『 あと一歩 ・・・・ 』
「 はやく、はやく! とにかく防護服に着替えて! 玄関で待ってるから。 」
それだけ言うと バタン、とドアを閉めてフランソワ−ズはぱたぱたと駆けて行ってしまった。
「 ・・・・あ。 う、うん ・・・ 」
とっくに閉まったドアにやっと言葉を返して、ジョ−は急いでクロ−ゼットを開けた。
− え・・・・っとぉ・・・・
ぼうごふく・ぼうごふく・・・・・っと。
あの赤い特殊な服はうんと目立つはずなのに いざ捜すとなるとなぜかどこにも見当たらない。
あ・・・っと。 あ〜違うぅ〜〜〜 コレはジェットのNY土産・・・ (即行お蔵入りなんだ)
う〜〜〜 あ! 見つけた!!
コ−トの奥から引っ張り出して、とにかく大急ぎ・・・あれ? でも、 なんで?
やっかいなロング・ブ−ツを引っ張り上げて・・・ え〜〜と。 なんかあったのかな?
マフラ−・・・・マフラ−は・・・・っと。 ありゃ。
「 ちゃんとね、アイロンを掛けておいて。 」
フランソワ−ズがいっつも煩く言うんだけどさ、コレってやたらと長くて面倒臭いんだ・・・
靴下の引き出しのすみっこから引っ張り出した シワだらけのマフラ−を広げ
ジョ−はしばし溜め息に暮れた。
− う〜ん・・・ ま、いっか。 後ろでひらひらしてるんだ、シワなんかわかりっこないよ・・
えっと、えっと。 ・・・ス−パ−ガンは・・要るのか・・な?
別に敵襲でもないみたいなんだけど・・ ま、一応持ってくか・・・
ばたばたばた・・・・
加速装置つきとは到底思えない賑やかな足音を響かせ
ジョ−はギルモア邸の階段を駆け下りていった。
わんわんわん・・・
ご主人を待ちくたびれて 半分昼寝をしていたクビクロがあわてて付いてゆく。
「 おっそ〜〜〜〜い! たかが着替えにいったい何分かかるの?!
あ〜あ・・・ マフラ− シワシワじゃないのぉ・・・・ 」
「 う・・・・ん。 ね、なに? 用事って。 」
案の定 玄関前でいらいらと彼をまっていたフランソワ−ズ嬢はお冠である。
「 あ、そうなのよ! 急いで! 一緒に来てちょうだい。 」
「 いいよ。 でも何処へ行くの? 遠いとこ? クビクロも一緒でいい? 」
目をまん丸にしたジョ−には 側に控えシッポを振っている愛犬の首をぽんぽんと叩いた。
そんな主従には目もくれず、フランソワ−ズは手にしていたバスケットを大切そうに胸に抱いた。
「 まだ、大丈夫・・・ でも早い方がいいの。 ヒトの匂いがつかないうちに、ね。 」
「 ? 」 「 くう〜ん・・・? 」
「 行くわよ! 」
「 う・・・うん・・・ 」
並んで駆け出して、 でもジョ−には相変わらず判らないコトだらけだった。
ぽつんと岬に建つ、ちょっと古びた洋館 − ギルモア邸。
外見は地味でも その実態は超最新式のハイ・テク住宅。
島村 ジョ−が不思議なめぐり合わせでこの家に住むようになったのは そんなに前のことではない。
いろいろヒトの出入りがある家なのだが 普段は御当主のギルモア老とそのお孫さんとも
みえる銀髪の赤ん坊、
そして 黙って立ってればお人形さんみたいな・綺麗な・オンナノコとの静かな生活である。
街角で拾ってきた仔犬もすっかりこの家になれ番犬、というよりジョ−のこよなき友人となった。
突然襟首をつかまれて 洗濯機に放り込まれたような日々の果てに
行き着いたこの暮らし、一見平穏に見えるそれはそれなりに十分に目の回るモノだった・・・。
それまでのことを振り返る余裕もない 無我夢中の時間を過ごしてきたジョ−にとって今は
もしかしたら 慣れない銃を手にしていたころよりもっと大変な毎日かもしれなかった。
特に ほとんどの仲間達がそれぞれの地へ戻り、この家で送る<普通の>日々、
だけど島村ジョ−にとって とても<普通>とは思えない。
綺麗な・外人のオンナノコと一つ屋根の下で暮らす。
悩み多き年頃の青少年には それだけで十分に刺激的は日々・・・のはずである。
初めは嬉しくてどきどきしていたのだが・・・。
綺麗な髪だなあ・・・・。 お日様の光を集めて縒ったみたいだ!
