『 翼もつひと 』
**** はじめに ****
今回はかなり こてこて・バレエもの ですのでまずはご興味のない方、スル−してくださいませ。
モチ−フは 『 眠りの森の美女』、 以下簡単に解説を載せておきます。
バレエ『眠りの森の美女』 は長大な作品で上演時間も長く出演者もかなり多いです。
各国の各バレエ団により微妙な差異がありますが基本はだいたい皆同じ、ここでは現在日本バレエ協会などで上演される
バ−ジョンで説明します。
粗筋と登場人物はだいたいディズニ−・アニメなどと同じです。
プロロ−グ、一幕〜三幕の構成。 芯は勿論オーロラ姫ですが、妖精達を率いるリラの精が重要な役どころ。
主な踊りはプロロ−グで 妖精のパ・ド・シス、一幕で オ−ロラ姫と４人の王子の ロ−ズ・アダ−ジオ 三幕の結婚式（ 披露宴？ ）での
青い鳥（とフロリナ王女） 王子とシンデレラ 宝石のパ・ド・カトル そして オーロラ姫と王子のＧＰなどがあります。
リラの精はプロロ−グでオ−ロラ姫の誕生祝いに配下の妖精達を引き連れやってきて祝福し、一幕ではカラボス（ 悪い妖精 ）の 呪いを弱め、
二幕ではジョ−君・・・・じゃなかった１００年後の王子を眠るオ−ロラ姫の許に案内し、三幕には結婚式にも登場〜〜とフル出演！
そしてラストは出演者全員がリラの精に御礼をする場面で めでたし・めでたし〜〜幕！ となるのです。
ＤＶＤなどもありますが、舞台は生が一番です〜 皆様、機会がおありでしたら 是非是非〜〜劇場へ脚をお運びくださいませ。
一ベルが入った。
ざわめいていた客席が一瞬静かになり 今度は座席を目指す靴音の方が賑やかになってゆく。
舞台裏では さ・・・っと緊張が走るが、出演者たちは ＜いつもの手順＞ を踏んで
それぞれスタンバイしてゆく。
パタパタパタ ・・・・
行き交う足音の速度がぐっと増しきた。
『 眠りの森の美女 』 の初日、 ざざ・・・・っと押さえた興奮と緊張感が楽屋から舞台袖まで
を被いつくしていった。
プロロ−グの出演者達はすでに舞台の両袖で最後の足慣らしをしている。
カツカツカツ ・・・
ヒ−ルの固い音がして、初老の女性が足早に舞台袖に現れた。
「 それじゃ。 皆さん、お願いしますね。 」
バレエ団の主宰者であり、芸術監督を務める女性が ダンサ−たちに声をかける。
「 はい、マダム。 ケン、よろしく〜。 」
ピンクのチュチュにニットを羽織り、まだレッグ・カヴァ−をつけている女性が
にこやかに答え、側にいた男性に手を差し出した。
彼はまだ 衣裳をつけていない。
「 お。 よろしく〜〜 リエコ。 マダム・・・ お願いします。 」
「 さあて・・・・と。 ああ、フランソワ−ズ！ お願いね。 」
リエコ、と呼ばれた今晩の主役は 隅のマツヤニ箱の側に佇んでいる女性に笑いかけた。
薄暗い舞台袖に 彼女の白い肢体が浮き上がって見える。
もともと白い肌だが 今は蒼ざめてさえいる。
「 ・・・ はい。 りえこサン・・・！ 」
「 あら〜〜 どうしたの、リラックスしてよ？ 大丈夫、あなたなら素敵に踊れるわ。 」
「 ・・・ は、はい ・・・ 」
亜麻色の髪にティアラを頂き、フランソワ−ズは一生懸命微笑もうとしたが
頬が強張り 声もかすれてしまった。
ライラック色のチュチュが 細かく震えている。
「 ほら、笑って？ あなたの微笑みでお客をメルヘンの世界に引き込んでちょうだい。 」
「 は・・・ はい。 」
「 フランソワ−ズさ〜ん、お願いします〜 」
「 よろしくで〜す！ 」
「 お願いしま〜す・・・ 」
ブル−やらうすピンク、そして黄色にグリ−ン ・・・ 色違いのチュチュをつけたダンサ−達が
つぎつぎとフランソワ−ズの周りに集まってきた。
「 ・・・ は、はい。 どうぞよろしくお願いします・・・ 」
「 は〜い ・・・ 」
二ベルがはいり、指揮者が拍手で迎えられている。
さあ ・・・ 音が流れ始めた。
今日の舞台は生オケなので ヴァイオリンの弦が擦れる音もはっきりと聞こえる。
ライトが一瞬消え そして 舞台ライトアップと共に緞帳が静かに上がりだす。
・・・・ さあ。 フランソワ−ズ！ しっかりするのよ ・・・！
きゅっと一瞬口元を引き締め ― そして次の瞬間、彼女は艶やかに微笑んだ。
「 みなさん・・・ よろしくお願いします。 」
・・・６ ・・・ ７ ・・・ ８ ・・・・ 次！
リラの精は 配下の５人の妖精達の先頭に立ちまばゆい光の中に踊り出ていった。
「 ・・・ どうしよう ・・・ 」
さっきから何回同じ言葉を呟いたのか当の本人すらわからなくなっていた。
肩にぎっちり食い込むバッグも 今日は全然重いとも感じない。
パタパタパタ・・・ パタパタ・・・・ パタ。
自然と足取りが緩みそして ・・・ フランソワ−ズは歩道に立ち止まってしまった。
「 ・・・・！ 失礼。 」
「 あ！ ごめんなさい！！ 」
どん！っと後ろから来たビジネスマン風の男の肩が当たり、迷惑気に見つめられてしまった。
お正月気分はあっと言う間に飛び去り、都心に近いこの街には慌しい日常が始まっている。
