『   道   』   

 

 

 

 

 

 

 

「 ・・・ え〜と・・・ パンは買ったし。 明日の朝のミルクも卵もオッケーね。

 あら。 キレイな花束・・・ 欲しいなあ・・・ 」

少女の足が色とりどりの花屋の店先でとまった。

 

「 はい、秋のバラですよ〜 菊もありますよ。 そこのキレイなお嬢さん、お安くしておくよ! 」

「 ・・・ あ。 あの ・・・ 

彼女は きゅ・・・っと財布の入ったバッグをつかんだ。

「 ほら、このバラ、どう? お嬢さんの髪の色にぴったりだと思うよ。 」

「 え・・・ 」

「 ほらほら お安くしておくよ? う〜ん、美人の隣だとさすがの花も負けてるねえ〜 」

花屋のオヤジはなかなかの商売上手である。

 「 あ・・・ あの。 しゅ・・・主人に聞いてから・・・ 」

「 おほ♪ オクサンだったのかい?? そりゃまた シツレイしました〜〜 

 ふ〜うん ? 新婚サンかなあ。 どう? 甘あ〜〜い愛の巣を飾ってみない? 」

「 い・・・いえ・・・・ 」

少女は真っ赤になって 俯いたまま足早に前の道を突っ切っていった。

 

   ああ・・ もう・・・! よかった・・・ お金、あんまりないのよね・・・

   でも。 あのお花・・・・ きっと彼も喜んでくれただろうなあ・・・

 

ちょっとだけ 溜息がもれてしまった。

両手に下げたス−パ−の袋が さっきよりもグン・・・・と重く感じられた。

手に沢山のものを持つことには あまり慣れていなかった。

いつもはカ−トを使うのが普通だったし、買い物にゆくことはほとんどなかったのだ。

 

  いけないわ。 こんな体験、めったにできないのよ?

  ・・・ ああ・・・ 大地を踏みしめて歩くって素敵だわ。 両手に荷物を持つって不思議な感覚ね。

  さあ! 早く帰って 晩御飯 つくらなくちゃ。

 

よいしょ・・・と荷物を持ち直すと 少女は長い髪を背に払い元気に歩き始めた。

 

毎朝、どんどん空気が冷たくなって来ている。

近所の公園の木々も毎日ちがった佇まいをみせるようになった。

 

  ああ・・・ キレイねえ・・・・ <自然> って本当はこんなに優しいのね

  ・・・ 空気もお日様も ・・・ 緑も。

  みんな 微笑んでいるわ ・・・ みんな 嬉しそうよ ・・・

 

道を歩きながら、自然に口元に微笑が浮かんでしまう。

学習してきた <世界> や <自然> は 本当はとても穏やかで静かな場所だった。

なにもかもが抱き締めたいほど 素晴しかった。

 

  今日も素敵な日だったわ。 あら、お日様の色がオレンジっぽくなってきたわ

  また 明日・・・ってご挨拶ね。 明日はどんな日かな、なにが起きるのかしら。

   ・・・ もしかして・・・ そうよ、あのコトも。 本当、かもしれないわ。 ・・・ ねえ?

  ああ、明日が待ち遠しいわ・・・!

 

カン カン カン カン ・・・・

 

アパ−トの外階段が 陽気な音で彼女を迎えてくれた。

「 ふふふ・・・ただいま! 階段さん。 今日はいいお天気だから階段さんもご機嫌ね。 」

古びたモルタル造りのアパ−トの一室へ 少女の弾む足取りが向かう。

重たい買い物袋を置くと バッグから鍵を出し ちょっと力をこめてまわす。

カチリ。

薄っぺらい戸はカタンに開いて彼女を迎え入れた。

「 ・・・ ただいま・・・! 」

誰もいない狭い部屋が それでも彼女にはたまらなく愛しい空間なのだ。

「 さあて、と。 今日はお肉が思ったより安かったから♪

 彼の好きなシチュウにしましょう。 え〜と・・・ 人参さんと玉葱さんと・・・ 」

少女はてきぱきと夕食の準備を始めた。

 

 

 

「 ・・・ ねえ? 美味しい? 

「 え・・・? ああ、うん!  勿論! すごく・・・美味しいよ、このポトフ。 」

「 ・・・ あの ・・・ シチュウのつもりなんだけど。 」

「 あ・・! ご、ごめん・・・ うん、本当に美味しいよ。 」

「 どうしたの? 何を考えているの。 」

「 ・・・ ううん なにも ・・・ 」

「 うそ。 あなた、帰ってきてからず〜っと上の空だわ。 

 ねえ 教えて。 ・・・ それとも私には言えないこと? 」

質素な、でも暖かい食事がテ−ブルの上に並んでいる。

少女が一生懸命に調えた今晩の 二人の晩餐なのだ。

「 私たち・・・ 二人っきりなのよ。 二人で・・・ ここで生きて行こうって決めたじゃない。

 どんなことでも驚かないわ、教えてください。 」

少女は食事の手を休め、青年の顔をじっと見つめた。

淡い色の瞳は大きく見開かれ 強い光を湛えている。

「 ・・・ この花、見て? これね・・・ このアパ−トへの道の端っこに生えてた雑草なの。

 本当はお店でキレイなお花を買いたかったのだけど私達には高すぎたわ・・・ 

 でも これ、雑草でもこんなに活き活きとしてキレイだわ。 

 私達 みたいよね。 ・・・ 私、踏まれても平気よ。 」

「 ・・・ ああ、君に隠し事はできないな。 」

青年は溜息を一つ洩らすと、笑みを浮かべスプ−ンを置いた。

「 ずっと考えていていたんだ。  そう・・・ ココに来ると決まったときから。 ずっとね。 」

「 ・・・ ? 」

「 君は ココの暮らしが好きかい。 こんな狭くて不便はトコでの生活が好きか。 

「 ・・・ なにを言いたいの? 

