が幽霊となった清玄から「実は権助は清玄の弟で、権助こそ桜姫の親兄弟を殺した敵だ」と知らされるのはいつもと同じですが、面白いのは、権太が酔って帰ってきた時、演じている役者が橋之助から勘三郎へ変わっていること。そして一度奥へ入って、出てくるときはまた橋之助になっているわけです。 桜姫に自分が忍の惣太という侍で、姫の父を殺して千鳥の一巻をうばったことを話してしまうのは口ぱくで、後で見ている清玄の幽霊が言っている、つまり権太は自分の意思で秘密を話してしまうわけではないのです。 さらに桜姫に殺された権太は幽霊となって清玄の幽霊と入れ替わり、最後は姫君に帰り咲いた桜姫の後で清玄とともに権助は苦しみもがきながら空にのぼっていくという演出です。そのバックにはテノールの歌う哀愁をおびたアリアが流れるのです。 ―このアリアはマスネ作曲歌劇「ウェルテル」より第三幕のウェルテルのアリア「オシアンの歌―春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか」だということを、ある方がメールで教えてくださいました。本当にありがとうございました。このサイトにこの歌の詳しい解説と歌詞があります。― 権太の橋之助は生き生きとして魅力的でした。笑いながら息を吸うのだけは、いかんせん気になりますが、この役ははまり役と言えるでしょう。 という具合で、コクーン歌舞伎の「桜姫」はところどころにスパイスをきかせた大胆な演出でしたが、原作の面白さは十分に出ていたと思います。 |
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この日の大向こう | ||||||||||||||||
最初のうちは4人ほどの方が声を掛けていらしたようですが、だんだん少なくなりました。大向こうさんも一人見えていました。この大向こうさんは歌舞伎なら掛かるであろうというところにきっちりと掛けていらっしゃいましたが、アリアが流れる中に「中村屋!」「成駒屋!」というのはいかにもミスマッチという感がいなめませんでした。今回の上演では、掛け声が似合うところと、全く似合わないとところがあったように思います。 途中から何と言っているのかわからないぼそぼそした声が役者さんがきまるたびに聞こえたのはわずらわしく、掛けるのならどうか気合いを入れてはっきりと掛けていただきたいものだと思いました。 舞台奥のベンチシートの下に中村屋の定式幕がふたつにわけて掛けられていて、最後はそこから役者さんたちが登場し、数回のカーテンコールがありました。 |
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7月コクーン演目メモ | ||||||||||||||||
●「桜姫」―勘三郎、七之助、橋之助、彌十郎、扇雀、笹野高史、 |
壁紙:「まさん房」 ライン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」