背中でぴんぴん跳ねてる巻き毛が なんか天使の羽にみえるよ。
わ・・・・あ・・・・・。 凄いなあ、蒼い目ってこんなに近くでみるのは初めてだよ・・・
真冬の朝の空、う〜〜ん・・・ふか〜い海のなか、かなあ。
回りの景色もあおく染まって見えるのかな?
女の子の腕って。 こんなに白くて細いんだ・・・・。 指なんか、大理石の彫刻みたい。
ひらひら動くと鳥の羽みたいだし、じっとしてると咲きかけた百合の蕾だ・・・
そんな感嘆・賞賛の声を ジョ−は幾度こころの中で唱えたことだろう。
大事にしなくちゃ 壊れそうだよ・・・・。
こんなに綺麗なコに 戦いなんて不似合いだよな、うん。
僕が。 僕が護るから、きっと。
ひとりできおい立って そんな自分にひそかに赤面したりして。
島村 ジョ−の毎日はなかなか忙しく・かつ悩ましい?ものでもある。
その上。
このオンナノコは 綺麗なだけのお人形さんじゃなかった!
「 あ、洗濯もの、重いだろ。僕が持ってゆくよ。 」
「 あら、このくらい平気よ。 それよりジョ−、 あなたの洗濯物もちゃんと出してね!
汚れ物をお部屋に溜めておかないで。 」
「 ・・・・・ う、うん。 」
「 ジョ−? 手が空いてるならちょっとお願い。 」
「 うん、いいよ。 なに? 」
「 食料の買出しにゆくから。 荷物もちを頼むわ。 」
「 リストを書いてくれたら 僕が行ってくるよ? 」
「 だ〜め。 あなたっていつも余分なものを沢山買っちゃうでしょう?
実演販売とかに乗せられてはダメよ。 新発売っていうとすぐに買ってくるし。 」
「 ・・・・ごめん・・・ 」
「 それにね、ビ−ルもほどほどにしてちょうだい。 わたしたちは一応未成年なのよ。 」
「 ・・・う、うん・・・・ 」
「 よい・・・っしょ。 ああ、もう埃だらけのうえに・・・ もう・・! 」
「 あ・・・! ぼ、僕がやるよ・・・ このソファはすごく重たいんだ・・・ 」
「 え〜え、そうね。 リビングのソファの下に雑誌を隠さないで。 男の子ってこういうのが好きなの?
これは・・・・誰の? ジョ−が買ってきたわけ? 」
「 ちが・・・ う、 うん・・・・・ 」
てきぱき、くるくると動き回って 広いギルモア邸をいつもきちんと整えている・・オンナノコ。
ジョ−が手を出す前に なんでもがすでに綺麗になっている。
・・・どうしらいいの? わたしには出来そうもないから・・お願いね?
まあ、すごいわ、なんでそんなに上手にできるの? さすがねえ・・・
そんな嬉しい賛辞と 自分をみつめてくれる潤んだ瞳をひそかに想像していたジョ−の
あま〜い期待は ことごとく裏切られ潰れていった。
いいけど。 頼りになって・・・。 そうだよなあ・・・ 戦闘中でも飛び出してゆくきみを
一生懸命追いかけることの方が 多かったもんなあ。
ふう・・・。
ジョ−は こっそり溜め息をついてみたりする。
ねえ、クビクロ。 僕だって、たまには頼られてみたいんだけど、なあ?
