『 融けない氷 』
「 ・・・ ひとりぼっちには 慣れているはずじゃないか ・・・ 」
そう。 あの時・・・ 自分はそんなことを呟いていた。
たった一人、<時間の檻>に閉じ込められた あの時。
空間だけは共有している愛しい恋人は 慕わしい老人は じつはまるで違う時間に生きていた。
屍ではない。 ちゃんと彼らは呼吸をし、心臓は熱く脈打っている・・・はずなのだが。
彼らは微動だにせず、いつまでたっても同じ場所に同じ表情で 立ち尽くしていた。
「 あら・・・ ジョ−。 もう目が覚めたの? 気分はどう?
お茶、入れるわ。 ああ、 なにか食べられる ? 」
「 おお ジョ−。 随分と早く覚醒したな。 ・・・ よしよし・・・ うむ。
どうじゃな、違和感はないか。 」
そんな言葉が 今にも彼女の唇からこぼれ 老人の顔には笑みが広がる ・・・ ように思えるのだが。
彼の周りには 何も動くものがない。 すべてが森閑と・・・音すらも凍り付いている。
・・・ 頼む ・・・! 一ミリでもいいから・・・! 動いてくれ〜〜!!
ジョ−は叫ぶ気力も失せ、ただ壁にもたれ ・・・ それでも時折カチリ、と奥歯をかんでいた。
もう何百回となく繰り返したその動作は 小さな音をたてる以外なんの反応も示さない。
「 ・・・ ちょっと 出かけてくるよ。 ああ・・・ そのままでいいよ、送らなくていい。
すぐ・・・ そう、すぐに帰ってくるから ・・・・ さ。 」
イッテキマス ・・・ と小声で言って そっと触れたそのひとの唇は 堅くかたまったままだった。
「 ・・・ すぐ 帰ります・・・ 」
いつもと寸分も変わらないリビングに 視線をなげ、愛しいヒトに微笑みを送り、
ジョ−は重い足取りでギルモア邸の玄関を出ていった
彼の懐かしい人々の姿を目の奥に焼付け、ジョ−はぼんやりと呟いた。
・・・ ひとりぼっちには慣れているさ。
初秋の夜気は、爽やかに流れるはずの夜風は ・・・ どこにもなかった。
海風にいつも葉を揺らしている松林は そよりともせず、 絶えず聞こえている波音も沈黙のままだ。
動かない空気を掻き分けて歩むジョ−の足音も どこかへ吸い取られてしまう。
いつ果てるとも知れない、沈黙と静止の世界。
空気は固まり、星はまたたかず、そして 大海原にも漣ひとつ立ち上がらない。
人々は立像となり 同じ表情をいつまでもその顔に貼り付けていた。
動いているのは。 動けるのは・・・ ジョ−、ただひとり。
「 ・・・ やあ、 こんばんは。 夜になると随分涼しくなりましたね。 」
「 あ、久し振り〜〜 元気でしたか? 」
「 ・・・ フランソワ−ズが いつも ・・・ 」
「 ・・・・・ こんばんは ・・・ 」
ジョ−は地元の商店街に佇む人々に だれかれとなく声をかけた。
顔見知りのヒトも多くなり、最近では口の重いジョ−でさえ挨拶をするようになっていた。
岬の洋館の老先生 と 若夫婦 − 町の人々もそんな風にみえる彼らに、気軽に声をかける。
ようよう暑熱も去ったこんな夜、 ちょっとぷらぷらするにはいい時分である。
しかし
行き交う ・・・ はずの人々は頑なに同じ姿勢・同じ表情を崩さず
誰ひとりとして セピア色の髪の青年に応えてはくれなかった。
・・・ おやすみなさい ・・・ みなさん ・・・
ジョ−は 重い足取りでギルモア邸い戻ると、またいつもの壁に背を預けた。
投げ出した脚が ・・・ 垂れた腕が ・・・ だんだんと固まってゆく ・・・
足元から手先から どんどんと強張りが上ってきて
やがてそれは 心臓に達し ・・・ ああ・・・!! 息が ・・・ つ ・ ま ・ る ・・・!!
・・・ 頼む ・・・! なんでもいい・・・!
動いて くれ ・・・ !! このままでは ・・・ ぼくは ・・・ !!!
激しい恐怖の波が ジョ−を襲う。
ガバ・・・!と跳ね起きると 彼はテラスに飛び出した。
墨を流した闇には 一月前とほとんど変わらない位置に飛行機のランプが見える。
いつもなら あっという間に通り過ぎそのテ−ルランプは星の瞬きの間の紛れこんでしまうのだが。
今、旅客機のランプは いつもいつも ・・・ いつまでたっても同じ位置に同じ強さで輝いていた。
・・・・ どこへ ・・・ 行くのかい。 ぼくもあれに乗っていれば よかった・・・?
グォ ・・・・ −−−−−−−− !!
