『 この空の下 ― (2) ― 』
***** 新春パロディ劇場 苦手な方 引き返してくださいね ******
コツ コツ コツ ・・・ コツ ・・・
ヴェロナの街を青年が二人 肩を並べて歩いてゆく。
「 さあ 元気だせ ジョー。 なにをそんなに塞ぎこんでいるんだ? 」
黒と銀のチュニックに身をつつんだ細身の青年が 友人に話しかけている。
「 え ・・・ いや ・・・ ちょっと 」
「 ふん? さっきの騒ぎ ― 気にしてるのか 」
「 え いや ・・・ 」
「 悪かった。 余計な事をしたな。 お前に任せておくべきだった。
私のおせっかいだった。 すまん。 」
彼は さらりとした黒髪を揺らし素直にアタマをさげた。
「 あ そ そんな カタリーナ! 君のせいなんかなじゃないよ〜〜
あそこで君がきっぱりやってくれて シメシが付いた。 」
「 そうか それなら いいが。 」
「 ああいう手合いには ある程度の実力行使は必要だよ。 」
「 まあ な。 あの野郎どもには話合いなど無駄だから 」
「 ウン ・・・ 」
また 茶髪の青年は言葉を切って黙り込んでしまった。
「 おい〜〜〜〜 いったいどうしたってんだ??
おい 吐け! ジョー〜〜〜 私は気が短いんだ〜〜〜 」
「 カタリーナ。 あの ・・・ 実は だな 」
「 だから なんなんだ??? ジョー きみはなにを悩んでいる? 」
「 ・・・ ウン ・・・ あそこに いただろう? 」
「 あそこ? ああ さっきの広場に か
」
「 ウン。 ケンカの現場に 最初に飛び出してきた少年がいたんだ・・・
細っこいけどしなやかな身体つきで 金色の髪を揺らしてた・・・ 」
「 ? ・・・ あ〜 ・・・ いた かもしれないなあ
その少年がなにか? 」
「 ぼく は。 あの少年に一目ぼれ してしまった・・・・」
「 ・・・へ???
あ〜 好感を持ったってことか 」
「 いや ・・・ ぼくの心臓は ― 舞い上がったんだ〜〜 」
「 まあ そういうこともあるだろうよ。 」
カタリーナは なんだそんなことか・・・拍子抜けした顔をした。
しかし 当のジョーはもう真剣の極み・・・
ついに足は止まり 道端に立ち尽くしてしまった。
「 でも 美少年 だぞ?? ぼくにはそういう性癖があったのか?? 」
「 なんだ? 」
「 ・・・ ぼくは! カワイイ女の子が好きな色男だと思ってたのに〜〜 」
「 なにをごちゃごちゃ独り言 いってるんだ? 」
「 い いや ・・・ ぼくは 美少女を愛したいんだ〜〜 」
「 は! なら こんなとこで頭抱えていたら ダメだ。 」
カタリーナは珍しく に・・・っと笑った。
「 ? な なに ? なんだい?? 」
「 今夜 とある大きな邸で大舞踏会がある。 仮面舞踏会だ。 」
「 仮面? ・・・ってことは 」
「 そ! 仮面さえつけてそれなりの身なりなら 誰だかわからないってことさ。
ちょいと覗いてみないか? 」
「 ・・・ どこの邸だい 」
「 ふふふ ― アルヌール家だ。 」
「 ! そりゃ ・・・ いくらなんでもマズいよ カタリーナ。
我々とアルヌール家とは ― ずっと対立しているじゃないか。
ぼく自身は敵対心なんかもってないけど 」
「 だろうな。 ― 無駄な争いは 止めた方がいい。 」
「 うん、ぼくもそう思う。 このヴェロナの街は広いし豊かだし ・・・
両家で盛り立ててゆけばいいんだ。 」
「 そりゃ お前の代での仕事だろ。 な〜〜 とりあえずちょっと・・・
覗いてみようぜ? 」
「 え ・・・ でも 」
「 可愛いレデイ達を見れば ― さっきのお前の妙〜〜な悩みは すっ飛ぶ。 」
「 そ そっかな ・・・ 」
「 ああ。 とびきり凝った仮面をつけて いざ参上! 」
ひゅん ! カタリーナは マントを豪快に振った。
「 あは そうだね。 ・・・ でも カタリーナ、 きみは美女を眺めて楽しい?
