『 大きな木の下で 』 

 

 

 

 

*******   はじめに   *******

この物語は 【 Eve Green 】様宅の <島村さんち> の設定を拝借しています。

ジョ−とフランソワ−ズの双子の子供達、すぴかとすばるは小学三年生の

夏休みを満喫しています。 そんなある日のこと・・・

 

 

 

 

タタタタタ ・・・・ タタタタタ・・・・

小さな足音が、ずいぶんと大急ぎで駆けてくる。

家の前にある急な坂道も どうやらイッキに登り詰めてくる様子だ。

 

   あらら。 ウチのお転婆・お嬢さんはなにを見つけたのかしら。

   ・・・ それとも おなか、ぺこぺこなのかな・・・

 

キッチンで洗いものをしていたフランソワ−ズは 壁の時計に目をやった。

「 ・・・ あら。 まだ二時半にもなっていないじゃない。 こまったわね〜 まだオヤツのゼリ−、

 固まっていないわ・・・ 今日はいったいどこまで遊びに行っていたのかしらね。 」

最後に布巾を濯いで ほっと溜息をつく。

 

タタタタタ・・・  タタタタ ・・・・!!

 

軽やかな音は ぐん!とスピ−ドを上げ、かなり乱暴に門を突破した模様である。

 

   さあ、我が家のつむじ風のお帰りね。

   ふふふ・・・ 今日は何のニュ−スがあるのかしら。

   ・・・・ あら? <相棒>クンはどうしたのかな・・・

 

フランソワ−ズはじっと <耳> を澄ませたが もう一組の足音は聞こえてこなかった。

 

   ヘンねえ? どこかで道草・・・? あ、わたなべクンと別行動なのかな?

 

 − 能力 ( ちから ) は 使わない。  

家族と過す普通の日々で、 それはフランソワ−ズの自分自身のための きまり だった。

当たり前の日々を当たり前に過す ・・・ それがどんなに素晴しいことなのか、誰よりも強く感じていたし、

普通の日々 の脆さ・儚さも身に凍みていた。

今日と同じ穏やかな日が 明日も 明日も 明日も 続く・・・ そんな保証はどこにもないのだ。

だから せめて。

今 この瞬間 ( とき ) を大切に 当たり前のヒトとして過したい・・・!

そのためにも 自分に加えられた能力 ( ちから ) は封印してしまいたい想いだった。 

しかし

ギルモア邸の主婦となり、特に双子の姉弟の母になってからは。

 

   ・・・ やっぱり便利な時もあるわねえ ・・・・

 

雛鳥たちを護るために、親鳥はなんだってやらなくちゃならないのである!

 

 

 

「 足音でね、誰が帰ってきたのかすぐにわかるの。 」

フランソワ−ズはにこにことジョ−に言った。

コドモたちも 小学3年に上がりどんどん行動範囲が広がってきている。

もう全てに親の目は届かなくなってしまった。

「 そりゃ、きみは耳がいいもの。 

「 あら、自分の耳だけで聞いてます。 」

「 ・・・ ごめん ・・・ 

ちょっとばかり睨まれて ジョ−は首を竦め慌てて謝った。

「 あ・・・ いいの。 だって・・・ 子供達のためには・・・ わたし、能力 ( ちから )を使うわ。 」

ジョ−だってそうでしょう? とじっと見上げる真剣は瞳が愛しくて、ジョ−は思わず

その細い身体を抱き寄せる。

「 ・・・ 子供達だけ? 

「 あら・・・! もう、本当にヤキモチ妬きさんねえ。  言い直します、 家族のためには、ね。 」

「 ・・・ ヨロシクお願いします。 」

ジョ−は 瑞々しいさくらんぼみたいな唇に キスを盗む。

「 あん ・・・ 

「 ぼくも いつだってスタンバイ OKだから。 」

「 まあ。 でも街中で加速しちゃだめよ? 

「 わからないな〜 非常時にはさ。 

「 ・・・ そんなコト、あったらイヤだわ・・・  」

「 ほら・・・心配性のお母さん。  大丈夫、ぼくがしっかり皆を護るからさ。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ 」

 

ジョ−はあんまり熱心に聞いてくれなかったけれど。

フランソワ−ズは家族の足音が好きなのだ。

 

  だってね。  その日のご機嫌が 顔を見るよりもはっきりわかるのよ?

 

タタタタ ・・・! いつだって弾んだ軽やかさは すぴかの専売特許。

元気いっぱいのすぴかは足音にも羽が生えているのかもしれない。

それにひきかえ・・・・ たったった ・・・・ たったった・・・

落ち着いてゆっくり、でもどんな坂道でも同じペ−スで足音を響かせてくるのは すばる。

同じ双子なのに。 足音だけはまったく別々だ。 

 

   そうねえ。 赤ちゃんのころから あのコはマイペ−スだったものね。

 

マイペ−スといえば博士も マイペ−スだ。

パタリ パタリ パタリ パタリ。  パタリ パタリ ・・・・

時々 そののんびりした音がふ・・・っと途絶えてしまうことがあり、びっくりして飛んでいったこともあった。

門を飛び出すと・・・ 家の前の坂の途中に博士の姿があった。

「 ・・・ 博士! どうか ・・ なさったのですか? 」

「 ・・・ あ?  おや、どうしたね、フランソワ−ズ 」

道端に佇み、じっと宙を見つめていた博士のほうが 驚いていた。

「 だって・・・ あの、ず〜っとここに立ち止まっていらっしゃるから・・・ ご気分でも・・・? 」

「 あ? ・・・ああ、いやいや。 昨夜からず〜っと考えていた数式に別の解を

 思いついての。 うん、アレを応用すれば もっと効率のよいシステムが出来る! 」

「 ・・・ 数式、ですか・・・ 」

「 すまんのう、フランソワ−ズ。 つい、夢中になってしまってな。

 ・・・ あのなあ ・・・・ 料理の途中だったのではないか? 

