『 メリ−・クリスマス! 』

 

 

 

*** このSSは 平ゼロ設定、というか拙作・F嬢の職業復帰談 設定です。

  カフェ・日溜り につきましては B姉妹・ぷち企画<カフェ・日溜りの片隅で>

  @文章・ニ をご参照くださいませ。 ***

 

 

 

・・・急がなきゃ・・・。 ああ、もうこんな時間だわ・・・!

フランソワ−ズはきゅっと唇を噛み締めた。

・・・そうしなければ 涙が零れ落ちそうだったから。

カツカツカツカツ・・・・ 

ヒ−ルの音が 人通りもまばらになった往来に高く響く。

ウチは どうしてこんなに遠いのかしら・・・ 

普段思ってもいなかった愚痴が ふと口をついて出てしまった。

・・・あ? 

ひらり、と冷たいものが頬をかすめていった。

 

 − やだ・・・! なんでこんな時に 降って来るの〜

 

この日には欠かせない演出家、みんなが喜ぶはずの自然のオ−ナメントの訪れに

フランソワ−ズはひとり、泣き出したい気分だった。

 

 

「 え〜と・・・。 チキンでしょう、じゃが芋、人参、玉葱、セロリ、と。お野菜は大丈夫。 あとは・・ 」

フランソワ−ズはぶつぶつと独り言して宙に目を据えている。

「 チ−ズ、は・・・。 ワインはボジョレ・ヌ−ヴォ−のがまだあるし。 ああ、やっぱり

 パンよりも御飯がいいのかなあ? なんていうんだっけ・・・いろんなモノを刻み込んだ御飯・・

 白い御飯よりも ジョ−は好きなのよね・・・ 」

手許のメモに書いては消し・・・う〜ん、とフランソワ−ズは首を傾げ頬に手を当てる。

 

その年のクリスマスは どういう訳かメンバ−たちの都合がかみ合わなかった。

仕事がぎりぎりまであるものもあったし、故国でゆっくり寛ぐ予定のものもいた。

じゃあ、日本在住組で楽しみましょう、と言うフランソワ−ズに張大人がすまなそうな顔をする。

「 わるいネ。 クリスマス・ディナ−はかきいれ時アルよ。 食材はうんと上等なモノを 

 届けるアルよって。 ジョ−はんと楽しみなはれ。 」

「 さよう、さよう。 我輩も今年は有能なる店員に早代わりだ。 」

脚本・演出家としてもかなり名が売れるようになったグレ−トも、張大人の助っ人を買って出たらしい。

「 まあ、そうなの? ・・・う〜ん、それじゃあいつもの顔ぶれでのんびり過ごすわね。 」

ちょっとがっかりしたフランソワ−ズに ギルモア博士が遠慮がちに声をかけた。

「 ・・・そのう、なあ。 ワシらに、ワシとイワンとコズミ君なんじゃが。 北京の学会から依頼があって・・」

「 え〜・・・」

 

そんなこんなで 結局その年のイヴは ジョ−とフランソワ−ズ、たった二人でギルモア邸に

居残りということとなった。

 

 

