『 いとしい人 ― (2) ― 』
「 お疲れ様〜〜〜 いい舞台だったよ 」
「 ジョー メルシ〜〜♪ うふふ・・・ 」
フランソワーズは 大きなバッグを左右に持ち
楽屋口から出てきた。
「 それ 持つよ。 」
「 ありがとう ジョー 」
「 車 パーキングに停めてあるから ・・・ 」
「 あ 博士は? 」
「 ふふ グレートと一緒。 先に帰っててくれって。 」
「 まあ そうなの。 」
「 こっちだよ 混んでてさ ちょっと奥の方に
なっちゃったんだ 」
「 ああ ・・・ 外の空気 気持ちがいいわあ 」
「 深呼吸するといいよ 疲れも減るしね 」
「 うん ・・・ ふ〜〜〜〜 」
ステージの後は 必ず車で愛妻を迎にゆく。
ジョーの愛する人は 頬を上気させたまま軽い足取りでついてきた。
「 さあ 乗って。 疲れただろう ? 」
「 う〜ん それほどでもないわ ああ でも嬉しいわあ〜
ジョーの運転が一番安心ですもの 」
「 荷物は? トランクにいれる? 」
「 ああ 平気よ。 後ろの座席に置くから 」
「 おう。 あ・・・ みちよちゃんとかも一緒に
送ってゆこうか? 」
「 ふふ〜 大丈夫。 みちよもご主人がちゃんと
迎えに来てるから 」
「 あ そっか よかった 〜 それじゃ 車 だすよ 」
「 はい お願いします
あ〜〜〜〜〜 ・・・・ やっぱりジョーの運転が一番だわぁ 」
「 ははは ・・・ 次回もご指名ください ってね
なんか随分 仲良しで楽しそうな 王子サマとお姫サマだったね 」
ジョーはゆっくりと車を駐車場から 出してゆく。
「 まあ そう? そんな風に見えたのなら 大成功だわ
『 オーロラの結婚 』 なんですもん 」
「 あ〜 うん ・・・
あの なあ。 < 王子サマ > のアイツ・・・ どう? 」
「 ふんふ〜〜ん♪ え なあに 」
「 あの〜〜 さ。 あの < 王子サマ > さ
フラン、最近よく話してる ヤツ だよね どんなヤツかい 」
ジョーが 何気な〜〜く ホントは滅茶苦茶気にしつつ・・・
彼の愛妻に訊ねれば ―
「 え? タクヤ? あ〜 いいコよぉ〜〜〜 」
「 そうねえ パートナーとしては 最高だわね。
若いのにきっちりサポートできるし。
なによりわたしのタイミングをしっかり 読める のね
これ 最高よ 」
「 モテるかって? やだ〜〜〜〜 ジョー 当然でしょう?
あのルックスよ あの脚よ?
もうね〜〜 彼 お目当てでチケット売れるのよ
本人は あんまり気にしてないみたいだけど 」
「 どう思ってるか? そりゃ ・・・ 好きよ。
一緒にいても気持ちいいし 爽やかって感じ?
あ すばるもねえ ものすごく慕っているわ 」
「 は?? あははは ・・・ なに言ってるのぉ〜〜
タクヤは すばるのちょっとお兄さん な コドモよぉ??
きゃ〜〜〜 可笑しいわあ〜〜 ジョーってば・・・
あなた すばるのトモダチにヤキモチ妬くのぉ?
おっかし〜〜〜〜〜 」
「 あのねぇ わたし わたなべクンだって好きよ?
すばるの本当にいいお友達だし いいコだし。
ジョーってば わたなべクンにもヤキモチ、妬くのぉ???
やだわあ〜〜〜 おっかし〜〜 」
「 タクヤはね わたしの仕事上での大切なパートナー です
ジョー 貴方だってお仕事には有能なパートナーが必須でしょう? 」
彼の愛妻は あっけらか〜〜〜んとして応えるのだ。
「 そりゃ そうだけど・・・ きみも そうなんだ? 」
「 そうよぉ〜〜〜 いい仕事をするために
いいパートナーの存在は重要よ〜
わたし 本当にラッキーだと思うの。
タクヤみたいに 踊ることだけしか関心がない みたいな
パートナー と組めてね〜 ホントに熱心ないいコなの 」
踊るコトだけしか関心がない だと・・・?
おいおい〜〜〜
! きみは ・・・!
アイツの あの視線に気づかないのか!!!