突如 音の束が夜空を引き裂き 爆音が次第に大きく聞こえ始めた。
「 ・・・ な ・・・?! う ・ わ〜〜〜〜 !!!! 」
ジョ−は野獣の咆哮のごとく喚き・叫び ・・・ リビングに駆け込んでいった。
そして。
彼を閉じ込めていた時間の檻は 突如融けて消え去ったのである。
「 ・・・ うん。 子供の頃から一人ぼっちには慣れていたけどね。
さすがに・・・ キツかったよ。 もう永遠にあの檻に閉じ込められているのかと思えたし。 」
「 まあ ・・・ 恐ろしいわ。 そんなコトって ・・・ 本当にあるのねえ・・・ 」
彼の恋人は 白い頬を強張らせ眉根を寄せて彼の話を聞いてくれた。
「 ・・・ よかった・・・ ジョ−、あなたがちゃんとこの世・・・ この時間に戻ってきてくれて・・・ 」
「 フランソワ−ズ ・・・・ 」
とん・・・と胸に寄り添ってきた身体は しなやかに温かく。
あの陶器よりも冷たく固まっていた ・・・ 彼女の身体。
機械の冷たさよりも もっと不気味に、命あるものとは思えない冷え冷えとした彼女の身体。
ジョ−の指先に 一瞬あのおぞましい感覚が蘇り、 彼はぶるりっと身を震わせた。
「 ・・・ ジョ− ? 」
「 ううん ・・・ なんでもないよ。 」
そう? と覗き込む瞳は 空の青よりなお深くそれでいて太陽の光を湛えている。
この瞳 ・・・ この温かな眼差しすら、冷たい無機質な鏡だった ・・・
「 なんでもない。 きみがいるから。 ・・・ ここに ・・・ 」
がっしりとした大きな手が 細い肩に、なめらかな背に まわされた。
「 ・・・ もう ぼくだけでは生きてゆけない。 」
「 ・・・・・ 」
彼の恋人は黙って唇を合わせてきた。
・・・ そうさ。 もう ・・・ ぼくは一人ではないんだ。
ひとりぼっちには ・・・ もう慣れてない。 慣れたくなんかない !!
ジョ−の思いは そのままフランソワ−ズの身体に伝わった。
細い腕が するりとジョ−の首に絡みつく。
ちろちろとセピアの髪を愛撫し フランソワ−ズはほろほろと涙を流した。
「 よかった ・・・ 本当によかった。 ジョ−が ・・・ 無事で・・・ 」
「 ・・・ 長かったよ。 今まで経験したどんな時よりも・・・ もう永遠に夜は明けないと思った。 」
「 わたし、なにもできないわね。 側にいたのに・・・ 」
「 あ、きみのせいじゃないって。 誰も ・・・ たとえイワンだってどうしようもないと思うよ。 」
「 ・・・ そう ・・・ ? 」
「 もう気にしないで・・・ 今、きみはここに、ぼくの腕の中にいる・・・ 」
ジョ−は彼の恋人に胸に顔を埋め、ほのかに香る彼女のにおいをいっぱいに吸い込んだ。
博士は驚愕しつつジョ−の <ひとりぼっちの一ヶ月> について聞き、
そのような不具合は まさに精密機器におけるバグであり、再び起きる確率は
天文学的数字でゼロにちかい、と説明してくれた。
「 生身じゃとて、な。 ひょい、ととんでもない難病を背負い込んでしまうケ−スがあるじゃろう?
それと同じようなものだよ。 あまり気にしないことだ。 」
博士はさらりと言ってのけ、ジョ−もそんなものか、と軽く受け流した・・・つもりだった。
少なくとも その時は。 しかし。
二度と起きない、とは博士はいわなかった・・・よな?
ふと辿り着いた事実に ジョ−はひとり、愕然とした。
機器のはっきりした損傷ではない。 プログラムのミスでもない。
・・・ とすれば 直す方法 はなく、絶対にもう起きない・・・という保障もないのだ。
また ・・・ あの静寂の中に捕らわれるのか・・・???