だって君はそんな形をしているけど いや勿論とてもよく似合ってるけど・・
でも 君は女性じゃないか。 」
「 ふふん、 ウツクシイものを見るのは気分がいいものさ。 そうだろ? 」
「 うん でも カタリーナも美しいドレスを着ればどこの姫君にも負けないよ?
― ぼくは ・・・ へへ ・・・ 今の君が ・・・ その〜〜好き だけど 」
「 うん? なんだって? 」
「 あ〜〜〜 いや こっちのことだよ。 それじゃ二人で舞踏会に 」
「 そうこなくちゃ。 吟遊詩人とその友 って触れ込みはどうだ? 」
「 し 詩人?? ・・・ 剣客のがよくない?
余興に 詩をひとつ、吟じてくれ・・ なんていわれたらどうするのさ 」
「 あっはっは それは考えなかった〜〜〜
それじゃ 剣客ってことで 」
「 カタリーナ、 君は剣舞を踊ればいい 」
「 いやあ〜〜 ま 目立つことは避けよう。
華やかな舞踏会の雰囲気を楽しめばいいんだ。 ジョー、君の気晴らしだからな」
「 忝い・・・ ぼくはいい友を持ったよ 」
「 ・・・ 友 か ・・・ 」
「 え? なに? 」
「 いや なんでもない。 さ 市場で洒落た仮面でも調達しよう。 」
「 ああ そうだね。 どんなのがいいかなあ〜
」
ジョーは < 友 > と肩を叩き合いつつ賑わう市場へむかった。
ざわざわ ざわざわ ♪〜〜〜♪ ♪
大広間からは陽気なざわめきと共に 優雅な楽の音が流れてきている。
― ○○伯爵さまのおつきい〜〜 △△様〜 ご到着〜〜
あはは うふふ ほほほ くすくすくす・・・
高笑いやら扇の影の忍び笑いがそこここで揺れている。
シャンデリアの光が 女性たちの首に 耳に 腕に 注ぎ
そこここでチカリ チカリ 輝石が瞬く。
男性たちも装いを凝らしている。
革ベルトには象嵌を施したり輝石が埋め込まれていたり
螺鈿の飾りボタンをつけていたり・・・華麗だ。
オトコもオンナも 今夜この邸の舞踏会でお目当てのヒトを探そうとしているのか
一夜のアバンチュールを楽しもうというのか・・・?
アルヌール家の大広間は 熱気に満ちていた。
「 うわ〜〜〜 華やかだなあ 」
「 そうだな。 ほう〜〜 美しいお嬢さんが多いな。 」
「 ウン。 へえ ・・・ アルヌール家ってなんでもキレイなんだね 」
「 ああ。 部屋の装飾も華麗だな。 うん・・・さすがに姫君のいる邸だな 」
「 あ そうなんだ? 」
「 私もウワサで聞いただけだが。 跡取りの若君と妹姫の二人、のはずだ。 」
「 ふうん ・・・ ぼく 姉妹がいないからよくわからないけど ・・・
あ なんか音楽が変わったね? 」
「 ? 本当だ ・・・ ダンスが始まるのだろうな。
おい 目立たないように隅にいよう。 お前・・・ 踊れないだろ ジョー? 」
「 えへ ・・・ 実はね〜〜 あ こっちの柱の影がいいかな 」
「 ああ そうだな。 うん ジョー、お前 案外仮面が似合うぞ 」
「 そうかな〜〜 でも鬱陶しいね。 」
「 仕方ないさ 一応 仮面舞踏会 だからな。
ほら ・・・ あっちの隅にいるのは 炎の髪のジェットだろうよ 」
「 え〜〜〜 アイツがあ?? アイツってばウチい出入りしているんだよ? 」
「 ま 一応仮面はつけいるし ちゃとした身なりだからな。
拒絶する理由はない。 アルヌール家の方も見て見ぬフリだろ 」
「 ふ〜ん じゃ ぼく達だってお行儀よくしていれば いいってことだね 」
「 ああ。 そもそも我々は覗き見を楽しみにきただけだ。
舞踏会の雰囲気を壊してはいけない。 」
「 ウン。 いい気晴らしになるよ〜〜 わあ こっちにもキレイなお嬢さんたちが
いっぱいいるね〜 」
「 ふん ・・・ 当家の令嬢の友人たちだろう 」
「 ふ〜〜〜ん あ ダンスが始まったね 」
「 カドリールだな〜 ふふふ お相手の品定めには最高だろう 」
「 ふうん ・・・ ま ぼくは踊れないから丁度いいや。 」
ジョーは仮面をしっかりつけ直し、隅っこから観賞している。
広間では 紳士 レディ たちが次々に進みでて 踊る。
やがて 白のドレスも初々しい姫君が 進み出てきた。
「 ふん? あの・・・彼女、上手いな。 」
「 カテリーナ どれ? どの人? 」
「 今 部屋の中央に来た白いドレスさ。 」
「 あ〜 キレイな金髪だねえ・・・ ??? あ !?