アレは 恋するオトコ そのもの だぞお〜〜〜
「 そ そうなんだ? ・・・ アイツ、きみのことだけを
熱い視線で見つめていたよ? 」
ジョ―は 必死で反撃を試みる。
しかし 彼の愛妻は ころころと軽く笑っている。
「 やあだ ・・・ コドモ相手にな〜に言ってるのよ
すばる だって すぴか だって じ〜〜っと見つめるでしょ 」
・・・ どうも 彼女は長年オトコ達の中に 紅一点 で過ごしてきたので
男性の視線 というものに慣れ切って鈍感?になっているのか も・・・?
「 コドモっていうけど。 アイツは立派な オトナ じゃないか 」
「 そりゃ〜ね 年齢的には ね
でもね〜〜 中身は すばるにちょっとだけ齢をたしただけ の
オトコノコよ。 可愛いじゃない? 」
「 ・・・・ 」
ジョーは 車線変更に集中しているフリをして 応えなかった。
彼の愛妻は 全く! 気にする風もなく 助手席でリラックス・・・
やがてアクビを連発し始めた。
「 寝ていいよ ・・・ついたら起こすから さ 」
「 ふぁ〜〜 ・・・ あ そう? アリガト ジョー 」
ことん。 金色のアタマは すぐに傾いてしまった。
「 あは・・ 疲れてたんだなあ ・・・
フラン、 ほんとにいい舞台だったよ ・・・
きみの幸せいっぱい〜な 花嫁姿 みられて嬉しかったけど
・・・ ホントの時はさ ぼく、緊張Maxでさ ・・・
きみのベールに付いてた白い花しか 覚えてないんだ〜〜 」
「 後から写真見てさ ・・・ うわあ〜 ぼくの奥さんは
こんなに綺麗な花嫁さんだったんだ〜って 改めて恋したんだ 」
ジョーは ふか〜〜い ・ フクザツなため息を吐き
すうすう寝息をたてている愛妻の横顔をチラ見す。
・・・ 好き なんだよなあ マジで ・・・
ほっんと ・・・ 好きさ。
ああ こんなに好きになった女性は 初めてなんだ
フラン ・・・ 好き だよぉ〜〜
ホントに ホンマジで 一目ぼれ だったのだ。
いや お米の銘柄じゃなくて! ジョーにとってフランソワーズは
まことに まことに 運命の人 そのものなのだ。
― そりゃ いろいろ あった。
命からがら逃げだして その後も いろいろ ・・・
でも 彼の彼女に向けての 熱愛の炎 は 決して消えることはなかった。
彼女は いつだってかっきりと顔を上げ 堂々と正面を見つめている。
ああ ・・・ この瞳、 好きなんだ!
どんな時だって ぼくに勇気をくれるよ
ぼくは この命に換えても
彼女を護るんだ !
最初は 一方的な片想い・・・なんだ、と半分諦めていた。
だけど ―
あれやら これやら なんだかんだと 紆余曲折ありまして。
彼自身も 瀕死の状態からなんとか戻ってこられたりもして
ぼく達はべつに そんな
なんて 言っているべきではない!と ジョーは心底反省し。
そして。
ジョーが 生まれてから そして サイボーグにされてから
最大最高に勇気を振り絞り 汗だくだくになりつつ
あ あの。
・・・ ぼくと 結婚 してクダサイ。
フランソワーズだけをじっと見つめ しどろもどろな言葉に
! ・・・ Oui♪ はい。
彼女は頬を染めつつ 極上の笑顔で応えてくれたのだった !
う ・・・ そ ・・・ !
