『 ふたり  』

 

 

 

危ない・・・っと感じた一瞬後に どん、となにかがぶつかってきた。

 

   ー バカな・・・っ!

 

反転して加速装置を作動させようとした時に 爆風に身体が宙に浮いた。

もうもうと舞い上がる土煙と散乱する瓦礫のなか、やはり赤い服が千切れとんでゆく。

ジョ−は 歯を食いしばり懸命に体勢を立て直した。

とにかく。 捕まえなければ・・・

地に叩きつけられたら また爆発に巻き込まれるかもしれない。

服の端でもマフラ−でもいい、なんとか手が届きさえすれば。

ジョ−は渾身のチカラをこめて 身体を移動させた。

 

・・・ 届いた ・・・!

 

無我夢中で捕まえた身体を自分の腕に抱え込むのが精一杯だった。

防護服ごしにも 馴染んでいるその身体がこちらに倒れこんできたとき、

ジョ−の意識はふ・・・と遠のきはじめた。

ず・・・ん ・・・!!

背中から地に落ちたとき、大地が割れた。

再び爆風に煽られジョ−は自分達の身体がやけに軽がると宙に舞うのをぼんやりと感じていた。

 

・・・ だめ、だ ・・・・ ごめんよ・・・ 

 

精一杯見開いているつもりの眼に急激に黒い紗が掛かって来、その厚みはどんどんと増してゆく。

完全な闇にとざされる一瞬前、きらきらと黄金( きん )に煌くモノが視界に広がった。

 

・・・ あ ・・・。 か・・み・・? ・・・きみの、髪・・・

 

すとん、と全ては切っておとされ、ジョ−はなにもわからなくなった。

 

 

 

 

とんとんとん・・・・ 

規則正しい音が 密やかにきこえてくる。

時折 すっと頬をかすめてなにか冷たいものが落ちてゆく。

ずいぶんとここは しずかで爽やかな場所だ・・・とジョ−は思った。

そして そんな想いにぼんやりとひたっている自分がちょっと滑稽な気もした。

とんとんとん・・・

音は相変わらず途切れることがない。

 

 ー ・・・ 雨 ・・・ ?

 

身じろぎしようとしたが 身体がまるでいうことをきかなかい。

ぎしぎし言う関節に半ばあきれて、ゆっくりとアタマを巡らしてみる。

・・・夜なのかな。 それとも。

見開いた眼に映るのは黒暗々の闇だけで、その不自然な暗さはとても普通の夜とは思えなかった。

室内なのか? 照明が落としてあるのだろうか。

・・・メンテナンス・ル−ム・・・?

 

 ー ・・・ うっ ・・・・ !!

 

突如、ものすごい痛みがジョ−の全身に襲い掛かってきた。

意識はクリアになるのを通り越し、その痛みのために再び霞みが掛かってきた。

・・・冗談じゃないぜ・・・・

とにかく 身体を起こそうと空に手を伸ばし足掻き始めたとき・・・

 

