『 奇人倶楽部 ― (2)― 』
月が登る頃 ― 路地の奥の店 『 奇人倶楽部 』 の ぼんやりした灯が消えた。
やがて中天から白い月が淡い光を振りまきはじめたが 路地の奥には 濃い灰色の闇が淀んでいる。
あの店は 闇の中に溶け込んでしまった。 見つけだすのは容易なことではないだろう。
「 ・・・ 全員集まったか 」
のっぺりした顔の貫録ある老紳士が 肘掛椅子から声をかけた。
「 集まったようね 」
ふわふわした服の中で 化粧の濃い顔が応える。
「 ふふん ・・・ 月に一度の集まり、欠席はないさ。
もっとも この世にいれば、 だけど ・・・ 来月会えるとは誰も保証できない 」
青年が端正な横顔で嘯く。
「 ! 縁起でもないこと 言わないでッ 」
「 現実を述べたまでさ 」
「 だけど ! 」
「 ― 静かにしろ。 くだらん言い合いのために集まったのではないぞ 」
黒づくめの紳士が ぴしっと言い切った。
「 ・・・ わかったわよ ・・・ さあ 始めましょう 」
「 うむ。 」
肘掛椅子の老紳士が やっこらせ・・・と身体を起こした。
「 皆 ・・・ 今月の < 成果 > はどうだな? 」
「 あと ・・・ 8つ よ。 」
「 俺は あと11 」
「 私は 10個だ。 」
「 そうか ― ワシは あと一つ。 だがこれがどうもう なかなか・・・ ふう・・・
それで 店の方はなかなか順調と聞くが ? 」
「 ええ ・・・ こんな地味な場所なんだけど 結構客が入ってくるわ。
ふふふ ・・・ 引っ込んだ場所がかえって気を引くひようね 」
「 その好奇心が 身を亡ぼす、というヤツか 」
「 そうね ・・・ 今 上客を一人、捕まえられそうよ 例の鏡でね 」
「 ほう ・・・? 」
「 その鏡なんだけど ― 」
青年が 苦い顔で全員を見回した。
「 ・・・? どうした 」
「 これを見てくれ 」
コト。 平たい小さなモノが 大理石のテーブルの上に置かれた。
「 ? 例の鏡だろう? そのアイディアはいい。 若い女たちの間で
密かに流行っているらしいじゃないか。 ひっそり … とは 存外根強い
人気になるぞ。 陰に魅かれるのは若い女の常だ。 関心を引く。 」
黒づくめの紳士は 低く嗤った。
「 そうなんだが。 これを ― 」
「 ? 」
他のメンバーは 青年が示した手鏡を覗きこんだ。
磨かれた鏡面には 蜘蛛の巣 が走っている。
「 ・・・ ひっ ・・・! 」
「 な なんだ この ・・・ ひび割れは。 落としたのか 」
「 いや。 ただ写真を取り込んだだけだ。 」
「 これは ― このオンナは ・・・ スペクター か? 」
「 ・・・ え 」
誰もが息を呑み、 ひび割れた鏡面の下の写真を見つめた。
「 ・・・ この国の女じゃない な。 」
「 オレの国の女だ。 しかしここに長く住んでいるらしい。
ごく自然にこの国の言葉を使っていたぞ。 」
「 スペクターなら この店に入ればすぐにわかる はずよ。 一族の匂い! 」
「 うむ。 まったく知りません、という雰囲気だった。
興味深々・・ってオーラ満載で来たぞ。 」
「 そう・・・ それで 話している間はどう? ・・・ マン だった? 」
「 ごく普通の若い女性 というカンジだった。
期待に満ち満ちて 写真をだした。 例のペンダント・トップを付けていたが
とてもよく似合っていた。 あんなによく似合う マン は 珍しい。」
「 それを買っていった男の子は ― 恋人? 」
「 らしい な。 ― あ ・・・ 」
「 なに? 」
「 うむ ・・・ 一瞬手が触れたのだが ― 」
「 なにか 感じた? 」
「 わからない。 ただ 衝撃が走った。 」
「 なに? ・・・ ではやはりそのオンナは我らが一族? 」
「 それが … スぺクターの オーラ は皆無 だったのだ。 一族なら すぐにわかる。」
「
なに それ。
マン でもなく スぺクター でもないモノなんか いるわけないわ 」
「
しかし … 」