人々は足早に行き交い、ぼんやり立ち止まっている彼女を追い越してゆく。
・・・ いけない、いけない。 さっさと歩かなくちゃ・・・・
摺り落ちたバッグを抱えなおし、フランソワ−ズは歩き始めた。
もう一回だけ こっそり溜息をついてから・・・
冬の午後、淡い陽射しがうつしだす影法師が 薄く歩道に揺れていた。
「 ・・・ どうしよう ・・・ わたしに出来る・・・？ 」
メトロと電車を乗り継ぎ岬の突端の洋館へ向かうとき、またまた彼女の口から
同じ言葉と溜息が ― 今度ははっきりと ― 零れ落ちた。
ザクザクザク ・・・ ザクザック ・・・ ザ ・・・。
岬への一本道、 今度は誰に遠慮することもなくフランソワ−ズは歩みを止めた。
自分自身の足音が消えると ・・・ 耳に入るのは波の音と時折かすかに聞こえる海鳥の声だけだ。
さ・・・・ っと冷たい海風が白い頬を撫で亜麻色の髪を弄ってゆく。
ああ ・・・ このまま 風に乗って飛んでいってしまいたい・・・
どこまでも青い空はあまりに晴れ上がりすぎ、かえって寒々としてみえる。
いや、実際に吹きぬける風にフランソワ−ズの頬は冷たくなってきていた。
「 お嬢さん。 足に根が生えたンですか〜 」
「 ・・・ え！？ ・・・ あ？ やだ、 ジョ−・・・ 」
不意に後ろから声が飛んできて、びっくり振り返ればセピア色の瞳がにこにこ覗き込んでいる。
「 お出掛け？ めずらしいのね、車じゃないの？ 」
「 うん、ちょっとあの角の雑貨屋さんまで。 博士のお使いさ。 」
ジョ−は手にしていたレジ袋を振ってみせた。
「 ・・・ ああ、そうなの？ メ−ルくれれば帰りに買ってきたのに。 」
「 いいよいいよ、気にするなよ。 でもさ。 ・・・ どうしたの？ 」
「 うん ・・・ あの・・・ ちょっと考えゴト。 」
「 あ、こんなトコで立ち止まってないで〜。 早く帰ろうよ？
あったかいお茶でも飲んでさ。 あ・・・ ぼく、お腹空いたなあ〜〜 」
「 あら！ ・・・ もうこんな時間？！ いっけない、今日はお茶の時間までには帰るつもりだったのに。
あのね、大人特製の肉饅と餡饅があるから、アレを暖めてお茶にしましょ♪ 」
「 やっほ♪♪ さ、帰ろう〜〜 それ、持つよ。 」
ジョ−はひょい、とフランソワ−ズの肩から大きなバッグを取り上げた。
「 あ・・・・ ありがと、ジョ−。 」
「 いえいえ ・・・ 」
するり・・・と空いている方の腕に細い腕が絡められる。
「 ・・・ ハックション ・・・！ ああ・・・なんだか急に冷えてきたわね？ 」
「 あは、こんなトコにぼ〜〜っと突っ立っているかだよ〜〜 さ！ 早くかえろ♪ 」
「 ええ。 」
フランソワ−ズはジョ−にぴたりと寄り添い、二つの足音が軽やかに響いていった。
「 ・・・ふうん？ 凄いじゃないか〜 今度は本公演なんだろ？ 」
ギルモア邸のリビング、ソファに収まってフランソワ−ズは彼女の＜考えゴト＞を
ジョ−に説明した。
次の公演で ＜リラの精＞ の役に抜擢されたこと。
たった一回だけれど、本公演での準主役は初めてでまだまだ自分には荷が重い・・・と悩んでいること。
フランソワ−ズの唇から つぎつぎと不安な声の言葉が零れ出た。
「 ええ。 だから。 ・・・だから、困ってるの。 」
「 なんで。 」
「 だって！ 『 眠りの森の美女 』 で リラの精 ってオーロラ姫と同じくらい
大変な役なのよ。 」
「 ぼくさ、バレエの方はよくわかんないけど。 なんだっけな〜〜 あの話？
え〜っと。 贈り物をする ＜良い妖精＞ だろ？ 」
「 そうよ、その＜良い妖精＞ の トップっていうか・・・リ−ダ−っていうか。
それがリラの精なの。 」
「 ますます凄いな〜〜 やったネ、フランソワ−ズ♪ 」
「 わたしは一回きりなんだけど。 本来ならもっと技術も経験も豊富なダンサ−が
務める役なの。 ほとんど全幕に出るし・・・ 」
「 ふ〜ん ・・・・ でも先生はさ、フランソワ−ズなら出来るからって思ったんだろ？
だったら 頑張りなよ。 」
「 ええ ・・・ 勿論全力を尽くすつもりだけど。 でも ・・・ 出来るかしら・・・わたしに・・・ 」
フランソワ−ズはティ・カップを置くと またまたふか〜い溜息を吐いた。
ジャスミン・ティの馥郁たる香りが ゆらゆらと立ち昇る。
・・・ あ。 こんな風な ・・・ あったかいリラの精が踊れたら・・・いいなあ ・・・
「 うぉ〜〜〜い ・・・・ おお、いい匂いじゃのぉ〜〜 」
ガシガシ白髪頭を掻き回し、ギルモア博士がリビングに現れた。
「 あら〜〜 博士！ やっと来てくださいましたの。
ちょっとお待ちになって。 点心、もう一回暖めてきますね。 」
「 じゃあ、ぼくは熱々のお茶を淹れるよ。 博士〜 お茶は何がいいですか。 」
「 う〜〜ん ・・・・ イツツツ・・・ お？ そうじゃな〜 ダ−ジリンのストレ−トを頼む。
こりゃ ・・・ 身体が鈍っておりのう。 どれ ひとつ解すか ・・・ 」
とんとん腰を叩き、形ばかり両腕を振り回しているのは どうも体操をしてるつもりらしい。