「 え? ・・・ あ! いけない、 おなべ!! 

フランソワ−ズは握り締めていた菜箸をみつめ、あわてて駆け出した。

「 おおい ・・・ 気をお付け。 ・・・あ、転んだ・・・ 」

 

   まったくねえ・・・ 寝食を忘れて・・・っていうのはああいうヒト達のことなのねえ・・・

 

以来、ちら・・・っと <見て>  放っておくことにしている。

タ タ タ ・・・ タタタタ ・・・ タタタタタタタ ・・・・!

家に近くなるほど早くなるのは ジョ−。 そして一番嬉しそうな足取りなのも ジョ−。

車を使わない日、彼は息急き切って 我が家の玄関に飛びこんでくる。

「 ・・・ ただいま!! 

「 おかえりなさい、ジョ−。  お仕事、ご苦労さま。 」

結婚したその日から、フランソワ−ズの <お帰りなさい> はず〜〜っと続いている。

そして。

・・・ とびっきりの キス♪  

双子の子供達が小学三年になる今でも ジョ−は毎日、息を弾ませて

満面の笑顔で我が家に帰ってくるのだ。

 

   ふふふ・・・ イワンはどんな風な足音を聞かせてくれるのかしらね

 

ちっちゃなあんよに靴下を履かせ、フランソワ−ズはふっと微笑んでしまったりするのだ。

 

   そうね。 我が家がイチバンね。

   ・・・ お兄さんも ・・・ 足音でわかったわ。

   アパルトマンの階段を登る音が いつもどんどん早くなって来たもの・・・

 

トン トン トン トントントン タタタタ・・・・

目を閉じれば。 懐かしいあの音が今でもちゃんとこころの奥から聞こえてくる。

 

   お兄さん ・・・ !  

   お兄さんにも あの坂を登って、わたしの家族を・・・ 見て欲しかったわ・・・

 

穏やかな時間が流れる日々にも ふとフランソワ−ズは涙ぐんだりするのだった。

それは 幸せの味がする涙なのかもしれない。

 

 

 

バタ −−−− ン!!

勢いよく玄関のドアが開いて ・・・・

「 ・・・ お母さんっ!  お母さんッ !! 」

「 キッチンよ。 すぴか〜〜 お玄関のドアが泣いてますよ、イタイ、イタイって! 」

「 お母さんッ !!  た、たいへん  大変なの〜〜〜 !!! 」

賑やかな足音が 今日は大声も一緒に連れてきた。

 

「 おかえりなさい。  どうしたの? 

「 ・・・お ・・・かあさん ッ !  大変なの〜〜〜 すぐ ・・・ 来て!! 」

「 大変って、なにが。 すぴか、あなたどこまで遊びに行っていたの? 」

「 ・・・ コズミのおじいちゃまんち  ・・・・  

「 コズミ博士の? まあ・・・・ あんな遠くまで・・・  あら、でもコズミのおじいちゃまは

 今日はお留守のはずでしょう? ウチのおじいちゃまとご一緒に東京にお出掛けよ。 」

「 う・・ん。  でも・・・お庭にはいつでも来ていいよ・・・って。 オジイチャマがさ・・・ 」

コズミ邸も この邸と似たり寄ったりの街外れにあり、広い庭を有していた。

裏庭は雑木林に通じており、大きな樹も何本か根を張っている。

木登り好きなすぴかには 最高な場所なのであるが・・・

「 でも・・・ お留守のおウチのお庭に勝手に入ってはダメよ。 そうでしょう? 

「 う ・・・ ごめんなさい。 」

「 それで、なにが大変なの? すばるは? 

「 そ、そうなの!! お母さん、大変なの〜〜〜 大変!! 」

「 だから。 なにが。 

「 すばるが! すばるがね ・・・ 樹のてっぺんまで登って ・・・ 

 それっきり降りられなくなっちゃったのッ!! 」

「 ええええ???? 」

 

   ―  ジョ− −−−−− !!!

 

フランソワ−ズは 咄嗟に脳波通信を飛ばした。  緊急事態発生、スクランブル! である!!

 

 

 

「 すぴか! お母さんにおんぶして ! 

「 え  アタシ、走れるよぉ〜 」

「 でも、早く行かなくちゃ!  さ、ほら! 

「 う・・・ うん。  ねえ、お父さんは? お仕事だよね。 」

「 ええ、でもさっき連絡したから。  さあ 行くわよ、しっかりつかまっていてね! 」

「 うん! 」

きゅ・・・っとすぴかの腕に力が篭った。

 

    へえ? 案外重くなったわねえ・・・ このコをオンブしたのって久し振りだわ・・・

 

フランソワ−ズはよいしょ!とすぴかを背負いなおし 走り出した。

「 ねえねえ お母さん ・・・  」

「 なに! 」

「 アタシさ〜 ・・・ やっぱりこんな風にさ〜 ちっちゃい頃、う〜んとちっちゃい頃にさ〜 

「 だから、なに! 」

「 うん。 ・・・ まだ赤ちゃんの頃かな〜 お父さんにさ〜 抱っこしてもらって・・・

 う〜〜〜んとたか〜〜〜くお空を飛んだこと、あるんだ・・・ 

「 ・・・・ え ・・? 