「 ねえ、ジョ−? 」

「 う、うん・・・ 」

「 二人だけなんだもの、ちょうどいいわ。 」

「 ・・・・え ・・・ 」

「 なにが食べたい? もうジョ−のリクエスト、なんでも聞いちゃうわ。 なにがいい? 」

「 あ・・・・な、なんだ・・・ 」

ひとりで真っ赤になり俯いていたジョ−は ほっとすると同時にちょっとがっかりして顔をあげた。

「 なに? 赤くなったりして、ヘンはジョ−ねえ・・・。 ね、リクエストは? 」

「 え、あの・・・・? 」

「 もう! あのね、イヴの日の晩御飯〜 ジョ−は何が食べたいの? 」

「 あ、あの・・・ きみが作ってくれるモノなら、なんでもいいよ、ぼくは。 」

「 やだ〜もう! ね、ちっちゃい頃の思い出の味とかあるでしょう? 」

「 あ、うん・・・。 あの、ぼくはほら、教会で育ったから。 クリスマスは一応ご馳走だったよ。

 でも・・・ みんな寄付とかの出来合いのものでさ。 冷めてて・・・あんまり美味しくなかった・・」

「 ・・・ごめんなさい・・・ 」

「 やだな、なんできみが謝るの? 気にしてなんかいないよ、ぼくは。 」

「 うん・・・でも。 」

「 じゃあさ、きみの子供の頃、家で食べてたクリスマスの献立がいいな。

 あとね、あ、まだ頼んでもいい? 」

「 ええ、もちろんよ、なあに? 」

「 ケ−キ♪ きみの手作りのケ−キが食べたいっ。 ほら、ぼくのバ−スデイに焼いてくれた

 みたいな・・・丸ごとのヤツ。  <日溜り>のみたいに・・・は無理かなあ 」

「 了解〜。 いちごのね? うふふ、頑張ってみるわ! じゃあ、楽しみにしていてネ 」

「 うん! ちょうどぼくは休みだから、掃除とかやっておくね。 」

「 ありがと、ジョ−。 」

白い歯をみせてにっこり笑う彼からは とても<最強の戦士>のイメ−ジの欠片すら拾えない。

 

普段、あまりあれこれ言わないジョ−のリクエストを聞けたのが なんだかとても嬉しくて。

フランソワ−ズは張り切って準備をはじめた。

 

 − きみの子供の頃のクリスマス

 

う〜ん・・・

ママンのご馳走は。 お得意の ブッシュ ド ノエル は。

<お手伝い>と称してお兄ちゃんとツマミ食いしてよく叱られたっけ。

パパが暖炉で焼いてくれた マロン・ショ−(焼き栗)  ほっかほかですごく美味しかった

 

遠い日の楽しい団居が あのころの幸せを呼び戻す。

ねえ、パパ。 ママン。 わたし、こんな所でノエルの準備をしているの。

・・・お兄ちゃん。 大丈夫、わたし、元気よ。 わたし・・・しあわせよ。

ちょびっと目尻に涙が滲んできたけれど、それは暖かいものだった。

 

さすがにイヴの日にはリハ−サルは入っていないし・・・ レッスンが終わったら頼んでおいた

ケ−キの材料を受け取って 急いで帰って来よう。

うふふ。いい匂いのするキッチンで ジョ−がツマミ食いに来るかもしれないわ。

熱々のお料理と美味しいケ−キで 素敵なノエルにしたいなあ。

 

 − ジョ−とふたりきりの・・・。

 

・・・やだ・・・かぁっと熱くなった頬に手を当てて、フランソワ−ズは思わず辺りを振り返る。

誰もいないキッチンには ちいさなクリスマス・リ−スが揺れているだけだった。

と、とにかく! お料理、頑張らなくちゃ!

 

 

「 ジョ−? 行ってくるわネ。 お昼すぎには戻るから・・・ あ、チキンを冷凍庫から下ろして

 おいていくれる? 」

「 オッケ−。 他には? 何かやっておくことはない? ってあんまり料理はできないけど。 」

クリスマス・イヴの朝、フランソワ−ズはキッチンでのんびりコ−ヒ−を飲んでいるジョ−に声をかけた。

「 う〜ん・・・・? じゃあ、じゃが芋を剥いておいて? 二人ぶんだから2個もあれば十分よ。 」

「 了解。 行ってらっしゃい、気を付けて。 」

「 はい、行って来ます。 」

さっとジョ−の頬にキスを落として、フランソワ−ズは小走りに玄関を出て行った。

・・・チキンの詰め物は昨夜つくっておいたし。 大人が届けてくれたチキン、すごく美味しそう!

うふふ♪ きっと上手くゆくわ! ケ−キだってまかせてよ?

朝の冷たい風に頬を染め、フランソワ−ズはバス停めざして駆け出した。

 

 

「 フランソワ−ズ ? ちょっと・・・ 」

「 はい? マダム 」

レッスン前のストレッチをしているところに、稽古場の主宰者のマダムが顔を出した。

「 お早うございます。 なんでしょう? 」

「 ああ、お早う。 ・・・あのね、フランソワ−ズ、あなた今日、時間ある? 」

「 ・・・はい? 」

「 今日の午後、児童科と中等科のクラスの教え、お願いできないかしら・・・ 」

「 今日、ですか・・・ あれ? えり先生じゃ・・・? 」

「 う〜ん。 えりちゃんねぇ、風邪でダウンなのよ〜。 声が出ないからってお嬢さんから

 電話があったんだけど・・・アレは本人、起きられないんだわね、多分。 」

「 え、大丈夫でしょうか・・・。 」

「 えりちゃん、いつもぎりぎりまで頑張っちゃうから・・・。 ね?お願いできる?