「 ・・・ ジョ−・・・? 気が・・・ついた? 」

ひんやりとやわらかな感触が 彼の頬を覆った。

「 ・・・ フラン? フランソワ−ズ?!」

「 ああ、よかった・・・。 やっと・・・意識がもどったのね。 ・・・動いてはダメよ。 」

「 ・・・つっ・・・! ここは どこ。 フラン、きみは無事かい?! 」

無理やり起き上がった自分の肩に ジョ−はなにか温かいものが

ぴたりと押し付けられているのを感じていた。

「 夜なのかな。 真っ暗だね、きみがぼくの脇にいることしかわからないや。 」

細い指がジョ−の髪をそっと掻きやった。

「 ・・・ やっぱり。 あのね、さっき偵察をしていた場所からあまり移動してはいないわ。 」

「 ・・・ そうか。 ちょっと・・・ドジっちゃったよね。 ここは、室内なのかい? 」

「 ! ・・・ ジョ−。 ちょっと目を閉じてくれる? ・・・そう・・・ 」

ふわり、となにかが眼の上を覆った。

・・・あ・・・?  ああ・・・ 眼が ・・・ 

顔の上半分に当てられた冷たい布の感触が とても気持ちがいい。

「 ああ・・・ 生き返るよ。 ありがとう、フランソワ−ズ 」

「 ジョ−。 あのね、落ち着いて聞いて。 ここはさっきの爆風で削れた岩場の陰よ。

 今は・・・多分夜も大分遅い時間だと思うわ。 月が出ているし・・・ 」

「 コレ、取ってもいいかな。 」

ジョ−は目を覆っている布に指をかけた。

「 だめよ。 ジョ−・・・。あの・・・ あなたの目、ほとんど機能していないわ。

 二度目の爆発で わたしを抱きこんでくれたでしょう、あの時・・・・ 」

冷たいものがぽとぽととジョ−の手に落ちてきた。

・・・ なみだ、か・・・? これは・・・

「 フラン・・・。 きみは? きみは無事? どこも・・・ダメ−ジはない? 」

「 ジョ−・・・ 」

ジョ−の手に落ち続ける水滴が暖かいものになってきた。

「 ばか・・・、泣くなよ。  きみさえ無事なら。 ぼくはどうにでもなるさ。

 ところで今はどんな状況なのかい。 ・・・静かだよね、一応あの基地は破壊できたんだね。」

ジョ−は全身を苛むしびれるような痛みも忘れ 手探りで彼女の身体を手繰り寄せた。

・・・あれ。

よく知っているはずのその華奢な身体は いつもの何倍もの重さでずるずると寄ってくる。

・・・ もしかして。

「 ・・・ フランソワ−ズ? 正直に言って。 ・・・きみ、怪我をしているね? 」

「 あ、あら・・・ 」

「 大丈夫、なんて言わせないからね。 脚をどうにかした? 」

「 あ〜あ・・・ バレちゃったわねえ? 」

ジョ−の腕の中で ほっそりとした身体がくく・・っと低く笑った。

「 フランソワ−ズ? 」

「 あ・・ん。 イヤよ、ジョ−。 お願い、怒らないで・・・ 」

「 怒るも何も・・・ きみってひとは・・・! 脚、動かないんだろ。 」

ジョ−は彼女の肩をつかみ いささか乱暴にゆすぶった。

「 怒らないでって言ってるでしょう。 ・・・そうね、脚は・・・全然動かないわ。

 むしろくっついてるだけ奇跡かもしれないって状況よ。 ・・・ぼろぼろ。 」

「 な・・・っ! 冗談じゃないぜ、はやく・・・! とにかくドルフィンと連絡を取ろう。

 止血はできているのかい、だいたい・・・痛みが酷いだろうに! 」

「 う〜ん・・・ どうもココには強力なシ−ルドが残っているらしくて、外部とのコンタクトはまったく

 不可能なの。 この内部ならわたしの眼も耳も機能するんだけど、<外>へは

 全然利かないわ。 境界( ボ−ダ− )まで行って・・・物理的にどうにかするしかないわね。 」

「 そうか。 ココの位置はドルフィンも把握しているはずだから、あちらからも進入の手立ては

 試行しているだろう。 」

「 そうね。 ・・・とにかく、わたし達は移動しましょう。 境界まで・・・10キロくらいかしら・・・ 」

「 ・・・だから! きみの脚は・・・ そんな状態で動かしていいと思ってるのかい!?

「 良いも悪いも・・・ それしか方法がないのよ? どうもね、背骨もちょっと損傷したらしくて・・・

 お陰で 全然痛みは感じないの。 ラッキ−っていうのかしら? 」

「 ・・・・ ! ・・・ 」

他人事のように淡々としゃべるフランソワ−ズに、ジョ−はなぜか怒りすら覚えた。

「 きみを連れは行けないよ。 背骨も、なんて大変な怪我じゃないか!

 不用意に動かして、悪化したらどうするんだ。 ・・・ぼくがなんとか皆と交信ができるところまで

 行ってくるから。 きみはここでまっているんだ。 いいね。 」

「 ジョ−。 それはダメよ。 」

「 ・・・ なに? 」

歯切れのよい答えが間髪を居れずに返ってくる。

いつもの、戦闘中ではジョ−の指示に忠実な彼女の言葉とはとても思えない。

ジョ−は 一瞬自分が聞き間違えたかとおもったほどだ。

「 なんだって。 」

「 だから。 ダメって言ったのよ。 」

「 ・・・ フラン ・・・ いや、003? 」

「 そうよ、003よ。 だから言うの。 009、あなたその眼でどうするつもり?