「 お父さんさ〜 なんか・・・ あれってコ−トかな〜 真っ赤なお洋服でさ〜 アレ、なんだろうね? 」

「 さ、さあねえ・・ すぴか、夢を見たんじゃないの? 

「 う〜〜ん ・・・ そうかも ・・・ お父さんさ〜〜 すご〜〜〜くぴょよよよ〜〜んって跳んでさ、

 お月さまやお星様が ものすごく近くに見えたの。 」

「 まあまあ、素敵な夢ねえ。  すぴか! あの角を・・? 」

「 右。 あ、お母さん。 そっちの細い道が近道だよ。 」

「 そう? ・・・ まあ、よく知ってるわねえ。 

背中に小学生の娘をオンブして フランソワ−ズは走る! 全力疾走で ・・・ 走る!

さすがに少々息が切れてきたが スピ−ドは少しも落ちてはいない。

 

   ・・・ ふッ!  ああ、サイボ−グで・・・よかったッ !!

 

「 すぴか! ここを抜けたら・・? 」

「 広い道を渡ってすこし行って  あ、あの松の樹のトコで崖を登るの。 」

「 ・・・ 崖を登る?! 」

「 そうだよ、上の道に出て あとはまっすぐ! 」

「 ・・・わ、わかったわ!  すぴか! しっかりつかまっているのよっ ! 」

「 うんっ!  お母さん、すご〜〜い♪ 自転車よか、早いね! 」

「 ・・・ じ・・・・ 自転車・・・? 

 

   あ!!! そうよ〜〜 自転車で来ればよかったのよ!

  

どうして思いつかなかったのか・・・!

しかし今さらどうしようもなく、ともかく ・・・ 息子の一大事なのだ。

フランソワ−ズは腹を括って がさがさと崖を登り始めた。

 

   それにしても。

   ちゃんと覚えているのねえ ・・・ 赤ちゃんの頃だからいいや、って思ってたけど・・・

   これからはもっともっと気をつけなくちゃ・・・

 

ジョ−がすぴかを抱っこして <空中大ジャンプ> をしたのは まだすぴかがよちよち歩きの頃。

どうにもこうにもネンネしない娘を 空中散歩 に連れ出してくれたのだ。

母の防護服の上着にくるまって 本人はいたくご機嫌であったのだが・・・ 

まさか 記憶に留まっているとは思ってはいなかった。

 

両親の特殊な運命。

 

それはいずれすべてを打ち明けなければならない。

そして そんなに遠くはない日、 年をとらない二人は<お別れ>しなければならないのだ。

 

   ・・・ すぴか・・・! わたしの ・・・ 娘!

 

すう・・・っと涙が盛り上がり ・・・ 風に弄られて飛んでいった。

「 お母さん、大丈夫? 汗、いっぱい ・・・ 」

「 あら 平気よ。 このくらい、お母さん な〜んでもないわ。 あ! ご門が見えてきた!

 すぴか、裏のお庭ね? 」

「 うん! あ、表のご門じゃなくてお勝手の方から入るの。 

「 ・・・ すぴか。 あのねえ。 

「 あ〜 ごめんなさい! もう勝手にヨソのお庭には入りません。 」

「 ・・・ よろしい。  あら? 誰かいるわね。 」

「 わたなべ君が一緒だったんだ〜 」

「 そうなの? でも オトナのヒトよ。 ああ、わたなべ君のお母様だわ。 」

「 ふ〜ん。  お〜〜い!! 」

「 すぴか! 急に乗り出さないでよ〜  」

「 ごめん、 お母さん、降ろして。 」

「 はいはい。 ・・・ それですばるはどの樹・・・   ああ! 」

フランソワ−ズの最大限にレンジを拡げたレ−ダ−・アイは しっかりと捉えた。

・・・・ そう、彼女の大切な息子が 大きな木の天辺に近いところにしがみ付いているのを・・・

かなり太い枝に跨っているので今すぐに落っこちる心配はなさそうなのだが。

 

「 ・・・ すばるッ !! 」

 

「 ああ、 すばる君のお母さん!  まあ、すぴかちゃん、あなた速いわね〜〜 」

「 えへへへ・・・ でも、帰りはお母さんにオンブしてきたんだ〜 」

「 ええ?! それじゃ お母さんもず〜っと走っていらしたの? 」

「 うん! お母さん、走るの速いよ〜 」

「 そうなの。  あ! すばる君のお母さん? ・・・ 島村さん! 」

「 ・・・・ え? あ!! は、はい。 」

軽く肩に触れられ、フランソワ−ズは思わず頓狂な声を上げた。

彼女は 枝を四方に大きく張ってどっしりとした樫の大木をじ・・・っと見上げていたのだ。

傍目には 目の前の事態に呆然とし、なす術ものなく立ち尽くしている母親・・・に見えただろう。

しかし

この歴戦の女戦士は 樹の枝ぶりを注意深く観察し、息子のいる位置までの足場を

あれこれ試算していたのだ。

 

「 あ・・・ ごめんなさい、つい ぼんやりしてしまって。

 ああ、わたなべ君のお母様! でも ・・・ どうしてここに? 」

「 大丈夫ですか?  ええ、今日はね、うちの息子がすばる君やすぴかちゃんと

 <ちょっとおでかけ>する・・・って言いますのでね 念のために子供携帯を持たせたの。

 そうしたらさっき息子が 泣きべそで電話して来ましてね・・・ 」

「 まあ・・・ 御宅の大地君までひっぱりだしていたのですか? 