 私、ちょうど協会の会議が入ってて抜けられないのよ。 」

「 ・・・・は、はい・・・。 わたしでよければ・・・ 」

「 ありがとう! あなた、人気モノだから子供達、喜ぶわ〜きっと。 」

「 ・・・・いえ、そんな・・・ 」

・・・え・・・ 困ったな〜。 チキンを焼くのはどうしても1時間以上掛かっちゃうし・・・

中等科が終わるのが・・・えっと5時半でしょう・・・それからケ−キの材料を引き取りに・・・

マダムのほっとした顔を眺めながらも、フランソワ−ズは猛烈な勢いで<お急ぎ版>の

手順をあれこれ組みなおしていた。

 

 

「 ありがと〜ございましたッ 」

「 はい、お疲れさま・・・ 」

少女たちと優雅にレベランス( お辞儀 )を交わすと フランソワ−ズは更衣室に飛び込んだ。

・・・大急ぎ! う〜ん、こういう時はジョ−が羨ましいなあ・・・  え?なに、電話?

「 ・・・ アロ− ? 」

着替えの手を止めずに フランソワ−ズは携帯のスイッチを押す。

「 ・・・・   ・・? 」

やだ。 無言電話? イタズラかしら!

なんの応答もない通話に眉を顰め切ろうとした時、なにやら切れ切れの音が流れてきた。

「 ・・・ ら・・・んそ・・わ・・・ 」

「 あ? ・・・あ! えり先生?! ・・・え?え? 」

・・・う〜ん?? いいや、ちょっとだけズルしちゃえ。 コレは十分緊急事態で〜す、と。

賑やかな更衣室で そっと<耳>のスイッチをいれる。

「 (・・・うわっ・・・) ・・・・はい?フランソワ−ズです。 えり先生!大丈夫ですか〜 」

突然押し寄せてきた<音>の大波に一瞬面食らいながらも、フランソワ−ズは電話の向こうの

かすれた音を拾おうと集中した。

「 ・・・えりです。 ごめんなさいね、ありがとう、クラスやってくれて・・・。 」

「 いいえェ・・・ えり先生? あまりお話なさらないで・・・」

<耳>で拾った苦しそうな声は 激しく咳き込んでいる。

≪ ママ! ちゃんと寝ててよっ。 お姉さん、買い物たのんだわよ、いい? ≫

≪ わかってるわよ! それよかあんた、お風呂の掃除した?今日はパパ、早く帰るってよ! ≫

咳のうしろから えり先生と良く似た声が二人分賑やかに響いてくる。

「 せっかくのイヴなのに、ごめんね。 貴女だってご主人と坊やがいるのに・・・」

先生それは違います、とぶつぶつ呟きフランソワ−ズは一人で頬を染めた。

「 はい、どうぞお大事に・・・ ゆっくり休んでくださいね・・・ 」

・・・いいなぁ・・・わたしも・・・いつか・・・

現役で踊りながらも、ちゃんと家庭を守っているえり先生が羨ましかった。

携帯を握り締め、フランソワ−ズは今度は大きく溜息をついた。

 

・・・さ! 急ぐのよ! フランソワ−ズ! ・・・加速装置〜〜!!って今だけ欲しいわ!

 

お先に失礼しま〜す・・・事務所に声をかけ、稽古場を出るとフランソワ−ズは足を速めた。

 

 

その店を最初にみつけたのは アルベルトだった。

フランソワ−ズが通う稽古場に近くに大規模なブックセンタ−があり、そこに寄った帰りに

アルベルトは偶然 その店に寄ったのだ。

「 あそこのコ−ヒ−は絶品だ。 あれだけの味はちょっとドイツでも見つからないな。」

 

 − カフェ・日溜り

 