」
彼はそれまでぼ〜〜っと眺めていたが 顔付が変わった。
「 なんだ どうしかしたか? 」
「 ! う そ ・・・ ! あの人だ! あの人! 」
「 なに? 」
「 昨日 街の広場にいた! あのゴロツキたちに絡まれたとき
最初い飛び出して来ようとした ・・・ 少年! 」
「 ・・ あ〜 あのお転婆かい 」
「 !? おてんば?? 彼は ・・・ 彼女 だったのかい?? 」
「 ジョー ? お前 わからなかったのか??? 」
「 ぼくは。 あの美少年は 彼 だと ・・・ 」
「 ははは 傍からみたら意味不明な発言だぞ? 」
カタリーナは 可笑しくて仕方がない、といった風情だ。
「 ぼ ぼく! ちょっと踊ってくる〜〜〜!!! 」
「 あ おい ・・・ ! お前 カドリール 踊れるのか?? 」
「 ― 踊りたいんだ〜〜〜 あ シツレイ 踊らせてください 」
ジョーはぎこちない足取りで それでも丁寧な物腰でダンスに加わった。
「 ごきげんよう 〜 あら いらっしゃいませ ご機嫌よう〜 」
白いドレスの女性は、 勿論仮面をつけているが パートナー達に満遍なく
輝く笑みを向けている。
「 あ! あの。 ご ごきげんよう 姫君。 」
次のパートナー、茶髪の青年がおずおず・・・・と手を差し伸べた。
「 ごきげんよう ! あ あの ・・・・ 」
「 はい? 」
「 ぼ ぼくを お 覚えていますか?? 」
「 ・・・ どちらの殿方でしょう? 温かい瞳をお持ちね 」
「 あ あの! お目にかかったことがあります! 」
「 まあ どこでかしら 」
「 あ あの ! ヴェロナの街 ・・・ ひ 広場 で 」
「 え? 」
白いドレスの姫君の ステップが止まった。
! ・・・ あ あなた なの?? あの!
そうです。 ぼくです!
お お名前は ・・・?
覚えていてはいただけませんでしたか
ごめんなさい ・・・ ヴェロナの広場で?
ええ。 あの ― ケンカの現場で
! あ あの 強くて素敵なお姉さま と一緒にいた方?
そ そうです! ぼくの名は ジョー。
わたし は フランソワーズ。 当家の娘です
! え ええ っ? アルヌール家の方 ですか!!
はい。 貴方は ジョーさま
ぼく は。 シマムラ家の 跡取りです。
え ええ ???
ぼく ・ わたし 達は ― 対立する家の???
そ そんな
そんなことって ・・・!