 それで ・・・ 大地君は・・・ ねえ、君も登ったのでしょう? 」

「 うん、おばちゃん。 」

お母さんのうしろにへばりついていた少年が こくん、と大きく頷いた。

すばるの しんゆう、 わたなべ だいち君である。

彼と島村さんちの双子の姉弟は 幼稚園の入園式の日に知り合いになり・・・

今では すばるの <しんゆう> になっていた。

母親同士もなにかと親しくお付き合いしていて、わたなべ夫人はフランソワ−ズにとっては

大切なママ達であり、そしてすこし年上の頼りになる<先輩>なのである。

「 僕 ・・・ 恐くなって途中で降りたんだ ・・・ 」

「 へ〜ん! 弱虫〜〜 ! アタシなんかちゃ〜んとてっぺんまで行ったも〜ん! 」

「 これ、すぴか! 」

よこから口を出した娘を 思わず引っ張ってしまった。

「 いいんですよ、島村さん。 本当にウチの大地は弱虫で ・・・ すぴかちゃんの勇気には感心します。」

わたなべ君のお母さんは にこにこしてすぴかの頭を撫でてくれた。

 

「 それで、ですね ・・・ 三人でここのお邸のお庭まで遠征して、 あの・・・ 大きな木に

 登って遊んでいたのですって。 」

「 まあ・・・! お友達まで連れて他所様のお庭に入るなんて・・・! 」

「 まあまあ・・・ こちらのお庭は地域でもちょっと有名なんですのよ。

 それにこちらのコズミ教授 ( せんせい ) はとてもきさくな方でね、

 近所の子供達が お庭にお邪魔してもにこにこ見ていらっしゃるのよ。 」

「 そうなんですか!  ああ、でも!どうしましょう〜〜 わたし、なにも持ってこなかったわ、

 脚立とか せめてハシゴかロ−プ ・・・  」

 

   ・・・ああ! せめて防護服を着込んでくればよかったわ。

   マフラ−がロ−プがわりになったわね。 ああ、残念!

   そうしたら わたしが登っておんぶして降りてこれたのに・・・・

 

今から取りに帰ろうか・・・と一瞬おもったが すぐに考えなおした。

人目があるのだ。

わたなべ君親子がいるし、子供達にだってあの姿は見せたくはない。

「 わたし、登ってみます。 」

「 え・・・・ フランソワ−ズさん、 大丈夫? 」

「 なんとか・・・ だってそれしか方法がないですもの。   すばる〜〜〜!? 

 今から お母さんが行くから・・・ しっかりつかまっているのよッ !! 」

 

「 ・・・・・ う ・・・ おかあさ〜〜ん ・・・・ 」

 

遥か上から息子の涙声が降ってきた。

フランソワ−ズはじっと目の前の樫の木をにらみ 最初の足場となる枝に手をのばした。

「 お母さん。 てっぺんの方ってね〜 オトナには無理かも。 」

「 え? どうして。 」

「 だってね〜 アタシが登ってもね〜 枝がゆさゆさするんだ〜 だからさ。

 この樹ってね〜 上よか横っちょに広がっているみたい。 」

「 ・・・ 登れるとこまで行くわ、お母さん。 」

「 お母さんさ〜 スカ−トだよ。 ぱんつ、見えちゃうよ? 」

「 ・・・え。 」

瞬間、フランソワ−ズはぱっとスカ−トの裾を押さえた。

全然忘れていた・・・! 

年中ショ−ト・パンツのすぴかとは ちょっとばかり<事情>が違ったのだ。

「 ・・・ でも。 しょうがないわ。 あのゥ・・・ 見ないフリしてくださいね? 」

「 はい、勿論! でも ・・・ 本当に大丈夫? 」

「 ・・・ 大丈夫 ! ( なことにします・・・ ) 」

フランソワ−ズはえいや・・・っと手近な出っ張りに脚を掛け <救出作戦> を開始した。

 

 

≪ フランソワ−ズ? もうすぐ付くから。 詳しい座標を送ってくれ。  ≫

突然アタマの中に ジョ−の声が響いた

≪ ・・・ ジョ− !!  よかった〜〜 あ、あのね、コズミ博士のお家なの。 ≫

≪ コズミ邸? うぬ、ヤツラは博士の留守を狙ったな! それできみは無事なのかい ≫

≪ ええ。  すばるが ・・・ ≫

≪ えええ??? な、なんだって!! ヤツらはぼくの大事な大事な息子に手を出したのか!!

   う、うむ〜〜 許せないッ !! ≫

≪ ジョー ??? ジョーったら。 落ち着いて・・ もしも〜し?? 聞こえますか? ≫

≪ ・・・ 聞こえてる。 いま、ス−パガンのパワ−を最大にセットしてた。 ≫

≪ ジョ−! 走りながらダメだってば。  あのねえ、落ち着いて!

   すばるは あなたの大事な息子は無事よ。 ・・・ 今のところは。 

≪ 今のところは? それじゃ 加速装置全開でコズミ邸に駆けつけるよッ !! ≫

≪ 待って待って!!! ダメよ、だめだめ!!! その格好で来ちゃ、だめ。

    ねえ、 まずウチに戻って・・・普通の服に着替えてそれから来て? 

≪ そんな悠長なヒマ・・・あ! 誰かいるんだね? 

≪ ええ。 それにね、 すぴかやすばるには まだ見せたくないの。 その ・・・ 

≪ ・・・・ わかった。 それじゃ ・・・ ぼくが着くまできみが全力で

   すばるを護れ! いいな、 003! 命令だぞ ! 

