彦山権現誓助剣 女武道 2002・12・25

24日、国立劇場で上演されている「彦山権現誓助剣」(ひこさんごんげんちかいのすけだち)を見てきました。

「彦山権現誓助剣」のあらすじ
長門の国、郡家(こおりけ)の剣術指南役を勤める吉岡一味斎は、ご前試合で負かした同役の京極内匠(きょうごくたくみ)に鉄砲で撃ち殺される。一味斎には三人の子があった。一人息子の三之丞は生まれつき盲目、次女の菊には恋仲の衣川弥三郎(きぬがわやさぶろう)との間に弥三松という幼い子供がいる。

そして長女のお園は男まさりの剣の使い手である。実はお園は一味斎の実子ではなく、伊勢神宮へ子供を授かるようにおまいりした帰り道で、名器「千鳥の香炉」と共に拾った子だった。

三之丞は仇討ちが出来ない身を恥じて自害し、お園は若党左五平を、お菊は子供と友平を伴い、別々に敵討ちの旅に出る。お菊は須磨の浦で偶然にも敵に出会うが、お菊に横恋慕していた内匠によって無残にもなぶり殺しにされてしまう。子供弥三松は間一髪友平に救われる。その時内匠の落とした守り袋を友平が拾う。

その頃、お園は明智光秀が命を落とした小栗栖村の近くの瓢箪棚のそばで、夜鷹を装って敵を探している。そこで言い寄ってくる相撲取りをかるく投げ飛ばして追い払うお園。そこへ友平がお菊の死を知らせに来る。敵の持ち物とおぼしき守り袋に入った臍の緒書きをお園に差し出すと、自らの不甲斐なさを恥じた友平は腹を切って、その守り袋を池に投げ込む。

すると水気が立って刀を吹き上げ、いっせいに蛙が鳴き出してお園の所持する「千鳥の香炉」が鳴り出す。実は京極内匠は明智光秀の遺児で、光秀の霊は池に隠してある蛙丸(かわずまる)という刀を息子に渡そうと、内匠を呼び寄せる。霊力にひかれてやってきた内匠は蛙丸を手に入れ親の敵、真柴久吉の象徴である瓢箪を切り払う。お園は敵とは知らないまま、鎖鎌を操つり蛙丸をめぐって内匠と激しく争うが、内匠は逃げおおせる。

彦山の山間、杉坂の墓所では百姓六助が母親の四十九日の通夜をしている。六助は高良明神の使いから一巻を授かったほどの剣術使いだが、「自分に打ち勝つものに出合ったら奉公せよ」というお告げを守って、どこにも仕官しなえので、「六助に勝ったものには五百両と仕官の道が開ける」というお触れがでている。山賊に襲われた左五平は、ここで六助に出会い助けられるが、弥三松をたくして息絶える。

そこへ「親孝行したいので試合に負けてくれ」と頼みにきた微塵弾正(みじんだんじょう)、じつは京極内匠の仮の姿。親思いの心に感じた六助は快く試合にまけてやる。するとかさにかかった微塵弾正は扇で六助の額を傷つけて、高笑い。そうまでされても親孝行と信じて疑わない六助だった。

弥三松の身寄りを探すため弥三松の着ていた着物が目印にかけてある六助の住家へ、老婆が一人、続いてお園が虚無僧姿でやってくる。六助を敵と思い込んでしまったお園は大暴れ。すると弥三松が「おばさま!」と駆け寄って来る。、六助が弥三松を助けた顛末を語ると、「六助こそ親の決めた許婚」だと気づいたお園は急にしおらしくなる。

そこへ先だってやってきた老婆が登場。老婆はお園の母親で一味斎の奥方、お幸だった。お幸は二人に仮祝言させ、夫の形見の刀を六助に与える。高良明神の使いが一味斎だったと知った六助はお園の助けとなって、内匠を討つことを決心するのだった。



普通は「毛谷村」しか上演されないこの狂言ですが、今回は序幕と大詰をのぞく、ほとんどの部分が上演されて全体が良く理解できました。特にあまり見たことが無い「女武道」という女方の立廻りが珍しかったです。

「毛谷村の場」でも軽々と臼を持ち上げたり怪力ぶりを発揮するお園ですが、その前の「ひょうたん棚の場」では本当に大活躍。ひょうたん棚によじ登って鎖鎌をあやつって敵と戦ったり、その棚が崩れ落ちてゴロゴロと転げ落ちたり、ドキッとするような大立廻りを演じます。

「女武道」といえばこの「彦山権現誓助剣」のお園の他、「嫗山姥」(こもちやまんば)の金太郎のお母さん、八重桐が有名です。通称「しゃべり山姥」といって、坂田時行の霊が八重桐の体内に宿って男児が誕生するというお話。身ごもった時から八重桐は不思議な通力を持つようになり、山姥となって後の坂田金時を生み育てます。いわば女スーパーマンのようなもので、尋常ではない力持ちというわけです。ですがこの作品では実際に怪力をふるっての立廻りよりは「しゃべくり」の方に重きがおかれています。

他に女武道といわれる役は「ひらかな盛衰記」のお筆、「盛綱陣屋」のお石などがあげられます。

今回「毛谷村」では雀右衛門が、その他の場では魁春がお園を演じました。魁春の寂しげな風情はあまりお園にむかないのでは?と初めは思いましたが、「ひょうたん棚の場」などでは切れが良い演技で立ち回りも素晴らしく、立派にお役目を果たして雀右衛門にバトンタッチしました。

それはそうと梅玉の演じる京極内匠、ついこの間見た「霊験亀山鉾」の水右衛門よりさらに非道な極悪人で、台詞もかなりどぎつくて、ビックリするところもありました。この話の原作は1786年梅野下風・近松保蔵作の人形浄瑠璃です。「一味斎館の場」は動きがなくて少々退屈しましたが、全体に良く出来た芝居で筋がわかりやすく、見所も沢山あります。

「毛谷村の場」では富十郎が六助を演じました。非常に若々しいよく通る声で、六助の正義感とか人の良さとかがよく出ていたと思います。富十郎ジュニアの大チャンはまだ演技をするところまでいきませんが、よくとおる良い声はお父さん譲りのようです。。雀右衛門のお園は六助が婚約者だと分かったとたん、かいがいしく台所へ入ってかまどに火をつけたりし始めたりするところが、初々しくて良かったです。
雀左衛門は恥らう女性を演じさせたら当代一の女形だと言う事は、まちがいありません。

この日の大向う

数人の方が掛けていらっしゃいましたが、ほとんど皆さん渋く抑え目に掛けていらっしゃいました。梅玉の内匠が芝雀のお菊を惨殺する時、どなたか「ご両人」と掛けられました。
どっちに掛けようかなと考えたあげく「ご両人」になったのでしょうが、この場合は殺す人と殺される人ですので一緒にしたらまずいのではないかしら?と思ってしまいました。「ご両人」という声は、ぜひ濡れ場で掛けていただきたいです。

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