狐と笛吹き 歌右衛門追善公演 2006.4.7 W146

5日、歌舞伎座昼の部を見てきました。

主な配役
春方 梅玉
ともね 福助
秀人 我當
歌江

「狐と笛吹き」のあらすじ
その一 真葛ガ原の森の中
ある春の日、京の東山の真葛ガ原で楽人たちが楽しげに遊んでいる。その中で春方だけは皆と離れてさびしそうにしている。春方は愛する妻・まろやを亡くしたばかりだった。

そこへ楽人の一人がともねという若い女を連れてやってくる。その顔を見て、春方は驚く。亡き妻・まろやに生き写しだったのだ。二人だけになると春方はともねに「清水の鐘が鳴るころ、まろやの霊が琴を弾きに戻ってくるので、それを唯一の生きがいにしている」と語る。

夕暮れになるとともねは名残惜しげに家のある近江の国へと帰っていく。

その二 春方の家
それからしばらくたった夏の日、春方の家へ、筑紫へ下向していた秀人が都へ戻ってきたからと挨拶に立ち寄る。秀人はまろやを亡くした春方が落ち込んでいるのではと心配してきてみたのだが、春方の思いのほか明るく元気な様子を不思議に思う。

そこへともねがやってくると、秀人はまろやが生きていたのかと驚く。春方は、ともねはまろやの面影として仕えていてくれ、そのお陰で自分はまた笛を持つことが出来るようになったこと、そして豊明の節会(とよあかりのせちえ)での笛師に選ばれそうだと嬉しそうに語る。

春方が秀人に懐かしげにまろやの思い出を語りはじめると、ともねは嫉妬して家を飛び出していく。

その三 森の中
秋も半ばとなったある日、ともねは森の中でまろやの琴を焼き、そればかりかまろやの着物を居合わせた童に与える。ここへ来合わせた春方は、驚いて訳を尋ねるがともねは泣いてばかりで何も語らない。

やがてともねは「まろやの面影ではなく、ともねとして愛されたい」と春方に打ち明ける。それを聞いて春方はともねと夫婦になろうという。しかしともねは「一度でも夫婦の契りを交わせば、自分は死んでしまう掟だ」と語る。

ともねはかって春方が命を救った狐の子だったのだ。春方は驚くが、たとえ人間と狐であっても生きて行く上での姿にしかすぎないと、ともねを大切にすることを誓う。

その四 春方の家 
春方はともねを愛しているが、ともねはいつか春方が掟を破って契りを結んでしまうのではと恐れている。悩んだともねはついに故郷の近江へ帰ろうと決心する。

そんなところへ楽人仲間に介抱されながら酔いつぶれた春方が帰ってくる。春方は節会の笛師に選ばれず、失意のあまり深酒したのだ。

春方は秀人が選ばれたことを語り、ともねがいれば生きていくことができるが、こんな夜こそともねと契りを結びたいと言い出す。

ともねは「死ぬのが怖いのではない。あなたがいないところへ行くのが怖いの」というが春方が「それなら自分も死ぬ。一人で行かせはしない」と言うのを聞いて、ついに二人は掟を破ってしまう。

その五 明け方近い森の中
次の朝、春方がともねを捜して森の中をさまよい歩き、子狐の姿に戻ったともねの遺骸を見つける。春方は掟を破ってともねを死なせてしまったことを泣いて詫び、遺骸を抱きかかえてともねの故郷近江の国、琵琶湖へ入水するために去っていく。

今月は六代目歌右衛門の五年祭の追善公演で、故人にゆかりのある演目が並びました。

今昔物語をもとにした、北条秀司作「狐と笛吹き」はもともとラジオドラマとして書き下ろしたものを、昭和27年に劇化。春方が三世寿海、ともねが六世歌右衛門で初演されました。北条秀司が初めて歌舞伎のために書いた作品で、これ以後北条はたくさんの名作を残します。

「狐と笛吹き」は北条秀司らしいしみじみとした情のあるお芝居で、ちょっと形を変えればいつの時代、どこの家庭であってもおかしくない普遍性のある会話に引き込まれます。

梅玉は優雅な品のよさ、情の深さが春方にぴったりでした。ともねの福助も、琴を焼く場面だけはちょっと蓮っ葉な感じがしましたが、春方に対してはいじらしく、狐でありながら人間を愛してしまい、しかもそれが成就した暁には死ななくてはならない身の悲しさがひしひしと伝わってきました。

春方と別れてふるさとへ帰ろうと決心していたのに、失意の春方の望みをかなえてやろうと、とうとう人間と契ってしまったともね。翌朝、小狐の姿で冷たくなっている(狐のぬいぐるみ)のを見た時は、ともねが哀れで、加えて我家の愛犬の死を思い出し涙がとまりませんでした。

小さな狐の骸をともねの打掛で抱きながら、琵琶湖へ入水しようと花道を引っ込んでいく春方には、清々しさがただよっていて、これはちょっと変わった心中物ではないかしらとも思えました。媼を演じた歌江が、ベテラン女形らしい持ち味で、舞台に深みを与えていました。

次は雀右衛門の舞踊「高尾」。悄然とたたずむ高尾は亡霊で、ほとんど動きらしいものがない踊りでした。荻江というものを初めて聞きましたが、全体に音が低くゆっくりで渋い雰囲気でした。

それから芝翫の淀の方で「沓手鳥孤城落月」(ほととぎすこじょうのらくげつ)。橋之助の長男・国生君が裸武者で階段落ちを立派にやってのけました。この勇気が将来、義賢の仏倒れにつながっていくのだと頼もしくおもいました。芝翫の正気を失った淀の方は、ずっと声が平べったいのがちょっと気になりました。

最後が舞踊劇「関八州繋馬」(かんはっしゅうつなぎうま)。如月姫実は蜘蛛の精の魁春、菊五郎の源頼信、時蔵の伊予の内侍、里の男女に吉右衛門と梅玉に東蔵、如月姫の兄・将軍太郎に仁左衛門と追善供養らしい豪華な顔ぶれ。魁春の赤姫の如月姫がはまり役でしたが、伊予の内侍を取り殺すところなどはもっと凄みがあっても良かったと思います。

後シテの蜘蛛の精になると、ものすごい隈がまだ似合わない感じでしたが、兄妹揃って踏む足拍子が豪快で印象に残りました。仁左衛門の良門は王子の鬘に珍しい藍隈がよく似合っていて、力強さのある敵役でした。四天王のうち、信二郎の赤ッ面・坂田金時に存在感がありました。

このお芝居の中で東蔵と吉右衛門、梅玉による劇中口上があり、今月松江を襲名した玉太郎の長男彩人君が玉太郎を襲名したという挨拶がありました。昔このお芝居は庭の築山で大文字を焼くという趣向が人気だったそうですが、今回はあったのかどうか、私の見た位置からは見えなくて残念でした。

この日の大向こう
一般の方数人の方が声を掛けていらっしゃいました。会の方はお一人で途中から見えました。「高尾」で、地獄の苦しみを語るところで「まってました!」と声がかかりましたが、今一雰囲気にあっていないように思いました。
歌舞伎座四月昼の部演目メモ
●狐と笛吹き 梅玉、福助、歌江
●高尾 雀右衛門
●沓手鳥孤城落月 芝翫、勘太郎、秀太郎、吉之丞、
●関八州繋馬 魁春、菊五郎、時蔵、吉右衛門、東蔵、仁左衛門

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