フラソソワ−ズの返事を待たずに脳波通信は ぷつり、と切れた。

 

「 はいはい・・・ 命令されなくてもわたしはあの子の母親ですからね・・・ 

 さて 次は ・・・あ、この枝が良さそう・・・ あれ? 」

脚を掛けた枝が 微妙な揺れをしている。

見かけは結構太そうなのだが・・・ フランソワ−ズは迷わず <見る>

「 ・・・ あらまあ! この枝、中は空洞だわ。 わたしの体重じゃあ ちょっと危ないかも・・・ 」

いかに生身の部分が一番多いとはいえ、彼女もサイボ−グ。

体内にはいくつかの基本的なメカニズムが埋め込まれていて、細身の見かけよりも実際は重い。

アルベルトやジョ−の比ではないが、やはり気をつけねばならない。

「 それじゃ ・・・ こっちの枝  きゃ・・・! ミシッ っていったわ〜〜 」

 

「 おかあさ〜〜ん !! 」

すぴかが真下で叫んでいる。

「 あら〜〜 すぴか、イヤよ、真下に来ちゃだめえ〜〜 」

「 お母さんってば。 あのねえ、お父さん、来たよぉ〜〜 車で来たんだって〜〜 」

「 え??   まあ、随分早いわね。 本気で加速装置全開したのね・・・ 」

「 フランソワ−ズ!! どこだ〜 」

「 ジョ− ・・・!  あ!!! だめ、だめだめ〜〜〜 見上げないで、真下にこないで〜!! 」

「 ?? なんだって?  なあ、どこにいるのかい、葉っぱがすごく茂っていて見えない・・・

 あ・・・ なんかピンクのものが見えたよ? 」

「 きゃあ、だめだってば〜〜 ジョ−、あっち 行ってェ〜〜 」

「 なに言ってるんだ??  すぴか、お母さん、ヘンだねえ?  」

「 お父さん、あのね〜 お母さんはね〜 スカ−トなんだ。 」

「 ???? 

「 それでね、木登りしてるからさ。 だからぁ〜 ぱんつ、丸見えなんだってば。 

「 ・・・ あ ・・・ そうなんだ。 」

ジョ−は くすり、と笑った。

 

   な〜にをいまさら。  きみの今日のランジェリ−の色なんてとっくに知っているよ

   その 下 だって。 脚の付け根にあるホクロの位置だってさ・・・

 

「 お父さん? 

「 あ・・・ な、なんだい、すぴか。 」

ちょっとばかり楽しい妄想をしていたジョ−は 娘の前であわてて顔を引き締めた。

「 多分ね〜 お母さん、上まで行けないよ。 この樹、案外上の方は細いんだ。 」

「 そうなんだ? 」

「 うん。 」

ジョ−はもっともらしい顔で頷く娘が 愛しくてならない。

きゅ・・・っと抱き締めたい! と思っていると・・・

 

「 あ!  ああああ・・・ 落ちる、落ちる〜〜〜 きゃあ〜〜 」

悲鳴と一緒に バサ・・・と結構太い枝が落ちてきた。

「 おい? フランソワ−ズ!  」

「 きゃあ〜〜 」

「  ・・・・ く ・・・! 」

 

  ・・・ ファサり・・・! 

 

次の瞬間、 ジョ−はしっかりと彼の妻を受け止めていた。

「 あ・・・・ ぁ ありがと・・・ ジョ− ・・・ 」

「 ・・・はあ〜〜 おい、大丈夫かい。 」

「 なんとか。  ちょっと擦り剥いたくらい ・・・ 

「 あの・・・ 大丈夫ですか、島村さんの奥さん? 」

「 ・・・ ( ジョ−! いい加減で降ろしてよッ! )  ええ、ありがとうございます。  

 ジョ−、わたなべ君のお母様。 

「 あ! コンニチワ。 ども・・・ウチの腕白が御宅の坊やも巻き込んじゃって・・・ 」

ジョ−はあわてて 挨拶をした。

「 こんにちは、すぴかちゃんとすばる君のお父様。  

 いえいえ、もう・・・3人でわいわい騒いで遊んでたのですからね。 でも・・・ちょっと素敵♪ 」

「 ・・・ は? 」

「 いえ、さっき ・・・ 奥様をしっかり受け止めていらっしゃったでしょ。

 なんだかアニメのヒ−ロ−みたいで かっこよかったですよ? 」

「 は・・・はあ・・・まあ ・・・ 」

ジョ−は妙な気分でしきりとアタマを掻いて 首までまっ赤になっている。

「 お父さん。 お父さんってば。 

「 なんだい? 」

すぴかがオトナ達の中に入ってきて つんつん父親の背中を突いている。

「 なんだい、すぴか。 」

「 ねえ!  す ・ ば ・ る! 

 

   ・・・ あ。 

 

「 いけね! お〜〜い すばるゥ〜〜 !! 大丈夫か〜〜 」

「 ・・・ おとうさ〜〜ん ・・・ 僕 ・・・ 僕ゥ〜〜 

すばるの声はほとんど泣きベソになり なにを言っているのか聞き取れない。

 

≪ ・・・なあ? 大丈夫かな。 

≪ なんとか。 けっこう太い枝に跨って幹にしがみついているから・・・ ≫

≪ そうか でも早く降ろしてやらないと・・・ ≫

≪ でも どうやって? わたしが登ってもミシミシいうのよ? ジョ−にはとても・・・ ≫

≪ う〜ん ・・・ ジャンプすれば簡単なんだけど・・・ ≫

≪ だめ。 それだけは ・・ だめよ。 ≫

≪ だったらどうする? あ、ハシゴとかロ−プかけて登ろうか ≫

≪ 誰が。 ≫

≪ う〜〜ん ・・・ 

 

「 ・・・ すばる〜〜〜 ! 

