獨道中五十三驛 楽しめる娯楽作品 2009.3.17 W240

13日、演舞場で上演されている「獨道中五十三驛」を見てきました。

主な配役
江戸兵衛
化け猫など15役
右近
丹波与八郎 段治郎
重の井姫
荵の方
笑也

水右衛門
雲助・逸平

猿弥
おえん 笑三郎
おきち 春猿
由井民部之助
十文字屋おもん
門之助

「獨道中五十三驛」(ひとりたびごじゅうさんつぎ)のあらすじ
一幕目
丹波の国、由留木家に跡目争いがおこり、若君調之助の家督相続を妨害しようとする一味が、相続に必要な宝物を奪おうと企てる。その一つ九重の印(ここのえのいん)は日本駄右衛門という盗賊に盗まれる。

忠臣・丹波与惣兵衛は残る宝刀・雷丸(いかづちまる)を江戸へ届ける途中、京で悪家老赤堀官太夫の息子・水右衛門たちに殺され、刀を奪わる。与惣兵衛の甥・半次郎は投げつけられた小柄を見て、水右衛門の仕業と知る。

与惣兵衛の長男・与八郎は勘当の身で、自然薯の三吉という馬方に身をやつしていたが、大津の石山寺でいましも出家しようとしていた大江家の重の井姫と出会い、二年前に闇祭りで出あって一夜を共にして以来思い続けていたと聞かされる。そこへ半次郎から父親の無念の死が知らされ、与八郎は重の井姫を連れて仇討の旅にでる。

草津の野路の玉川で、悪家老の官太夫は隠してあった九重の印を掘り出す。同じ場所で追っ手のために与八郎は姫とはぐれ、姫は人買に捕らえられて葛籠に押し込められる。その時姫のおとした十二一重をおえんとおきちの二人連れが拾い、暗闇での争いの末与八郎は雷丸を手に入れる。

与八郎は桑名の渡し場で、九重の印を所持する官太夫を待ちぶせるが、この印は龍王の欲しがる品だったので与八郎と赤堀親子は大波に飲み込まれ、宝は魚にもっていかれる。

一方、与八郎の姉・お袖は実は殿さまのご落胤で、今は由井民部之助に嫁いでいたが、父与惣兵衛が殺されたと聞き、夫婦して与八郎と力を合わせて敵を討とうと赤子をつれて旅立つ。

岡崎で夫婦は、おえんたちから重の井姫の十二一重を買ったおくらという娘に出会い、その日の宿にと無量寺に連れていかれる。ところが寺に住んでいる老婆は化け猫の化身。昔明智光秀の八上城に住んでいたので城を滅ぼした由留木家の者を恨み殺そうと、お袖たちをおびきよせたのだ。おくらとお袖を無残に食い殺した化け猫は重の井姫の十二一重を着てゆうゆうと逃げ去る。

二幕目
ここは宇津谷峠。与八郎にそっくりに描かれた日本駄右衛門の人相書が高札に貼られている。官太夫は悪知恵を働かせ、こうして与八郎をつかまえようというのだ。そこへ本物の日本駄右衛門の手下・江戸兵衛がやってきて、小田原の質屋に九重の印があると知らせる。いそいで赤堀親子が立ち去ったあと、人買いの次郎作が葛籠をしょってやってくるが、盗人と疑われて猟師たちに葛籠を開けられる。

その時辻堂から与八郎が出てきて、葛籠に入れられていた重の井姫と久しぶりの再会を喜び合うが、江戸兵衛の撃った鉄砲の弾が与八郎の足にあたって破傷風になり立つことができなくなる。

三か月後、与八郎は重の井姫に看病されながら箱根の温泉で傷の養生をしていた。二人が世話になっている雲助・逸平は姫の実家に恩があるからと一生懸命面倒をみてくれたが、金策つきて江戸兵衛に金を借りる。

だが江戸兵衛を信用できない逸平は、駕籠に乗った客が置き忘れた金で江戸兵衛の借金を返そうとする。ところその金を廓十文字屋の女将のおもんがとりに現れたので、逸平は困り果てる。見かねた重の井姫は自ら身を売り、九重の印をも買い戻そうと考える。水垢離して与八郎の病気が治るようにと願をかけ、後一日で満願という時だった。

追手にせまられ与八郎たちは山中へと逃げる。一方江戸兵衛は廓に売られていく重の井姫を待ち伏せするが、手向かいされた腹いせに姫を切ってしまう。もはや助からないと悟った姫は、これが最後の水垢離と滝に飛び込む。すると奇跡が起こって与八郎の足が完治する。官太夫、源吾親子を討った与八郎たちは江戸へと急ぐ。

三幕目
九重の印は様々な人の手を経て与八郎の手にはいる。若殿調之助に仇討を許された与八郎は晴れて水右衛門を討ちとる。調之助の相続もきまって、由留木家のお家騒動は落着する。