「 なにもかも自分達でやらなければならず、欲しいモノも満足に買えない。

 働き詰めで食べて寝てそれしか出来ない、こんな暮らしが君は好きか。 」

「 ・・・ ええ、好きよ。 

 確かにお買い物の荷物は重いし、毎日お食事をつくったりお洗濯したり・・・忙しいわ。

 もうクタクタよ。  たった一輪のキレイなお花すら買えないわ。 」

「 ・・・ ごめんな。 不自由な思いばかりさせて・・・ 」

「 でもね、あなた。 私 ・・・ この生活が好きよ。

 自分の手で持って 自分の脚で歩いて。 空はなんて青いのかしら。

 空気はどうしてこんなに爽やかなの。 ウチには庭なんかないけれど、

 外を歩けば木の葉が揺れる音がして いい香りもするわ。  

 ねえ、この世界って・・・ 本当になんて素敵なの? 」

「 ・・・・ 君 ・・・・ 」

「 私ね、ココに、あなたと一緒に来れて本当に幸せだわ。 

 ええ、そうね。 はっきり言うわ、私はここで生きてゆきたいの。 」

少女は頬をほんのりと染め 熱意をこめて語った。

「 ・・・ そうか。 」

「 この小さな草のお花・・・ こんな風に生きてゆけたらいいな、って思うの。

 ・・・ あ、ごめんなさい。 私の気持ちばっかり・・・ ねえ、あなたは? 」

「 うん? 僕かい。 」

「 そうよ。 ・・・ あの ・・・ もしかして ・・・  あの ・・・ もう ・・・

 私と暮らすの ・・・ イヤになった・・・? 」

少女はしゅん・・・と俯いてしまった。

「 な! なにをバカなこと! 」

青年は 驚いて腕を伸ばし、少女の手を引き寄せた。

「 そんなコト、考えたこともないよ。 」

「 ・・・ あなた ・・・! 」

「 うん。 僕もココで・・・ ずっと生きてゆきたいんだ。 きみと一緒にね。 」

「 ・・・ ああ ・・・ わたしも、わたしもよ! 」

「 ちょっと確かめておきたかったんだ。 」

大きく頷いてから 彼はぐっと手に力を入れた。

 

「 逃げよう。 一緒に。 ココで・・・ この時代で生きてゆこう! 」

 

「 ・・・ あなた・・・!? 」

「 わかってる。 僕達は使命を受けて送りこまれた工作員だ。 

 だけど。 その <使命> は 正しいコトだと思うかい。 」

「 ・・・ え ・・・ そ、それは・・・! 」

「 自分の望みのために 他人を無理矢理押しのけるのは正しいことなのか。

 そりゃ・・・ <彼ら>には責任がある。 だけどこんなやり方に僕は賛成できない。 」

「 あなた。 私もそう思うわ。 でも ・・・ 逃げるってどこへ? 」

「 わからない。 でも、このまま・・・<使命>を達成することは僕には出来ない。

 しかし使命放棄すればたちまち追っ手がかかるだろう。 だから その前に・・・ 」

「 ・・・ わかったわ。 逃げましょう。

 この時代のどこか、そうね、やっぱり大都会がいいわね。

 ゴミゴミした街の片隅で二人きりで生きてゆきましょう。 」

「 ・・・ うん、さすがに君だな。 僕のパ−トナ−だけあるよ。 」

「 あなた。 ・・・ 一緒よ、どこまでも・・・  」

「 ああ、勿論だ。  ・・・ おいで。 」

青年は少女を引き寄せた。 

柔らかい淡い色の髪から ほのかに甘い香りがにおいたつ。

彼はふわり、とその髪に顔を埋めた。

「 ・・・ ああ ・・・ いい香りだ・・・ 君の匂いだ・・・・ 」

「 あなた・・・ ああ・・・ 愛しているわ・・・ 」

「 僕もだよ。 そうだ、無事に逃げられたら・・・ 結婚しよう。 」

「 ・・・ まあ ・・・ 本当? 私達の世界では許されなかったのに。 」

「 いいさ。 だって僕達は この時代に生きてゆくのだもの。 」

「 ・・・あなた ・・・ 」

「 やだな、どうして泣くのかい。 」

「 ・・・ これはね、嬉し涙よ。 涙は悲しい時にだけ流れるんじゃないのよ。 」

「 はい、先生!  ふふふ・・・君の方がずっと詳しくなったね。 」

「 そうかしら? あのね、昼間に花屋のオジサンに 新婚さんかい? って・・・・ 」

「 こんどからさ、 はい、そうですって言えるね。 」

「 ええ・・・ ああ、こうやってあなたの腕の中に居られるなんて・・・ずっと夢みていたの。 」

「 ・・・ 僕もさ。 君と肩を並べて一緒にのんびりと散歩したり。

 なによりも君をこの・・・腕で抱き締めるってなんて素敵なんだろう! 