 

見つめあっていた夫婦は娘の声にはっと顔を上げた。

「 すぴか・・・ 」

すぴかは樹からちょっと離れてから 上を見て両手でメガホンをつくっている。

「 すばるゥ〜〜 聞こえる? 」

「 ・・・ なに、すぴか・・・ 」

よし、と頷いて なぜかすぴかはきゅ・・・っと目を瞑った。

「 すぴか、なにを 」

「 し。 ここはすぴかに任せてみようよ? なんたって生まれる前からの相棒なんだからさ。 」

ジョ−はそっとフランソワ−ズの腕を押さえた。

「 え ・・・ ええ。 それは そうなんだけど・・・ 」

「 上手く行きそうな予感がするよ、ぼくは。 

「  ・・・・・・  

夫婦は黙って 彼らの娘の小さな背中を見つめている。

「 すばる〜〜!  すばるが座ってるトコのちょっと上に小鳥の巣がある? 

「 ・・・ う ・・・ あ、ある! 」

「 今、いる枝って先ッちょが焦げてる? 」

「 ・・・ う ・・・ うん、先がないよ、焦げ臭いや。 」

「 そしたら〜〜 右足をさ、すぐ下にある枝に降ろして!  大丈夫、よ〜くつかまって! 」

「 ・・・ こわい〜〜 こわいよぉ〜 」

「 大丈夫だって! すぐ下の枝は頑丈だから。 いい? しっかり足、おろした? 

「 う ・・・ うん。 」

「 じゃあね 幹に抱きついたまんま、左脚をよいしょ・・・って右足のとなりに持ってきて? 」

「 ・・・ うん ・・・ よい ・・しょ ・・・ 

 

「 へえ・・・ すぴかのヤツ、ナヴィゲ−トしてるよ? 」

「 まあ ・・・ ! ああ、それで目を瞑っているのね? 」

「 らしいよ。 アタマの中ですばると一緒に樹から下りているつもりなんだろうな。 」

「 ・・・ すごいわね・・・! わたしにはとても出来ないわ。 」

「 きみにはいつでもやってくれているじゃないか。 」

「 ?  ・・・ああ、だってアレは <眼> や <耳> を使っているから。 」

「 いいや、そうじゃなくて・・・ 」

「 え? どういうこと? 

「 だからさ ・・・ お? すぴか、すばるの足が見えてきたよ。 」

「 ・・・・ うん。 多分一番下の枝にきたよ。 」

すぴかはぱっと眼を開けて 父親を見てに・・・っと笑った。

「 すぴか・・・ おまえ、すごいなあ。 お父さんはびっくりだよ。 」

「 すばるのことならさ、なんでもわかるもん。 」

「 さすが! お姉ちゃんだねえ。 偉いぞ〜〜 」

「 ちがうよぉ すばるはさ ・・・ う〜ん ・・・ もう一人のアタシなんだもの。 」

「 もう一人の ・・・ ? 」

「 ジョ−! すぴか! すばるが、ほら・・・ あそこ! 」

フランソワ−ズはば・・・っと樹の真下に駆け寄った。

「 すばる〜〜 大丈夫?? 

「 ・・・ うう ・・・ お母さん お母さ〜〜ん ・・・ ! 」

すばるは真っ赤な顔をして半ベソだったけれど、どうやら怪我はしていないらしい。

「 すぴか、次は? 

「 次?  あとはいつも飛び降りてるよ、アタシは。 」

「 え・・・ 」

オトナの背よりもかなり高い枝である。 普通のオトナがジャンプしても届くかどうか・・・の高さなのだ。

 

   ・・・ コイツ、凄いなあ。 ただのオテンバじゃないぞ、こりゃ。

 

ジョ−はつくづく感心して娘の顔を見つめてしまった。

フランソワ−ズそっくりな口元を 彼女はきゅ・・・っと引き締めて木を見上げている。

「 すばる〜〜 飛んで〜〜 ! 」

「 え〜〜〜 ・・・ 高いよ〜〜 こわいよ〜〜 出来ない〜〜 」

「 なによっ!! 弱虫〜〜 すばるの弱虫〜〜〜 !! 」

「 だって だって だって〜〜 」

「 ふん! もう 夜中のおトイレ、一緒に行ってやんな〜い! 」

「 やだやだやだ〜〜〜 」

「 こ、こら。  すぴか、ちょっと下がってて・・・ お〜い すばる? 」

木の上と下で口げんかを始めた姉娘を ジョ−はあわてて引き寄せた。

「 ・・・ お父さん〜〜  降りれないよ〜〜 」

「 すばる! いいから そこから 〜〜 飛べ! 」

「 え〜〜〜!! 」

「 お母さんってば。 」

木の上のすばるよりも フランソワ−ズのほうが大きな声を上げた。

「 大丈夫。 そこからまっすぐに飛べ!  すとん・・・って足からだぞ ! 」

「 ・・・ やだ〜〜 高いもん、僕の足、折れちゃうよ〜〜 」

「 平気だよ、お父さんがちゃんと受け止めてやるから! 」

「 ・・・ う ・・? 

「 ほら。  ここに降りてこい。 すばる! 」

ジョ−はすばるがしがみ付いている枝の真下に立って腕を大きく拡げた。

「 すばる〜〜 ?? いい〜〜?? アタシが掛け声、かけるから。 

 ね? いっせ〜の〜せッ !! 」

「 ・・・ うわぁ〜〜〜 

 

   バサ ・・・!