「 では ― 死者 か。 ゾンビが混じり込んでいたというのか 」
「 いや 生命の温もりは 感じた 確かに。 」
「 じゃあ やっぱり マン なのよ。 」
「 しかし
… あんなに店の商品が似合うマンは
いるだろうか
そして この 鏡 ・・・」
イケメン青年は 蜘蛛の巣状にヒビの入った鏡をしげしげと眺める。
「 まさか ・・・ ゴッドの手先 … ? 」
白い靄を揺らし 女がふるふると身を揺する。
ゴッド とは マン達の長なのだ。
「 ― わからない。 だが あの女は 不思議すぎる・・・
ペンダント・トップを買っていった少年は どうだった? 」
「 やたらとドキドキしているオーラが強くて ・・・ 本性はよくわからなかった。
でも 我々に対する敵対心とかはまったく感じなかったわ。 」
「 う〜〜ん ・・・ 」
集まっている人々は 皆 重い沈黙に浸ってしまった。
― ギシ。 肘掛椅子から 大兵肥満の紳士が身をおこす。
「 ・・・ ともかく その鏡を使って ・・・集めるのだ。
その女が邪魔をするのだったら ― 消してしまえ。 」
「 そうだ。 我々の目的は ― マンになること ・・・ 」
「 うう ・・・ もう人目を避け 太陽の温かさから顔を背け 暗闇を選んで歩くのは
もう沢山だ ・・・ 」
「 オレたちは ― この星で マン として生きてゆきたい・・・!
そのためには 我らがスペクターの長、デビル に貢物をささげねばならない・・・」
「 スペクターの名を捨てるための儀式なのだ。 」
「 そのために マンの魂が必要 ・・・ 」
「 そうよ! マン の魂を100集めれば …
! 」
「 マンに なれる ・・・! 」
「 醜いスペクターの < 殻 > を捨てられる 」
「 そのために 罠を張るのだ ― ひそやかに そして 広く 強く 」
「 うむ 」
「 そう ね 」
「 この星で 生きてゆくのだ 」
バサ ・・・! 黒づくめの紳士が立ち上がり腕を大きく振る。
ゆらあ〜〜〜り ・・・ 薄暗い灯がなぜかゆらゆら壁に大きく影を作った。
タピスリーを下げた壁に映るのは 巨大な蛾 狼男 羽ばたく蝙蝠 そして 山椒魚 !
この星の生命とは別の生き物たちが蠢いていた。
「 ・・・ やっぱり。 ともかくあの茶色い髪の青年の魂を 狩れば ! 」
集会室のドアの向こうで ごく若い女性が耳を欹てている。
一見してすぐに < 店の制服 > と思しき地味なスーツを着ているが
あまり似合ってはいない。
「 あと一つ。 一つなんだわ。 ― パパ。 待っていて、アタシが必ず・・・
エサは撒いたわ。 あとは ・・・ 獲物がやってくるのを待つの 」
少女は足音を忍ばせ離れていった。
わお −−−− ん ・・・ どこかの路地裏で犬が声をあげていた。
バタン ― 玄関が賑やかに開く。
「 ただいま〜〜〜 買い出し、行ってきたよ〜〜 」
ぱたぱたぱた ・・・ すぐにフランソワーズが出てきた。
「 お帰りなさい ジョー ありがとう! 」
「 えへ・・・ 牛乳と〜お米と〜ジャガイモと〜! そうそうついでにさ
アイス 買ってきた! 一緒に食べようよ 」
「 あら 冬のアイス? 暖かいお部屋の中で美味しいわね きっと 」
「 だろ? あ っと 先に冷凍庫に入れておくね〜〜 」
両手にパンパンのレジ袋を下げ 彼は身軽にキッチンに飛んでいった。
そしてたちまちリビングに戻ってきた。
「 ありがとう〜〜 ジョー ものすごく助かっちゃう♪ 」
「 カルイ カルイ〜 あ お茶 淹れようか 」
「 わたし やるわ。 ジョー 手を洗って 」
「 ウガイもしてきま〜す♪ アイロンがけ してたんだ? 」
「 ええ もうこれでお終いよ。 あ ・・ ジョー ・・・ あの
このハンカチ … 買ったの? 」
フランソワーズはアイロン台の上のハンカチを指した。
「 え? ・・・ それって 」
見覚えがおおいにある青い布だ。
あ。 アレって。 この前、あの店の女の子が届けてくれたのじゃん・・・・?