つるつると冷や汗が背筋を伝って落ちてゆく。
・・・ 冗談じゃないよ! あの ・・・ 緩やかな恐怖は ・・・
「 ジョ−? どうかしたの。 気持ち、悪い? 」
白い指が セピア色の髪を梳きやってジョ−の頬をやわらかく撫ぜる。
「 ・・・う? あ、ああ。 ごめん ・・・ なんでもないんだ。
ちょっと ・・・・ そのう、いろいろ思い出しちゃって・・・さ。 」
「 ・・・ まあ? そうなの。 それなら いいけど・・・ 」
「 ウン。 ぼんやりしてて ・・・ ごめん。 」
ジョ−は頬に当たる彼女の手を挟むと 唇を寄せた。
「 ・・・ きみの指って ・・・ 甘いね ・・・・ 」
「 あら。 わたしの指はお菓子じゃないわ ? 」
クス・・・ッと小さな笑い声をたて、 フランソワ−ズはジョ−に抱きついた。
「 ・・・ わお♪ ・・・ さあ〜 どこから食べようかな ? 」
「 うふふ・・・・ わたし、美味しいかしら? 」
「 うん! ・・・・ どんなスウィ−ツよりも あ ・ ま ・ い♪♪ 」
「 ・・・ きゃ ・・・ ! 」
ジョ−はそのままフランソワ−ズに覆いかぶさった。
フランソワ−ズの柔肌はどんな羽根布団にも優る、ジョ−だけのための最高の褥だった。
・・・ かえってきた ・・・ ぼくは いま、ここに ・・・・
もう 一人じゃない。 そう もう 独りは ・・・ ごめんだ。
「 ・・・ あ ・・・・ んんん ・・・・ ジョ− ・・・ 」
「 ああ ・・・ きみの ・・・ 味がする ・・・ 」
「 ・・・ う っ く ・・・・ わ たし ・・・ こわい ・・・ 」
「 え? なに。 」
「 もし ・・・ また ・・・ ジョ−が <別の時間> に 行ってしまったら・・・ 」
「 え・・・ あ、ああ。 もう ・・・ あんなコトは起こらない ・・・ と思うよ。 」
「 ・・・ そう ? ・・・ あ ・・・ ぁぁ ・・・・ それなら ・・・ いい ・・・ くっ! 」
「 ・・・ ああ・・・ 温かい・・・ 」
「 ・・・・・ 」
ジョ−は彼女の温かい海に潜り込み 熱い吐息を洩らす。
そう・・・ ここが 自分の還るべき処なのだ。
「 ぼくは ・・・ ひとり ・・・ じゃ ・・・ ない・・・・ !! 」
白いシ−ツにくるまって ジョ−とフランソワ−ズはお互いに溺れ共に同じ昂みへと駆け上がった。
ジョ−は 自分の生の熱さを迸らせ、命の炎を掻き立てた。
もう ひとりでは 生きられない。
二度と 独りになるのは ・・・ ごめんだ !!
真っ白に弾けたジョ−の頭の中で いつまでもその言葉のリフレインが続いていた。
末端価格何十億といもいわれている新種の <白い粉> の出所を追ってゆくうちに、
サイボ−グ達は お決まりの結論に到達した。
やはり 最終的に裏で糸を引いていたのは NBG 絡みであった。
ヤツらの執拗さに呆れつつも どうして根絶できないのか、と焦燥感すら湧いてきてしまう。
しかし、手を拱いていることはできない。 やれること、やるべきことから手を打つのだ。
サイボ−グ達は 世界各地から結集し、麻薬密造基地を破壊するために出撃した。
手始めの作戦で 思わぬアクシデントに見舞われてしまった。
ミッション中に、ジョ−が一瞬加速するのが遅れあやうくフランソワ−ズが
自動追尾のレ−ザ−に捕まるところだったのだ。
別チ−ムで行動していたジェットが最高加速で対応し、辛くも最悪のケ−スは免れた。
しかし、フランソワ−ズは右手・右足に損傷を受けてしまった。
チクショウ・・・! なにをぼんやりしてたんだ、ぼくは!!
ジョ−は自分でも思いも寄らぬ失態に彼自身が一番ショックを受けていた。
博士のメンテナンスは完璧に終了していたし、今までの戦闘でこのような経験はなかった。
「 ・・・ ジョ−。 どこか君自身に不具合があるのかい。 」
「 ・・・ いや。 」
「 そうか。 」
ドルフィン号の医療室の前に佇むジョ−にピュンマが声をかけた。
「 フランソワ−ズは大丈夫だよ。 ちらっと見ただけだけど、そんなに酷い怪我ではなかったようだし。 」
「 ・・・ 怪我の程度よりも・・・ あんなミス・・・! どうかしているよ、ぼくは!
ぼくは自分が許せない。 なんだって ・・・ あんな ・・・ ! 」
ジョ−の返事は呻き声に近かった。
「 とにかく・・・ ここは博士に任せて。 ミッションはまだ遂行中だ。 」
「 あ・・・ ああ。 」
ジョ−はもう一度、じっと医療室のドアをみつめ重い足取りでコクピットに戻って行った。
そして。
カリカリ、アタマに血が昇っていたジェットの鉄拳が ジョ−を待ち受けていたのだった。
「 バカヤロ!! 」
「 ・・・ おい。 止せ。 」
ジェットの振り上げた拳を アルベルトはがしっと制止した。
「 くだらん諍いをしている場合ではなかろう? 」
「 そりゃ ・・・ そうだけど、よ。 でもよ! どっかの腰抜け野郎のおかげでさ !
フランのヤツは死に損なったんだぜ? 」
喚き続ける赤毛を、アルベルトはぐい、と押しのけた。
「 ・・・ ジョ−。 どうした。 」
「 アルベルト ・・・・ 。 わからない、 本当にどうしてなのか・・・
ぼくには 自分で自分が ・・・ わからない。 どうしたら・・・ 」
ジョ−は頭を抱え呻き続けている。
「 ・・・ あんまり ・・・ 怒らないで ・・・? 」
「 フランソワ−ズ !! 」
誰もが歓喜の笑顔で コクピットへの入り口を見つめた。
「 おい、もう 大丈夫なのかよ? 」
「 ええ。 あんなの ・・・ かすり傷だっていったでしょう?