う、うわん?
ちぇ〜 お前までそんな微妙な返事をするなよぉ・・・・
「 ほら、ここよ! 」
息を切らせて 彼女が見上げているのは・・・ 大きな柿の樹。
広く四方に張った枝から いまははらはらと色ついた葉を散らばせている。
黒い梢のところどころには 鮮やかな橙色の実が残っている。
「 ・・・ うん? ここって・・・? あの・・アレをもぐの? 」
う、うわん・・?
目の前に揺れる亜麻色の髪に ぶつかりそうになりながらジョ−も彼女が指差す
梢を見上げた。
「 ほら。 見えるでしょ、あそこに巣があるの。 」
「 うん・・・ なんの巣かなあ・・・ ヒヨドリ? ムクドリ? ツバメじゃあないし・・・ 」
「 さ! ジョ−。 そこにしゃがんで! わたしを肩車してちょうだい。 」
「 ・・・・か、かたぐるまぁ〜〜?! 」
「 そうよ! 早く早く〜〜〜。 いい? のっかるわよ! 」
「 う・・・・う、うん・・・・ 」
鳥の巣? だから どうするのかな・・・?
ナニがなんだかわからず、彼女に背をむけてしゃがまされ・・・
− ・・・? う、 うわッ ・・・!!!
突然 顔の両脇に赤い布に包まれた温かいモノが押し付けられた!
なんだ、なんだなんなんだ〜〜〜
「 オッケ−・・・ 立ち上がっていいわ。 あ、ゆっくりお願いね。 」
「 う・・・・う、うん・・・。 」
「 う〜ん・・・ やっぱり全然届かないわね・・。 ジョ−? ちょっと・・・ごめん、
あなたの肩に足をかけるから、そしたらあなた、支えてくれる? 」
「 え?! ・・・・わわわわ・・・・だ、大丈夫〜〜〜?」
「 ちゃんと立っててよ! よ〜し、さあ脚を押さえててね、しっかりよ。 」
「 う・・・・う、うん・・・。 」
さすがのクビクロもびっくりしたのだろう、ジョ−のすぐ側で熱心に成り行きを見詰めている。
くう・・・ん???
− おまえは 暢気でいいなあ・・・ おっ・・・とととと・・・
「 ジョ−ォ? ゆっくりよ、ゆっくりもうちょっと樹に近づいて? あとすこうし・・・ 」
「 わわわわ・・・・ ねえ?フランソワ−ズ〜〜 柿の実なら、僕が登って取るからさあ・・・
あ・・・ととととと ・・・・・ 」
「 え〜? なに? さあ、枝を掴んだから、あと少しよ! ね?もうすぐお家へ帰れるからね。 」
「 お家? あと少しって・・・ わ・・・ととと! 」
「 しっかり立っててってば! この子、巣から落っこちて下の草地で鳴いてたの。
あのままだったらカラスにやられちゃうし・・・ なるべく早くお家に返してあげないとね。 」
「 あ、そうなんだ〜 ・・・・僕はさ、てっきりきみが柿の実を取りたいのかおもって・・・ 」
「 え〜? 聞こえな〜い! あとちょっと、あと一歩・・・ 」
「 僕に言ってくれたら ジャンプして・・・わ、おっととととと・・・ 」
「 わ! ちょっとお〜 ちゃんと立っててっていったでしょう? ジャンプなんてダメよ、
親鳥を脅かしてしまうじゃない。 う〜ん・・・よお・・いしょ・・・っ! 」
「 じゃあ、ジェットに頼んで・・・って、ここにはいないもんなア・・・・ 」
「 できたぁ! ・・・あ、わ、わ〜〜きゃあ〜〜〜 」
「 わ、わあわわわわわわ・・・・ 003! 脚を離すから・・・飛び降りて! 」
「 え? わ! 急に離さないでよお〜〜 きゃあああ・・・ 」
− ふわ・・・・・
黄色いマフラ−があでやかに宙に舞った。
か、加速・・・・ あ・・・
− ぽす・・・・っん!
