『 ケーキ ケーキ ケーキ ― (2) ― 』
ことことこと ・・・ しゅん しゅん しゅん 〜〜〜
キッチンの中にはいい香の湯気がいっぱいだ。
「 ふ〜〜〜ん ・・・ ええ按配やな〜〜 こっちはどやろか ・・・
ん〜〜〜 お出汁を少々 かいな ・・・ 」
ゼロゼロ・ナンバーサイボーグの専属?料理人は キッチンの中を悠然と歩き回る。
オーブンの中はちょいと覗く。 まだ火は入っていない。
「 ほっほ〜〜 あとはロースト・チキン でっか ・・・
仕込みは ・・・ ああ フランソワーズはん、きっちりツメモノもやってはるな
上手に焼けるとええなあ 〜〜 」
ふうう ・・・ 彼は満足のため息をつき ― リビングに首をめぐらす。
「 もう〜〜 いったいいつまで揉めとるつもりやねん・・・! 」
はあ〜〜〜。 今度は 呆れた重い溜息を洩らした。
− そう。 リビングでは もう喧々囂々〜〜〜 つまりは大騒ぎが
ずっと続いているのだ。
いつもは 断固とした仲裁役として君臨する、この邸の女主人も参戦しているので
どうやら喧騒の終結は まったくみえない。
いや それどころか騒ぎはますますヒート・アップしてゆく・・・
「 はあ ・・・ ギルモア先生〜〜 はよお帰りにならはらんやろか・・・
ワテにはあの中に飛び込む勇気はあらしまへん ・・・ 」
ガタン。 キッチンのドアが開いた。
「 ? ああ ・・・ ジェロニモはん。 どないしてん ・・? 」
大人は リビングの方向に指を向けた。
「 ・・・・・ 」
寡黙な巨人は 口を噤んだまま首を横に振った。
「 ・・・ さよか ・・・ 困ったもんやなあ ・・・ 」
「 食い物が絡むと ― ヒトは譲らない。 故郷のモノならなおさらだ。 」
「 そやなあ ・・・ 」
大人も首を振り振り 熱いお茶を淹れた。
「 ごくろうはん。 オイシイのん、淹れたで。のみなはれや 」
「 ・・・ むう 」
ジェロニモ Jr.は そっとカップを受け取った。
「 で? 相変わらず喧々囂々なんか?
」
「 むう。 フランソワーズまでもが自分の主張をとりさげない。 」
「 あいや〜〜 そやったらもう ・・・ 絶望やな 」
「 うむ。 合意点を探るどころか皆 自分の意見の正当性を主張してやまない。 」
「 ・・・さよか ・・・ あ ジョーはんはどないしてるん?
さっき買い物をぎょ〜さん仰せつかっとったやないか 」
「 うむ 全員がそれぞれ注文したから 大荷物担いで買い物から帰った。
さすがに彼でも大変だったらしい。 」
「 さよか ・・・ しんどかったやろなあ ・・・
ちょいと呼んできてくれへんか。 美味しい豚まんでも用意しまひょ 」
大人はさっそく粉をとりだし 計り始めた。
「 ちょっと待て。 彼を救いだせるか オレには自信がない。 」
「 ― でけへんか? 」
「 ・・ かなり難しい。 無理かもしれぬ 」
日頃は決して諦めない寡黙な仲間の弱音を 初めて聞いた。
「 あの論戦を破るのは 至難の業だ。 」
「 ・・・ そりゃ ・・・ 難儀やねえ ・・・ 」
ふう〜〜〜〜 はあ〜〜〜
二人は湯呑み茶碗を手に ふか〜〜〜くため息を吐いた・・
「 ジョー。 お疲れさん。 その材料は全て俺が引き取る。 」
「 え ・・」
黒革手袋が < 材料 > を − レーズンだのオレンジ・ピールだの
ミックス・ナッツだの ケンネ脂だの ・・・ の袋を押さえた。
「 お〜〜っと お待ちめされよ。 これは吾輩が注文したものだぞ?
ミンスミート・ソースを作るためだからな。 」
「 と! オレンジ・ピールはオレの注文だぜ??
ん〜〜〜〜? あり? ジョー、 カラー・スプレーがねえぞ?
