法界坊 串田流演出 2005.8.24

20日、歌舞伎座で「八月納涼歌舞伎」第三部を観てきました。

主な配役
法界坊 勘三郎
お組 扇雀
要助実は松若 福助
野分姫 七之助
甚三郎 橋之助
番頭正八 亀蔵
永楽屋権左衛門 弥十郎
勘十郎・おさく 勘太郎

「法界坊」(ほうかいぼう)―「隅田川続俤」(すみだがわごにちのおもかげ)のあらすじ
序幕 
深川宮本の場 
朝廷から預かった宝物「鯉魚の一軸」を紛失してしまい、お家断絶となった京の吉田家。その嫡子・宿位之助(とのいのすけ)松若は、お家再興のために永楽屋の手代・要助と姿を変えて宝の在り処を探していた。

江戸深川の八幡さまの境内にある料亭・宮本には吉田家の家老・淡路七助の女房が仲居・おかんとなって入り、松若の宝の捜索を手伝っている。ここへ葱売り(しのぶうり)に身をやつして、花園中納言の娘・野分姫が許婚の松若を訪ねてやってくる。

その後から永楽屋・権左衛門が娘のお組を連れて姿を見せる。吉田家に縁のある権左衛門は、山崎屋勘十郎が「鯉魚の一軸」を持っていることを知り、「お組を嫁にくれるなら一軸を百両の金でゆずろう」という勘十郎の申し出をお組には内緒で承知したのだ。

勘十郎は大喜びで一軸を権左衛門に手渡す。しかし要助と恋仲となっているお組が、この縁組を承知するわけもない。

ここへ釣鐘建立の勧進と言いつつ、実はその金を女遊びや飲み食いに使い果たしている生臭坊主の法界坊が現れる。法界坊もお組にしつこくつきまとわっている。永楽屋の番頭・正八もお組に執心している様子である。

皆が去ったあとへ要助実は松若がやってくると野分姫は走り出てきてすがりつくが、要助は許婚と会ったことがない。そこで姫は形見に渡した袱紗を思い出させる。姫の詠んだ歌がそこには書かれてあった。

要助はお組がこの様子をみているのを知って姫にすげなくする。悲しんだ姫は胸を突いて死のうとするが、おかんがこれを止める。

奥の座敷でお組は要助に野分姫への嫉妬をぶちまける。二人が痴話喧嘩しているその隙に乗じて、法界坊が要助のそばにある「鯉魚の一軸」と勧進の幟をすり替え、おまけにお組が要助に書いた恋文も持ち去る。

後から忍んできた勘十郎は、今度は床の間の掛け軸と「鯉魚の一軸」(実は幟)をすり替えていく。

そんなこととは気がつかない二人がやっと仲直りしたところへ、番頭の正八がやってきて「『鯉魚の一軸』を買い取る百両の金を貸そう」と持ちかける。要助は感謝しつつ証文を書いてこの金を借りる。ところが要助がいなくなるやいなや、正八はお組にしつように言い寄る。

逃げ回るお組を追い回す、正八と法界坊。このどさくさの最中にあらわれた道具屋甚三郎(実は吉田家の忠臣甚平)は法界坊がお組にあてて書いた恋文を拾う。

そして皆の前で、勘十郎は「お組が間男している」と言い立て、法界坊もそのしりうまに乗って責め立てる。正八はさきほどの証文を出して、要助に金を返せと迫るが、その金が贋金であることがわかり、だまされた要助は窮地に立たされる。

法界坊が二人の不貞の証拠として、取り出したお組の手紙を甚三郎はさきほど拾った法界坊の恋文とすりかえたので、法界坊は恥をかき、要助の間男の容疑は晴れ、おかんが証文を焼いてしまったために金の件も収まる。

甚三郎は要助の身柄を預かっていく。   

八幡裏手の場
その夜、八幡裏手では番頭正八がお組をさらって逃げようとしていた。正八がお組をしばって用意した籠に乗せ、籠かきを呼びに行っている隙に、法界坊がこれを見つけお組を籠から出す。そして通りかかった道具屋市兵衛を気絶させて、市兵衛の葛篭にお組を押し込め、市兵衛を替わりに籠にのせる。

この場へ勘十郎と要助がやってくる。勘十郎は所持する「鯉魚の一軸」をちらつかせながら要助を散々に打ち据えたあげく、掛け軸を破ってしまう。堪忍袋が切れた要助が刀を抜くところへ法界坊が加わって、闇の中で探り合ううちに、法界坊は勘十郎を斬り殺す。

要助は勘十郎を自分が殺してしまったと思い込み、掛け軸も破られ絶望して腹を切ろうとするが、そこへ甚三郎がやってきて、掛け軸が偽物だったことに気がつく。そこで甚三は勘十郎の死体をそばにあった葛篭に隠そうと開けてみると、中にお組を発見する。

三人は甚三郎のうちへと去り、そのあとへ現れた正八はお組が入っているはずの葛篭を背負って立ち去る。

二幕目    
三囲土手の場
ここは向島の土手。雷鳴のとどろく中、権左衛門、お組、要助それに野分姫が道を急いでいる。傍らには法界坊の住む小屋があり、現れた法界坊はお組を嫁にしたいというが断られる。

すると法界坊は要助が松若であることに気がつく。要助は法界坊を切ろうとするが、脇差を奪われ反対に権左衛門が切られてしまう。法界坊はお組と野分姫にあてみをくらわせ、要助を縛り上げ、権左衛門をなぶり殺しにする。

