『 風の挽歌 』
***** しぇる様 のリクエストにお応えして *****
「 ふん・・・ なんだってもうちょっと待ってなかったのかよ?
どうしてそんなに焦ってたんだ? 」
「 そうだよね。 あと半日待っていてくれれば ・・・ 」
珍しくピュンマも不満顔をして 口を尖らしている赤毛に同調した。
「 まあまあ・・・。 諸君らはちょいと到着が遅かったのう。
なにせあのカメレオンの大将とウチのお嬢さんがえらく急いでいたのでな。 」
ギルモア博士は 愛用のパイプを手にのんびりと言った。
ようやく吹き始めた涼風に パイプの紫煙がゆらゆら流れて行く。
水平線にはまだ入道雲もみかけるが、海辺のギルモア邸の上にひろがる空は
このところ 富にその青さが澄んできたようだ。
そんな邸のリビングにはいつもとは違うメンバ−が 初秋の風を迎えていた。
「 そもそも・・・ この話の発端はジョ−なんじゃ。 」
「 へえ・・・? 珍しいこともあるもんだね。 」
「 ふむ、アイツの務めている出版社で出してる雑誌の取材とかでなあ。 」
「 そうアル。 例の ・・・あの雑誌アルよ。 」
ちょうど大人が飲茶のワゴンを押してリビングに入ってきた。
蒸篭の放つ湯気のかおりに、仏頂面だった赤毛はたちまち機嫌をなおした。
「 悪いネ、これ・・・ テ−ブルに運んで欲しいアル。 」
「 オッケ♪ ・・・ふ〜ん ・・・ 美味そうな匂い〜〜 」
「 僕はじゃあ、こっちのお茶を ・・・。 あれ、そういえばフランソワ−ズは?
ジョ−の取材に同行したのですか。 」
ピュンマが陶器のポットから香ばしいかおりの茶を注ぎ分ける。
「 いやいや。 取材はジョ−ひとりだったんじゃ。
しかしなあ。 今回 一番せっついておったのがフランソワ−ズじゃった。 」
「 え?? だって行方不明になったのは その・・・ サ−・なんとか ・・・の探検隊でしょう?
そのサ−・なんとか、がグレ−トの恩人だった、と聞きましたが。 」
ピュンマは何がなんだかわからない、といった風である。
「 そうアルよ、ピュンマはん。 ・・・ 博士、この肉饅のお味加減はどうでっしゃろ。
お好みになってはりますか。 」
「 ・・・ふゥわ ・・! ・・・・ あちち・・・ おお、まさに・・・ ! 」
ギルモア博士は熱々の肉饅を頬張り ご満悦である。
赤毛にいたってはソファにどっかと座り込み、黙々と数々の皿を相手にしている。
先ほどの不機嫌などとっくに忘れてしまったらしい。
「 えっへん。 それで、話を整理すると。 」
ピュンマはちょいとわざとらしく咳払いをし、香り高いお茶を一口ふくんだ。
「 その、アマゾンのジャングルへ入った探検隊に ジョ−は途中まで同行取材していた。 」
「 そうアル。 次の雑誌の特集が < 消えた文明の謎 > や、言うてはった。 」
「 ふうん・・・ なんか使いフルされたコピ−だねえ・・・ ま、関係ないけど。 」
「 そやかて、そういうのが一般受けするそうやで。 」
「 へえ・・・ えっと。 それでその探検隊は謎の黄金都市を探していた、そうだよね。
イギリス隊に グレ−トの友人 ・・・ というか恩人がいた。 」
「 そうじゃ。 それで ・・・なあ。 」
「 ねえ・・・! わたし、これ以上もう待てないわ!
大丈夫よ、これだけのメンバ−なら。 怖いモノなし、無敵艦隊だわ。
だから 出来るだけ早い便で発ちましょう。 」
フランソワ−ズは ぱっとソファからたちあがると隅にある共有のPCのスイッチをいれた。
「 ともかく。 航空券の予約、いれておくわ。 」
「 マドモアゼル、我輩も無論そのつもりだ。
今回ばかりは 遅参者諸君を待ってはおられん。 アルベルト、いいかな。 」
グレ−トはリビングをせかせかと歩いていたが、ふと足を止めた。
そして 先ほどから黙ってソファに座っている独逸人に声をかけた。
「 状況はわかった。 ジョ−の手紙から察して、ヤツはすでに奥地へ向かったのだろうな。 」
「 ・・・ そうだろう。 手段は徒歩しかない、充分に追いつける。 」
「 ああ。 まあ、しかし早く出発するにこしたことはない。 」
アルベルトは手元にあるジョ−からの葉書をぴん・・・と弾いた。
いかにも観光客むけ・・・といった絵葉書には遺跡の写真が載っている。
その遺跡とは別にアマゾンの奥地に眠る 黄金都市 があるという。
アメリカとイギリスの調査隊が 闇深いジャングルの奥へ赴いたのだが、
なぜか彼ら忽然と消息を断ってしまった。
ジョ−は務めている雑誌社の仕事で イギリス隊に同行取材としていたのだ。
同行、といっても現地の都市までで彼らの帰りをまつ、という予定だった。
ところが、そのイギリス隊どころか 別ル−トで進行していたアメリカ隊からも連絡が絶えてしまった。
< ・・・・ 約束の日程はとっくに過ぎています。 あと1日待ってもしこのまま消息不明なら
ぼくだけでも プカラ というその黄金都市まで行ってみるつもりです。 >
ジョ−の手紙は相変わらず淡々と予定だけを記していた。
その消印から1週間がすぎ、その後彼からの連絡はない。
・・・ ジョ−もまた消えてしまった・・・のか?