「 ・・・ うわ・・・！ 博士〜〜 急に動かすとかえって痛めますヨ。
ちゃんとフランソワ−ズにストレッチを習ったらどうです？ 」
「 ああ？ いや〜〜 なにもワシは頭の上まで脚をあげる必要はないでな。
ふんふん ・・・ おお、いい香りじゃ。 」
博士は即席体操をたちまち終了し ボスン・・・っとソファに身を沈めた。
「 ・・・ああ ・・・ 美味いのう ・・・ 」
「 そうだ、博士。 こんど フランソワ−ズが舞台でいい役を貰ったそうですよ。 」
「 ほう？ 演目は何かな。 」
「 『 眠りの森の美女 』 だそうです。 それで ・・・ え〜っとなんとかの精・・・
う〜んと ・・・ ほら、 ＜良い妖精＞の親玉ですって。 」
「 ・・・？？？ 」
ジョ−の妙な説明に 博士はしばらく首を捻っていたがやがてぽん、と手を打った。
「 ＜リラの精＞じゃろ？ ほ〜〜う・・・！ 凄いじゃないか〜〜 フランソワ-ズ〜〜 」
「 あ！ それだ、そうそう、 ＜リラの精＞ 」
「 やだ、ジョーったら。 親玉、だなんて・・・ まあ、博士、よくお判りになりましたわね。 」
湯気の立つ小さな蒸篭をトレイに乗せ フランソワ−ズが戻ってきた。
「 はい、 張々湖飯店特製の 肉饅と餡饅 です。 」
「 おお 〜〜 これはこれは・・・ 美味そうじゃな。
いや、フランソワ−ズ。 凄いじゃないか。 確かリラの精は ・・・ ほぼ主役のはずじゃろう？ 」
「 え・・・・！ そうなんだ〜〜〜 」
「 おい、ジョ−よ？ お前、有名な作品くらいちゃんと観ておけ。
そんなこっちゃ フランソワ−ズの相手は務まらんぞ。 」
「 ・・・えへ ・・・・ そですね。 」
「 ・・・ ま。 博士ったら・・・ 」
一瞬見つめ合い ― フランソワ−ズは頬を染めジョ−は照れた笑みを浮かべた。
博士はつい最近はっきりと ＜公認の仲＞ になった二人を微笑ましく見守っている。
「 でも ・・・ わたし、不安なんです。 わたしに出来るかしら・・・ 」
「 そりゃ 始めっから自信満々・・・なんてコトにはならんじゃろう？
そのためにこれから練習を重ねてゆくのじゃないかね。 」
「 ええ ・・・ そうなんですけど。 」
「 だ〜ったら。 きみはきみのベストを目指せばいいよ。
心配ばっかしてるより ずっといいんじゃないかな。 」
「 お、ジョ−もなかなかイイコトをいうのう。 お前もちっとはオトナになったか。 」
「 あ、博士ったら。 酷いなあ・・・ 」
「 お前がいつまでもコドモっぽいからじゃ。 それでその公演はいつなのかね？ 」
「 わたしがリラを踊るのは 来月の〇日です。 」
「 よしよし・・・ 楽しみにしているよ。
ああ、確か・・・アルベルトがその辺りに来ると言っていたぞ？ 」
「 まあ。 あ・・・ でも ・・・ メンテナンス、ですか。 」
「 いやいや。 奴さん自身の仕事の都合らしい。 」
「 そうですか・・・ もし ・・・ 観てもらえたら・・・嬉しいわ。 」
「 頑張りなさい。 ワシはお前がお前の夢を追って活き活きとしているのがなによりも嬉しい。 」
「 ・・・ はい。 」
フランソワ−ズはやっと明るい笑みを浮かべた。
ああよかった！ やっと笑ってくれたよ・・・
・・・ でもな・・・ アルベルトが来るって聞いて、あんなに嬉しそうに・・・するかなあ・・・・
ジョ−はちょっぴり複雑な想いを 肉饅と一緒にごくん・・・！ と飲み込んだ。
温暖なこの地方でも一月の夜はさすがに寒さがぐんと厳しくなる。
岬の突端にあるこの邸でも、ヒ−タ−のない廊下は深々と冷え込んでいた。
夕食を終え、一緒に後片付けを済ませしばらくはＴＶを見たりお茶を飲んだり・・・
ジョ−はそんな時間がとても気に入っていた。
博士は早々に寝室に引き上げてしまった。
家族ってさ。 家庭って。 こんなもの、なのかな。
・・・ いつか、さ。 本当の家族 ・・・ 家庭が持てるかな・・・
彼は時々 ちらり、とフランソワ−ズの横顔をながめ・・・ そして一人で赤くなったり
そっと溜息をついたりしている。
「 ジョ−？ どうしたの。 ジョ−も ・・・ なにか困ったことがあるの。 」
「 え！ ・・・・う、ううん！ ななな なんでもないよ。 ・・・ うん、何でも・・・ 」
「 そう？ だって ・・・ 俯いて溜息ついたりして。 」
「 あ・・・ あ〜 ・・・ そのゥ ・・・ そ！晩御飯がすご〜〜く美味しかったな〜〜って。
うん、そうなんだ！ 」
「 まあ、嬉しいわ。 やっとジョ−の気に入る味が出せるようになったかしら。 」
「 え・・・ やっと、なんて。 いつだって・・・ず〜〜っときみが作ってくれる御飯は
超〜〜美味しいよ、大好きさ、本当だよ！ 」
ジョ−はめったやたらと力説し、ぶんぶんと首を縦に振ってみせた。
・・・ くすくすくす ・・・
大きな瞳をさらにまん丸にしていたフランソワ−ズはとうとう笑いだしてしまった。
「 ジョ−って・・・ ジョ−って・・・ ほんとうに ・・・ 」