一瞬 ジョーのアタマの中も 視界も 真っ白。
俗にいうホワイト・アウトというやつだ。
「 ・・・ ジョー? どうしたの ? 」
はっと気づけば 碧い瞳がとてもとても心配そうに
彼を見つめている。
「 あ ・・・ ご ごめ ・・・
あの あんまし 嬉しくて嬉しくて ぼく・・・
そのう〜〜 アタマん中のサーバー 落ちた ・・・ 」
「 え? 」
「 い いや フラン! フラン〜〜〜〜 ありがと〜〜〜
うわぁ〜〜 うわあ〜〜〜〜〜い 」
「 ・・?! まあ ・・・ 」
ジョーは フランソワーズを抱き上げると くるくると回った。
「 ふふふ ・・・ ジョー 上手いわ〜
ダンサー になれるかもね 」
めちゃくちゃに振り回してしまったけれど そこは プロフェッショナル。
彼女は 目を回すこともなくにこにこしている。
「 えへへ あ ごめん ・・・ 乱暴なことして 」
「 あらあ 平気よ? ああ でも
ジョ― 〜〜〜 愛してるわあ〜〜
」
「 おわ!? ・・・ ん〜〜 」
がばっと抱き付いてきた彼女を 彼はぎゅう〜っと抱きしめたのだった。
そうして 二人は仲間たちに祝福され ささやかな華燭の典を上げた。
― それから
まあ やはりそれなりに あれこれ・いろいろありまして。
さらに天使が二人、 ジョーとフランソワーズの下に飛び込んできてくれ
わいわい がやがや・・・ 岬の屋敷で暮らしている。
で。 彼は 初めて逢ったその日から♪ ず〜〜〜っとずっとずっと
彼女を熱愛しているのである。
「 ・・・ フラン? ああ よく眠ってるなあ 」
「 ・・・・ 」
金色の柔らかい髪が 時折動く。
ふふふ ・・・ 安心して眠っていいよ〜
全世界のみなさ〜〜〜ん
この素敵なヒトはね ぼくの奥さんなんです。
この可愛いヒトは ぼくの子供たちの母なんです。
ふふふ ・・・ ぼくだけの女性 ( ひと ) なんです♪
ジョーは深いふか〜〜〜い満足感で 彼女の寝顔をチラ見する。
「 いっつもきみは 微笑んでいてほしいんだ。
それを護るためなら なんだってやる!
ああ そして どんな事があっても這ってでもきみのトコに
帰ってきて きみと子供達を護るんだ! 」
言葉通り この時期、ジョー いや 009 は破壊的に強かった。
・・・ 敵対者も情報網を巡らせていたのかもしれないが?
二人の < 子育て期 > に ちょっかいをだしてくる、といった
愚行をすることはなかった・・・
「 あ〜 だからさ ・・・ 踊り始めた時のフランの顔・・・
もう最高に素敵だったんだ・・・ 幸福に輝いててさ・・
そりゃ ぼくはあんましバレエのこと、 詳しくない けど ・・
ぼくの大事なヒトが 輝く笑顔で踊ってるのって
ぼくにとっても 最高〜〜〜に シアワセだなあ〜 って
思ったさ 」
家事をし そして やがては子育てもしつつ ダンサーとして
活躍するのは大変なこと ― それはジョ―にも よ〜くわかっていた。
でも 彼女はいつも笑顔でやってのける。
え? だって 踊れるのよ!!
こんな幸せって ある?
お家では
ジョーと すぴか と すばる が待ってるの
ねえ こんな幸せって ある??
そんな彼女を ジョーは眺めているだけでもシアワセなのだ。
バレエ団の研究生として毎朝 レッスンに通いはじめ
やがて ぽつぽつ舞台に立つようになる。
フランソワーズの情熱は ジョー自身への励みにもなった。
ん! フラン がんばってるだから。
ぼくも やるぞ。
彼は家族のため、そして自分自身の夢の実現のために
じっくり腰を据えて仕事に取り組んだ。
彼女の舞台は 必ず観にいった。
「 ね! 今度ね、『 眠り〜 』 が踊れるの!
勿論 グラン・パ・ド・ドウ だけだけど・・・ 観にきてくれる? 」
フランソワーズは 頬を染めて尋いてきた。
「 へえ すごいじゃないか〜〜 よかったねえ フラン 」
「 ええ ・・・ いい舞台になりそう♪
タクヤと二人で頑張るわ! 」
「 そうか〜 ん? タクヤ? 」
「 ええ 今度のパートナーよ 」
「 ふうん そうか 」
― その頃から その名前が頻繁に会話に出てくるようになるのだが・・・
あ ・・・?
ああ 次の舞台でのパートナー だったな たしか。
おいおい しっかりしてくれよ えっと・・・
なんだっけか ・・・ あ たくやクン だったな
ぼくの奥さんを大切に扱ってくれたまえ
ジョーは 理解ある旦那 であり 懐の深いところを見せるのだ!と
余裕〜〜な 気持ちで妻を眺めていた。
そして ― 本番初日の今日。
「 ! な なんなんだ〜〜〜〜 あの視線はっ !! 」
ジョーは客席で 凍り付いてしまった。
「 ・・・ い いや これは 芝居 なんだ ・・・
< 結婚式のパ・ド・ドウ > だって 言ってたからな
アイツは 王子として演技してるんだ よな??