「 ・・・ あ〜
あれ ? ぼくの
じゃなかったっけ? 」
「 同じ色のは あるけど。 ・・・ イニシャル入りの。 わたしが
… 」
彼女はなんとなく伏し目がちになりハンカチを見ている。
?? ― ! そ そうだ!!! あれって!
やば〜〜〜〜・・・! ジョーの中でアラームが鳴る!
「 あ そ、そうだよね〜 いっけね〜 やっぱ間違いだよな〜
バイト先でさ〜 誰かのと間違えてもってきちゃった・・・ 返しに行くよ。 」
「 そうなの? じゃあ ・・・ お返ししてね。 」
「 あ うん。 そうするね。 あのブルーのハンカチは大事な日だけに使うんだ〜 」
「 そう ・・・? 」
「 うん! 」
ジョーの < ブルーのハンカチ > は フランソワ−ズ と出会った後
初めてのバースディにもらった
ジョーの宝物なのだ。
隅に
濃いブルーで イニシャルの刺繍が入る。
ヘタで恥ずかしいけど・・・ とフランソワーズは照れくさそうに笑っていた。
「 え! き きみがこれ・・・つくったの?? 」
「 刺繍だけ よ。 」
「 う わ〜〜〜〜 おぅ〜〜〜 ぼくだけの世界にたった一つのハンカチだあ〜〜 」
「 ごめんなさい、こんなモノしか用意できなくて
」
「 ありがと〜〜〜 これ! 大事にするよ〜〜 」
「 あら 普通に使ってね? 」
「 うわ〜〜〜〜い♪ 」
ジョーにとって とっておきの日 にだけ使う特別なハンカチ となった。
「 はい これ。 」
「 ありがとう・・・ 」
きっちりプレスされたハンカチを受け取った。
やっぱマチガイだったんだ ・・・
うん あの店、 鏡を受けとるついでに返せばいいよな〜
チラ・・・っとツイン・テールを揺らしていた少女の顔が浮かんだが すぐに忘れた。
彼の目の前は お日様よりも明るい、愛しい女性 ( ひと ) の
笑顔が ぱあ〜っと輝いているのだから。
「 え〜と・・・? こっちの路地だったはずだよな〜〜 」
ジョーはきょろきょろしつつ 家と家の隙間みたいな小路の奥を覗いた。
昼の光の下では ほとんど目立たないあの看板がちらっと見えた。
「 あ あった〜〜 やっぱここだよ 」
― から〜〜〜ん ・・・ 引き戸を開けると低くドア・ベルが鳴った。
「 あ あの〜〜〜? 」
目の前には 薄暗い店内の中にぽう・・・っとショー・ケースが光っていた。
「 うん確かにここだよね。 ・・・と 今日もなかなかヒトが出てこないなあ〜 」
ジョーは店内に入り、またもきょろきょろ見回している。
「 あの〜〜〜 すいません〜〜〜 ・・・ってやっぱ不思議な雰囲気だよな ・・・
あ ・・ またあの炎が見えるよ 」
彼はそろっとショー・ケースを覗きこむ。
「 燃えてるよ ・・・ でもこの炎は冷たいんだよなあ 」
前回も 目を見張った指輪、透明な宝石から炎があがっている ようにみえる。
そう・・・っと手を翳してみるが 熱を感じるどころあひんやりとさえするのだ。
「 うわ・・・ ホント これって魔法使いの指輪 だよ〜〜
これも買いたかっただけど ・・・ ちょっとぼくには手がでないなあ 」
「 ― お客さまあ〜〜 失礼いたしました。 いらっしゃいませ 〜〜 」
聞き覚えのある声が近づいてきた。
「 あ 勝手に見てて すいません 」
「 いえいえ こちらこそ店を空けまして ・・・ 申し訳ありませんでした。 」
ツイン・テールのアタマが ひょこん、とお辞儀をした。
「 あ〜〜 ぼくこそ・・・ あ この前の店員さんですね?