オシャレな大通りから二筋も奥に入ったところにちんまりとある、カフェ。

「 ・・・・ 美味しい! 」

アルベルトに教えられジョ−を引っ張って行ったのだが、舌を焼くほどのあつあつカフェ・オレを

一口啜って、フランソワ−ズは思わず声を上げた。

「 お気に召してよかったです、マドモアゼル? 」

森のクマさんみたいなマスタ−は 巨体を揺すって穏やかに微笑む。

肉厚の丸まっちい手が自由自在に動き、信じられないほど繊細な味と香りを醸しだす。

「 友人に聞いたのですけど。 本当に美味しいです! ・・・わあ、このケ−キも♪ 」

「 ケ−キはウチの奥さんの手作りですよ。 いかがです? 」

「 おいし・・・・ ねえ? ジョ−? 」

傍らの彼に振り向けば、ジョ−はひたすら黙々と宝玉の如き苺を頂いた白い城に取り組んでいた。

「 ふふふ・・・ 夢中になるほど、美味しいそうですよ? 」

「 それは嬉しいです。 」

足繁く通ううちに ケ−キ作り担当の笑顔がすてきな奥さんとも知り合いになり、

今年のクリスマスには ケ−キのレシピと材料もお願いするほどになった。

 

「 ・・・こんにちは。 ・・・あら?」

これも奥さんの手作りだというプレ−トがかかった<カフェ・日溜り>のドアを開け、フランソワ−ズは

思わず目を見張った。

「 ・・・や、やあ・・・ いらっしゃい 」

いつも悠々としているマスタ−が ケ−キ・ケ−スの後ろで右往左往している。

カウンタ−の前には 数人の御馴染みさんたちがケ−キの品定めに熱心だ。

「 ・・・あの。 いま、お忙しいみたい・・・ですね。 ・・・奥さまは? 」

「 いやあ、参りましたよ! ウチのチビどもが風邪ひいて。アイツは看病でこれないんで・・・

 イヴの日にお客さんをお待たせしてしまって・・・どうも・・・ 」

汗びっしょりのマスタ−の赤い顔を見た次の瞬間、フランソワ−ズは口を開いていた。

 

「 あの! お手伝いします。 いえ、させて下さい! 」

 

 

「 ・・・ありがとうございました〜 ・・・ 」

から〜ん・・・と入り口のカウベルが鳴って最後のお客を送り出す。

「 や・・・・ フランソワ−ズさん、お疲れ様〜 ほっとうにどうもありがとう!!」

ぐわし・・・っとマスタ−の大きな手が白くて細い手を包み込む。

「 いいえ・・・あ・・・でも、さすがに・・・ 疲れました・・・ 」

「 さ、さ。 座って! 今とびっきりのカフェ・オ・レを淹れるから。 あ? すみません、もう閉店・・

 ・・・ああ、なんだ。 みちよ、お前か・・・ 」

もう一度音を立てたベルに入り口を振り返ったマスタ−は 気の抜けた声を上げた。

「 どう? ・・・あら。 フランソワ−ズさん・・・ え!手伝って頂いたの?! あら〜 」

からっぽのショ−・ケ−スとその前の丸椅子にぽそっと座っているフランソワ−ズを眺め、

マスタ−の奥さんは目をまんまるにした。

「 うん。 俺がまごまごしてたらケ−キ・コ−ナ−もこっちのウェイトレスも手伝って下さったんだ。

 そしたら・・・ ほら。 完売さ! 」

「 まあ・・・・。 ごめんなさいね、こき使ったんじゃない、このヒトってば。

 でも本当にありがとう! あ、ご要望の材料はちゃんと取ってありますよ。 これはお土産。 」

奥さんが笑顔と一緒に渡してくれたのは 深紅色の大きな林檎。

「 ありがとうございます。 ・・・あ?! 」

ふと壁の時計に目をやったフランソワ−ズは ちいさな悲鳴を上げてしまった。

・・・どうしよう・・!もうこんな 時間・・・!

 

たくさんの感謝とお詫びと。 ずっしり重いケ−キの材料とぴかぴかの林檎と。

そんな暖かいお土産を持って フランソワ−ズはとっぷり暮れたイヴの街中を駆けてゆく。

 

どうしよう、どうしよう・・・。 もうケ−キを焼いてる時間はないし・・・どこかで買って行こうかな

チキンは詰め物ナシだったら 少しは早く焼けるかしら  どうしよう、どうしよう・・・。

どきどき、どきどき・・・。 ジョ−、お腹へってるでしょ、待ちくたびれてるでしょ

独りでぽつんと待ってるのって 一番嫌いなんだって言ってたわよね  どきどき、どきどき・・・。

 

そんなつもりはなかったのだけれど、涙が勝手に頬をつたってゆく。

熱いはずの雫が すぐに冷えてちくちくと痛い。

 

・・・あ。 雪・・・?