猿之助十八番の内「獨道中五十三驛」(ひとりたびごじゅうさんつぎ)は四世鶴屋南北晩年の作品。三代目菊五郎、七代目團十郎、三代目三津五郎ら人気役者が初演し、それにくわえて奇抜な仕掛けが大評判となりましたが、河竹黙阿弥が3つの書き換え狂言を書いて以降、上演が途絶えていたものを、昭和56年に猿之助が復活上演、18役を演じて成功を収め、繰り返し上演されています。

一昨年国立劇場で上演された「梅初春五十三驛」は同じ三代目菊五郎の初演による、この作品の書き換え狂言ですが、「岡崎・無量寺の場」だけは踏襲していて、化け猫が出てくる件は五十三驛ものにかかせないということがわかります。

プロローグの「新橋演舞場前」から始まるこのお芝居、まずは京で父親を殺されお家の重宝の雷刀を奪われた丹波与八郎が、敵を追って恋人の重の井姫とともに東海道を下るところが描かれています。

与八郎の段治郎はみるからに颯爽としていて、口跡も立ち姿も美しく、やつした姿に柔かみもありはまり役。しかし拉致された重の井姫の笑也と再会し、二人で一夜をすごそうと辻堂に入って行く時のニヤリと笑った顔には、「やはり悪党の日本駄右衛門が与八郎に化けていたのか!」と混乱をきたしました。立ち廻りの時「し~っ!」という声を出すのも、習慣にならないうちにやめた方が無難です。

重の井姫の笑也は特に滝に身をなげたあと、亡霊となって滝の中に浮かぶ姿の清らかで美しかったのには感心しました。滝の中での立ち廻りで大奮闘し、大量の水を浴びてびしょぬれになった段治郎が最後に客席にむかって大きく足を蹴りあげるため、水しぶきが飛んで客席はちょっとした騒ぎになりました。^^;切られた敵役の二人から大量の血がふき出る派手な演出も、ひさしぶりに見ました。

無量寺はお三婆の右近の見せ場。化け猫に弄ばれ食い殺されるおくらは最初の出から猿琉がつとめ、化け猫になった右近も欄間抜けを見せる活躍ぶり。

お袖の死体をひきずりこむ猫の手が巨大だったり、化け猫の顔がミュージカルのキャッツを連想させたのは御愛嬌ですが、もっとも猿之助の芝居らしかったのはやはり化け猫の宙乗りで、右近は仁木弾正の宙乗りのように、悠然と空へ消えていきました。

ところでこのお芝居には最初から二人の狂言回しが登場。笑三郎と春猿が演じる弥治さん喜多さんの女房、おえんとおきちが麻生さんの話題からウィッシュ!と現代の話題をふんだんに取り入れて、さらに客席にも降りて楽しませてくれました。上演ごと台本を変えていくというのは、復活したときに猿之助が決めたことだったとか。

三幕目では右近が次々と役を早替わりする舞踊ですが、その素早さはあっと驚くほどで、その点猿之助の芸は完全に受け継がれていました。

花道七三に止められた籠の中に早替わりで登場するお染だけは、頭でっかち!!と思いましたが、あとは皆それぞれこなれていて願人坊主にも右近の持ち味が十分生かされていたと思います。口跡はまだ少しもちゃついているものの、以前よりは良くなっていました。

猿弥は敵役の水右衛門より、なんとかお主を救おうと苦慮する雲助・逸平のほうが似あっていたと思います。敵役といえば右近はならず者の江戸兵衛の雰囲気をよく出していて、白塗りの二枚目よりもこういう陰のある役のほうがこの人には合うのではないかと思いました。

この作品は忠臣蔵の六段目や小栗判官、お半長右衛門、お染久松、弁天小僧、雷船頭、二人椀久など、あちこちに良く知られたお芝居がちりばめられているのも楽しく、肩のこらない娯楽に徹したお芝居。場面転換には幕外の引っ込みが多用られ観客が退屈しないように工夫されていて、たまには理屈ぬきでこういうのを見るのも良いなぁと思いながら観劇していました。

この日の大向こう

弥生会の会長さんが最初から最後までいらしていて、どちらかというと控え目に声をかけていらっしゃいました。座頭格の右近さんに敬意を表してでしょうか、「澤瀉屋」と掛けておられたのは右近さんだけで、他の方にはそれぞれの名前で、掛けていらしたようです。

他には一般の方が3~4人ほどで、響きの良いお声もかかっていました。ほとんどが澤瀉屋というこの舞台にはやはり名前で掛ける方が多く、最後の方には女の方の声も聞こえていました。

3月演舞場演目メモ
「獨道中五十三驛」
右近、段治郎、笑三郎、春猿、猿弥、笑也、寿猿、門之助、弘太郎

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