「 ・・・ あ。 な、なんか ヘンなこと、言ったかなあ・・・ ぼく。 」
「 ごめんなさい、違うのよ。 うふふふ・・・・ 博士にせっかく少しはオトナになったか、って
言ってもらえたのに・・・ 本当に ジョ−って・・・ 」
くすくすくす ・・・
フランソワ−ズのさくら色の唇からは小さな笑い声がこぼれ続けた。
「 う ・・・ そ、そんなに笑うなよ〜〜 」
「 ・・・・ だって ・・・くすくすくす ・・・・ 」
「 もう〜〜。 ようし ・・・ それなら！ 」
「 ・・・ あ？ きゃ・・・！ んんん ・・・・んん ・・・・ 」
ジョ−は並んでいる彼女の肩を抱き自身の唇でくすくす笑いを封じ ・・・ そのままソファに倒れこんだ。
「 ほうら ・・・ これで意地悪な唇は静かになったぞ？ ・・・次はさあ？ 」
すす・・っと彼の唇が白いうなじから首筋を伝いおりる。
はだけたえりもとから 暖かい彼女の香りが沸きあがってくる。
「 ・・・ んん ・・・ こんなトコで ・・・イヤよ・・・ 」
「 う・・・ん・・・ じゃ・・・ きみの部屋？ それともぼくのトコ？ 」
「 ・・・ 今夜は ・・・ ジョ−の部屋。 いい？ 」
「 もちろん♪ 」
ジョ−は腕の中のしなやかな身体を楽々と抱き上げた。
「 廊下は冷えるから。 しっかりぼくにつかまっていろよ。 」
「 ・・・ うん。 」
「 えっと。 電気を消して・・・・っと。 わ・・・やっぱり夜になると冷えるな。 」
「 そう？ ふふふ ・・・ わたしはとっても暖かいわ♪ 」
「 ぼくだってさ。 こうやっている腕の中は もう最高〜〜。
ああ！ はやくもっと全身ぽかぽかになりたいな。 んん ・・・ ちょっとお味見♪ 」
「 きゃ ・・・ ！ もう・・・せっかちなんだから・・・ 」
「 へへへ ・・・ あ、脚、気をつけて。 」
「 ええ。 電気、つけるわね。 」
ジョ−は花嫁を抱えた気分で冷え込む廊下もなんのその、足取りも軽く自室に着き、
彼の恋人を そっとベッドに下ろした。
「 ずっと思ってたけど・・・ 」
「 ・・・ うん、なに。 」
ジョ−はもうそわそわ、うろうろ・・・ベッド・カヴァ−を取り除けたり、枕を叩いたり
閉め忘れていたカ−テンを引いたり、 一人で大わらわである。
「 ジョ−の部屋って ・・・ なんにもないのね。
あ ・・・ そのゥ、余分なモノがってこと。 写真とか絵とか ・・・ 置物とか・・・ 」
「 あは。 ぼくにはクマの縫い包みを飾る趣味はないよ？ 」
「 そういう意味じゃなくて〜〜 ・・・・ きゃ♪ 」
ジョ−は彼女の襟元を開き 下着を押し上げ白い胸の頂点近くに 唇を這わせる。
たちまち蕾は固いアタマを擡げてきた。
「 ・・・ この部屋好きだけど。 あんまり好きになり過ぎないようにしてるんだ ・・・・ 」
「 え・・・・？ ・・・・あ ・・・ や、ソコ・・・ 」
「 ・・・・ （ おしゃべりは やめ ） ・・・ 」
ジョ−は再び長い口付けで彼女の唇を塞いだ。
そして。
ジョ−の殺風景な部屋には 熱い吐息と喘ぎと。 愛の音だけが満ちていった。
・・・ ぼくは。 いつか ・・・ 本当の家族を持ちたい。
そのパ−トナ−は ・・・ きみなんだ・・・！
ジョ−は真っ白に弾ける瞬間、アタマの隅で呟いていた。
夜気がむき出しの肩に 深々と凍みてくる。
・・・ クシュン ・・・ ！
フランソワ−ズはジョ−の腕の中でうとうとしていたが 小さなクシャミが出てしまった。
「 ・・・ 寒い？ こっち、こいよ。 」
「 ん。 ・・・ ありがと ・・・ 」
ジョ−は羽根布団を引き上げ、フランソワ−ズの肩をしっかりと包み込んだ。
「 ほら・・・ これなら暖かいだろ？ 」
「 うん ・・・ 最高だわ・・・・ 」
フランソワ−ズはジョ−のすべすべした胸に顔を埋めたまま うっとりとつぶやいた。
「 ・・・ ぼくも さ。 」
くしゃり ・・・・
彼の手が亜麻色の髪をゆるゆると愛撫する。
「 ・・・ さっきの話さ。 」
「 さっき・・・？ 」
「 ぼくの、この部屋。 気に入ってるんだ・・・ リビングもキッチンも・・・ この邸ぜんぶ。
そうだな・・・ 庭もすぐ下の海岸も。 みんな ・・・ 」
「 ・・・ ええ、わたしも大好きよ。 」
「 だから、これ以上好きにならないように。 好きな写真とか・・・ 飾らない。 」
「 ジョ−・・・？ 」
「 失くしたくないって思わなにようにしてるんだ。 」
「 ・・・・・・・・ 」
「 ・・・ いつ、突然また・・・ ここを離れるかわからないだろ。 」
「 ・・・ あ ・・・・ そう ・・・・ そうね 」
「 あは、大丈夫だよ！ 少なくとも危うい＜火種＞は 今はみつかっていない。
きみは安心して次の舞台をがんばれよ。 」
「 ジョ− ・・・・！ 」
フランソワ−ズは滲んできた涙を そっと指先ではらった。
今度は彼女の桜色の唇が ジョ−の唇を覆い、小さな舌が絡み付いてきた。
「 わ ・・・ んんん ・・・・ 」
二人を包んでいた羽根布団はいつの間にかベッドからすべり落ちていった。
総踊りが終った。