あれよ〜〜 見た目もアレだしけっこうでっは〜〜 でよ〜 色つけると
またい〜んだぜぇ〜〜
あり?? なあ オレ様用に ホイップ・くりーム ねえぞ? 」
独英戦争の脇から 赤毛ののっぽが口を挟む。
「 あっら〜〜〜 ジョーに買い物を頼んだのは わたしよ?
あら? ジョー チョコスプレーとチョコクリームはどこ?
あら このホイップクリーム いいわね〜〜〜 使ってみようかしら 」
「 おいおいおい〜〜〜 ソレ オレさまが使うんだぜ? 」
「 あ〜ら ジェット。 ただのクリーム・デコレーション・ケーキなのでしょう?
どこに使うのよ 」
「 ふん! オレ様のセンスをしらね〜な? 」
「 ええ 全然。 わたし 青やらピンクのクリームをつかったケーキなんて
見たくもありませからね〜〜 」
「 お〜う 結構だぜ。 ともかく! これはオレさまが使うぞ 」
「 い〜〜え わたし ですっ 」
「 オレ様だっ 」
すぐあとに 仏米戦闘が始まろうとしていた。
オレが先! だの わたしのです だの 吾輩が 俺が わたしが 僕が
自己主張戦線は 膠着状態だ。
「 よいかな 諸君。 クリスマスには クリスマス・プディング に
決まっとるだろうが。 」
グレートは断固として言い切った。
「 え プリン? あ〜〜 ぼく ぷっちん・ぷりん 大好き〜〜 」
ジョーが嬉しそうにグレートの手元に視線を向ける。
「 いや ちがう ちがう。 ぷりん じゃなくて プディング。
全部 混ぜ合わせて − 蒸し上げる。 」
「 え 熱いプリンなんだ〜〜 」
「 そうであるよ my boy〜〜
当家のクリスマスは 極上のクリスマス・プディング で祝うのさ 」
「 ふ〜〜〜ん ・・・ そうなの? 」
ジョーはなんだか微妙〜〜な顔をしていた。
「 ちょっと ・・・ 覗きこんでもダメよ まだ早いわ! 」
「 いやあ〜〜 あまりにあまりによい香なんでな〜〜 」
「 はいはい わかったから・・・ 頻繁にお鍋の蓋を取るの、やめてちょうだい 」
「 あは 面目ない〜〜 」
「 これでしっかり蒸し上げて ― あとはターキー ・・・ は ちょっと無理かも
チキンなんだけど いいかしら。 」
「 いいさ いいさ。 構わないよ。 ローザが作ってくれるのなら
なんだってご馳走さ。 」
「 うふふ・・・ クリスマス・デイナー は乞・ご期待〜〜〜 」
「 ありがとう ローザ 」
「 ― ありがとう グレート。 」
「 うん? なにが かい。 」
「 いっぱい たくさん ・・・ ありがとう☆ 一緒にいてくれて ― 今まで 」
「 今までも そして これからもずっと だぜ。 僕のロージー 」
「 ・・・ グレート ・・・! 」
「 ははは 言っとくがな、今のは演技じゃないぜ?