フランソワ−ズはさんざん心配し いらいらし尽くしていたのだが、
グレ−トがアルベルトと共に訪ねてきて、とうとう <爆発> してしまった。
「 え?? その探検隊にお友達が ? 」
「 さよう。 トモダチというより、我輩の恩人だな。
以前・・・ 俳優業不審で身を持ち崩していた時分に、なにかと世話になったのさ。
かつての我輩のファンだった、というありがたいお方よ、アレン卿は。 」
「 まあ・・・ そうなの。 」
「 まあ、って マドモアゼル、ご存知ないのかい。
この偶然はジョ−が我輩に知らせてくれたのだよ。 」
「 ・・・ いいえ、全然。 ・・・ もう〜〜 ジョ−ったら! 」
「 そんなワケで、我輩は即行現地へ飛びたいのさ。
諸君らの力を拝借したい。 」
「 勿論よ、わたしだって今すぐにでも・・・ 」
「 急ごう。 だれか ・・・ 何かが呼んでいる。 」
「 ジェロニモ・・・ そうなの? 」
珍しく口を挟んだ巨漢に フランソワ−ズはますます心配気な顔を向けた。
「 とても遠いが。 なにかが絶えず呼んでいる。
<帰ってきてほしい> とよびかける声がする。 ずっと ・・・ 」
寡黙な彼の言葉は それだけに重みがある。
居合わせた全員が深く頷いた。
「 現地の主要都市への便さえ少ないからな。 フランソワ−ズ?どうだ、予約できそうか。 」
「 ・・・ えっと ・・・・ ええ、直近の便が取れたわ!
明日の午前中の便よ。 これを逃すと・・・ 一日空いてしまうわ。 」
「 よし。 それじゃ、行動開始だ。 」
「 了解。 」
「 ・・・ 気をつけるんじゃぞ。 戦闘とは違うじゃろうが・・・ 」
「 はい、大丈夫ですわ。 向こうにはジョ−がいますし。
博士、それではイワンのこと、お願いします。 まだあと一週間は 夜 ですけれど。 」
「 わてが博士の側に残りますよって。 万一、坊が早めに目ェ醒まさはっても大丈夫アル。 」
大人はぼすん、と肉厚の腹を叩いた。
ギルモア博士も 頷いて頼もし気な視線を一行に送った。
「 おお、安心して行っておいで。
さて ・・・ ワシは遅参組への言い訳でも考えておくかな。 」
ばたばたとリビングを出てゆく者たちを見送り、
ギルモア博士は ほ・・・っと溜息をついた。
明日には置いてきぼりを喰ったモノ達がここでぶつぶつ言うに違いない。
なにはともあれ、この邸も当分賑やかになりそうだった。
「 ・・・・ ここ ・・・ ? 」
フランソワ−ズは一段と高くなった石垣にのぼり、ぐるりと視線をめぐらせた。
見渡す限り緑の <海>、 その中に半ば呑み込まれかけた形でその廃墟はあった。
ビュウ −−−−− ・・・ ヒュウ −−−−−
空気まで緑に染め上げそうな密林を半日以上、歩いた。
自分の身体も緑色になり いまに葉っぱが生えてくるのじゃないか・・・と思えるころ、
一行は ぽかり、と天に向かって開いた空間に出ていた。
― 黄金都市 プカラ
その街はいま、迫る緑に海に怯え、吹き荒ぶ風に苛まれていた。
ヒュウ −−−−− ・・・ ヒュウ − −−−−−−−−
・・・ この音。 いやだわ。 ・・・ 悲鳴みたい。
フランソワ−ズは < 耳 >を使いながらも眉を寄せ唇を噛んだ。
それは 挽歌、 そう、失われ去っていった生命 ( いのち ) への哀しみの声。
黄金都市? ・・・どうして? 黄金なんてウソっぱち。 使い捨てられた抜け殻の街じゃない。
どこからも なにも聞こえないわ。 ・・・そう、この耳障りな風の悲鳴以外はね。
ぶん、と首を振りフランソワ−ズは崩れた石垣から飛び降りた。
「 どうだ。 なにか聞こえたか。 」
「 ううん、なにも。 ただ ・・・ 」
うん? ・・・ アルベルトは心持ち眉を上げた。
夜にはいってしまったが、全員が手分けをして出来る限り周囲を見回った。
とりあえず、今夜はこの地に野営である。
「 ただ、ね。 風の音だけ。 それが いっぱいよ、そこにもここにも・・・
あの音がず〜〜〜っと満ち溢れているわ! 」
「 ・・・ ああ。 ここは風に削がれ崩され やがて緑に浸食されるのだろうな。 」
「 そう・・・ そうね。 ただの風の音じゃないのよ。 あれは ・・・ 呻き声? 」
「 ジェロニモは 絶えず何かが呼んでいる、と言っていたがな。 」
「 だから! ねえ、早く捜しに行きましょう!