賑やかなマズルカの音がやみ、荘厳なフィナ−レの音と代わった。
・・・・・ ざ ・・・・ ！！
出演者全員が ― オ−ロラ姫も王子も。 フロリナ王女も青い鳥も。 王と王妃も。 ―
全ての人々が 中央高くにポ−ズする亜麻色の髪のリラの精に向かい頭を垂れる。
ジャン ・・・ジャジャジャジャ−−−−−− ン ・・・・！
オケの音が余韻と残す中、 しずかに幕が降り始めた。
わ −−−−−−− ！！
ブラヴォ 〜〜〜 ！！
ほんの一瞬の間を置いてから万雷の拍手が劇場に響き渡った。
「 お疲れ〜〜 ！ 」
「 お疲れ様でした〜〜 明日もお願いしいます〜〜 」
「 お疲れ様！ よかったよ〜〜 」
大荷物を抱えたダンサ−達が 次々と楽屋口から出てゆく。
初日を無事におえ、皆一様にほっとした表情だ。
・・・ともかく！ 今日は早く帰って寝よう・・・！
どの足取りも止まることがない。
「 お先で〜す。 お疲れさま〜〜。 あ、よかったわよ、ありがとう〜〜フランソワ−ズ。 」
「 リエコさん ・・・ お疲れ様でした、どうもありがとうございました。 」
「 綺麗だったわ〜〜 明日は？ 」
「 あ、わたし、明日は ＜オ−ロラの友人＞ です。 」
「 そうなの？ 頑張ってね〜〜 それじゃ・・・ 」
「 お疲れ様でした。 」
フランソワ−ズは今日の主役に深々とアタマをさげ、見送った。
・・・ よかった・・・・！ ヴァリエ−ションも大きなミスはしなかったし。
なんとか・・・ リエコさんの足を引っ張ることなかった・・・と思うわ・・・
ふう・・・・
思いっ切り深呼吸をして、フランソワ−ズは足元のバッグを取り上げた。
楽屋口の外では ジョ−が待ちくたびれているずだ。
さ・・・ 急いで帰って明日に備えなくちゃ。 あら？
「 お疲れ様でした〜〜 」
「 ああ、お疲れ様。 明日もよろしくね。 あそこライト、頼んだわよ。 」
「 はい！ 必ず！ お休みなさいです。 」
「 ありがとうございました〜〜 」
「 はい、お疲れ様。 」
楽屋の方から 最後の一団が引き上げてきた。
真ん中をゆく初老の女性に 皆が口々に挨拶をしてゆく。
「 ・・・ マダム。 ありがとうございました。 」
「 フランソワ−ズ。 お疲れ様。 ・・・ ああ、ちょっとだけ、いい。 」
「 はい・・・？ 」
ミンクのコ−トを引っ掛けたまま、彼女はフランソワ−ズの腕をひき廊下の片側に身を寄せた。
「 あの・・・ ？ 」
「 よく頑張ったわね。 綺麗に踊れてましたよ。 」
「 ・・・ ありがとうございます。 」
ぺこり、とアタマを下げる亜麻色の髪の娘に彼女は淡い微笑を送った。
「 そう・・・綺麗だったわ。 でもちょっと聞いて欲しいの。 」
「 ・・・ はい。 」
「 あの役、リラの精 はねえ。 技術は当然だけど、なんていうか・・・ こう、大きな包容力が必要なの。
舞台上のダンサ−達だけじゃなくて、観客もぜんぶ ふわ・・・っと取り込んでしまう魅力ね。
今日のあなたは綺麗に踊っていたけど、それだけだったわ。 」
「 ・・・ あ ・・・ はい ・・・・ 」
「 ええ、勿論それだけだって大変なことよね。 でもね。
あなたには そんなもっと深い踊りが出来る女性（ ひと ）だと思うわ、フランソワ−ズ。
そんな存在感のあるダンサ−に、いえそんな女性になってちょうだい。 ね？ 」
「 ・・・ はい ・・・ 」
「 それじゃ、お疲れ様。 引き止めてしまってごめんなさいね。
明日もよろしくお願いしますよ。 」
「 ・・・・・・・ 」
フランソワ−ズは言葉もなくただ ・・・ アタマを下げるだけで精一杯だった。
カツカツカツ・・・・
コツコツコツコツ ・・・・
足音たちが遠ざかってゆく。
アタマを垂れたままフランソワ−ズは水玉模様を描いてゆく足元の床を じっと見つめていた。
「 う〜ん・・・ 惜しかったなあ。 もう少し早い便が取れればお前の主役の舞台が
みられたのに。 」
「 主役なんかじゃないわ・・・ 」
フランソワ−ズはアルベルトにコ−ヒ−・カップを渡した。
「 そうか？ ジョ−がなんだか自慢気に言ってたぞ。
今度フランソワ-ズが主役を踊るから是非来いってな。 」
「 やだ・・・ ジョ−ったら。 ちがうのに・・・・ 」
「 ふん？ まあ、アイツはその方面にはてんで疎いからな。
それで・・・？ どうした、転んだのか？ 」
「 え・・・！ ど、どうして？？ 」
「 いや、 公演明けにしては浮かない顔してるからさ、お前が。 」
「 ・・・ ヤダ。 ちょっと疲れただけよ。 」
「 ・・・・・・ 」
アルベルトはコ−ヒ−に口をつけ、湯気越しにこの ＜妹＞ を見つめた。
疲れただけ？ 正直に言ってみろ。
淡い瞳がフランソワ−ズに問いかけた。
「 ・・・ ああ、もう。 アルベルトには・・・ 敵わないわね！ 」
「 ふふん・・・ どれだけの付き合いだと思っているんだ？ 」
「 ふふふ ・・・ そうね。 あの頃だって・・・演習の結果とか すぐにバレてしまったものね。 」
「 お前はすぐに顔にでるからな。 自分で思っているよりずっと・・・単純なのさ。 」