」
「 ― はい ??? 」
若い店員は 目をぱちぱちさせている。
「 あの・・ この前、わざわざこれ・・・ 届けてくれましたよね 」
「 ? ― あ〜〜〜 あの ・・・・ 」
ジョーはごそごそ〜〜 ポケットから小さな包みを取りだした。
「 これ ほら。 ハンカチ。 わざわざ追い掛けて届けてもらったけど・・
ぼくもほいほい受け取ったけど ― やっぱり違ってて ・・・・
お返ししますね。 ちゃんと洗濯してアイロンしてきました 」
「 まあ〜〜〜 わざわざ・・・ お客さまが? 」
「 え ? 」
「 お客さまがお洗濯なさってアイロンを ・・? 」
「 あ いや その・・・ ちょっと違うんだけど ・・・ でも
本当にありがとうございました。 本来の持ち主さんに返してください 」
ぴょこん。 ジョーは丁寧にお辞儀をした。
「 いえ ・・・ そのう〜〜 アタシの方こそ・・・勝手に勘違いしまして・・・
ご迷惑をおかけしました。 」
ぴょこん。 彼女も深くアタマを下げた。
「 あっは・・・ お辞儀ごっこ お終いにしませんか。
じゃ これ。 お返しします。 」
「 ありがとうございます 」
彼女は きっちりプレスされた青いハンカチを受け取った。
「 すみません わざわざ ・・・ 」
「 あ あの 今日は 鏡を・・・ ほら あの鏡、もうできてるかな〜って思って
この前、彼女が写真をもってきたと思います 」
「 ・・・ あ ああ ああ はいはい ・・・ すぐにお持ちしますので
少々お待ちくださいませ。 」
ツイン・テールを揺らし、彼女は小走りに奥に引っ込んだ。
「 ・・・ ふ〜ん ・・・ なんか不思議の館だよなあ この店・・・
グレートとか気に入りそうだな。 あ あのランプとか大人のお店に置いても楽しいかもな〜 」
ジョーは好奇心ワクワクで 店のあちこちを眺めている。
「 お客さま ― おまたせいたしました。 」
「 あ ・・・ どうも 」
先ほど彼女が 小さな包みを手に戻ってきた。
「 こちらになります 」
パチ ン。 微かな音と共に鏡が開いた。
「 ? 写真 は・・・? 」
「 ふふ ・・・ ちょっとこうして・・・光を斜めに当ててくださいな 」
「 ・・・ こう ・・・? あ。 わあ〜〜〜 」
ぴかぴかの鏡面に ゆらゆら〜〜 ジョーの愛しいヒトの笑顔が浮かんできた。
「 わ ・・・ フランの笑顔だあ〜〜 」
「 ふふ 彼女さんですか 」
「 え! ・・・ え〜と ・・・ はい そうです。 わ〜〜 いいなあ〜 これ 」
輝く笑顔に ジョーは改めてほれぼれと見つめなおしてしまう。
えへへ ・・・ いいなあ〜〜〜
フラン ・・・ キレイだあ 〜〜
「 お客様も如何ですか? 」
「 へ?? これで満足ですが 」
「 ええ ですから ペアで・・ お客さまのお写真入りの鏡をプレゼントなさっては? 」
「 え〜〜〜〜 ぼくのぉ?? い いやあ それは〜〜 ちょっと ・・・
あは ぼくの写真なんかいらないよ きっと 」
「 あら そんなことありませんよ? 」
「 いや ・・・ 」
「 それじゃ ご家族の写真とか? お母様にプレゼントなさるのは如何ですか
家族記念日 とか お誕生日 とか 」
「 あ〜 ぼく 家族っていないんで 」
「 ・・・ 失礼いたしました。 これ お包みいたしますね 」
「 お願いします。 」
「 少々お待ちくださいませ。 」
「 はい。 あ・・・・ お店の中 見てていいですか 」
「 どうぞ どうぞ 」
ジョーは 照明を落とした店内をゆっくり歩き回った。