ジョ−がもし ・・・ 怪我でもしていたら・・・ ! 」
「 おいおい。 しっかりしろ、フランソワ−ズ? アイツなら大丈夫だ。 」
「 大丈夫って! でも、現にジョ−は消息を絶ってしまっているのよ?
大丈夫、なんて気安く言わないで! 」
「 ・・・ おい。 」
アルベルトは ぽん、と彼女の肩に手を置いた。
「 なんのために俺達はここに来た? よく考えろ。 」
「 ・・・ ああ、そうね。 ・・・ ヒステリックになって ごめんなさい。
あの風の 音 ・・・ すすり泣くみたいな音につい・・・イライラして・・・ 」
「 たしかに 耳障りだ。 夜の間は 耳 のレベルを落としていろ。 」
「 え・・・ でも ・・・ 」
「 今からそんなにテンパってどうする? これは一種の神経戦かもしれんぞ。
休めるときに 休んで置け。 」
「 ・・・ ええ ・・・ ありがとう ・・・ 」
フランソワ−ズは 滲んできた涙をそっと払った。
指先に移った水滴は たちまちのうちに風に浚われてゆく。
「 ・・・ コ−ヒ−が入ったぞ。 」
ジェロニモがのそり、と石垣を廻ってきた。
「 お、すまんな。 今夜はもう ・・・ これで休もう。
一通り見回ったが なにも見つからない。 」
「 ・・・ ええ、 そうね。 ・・・ 本当に ・・・ なにも ・・・ ない、わ。 」
ヒュウ −−−−−−− ヒュウ −−−−−
絶えず吹き抜ける風は 侵入者達のマフラ−を弄んでいった。
「 ・・・ 眠れないわ ・・・ 眠れやしない ・・・ 」
狭いテントの中は フランソワ−ズの溜息でいっぱいになっていた。
出入り口の隙間から 焚き火の揺らめきがときおり目に入ってくる。
頭をめぐらせれば、ちらりと広い背中が見える。
・・・ ああ、 今はジェロニモが当番なのね。
不寝番はオトコ達が順番に買って出た。
眠れりゃいいが・・・とグレ−トは呟いていたが、とにかく自分のテントに引き取ったようだ。
フランソワ−ズは一番焚き火に近くのテントで横になったが
目はますます冴えてくるばかりだった。
ビュウ −−−−−−− ヒュウ −−− ・・・
無感情に乾いた音は 夜が更けてもやむはずもなく、
フランソワ−ズの耳を、頭を ・・・ そして こころを苛み続けていた。
・・・ どうして ・・・ 一緒に行きたいのって言わなかったの。
本当は 行きたくて、一緒に居たくてたまらなかったクセに・・・
バカな ・・・ フランソワ−ズ ・・・ !
廃墟の空が白み始めるまで、フランソワ−ズは寝返りをうち続けていた。
「 <失われた文明を求めて> ? ・・・ へえ? 」
「 あ〜・・・ もう! きみまで笑うかなあ。 」
ジョ−はス−ツ・ケ−スに荷物を詰める手をとめて、苦笑した。
「 だって・・・・。 あら、<探検隊>に同行するのに、ス−ツ・ケ−ス?
ひょっとしてス−ツで行く、なんて言わないでよね。
はい、ハンカチと靴下。 下着、忘れちゃだめよ。 」
「 ス−ツで行くよ。 残念でした。 」
ありがとう、とジョ−は受け取った靴下をス−ツ・ケ−スに入れた。
「 まあ。 ・・・ やっぱりジョ−のとこの雑誌って〜? 」
フランソワ−ズはわざと言葉を切り、ふふん・・・と鼻先で笑った。
「 あ〜〜〜 またまた・・・ そんなにバカにしなくてもいいじゃないか。
だってね、探検にゆくのはぼくじゃないんだから。
ぼくは <探検隊の取材> なのさ。 感動のドラマ!とか 涙の秘話! とかを
記事にするのが 今回の <しごと>。 」
「 ・・・ へえ〜〜〜 まあ、頑張ってくださいな、敏腕記者さん。 」
「 もう! ぼくの企画じゃないからな! 編集長のご意向さ。 」
「 この前は 謎の異次元 で その前は えっと ・・・ 人魚伝説、だっけ? 」
「 当たり。 な〜んだ、フランソワ−ズ、きみってウチの雑誌の隠れた読者だったんだ?
ご愛読、ありがとうございます。 」
ジョ−は にやり、とわらって大仰にお辞儀をしてみせた。
「 あ、あら ・・・ だって。 ジョ−ったらいつもぶつぶつ言いながら記事を書いてるし。
そこいらに途中のコピ−を散らしておくじゃない。
イヤでも わたし、詳しくなっちゃうわ。 」
「 へえへえ・・・ 申し訳ありませんね。 これがぼくの仕事なんですよ。 」
「 わかってるわよ。 ・・・ でも 気をつけてね。 未開の地、なんでしょう? 」
「 そうだけど。 ぼくは奥地まで同行しないってば。 」
「 だって・・・ 」
「 ・・・ ああ。 これ? 」
ジョ−はフランソワ−ズの視線をたどり、手にしていた防護服を持ち上げてみせた。
「 ええ。 ・・・ どうして? <ただの取材> なんでしょう?