専用の呪文を唱える前に 目の前に降ってきた華奢な身体を抱きとめて。
島村ジョ−は そのまま見事にしりもちをついた。
「 ・・・あ・・あの・・・ 大丈夫? 」
「 ・・・え、ええ・・・ ああ・・・ びっくりした・・・ 」
「 よかった〜・・・ はあ・・・ 」
こつ〜〜〜〜ん! ・・・・いてっ!
ちょうど食べごろの橙い実がひとつ 栗色のアタマに見事に命中した。
「 ・・やだ、大丈夫〜〜? 」
「 ・・・う、うん・・・ ああ・・・ びっくりした・・・ 」
「 はい、コレ、取りたかったんでしょう? 」
くすくす笑ってフランソワ−ズは落ちてきた柿の実をジョ−に渡した。
「 あ・・・・う、うん・・・ 」
「 おお・・・・ 君たち、相変わらず仲がよいのう。 」
突然 脇の茂みから 白髭をたくわえた老人がひょっこりと顔を覗かせた。
「 あ、コズミ博士〜。 こんにちわ! 」
「 こんにちは・・・ 」
「 ほい、こんにちは。 おや、二人して柿盗人かい。 いや〜結構、結構。
若いもんは羨ましい・・・ 柿の実もアテられて落っこちてくるだろうよ。 」
「 あ、そ、そんな。 僕たちは 別に・・・ そんなんじゃ・・ 」
「 (ジョ−ったら! いい加減で離してよっ ) いえ、その。 小鳥の雛を巣に返して
あげてたんですけど。 ジョ−が 柿の実も欲しかったみたいで。 」
しりもちをついたまま、それでもしっかりと自分を抱えているジョ−の腕から
フランソワ−ズは懸命になって 脱出した。
「 家に御用ですか? ギルモア博士はもうすぐお帰りになると思いますけど・・ 」
「 そうかね。 じゃあ、まあ・・・ 待たせて頂いてよいかな? 」
「 ええ、どうぞ。 あ、お菓子を焼きましたから。 お茶でもご一緒に・・・ 」
「 それは 願ったり。 では マドモアゼル、どうぞ? 」
「 Merci, Monsieur・・・・ 」
老人が慇懃に差し伸べた腕に 優雅に手をあずけ、フランソワ−ズは極上の笑みを浮かべる。
「 おお、そうじゃ・・・ 」
まだ相変わらず 草地にしりもちをついたままの少年に コズミ博士が振り返った。
「 ジョ−君や・・・ その柿は・・・渋柿だぞ? 」
「 へ・・・? 」
「 惜しかったのう・・・ あと少し、あと一歩だったのになあ? 」
きゅ・・・っと 妙なウィンクをして 老人は楽しげに少女と腕を組んで行ってしまった。
「 ・・・・ あと一歩って。 ・・・・ なんなんだよ・・・・・ 」
・・・・くう〜ん・・・・
同じ色の瞳が このニブチンの御主人の顔をのぞきこみペロリと頬をなめた。
****** おしまい ******
Last updated:07,14,2004.
index
****** 後書き by ばちるど ******
wren様の素敵サイト 【 boy in a boot 別解釈 009であそぼ 】 さま方で
嬉し・楽しのキリ番を踏ませて頂きました。 お題をつけてお願いすると〜〜
な、なんとイラストを描いていただけるのです〜〜〜( 狂喜乱舞 〜〜♪ )
ばちるどのお願いしたお題は <ちょっとお姉さんな3嬢に振り回されている9君>
wrenさまのお答えが〜 『 あと一歩 』 (>_<) もうもうたまらなくって駄文を
書いちゃいました(大汗) wrenさま、どうぞ笑ってお見逃しくださいませ〜〜<(_ _)>