 そうさ、それに一緒にジョギングだってできるんだもの。  本当に 夢みたいな日々だよ。 」

「 私も・・・ 土の上を歩くのってとっても気持ちがいいのね。 足の裏からパワ−が伝わってくるの。

 一歩一歩進んでゆくって 素晴しいことなのね。 」

「 ああ・・・ 本当にそうだね・・・ 」

彼は少女の頬を両手でそっと掬いあげる。

「 君の髪は太陽と月と 両方の輝きが含まれているんだね。

 ああ、この瞳には星の煌きが見える・・・

 ココに来て、 やっとわかったよ。  本当にきれいだ・・・ 」

「 まあ、どうしたの? あなたの髪と目には大地と夜の優しさがあるわ。

 この地域の人たちととてもよく似ているわね。  」

「 そうだなあ。 どこか遠い昔にここの人たちの血が混じったのかもしれない。 」

「 きっとそうね。 名前もほら、この部屋を借りるときとか・・・全然普通に受け入れてもらえたもの。 」

「 うん、まあ、だから僕たちがこの地域に投入されたのだろうな。 」

「 そう・・・ でも私、この町が好きよ。 お日様が暖かくて風が優しくて。 雨だって

 とっても綺麗だわ。 ああ・・・ こんな町にこんな時代に生まれたかった・・・・・ 」

「 ・・・ 本当にそう思うかい。 」

「 ええ。 この町であなたと・・・ あなたの・・・こ、子供と暮らしてゆけたらどんなにか・・・

 ああ、ごめんなさい、言ってはいけないことよね。 」

「 ・・・・・・ 。 」

青年は少女の髪を そっとかきあげた。

まだ目尻にちょっとだけ涙が残っていたけれど、彼女はぱあ〜〜っと微笑んだ。

「 あの、ね。 もしかしたら・・・ とってもステキなことが・・・待っているかもしれないの。 」

「 え? なんだい。 」

「 うふふ・・・ まだナイショ。  でもね、この時代に来たから叶うのかもしれないわ。 」

「 ?? なんだろう、僕にはさっぱりわからないよ。 」

「 ふふふ・・・ とってもイイコト、ステキなことよ♪ もうちょっと・・・待ってね。 」

「 ああ・・・いいけど? なんだろうなあ〜 」

青年はさかんに首を捻っている。

少女はもう満面の笑みを浮かべ 彼の顔を覗きこむ。

「 ねえ、ちょっとだけ。 お散歩に行かない? 」

「 え・・・ 今、これからかい。 」

「 あの、もしあなたが疲れていなかったら。 夜に出歩くなんて<ここ>でしか出来ないでしょ。 」

「 そうだね。 よし、それじゃ・・・ 新婚気分で行こうか。 」

「 わあ〜〜 嬉しいわ。 ちょっと待っていてくださる? 着替えてお化粧、なおして・・・ 」

「 そのままで十分だよ? 君は化粧なんかしなくても とてもきれいだ ・・・! 」

青年はじ・・・・っと彼女を見つめると もう一度その身体を抱きしめた。

 

「 ・・・ ああ、愛しているよ・・・! 君に会えてよかった・・・ 」

「 あなた・・・! ええ、わたしも・・・わたしもよ。 」

 

そろそろ夜になると街には木枯らしにも似た冷たい風が駆け抜けてゆく季節になっていた。

やがて。

ボロアパートの二階から一組の恋人達 肩を寄せ合い降りてきた。

青年はしばらく時計を見ていたが二人はそのまま夜の街に吸い込まれていった。

 

 

 

 

  ・・・ あ ・・・!! 危ないッ!

 

  ??  キャ −−−−−− !!

 

キキィ 〜〜〜〜  ドンッ ・・・・!

 

悲鳴が響いた次の瞬間に 青年の身体は宙に投げ飛ばされ ― やがて地に叩きつけられた。

少女は 鈍いイヤな音に顔色を変えた。

青年は道路に蹲ったままで、唸り声だけが微かに聞こえる。

 

「 !! だ、大丈夫?? ・・・ どこが痛いの? 大丈夫? ねえ私の声、聞こえる? 」

「 ・・・ う ・・・・  あ・・・ ああ・・・  き、君こそ ・・・大丈夫か・・・ 」

「 ええ、私はなんともないわ。 ああ・・・ どうしましょう・・・・ 」

 

キキキ ・・・ !! ガシャーーーーン ・・・!!!

 

青年を引っ掛けた車は そのまま道路沿いの店舗にアタマを突っ込んでようやく止まった。

「 あなた! しっかりして・・・・ どこを打ったの? 」

「 ・・・ 大丈夫だ ・・・ 心配は いらない ・・・ ちょっと肩を打っただけ・・・

 君が ・・・ 無事でよか・・・った ・・・ 」

「 本当? 肩だけ? よかった・・・! でも、どうして。 あの車、まさか・・・ 」

「 いや。 そうじゃないと思う。 ヤツらならこんな ・・・ 原始的なことはしないだろう・・・ 」

「 そうね・・・ さあ、早く帰りましょう。 ああ! 血が! ほら・・・ 怪我してる・・・ 」

「 う ・・・ ん・・・。  あれ・・・ どうもちょっと・・・? 」

「 え? ・・・ あ!! あなた ・・・ 腕が・・・! 」

「 ・・・ あ! し、しまった・・・! 」

 

「 お〜い・・・大丈夫かあ? ああ、やっぱ事故ってるぜ〜 」

「 なんだなんだ? なんだか妙な音がしたぞ? 」

「 ねえねえ事故だって! 」

「 ・・・ え〜〜〜 誰か轢かれたの? わ〜 やだ〜〜・・・ 」

人通りはほとんどなかった道にわらわらと人々が集まりだした。

 

「 おい? あんた、大丈夫かい? 