・・・ それとも ・・・ 極秘裏のミッション ・・・ なにか ・・・ あるの。 」
「 見つかっちゃったね。 ちがうよ、安心して?
ただ、今回は未開の地だから、もし万が一、とい思っただけだよ。 」
「 ・・・ ほんとう? 」
「 本当さ、 苦労性さん。 」
ジョ−はつ・・・っとフランソワ−ズを引き寄せ、珊瑚色の唇を盗んだ。
まだ夏の気配が濃厚な午後、彼女の唇はびっくりするほど冷たかった。
「 ・・・ どうかしたのかい。 ああ・・・ こんなに冷えて。 手も指も・・・
どうしたんだ、いったい。 」
ジョ−は抱き寄せた身体が小刻みに震えているのに気がついた。
「 どうもしない。 ・・・ なんでもないわ。 ただ ・・・ 」
「 ただ 、なんだい。 なんでもない、はキライなんだろう? 」
「 ・・・ もう ・・・・ 今日はジョ−に先に言われてばっかりね。 」
「 ・・・ ねえ、話して? 」
ジョ−の手はお気に入りの彼女の髪を愛撫する。
冷たい甘さ・・・ ジョ−はよくそんな風にいうが、金の髪がしっとりとジョ−の指に纏わりつく。
「 誰かを ・・・ 見送るのは 好きじゃないの。 」
「 ・・・・・・・ 」
「 いつも。 いつも ・・・ わたし、取り残される。
みんな ・・・ 皆、行ってしまったわ。 わたしを、わたしだけを置き去りにして・・・ 」
「 フラン ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」
「 だから。 ・・・ 怖いの。 もし、また ・・・ジョ−が・・・ 」
「 心配性のお嬢さん。 ぼくが信じられない? 」
「 そんな ・・・ 信じているわ! こころから、ずっと ・・・ でも ・・・ 」
「 また、< でも > ? ・・・・ もう ・・・ そんなくだらない心配は忘れさせてあげるよ。
・・・ ねえ? 」
ジョ−の長い指が 襟元からいつの間にかたくみに忍び込んできた。
「 ・・・ あ ・・・ やだ ・・・ こんな 昼間 ・・・ 」
「 うん? だったら カ−テンを引こうか ・・・ 」
「 そ ・・・ そうじゃ ・・・・ きゃ ・・・ あ ・・・・ 」
「 んんんん ・・・・ そうだ、 風の都、というそうだよ。 」
ジョ−は愛撫の手を止めて、ふ・・・っと呟いた。
「 ・・・・ かぜのみやこ ・・・ ? 」
組み敷かれた下から 切れ切れの声が返ってきた。
「 うん。 例の黄金都市、さ。 別名、風の都、なんだって。 そんな風に聞いたよ。 」
「 ・・・ 淋しいわね 」
「 え。 そう ・・・・? 」
「 ええ。 だって ・・・ そこに住んでいるのは ・・・ 風?
風だけが その地を行き来しているのかしら。 ・・・ さみしいわ ・・・ 」
「 こら。 きみが泣くこと、ないだろ?
そうだ、そこで黄金のカケラでも拾って・・・ きみに進呈しよう。 耳飾りにでもするといいよ。 」
「 ・・・ ありがと・・・ その飾りを風が、風だけが揺らすのかしら。 」
「 ・・・ もう お喋りは ・・・ や ・ め ・・・ ! 」
「 あ・・・ ジョ− ・・・ 」
「 風はきっとね、昔のことを語っているのさ。 オシャベリなんだと思えばいい。 」
「 ・・・・ おしゃべり ・・・ そう、そうね・・・ 」
「 ・・・ んんん ・・・ 明日からしばらくお別れだね ・・・
ぼくも淋しいな。 この ・・ きみの ・・・ 」
「 ・・・ ぁ ・・・・ あああ ・・・ ジョ ・・・− ・・・ッ ! ・・・ 」
ジョ−の唇は 指先は それこそ饒舌になりフランソワ−ズに愛を語った。
身体の方々に点じられた火が だんだんと燃え上がってゆく・・・・
・・・ ああ ・・ ジョ− ・・・・
でも ・・・ その、風の言葉を 聞くひとは ・・・ いない ・・・ のよ ・・・
瞼の裏で虹色の輪が爆じけ、黄金の火花が飛び散る。
一瞬、真っ白に燃え上がった脳裏に 風だけが吹き抜ける廃墟が 映った。
ジョ− ・・・ あなたは そこに何を求めてゆくの。
・・・ こわい。 なんだか・・・・ わたし、こわいの・・・!