 基地は破壊できたけれど、あちこちにトラップやら地雷が残っているわ。

 そんな状態で ・・・ 手探りで移動し始めたら ・・・ 」

「 一気に加速してゆけば問題はないよ。 」

「 冗談やめてよ! 目標も判らずにそれこそ盲滅法に加速なんかしないで頂戴!

 ・・・ 009、任務は完了していないのよ。 現状の報告もできてないわ。 」

「 それは・・・ 」

任務は、といわれジョ−はぐ・・っと詰った。

「 わかったでしょう? さあ、行きましょう。 

 ちょっと申し訳ないんだけど。 肩を貸してください。 あなたに方向の指示をします。 」

「 その必要はないよ。 」

「 009、お願いだから・・・ きゃ?! な・・・にを 」

ジョ−はかなり強引に 側に座っていたフランソワ−ズを自分の背中に背負い上げた。

「 ・・・さあ。 これでいいだろ。 指示を頼むよ。 ふふふ・・・正真正銘のナヴィゲ−タ−だね。 」

「 ・・・ ジョ−ったら・・・ 」

「 ぼくの内部センサ−の方向をあわせるから。 これから進む方角を指示して。 」

「 了解。 ・・・最短距離だと・・・東だわ。 009、こっち。 」

「 O.K.」

フランソワ−ズはジョ−の頬に手を当てて方角を示した。

「 よし。 では出発だ。 ・・・しっかり掴まっていていくれよ? ・・・よっ・・・と・・・ 」

「 ジョ−・・・足元、注意してゆっくりね・・・ 」

「 ・・・ふふふ・・・ きみって。 案外重たいんだねぇ。 あ〜最近太ったろ? 」

「 ジョ−ォ ! 」

細い指が きゅ・・・っと耳朶を捻った。

「 いてて・・・ あはは、ごめんごめん。 」

「 ・・・もう。 こんなときに・・・ 」

「 さあ。 行こう。 」

 

ざく・・・ざくざくざく・・・。

 

一歩づつ慎重に踏みしめて。 でも躊躇いもなく確実にジョ−は歩みを進めてゆく。

硝煙と埃にまみれた防護服の背中で フランソワ−ズは眼と耳のレンジを最大限に引き上げる。

四方八方にレ−ダ−を張り巡らせ、何よりもことさらジョ−の足元に注意を凝らす。

 

ざく ざく ざく ざく

 

月明かりだけを頼りに 戦闘に荒らされ焦土に近くなった野を横切ってゆく。

ジョ−の足元から異様なカタチの影がほのかに大地に伸びる。

上半分は妙に大きなその影を見て、多分、自分は本当に重いのだろう、とフランソワ−ズは思った。

感覚はまるでないのだが 動かない脚は鉄の塊にように重くぶらん・・・と下がっている。

・・・わたしは大丈夫。 とにかく今は。

全てを集中して 彼の眼と耳になることだ。

フランソワ−ズはジョ−の肩にまわした腕にそっと力を込め、ことさら身を乗り出した。

 

「 ・・・あ! 左、ひだりへ避けて! 」

「 え、・・・わ! 」

急な彼女の指示に ジョ−は思わずバランスを崩し二人して倒れこんだ。

「 ・・・だ、大丈夫か ・・・ フラン ・・・? 」

転がってもジョ−はすぐ体勢をたてなおし 手探りで彼女の身体を手繰り寄せる。

「 ・・・う ・・・ ジョ・・− ・・・ え、ええ・・・ なんとか ・・・ 」

もろに投げ出されたフランソワ−ズが 彼女も必死でにじり寄ってくる。

「 ごめ・・・んな・・さい。 もっと早く・・・言えばよかった ・・・ 」

「 バカな! 何いってるんだ! ・・・さあ、安全な方向を指示してくれ。

 何があった? トラップか。」

「 ・・・いいえ。 地雷。 小さくて岩に偽装してあるけれど踏んだら・・・それきりよ。

 そう・・・ このままの方向に5m直進して。 」

「 オッケ−。 ああ、きみが居てくれて本当に助かるよ。 」

「 ・・・ごめんなさい、もっと注意しなければダメね。 」

「 ストップ。 さあ、これで迂回できたかい。 ・・・ じゃ、もとの方角に戻すね。 」

「 ええ。 ・・・そうね、・・・行きましょう。 」

 

ざく ざく ざく ざく

 