「 ・・・・・・・・ 

白のユニフォ−ムめいた上下に身を包んだオトコがとんできて声をかけた。

 

   ・・・ あ・・・! コイツ、 腕を ・・・!

 

「 あ・・・ あの・・・? 」

「 ああ、ウチはそこの店なんだ。 も〜〜この車、なんだあ? 派手に突っ込みやがって! 

 あ! それより あんた・・・ 腕が??? 」

「 う ・・・ ううう 大丈夫 ・・・で ・・・ 」

「 大丈夫じゃないよ! 酷い怪我じゃないか。 さ、こんなとこにいちゃダメだ。

 ともかく ひとまずウチの店に来なさい。 」

「 ・・・ はい ・・・ ありがとうございます。  大丈夫、あなた。 歩ける? 」

「 う・・ ああ・・・ なんとか・・・ 」

「 ほらこっちだよ。  あ! そうだ、救急車〜〜 

 お〜〜い、張大人〜〜 怪我人だよ、救急車、頼む〜〜 」

オトコはばたばたと店に駆け込んでいった。

その拍子に被っていた帽子がつるりと落ち、ゆで卵みたいな禿アタマが現れた。

 

「 ・・・ ごめんなさい・・・ 私が・・・ 夜の散歩に行って見たいなんていったから・・・ 

 ああ、私のせいね。 しっかりして・・・ 」

「 なにを言うんだ・・・ そんな・・・ それよりも あの腕を・・・ 」

「 ・・・! そうだわ!  ああ・・・でも 本当に大丈夫? 」

「 大丈夫。 僕のことよりも君は あの腕を頼む。 」

青年の声はどんどん低くなってゆく。

夜目にも彼の顔色が蒼ざめてゆくのが はっきりと見て取れた。

「 はい、わかったわ。 ああ・・・ しっかりして ・・・ 

 なんてこと・・・ あんなに あんなに・・・幸せだったのに 

「 ・・・ 僕に ・・・ もしものことがあっても 君は生きろ・・・ いいね。 」

「 そんな ・・・ 」

「 ・・・ いいね。 約束だよ。 生きるんだ! どんなことがあっても、だ。 」

「 ・・・ ええ ・・・ 」

ふらつく足元を踏みしめ、青年は少女の頬に手を当てた。

「 ・・・ 愛しているよ、いつまでも いつまでも。 ・・・ 僕の リナ ・・・ 

「 私もよ、愛しているわ! 私の ジャック・・・! 」

重ね合わせた唇の内に 少女は微かに血の匂いを感じ取っていた。 

 

 

 

 

「 それでさ。 」

グレ−トは言葉を切り、ずずず・・・・っとコ−ヒ−を飲み干した。

「 これがその問題のシロモノなのだが。 

 ・・・ ジョ−よ? 馳走になっておいて言うことではないが。 お前、コ−ヒ−くらい

 ドリップで淹れたらどうだ? 」

「 え。 ああ、ゴメンごめん・・・ もう気楽な独り暮らしなんでね、インスタントしかないのさ。 」

「 ふん・・・ それにな、いい加減でこの暮らしも切り上げたらどうかね。 」

「 ・・・ え? 」

「 そうアル。 ジョ−はん、アンタな〜にが気ィに喰わんのんかいな。 」

「 なにが、って・・・? 」

「 だ〜から。 あの邸を出てこんな・・・ 侘しい一人住まいをしているってこと。 」

「 え・・・ そんなに <侘しい> かなあ・・・ 」

「 そりゃな、思い切り羽を伸ばしたいっつ〜お前の気持ちも判らなくはないが、だな。 」

「 羽を・・・って。 単にここの方が便利だから住んでいるだけなんだけどなあ・・・ 」

「 いんにゃ。 あんたはんはそない思うてはっても 周りはそうはとりまへんで。

 なにか・・・ ワケっちゅうもんがあるのんかいな。 」

「 いや別に。 だから・・・ そのう・・・ 」

ジョ−はアタマを掻き掻き ぐるりとその部屋を見回した。

当世はやりのワンル−ム・マンション、 といっても鼻が閊えそうな小部屋ではなく

かなりの広さである。

隅にはベッドとチェストがあり、壁にはレ−ス関係の写真パネルが数枚掛かっていて

なかなか小奇麗に彼は暮らしているようだ。

グレ−トもジョ−の視線をおって彼の部屋をながめていたが、向き直りしずかに口を開いた。

「 ともかく。 マドモアゼルの気持ちも汲んでやれ。 」

「 え ・・・ 」

「 おいおい・・・ 今更とぼけることもないだろう? 