そうだよな?? うう〜〜〜 」
必死で そう自分自身に言い聞かせてはいたのだが。
・・・若いヤツなのに ・・・
ヤルなあ ・・・・ いや しかし。
あの視線は〜〜〜
う〜〜〜〜〜〜 ★
花嫁の姫君 であるジョーの奥さんは 最高に幸せそうである。
そして 終演後 彼は実にじつにフクザツ〜〜〜 な想いで
彼の細君を待っていたのである。
その彼女は 今 彼の隣で安心しきった寝顔を見せている。
・・・ シアワセそう だなあ・・・
アイシテルよ フラン〜〜〜
「 ・・・ く〜〜〜〜 !!!
アイツ しかいないんだ ・・・ フランを最高に輝かせられるのは
舞台で。 くそ〜〜〜〜〜 」
ジョーは めちゃくちゃくに複雑な気持ちに
それこそ 魂が喰い破られる 想いなのだった。
だけど。 フランはぼくの妻だ。
彼女は ぼくの永遠のコイビト なんだからな!
そんな想いを抱き それでもジョーは 楽しく・充実した家庭生活を
送っている。
愛する妻 と 可愛い 賑やかな子供たちと 共に。
そして 最近。
フランソワーズの会話に中に じつに頻繁に あの名前 が
登場するようになってきたのだ。
ふうん ・・・
まあ アイツ なかなか上手いからなあ
ふうん ・・・
少々ひっかかるモノを感じつつも ジョーは物分かりのいい・
理解のかる 夫 として振舞っていた。
へえ ・・・ そうなんだ?
ほう 頑張ってるな フラン
そして ある日。
「 ねえ きいて ジョー! 今度ね タクヤと組めるの!
それもねえ 『 ジゼル 』 なのよ〜〜 」
フランソワーズは 頬を染め心底嬉しそう〜〜だ。
「 あ・・? 『 ジゼル 』 って・・・
ああ あのオバケになるヤツ? 」
「 オバケ? あ〜〜 やだあ 〜〜 ウィリって言ってよ
まあね 死んじゃった乙女たちの精霊なんだけど・・・
その 『 ジゼル 』 のね パ・ド・ドウ!
タクヤと踊るの! 次のコンサートで ! 」
「 へ え そりゃ よかったねえ 」
「 ずっとず〜〜〜っと ・・・ 『 ジゼル 』 踊るの、
夢だったの・・・ ホント こんな日が来るなんて・・・ 」
おわ・・・?
ほろり ほろ ほろ・・・ 碧い瞳から真珠の涙がこぼれおちる。
「 ふ フラン ・・・ 泣くなよぉ 」
「 ふふふ ごめん なさい・・・ わたし 嬉しくて 」
「 あ は そっか ・・・ よかったなあ
長年の夢だもんなあ 」
「 ええ ・・・ それにね タクヤと組めるって
ホントに嬉しいの ! 」
「 ふうん 」
最後の言葉は 聞かなかったフリをしていた。
― そして コンサート公演、本番当日。
「 ・・・ あ ・・・・ ! 」
ジョーは フランソワーズとタクヤの いや
ジゼル と アルブレヒト の 真摯な愛のパ・ド・ドウ に
釘付けになってしまった。
う ・・・
なんて ・・・ 幸せそうに踊るんだ・・・!
二人とも ・・・
ああ これでもう会えないんだなあ
永遠の別れ かあ 〜〜
・・・ フラン !
なんて慈愛に満ちた微笑 なんだ !
く〜〜〜〜 アイツ ・・・
わかるぜ お前のその気持ち!!
ああ ああ オトコにはわかるんだ!
・・・ うん いい踊りだった ・・・!
ジョーは 激しく感情移入してしまい
二人の踊りに 心底感動したのだった。
拍手の海の中 ジョーは不思議な感覚に陥っていた。
うん。 いいコンビだ、 それは認める。
舞台で フランの踊りを最高に輝かせてくれるのは
・・・ アイツ なんだ。
あの笑顔を 紡いでくれるのは アイツ。
悔しいけど。 それは真実だ ・・・
けど!!! フランは ぼくの恋人だ!!
彼女の笑顔を護るのは ぼく!
・・・ ジョーもまた 自分で自分自身を雁字搦めにしている ・・・
おめでとう〜〜〜 よかったよ〜 素敵だったわ
やったね! 幕開け 大成功ね !
