忠臣蔵第二部 続江戸と上方の違い 2002.11.27

25日、国立劇場の「仮名手本忠臣蔵」第二部を見てきました。
一週間前に第一部を見た時は一階の客席は埋まっていたものの二階三階は4〜5分の入りだったのですが、この夜の入りはかなり良かったようです。

「一力茶屋の場」では上方式に吉良方に寝返った斧九太夫と鷺坂伴内が連れ立って花道から登場。三人侍の出の後、下手から出てきた平右衛門は縞の羽織を着ています。鴈治郎の平右衛門は由良之助に替わる為すぐに引っ込みます。三人侍が由良之助を待つのは江戸型では平舞台ですが、上方式は二重の上。「めんない千鳥」のところでも下に下りません。

鴈治郎の由良之助は派手な紫の着付け。羽織を片袖はずし頭には飾り紙をつけています。もっている扇子は金色の地に黒の横縞。そこへ文を届に来る力弥は黒の紋服を東からげにし、白の頬かむり、赤い脚伴をつけています。平右衛門は由良之助と一緒に出られないので、寝ている由良之助に願い状を投げ返されるところなどはありません。

魁春のお軽は薄紫の地に赤に梅の模様の胴抜き(遊女の部屋着)。江戸型ではすそ模様の着物で団扇を手に持っています。「九太はもう、いなれたそうな」で長のれんが落ちて遠見になります。由良之助が手紙を見る前に手を洗い、口をゆすいで吐き出したその水を、縁の下で様子を伺っている九太夫がもろに浴びます。
縁側に一部竹で作った張り出しがありその前に手水鉢が置いてあるのが江戸型と違います。九太夫はこの奥に羽織を広げて目隠しにして隠れます。

由良之助が読んでいる手紙を盗み見てしまったお軽が、さんごの簪を落とします。それを拾った由良之助は自分の頭に挿し、お軽がはしごを降りてきてから渡してやります。簪を落とすところを双眼鏡でずっとみていたのですが、簪には黒い糸がついていてそれを引っ張っておとすので、途中でぶら下がったりしないようにするのは結構大変そうでしたが、ここは江戸型とやり方は同じ。

お軽を身請けすることになった由良之助の鴈治郎は、奥へ引っ込んだ後また平右衛門で登場。江戸型だとお軽と平右衛門はお互いにそれとわかるとすぐに平舞台に降りてきますが、上方式ではそのまま二重の上。平右衛門がお軽に切りかかると、お軽は紙を投げつけて逃げながら平舞台に下りてきます。

お軽が勘平の死を聞かされるところですが、「はっとびっくり〜」と竹本が入るまで、お軽の無言の間がとても長かったです。江戸型の2〜3倍。この間鴈治郎の平右衛門は斜め上手を向きうつむながら無念を噛みしめています。
お軽が癪をおこしてから鴈治郎の平右衛門は興奮した高調子で台詞をいうのですが、これが何をいっているのか良く解からなくて、ちょっと困りました。

最後はどうするのかなと思っていましたら原郷右衛門が由良之助の代わりにお軽の自害を止め、縁の下に隠れていた斧九太夫をお軽と共に成敗。郷右衛門が二重の上で上手、お軽は上で下手、平右衛門は斧九太夫を担ぎ平舞台中央で極まって幕になりました。

「山科閑居の場」は今回の忠臣蔵のなかで一番出来が良かったです。出てくる役者すべてが役に合っていたと言う事がその一番大きな理由でしょう。鴈治郎はやはり女方をやっている時のほうがずっといいと思いました。七段目が世話にくだけるので、九段目の時代に改まった緊張感が快かったです。

まず鴈治郎の戸無瀬の出から始まります。大石邸で戸無瀬が着る打掛は金茶。戸無瀬は片はずしの鬘で最初の頃は角隠しをつけたままです。女中りんが戸無瀬の名前を聞き違えるところもなし。魁春のお石は薄い小豆色の紋付。魁春もお軽よりお石のほうがずっと合っていると思います。

亀治郎の小浪もピーンと張り詰めたようなこの場の雰囲気にぴったりでした。紅と銀の花簪のほかに同じ色の丸い簪を二つつけていたのですが、それに銀の蝶々がトレンブランというのでしょうか、いくつも揺れていて可憐でした。小浪は白の着物に黒の帯、紅の太い帯締め。これは江戸型と同じですがきりっとしていて綺麗でした。

戸無瀬が小浪の首を打とうとする時、「ご無用」と声がかかるので二重に上がり、ツケ入りの見得をします。そこへ三方を持って出てきたお石は黒の着物と打掛に変わっています。段四郎の本蔵は声がどっしりとして実に良く、はまり役です。

この後、鴈治郎がまた大石に替わる為に戸無瀬は使いに出されます。やはりここは仕方がないとはいえ、いかにも不自然でした。本蔵はお石と渡り合っている時に、止めにはいる小浪を突き飛ばし、お石を踏んづけ、手負いになって本心を明かすまでは敵役として演じます。江戸型では小浪には優しい父親なのですが。

そこへ出てきた力弥は紫の着物に縞の袴、赤い脚伴ですが襟は抜いていないようでした。江戸型では黄八丈。昨年3月、歌舞伎座で見た時も孝太郎の力弥の着付けは紫の着物に縞の袴でしたので上方式だったわけです。大石になって出てきた鴈治郎、七段目より品があって顔がよかったです。

「吉良邸討ち入り」では「泉水の場」がカットされあまり出ない「広間の場」が出ました。お焼香では勘平の縞の財布が登場し二番手で平右衛門と共にお焼香。江戸型ではここに財布は出てきません。大序の開幕の時に使われた大手・笹瀬の幕が最後を飾りました。

全部を見終わって、地味だと思われている「山科閑居の場」が一番見ごたえがあり、また面白くもあったのは上方式の演出が文楽に基本を置いているからだろうと思います。江戸型のような入れ事がない分、筋がはっきりして「忠臣とは何か」と悩む本蔵の気持ちがストレートにこちらへ伝わってくるからではないでしょうか。

この日の大向う

当日は二階席上手で見たので、すぐそばに声を掛けている方が三人ほどいらっしゃいました。声を掛けた方は全部で10人以上いしらっしゃいましたが、その中に決して大きい声ではないのですが皆さんとちょっと違う時に、渋くて気合の入った声が三階上手から掛けられ「こういうのも良いなぁ!」と思いました。
かとおもえば役者がそれほど大きな声を出していない時に、それより大きな声を掛けたりする方もいて、全体の雰囲気を壊しているなぁと・・・。きっと本人は気がついていないのでしょうね。

刀を使った極まりとか見得の場合、必ず刀を「トン」と突くとか、「カチャン」と収めた後に声をかけるようです。待ちきれなくて掛けてしまう方もいましたけれど。

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