 お前さんがどんな<事情>で一人住まいをしているのか そんなコトは知らんが。

 彼女の気持ちにはきちんと応えてやってくれ。 」

「 そうアル。 あないなええコぉはいたはらしまへんで。

 顔かたちだけやあらへん、なによりもあの気立ての良さや。 世界イチや。

 あんな別嬪さんに想いを寄せてもろうて・・・ ジョ−はん、アンタ世界イチの幸せモンやで。」

張大人は鼻息もあらく、ポン・・・!とキセルの灰を落とした。

「 そ・・・ そんな。 僕は ・・・ 別に・・・ 」

「 お〜っと。 また例によって <僕達はそんなんじゃ・・・>かい。 

 もうそのセリフは効き飽きたぞ。 」

「 ち、ちがうよ!  僕は彼女がどうこう・・って理由でここに住んでいるじゃないんだ。

 その・・・ いろいろ準備があってさ。 」

「 準備? なんやね。 なんのための準備やねん。 」

「 ・・・ け・・・ 結婚の、・・・さ。 」

ジョ−は耳の付け根まで赤くなり ・・・ しかしはっきりと言った。

「 ・・・ ほう〜〜?? それはそれは。 」

「 は〜ん・・・ ジョ−はん、や〜っと年貢の納め時やな。 」

二人の年長者達は満足そうに笑顔をかわし、どっかとソファに腰をすえた。

「 だから・・・ 僕としても、そのゥ、ちゃんとした一人前のオトコとして結婚を申し込みたいんだ。

 博士に お許しを願わないといけないと思うし・・・ 」

「 ふんふん、そりゃ殊勝な心がけだぞ、ボ−イ。 それじゃこの件が片付いたらすぐにでも・・・ 」

「 ほっほ。 次の黄道吉日 ( こうどうきちじつ ) は何日やったろか。

 それまでにきれいさっぱりしておかな、あきまへんやろな。 」

張大人は気も早く壁のカレンダ−を捲っている。

「 二人とも、ちょっと待ってくれよ。 僕達のコトよりもこの・・・ <腕> の件が先だろう? 」

「 あはは・・・ これはしたり。 我輩としたことが・・・ あまりのめでたさにコトの前後を

 忘れていたよ。 うん、それでな、ジョ−。 その腕の持ち主と連れの女性はそのまま

 姿を消してしまったのだ。 」

「 そうアル。 ほいでそれとな〜く 近所の医療機関に聞いたんやけど、

 あの晩 交通事故で大怪我した、ゆう被害者は来ておらへんのや。 」

「 う〜む ・・・ 僕が見てもこれはただの義手じゃないな。 ともかく、ギルモア博士に見せよう。

 それが一番だよ。 」

「 左様、左様。 ふふふ・・・・ ジョ−、ついでに未来の花嫁と熱い時を過したまえよ。 」

「 グ、 グレ−ト・・・! 」

「 ほらほら・・・ あんさんら、なにしてはるねん。 さっさと出かけまひょ。 」

「 はいはい、わかったよ。  それじゃ先に下のガレ−ジで待っていてくれたまえ。 」

「 アイ・アイ・サ−! 」

ほどなくして、瀟洒なマンションのガレ−ジから一台の車が滑らかに発進していった。

 

 

 

 

「 ねえ・・・ 涙を拭いて? どうぞ、これ、お使いになって・・・ 」

「 ・・・・・・・ 」

少女は差し出されたタオル・ハンカチをそっと手に取った。

「 わたし達、あなたを監禁したり危害を加えたりするつもりは全然ないわ。

 だから・・・ もう泣かないで・・・? 」

「 ごめんなさい ・・・ 私・・・ 

 今の私にはただ・・・泣くしか・・・ 私にできることはないのですもの・・・ 」

少女はベッドに腰をかけたまま、またほろほろと涙を流した。

「 ね? わたしになにかお手伝いできることはない?

 あなた、お家に帰りたいのでしょう? 怪我をなさった、という男性はあなたのご家族? 」

「 ・・・ ごめんなさい ・・・・ なにも、なにも言えないのです。 ごめんなさい・・・ 」

俯いたまま、少女の涙が声とともにこぼれ落ちる。

「 ・・・ わかったわ。 それじゃ、ね、こうしましょう。

 わたしは勝手にアナタの後を付いてゆくから。 ええ、玄関のドアはいつだって鍵はかかっていないわ。

 内側から出る分にはまったくのフリ−なの。 」

「 ・・・ どうして? 」

「 え? なあに。 」

「 どうして・・・あなたは そんな・・・ あなたの仲間を、そのう・・・裏切るようなことをなさるのですか。 」

「 裏切りじゃないわ。 わたしは、いえ、わたし達は別にあなたをこの邸に

 足止めしているわけでないのよ。 」

「 ・・・ それはそうですけれど。 ・・・ でも ・・・ 」

「 ね? なにか言えない事情があるのね。 あなたも全身が生身ではないわね? 

「 ・・・! ど、どうしてそれを・・・? 」

「 あなたも、って言ったのよ。  ええ、わたしもそうなのよ。 」

「 ・・・ え ??? 」

 

あの晩、ギルモア邸を辞去し店にもどったグレ−トと大人を あの少女が待っていた。

いや・・・・

<腕> を取り戻しに潜んでいたのだ。

結局、駆けつけたジョ−が加勢して、少女をギルモア邸に連れてゆくことになった。

 

フランソワ−ズが案内した客用の寝室で 彼女はただ ・・・ 泣いていた。

何を尋ねても 名前すらも口にはせず、大きな淡い色の瞳を見開き ただただ涙をこぼすばかりだった。

フランソワ−ズが付ききりであれこれ世話をしていたが、

反抗的な素振りもみせず、従順に・・・ そして 彼女は黙って涙を流していた。

 

 