褒め言葉が降り注ぎ コンサート公演の初日は終わった。
「 フランソワーズ。 タクヤ。
いい舞台だったわよ。 明日もお願いね。
丁寧に。 感情だけで踊らないこと。 それだけよ 」
主宰者のマダムも ご満悦でほんの一言 ダメ出しをしてくれた。
「 ありがとうございます。 タクヤ〜〜 ありがとう! 」
「 フラン ・・・ 俺こそ。 俺 感動だよ 」
「 ふふふ 明日も頑張りましょうね!
じゃあ また明日! あ 早く寝るのよ〜〜 」
「 あ ああ ・・・ また 明日 ・・・ 」
< ジゼル > は 軽く投げキスをすると
ずっと待っている良人のもとに駆けていった。
「 ・・・ ・・・・ 」
< アルブレヒト > は じっとその後ろ姿を 見送っていた。
俺は ― フランがあのかっこいい・旦那を熱愛してるって
ちゃんと知ってるさ。 あの旦那もフランに首ったけさ。
けど。 ステージでの恋人は 俺 さ。
俺以外に フランを最高に踊らせることができるオトコはいない。
俺はそう信じてる。
俺は 舞台の上なら 彼女と堂々とラブ・シーンができるんだ!
タクヤは ぐっと拳を握る。
フランを最高の踊りをサポートできるのは 俺だ。
ジョーはいつだって 心に秘めている決意がある。
フランの笑顔を護るために! ぼくは一生を賭ける!
ジョー も タクヤ も そう心底信じきっている。
お互い、決して口に出したりはしないが
それは 恋するオトコの本能で 相手の心境はしっかり読んでいる。
でも そのことは 死んだって言わない。
お互い 自分の立てないフィールドでの < 彼女とアイツ > を
見て 嫉妬、というか 悔しい歯ぎしりをしている。
でも 言わない。
だって。 シアワセな彼女 を見ていたいから。
― ところで 肝心の紅一点さん は。
「 え? ジョー? ・・・ う〜〜ん??
もう空気みたいなモンだから ・・ よくわからないわあ 」
「 あらもちろん! 愛してるわよ〜〜 うふふ〜
当たり前じゃない? わたしの最愛の夫で〜〜す♪ 」
「 え タクヤ? あらあ〜〜 可愛いわねえ〜〜〜
最高のパートナーよ もっともっと上手くなって欲しいわ 」
「 あらもちろん! 愛してるわよ〜〜 うふふ〜
当たり前じゃない? わたしの最高のパートナーです♪ 」
にっこり。
ああ フランソワーズの微笑は いつだって最強なんだよね!
うふふ わたし みぃ〜〜んな 愛してる!
******** オマケ ******
二十数年後 ・・・
山内タクヤ氏は 引退公演の演目に 『 ジゼル 』 を選んだ。
「 え 〜〜〜 どうして?? 」
「 もったいない そんなあ〜〜 」
卓越した彼のテクニックを 惜しむファン達は
『 海賊 』 や 『 ドン・キホーテ 』 を観たがった。
― しかし
「 最後のワガママだが。 『 ジゼル 』 でお願いします 」
常に第一線で活躍してきた山内氏の望みには 誰も反対しなかった。
チケットは発売とほぼ同時に完売。
満を持して 公演初日を迎えた。
『 ジゼル 』
長年、山内氏のパートナーを務めた女性ダンサーが タイトル・ロールを踊る。
一幕の溌剌とした 甘い色ワルの遊び人王子、
そして 一転 二幕。
欝々とした哀しみの青年を 彼は相変わらずの端正なテクニックで踊った。
・・・ 最終場面。
傷心のアルブレヒトは 朝陽の射しこむ墓地で後悔と愛惜の念にまみれ
真新しい十字架の基に 突っ伏する。
きっちりした高いジャンプに そして 迫真の名演技に観客は
息を呑み 舞台にくぎ付けだ。
音楽をカウントしつつも アルブレヒト、いや タクヤは
心からの叫びを 吐露していた。
・・・ ああ ああ !
愛して いたよ ずっと ずっと。
今でも ずっと これからも 一生・・・
愛しているよ
俺のジゼル !
俺の フランソワーズ ・・・ !
割れるような拍手が ホール中から湧きあがった。
やっぱ・・・アイツは いいヤツ なんだよなあ
片隅の座席で 茶髪の青年が ぼそ・・っと呟いていた。
*********************** Fin.
************************
Last updated : 05,05,2020.
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*********** ひと言 *********
フランちゃんの ステージ、 観たいなあ ・・・・
タクヤ君と絶対 絵になる ですよねえ (^.^)
二人のオトコたちの 切ない物語 かなあ (>_<)