演技ならもっとキザで甘〜い言葉で蕩かしているさ。 」
「 ふふ ・・・ 知っていてよ。 本当の貴方は − 不器用で照れ屋さん。
でもそれを知っているのは私だけ よ。 」
「 ・・・ お見通しだな ロージー 」
「 うふふ あ ん ・・・ 」
プディングがぼんぼこ踊っている鍋の前で 二人は熱く唇を重ねた。
「 ・・・ 誓ってあれは 本心だった。 演技なんかじゃない 」
グレートは 当て所もなく視線を宙に彷徨わせている。
「 はあ??? なんだ〜〜??? 演技?? 」
「 あ いや。 なんでもない、こっちのことさ。 気にしないでくれたまえ。
」
「 ふ〜ん? 」
ジェットはふいっと行ってしまった。
他人のことにはあまり深く詮索しないのが仲間たちのいいところ、かもしれない。
「 ふ・・・ん。 吾輩としたことが不覚 不覚 ・・・
ああ ソフィ ・・・ きみは微笑でクリスマス・プディングを用意して
いておくれ。 」
ことん。 老優はキッチンテーブルの上に転がる卵をちょん、と突いた。
「 ただいま ・・・ うん? いい匂いだなあ〜 」
「 あ お帰りなさい アルベルト〜〜 」
ドアを開ければ 愛しい存在が飛んでくる。
「 ただいま。 ふん ふん ・・・ 甘い匂いとバター・・・
え よく手に入ったなあ どんな魔法を使ったのかい ヒルダ 」
キスを交わせば 彼女の唇からもほんのりよい香がただよう。
「 うふふ・・ ひ み つ。
それよりもね〜〜 さあ これはなんの香でしょう〜か
」
「 ・・・ アップルパイ? いや まさかな〜〜 この時期に
」
「 残念〜〜 でも そんなに遠く外れじゃないわ 」
「 ?? しかしこのバターの香は ・・・ わからんなあ 」
「 では ヒントね。 今はなんの時期ですか 」
「 え? 」
彼は居間をきょろきょろと見回す。
昨夜 と 朝出かける前と その質素だが温かい部屋は少しも変わっていない・・・
いや。
「 ! みつけた。 ・・・ わかったよ 」
「 うふふ 多分正解よ? 」
「 おう 自信をもって答えるぞ − クリスマス・シュトレーン だ。 」
「 当たり♪ 今年もなんとか準備できました。 」
「 う〜〜〜ん すごいな よく材料がそろったなあ 」
「 あのね ・・・ ずっと秋の初めから準備していたの。
ナッツ類は森で拾ったのも入っているし オレンジ・ピールは夏から皮を刻んで
手作りしたの 」
「 ・・・ う〜〜ん きみの手腕に脱帽するよ。
飾りつけも いいな。 アレをみるとああクリスマスが近づいてきたって感じるよ 」
「 ね? 子供の頃って 待降節にはいると一週間ごとにキャンドルを灯したわ 」
「 ああ ああ 俺も覚えているよ。 ああ そうだ!
俺もクリスマスをもって帰ってきたよ。 」
「 まあ なあに? 」
アルベルトは戸口の前に戻ると コートの中に入れてきた包みをもってきた。
つん ・・・と 冬の香がした。
「 わかった! この香でわかったわ。 」
「 お そうか? 」
「 はい。 ツリーでしょ、 樅の木 ね? 」
「 正解だ。 枝だけだから・・・リースにしてもいいな 」
「 見せて 見せて? あらあ〜〜〜 たくさんね 嬉しいわあ〜
ああ ・・・ クリスマスの香がする・・・ 」
彼女は 目を閉じ、モミの木の清冽な香りを楽しんでいる。
「 クリスマスの香り? ああ そうだなあ そんな感じだ ・・・
樅の木の匂いはまさにクリスマスだな 」
「 でしょ? あら ・・・ うふふ♪ 」
彼女は突然 彼に縋り付いた。
「 うわ?? な なんだ?? 」
「 アルベルト、貴方のコートから クリスマスの香 がするのよ 」
「 ああ ・・・ コートの中に入れてきたからな。
さあ 飾りつけを作ろう。 」
「 ええ そうね。 ふふふ ・・・ シュトレーンは明日からの
お楽しみよ 」
「 う〜〜む あ〜 ちょっとだけ・・・ 端っこを味見 〜 」
「 だ〜めで〜す。 明日から ね♪
手を洗ってきて・・・ ツリーとリース、作りましょう 」