「 お店で、見たでしょう? あの二人も <普通>ではないわ。

 あなたをここにつれてきた彼も、よ。 わたし達、 皆半身が機械なの。 」

「 ・・・ 機械 ?! あ あの・・・ あなた、も? 」

「 ええ、そうよ。 この皮膚の下にはね、精密機器がびっしり詰まっているの。

 そりゃ、皮膚が破ければ赤い液体が流れでるけれど、それは・・・熱い血潮に似せた

 ニセモノなのよ。 

「 ・・・ まあ ・・・ 」

「 わたしたち、それぞれ違った能力 ( ちから ) を持っていてるの。

 あの二人の能力は 見たでしょう? 」

「 ・・・ はい。 あの ・・・ あなたはどんな・・・? 」

「 フランソワ−ズ、と呼んでね。 ああ、あなたの名前は言えないのなら結構よ。 」

「 ・・・ ごめんなさい・・・・ 」

「 わたしはね・・・ そうね、こんなコト、言ってもいいかしら。

 あなたの両脚は ・・・ とても精巧な義脚ね? あの腕と同じタイプだわ。 」

「 ・・・・ それがあなたの能力なのですね。 

「 ええ。 こんなコト、ちっとも望んでなんかいなかったわ。 

 わたしの、いえ わたし達の人生はね、ある時を境に無理矢理大きく捻じ曲げられてしまったの。 」

「 そうなんですか・・・ 」

「 でもだからって、そんなことに支配されるのは嫌。

 機械の身体でも それを使うのはこのわたしの人間の心なの。 

 ・・・ そうでしょ? 」

「 はい。 フランソワ−ズさん。 あなたは 強い方ですね。 」

少女の涙はいつの間にか止まり じっとフランソワ−ズを見つめている。

「 ふふふ・・・ 強くなんかないわ。 しょっちゅう落ち込んだり悩んだりしているもの。

 でも ・・・ そんなコトができるわたし自身も いいな、って思うのよ。 」

「 ・・・ いいなって? 」

「 だから、ね。 あなたもあなたのこころが命じるままに進んで! 

 あの腕の持ち主が 心配なのでしょう? 」

「 ・・・・・・・ 」

少女は黙ったまま 深く頷いた。

「 そう・・・  ああ、ほら・・・! 」

「 え・・・? 」 

フランソワ−ズはベッドから立ち上がると窓辺に行きさっとカ−テンを払った。

その部屋は南に面していて、足元には断崖の下の海がそして頭上には満天の星空が眺められた。

「 ほら・・・ いい夜だわ。 ちょっと寒いけど・・・ 」

「 ・・・ ええ ・・・ 」

「 コ−トはここにある?  この家の前の坂道を下って左に折れると最初にぶつかる大きな道が

 国道よ。 ・・・ あなたが行って5分したらわたし、出るわ。 」

「 フランソワ−ズさん・・・・! 」

「 あなたがどういうヒトなのか、わたしには全然わからない。

 でも あなたが幸せを追うのを邪魔する権利はないと思うの。 」

「 フランソワ−ズさん ・・・ あの、わたし・・・わたし・・・! 」

「 いいのよ、無理には聞かないわ。 わたし、今のあなたを信じています。 」

だけど・・・とフランソワ−ズは言葉を切り、真正面から少女を見つめた。

「 戦場で <敵> として出合ったら。

 わたし 容赦なくトリガ−を引くわ。 ・・・ わたしには護りたいこの世界があるの。 

 わたしはそのために 存在しているのだ、と信じているわ。 」

「 ・・・ はい。 判りました。 」

 少女は静かに立ち上がると 窓辺のフランソワ−ズに歩み寄った。

「 ありがとうございます。 あなたと出会えてよかった・・・ 」

「 わたしもよ。 ああ、あなたに微笑みが戻りますように・・・ 」

「 ・・・・・・・・・ 」

少女はほんのりと頬を染め、あでやかに微笑んだ。

そして。   深くアタマを下げてから、くるりと振り返り静かに とても静かにドアを開け

出て行った。

フランソワ−ズも黙って彼女を見送った。

 

   ・・・ ごめんなさい! ジョ−。

   でも ・・・ でも。 わたし、放ってはおけなかったの・・・

 

しん・・・と冷え込む初冬の夜気の中に少女の姿はじきに見えなくなった。

 

 

 

 

一番前にいたオトコが銃を向けた。

「 改造体の一部を失ったことはそれだけで充分処刑に値する。 」

「 ・・・う ・・・ 」

「 死を以って償うのだ。 」

カチリ。 

銃はまっすぐに青年を狙った。

「 ・・・ ! 危ない ・・! 」

「 ジャック・・・! ・・・あ? 」

「 ・・・・・・・ 」

能面のごとく無表情なオトコの銃が炸裂した、その瞬間に いくつもの人影が青年の前に

飛び込んできた。

「 !?!? な、なんだっ??? 」

「 やめろ!!  」

ベッドに転がされていた青年の上に長い髪の少女が覆いかぶさり、彼女の前には

もう一人の女性が立ちはだかっていた。

そして

「 銃をおろせ!  仔細はわからないが無抵抗の者を撃つのは許せない。 」

黒服のオトコたちの前に 背後の3人を庇って赤い服の青年が立っていた。

彼の銃は ぴたり、と向かい合ったオトコに向けられている。

 

「 なんだ、貴様! どこからわいてきた! 」

「 ふん、その・・・・彼女を追ってきたのさ。 さあ、理由を話してもらおうか。 」

「 煩い! お前には関係のないことだ。 余計な手出しは無用だッ 」

ビ・・・・・ッ!

「 おっと・・・ 部屋の中での銃撃戦は止めたまえ。 話してわからないなら・・・仕方ないな。 

 いきなり撃つとは どうも後ろ暗い連中のようだし・・・ 」

「 なんだと ! 」

「 え〜と。 003? そのお嬢さん達を頼むぞ。 」

「 了解! 009、右のカ−テンの後ろに一人、やっぱり銃を構えているわ。 」

「 サンキュ♪  さあ そこを退け。 ぼくはこのヒト達を連れて帰るんだ。 」

「 ・・・くそ! 撃て! こいつら道連れにして F−501も502も処刑するのだ! 」

「 Fー501? ふうん、お前らどこかの組織のものだな。 ようし。 」

カチ・・・ ッ!