しなやかな身体をいっぱいに仰け反らせた時、フランソワ−ズの指はきつくジョ−の背に食い込んだ。
「 じゃあね。 お土産は 黄金のカケラだよ。 」
「 ・・・ 行ってらっしゃい。 気をつけて ・・・・ 」
毎朝の出勤とたいして代わらない顔で ジョ−は風の都へと発っていった。
そして。
絵葉書を最後に いまだに連絡は取れていない。
「 おはよう、アルベルト。 インスタントだけど、コ−ヒ−、淹れましょうか。 」
「 おはよう。 早いな。 」
崩れた石垣に 朝日が差し込む頃、アルベルトが焚き火の前に現れた。
不寝番の最後にグレ−トがフランソワ−ズを起こす手立てだった。
しかし、日の出を前に焚き火の周辺は綺麗に片付けられ、新しい火が燃え始めている。
「 ふふふ・・ お日様を待っているのもな〜って思って。
先に起きちゃった。 ・・・ はい、ブラック。 」
「 ダンケ。 ・・・ 寝てないのか。 」
「 ・・・・・ 」
充血した目は隠しようもなく、フランソワ−ズは黙ってうなずいた。
「 あの風の音だ、無理はないが・・・
あまり心配するな。 今日は全員で手分けして捜索だ。 きっとなにか手がかりがある。 」
「 ・・・ そうだといいのだけれど。 」
「 あまりに状況が不自然すぎるからな。 なにかトラップ的なものがある可能性が高いな。 」
「 トラップ? 」
「 ああ。 先行の米英の探検隊も、非常に唐突に消息を絶っている。
なんらかのトラブルの形跡すらない。 これは変だ。 」
「 そうだけど・・・ でも、現にジョ−は ・・・ どこにも、なにも 見つからないわ。 」
「 だから俺たちが、仲間達が来たんじゃないか。 そうだろう? 」
「 ・・・ ええ、そうね ・・・ そうだわ。
なんだかイライラして ・・・ ヒステリックになってごめんなさい。 」
「 いいって。 お前もコ−ヒ−でも飲んでリラックスしろよ。 」
「 ありがと、アルベルト。 」
フランソワ−ズは自分のカップを持ち上げ、アルベルトに笑いかけた。
「 その調子。 ・・・ オレはこの近辺を一巡してくる。
帰るまでには ミスタ−・ジェイムズ・ボンドもジェロニモも起き出すだろうよ。 」
「 あら、ジェロニモはもうとっくに起きて 見回りついでに薪を集めに行ったの。 」
「 ・・・・ は。 自然の申し子には 負けるわな。 」
アルベルトは肩をすくめ、見回りに出かけた。
ヒュ ・・・ ヒュウ −−−−− ヒュウ −−−−−−−
朝方、一時やんでいた風がまた ・・・ 吹き始めた。
小さな瓦礫が転がり、崩れ塵となり飛ばされていった。
いずれは とおいいつの日か この廃墟も風に浚われてしまうのだろうか。
風がフランソワ−ズのマフラ−を持ち上げ、揺らす。
・・・ 廃墟って ・・・ 哀しいわ。
何も無い ・・・のとは違うわ。 そう ・・・ ここにはかつて生きて愛して憎んで
そして 死んでいった人々の 想い はちゃんと残っているのよ。
石にこびりつき、木々の梢にひっかかり。 残された想いは ・・・ 待っているんだわ。
ふうう ・・・。
風の吐息に 乙女の溜息が混じりこみ ・・・ そして呑み込まれていった。
太陽が中天にかかっても、風は止むことがなかった。
暑さはないが、ぎらぎらとした太陽は 普段親しんだ姿とは別の顔をみせた。
サイボ−グ達は手分けをして 廃墟近辺の捜索範囲を広げていった。
夜の帳が再び降りてくる時刻になっても 手がかりはなにもなく、風もまた止まない。
全員が じりじりと焦る思いに苛まれだした。
「 ・・・・ ??? 」
何度目かにその石柱の角を曲がった時 ― フランソワ−ズは息を呑んだ。
さっきまで、ほんのついさっき、ここを通った時には なにもなかった。
でこぼこに崩れかけた石床が 思いがけないほど大きく拡がっていただけだった。
それが ・・・ 今、そこに。
見上げるばかりのピラミッドが 燦然と輝き聳えたっていた。
「 ・・・・ 光るピラミッド?? いえ・・ あれは 黄金 ( きん ) なの? 」
フランソワ−ズはすぐに 眼の機能を稼働させた。
「 ・・・ これは・・・! ・・・! だれか ・・・ 出てくる! 」
とっさに構えたス−パ−ガンの銃口の先には。
「 フランソワ−ズ・・・? そうだね! 」
「 ・・・ ジョ− ? ジョ− −−−− !! 」
防護服姿の009が その光るピラミッドのぽかり、と開いた口から現れた。
009は 戻ってきた。 ― 彼は一人の女性を伴っていた。
ちらちらと彼女に視線を向けつつも、サイボ−グ達は火を熾し野営の準備を始めた。
昨晩以上に みんな寡黙だった。
009の声だけが 淡々と闇に吸い込まれてゆく。
「 ・・・ からくり、だって?? 」
彼の話の途中でアルベルトが珍しく頓狂な声を上げた。
「 うん。 一種のトリックかな、いや、実は精密なプログラムが組まれているらしい。 」
ジョ−は大きく頷いた。
「 あのピラミッドは、太陽と星の位置、そして風の向きでこの地に現れ扉が開くよう設定されているんだ。
ぼくがこの地に探検隊を追ってきた時、本当に偶然行き当たったのさ。 」
「 太陽と星の位置、か。 ・・・ するとプカラはやはりインカ帝国と関係があるな。 」
「 多分ね。 黄金崇拝も似ているし。 」
「 ・・・ それで、 その ・・・ オンナはなんなだ?