 

気が付いた時には 涙と雪が同じくらいに頬を濡らしていた。

タクシ−を拾おうか、とやっと思いついた時、バスがゆっくりと自分を追い抜いてゆく。

行き先表示には最終のしるし、赤いランプがともっている。

 

待って・・・! 乗ります−−−!

 

カツカツカツカツ・・・・! いっそう忙しない靴音が凍て付きだした道路に響いた。

 

 

・・・しまった・・!

乗客もまばらな最終バス、ぽすん・・と一番後ろの席に座った瞬間にフランソワ−ズはまたちょっと

跳びあがりそうになった。

 

ケ−キ!どこかで買うつもりだったのに。 せめて苺を買って帰ろうと思ってたのに。

研究所に一番近いバス停、あのそばにはお店どころかコンビニすらもない。

ほんとに・・・どうしてウチはあんなに遠いところにあるのかしら・・・。

 

ふう・・・。 溜息がひとつ。 みぞれ混じりの雨が伝う窓ガラスが くもる。

・・・はあ。 もうひとつ溜息。 膝に抱えている荷物がぐんと重くなった・・・ような気がする。

≪ 次は 〜〜、〜〜です。 お降りの方は・・・ ≫

アナウンス・テ−プにはっとなり、フランソワ−ズはあわててボタンを押した。

 

研究所まえの坂を一気に駆け上り、息せき切って門を開け。

玄関ポ−チに駆け込んだ途端 −

 

・・・ きゃあっ !!

 

みぞれに濡れたタイルに見事にヒ−ルをすべらせて・・・・

気がついたら 荷物をすべてばら撒いてしっかり地面に着地していた。

・・・あ・・・。 冷たいのか痛いのか、とにかくおシリがじんじんと悲鳴をあげている・・・・

 

「 ・・・ どうしたの?! 」

ポ−チの灯りが強くなると同時に ジョ−がスリッパのまま飛び出してきた。

「 ・・・・・ ジョ− ・・・・ 」

「 わ! 大丈夫? ほら、濡れちゃうよ・・・ 」

フランソワ−ズは差し出されたジョ−の手を暫くじっと眺めていたが、やがて。

 

 − う・・・・っく・・・!

 

涙が堰を切って流れ出し、フランソワ−ズは声を上げて泣き出してしまった。

「 ・・・・ フランソワ−ズ・・・ 」

 

 

「 ああ、暖まった? ここでこの季節に雪なんて珍しいよね。 」

「 ・・・ジョ−。 ごめんなさい。 あの・・・ 」

ガウンに包まってバスル−ムから出てきたフランソワ−ズは また泣きそうな顔になった。

「 あ、ヒ−タ−を強くしようか? ねえ、連絡くれれば迎えに行ったのに。 」

「 ・・・ ごめんなさい・・・ 」

「 もう<ごめんなさい>はオシマイ! さ、座って、座って・・・ 」

ジョ−はご機嫌で フランソワ−ズの背を押してテ−ブルの前に連れていった。

「 夕方、えりさんって人から電話があったんだ。きみが自分の代わりに仕事で遅くなるからってね。 」

「 ・・・あ、 えり先生から? 」

「 うん。 <奥様><奥様>っていうから誰の事かなあって思っちゃったけど。きみってイワンと一緒の

 事が多いから誤解されちゃうんだね〜 」

「 ・・・・え、ああ、そ、そうね。 」  <誰の>奥さんだと思われてるのか知ってる?

 フランソワーズは精一杯の大声で叫んだ・・・つもりで、そうね、そうかも・・と呟いた。

「 きみの携帯はいつまでたってもオフだしさ。 じゃあ、ぼくがってね? 」

「 ・・・え? 」

「 じゃ〜ん! 島村シェフのクリスマス・特製ディナ−をどうぞ、マドモアゼル? 」

「 ・・・・え・・・ ディナ−って、ジョ−、あなたが?? 」

目をまん丸にしているフランソワ−ズの前に、ジョ−は意気揚々と湯気の立つ深皿を持って来た。

「 わぁ・・・いい匂い。 あら、クリ−ム・シチュウね? 美味しそう・・・! 」

「 えへへ・・・本当はあんまり威張れないんだ。 キッチンにあった<クリ−ム・シチュウの素>を

 使っただけなんだもの。 あ、でも結構美味しいよ? ・・・どう? 」

「 ・・・ ジョ−・・・ ありがとう・・・ 」

「 さあ、どうぞ? 」

「 ・・・・いただきます。 」

ジョ−の笑顔に誘われて、フランソワ−ズもにこにことスプ−ンを手に取った。

 