なのに、ジェットったら大騒ぎして・・・ うふふふ・・・ ちょっぴり嬉しかったけど 」
「 だってよ〜〜 ああ、その笑顔がでればもう大丈夫だな ! 」
「 ふふふ ・・・ 皆様。ご心配をおかけしました。 」
フランソワ−ズはしっかりとした足取りで 自分のシ−トについた。
「 さあ。 次の作戦を開始しましょう。 まだ基地は分散しているようね? 」
「 本当に大丈夫なのか。 」
「 ええ。 ジェットが飛び込んできてくれたし・・・ こんな傷はいつものことよ。 」
フランソワ−ズは右手を翳し ひらひらと振ってみせた。
防護服の袖からサポ−タが覗き 右手の半ばまで覆っている。
「 おし! ほんじゃ 発進するぜ! ・・・ おい? ジョ− ?! 」
「 ・・・ あ ・・・ ごめん・・・。 ・・・ 垂直上昇、開始・・・ 」
「 チョイ待ち。 お前〜〜 フランになんとか言えよ?
いっくらソノ仲だってもよ、ミッションでは対等な仲間だぜ。 礼儀ってもんがあるだろ。 」
「 ・・・ ははは・・・ おぬしの口からその言葉が出るとは・・・
こりゃ沙翁でも お釈迦様でも ご存知あるまいよ。 」
「 グレ−ト〜〜 !! 」
「 いや・・・ 失敬、失敬。 」
カツン、と音をたてジョ−はメイン・パイロット・シ−トから立ち上がった。
「 ・・・ ごめん! 全てはぼくのせいだ。 本当に悪かったです。 」
ジョ−はぺこり、とフランソワ−ズに頭を下げた。
「 ぼくが タイミングを狂わせた。 ジェットがカバ−してくれて大事に至らなかったけど。
きみに怪我をさせてしまった。 ぼくのミスです、ごめんなさい。 」
「 ジョ− ・・・ もう、いいわ。 今度、もっと訓練をしておきましょうよ?
いざって時に ミスらないように。 」
「 そうだね。 精度をあげれば作戦にもかなりの幅ができるし。 」
「 ええ、あまり闘いに備えて・・・っていうのは好きじゃないけれど。
できる範囲で準備はしておかないと・・・。 」
「 うん。 」
「 じゃ・・・ ヨロシク、ね。 次の作戦を開始しましょう! 」
ひらり、とフランソワ−ズはサポ−タ−に包まれた右手を出した。
一番闘いを嫌っているのに、常に前向きなフランソワ−ズ・・・
彼女の穏やかな声からやわらかな眼差しから 温かいなにかが溢れでてくる。
・・・ これが 彼女の <強さ> なんだろう・・・
ああ ・・・ 真に最強のヒトは 彼女だ・・・ !
ジョ−は差し出された白い手を しっかりとにぎり返した。
「 あの基地はかなり大規模だったけど、ヤツらの中枢ではないね。 」
「 ・・・ そのようだな。 メインはどこか別の、違う場所の可能性もある。 」
「 うん。 地球外・・・たとえば宇宙空間かもしれないしね。
今はもう、何でもあり、の時代だからねえ・・・ 」
ピュンマは ほう・・・っと大きく溜息を吐いた。
「 暫定的な効果しか得られんだろうが・・・ ともかく残りを叩こう。 」
「 そうだね。 ・・・ とりあえずはそれが一番有効策だろうね。 」
アルベルトは淡々とミッションの継続を提案した。
集めたデ−タを分析し、ピュンマもしずかに頷いた。
「 ほ・・・。 地道にモグラ叩きという寸法であるな。 」
「 おし! 久々に クラッシャ−するか〜 」
ジェットは 派手に親指を動かしている。
「 おい・・・ ゲ−ムじゃないぞ。 」
「 ってるって。 おら〜〜 ジョ−? ほんじゃ、頼むぜェ 」
「 あ・・・ うん。 ありがとう、ジェット。 」
バン!と背を叩かれ、 ジョ−は顔を引き締めてメイン・パイロット・シ−トに着いた。
「 ジョ− ? 次の目標の座標を送っておいたから。 チェックしてくれ。」
「 サンキュ、ピュンマ。 」
「 ほっほ。 現在 ・・・ アチラさん地域の天候は良好アルね〜 」
「 よし。 それじゃ、ジョ−。 出発だ。 」
アルベルトの声に コクピットの空気がさっと緊張した。
ジョ−は静かに頷いて シ−トに座った。
「 ドルフィン ・・・ 垂直上昇スタンバイ ・・・ 」
「 了解 ・・・ 〇〇〇、異常ナシ。 」
「 ××× 準備完了 ! 」
仲間達からつぎつぎと確認作業の報告がかえる。
「 ・・・ 003。 最終確認を。 」
「 了解。 ・・・・ 半径5キロ以内に敵影、認められません。 爆音も ・・・ ナシ。 」
「 了解。 ドルフィン ・・・ take off !! 」
微かな振動をコクピットに伝え ドルフィン号は滑らかに上昇を始めた。
次の段階のミッションは 快調に開始した ・・・ はずだったのだが。
トントン ・・・ トン ・・・
控えめなノックがずっと続いている。
ジョ−はついにこれ以上無視できなくなり、毛布を蹴飛ばしベッドから起き上がった。
カチリ。
ほとんど掛けたことのないロックを開け、ジョ−は低く応えた。
「 どうぞ。 」
思ったとおり、蒼ざめたフランソワ−ズが入り口に立ちつくしている。
「 ・・・ ? どうぞ? 入ってくれよ。 」
「 ・・・ でも どうして。 」
ジョ−の声よりも低く、フランソワ−ズは呟いた。
「 ・・・ わからない。 本当に ・・・ わからないんだ・・・ !