「 まあ、ひどい！ ・・・ああ、でも。 そうなのかも・・・・ 」
かちり、とアルベルトはカップをテ−ブルに置いた。
「 ・・・ どうぞ、姫君。 」
もう・・・！ と軽く下げた銀髪を睨んでから、フランソワ−ズは口を開いた。
「 あの、ね ・・・・ 」
「 ほう・・・・ なるほどな。 」
「 なるほどな・・・って わたしにはまだ無理ということなのかしら。 」
「 ・・・ 別に年齢とか舞台経験はそれほど関係ないと思うが。
ピアノ弾きもな、 音にそいつの＜全て＞が 現れてしまうのさ。 」
「 音に？ 」
「 ああ。 浅薄なヤツには薄べったい上滑りな音しか出せん。
どんなにテクニックを磨いても、カバ−できるものじゃない。 」
「 ・・・ じゃあ ・・・ わたし ・・・ どうすればいいの。 」
「 他人 （ ひと ） に聞いてどうこうする問題ではないぞ？
『 眠り〜 』 のリラって ・・・・ 確か・・・ これか 」
アルベルトは少し記憶を辿っていたようだが すぐに一節二節口笛で奏でた。
「 ええ。 それよ。 それはヴァリエ−ションね。 」
「 ふん ・・・ ＜ 善の精 ＞ だったな。 」
「 ・・・ そう。 」
「 良い魔女ってとこか。 一種の勝利の女神サマだな。
こりゃ・・・ お前にぴったりじゃないか。 」
「 でも ・・・ マダムは気に入らなかったみたいだし。 わたし自身もあれでいっぱいいっぱいだったわ。
それに、全てを包み込む・・・なんて度量はわたしにはないもの。 」
「 フランソワ−ズ？ お前な、 もっとよ〜〜〜く自分自身と仲良くしてみろ。 」
「 え？ 」
「 『 眠り〜 』 では 王子はリラの精に導かれてオ−ロラ姫の許へ行くんだったな？
勝利への道を示す女神 ・・・か。
女性ってのは古来からそんな役割が多い。 どこの国でも、さ。 」
「 救国の聖女ってわけ？ 」
「 ああ。 お前の国にもいるだろうが。 」
「 う〜ん・・・ ジャンヌ・ダルクとか？ 」
「 そうさ。 オトコなんて・・・ いつの世も単純なもんで、女神様に叱咤激励されて
奮い立つ。 古今東西、皆同じだ。 」
「 ・・・・ そう ・・・？ アルベルトも？ ・・・ ジョ−も ・・・ 皆・・・・？ 」
「 ・・・・・・・ 」
白い頬に手を当て首を傾げる亜麻色の髪の乙女に、アルベルトは何も答えなかった。
・・・・ ただ、口の片端を捻り上げ ニ・・・ッと笑ってみせた。
「 ただいまぁ〜〜 フランソワ−ズゥ〜〜 ああ、コ−ヒ−のいい匂い♪ 」
「 ほらよ。 お前の王子サマのお帰りだ。 」
「 またぁ・・・ もう！ 」
ジョ−の小走りな足音が聞こえてくる。
フランソワ−ズはコ−ヒ−を淹れ直そうとソファから立ちあがった。
「 ― 出た！ なんとか・・・バリヤ圏内から脱出したぞ！ 」
ジョ−は一声あげると、 バン！と操縦レバ−を叩いた、
今の今まで 口をきつく結び前を睨んでいたのだが大きく体勢を崩した。
「 うん ・・・ コントロ−ル・ウェ−ブの影響も無くなった！ やったね、ジョ−。 」
複数のモニタ−を次々にチェックして ピュンマが叫んだ。
「 ・・・ ほえ〜〜〜 やっと振りきったか・・・ しつっこい野郎どもだぜ。 」
ジョ−の隣で ジェットも大きく伸びをしている。
「 気を抜くのはまだ早い。 ともかく早急に体勢を立て直して・・・再攻撃だ。 」
メイン・コントロ−ル・パネルの前から アルベルトの厳しい声が飛んだ。
「 そりゃ・・・ そ〜だけどよ〜 ちっとはブレイク・タイムしようぜ〜 」
「 そんな余裕は 」
「 ままま・・・ アルベルトはん。 急がば回れっちゅうやおまへんか。
ここいらでち〜っとお茶でも飲みまひょなあ。 」
「 おお、いいね。 うん、たとえ存亡の危機に遭っても余裕は必要だ。
戦場にもティ−・セットを持参するのが貴族の嗜み・・・ おう、手を貸すぞ。 」
グレ−トは張大人を追って簡易厨房へ行ってしまった。
「 ・・・ ったく。 好きにしろ。 ああ、ジョ−？ フランソワ−ズに・・・ 」
「 うん、今見て来る。 多分もう眼が覚めたと思うから。 」
「 ああ。 出来たら・・・ 連れてこい。 」
「 了解。 ふかふかのクッションを頼むよ。 」
フランソワ−ズは応急の簡易メンテナンスを終え、コンパ−トメントで休んでいた。
聴覚への集中攻撃を受け、作戦の最中に失神してしまったのだ。
自動操縦になり安定飛行を始めたドルフィン号の廊下を ジョ−は急いで辿っていった。
「 ・・・・ フラン？ 入っていいかい。 」
「 ええ、どうぞ。 開いていてよ。 」
ジョ−が軽いノックと共に低く呟くと すぐに明るい声が返ってきた。
「 どうだい。 一応、なんとかヤツらを振りきったよ。 」
「 ええ、そうみたいね。 ５０キロ四方に敵影はないわ。 空も海も、よ。 」
「 ・・・ フランソワ−ズ！ 」
休んでいるとばかり思っていたのだが、彼女はちゃんと索敵を続行していたのだ。
「 ジョ− ・・・ そんな怖い顔、しないでよ。