二つの視線が絡みあい 言葉のいらない想いが交錯する。
若い二人は 大広間の賑わいの中で完全に別世界に いた。
「 ? あら? 列が進みませんね? 」
「 うん? あ〜 あそこが止まっていますね、 失礼? 」
「 お嬢さん? 次の方のお手をとっていただけませんか? 」
「 セピアの髪の・・・ あら剣客さんかしら? どうぞ進んでくださいな 」
宴をスムーズに進めようと ダンスを眺めていた年嵩の人々がさり気なく手助けをする。
「 あ ・・・ 失礼いたしましたわ。 ごきげんよう ・・・ 」
「 ・・・ ああ ! ・・・ また お目にかかれます か! 」
「 ・・・・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
二人は 言葉を発せず ただ ただじっと視線を合わせ そして ふ・・っと逸らせた。
ざわ ざわ ざわ
ご機嫌よう〜〜 よい宴でしたわ また ・・・
舞踏会は盛況のうちにお開きとなった。
参加者たちは 陽気に楽しい雰囲気と共に仮面もつけたまま
三々五々家路につく。
大邸宅の前には多くの馬車が待機しているが のんびりと散歩がてら
帰路を辿る客人たちも多い。
そんな中に 茶髪と黒髪の二人の青年もいた。
「 ・・・ ふう 〜〜〜
」
「 なんだ? また溜め息か ジョー。 」
黒髪が少々呆れた顔をしている。 頬がほんのり紅潮している。
「 え ・・・あ ああ・・ 君はいつも冷静だなあ カテリーナ。 」
「 そうか? 私も結構楽しんだぞ。 」
「 あ〜 どこかの姫君を誑かしたのかい 」
「 ははは ・・・ 向うが勝手に熱い視線を向けてきただけだ。 」
「 へえ〜〜 ・・・ ふう ・・・ 」
「 なんだよ?? 気晴らしに来たはずじゃなかったのか?? 」
「 ウン ・・・
」
「 意中のヒトに会ったのだろう?? あの白いドレスのお嬢さんに さ。 」
「 ・・・ ウン ・・・ でも あの人は ・・・ 」
「 どこの令嬢かい。 ジョーの家柄ならどんな令嬢でも 」
「 ― ・・・ ダメなんだ ・・・ 」
「 ??? 」
「 ・・・ ごめん、カタリーナ。 ちょっと一人になりたい ・・・ 」
「 疲れたのか? 早く帰ろう。 」
「 ごめん ・・・ 」
ジョーは 仮面を外すと重い足取りで家路を辿った。
― その夜。 シマムラ家の大邸宅の奥、若君の私室では
カサ ・・・・ ゴソ ゴソ ゴソ・・・
ふう〜〜〜 ・・・
豪華な寝台の中からは リネンの音とため息がず〜〜っと聞こえている。
「 ・・・ 眠れない ・・・ 眠れない・・・
あの人の顔が あの人の声が アタマの中から消えない ・・・ 」
ガサ。 茶髪のアタマがリネンの海から起き上がった。
「 ふう ・・・ ダメだ。 眠りの精からは見放されたらしいな ・・・ 」
くしゃ くしゃ と長めの前髪をかき上げ 彼はまた大きくため息を吐く。
「 よし・・・! もう一回、 あの姫に会うんだ! 」
ついに彼は意を決っし立ち上がった。
「 会って ― 本当の気持ちを伝えたい。 そうしなくちゃ ぼくは ・・・・
ぼくはもう一生眠れない ・・・ 」
彼は くっと口を結び着替え始めた。
ほ〜・・・・ ほ〜〜 ・・・ 窓の外では夜の鳥の声が響いている。
カタン ・・・ 窓を開けると 少しは涼しい風が入ってきた。
「 はあ ・・・ どうしたのかしら・・・ ちっとも眠れないわ 」
ひらり。 白い夜着の裾が揺れ 華奢な素足がのぞく。
「 ふふ ・・・ 気持ちいい ・・・ ああ でもちっとも身体が冷えないわ
そうよね ・・・ わたしの心が熱くなっているですもの ・・・ 」
ふぁさ。 金の髪が揺れ すこしピンクに染まった頬がみえる。
「 ・・・ ああ 眠れない ・・・ あの方のお顔が お声が
ずっとわたしの心の中に住んでいるの。 ずっとわたしの気持ちを揺らすの 」
はああ ・・・・ 可憐なため息が豪奢な邸の空へ抜けてゆく。
コトン。 彫刻を施したバルコニーに 彼女はそっとその身体を預ける。
ジョー おお ジョー・・・
あなたは どうして ジョー なの?
うっとりした眼差しを夜の空の向け フランソワーズはこそ・・・っと呟く。
ジョー ・・・ ああ ジョー・・・
なんて素敵なお名前 ・・・
でも ― あなたは シマムラ家の方。
あなたは どうして ジョー なのですか・・・!
ふううう ・・・ 熱いため息に哀しい色が濃く混じる。
シマムラ ・・・ ああ あなたはその名を捨てられる?