 

ジョ−はいとも簡単にしっかりと大事な息子の身体を抱きとめた。

「 ・・・ やあ。 」

「 お お父さ ・・・・ 」

「 すばる〜〜〜〜 すばる〜〜 」

フランソワ−ズが飛びついてきて、ジョ−も一緒にきゅ・・・っと抱き締めた。

「 うわ ・・・ おい、フラン! 」

「 あ! ご、ごめんなさい。 ああ・・・ よかった、よかったわ〜〜 」

「 お母さん、お母さん お母さ〜ん ・・・ 

すばるはついに わあわあ泣き出し ・・ フランソワ−ズは笑って息子を抱き取ろうとした。

「 ・・・ あ? あ・・・ れ ・・・? 」

「 お母さん?  どうしたの?? 」

フランソワ−ズは急に脚の力が抜けてしまい その場にふらふらと座り込んでしまった。

「 フラン? 大丈夫か。 」

「 お母さん・・・ しっかりして、お母さん! ・・・ うっく ・・・ 

「 ・・・ あらら。 どうしたの? まあ、すぴか。 あなたが泣くことないでしょう? 」

へたり込んだ母の側で 今度はすぴかがぽろぽろ涙を流し始めたていた。

「 ・・・ うっく ・・・ え ・・・ 」

「 すぴかちゃん、偉かったものねえ・・・ さあ、 お母さんにきゅう〜って抱っこしていただきなさいな。 」

固唾を呑んで一部始終を見つめていたわたなべ君のお母さんが すぴかの背中を押してくれた。

「 ・・・ お母さん ・・・ おか〜さん・・・ アタシ ・・・ 」

「 ごめん、ごめん。 一番頑張ってたの、あなただものね。 ありがとう、すぴか。 」

フランソワ−ズは座ったまま・・・ 盛大にベソをかいている娘を抱き寄せた。

「 おかあさ〜〜ん ・・・ え・・・えええ・・・ 」

「 なんだあ、すぴか。 すぴかだって泣き虫だなあ。 

「 ・・・ 泣き虫じゃ ・・・ ない ・・・ もん   うっく ・・・ 

「 いいのよ、いいのよ。 ほっとしたら涙がでちゃったのよね。 」

「 わあ〜〜 ・・・ 」

とうとうすぴかも母の胸にしがみついて大泣きを始めてしまった。

 

 

 

 

「 ・・・ あ〜あ ・・・ なんだか滅茶苦茶に疲れたわ。 」

「 うん、ぼくもさ。 ・・・ ミッションなんかの比じゃないよ。 」

「 し〜・・・ 聞こえるわ、子供たちに・・・ 

「 ん? 大丈夫だよ、二人とも寝ちゃってる。 」

「 ああ、どうりで・・・。 重たいと思ったわよ。 よいしょ・・・ 」

島村さんちのご主人と奥さんは もう小学生の息子と娘をオンブして歩いていた。

一件落着、わたなべ君のお母さんにたくさんたくさん御礼を言ってから

一家はやっと帰り道を辿り始めた。

ジョ−はかなり遠くに車を置いてきたので、ぷらぷら夫婦でオンブの道程になった。

「 ・・・ ともかく。 誰も大きな怪我をしなくてよかったわ。 」

「 そうだね。 まずはそれが一番だよ。 」

「 ええ。  さ〜あ! 帰ったら ガツン!と大お説教大会だわ。 」

「 ははは・・・ うん、まあ〆るトコはしめとかないとね。 」

「 ジョ− ・・・ 

「 うん? なんだい。 

「 ・・・ あなたがいてくれて よかった! 」

「 あは。 ぼくは実はな〜んにもしてないって。 一番頑張ったのは・・・ 」

「「 すぴか 」」

夫婦は 母の背でくうくう寝ている亜麻色のお下げの少女に微笑みかけた。

 

 

 

その晩。

晩御飯が終ったあとで 島村さんちの双子の姉弟はしこたまお説教をくらった。

 

   ヨソのお家に勝手に入ってはいけません!!!

   冒険もいいけど、危ないな、と思ったら <引き返す>こと!

 

子供ごころにもショッキングな出来事だったので、二人は神妙に聞いていた。

 

「 ・・・ わかった? 」

「 うん。 」  「 ・・・ うん。 」

「 うん、じゃなくて。 はい、だろ。 」

「「 はい。 」」

「 それからコズミのおじいちゃまがお帰りになったら ごめんなさい をしに行きましょうね。 」

「 う ・・ あ、 はい。 」

「 すばるも、いいわね。 」

「 ・・・ はい。 」

「 それじゃ 歯を磨いてお休みなさい。 」

「「 は〜い 」」

「 ・・・ すぴか。 あの、さ・・・ 」

「 なに? 」

「 あのゥ・・・ 僕、もう泣かないから。 夜中のトイレ・・・一緒に行って ・・・ 」

「 わ〜かってるってば。  ・・・ ごめん。 

「 ん。 ・・・ 僕も ごめん。 」

に・・・っと笑いあって姉弟は手を繋いで子供部屋に出ていった。

 

 

「 ・・・ ああ、やれやれ。 これにて一件落着〜〜ってヤツだなあ。 」

「 なあに、それ? 