そして アレン卿たちの一行はどうなってしまったのか。 」
グレ−トが乾いた声で口をはさんだ。 声が、言葉の端々が微妙に尖っている。
「 グレ−ト? ・・・ このヒトは ・・・ 」
「 イシュキック 」
ずっとジョ−の影に寄り添っていた美女が 思いの他はっきりとした口調で応えた。
薄物の衣裳から 豊かな肢体がこれ見よがしに透けている。
「 イシュキック ??? 」
「 このピラミッドの守護者らしいんだ。 ずっと あの中にいたようだ。
なにか ・・・ とても長い物語みたいなモノを語ってくれたんだけど言葉がね。
どの言語にも属さないから 皆目わからない。 わかったのは名前だけさ。 」
「 ふむ・・・ スペイン語、ポルトガル語なんかのラテン系でもないか。 」
「 全然。 現代の言語とはまったく違うね。 」
「 それで。 アレン卿たちは、先の探検隊は・・・ どうしたのだ? 」
「 わからない。 ただ、あのピラミッドは一種の時空移転装置らしい。
設定条件が適合した時に 別の世界への <入り口> も開くようだよ。 」
「 ジョ−。 お前、 その別の世界へ行ったのか? 」
「 いや。 ぼくはずっとピラミッドの中にいただけだ。
そう ・・・ イシュキックと一緒にね。 」
ジョ−はちらり、と背後に控える女性に眼を向けた。
彼女の黒曜石の瞳が じっとジョ−に注がれる。 白い手がそろりとジョ−の腕に絡みついた。
ふわり・・・と彼女はジョ−の背に身体を寄せた。
「 ・・・・ ! 」
アルベルトの背後でフランソワ−ズが鋭く息を飲む。
「 ピラミッドの中でなにか聞き出せたのか? 」
「 いや。 さっきも言ったとおり、言葉が全然理解できない。
でも 多分テレパシ−かな、あるイメ−ジを送ってきたよ。 」
「 イメ−ジ ? 」
「 うん。 具体的なものじゃないんだ。 ただ・・・ とても荒涼とした・・・ そう、
この風の音みたいな イメ−ジだった。 」
不意に 澄んだ歌声が響きだした。
満天の星のもと、吹きぬける風にのって透明な声がわからな言葉で歌う。
「 な・・・ なんだ? なんなんだ? 」
「 ・・・ この声だ。 ずっと呼んでいた。 」
「 ジェロニモ? ・・・ じゃあ、あなたが <聞こえる> といっていたのは
彼女の、 この歌声だったの? 」
「 ヒトの声には思えなかった。 帰ってきて欲しい、という想いがずっと聞こえていた。 」
「 このヒト・・・・ ずっと一人でいたのかしら。 あのピラミッドの中に・・・ 」
フランソワ−ズが ぽつり、と言った。
彼女はずっとジョ−から一番離れて座っていた。
「 多分ね。 あの中には他に誰もいなかった。
どこからか、新鮮な水と果物を持ってきてくれたけどね。 」
「 ジョ−、お前はどの位あのピラミッドの中にいたと思っているのか。 」
「 太陽も星も見えなかったからよくわからないけれど、 ぼくの感覚では半日くらいかな。 」
「 半日ですって?? 」
悲鳴に近い叫びが 思わずフランソワ−ズの口から零れた。
「 ・・・ ごめんなさい。 でも、ジョ−! あなた・・・ 少なくとも二週間ちかく
まったく消息不明だったのよ! 」
「 そうなんだ? ・・・・ やはり、あの中は別の次元なのかもしれない。 」
イシュキックは歌い続けている。
初めて耳にするその調は 次第に誰の耳にも心地よく馴染んできた。
歌詞はまるでわからないが だんだんと哀しい音となり聴くものの心を波立たせる。
「 ・・・ 淋しい歌だよね。 どこか ・・・ そうだなあ、故郷を恋うみたいだ。 」
「 ジョ− ・・・ 」
焚き火の火影でフランソワ−ズの顔が見え隠れしている。
彼女の瞳は ずっとジョ−を追っていた。 時折煙に咽ぶ様子なのだが・・・
ジョ−は歌うイシュキックしか見ていない。
ヒュウ −−−−− ・・・ ヒュウ ゥゥゥ −−−−
夜風が一段と強くなってきた。
パチパチと薪の爆ぜる音と哀しい調が 風の声に唱和する。
イシュキックは歌いつつジョ−に寄り添い、じっと彼の瞳を見つめた。
・・・ 一緒に連れて行って
不意にそんなイメ−ジが全員のこころに伝わってきた。
・・・ なに???
なんなんだ・・・??
・・・ 誰だ、オレのこころに入ろうとするのは。
これは ・・・ !