そんなこと できない できっこないわ・・・
ああ ああ ジョー
あなたは どうして ジョー なの??
「 ぼくは ― ! 」
突然 夜の底から声が返ってきた。
「 !!! 誰??? そこにいるのは ― 誰?! 」
彼女は一瞬 恐怖に襲われ身を竦めたが すぐに毅然として問いかえした。
「 ここは ― わがアルヌール家の庭よ? 入りこんでいるのは 誰ですか! 」
ガサ。 庭の植え込みから人影が現れた。 暗くてよく見えない。
「 ぼくです。 ジョー ・ シマムラ。 」
「 !!! ・・・ ジョーさま ・・・? 」
「 はい。 フランソワーズ姫! 今 そこに参ります! 」
「 え ええ??? 」
ガサ ゴソ ゴソ ゴソ・・・ グラリ。
バルコニー横の棕櫚の木が揺れた。
「 あ あら・・・! まあ どうぞ気をつけて・・・ 」
「 大丈夫です、これでも身は軽いんです。 姫 ・・・ 今 お側に! 」
「 ちょっと! 危ないわ ジョーさま。 わたしが降りてゆきますから 」
「 え??? で でも 姫君〜〜 」
「 うふふ・・・わたし ここから抜け出すのには慣れていますの。
カーテンを使って・・・・なんていいましたけど、 いつもはこの棕櫚の木をつかって
出入りしてるんです。 」
「 い いつも?? 出入り?? 」
「 はい。 少年の服で ・・・ うふふ 兄のお古ですけど ・・・
ここから街に出て いろいろ見聞を広めていますの。 」
「 ― すごいですね〜〜〜 姫君 」
「 うふふ♪ 邸に籠っているだけじゃ な〜〜んにも面白いこと、ありませんわ。
ばあやは金切声を上げて怒りますけど ・・・
ジョーさまあ〜〜 今 降りてゆきます〜〜〜 」
「 わ? わわわわ・・・・ 」
ぽ〜〜〜ん ・・・ !
夜目にも艶やかに? 白い夜着姿が棕櫚の木を伝い降りてきた。
「 あ あぶない〜〜 」
「 きゃ〜〜 受け止めて〜〜 」
「 あ は はい〜 うわッ 」
ぱふん。 ジョーは腕の中に嫋やかな身体を抱きしめた。
「 うふ〜 ありがとうございます 」
「 うは〜〜〜 ・・・ ああ ・・・ 貴女だ! 今夜の舞踏会で一番目立っていた・・・
いや 街中の喧騒の中でも 一番輝いていた 貴女だ! 」
「 ジョーさま♪ ああ 瞳と同じに暖かい方 ですのね。
わたしが探していたものは ― この温もりをもった方 ジョー様 あなたですわ。」
「 ぼ ぼくは! なんとかして貴女と そのぅ ・・・ 一緒に 」
腕の中に愛しい人を抱き ジョーは頬を染めている。
「 一緒に? 」
「 あ はい あのぅ〜〜 そのぅ〜〜〜。 ぼくは シマムラ家のモノで
あなたはアルヌール家の姫君だけど ― 」
「 ― わたし! アルヌールの名を 捨てますわ! 」
「 そ そんなこと できますか 」
「 できます。 だって ― アナタを愛しているから。
ね! 今から駆け落ち しません? 」
「 え い 今から?? ・・・姫君は夜着じゃありませんか。
ぼくだって サイフも剣ももっていません、馬にすら乗ってきていない。 」
「 あ う〜〜ん そうねえ・・・ 」
「 そうだ! 貴女は教会のミサに参加なさるでしょう? 」
「 はい。 ギルモア神父様にはいろいろお世話になっていますわ 」
「 それはいい! なら 明日 ・・・ 教会で落ち合いましょう!
そして ギルモア神父様に相談して 」
「 まあ♪ うふふ〜〜〜 ねえ 結婚しましょう! 」
「 え!?!? け けっこん?? 」
「 はい。 神父様に祭式をしていただいて・・・ 永遠の愛を誓ってくださいますね? 」
「 え え〜〜と・・?? 」
「 あら! あなたの心はウソですの?? ただの遊びだと・・・ 」
「 いやいや! この世で愛する人は 貴女だけです! 」
「 そう! それなら ・・・ 明日、教会の神父さまのところで会いましょうよ 」
「 わかった。 ぼくはその時 ― あなたに け 結婚を 」
「 神さまの前で 二人で永遠の愛を誓いましょ!