「 え・・・ ああ、ふふふ・・・日本の古い慣用句さ。 」

( おいおい・・・・ ジョ−君、違うだろうが? )

「 ・・・へえ・・・ まあ、これに懲りてもうヨソのお家で木登りなんかしないでしょ。 」

「 だといいけどね。 」

「 あら、どうして? あ・・・ お茶、淹れ直しましょうか。 それとも ブランディ−とか・・・」

「 う〜ん ・・・ そうだな、ちょいと一杯飲もうか。 」

「 それじゃ・・・ この前のグレ−トのお土産、あけましょ。 」

「 うん、いいね。  ああ、ぼくが開けるよ。 」

「 ほら、これ。  おねがいね。 」

夫婦はチリン・・・とグラスを合わせてから ゆっくりと琥珀色の液体を味わう。

芳醇な酒精が ふわり・・・と二人の間に沸きあがった。

「 う〜ん ・・・ わあ いい香りね・・・ 」

「 ・・・ ああ ・・・ 美味しいな ・・・ 」

「 本当に・・・  ねえ、さっきのハナシだけど? 」

「 え・・・ ああ、木登りか。 いや・・・ 木登り、じゃないんだけど。

 実はさ。 ぼくも似たような経験があるんだ。 施設にいた頃にね・・・ 」

ジョ−はもう一口、 グラスを口に運ぶとゆっくりと話はじめた。

教会の屋根を修繕に来ていた職人さんが使っていた梯子に面白半分登ったのだという。

「 ところがさ。 屋根にいるぼくに気がつかずにそのヒトは仕事を終えて・・・

 梯子を外して帰っちゃったんだ。 」

「 え・・・!! だって ・・・ 教会の屋根って・・・普通の家より高いわよねえ? 」

「 うん。 どうやったって子供一人では降りられなかったよ。 」

「 ・・・ それで ・・・ どうしたの? 」

「 結局 夕食に来ないって、やっと気がついてもらえて なんとか降りれたんだ。 」

「 まあ・・・ そうなの? まあ・・・・ 」

「 ふふふ ・・・ オトコノコってのは皆 そんなもんさ。 」

「 う〜ん ・・・・ そうねえ、そういえばわたしの兄も子供の頃はよく父に叱られてたわ。

 木登り・・・ではなかったと思うけど・・・ 」

「 そうなんだ・・・ ふうん・・・ お兄さんもねえ。 」

「 ええ。 側にいるわたしが先に泣き出して父はそれっきり怒れなくなって。

 苦笑してたわ、ずるいぞ〜ってね。 」

「 そかぁ・・・ いいね、そういうの。 」

コトン、とジョ−はグラスをテ−ブルに置いた。

「 お兄さんも・・・アイツらも。 ぼくは羨ましいなあ・・・・ 」

「 羨ましい?? どうして 」

「 だって。  ぼくにはあんなに叱ってくれる人はいなかった・・・

 泣いて縋ってゆくトコロは どこにもなかったもの 」

「 ・・・・ ジョ− ・・・・ 

フランソワ−ズは隣にいる彼女の夫に向き直った。

「 わたしがいるわ。 どんな時だって わたしがいるわ、あなたの側に いつも一緒に。 」

「 フランソワ−ズ ・・・ 」

ジョ−は静かに彼の細君の肩を抱き寄せた。

「 ああ ・・・ きみに出会えてよかったよ。 本当に ・・・ 

 ぼくの本当の人生はきみと巡り会ったときから 始まったんだ。 」

「 ジョ−。 わたしもよ。 今、はっきりと言えるわ。

 わたしは ジョ−と出会いジョ−と愛し合うために生きてきたんだって。 

「 ・・・ ありがとう。 ああ、ぼくはずっと・・・一生きみにナビゲ−トしてもらって生きてくよ。 」

「 え? ・・・ 昼間も言ってたわね、でもそんなのミッションの時だけじゃない。 」

「 いいや。 」 

ジョ−は すい・・・っと白いうなじに唇を寄せる。

「 きゃ・・・ なあに、もう ・・・ 」

「 きみの微笑み きみの笑顔。 そうさ、 きみの生き様が ぼくを引っ張ってくれるんだ。

 いつだって しゃんと顔を上げて正面を見つめているきみが ・・・ね。 」

「 あ・・・ ヤダってば ジョ−。 こんなトコで・・・ 」

するり、とジョ−の指は襟元から忍び込むと あっと言う間にブラウスのボタンを外してしまった。

「 大丈夫さ ・・・ アイツらはもう夢の中だろうし。 

 いつだって受け止めてくれるんだろ? ・・・ なあ ・・・ 

ジョ−は肌蹴た白い胸に ぴたり、と顔を埋めた。

「 ・・・ あ ・・・ ん ・・・ もう ・・・ 仕様のないヒトね。 甘えん坊さん・・・ 」

白い指が やさしくセピアの髪に絡まってゆく。

「 ああ、そうだ。 きみ、心配しなくていいよ? 」

「 ・・・ え ・・・・ な ・・・に? 

ジョ−は柔らかな谷間から ふと顔をあげた。

「 きみのぱんつの色はちゃ〜んと知っているから、さ。 」

「 ・・・・ ジョ−ぉ!!! 」

「 あははは・・・ でも なにもないのがイチバン素敵さ♪ 」

「 ・・・ きゃ ・・・!  」

やがて二人はともに  てっぺん に上り詰めていった。

 

 

 

 

***************     Fin.    ***************

Last updated : 07,22,2008.                                   index

 

 

******    ひと言    ******

はい、お馴染み  < 島村さんち > の のほほ〜ん・小噺であります♪

今回はお転婆・すぴかちゃんの大活躍?? なのでした(^o^)

こんな当ったり前の日々が ジョ−君とフランちゃんに廻ってきて欲しい・・・と

これはワタクシの祈りでもあります。 

元ネタは相棒様のご子息の <ぼうけん> から頂きました<(_ _)>

・・・・ しっかし。 ジョ−君はやっぱりず〜っとどこかでトラウマを引き摺ってゆくのだな〜と

ちょっとしんみりしたりして。  夏休みの風景・・・と楽しんで頂ければ幸いでございます <(_ _)>