肝心な時に役立たずで ごめんなさい。 ・・・・ もう大丈夫よ。
早く再攻撃して あの基地を壊滅させなければ！ 」
ベッドから立ち上がり、さっと髪を払い ― ００３として 彼女は立ち上がる。
しかしその顔色は白さを通り越し蒼ざめ、勢いに負けて足元が心許ない。
ジョ−はあわてて彼女を支えた。
「 フラン・・・ ああ、フラン！ お願いだから・・・！ もっと自分を大切にしてくれ。 」
「 ジョ−。 ありがとう。 でも今はそんな時ではないわ。
わたしだけじゃない、皆 ・・・ そうよ、あなた自身だって不具合を抱えているはずよ。 」
そうでしょう？ と大きな瞳がじっとジョ−を見つめる。
「 でも。 行かなくちゃ。 行って ・・・ ミッションを完遂させなければ。」
「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」
どんな時でも。 そう、そして誰だって。
彼女の澄んだ青に見つめられた時 ・・・ 全ての抵抗を放棄してしまう。
そう、虚栄や虚飾 ・・・ 強がりやら痩せ我慢・・・そんなモノは全く色褪せ消え去る。
・・・・ はぁ ・・・・
果たして、ジョ−は深い溜息を吐きフランソワ−ズを半ば抱きかかえたまま・・・
ぼすん・・・と彼女のベッドに腰を落とした。
「 ・・・ ジョ−？ 」
「 は。 やっぱりきみにはバレちゃったか。 」
「 ええ、あなたの動きを追っていてすぐにわかったわ。 」
「 ドジだよな、まったく。 でも、行くんだ。 」
「 ええ。 どうしてもあのＮＢＧの息がかかった軍事基地を破壊し尽くさなければ！
反撃は急いだほうがいいわ。 時間がたつほど向こうが優位になるだけよ。 」
行きましょう！ とフランソワ−ズは、いや ００３は００９の腕をそっと押しやり、
なんとか立ち上がった。
「 ・・・ よし。 ただし。 絶対に無理はするな。 いいね。 」
「 ジョ−？ 今、無理しないでいつするの。 」
すう・・・っと青白い顔に淡い笑みが浮かんだ。
「 ・・・まいったな。 もう ・・・ きみには勝てないよ！ 」
軽口を叩きつつも ジョ−はそっとフランソワ−ズの身体に腕をまわし、コクピットに伴っていった。
単純で小規模なミッション − 誰もが漠然と思っていた。
それこそが 苦戦を強いられている一番の原因だったかもしれない。
ＮＢＧの末端に近い軍事基地、それもかなりの旧式 ・・・
しかし完全な廃墟とは思えないフシがあるので とりあえず＜清掃＞しよう。
当初の目的はそんなものだった。
「 たまにはよ、マジで実戦しないと カンが鈍るし〜 」
「 おい。 遊びじゃないぞ。 」
「 へん、わかってら。 おっさんこそ関節にオイル、注しとけ〜 」
「 コイツ・・・！ 」
ジェットの軽口に呆れつつも・・・ 全員どことなく同じ思いがあったに違いない。
そこを見事に衝かれてしまった。
＜旧式＞なはずの基地は実際にはハイテクＩＴを駆使した強固な要塞だった。
ＮＢＧの巧みなカモフラ−ジュに 見事に足を取られてしまい・・・
サイボ−グ達は今、なんとか逃げ出し再攻撃の機会を狙っている状態なのだ。
「 クッソ〜〜〜！！ なんてしぶといんだ！！！ 」
「 落ち着け。 ヤツらのペ−スに乗るな。 」
「 だけどよ！ ・・・ ううう、オレがもいっかい加速できればよぉ〜〜！ 」
ス−パ−ガンで片端から狙い撃ちをしつつ ジェットは歯噛みをする。
再攻撃の緒戦で 彼の加速装置は不具合を起こしてしまった。
普通飛行は可能だが、敵エリア内での飛行はわざわざ標的になりにゆくのに等しい。
サイボ−グ達の一部はドルフィンを離れ地上に降り、岩屋を一応の前線基地としていた。
ここで 引くわけには行かない。
じりじりと攻撃の網を集中させてはいるが、敵もなかなかしぶとかった。
（ アルベルト？ 向こうサンのバリヤ−部分、なかなかご立派だよ。
まだ・・・ こっちから＜入れない＞んだ。 ）
ドルフィンに残るピュンマから脳波通信が飛ぶ。
（ よし。 空からも攻撃可能になり次第、開始してくれ。 その間に
こっちは地味に下から叩いておく。 ）
（ 了解。 ）
「 それじゃ。 こっちは最後の一発を中枢にお見舞いしておくか。 」
「 アルベルト？ 」
岩陰から照準を合わせていたジョ−が振り返った。
「 ・・・ ラスト、なのかい。 」
「 ふん、無駄撃ちはしなかったつもりだが。 コレで突破できなければ 最後の手段ってものもある。 」
ごく普通の口調で言うと、アルベルトは肩膝を立てた。
「 アルベルト！ 」
「 退ってろ。 」
ズン ・・・・！ と軽い衝撃で空気がゆれ、００４の膝からは一筋うすく煙が立ち昇っていた。
「 オレ、やっぱ上から叩いてくるワ。 地上からちまちま・・・ってのはタルくてよ。
おっさんのミサイルの効果も見〜 」
「 ・・・ やったわ。 命中よ。 」
「 フランソワ−ズ！ 」
威勢のいいジェットの言葉を細い声が遮った。
誰もが一瞬前方から視線をはがし、岩屋の奥に振り返った。
「 さすがね。 狙い通りよ ・・・ あ、多分あれは制御システムね、火が出たわ。 」