進むにつれて 彼の足並みは安定し速度がすこしづつ増してくる。

背中に掴まって、周囲を警戒するタイミングが大分わかってきた。

余分な方向へのサ−チをやめ 必要不可欠な方面を強化する。

 

ざく ざく ざく ざく

 

・・・ああ。 なんか・・・ とっても・・・

揺れる彼の背中が、なんだかとても気持ちが良くなってきた。

初めは凄惨にさえ感じていた月の光が今はなかなか趣きがある灯りに思える。

・・・ やだわ、わたしったら。

フランソワ−ズはきゅっと唇を噛み、気を引き締めた。

 

 

「 ・・・ ジョ−。 9時の方向に岩盤が露出してるわ。 距離・・・10m。 」

「 了解。 このまま直進して大丈夫だね。 」

「 ええ。  引っかからないように見ているから。 大丈夫よ。 」

「 さんきゅ。 なんだか絶妙のタイミングになってきたよね。 」

「 ・・・そう? やっと慣れてきたみたい。 」

ふふふ・・・とジョ−の背中が揺れた。 

笑ってる・・・?

「 なあに? なにか ・・・ ヘンなこと、言った? わたし。 」

「 ・・・ いや。 ・・・あのさ、こういうのって <病める時も>ってカンジだなってさ。 」

「 病める時も ?? 」

あまりに唐突なジョ−の話題に フランソワ−ズは思わず声を上げてしまった。

ごめん、ごめん・・・と謝って、それでも広い背中はなぜか楽しげに漣を打って揺れている。

「 なんのこと、突然 ? ・・・大丈夫? 」

「 ・・・ あはは・・・ びっくりさせちゃった? 別にぼくは参ってないから安心して。 」

「 びっくりって・・・。だって何なの? 」

「 ・・・ うん。 」

相変わらず規則正しい歩調を刻んで ジョ−はちょっと言葉を濁した。

「 こんなコトバ、あるだろ?

 病める時も 健やかなる時も これを敬い これを援け ・・・ってさ。 」

「 ・・・ジョ− それ ・・・ 」

「 ふふふ・・・ 挙式の<決まり文句>だけど。 なんか・・・そんなカンジ。 」

「 ジョ−ったら・・・。 余裕があるわね。 」

「 ・・・ うん? そんなんじゃないけど。 」

「 ないけど・・・? 」

 

それきり ジョ−は口を閉ざしてしまった。

 

ざく ざく ざく ざく

 

二人は進む。 すこしづつ、でも確実に。

フランソワ−ズは黙ってしまったジョ−の背中に そっと頬をおしつけた。

・・・ええ、わかったわ。 ジョ−、あなたが何を言いたいのか。

そうね、あのコトバの続きを・・・ いつか二人で誓えたら・・・ いいわね。

 

ざく ざく ざく ざく

 

凄惨な荒野を ぼろぼろのサイボ−グが二体、つんのめるように進んでゆく。

中天の月は 彼らを黄泉路に誘い込むかのようだ。

夜明けは  遠い。 

 

「 ・・・・ ねえ? 」

「 なあに・・・ 」

「 あの、さ。 あの・・・ 」

「 なに、ジョ−? 」

「 ぼくは・・・ こうして きみと歩いて行きたいんだ。 その・・・ずっと・・・ 」

「 ・・・・? ・・・・ え ・・?? 」

「 あの。  だめ、かな・・・。 」

「 !  ・・・ ジョ− ・・・ それって。 もしかして。 」

「 ふたりでさ。 ずっと これからも・・・・ 」

「 ・・・ ジョ−。 ・・・・ わたし、も。 ・・・・ 」

 

さあ、行きましょう。 ・・・一緒に。

うん、一歩づつ。

どんな路でも 勇気をもって踏み出してゆこう。

ええ、二人で、一緒に。

うん、ふたりなら ・・・ 怖いものなんか ない。

 

 

   そう、 ふたり なら。

 

 

 

 

*****    Fin.    *****

Last updated: 06,08,2005.                    index

 

 

***   ひと言  ***

管理人にしては超〜〜珍しく戦闘モ−ド?? ・・・いえいえ(^_^;)

ぢつは単なる甘・甘小噺でありました。 だって・・・6月、花嫁の月、ですもの♪

でも!ジョ−君、ちゃんとプロポ−ズしなさいね、面と向かって、さ。