微かな機械音を残して 赤い服の青年の姿が消えた。

「 う・・・? ヤツはどこへ行った? 」

「 お、おい! 今のうちだ、アイツらを始末しよう。  うわぁ??? 」

バン・・・!

突如 黒服のオトコの一人が宙に浮かび次の瞬間 床に叩き付けられた。

「 え?? なに・・・ どうしたの?? 」

「 ああ、安心して。 009が、いえ ジョ−の <仕事> なの。 」

「 仕事? だって誰の姿も・・・ あ、また? 」

少女は青年のベッドから離れ、フランソワ−ズの後ろから恐る恐る覗いている。

「 彼はね、 マッハの速さで動ける装置がついているのよ。 

 だから 彼がアイツらを投げ飛ばしているのだけれどわたし達には見えないだけなの。 」

「 ・・・・ すごいのね・・・ 」

 

「 な、なんだ? どこに居やがる? クソッ  ・・・ うわあああ・・・・ ぎゃあ〜〜 」

バン ・・・!! バスンッ !!! 

再びオトコの身体は宙に浮き、壁に激突しそのままずるずると床の上に落ちた。

そしてガクリ・・・と意識を失った。

「 ・・・ く! こいつら なんだ?? この時代にこんなヤツラがいるなんてデ−タになかったぞ。 」

「 チ! とりあえず、引き上げよう。 」

「 しかし! F−501と502の始末は! 」

「 フン、アイツにやらせるさ。  行くぞ! 」

「 あ、ああ。 」

「 ! ジョ−! アイツらが逃げるわ!  ・・・ 外に車が停めてあるの。 」

「 O..  今、追いかける 」

カチカチ・・・と微かな機械音とともに こんどは忽然と赤い服の青年の姿が出現した。

「 ・・・???? どこから ?? 」

「 ふふふ。 003、それじゃここを頼むよ。 ぼくはアイツらを追跡するから。 」

「 了解。  気をつけて!  ・・・ なんだかイヤな予感がするの・・・ 」

「 心配性のお嬢さん。 安心して待っておいで・・・ 

「 きゃ・・・ もう ・・・ 」

ジョ−は彼女を引き寄せさっとキスをすると 再び姿を消した。

 

「 ・・・ く・・・クソゥ・・・・!! 」

「 あ! いけないッ! 」

フランソワ−ズが振り向いたその瞬間 ― 

 ビ・・・・ッ!!

倒れていたオトコが 辛うじて腕だけを伸ばすとベッドの上の青年を狙い撃ちした。

「 うわぁ〜〜〜 !! 」

「 あ!! ジャック・・・・!! ジャック 〜〜〜 」

「 ・・・ リナ ・・・・ !   い・・・ き ・・・ろ・・・・! 生きるんだ・・・・ 」

「 ジャック !!  あなた〜〜〜 」

「 ・・・ さよなら ・・・ 愛して ・・・ リ ・・・ナ ・・・・ 」

青年の身体は 光線に包まれ瞬くうちに炭化し・・・ 崩れさってしまった。

「 ジャック・・・!! ああ、ジャック〜〜 あなたぁ〜〜〜 」

「 な、なんてこと・・・ あ! だめよ、あなた! 火傷をしてしまうわ。 」

フランソワ−ズは慌てて青年の <痕> に取り縋ろうとする少女を抱きとめた。

「 ・・・ 焼いて・・・私も・・・一緒に焼いて〜〜 ジャック〜〜〜 」

みすぼらしいアパ−トの一室に 押し殺した少女のすすり泣きが 低く微かに響いていた。

 

 

 

交通事故という半ば偶然から知ったこの<事件>は 実態はひどく重く厳しいものだった。 

サイボ−グたちは未来人らの基地までたどり着いたのだが、彼らの攻撃の前には成す術もなかった。

ジョ−は捕らえられ フランソワ−ズは脚を負傷してしまった。

 

「 ふふふ・・・・悪足掻きはよせ。 お望みの通り二人一緒に送ってやる。

 時間砲の威力は体験済みだったな。 」

司令官と名乗る男は手を揚げて後ろに控える部下に合図を送ろうとしている。

「 今度は手加減しない。 ああ、安心しろ、そのオンナと共に吹っ飛ばしてやるからな・・・

 時の彼方に!  ・・・ 消えうせろ! 」

「 ・・・く! くそう・・・・! 」

「 ジョ−・・・! 」

「 フランソワ−ズ! 離れるな! 」

「 ええ。 あなたと一緒ならどんなことも平気だわ! 」

「 ・・・ きみってひとは・・・ ああ、脚は? 大丈夫か。 」

「 大丈夫でなくても・・・ あなたがいればそれだけでいいわ! 」

「 フランソワ−ズ! 」

「 ええい! この期に及んでなにを・・・・! よし、撃て・・・! 」

「 はい。 長官! 」

キィ〜〜ン・・・・・

不気味な音とともに ジョ−とフランソワ−ズの周りの空気が軋み始めた。

ぐ・・・っとジョ−はフランソワ−ズを支える腕に力をこめた。

「 どこへ飛ばされようとも! この腕は、たとえぼろぼろになっても離すものか!

 ・・・ ああ、 愛しているよ! ぼくの フランソワ−ズ・・・! 」

「 ジョ−・・・! わたしもよ! 」

 

「 だめよッ !  止めなさいッ! 」

「 う? ・・・うわあ・・・! 」

ビ・・・・・ッ!!