「 う〜〜〜 仕方ない な。 お楽しみは明日からだ。 」
「 そうね。 ふ〜〜ん ・・・ なんか部屋中がクリスマスね〜〜 」
「 新聞紙をもってくるわ。 その上で作業しましょ。 」
「 お いいな。 」
「 ウチのクリスマス ね♪ アルベルト 」
「 ヒルダ ・・・ 」
甘くキスを交わしてから 広げた樅の木の枝で二人はミニチュアのツリーとリースを作り始めた。
「 ・・・ あの時のシュトレーン ・・・ 味は覚えていない な。
なにせ限られた材料しかなかったからなあ ・・・ でもきっと
とてつもなく美味かったんだろう。 」
「 はあん?? なにがウマいって オッサン 」
なぜか耳が敏い? 赤毛がひょい、と振り向いた。
「 ! なんでもない。 ともかくクリスマスにはシュトレーン。 決まりだ 」
断固として言い切った。
「 レーン?? んなもの、食えるかよ〜〜〜 」
「 口を噤め。 」
「 へ! 」
肩を竦め 赤毛のアメリカンは行ってしまった。
「 ― 味は覚えていなくても あの年の君の笑顔はちゃんと覚えているぞ
・・・ ヒルダ ・・・・ 」
ころん。 割った胡桃の殻が 机の上で揺れていた。
「 ケーキはよ〜〜 でっかくてぇ〜 こう〜〜 ごってり、はっで〜なクリームが
乗ってなくちゃな〜〜〜 」
ジェットは大きな手で 大きく四角を描いてみせた。
「 ふうん? ジェットのトコではそんなに大きなケーキを売ってたのか〜 」
「 売ってるんじゃね〜よ〜 クリスマス・ケーキはやっぱウチで
作んなきゃな〜〜 」
「 あ そうなんだ? ジェットもウチで作ったんだ? 」
「 あ〜〜 いや そうじゃなくて − オレ等 悪ガキもよ〜 クリスマス近くなると
熱心に教会に通ったもんさ 」
「 ふうん?? 」
「 そこの神父さんがよ〜 オンボロ・オーブンでさ クリスマスにはでっか〜〜いケーキ
作ってくれたんだ。 オレ等はそれ眼当てだったのさ。 」
「 へえ〜〜〜 凄いなあ〜 神父さまがねえ 」
「 ガラにもなく掃除手伝ったりしてよ ・・・ 皆でわいわい喰ったなあ ・・・
そんでもって 深夜ミサにはちゃんと出席したぜ 」
「 あはは 〜 それはいいね〜 皆と一緒は美味しいもんね 」
「 ジョー お前だってそんなモンだろ? 教会育ちって言ってたじゃんか 」
「 え うん。 ぼく、教会付属の孤児施設で育ったんだ。 」
「 あ ・・・ そうなんだ? 悪いこと 聞いちまったな〜 ごめん。 」
赤毛は 素直に謝った。
「 え〜〜 別にいいよ〜う ぼく 教会の前に捨てられてたんだって 」
「 ジョー。 もうそれ以上言わなくていいって 」
「 事実だもん、いいんだってば。 今は皆が ぼくの家族さ 」
「 そっか。 そ〜だもんな〜 うん・・・
じゃ やっぱ クリスマス・ケーキは! でっかく 甘く クリームたっぷり さ! 」
だだ甘くて でっかいケーキ。 少年時代の数少ない楽しい記憶なのだ。
ジェットも どうしても譲れない。
かたん。 食紅のビンが煽りを食って揺れていた。
「 もう〜〜 皆? クリスマスには ブッシュ・ド・ノエル に決まっているのよ?」
フランソワ―ズが きっぱりと言い切った。
「 ずっとそうして来たんですもの。 皆で美味しくチョコレートのケーキを
頂きましょ 」
「 チョコ? う〜〜 それもいいけどな〜〜 」
「 それが いいのよ。 クリスマスはチョコレートの香 よね〜 」
「 へえ・・・ 」
「 ふふ ・・・ もうね ママンの手元が気になって 気になって・・・ 」
彼女は柔らかい笑みを浮かべている。
「 ねえ ねえ〜〜 ママン アタシがチョコを〜〜 」
「 はい はい ファン。 それじゃそのチョコレートの包紙を剥いてちょうだいな
あ・・・ つまみ食いはだめですよ? 」
「 はあい。 えっと これとこれ 〜〜 うわ〜〜〜 いいにおい〜〜
ママン これみ〜んなむくの ? 」
「 ええ そうよ。 ・・・ ほうら・・・ このスポンジ・ケーキで
ロールケーキを作って 」