へえ ・・・ 暗い光っていうのもいいなあ ・・・
陰の部分って なんか ・・・ 惹きつけられる
「 お待たせいたしました お客さま 」
「 あ はい 」
ショー・ケースの上には あの鏡が渋い金色の紙に包まれていた。
「 ・・・ ありがとう〜〜 」
彼は支払いを済ませると 包みをそう・・・っと取り上げた。
「 ここは 本当に不思議なところですね ・・・ なんだか別世界みたい
魔法使いの家みたい 」
「 うふふ ・・・ 皆 手品みたいなものですわ
この世に魔法なんてありません。 魔法使いなんていません。 」
「 そりゃそうだけど 」
「 それに 明るい光の方が ステキだと思いますわ。
アタシは ・・・ 暗い月よりも太陽が好き。 明るい太陽が 」
黒い大きな瞳が なぜか淋しそうに瞬く。
「 あ〜 そうだね 」
「 あ・・・ 余計なおしゃべりをしてしまいました 失礼いたしました。 」
「 いや ・・・ いろいろありがとう! それじゃ 」
「 こちらこそありがとうございました。 」
深いお辞儀に送られて ジョーはそのほの暗い空間を後にした。
「 ふう・・・ えへへ フラン、きっと喜んでくれるよなあ ・・・
すごく楽しみにしてたし ・・・ でも手品って言ってたけど タネはどうなってる
のかな 」
大通りにでれば 賑やかな音と色とそして明るい光の洪水だ。
「 おっと ・・・あは なんだか眩しいなあ ・・・ あ この前の花屋だ
うわあ ・・・今日もキレイだな 」
角の花屋の店先には 春の花の小さな花束がそろっている。
「 陰の魔法もいいけど ― お日様がいいな やっぱ ・・・
フランはぼくのお日様さ ・・・ えへへ ・・・ 」
アタシは太陽が好き ・・・
不意にあの少女の瞳が浮かんだ。 闇よりも黒く艶やかな − 淋しい瞳が。
ジョーの足は 花屋の前でとまった。
「 ・・・ あ あの。 これください。 」
「 いらっしゃいませえ〜〜 あ スミレですね、はい。 」
「 ど〜も・・・ 」
彼は 紫の小さなブーケを受け取ると今きた道を戻っていった。
から〜ん ・・・ ひくくドア・ベルが鳴る。
ツイン・テールの娘は ぱっと顔をあげた。
「 いらっしゃいませぇ 」
「 あ あの〜〜 これ! 」
「 え?? あ さっきの?? 」
さっき帰ったばかりの客にいきなり深紫色の花束を差し出され ツイン・テールの彼女は
本当に目が飛び出さんばかりに驚いていた。
「 その・・・ これ ・・・ 元気のモトです。 」
青年は 長めの前髪の陰でもごもご ・・・ 言った。
「 え あ アタシに? 」
彼女の瞳はますます大きくまん丸になった。
「 あ の。
ごめん ・・・ なんかそのう ちょっとキミが その 寂しそうに見えて
あ ごめん 失礼かなあ ・・・ でも ・・・ 」
スミレの花がふるり、と揺れた。
「
ありがとう … ! う うれしいです 〜〜〜 」
彼女は 小さなブーケをそっと受け取り胸に抱いた。
「 ・・・ なんか ・・・ こんなステキなもの、頂いたのって
は 初めて ・・・ 」
ぽと ぽと ぽと。 大きな瞳からこれまた大きな雫が床に落ちる。
「 ぁ ! ご ごめん〜〜〜 あの あの〜〜 」
茶髪ボーイは大慌てで でもどうしていいのかわからない風情だ。
「 ・・・ ご ごめんなさい・・・ 泣いたりして ・・・ 」
ポケットからハンカチを引っぱりだし、彼女は目を拭った。
「 あの 気に障ったら ・・・ ごめん ! 」
「 い いえ 本当にうれしいんです。 ああ アタシ ・・・・