島村シェフのクリスマス・ディナ−。

そ ・ れ ・ は ・・・・♪

ロ−ストチキンにするはずの 大人自慢のチキンから腿肉を失敬してクリ−ムシチュウ。

粉吹きイモにしようと思ってたじゃが芋とグラッセ用の人参、ス−プに入れるはずの玉葱とセロリ。

み〜んなごろごろ入った ジョ−のクリ−ム・シチュウ。

ほかほか湯気がたつ あったかい・あったかいクリ−ム・シチュウ。

 

・・・ 美味しい。 

 

それは本当にインスタントだったけれど フランソワ−ズは今までで最高のクリ−ムシチュウだと思った。

あっという間にお鍋は底を見せ始め、二人はやっぱりにこにこと見詰めあう。

 

「 ごめんなさい・・・ケ−キがないの。 」

スプ−ンを置いたフランソワ−ズが しょんぼり肩を落として呟いた。

「 うふふふ・・・実はね〜 ぼくがつくってみましたッ 」

「  え??? 」

びっくりのフランの前にジョ−はたいそう勿体ぶってキッチンから大皿を運んできた。

「 これも、<ケ−キ>だよね? 丸ごとのケ−キ♪ 」

「 ・・・・ まあ 」

 

それは。 大皿からはみ出さんばかりの・・・ 大きな・大きな ホットケ−キ!

 

「 えへへ・・・これも、ホットケ−キ・ミックスなんだけど・・・ 」

「 ううん、ううん・・・・ 最高のケ−キよ、ジョ−。 」

「 あ、やだな、泣かないでよ? 」

「 ごめんなさい・・・ あの、ジョーの好きなイチゴ、買うヒマがなくて・・・ 」

「 いいよ、いいよ。 あれ? この林檎は? 」

「 ああ、それ<日溜まり>の奥さんから頂いたの。 あ、じゃあ、これ、剥くわね。 」

「 うん、すごく美味しそう! あ、2カケ、皮を剥かないでくれる? 」

「 ・・・いいけど? 」

 

フランソワ−ズから八等分した林檎をふたつもらうと、ジョ−は案外器用に果物ナイフを使い始めた。

「 なあに? 」

「 ・・・・っと。 ほら! うさぎ・林檎のできあがり〜 」

「 まあ・・・ 上手ねえ・・・ 」

お皿の上に 赤い耳のちいさなうさぎが二匹仲良く鼻面を付きあわせている。

「 ね? なんかお喋りしてるみたいだよね? 」

「 ええ・・・ 可愛いわね! 」

キスしてるみたね、と言いかけていたフランソワ−ズはジョ−の満面の笑顔にそっと溜息をひとつ。

うさぎを眺めていた顔を 上げてみれば。

どきっとするほど近くに ジョ−の フランソワ−ズの 顔があった。

 

「 ・・・ 覚えてる? きみと初めて一緒に迎えたクリスマス。」

「 ええ・・・ 」

「 花火が・・・綺麗だったね。 」

「 ええ・・・ 」

あの・・・っとジョ−はしばらくもじもじと俯いていたが やがてもっと顔を近づけてきた。

「 あの、さ。 来年も。 その次も。 そのまた次の年も・・・。 ず〜っとこんなクリスマスがいいな。

 き・・・ きみと 一緒の、さ・・・。 」

「 ・・・・ ジョ− ・・・・ わたしも・・・ 」

 

窓の外は ふわふわ・ぼたん雪。

お皿の上では うさぎのカップルがもじもじしてる二人よりひと足お先に 可愛いキス。

 

「 メリ− クリスマス ・・・ フランソワ−ズ 」

「 メリ− クリスマス ・・・ ジョ− 」

 

 

                        I  wish you a Merry Christmas !!

 

 

*****  Fin.  *****

Last updated: 12,24,2004.                       index

 

 

 ****  言い訳  by  ばちるど  ****

はい、なんてことない甘味小話です〜〜。 うさぎサンはふつう<一羽・二羽>って

数えますよね、でも林檎のうさこだから・・・二匹でいっかな〜と・・・(^_^;)

・・・・とにかく・・・メリ−・クリスマス!!