「 わあ〜〜 いいにおい〜〜 キッシュを焼いたときみたい〜〜 」
「 ふふふ バターの香かしら? ― よい しょ・・っと 」
母はオーブンから取りだした天板から四角形のスポンジ・ケーキをまな板の上にあけた。
「 きゃ ・・・ ケーキ だあ〜〜 」
「 ふう・・・ああ いい感じに焼けたわね。 じゃ これを巻いてっと
おっと ・・・ これを忘れちゃだめね 」
うすくアプリコット・ジャムを塗ると 母はくるりん〜と生地を巻いた。
「 あ 〜〜 すご〜い !! ロール・けーき になっちゃったあ〜 」
「 えっと 次はこっちの端を少し落として ・・・ これでいいわね〜 」
「 ・・・ すご ・・・ ママンってば魔法使いだわ 」
「 ふふふ ・・・ それじゃ っと。 ファン、ショコラをくださいな 」
「 はい。 ちゃんとわりました。 」
「 メルシ。 それじゃ ・・・っと クレーム・ド・ショコラ を作るわね 」
「 ママン ・・ お手伝いしたい! 」
「 それじゃ ボウルを押さえていてちょうだいな。 」
「 は〜〜い 」
キッチンの中には ショコラの香がふわ〜〜んと漂いだした。
「 お〜〜 いい匂いだあ〜〜〜 」
「 あ お兄ちゃん おかえり〜〜 」
「 おう。 ブッシュ・ド・ノエル かあ〜〜 」
「 そうよ。 ジャン、手を洗ってきてからツリーの天辺の星、直してちょうだい。
今朝 掃除したときに曲がってしまったの。 」
「 うん、ママン。 あ〜〜 ファン! 舐めるなあ〜〜 」
「 え? あらら ・・・ ダメよ ファン。 」
「 えへへへ ・・・ 」
当家の小さな娘は 口の周りにチョコ・クリームを < 飾って > いた。
・・・ そうよ・・・ ママンの ブッシュ・ド・ノエル よりも
美味しいケーキなんて 食べたことないもの ・・・
こし。 彼女は滲んできた涙をこっそりエプロンで拭った。
「 だから。 ノエルには ブッシュ・ド・ノエルなの。 」
「 シュトレーンだ。 本当は何週間もかけて味わうものなんだが。 」
「 ふふん。 女王陛下も召しあがる クリスマス・プディングに決まっておるよ。 」
「 だ〜〜〜〜 でっかいくりーむ満杯のケーキ決まってるんだっ! 」
彼らの主張はますますエスカレートしてゆく。
ジョーは ず〜っと部屋の隅っこで聞いていたが おずおずと口を挟んだ。
「 あ あの ・・・ さ。 それって 日本で買える? 」
「 買う??? クリスマス・ケーキとは家庭で作ってこそのものだ! 」
「 うん ・・・それはよ〜くわかったけど。 でも そのぅ〜〜
日本でも食べられるのかなあ〜って思ってさ。 」
熱く膨張?していた空気が ちょっとばかり収まった。
「 そうだな。 シュトレーンは 神戸の F が絶品だ。 」
「 そうねえ〜〜 ブッシュ・ド・ノエルは 名古屋でしか買えない逸品があるの。
ママンのケーキの次に美味しいかも 」
「 クリスマス・プディングはなあ ケンネ ( 牛脂 )がモノをいうのだ。
北海道のとある牧場のケンネを使ったものが最高だな。 札幌で食べたな 」
「 日本で? ・・・ あ〜〜 ベースの売店なんかで売ってるぜえ
横須賀とかのよ〜〜 売店にでっけ〜〜の、あるぜ。 」
「 そっか。 ありがとう 皆。 」
「 だけど。 やっぱりケーキはウチで作らないとな。 」
「 左様 左様 」
「 そうよねえ 」
「 焼ける匂いがいいんだぜ〜〜 」
「 だから! 」 「 当然だ 」 「 決まっておるよ 」 「 くり〜〜むだって!」
ハナシは再びヒート・アップし始めた。 まとまるどころか ・・・ 各自ともますます強固に主張する。
「「「「 クリスマスには これじゃなくちゃ!!!! 」」」」
リビングが だんだんアヤシイ雲行きになってきた。
「 わからんヤツだな〜〜 」
「 それはお前さんの方だぞ 」
「 何回言ったらわかるの? 」
「 だ〜〜〜 聞けよぉ〜〜 」
だん。 ジョーが突然、立ち上がった。
「 もう いいよ! クリスマスにいがみあうなんて!