わたし なんとかして邸を抜け出します。 」
「 ぼ ぼくも ・・・ 頑張ります。 」
「 それじゃ 明日♪ 楽しみにしていますね 」
ちゅ。 ピンクの唇がジョーの頬に落ちた。
「 うわ〜〜〜〜〜 わわわわわ ♪ 姫 〜〜〜 ??? あ あれ??? 」
ジョーは ほわ〜〜〜ん ・・・としていたが ふっと気がつくと 彼女の姿がない。
「 ひ ひめ?? フランソワーズ姫〜〜〜 」
きょろきょろしていると ・・
「 ここよ〜〜〜 ジョーさま〜〜〜 」
「 ここって ・・・ う わあ〜〜〜 」
棕櫚の木の天辺近くに 白い夜着が揺れ、可憐な姿が見えた。
「 ・・・ ひ ひめ ・・・ 」
「 ジョーさま♪ あ 明日 〜〜〜!!! 」
ひらり。 ― 彼女の姿はテラスの中に消えた。
「 ・・・ フランソワーズ ! ぼくの運命の女性 ( ひと ) !
ああ ぼくはきみのためだったら なんだってできる!
そうさ シマムラの名を捨てることだって!
うん、 明日 きっと神父様のところで ― 愛を、永遠の愛を 誓う よ! 」
ふう ・・・
今度は熱い熱いジョーのため息が ヴェロナの夜に立ち上っていった。
カタン −−−−
ギルモア神父は 御御堂のドアを静かに閉じた。
「 ・・・ 今日は誰も訪れる予定はないでの。 安心するがいい。 」
「 神父様! 」
アタマからコートを被った < 少年 > が 高い声をあげた。
「 よくここまで来られたな、フランソワーズ嬢。 」
「 うふふ・・・ お兄さまの服を借りて こっそり出てきました。
町に出れば誰もわたしとは気がつきません。 」
「 そうか・・・ しかし家の方々に心配をかけるのは感心しませんぞ。 」
「 でも ・・・ 」
「 神父さま! ぼくが ぼくが誘ったんです。 神父様に助けていただきたくて 」
マントで立派な身なりを隠してきた青年が 口を開いた。
「 ジョー君。 君達のハナシはよくわかったよ。
君達二人の愛で 両家の対立が収まるならばこんなに喜ばしことはない。 」
「 本当ですか! では 僕達の ― け 結婚を ・・・ 」
「 そうですわ! わたし達 今! ここで挙式したいんです!
神様の前で ジョーと永遠の愛を誓いたいんですわ。 ね ジョーさま? 」
「 う うん ・・・ 神父さま ぼく達は そのぅ〜 」
熱心に詰め寄る二人を ギルモア神父はまあまあ・・・と宥めた。
「 わかった わかった。 しかし 今は二人とも家に戻りなさい。 」
「 え〜〜 なぜですの? 」
「 神父さま〜〜 ぼく達 真剣なんです! 」
「 わかった、と言っておる。 ワシからヴェロナの大公に話し 大公から
二人のご両親を説得していただこう。 それならよいだろう? 」
「 今 式をしてはいただけませんの? 」
「 ぼくは ― それがぼくの使命だと信じています! 」
「 あ〜〜〜 わかっておるよ。 二人とも何回同じことを言わせるのかね??
モノゴトは焦ってはいかん。
ジョー、君が先に家に戻りなさい。 お嬢さんは乳母どのに迎えにきてもらおう。
それなら 目立たずにすむからね。 」
「 ・・・・ 」
「 ・・・・ 」
恋人たちは 熱い熱い視線を絡めあい ― でもキスひとつ交わせぬまま
それぞれの家に戻っていった。
― その頃、 ヴェロナの広場では ・・・・。
Last updated : 01,10,2017.
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********* またまた途中ですが
え〜〜〜 ・・・ なんだか勇ましい姫君ですな
真面目に ロミジュリ をやりたかったのですが
結末は ・・・??