そのうえで野分姫を手篭めにしようとした法界坊だが、姫は懐剣を抜いて抵抗する。怒った法界坊は、「殺すのは要助に頼まれたからだ」と嘘を言って姫を刺すと、姫はそれを信じたまま息絶える。

法界坊がお組を襲おうとした時、甚三郎が駆けつける。法界坊はあやまって自分の掘った落とし穴に落ち「鯉魚の一軸」は甚三郎の手に落ちる。

その場を立ち去ろうとする要助とお組は、野分姫の霊の恨みで動けなくなるが、「鯉魚の一軸」のご利益で霊は退散する。甚三郎は落とし穴から這い上がってきた法界坊と切りあってこれを殺して、穴に埋める。

だが、殺された法界坊の執念は野分姫の恨みの念と合体してしまう。

大喜利
隅田川の場「双面水照月」(ふたおもてみずにてるつき)
隅田川のほとりで女船頭のおさくが待つところへ、要助とお組が葱売りに姿を変えてやってくる。三人で殺された野分姫の菩提を弔おうと姫の形見の袱紗を燃やしていると、そこへお組にそっくりな娘があらわれ、自分こそお組だと名乗る。この娘こそ、野分姫と法界坊の二つの霊が合体した怨霊だった。

怨霊はなにからなにまでお組と瓜二つでどちらが本物か、全く見分けがつかない。そこで要助が浅草寺の観音像をとりだすと霊は消える。

要助を捕らえにやってきた悪者の手先をやっつけると、恐ろしい本性を現した怨霊が再び現れる。ここへ一軸を持った甚平が勇ましい姿でかけつけ、めでたく怨霊は退治される。

奈河七五三助(ながわしめすけ)作「隅田川続俤」(すみだがわごにちのおもかげ)通称「法界坊」は1784年大阪で初演されました。

東京で上演されるのは平成12年に浅草の平成中村座で演じられて以来で、中村座で見た泥絵の具をぬりたくったような小芝居的面白さが、大きな歌舞伎座の舞台でどう表現されるのかと注目していました。

幕が開くと舞台の上手と下手両方に中村座の桟敷が再現されていて、顔の描いていない等身大の人形たちが見物しているといった趣向です。

名題に串田劇場(くしだわーるど)と銘打ってあるように、福助が演じる要助が野分姫に会う場面などで、肩をすくめたり足を組んだりするのを見ても、従来の歌舞伎には見られない変わった演出があちこちにみられました。

要助が借用書を書かされるところでは硯を運んできた黒衣が堂々と墨をすったり、要助の肩をたたいて既に書いてあるものと白紙を取り替えたり、「これで良い」といわれて黒衣も安堵したり、本来は見えない約束の黒衣が「見える存在」となっていたりしました。

お組に言い寄る番頭正八を演じた亀蔵のイグアナのような動きは、正八の執念深くていやらしい性格を表していましたが、これも普通では見られない演技です。

中村座では、半身が乞食坊主で半身がお姫さまというグロテスクな姿で彷徨いながら客席に降りたりする低い宙乗りが話題となりましたが、今回も同じ姿での宙乗りがありました。しかし歌舞伎座の機構上、普通のスタイルの宙乗りでしたので、残念ながら中村座のようなおどろおどろしさや滑稽味はでなかったと思います。それでも二階席に近寄ってきて脅かしたりして、勘三郎ならではのサービス精神を発揮していました。

しかし舞踊劇「双面水照月」だけは、ほぼ伝統どおりに演じられ、押し戻しもついて、きっちりと最後をしめくくりました。双面の怨霊はすっぽんから登場するのが普通だと思いますが、今回は本舞台のセリから登場。本来のすっぽんから出た場合、七三の演技が長いうえに、暗さも手伝って、かなりの観客はこれを見ることができないので、これは親切なアイデアだと思います。

差し出しのほのぐらい灯りに照らされて勘三郎の顔が白く浮かび上がり、古風な世界をかいま見せてくれました。

これとは逆に法界坊と甚三郎の立ち廻りでは、普通土手の上でやる甚三郎が刀を振り上げ立ち、法界坊が傘をさして前に座る見得を、花道七三で演じたのが興味深かったですが、このあたりの立ち回りは少し冗長にかんじました。

橋之助の押し戻しは大物浦の御注進のようなさばき髪で網くさりにバレン、それに大きな「鯉魚の一軸」を持っていました。(余談ですが、橋之助は第一部の「金閣寺」の幕切れにもほとんど同じような格好で登場しています。)

勘太郎は道具屋の勘十郎では、「どう(銅)する」という言葉をきっかけに、ハードルの為末もどきにピョンピョン飛び回っていたのが愉快でした。彼には嫌味のない可笑し味があって猿若の面目躍如です。それに加えて女船頭おさくで登場した時、その立ち姿が美しくたおやかだったのには感心しました。

今回の上演は全体に非常にテンポがよく、複雑な筋を手際よく楽しくすっきりと見せてくれたと思います。しかしながらあの魅力ある泥臭さが減って、案外あっさりしたお芝居になったように感じました。

とはいえ人気は上々で拍手がなりやまずカーテンコールも一度ありました。顔のない人形の中にまじっていて途中からやおら芝居に参加した役者さんたち3人も登場して、喝采をあびていました。

この日の大向こう

序幕にはほとんど声が聞こえず、法界坊登場の時と幕切れくらいしか掛かりませんでした。

二幕目からはつけいりの大きな見得が増え、三人くらいの方が掛けていらしたようです。会の方はお一人いらしていたとか。渋いお声も聞こえていましたが、なにぶん声が聞きとりにくい席だったこともあり、掛け声の点では静かな印象の夜でした。

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