「 ・・・ ここを発とう。 すぐにだ。 彼女を連れてゆく。 」
「 な・・・! 突然どうした? 」
ジョ−はいきなり立ち上がり、イシュキックに向き直った。
「 どうもしない。 このままでは災厄に巻き込まれる。 消えた探検隊と同じだ。 」
「 災厄? どうしてそんなことが解るんだ。 」
アルベルトも呆れ顔で立ち上がった。
「 ・・・ ジョ−よ。 惑わされるな。 」
「 え? 」
グレ−トの低く強い声に全員が振り返った。
「 そのオンナは ・・・ 魔性だぞ。 その調は旅人を惹き込むセイレ−ンの声だ。 」
「 グレ−ト! 」
「 黄金をエサにおびき寄せ 取り込むんだ。
連れて行くだと? 冗談じゃない、このオンナがアレン卿らを・・・ ! 」
「 グレ−ト! それは ・・・ 彼女のせいじゃない。 そう・・・命じられているんだ。 」
「 誰に?! どけ! ジョ−。 ・・・ この ・・・ 魔女め! 」
グレ−トは血相をかえ、ス−パ−ガンを構えた。
「 よせ! 」
ジョ−が背後にイシュキックを庇った。
「 し! ・・・ 聞こえる!! なにか・・・ 大きなモノが来るわ! 」
「「「 え ・・・ !! 」」」
フランソワ−ズの言葉が終らないうちに、重い足音が全員の耳にも聞こえだした。
突然現れた黄金の巨人は 寸分の狂いもなくサイボ−グ達を攻撃してきた。
大きく穿たれた目から 一条の光線を発し標的を破壊してゆく。
「 なんだ?? アレは ・・・ ピラミッドの中にいたのか? 」
「 みんな 散れ! わからないが・・・ 危ないっ! 」
巨人の発する光線は 付近の廃墟を木っ端微塵に吹き飛ばし始めた。
あたり一面に 廃墟のかけらが飛び散る。
ジョ−は背後にいたイシュキックを抱きかかえ 瓦礫の影に身を隠した。
サイボ−グ達は それぞれ手近な場所に転がりこんだ。
「 ・・・ 大丈夫か、フランソワ−ズ? 」
「 え ・・・ ええ。 ありがとう、ジェロニモ。 」
ジェロニモはフランソワ−ズを両腕に抱え自らの背で降りかかる瓦礫から庇う。
「 くそう・・! おい、こいつだ! このオンナが元凶なんだ! 」
グレ−トは激昂し、イシュキックを引っ張り出そうとした。
「 やめろ! 彼女の、イシュキックの意志じゃないんだ。 」
ジョ−が グレ−トの前に出た。
「 ・・・ あ 君 ・・! 」
するり、とイシュキックはジョ−の腕の中から抜け出すと、
振り返り彼をじっと見つめた。 黒曜石の瞳からはらはらと涙が零れ落ちる。
「 −ーーーー ! 」
ジョ−は 一歩 ・・・ 彼女の方へ足を進めた。
「 ・・・ ジョ− ・・・! 行っちゃいけないわッ! 」
フランソワ−ズの悲鳴が上がった。
「 ・・・・ 」
ジョ−は黙って また、歩みを進める。
「 ジョ−! 動いては駄目! 」
フランソワ−ズが悲鳴と一緒にジョ−の前に飛び出した。
瞬間、黄金の巨人はその図体からは信じられないほどの速さで首の向きを変えた。
光線の照準が的確にこちらを狙っている。
・・・ バ ・・・ッ !
「 ・・・ カチッ! 」
フランソワ−ズの耳に聞き慣れた、小さな音が届いた。
・・・ あ。
次の瞬間 彼女はジョ−に抱えられたまま、瓦礫の脇に倒れこんでいた。 ・・・ イヤな匂いが鼻につく。
「 ・・・ ? ジョ− !!! 」
「 ゥ・・・・ ああ、無事かい、フランソワ−ズ。 よかった・・・ 」
「 ジョ−! あなた、脚!! 」
巨人の光線は加速中のジョ−をも捕らえていた。
防護服が膝下で裂け、メカの部品が覗いている。
「 ・・・ 大丈夫・・・ たいしたこと、ないよ。 」
「 でも! ・・・あ、危ない! 」
その時。
・・・ ジ ・・・ジジジジジ・・・・
黄金の巨人の首がゆっくりとサイボ−グ達に向き直った。
ぎらり、と焦点のない目が不気味に光る。
・・・ やられる!