一条の光線が 時間砲を作動させていた兵士の足元に炸裂した。

彼は台座から転げ落ち、その拍子に彼が操作していた武器は在らぬ方角を向いてしまった。

「 む? 誰だ?! 」

「 私よ、 お兄さん。 」

「 ・・・ リナ!? お前は何をするんだ?! 」

建物の奥から椅子に腰を掛けた少女がその椅子ごと飛んできた。

「 ・・・あ! 君は・・・! 」

「 ああ・・・ リナ・・・! 」

驚愕するジョ−達に微笑を送ると 少女は司令官に超小型のモニタ−を手渡した。

「 お兄さん。 たった今、分析室から届いたわ。 彼らのデ−タよ。 」

「 ・・・ ふん。 それがどうしたというのか。 」

「 まあ、まずこれに目を通して。 」

「 ? ・・・・ 」

司令官は黙ってモニタ−に目を落とした。

 

「 ごめんなさい・・・ 大丈夫ですか、フランソワ−ズさん・・・ 」

「 ・・・リナ ・・・・ あなたは・・・ あのヒトの妹だったの。 」

「 ええ。 」

「 リナ。 あのデ−タにはなにが? 」

「 ジョ−さん。 安心してください。 あなた方を無事にお帰しいたしますわ。 

 ・・・ ねえ、お兄さん。 」

「 ・・・ ああ。  おい! この二人を解放しろ! 」

「 どうぞ・・・お元気で。 そして 幸せに・・・ 」

「 ??? 」

 

 

やがて <彼ら> は 時の彼方へと飛び去っていった。

ジョ−とフランソワ−ズに重大なメッセ−ジを託して・・・・

 

 

「 行ってしまったわね・・・ 」

「 うん。 無事に望みの地に着くといいのだが。 道は険しいだろうなあ。 」

「 ・・・ 幸せに続く道だといいわね。 たとえどんなに険しい道でも。 」

「 そうだね。   なあ・・・? 」

「 なあに。 」

ジョ−は隣に寄りそうヒトの細い手をしっかりと握った。

「 ぼく達も、さ。 どんな道でも 二人で歩いてゆこう。 

「 ええ、そうね。 険しくても 辛くても あなたと一緒なら平気よ! 」

「 ・・・ 彼らと同じだな。 ぼく達も道をつくってゆくんだ。 」

「 ・・・・・・ 」

こっくり頷くと フランソワ−ズもまた、ジョ−の大きな手を握り返した。

そう、道は。

旅人は 歩きながら彼の道をつくってゆくのだ。

 

   二人なら。 なんでも出来る・・・!

 

ジョ−とフランソワ−ズは寄り沿ったまま虚空に消えた <彼ら> に思いを馳せるのだった。

 

 

 

「 リナ。 それで ・・・ お前自身は・・・ 」

「 お兄さん。 」

微かに振動する部屋に半身を黒い衣服で覆った青年が入ってきた。

「 ええ、大丈夫。 私達 ・・・ 順調よ。 」

「 お前・・・ 本当に、本当なのか? 我々には ・・・  」

「 ええ、そうね。 私達にはすでにその能力はないはずだったわ。 皆人工的に行われてきたもの。 

 でもね、あの時代に来て・・・あの時代の自然な空気の中で暮らして。 愛しあって・・・

 私達は私達の愛を実らせることが出来たの。 」

「 ・・・ そうか。 こんなコトは信じてはいなかったが・・・ 奇跡とは本当にあるのだな。 」

「 奇跡じゃないわ、お兄さん。 愛が あるだけよ。 」

「 愛・・・か。 いい言葉だ ・・・ しかし、これから我々はかなり厳しい状況の中に移るのだぞ。

 その子にはあまりに過酷ではないか。 」

「 わかっているわ。 だから・・・もう少し遡った時代に預けようと思うの。 

 きっとこの子も愛する人とめぐり合って幸せになれると信じているわ。

 この手から離すのは辛いけれど ・・・ それが<彼>のためですものね・・・ 」

「 リナ・・・  お前は 強いなあ。 」

「 ふふふ・・・ お兄さん。 それは この子が愛と勇気を私にくれたからよ。 」

「 ・・・・・・・・ 」

リナは静かに両の手をお腹に当てた。 

「 ねえ ・・・ ジャック? あなたの息子に ・・・ あの彼の名前をもらってもいいいでしょう?

 この子はきっと・・・ 一人でも強く生きてゆくでしょう。 」

「 リナ。 ・・・ 我々の、そしてその子の道が輝かしい未来へと続くことを祈ろう。 」

「 ・・・・ お兄さん ・・・・ 」

人類の末裔たちは希望の光を抱き 太古へと時間 ( とき ) の道を遡っていった。

 

 

 

 

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Last updated : 10,14,2008.                                      index

 

 

 

*************    ひと言   *************

はい〜〜 93ファンなら誰でもだ〜〜〜い好きな・あのお話です。

ただし。  美味しい場面、 萌え〜♪なセリフ、 あのショット! ・・・ すべて欠落させてみました。

ジョ−君とフランちゃんはどっちかというと 脇役。  <こんな風な視点もありかも??>バ−ジョンかな?

あの<二人>をカップルにしたかったので 一部旧ゼロ設定になりました。

原作の最後に < 時はめぐる風車・・・ 云々 > とありますが、

<道> も こんな風に繋がっていても面白いかな?? ジョ−く〜ん、君の生い立ちをさらに

フクザツにしてしまってごめんねえ〜〜 (^_^;)

こんな妄想もあり・・・かな〜〜って 目を瞑ってやってくださいませ。