身体が ・・・ 一瞬動かなかった。 」
「 博士のご意見は? 」
「 ・・・・・ 」
ジョ−は黙って首を振った。
「 それじゃ ・・・ どうして。 どうして同じことが二回も起きるの。 」
「 ・・・! わからない! 原因が判ればすぐに対処しているよッ! 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」
思わず怒鳴り返してしまったジョ−に フランソワ−ズはただ、じっと見つめているばかりである。
ふ・・・っとジョ−のセピア色の瞳がゆらめき、重い溜息が加わった。
「 ・・・ ごめん ・・・ きみが悪いんじゃないのに・・・ 」
「 ごめんなさい、煩く言って。 でも判って。 心配なの。
次は ・・・ あなた自身が ・・・ どうかなってしまうかもしれないわ。 」
「 ・・・ あ ・・・ ああ・・・ ごめん。 つい・・・大きな声を上げて・・・・ ごめん ・・・ 」
ジョ−はどさり、とベッドに腰を下ろした。
再び発進したドルフィン号は 国境地帯へと進んだ。
そして 密林の奥にひそかに設置されていた基地の破壊に当たったのだ。
ロボット兵もほとんど姿を見せず、拉致されているらしい人々もいなかった。
サイボ−グ達は遠慮なく作戦を開始した。
しかし、
最終段階で またしてもトラブルが発生してしまった。
「 本当に 何がなんだか ・・・ わからない。
さっき、博士にここでできる限りのサ−チをしてもらったんだ。 」
「 それで? どこか ・・・ ? 」
「 いや。 現在の所、異常なし。 が結論だった。 」
「 ・・・・・・・ 」
フランソワ−ズはもうなにも言わずに ジョ−を見つめるだけだ。
「 あの時。 どうして遅れたのか・・・ 加速装置は正常に稼働したんだ。
ただ ・・・・ 起動するのが ・・・ ぼくが思っているよりも一瞬遅かった・・・ 」
「 でも、普通に、いつもと同じタイミングでスイッチを噛んだのでしょう? 」
「 ああ。 」
フランソワ−ズは静かにジョ−のキャビンにはいり、彼の隣に座った。
「 ・・・ ね? 気を悪くしないで。 」
「 うん? 」
「 思い出してみて。 どうして 加速装置の起動が遅れたの?
あの時のこと、なんでもいいわ。 言葉にして再現してみましょう。 」
「 うん ・・・ あの時 ・・・ コントロ−ル・ル−ムのサ−バ−の前で ピュンマからの通信に
従って ・・・ 起爆装置を仕掛けた。 時間をセットして ・・・ 確認した。 」
「 そう・・・ わたしも 別の部屋で同じことをしていたわ。 」
「 うん ・・・ きみの通信も聞いていた。 それで脱出しようとしたら ・・・ 」
「 わたしが頼んだのよ。 コンピュ−タのデ−タを廃棄してって。
本当ならコピ−して持ち出した方がいいけれど・・・ その時間はなかったわ。 」
「 そうだ。 それで ・・・ もう時間も迫っていたからハ−ドごと破壊した。 」
「 ええ。 爆破装置はカウントを始めていたものね。 」
「 今度こそ最終確認だって・・・ 全部見直して念のために出来る限り
周辺のサブ・コンピュ−タをス−パ−ガンで破壊した。 」
「 そうね。 わたしが退避した後も、ジョ−のレ−ザ−の音が聞こえていたわ。 」
「 カウンタ−をチラチラ見て ・・・もうここまでだ、って思った。
脱出しようと思った時 ドアの向こうになにか気配を感じて ・・・
置き去りにされた現地のヒトか 逃げ遅れた敵兵か・・・様子を窺ったんだ。 」
ジョ−は壊れたドアの陰に隠れ、脱出の機会を狙った。
カウンタ−の数字が赤く点滅し始めた。
もう限界だった。 これ以上留まっていては確実に爆発に巻き込まれてしまう。
ジョ−は半壊しているドアを蹴破った途端 ・・・ 目の前にロボット兵の残骸が転げてきた。
・・・ ち !