誰もが 直感した ・・・ が ・・・。
「 ・・・・ −−−−−− !! 」
イシュキックはなにか高く叫ぶと ジョ−とフランソワ−ズの前に飛び込んだ。
ビュウ −−−−− ヒュウ −−−− ・・・・
・・・ 全てが静寂に戻ったとき、黄金都市の空を再び風が占領した。
「 ・・・ ロボットだったのか ・・・ ! 」
巨人の攻撃からジョ−を庇い、イシュキックはその稼働を止めた。
無残に焼け爛れた彼女の半身からは 機械の一部が露出していた。
サイボ−グ達は ただ ・・・ 息を呑み ・・・ 首を垂れた。
巨人もまた、サイボ−グ達の攻撃に半壊し 黄金のピラミッドと共に跡形もなく消えてしまった。
ヒュウ −−−− ・・・ ヒュウ −−−−
風が、風だけが 動きを止めた機械人形への挽歌を奏でていた。
「 ・・・ ねえ ジョ− ・・・ 」
「 ・・・ うん ? 」
「 どうして ・・・ 行こうとしたの・・・ 」
「 ・・・ ? なに ? 」
「 ・・・ あの時。 あのヒト・・・イシュキックがじっとあなたを見つめて ・・・ なにか言ったでしょう? 」
「 ああ ・・・ 」
ジョ−はゆるゆるとフランソワ−ズの髪を愛撫していた手を止めた。
お気に入りの髪から離れた指は そのまま艶やかな頬をすべり降りてゆく。
こそ・・・っと桜色の耳朶をつままれ、フランソワ−ズは微かに身をよじった。
「 ・・・ あん ・・・ もう ・・・ 」
「 ふふふ ・・・ 素敵な貝殻だね。 海の音が聞こえそうだ・・・ 」
「 きゃ ・・・ ! 」
熱い吐息が白い耳に吹き寄せた。
「 ・・・ ねえ ・・・ どうして。 」
「 ・・・ うん ・・・ 似ていたからさ。 」
「 似ていた? なにが。 それに、あのヒトの言葉、わかったの? 」
「 いいや。 ただ ・・・ 多分、< 来て > と言ったんだろうね。 」
「 ・・・ そう ・・・ ね。 」
「 でも。 彼女が呼んだからじゃない。 それは ・・・ ちがうよ。 」
「 それなら どうして。 どうして、ジョ−は・・・ 」
青い瞳が 真っ直ぐにジョ−を見つめた。
ジョ−も きっかりとその瞳をとらえ絡め取る。
「 きみの瞳と 似ていたから。
きみの瞳にやどる影と同じものを ・・・ 彼女の瞳にも見たんだ・・・ 」
「 ・・・ わたしの ・・・? 」
「 うん。 あの ・・・ ごめんね、こんなコト言って。 でも・・・ 」
ゆるゆると愛撫の手を止めずに ジョ−は語り続ける。
「 ・・・ みんな行ってしまった・・・って言ってたろ。
あの時のきみの瞳 ・・・ 彼女と同じだった・・・ 」
「 ・・・ え ・・・・ 」
「 放ってはおけなかった。 ・・・ ぼくに何ができる、というのでもないけれど。
できれば あそこから連れ出して上げられれば・・・って思ったんだ。 」
「 ・・・ そう ・・・ 」
置き去りにされたものの影。 永遠の孤独 彷徨う魂の翳り・・・
そんなモノをジョ−は見た、と言う。
「 愛するものを失った哀しみは ・・・ 全てのものが 感じるんだ。
たとえ ・・・ 機械であっても。 」
「 ・・・・・・・ ! 」
「 それは 半身が機械のぼくらが いちばんよく知っているじゃないか ・・・ 」
「 ジョ− ・・・ 」
フランソワ−ズは ジョ−の広い胸にしっかりと縋りついた。
ここにはもう ・・・ あの哀しい風の声は届きはしない。
「 ぼくがいる。 ぼくが ・・・ いつも いつまでも 側にいるよ。
きみにはもう ・・・ あんな瞳をさせはしない。 」
「 ・・・ わたしも。 わたしも ずっとジョ−の側にいるわ! 」
「 きみは置き去りにされたんじゃない。 ぼくを ・・・ 待っていてくれたんだ。 」
そうだろう? とジョ−はほんのりと笑みを浮かべた。
「 ・・・ ジョ− ! 」
大丈夫、きみひとりを ・・・ 待たせはしない。 ひとりぼっちにはさせない。
ぼくがいる。
ぼくがどこまでもきみと一緒だ。 もう ・・・ 独りで風の音に怯えることはないよ。
― ふたりなら。 ・・・ 悠久の時も恐くない・・・!
風の都では 今日もあの風が乾いた音を響かせているのだろうか。
わたしが。 わたし達が すべての機能を停止させるときも
あの風は ・・・・ 挽歌を奏でてくれるかしら・・・
情熱の奔流に身を委ねる寸前に フランソワ−ズはちらりとそんなことを思った。
*********** Fin. ***********
Last
updated : 08,14,2007.
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***** ひと言 ******
え・・・ 今回は苦戦しました〜〜 (;_;) あの短編はすごくコンパクトの纏まっていて
ツッコミができないし・・・・。 一応原作設定 ちょい平ゼロ風味〜なあのお話であります。
超古代のそれも地球の裏側?っぽい地域の人?とは言葉は通じないんじゃないか・・・
との疑念はど〜〜しても無視できず、原作にあるような ちょっとォ?ジョー君?! な
二人の会話場面は書けなかったです。
じっくり原作を読み直して 発見♪♪ ⇒ ジョ−君に、かなりのシ−ンで 睫毛がびしばし描いてある♪♪
さ〜すが少女誌掲載 〜〜〜 と妙なトコロで感心したのでありました。