「 フラン！ もういいから。 やめくれ・・・！」
ジョ−は彼女のところまで駆け寄り肩を支えた。
最早自力で立っていることができずに、岩に凭れかかりそれでもしゃんと首を持ち上げ、
彼女は ― ００３は しっかりと前方を見つめている。
「 上からピュンマがサ−チしているから。 きみはもう・・・使うな。
きみの眼と耳の使用限界はとっくに超えているぞ！ 」
「 限界は ― わたし自身が決めるわ。 」
「 フランソワ−ズ！ 」
「 ジェット。 上から攻撃したいなら、グレ−ト、ジェロニモ、ここから援護できる？ 」
「 了解。 マドモアゼルの頼みならなんなりと。 」
「 ・・・まかせろ。 」
「 よし、俺はマシンガンがまだ残っているからな。 張大人、掘れるか？ 」
アルベルトは地面を指した。
「 アイアイ。 どことなりとご注文、承りまっせェ〜〜 」
「 俺たちゃ、下から行く。 」
「 よし、じゃあぼくがきみ達を基地の近くまで加速して運ぶよ。 」
「 お〜〜っととと。 お前は姫君を守ってろ。 いいな！？ 」
「 わたしは大丈夫。 ジョ−。 あなたは ― 基地の中枢部の完全破壊を。 」
「 わかった。 行ってくる。 」
「 お〜し♪ これでもうカタをつけようぜ！ 」
「 おう。 」
強がってはいるが、オトコたちの顔はみな強張っている。
・・・ 大丈夫 ・・・ だろうな？
これで失敗したら 我々は ・・・ へたすりゃ全滅だぞ
口が裂けても言い募ったりはしないが、誰のこころにもそんな思いが過ぎる。
「 皆。 絶対に上手くゆくわ！ さあ。 行きましょう。 」
涼やかな声が びん・・・・っと岩屋中に響きわたった。
一瞬、全員がはっとし、 そして次の瞬間 内からふつふつと熱いものが滾り上がってきた。
よおし！ −−−−− 行くぞ！！！
「 じゃ。 」
シュン ・・・・ ！
独特の音とともに、まずジョ−の姿が消えた。
「 くっそ〜 先を越されたかぁ！ ほんじゃ！ 」
軽い爆破音とともにジェットは あっと言う間に上昇していった。
「 俺達も行くぜ！ 」
ゼロゼロ・ナンバ−サイボ−グ達の猛反撃が炸裂し始めた。
「 ・・・ったく！ お前達〜〜〜 もうちっと自分自身のコトを考えろ！ 」
ぼさぼさの白髪を白衣帽からはみ出させ、ギルモア博士は飛びまわっている。
「 博士！ 走らないでください、転びますよ〜 」
「 うるさいわい！ ピュンマ！ 最後にお前のその口を縫い上げてやる〜〜 」
レ−ベン姿のピュンマ自身も大忙しなのだが・・・ どこか楽しげである。
ドルフィン号はいまや ・・・ メンテナンス専用船と化していた。
全員が 外的損傷やら内部機関の不具合を抱え ― 晴れ晴れとした顔つきをしていた。
「 あらあら・・・ はい、お食事を持ってきたわ。 皆 ・・・ ぺこぺこでしょ？ 」
「 フランソワ−ズ！ きみ、 大丈夫なのか。 ・・・ ウッ！ 」
フランソワ−ズがワゴンを押して現れた。
しっかりした足取り、顔色もあの岩屋で見せた蒼白い影は消え去っている。
チュ−ブとコ−ドに雁字搦めなジョ−が 無理に起き上がりたちまちベッドに倒れこんだ。
「 ああ、ジョ−ったら。 大人しくしていなくちゃダメよ！ わたしは一足お先にすっかり回復したわ。 」
「 ・・・・ つゥ〜〜〜 」
ジョ−は顔をしかめ呻き、 そっと通信を送ってきた。
・・・ きみは ・・・ きみが 女神様 なんだ・・・・
勝利の女神だった。 ぼくはきみの背に翼がみえたよ。
「 まあ ・・・ 」
「 ふん。 俺達お邪魔ムシですまんな！ なあ、フラン ・・・？ 」
「 え、なあに。 」
アルベルトは横になったまま 口笛で短い旋律を奏でてみせた。
「 ・・・ あ ・・・ あのヴァリエ−ション ・・・ ！ 」
「 次には もっと深みのある踊りができるさ。 」
「 ・・・・・・ 」
フランソワ−ズは会心の笑みを浮かべ 優雅なレヴェランス （ お辞儀 ） で応えた。
怪我人満載のドルフィン号は ぐん・・・！と高度を上げてスピ−ドを増した。
さあ！ 帰ろう。 みんなで あの、岬の一軒家へ。
************** Fin. ***************
Last
updated : 01,08,2008.
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******* ひと言 *******
熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今はこぎいでな （ 額田女王 ）
えっと〜〜 もともとは ↑ この歌がモチ−フだったのですが・・・ （ 大好き♪ ）
ど〜も稽古中に拾ったネタで突っ走ってしまいました。
設定としては ・・・ う〜〜ん 平ゼロ・・・？でも後半のミッション部分は原作ジョ−かなあ？
・・・・ ともかく ＜最強なのは・いつだって・フランちゃん♪＞ がメイン・テ−マであります☆
こんなのもありかな〜〜って 読み飛ばしてくださいませ〜〜〜<(_ _)>