その瞬間。 加速装置をオンにした ・・・ はずだった。
しかし ジョ−の身体は爆風に巻き込まれ 激しい勢いで天井を突き破り飛ばされてしまった。
[ おい! スイッチ、入れろ! ]
[ ・・・ ウ ・・・ ああ・・・ ]
アタマの中にがんがんとジェットの怒声が響く。 ジョ−はようやく我に返り加速装置をオンにした。
たちまち周囲の煙が、飛び散っていた基地の残骸が <停止> する。
ジョ−は浮遊する瓦礫の間を縫って脱出した。
[ おい。 急げ。 じきに全体が吹っ飛ぶ。 ]
[ ・・・ 了解! ]
[ いくぞ。 おら!]
[ ・・・ ありがとう! ]
ムスっとした顔でジェットが空中から降りてきた。
いくら加速中とはいえぐずぐずしていては危険な時間だ。
ジェットはジョ−を抱えると 加速装置全開で再び空中をすっ飛んでいった。
「 そう・・・ それは見ていたわ。 あの後のジョ−の行動は適切だったもの。
加速装置自体に不具合はないわ。 」
「 ぼくもそう思う。 だけど ・・・ 確かにあの時、装置はすぐに起動しなかった。
ぼく自身にも もう ・・・ なにがなんだかよくわからないよ・・・!
いっそ ・・・ 完全に壊れてしまった方がずっとマシだ! 」
大きく溜息を吐き、ジョ−はぐしゃぐしゃと髪をかきむしった。
「 ジョ−・・・ そんな ・・・ 」
フランソワ−ズはそっとジョ−の背に手を当てた。
「 ・・・ ね? ジョ−。 あのね。 もしかして・・・ 」
「 ・・・ え? 」
「 だから・・・ これは仮定なのよ。 でもね、その可能性も ・・・ 」
「 ?? 」
《 全員 コクピットに集合せよ。 》
二人の頭に同時に通信が届いた。
「 呼び出しだ・・・ 」
「 ・・・ そんなこと。 でも原因はしっかりと調べておかないと。
いつかは 命取りになりかねないわ。 」
「 ・・・ ん ・・・」
ちょっといいかな・・・ と ジョ−は立ち上がりかけたフランソワ−ズの腕を引いた。
「 ・・・ あん。 なあに ・・・ きゃ ・・・ 」
「 ・・・・ ちょっと ・・・ だけ ・・・ 」
ジョ−はそのまま彼女を押し倒し 唇を奪った。
「 ・・・ ジョ− ・・・ ダメだってば。 ・・・ 集合 ・・・ 」
「 ほんのちょっとだけ・・・ 」
ジョ−はフランソワ−ズの胸元を押し開き顔をこすり付ける。
「 や ・・・ だめ ・・・ ! 」
「 ・・・ 怖いんだ。 なぜか ・・・ わからないけど。 」
「 怖い?? 」
「 ・・・ うん。 なにか手足の先から固まってくるみたいに ・・・ 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ あなた ・・・? 」
《 おいッ !! なにやってだって!!! いちゃつくのは後にしろ〜〜〜 》
「 ・・・うわ ・・・ 」
「 ほうら 怒鳴られた。 ・・・ さ、行きましょう? 」
「 ・・・ ちぇ。 」
ジョ−はしぶしぶ彼女を腕の中から放した。
・・・ 怖い? ジョ−がそんなコト ・・・ 初めてかも。
襟元を整え、髪を手櫛でなでつけ ・・・ フランソワ−ズはふっと声を上げた。
「 ・・・ あ ・・・ 」
「 うん? なんだい。 ・・・ あの ・・・ ゴメン ・・・ 」
「 ・・・ ううん、なんでもないわ。 ジョ−? もうオイタはダメよ。 」
「 ・・・ ごめん。 」
「 さ。 急ぎましょ。 また怒鳴られるわよ。 」
二人は急いでコクピットに向かった。
「 はああ??? ジョ−が、ですか。 」
珍しくピュンマが素っ頓狂な声を上げた。
「 さよう。 そうとしか考えられん。 」
コクピットの後ろのシ−トで 博士はぐるりと全員を見渡した。
次の目標 ― 麻薬精製工場の中枢ともいえるコンロ−ル・センタ−への攻撃を前に、
博士は全員を集め、 ジョ−の不具合について語ってくれた。
「 ジョ−の恐怖心が 原因じゃ。 」
「 恐怖心 ?? んなコト、ありかよ〜〜??」
「 恐れは 誰のこころにもある。 」
「 でもよ。 オレたちゃ サイボ−グなんだぜえ! 」
「 それでは装置の、メカニックな部分の損傷ではないのですね。 」
アルベルトがざわめくメンバ−達を制し確認しつつ尋ねる。
「 そうじゃ。 ジョ−のメンテナンスは出発前にほぼ完璧に終っておる。
こちらに来てから、簡易メンテも試みたがプログラムにもエラ−はみつからんかった。 」
「 それじゃ ・・・ ぼくは・・・ 」
全く抑揚のない呟きが ジョ−の口から漏れる。
そうじゃ・・・と博士は再び大きく頷いた。