いつかこんな風にファンの方から花束 貰いたい ・・・ 」
「 ファン?? 」
「 はい。 アタシ マジシャンになりたくて 」
「 ― マジシャン ?? 」
「 はい。 手品師とか奇術師のことです。 ずっと修行しています。
この店のマスターとかもマジックに詳しいから 」
「 あ〜 そうなんだ? じゃ ここの店員さんはバイト? 」
「 はい。 この店の不思議な雰囲気に惹かれて
こんなカンジのミステリアスなマジシャン になれたらな〜って
・・・ 」
「 あ そうだね〜 確かにココは ミステリアスだ ・・・ 」
ジョーも大いに頷きつつ 改めて店内を見回す。
「 アタシの 死んだパパも マジシャンだったの。
だから アタシ ・・・ パパみたいな ううん パパよりもっとミステリアスな
魔法使い になりたい。 」
「 そっか ・・・ じゃ ぼくはマジシャンの君のファン第一号さ。 」
「 あ アタシ 魔子っていいます。 」
「 マジシャン・魔子さん? 君のステージ 一番にみに行くよ。 きっとね。
あ ぼく ジョーっていいます。 」
「
ジョー・・・さん? あの鏡の … 彼女さん とご一緒に?
」
「 あ う
うん。
彼女も こ〜ゆ〜雰囲気 好きだし 」
「 きれいな方ですねえ ・・・ フランス人形みたい ・・・ 」
「 あ 会った? 」
「 え? いいえ。 でもほら 鏡の写真で拝見して 」
「 あ そっか〜〜 」
「 あの。 このお店の品物はステキだけど。
これが一番 キレイで ・・・ アタシは好きです ― 」
彼女は スミレのブーケにそっと唇を寄せた。
あ ― キレイ だな ・・・
ジョーは素直に感じた。
瑞々しい 自然の美の前に 俄に周囲の凝った綺羅たちは 色褪せてみえた。
「 あ ・・・ じゃ どうも ・・・ 」
「 ! ありがとうございました! 」
「 いや ・・・ 」
ジョーは 店のドアの取っ手に指をかけた。
「 あ あの! 」
「 ? はい? 」
「 あの ・・・ 写真 撮ってもいいですか?? 」
「 写真? 」
「 はい。 お客さまの ・・・ 記念に ・・・ 」
「 え〜〜〜〜〜 ぼ ぼくのぉ ?? 」
「 ダメ、ですか? 」
「 ぼくの写真なんか〜〜 つまんないよ〜 」
「 いえ アタシのファン第一号さんの記念に! お願いです、ご迷惑はおかけしません。」
少女の瞳には真摯な光が満ちている。
「 ・・・ ぅ〜〜〜 あ! それじゃ、この店に来た記念に・・・
ここをバックに撮ってくれるかな 」
「 ええ ええ ありがとうございます! 今 すぐ・・・! 」
「 えへ ・・・ やっぱ照れくさいなあ〜〜 」
大いに照れまくった後、 ジョーは銅製の大きなランプと一緒に写真に納まった。
― その夜 あの店の奥の小部屋で
「 ・・・ っと これでいいわ。 間違えてない はずよ。 ― ・・・ !! 」
ツイン・テールが 淡い灯の元で揺れる。
「 ― これで ・・・ 魂を取り込める ・・・ 」
震える白い指が 二つ折になった小さな鏡を開く。
「 !! ・・・ う そ ・・・!? 」
カッタ ―−− ン ・・・!
彼女の手から転げ落ちた鏡の表面は ― 大きく二つに割れている。
「 そ そんな ・・・ あのヒトは スペクター ・・・? 」
Last updated : 03,15,2016.
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******** 途中ですが
やっぱ 平93 ですね〜〜〜〜
まだ続きます、 すいません <m(__)m>