イエズス様が がっかりなさるよ ! 」
「 出た! 教会育ち〜〜〜〜 」
でも 全員がその昔、教会で騒いで叱られた時の気分になり しゅん・・としてしまった。
「 ― ぼくは。 争いたくなんかないんだっ 」
ジョーはそう言うなりリビングを飛び出した。
「 ・・・ あ〜あ ・・・ 泣かしちゃった 」
「 え 泣いてたか アイツ? 」
「 彼のココロの声が聞こえなかったの? 」
「 んなもん、聞こえるかよ〜〜 」
「 ― 怒らせたのは確かだな。 」
「 いいのかい、皆。 天下の 009をがっかりさせて さあ 」
ずっと高見の見物を決め込んでいたピュンマが口を挟んだ。
「 ・・・ でも ・・・ 」
「 しかし だな 」
「 如何ともしがたい 」
「 う〜〜〜〜 」
その頃 − ジョーは博士の書斎にいた。
「 ですから。 対加速用のパッケージをお願いシマス 」
「 おう。 ワシにできないモノはない! 実はな〜 もう作ってあるのじゃ 」
「 わ♪ ありがとうございます〜〜 」
「 ほれ。 これを使えば加速によって中身が焼失することはない。
防護服の素材を利用しての〜〜 」
「 ありがとうございます 博士〜〜〜 ちょっと出かけてきます〜〜 」
シュ。 独特の音と空気を残し ジョーの姿は消えた。
「 ??? どこへ行ったのかの ・・・ 」
そして ― 約一時間後
まだ喧々囂々〜〜の論争中のリビングに 一陣の疾風が吹き込んできて。
バタン ・・・ ! 大きな箱を抱え 赤い服のオトコが倒れていた。
「 「 「「 ジョー −−−−−−−− !!! 」」」」
「 なんだ? この箱 」
「 うん? なにやらよい香がするぞ? 」
「 ・・・ ! ケーキ! 全部ケーキよ 中身!! < 見た > わ! 」
「 開けて見ようぜ〜〜 」
「 ! な ・・・ これ は ・・・! 」
「 おお〜〜〜 クリスマス・プディング! こっちは シュトレーンだぞ?
これは ・・・ おお 生クリームだらけのケーキに ・・・ ブッシュ・ド・ノエル
だ〜〜 」
「 ううう ・・・ どれも有名店のものばかりだぞ 」
「 げ。 ジョーのヤツ これ ・・・ 」
彼らは 顔を見合わせた。
そう ― 009は加速装置フル稼働 で皆の拘りケーキ を全国の有名店から
買い集めてきたのだった。
「 ちょっと! 博士をお呼びして! それが先よ! ジョー〜〜〜 」
「 お おう 」
「 直接メンテ・ルームだ! 博士を連れてこい 」
「 ああ! 」
彼らは あたふた・・・彼をメンテ・ルームに担ぎこんだ。
「 いかに009じゃとて・・・加速装置の連続使用はなあ・・・
それも超長距離を行き来するとは ー 自殺行為だ 」
博士は渋い顔をしている。
「 で ・・・? 」
「 ああ ちょいとメンテ・ルームで謹慎して一週間は使用禁止だ。 」
「 よかったわ ・・・ 」
「 あまりよくないぞ。 」
「 博士、会えます? 」
「 おう 意識はしっかり回復しておるよ。 」
「 ジョー〜〜〜〜 」
フランソワーズは メンテ・ルームに飛んでいった。
「 ね ・・・ 加速中って とても孤独なのでしょう? 」
「 う うん ・・・ でもさ。 今回は加速中の向こうに 皆の笑顔があるんだ〜
って思ってたから 全然孤独なんかじゃなかったさ。 」
ジョーは ベッドの中でほんわ〜〜〜か笑っていた。
その年のクリスマスの日♪ いろいろあましてて ・・・ ジョーの希望のスポンジに白いクリーム、
そして苺 い〜〜〜っぱいの < 日本風なクリスマスけーき > を作ることになった。
「 あは♪ サンタさんの顔も乗ってるのがいいな〜〜〜 」
メンテ・ルームのベッドで ジョーは満面の笑みを浮かべたのでした。
― というワケで
天 ( あめ )には 御栄え ( みさかえ )
地には 平和を
そして
人々には − 愛 を♪
ともあれ − メリー・クリスマス!
********************************* Fin.
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Last updated : 12,20,2016.
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************** ひと言 ***********
コゼロ第三章 を観て ちょいと結末を弄りました☆
とりあえず めり〜・くりすます♪