「 お前達は お前達自身の意志で動いているのだよ。 全員がそうだ。
サイボ−グのメカ部分も お前達の意志がなければ働かない。 」
大きく頷く者もあり、 ただじっと博士を見つめている者もいる。
とにかく 全員がこころの内で深く頷いていた。
「 ・・・ お前達はロボットではないのだ。 」
「 だから〜〜 どうだってのかよ? 」
「 知覚も感情も ・・・ 生身の人間と変わりはない。 」
博士は深呼吸をすると つ・・・っと立ち上がった。
「 だからの。 常に感情や感覚がメカニックな部分に優先し、影響する。 」
「 あ? どういうコトだよ? 」
「 ・・・ あんさん、ちょいとお口を噤みなはれや。
つまりな、気ィがのらへんかったら、あんさんは飛ばれへん、いうことアル。 」
「 ??? 」
「 そうじゃよ、大人の言うとおり。 」
「 ワテら料理人はな。 味、いう実に微妙なトコで勝負してるんや。
ほいでも なによりも大切な舌が その日の気分にかなり左右されるアル。 」
「 ・・・ じゃあ、ジョ−はなにを恐れているんですか。 」
ピュンマが未だに納得できない顔をしている。
「 それは ・・・ 」
「 ・・・ 孤独さ。 ぼくは 一人ぼっちになるが 恐いんだ。 」
ジョ−は低いが はっきりとした声で言った。
「 ジョ− ・・・ ! それじゃ あの時の? 」
鋭く息をのむ音に、全員がフランソワ−ズを振り返った。
「 ・・・ あの、加速装置のオ−バ−ホ−ルの後のトラブル ? 」
「 ・・・・・ 」
ジョ−は黙って フランソワ−ズを見つめると深く頷いた。
「 ジョ−自身は はっきり認識はしていなかったと思う。
しかし、あの時の恐怖感はジョ−の深層心理にはっきりと植えつけられたのじゃ。
その恐怖が 一瞬の躊躇いをうむ。 」
「 ・・・ それが加速装置のスイッチを入れるタイミングの一瞬の遅れに繋がるのですか。 」
フランソワ−ズは低い声で博士に尋ねた。
「 そうじゃ。 メカニックの問題ではない。 それを駆使する人間の精神の問題なのだ。 」
「 ・・・・ そうですか。 」
「 メカの不具合を直すのとは 訳がちがう。 解決出来るのはジョ−本人だけだ。 」
し・・・んと静まり返ったコクピットに エンジン音だけがごく低く響く。
誰も 溜息すら吐くものはいない。
張り詰めた空気を 破ったのは ジョ−自身の発言だった。
「 次の攻撃目標は ・・・ ああ、コントロ−ル・センタ−ですね?
もう ・・・・ 二度と皆に迷惑はかけないですから。 安心してください。 」
ジョ−はパイロット席から静かに立ちあがり、仲間達に向かってぺこり、とアタマ下げた。
「 ジョ− ・・・ ! そんな 迷惑だ、なんて。
わたし達 みんなあなたのこと 心配しているわ。 あ・・・ ジョ− ?? 」
フランソワ−ズが取りなした言葉が終る前に ジョ−はコクピットから出て行った。
「 ジョ−、 待って ! 」
「 まあまあ。 マドモアゼルも少々お待ちを。 」
一緒に席をたったフランソワ−ズの腕をグレ−トが 軽く押さえた。
「 待てば海路の日和あり、とな。 ・・・ ここは我輩が引き受けた。 」
「 引き受けたって・・・ グレ−ト! 」
「 マドモアゼルには休養が必要だぞ? 熱愛中の恋人でも疲れた顔は見たくないさ。 」
ばち・・・!とウィンクをして グレ−トはさっさとジョ−の後を追っていった。
「 あ・・・ ! 待って! わたしも ・・・ あん、もう!! 」
フランソワ−ズの鼻先で コクピットのドアはぴしゃり、と閉まった。
「 おい。 ヒマなら手伝え。 」
「 え。 」
ジョ−がはっとして振り向くと同時に チェック・ボ−ドが飛んできた。
いつの間にか ジョ−のすぐ後ろにグレ−トが追いついていた。
「 わ・・・! ・・・ これってグレ−ト、君の担当じゃないか。 」
「 いいってコトよ。 特別をもってお前さんにやらせてやろう。 こいよ。」
「 ・・・・・ 」
先に立ってずんずん行くグレ−トを ジョ−は苦笑して追い駆けた。
「 そっちの列、ずっと頼む。 」
「 ・・・ わかったよ。 ったくなあ ・・・ 」
「 あ? なんか言ったか。 」
「 いいえ。 え〜っと ・・・ 」
二人は背中合わせになって デ−タのチェックを始めた。
「 ふん。 ・・・ そりゃな、ボ−イ。 だれだって一人ぼっちは怖い。 お前だけじゃない。 」
「 ・・・ え? 」
「 おら。 余所見しない。 下から ずず〜〜〜っと数値チェックだ。 」
「 わかったよ。 」
「 当たり前だ、人間は群れをなして生きてきたんだから。
だがな。 考え見ろよ。 」
「 なにを? 」
「 はあ? ・・・ お前、集中作業しろよ? よし、我輩と競争だぞ! 」
「 ・・・・?? あ、ああ・・・ 」
ジョ−は何回も振り返るが狭い廊下で グレ−トはこちらに背を向けて、
反対側の計器類を読んでいる ・・・ らしい。
「 お前だけじゃない。 たとえば・・・ マドモアゼルのことを考えてみろ。
彼女の時間 ( とき ) も凍ってしまった。 40年前に止められ ・・・ 融けることはない。
凍った時間、さ。 」
「 ・・・ ああ ! ・・・ そうか ・・・ 」
「 こら。 手が止まってるぞ。 集中作業!! 」
「 了解、了解・・・ 」
「 ・・・ ずっと一人ぼっちの恐怖に耐えてきているんだ。 それは ・・・ 皆同じかもな。 」
「 凍った時間 ・・・ 」
「 どれ、進行状況はどうかね。 ・・・おい、真面目にやれ。 」
「 やってます、やってます! 」
「 返事は一回で宜しい。 ミスタ−・シマムラ。 」
「 アイ・アイ・サ− ! 」
「 それを融かすのは ・・・ ナイトの役目、じゃないかね。
彼女が お前さんの身も心も温めてくれるように・・・な。 今度はお前が、さ。 」
「 ・・・・・・・ 」
「 ほい、我輩の担当分はこれにて終了。 ほんじゃ、全部纏めてデ−タ報告頼むな〜 」
ぽいっと再びデ−タ板を放ってよこすと グレ−トはすたすたと出て行ってしまった。
「 ・・・ わ ! ・・・・ あ、 グレ−ト ・・・ 」
「 フランソワ−ズ !! 」
大音声とともに ジョ−はNBGの兵士の前に飛び込んだ。
「 ・・・ ジョ− ・・・ !! 」
傷めている右手を集中的に狙われ、 フランソワ−ズついにス−パ−ガンを落としてしまった。
劣勢に立っていた敵兵は にやり、と笑い真正面から彼女を狙った。
そして。
絶妙のタイミングでジョ−の姿は消え、同時に兵士の構えるレイガンは持ち主もろとも砕けちった。
「 大丈夫か?! フランソワ−ズ!! 」
「 ジョ− ・・・ ! 」
加速を解いたジョ−に フランソワ−ズは抱きつく。
「 ジョ−! 信じていたもの。 絶対に・・・ジョ−が来るって! 」
「 手・・・大丈夫かい? もしかして、あの時の損傷が原因・・・? 」
「 ・・・ ええ、でも。 もう ・・・ 平気よ。 」
「 ・・・ ごめん ・・・ 」
ジョ−はフランソワ−ズの右手を取ると そっと口付けをした。
「 ジョ− ・・・・ 」
「 ごめん。 いつもいつも ・・・ ぼくって自分のコトしか頭になくて。
ぼくは今・・・ 一人ぼっちじゃない。 これからもずっと・・・ 皆が ・・・きみがいてくれる。 」
「 ・・・ ジョ−。 わたしはいつでもあなたの側にいるわ。 」
ふわり、と温かい身体が寄り添い、細い腕がしなやかにジョ−の背に回された。
「 だから。 ジョ−は恐がるものなんてなんにもないの。 」
「 ・・・ ウン・・・・ 」
「 わたしはいつでも どんな時でもジョ−のこと、信じているわ。 」
「 ありがとう・・・ 」
「 あら、ありがとう、はわたしの言うことよ? 」
「 ・・・ ぼくが言わなくちゃ。 きみがいるから、いてくれるから。 ぼくは生きてゆける。 」
「 ジョ−? あなたは ・・・ ううん、わたしもよ、わたし達はもうひとりぼっちじゃないわ。
頼もしい仲間が、いるじゃない。 」
「 うん ・・・ そうだよね。 」
「 それに。 わたしはジョ−がいてくれる限り、 もう置き去りにされたヒトじゃないの。 」
「 フランソワ−ズ・・・! きみってひとは・・・ 」
「 ・・・ わたし達。 ずっと一緒よ。 」
「 ・・・・・・ 」
二人の中で 融けない氷がゆるゆると とけはじめた。
*********** Fin. **********
Last
updated : 09,25,2007.
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***** ひと言 ******
怪我が治った後、アタマでは痛みももう忘れてしまっているのに、
身体がしっかり覚えていて、妙にギクシャクしたり 意志に反して縮こまってしまったり。
また、<怖い!> と思うとき、ヒトは無意識に <腰が引ける> そうです。
・・・・ そんな体験から 妄想してみました。
はい〜〜♪ あのお話の後日談、かな。 平ゼロ版もなかなか面白かったですよね〜
一応、原作設定 でお読みくださいませ。
( 多分 ・・・ この後、らぶらぶ・ナイト♪♪ なのだと思いますけど・・・(>_<) )