『 潮 ( うしお ) 』
この闘い あと一歩で勝てる・・・ !
あと すこし。 もうちょっとだ!
―
メンバーの誰もが そう感じていた
だから 今 全力で … !
全員が 極限状態で 歯を食い縛った。
サイボーグたちの戦場は 海岸線にまで達していた そこまで
敵を追い詰めていたのだ。
足元を波が洗う。 陸地がすこしづつ顔をだしてきた。
あ ? 潮が … 引いてゆく
全員が ほんの一瞬 緊張を緩めた
― その時。
≪ ! 12時方向から! ≫
全員の脳裏に 003からの通信 いや
悲鳴が響いた。瞬間。
ぐわ ーー ん
!!
直撃 だった ―
通信を送った彼女も誰も彼も 吹っ飛んだ。
意識が途切れる寸前に003が見たものは 仲間たち全員が吹き飛ばされ地に叩きつけられ
また 海に落ちたりする姿だった。
「 ・・・ あ ・・・ ぁぁ 皆 ・・・ 」
すとん。 ― 目の前に突然暗幕が降りてきて なにもわからなくなった。
ぽと ぽと ぽとぽと ぽと ・・
顔になにか熱いモノが落ちてくる。 003はその熱さで辛うじて意識をとりもどしたが
同時に 激烈な痛みが全身を締め付けた。
な なに ・・・ これ ・・・?
! ・・・・ く ・・・う ぅ ぅぅぅぅ ・・・・ !
・・・ み みん な ・・・ じょ ・・・?
「 う −−−− 」
彼女自身の身体のすぐ上から 呻き声が聞こえた。
・・ ジョー ・・・?
あ ! こ これ ・・・ 血??
ジョー ・・・・ !!! ジョー ・・・
必死に脳波通信で呼びかけたが 返事はない。
「 う ・・・ ぅ ・・・・ 」
真上からの呻き声はどんどんか細くなってゆき やがて途絶えた。
それと共に 血の滴りも減ってきた。
・・・ 逝ってしまった ・・・の ・・・?
そう なの ・・・?
ジョー ・・・ こた え て ・・・
・・・ ああ ・・・ ああ !
わたしも すぐに ゆく わ ・・・
皆 も ・・・ まって て ・・・
置いてゆかないで ・・・ ね
・・・ わたし だって 003 なの よ
「 ・・・・ ふふ ・・・ 」
なぜか淡い微笑が浮かんできた。 そして ―
彼の熱い血潮を受けつつ
彼女は 一種安堵の吐息をもらし静かに目を閉じた。
いま ゆきます ・・・ ジョー ・・・
コトン コト コトン ・・・
郵便受けが 陽気な音をたてている。
「 あ・・ 郵便屋さんね。 今日はなにが届いたのかしら 」
フランソワーズは 庭サンダルのまま 門の方に駆けだした。
「 ごくろ〜〜さまでしたあ〜〜〜 」
彼女は 急坂をおりてゆく馴染みの郵便屋さんに御礼をいってぶんぶん手を振った。
この地域受け持ちの彼は ちゃんと手を上げて応えてくれた。
暑い季節には 冷たい麦茶を、そして凍える時には熱いお茶を振舞ったりもしている。
キ ・・・ こん。
門に付いている大型の郵便受けを開けた。
中には封筒が山盛りになっている。
「 あらあらあら たくさんねえ〜〜 皆げんきかな〜?
」
郵便受けの中に積み重なった材質も大きさも勿論色も違う封筒に 彼女は手を伸ばす。
「 えっと・・・ ふふふ 当ててみましょうか〜〜
このかっちりした封筒は ドイツから。 ほらね? 字まで印刷したみたいよ。
手書きとは思えないのよ〜 ・・・ はいはい 元気ですよ。
え〜と これ 上質の封筒ね ふふふ ず〜〜っとこれを使っているのよね〜〜
こだわりのオシャレさんのグレート。 レター・ペーパーもね ずっと
同じ材質ね、この色いいわあ〜 煙色っていのかな え〜と?
・・・ あらァ ちょっとちょっと 飾り文字に凝りすぎてて読めないわよぉ〜〜
シェイクスピアを読みたいんじゃないのです! 元気ですってことね。 」
よいしょ・・っと残りの郵便物を抱えると 彼女は玄関に戻る。
コトン。 なんだ? という顔でジェロニモ Jr.は 顔をあげた。
「 読んでやってくれ 」
アルベルトが封筒を二通、差し出している。
「 むう。 お前 と ・・・ グレート か 」
「 ああ。 頼む 」
「 わかった 」
「 きっと聞こえる。 」
「 そうだな。 」
「 ・・・ たのむ 」
静かにドアが閉まるのを見てから 彼は封筒をあける。
「 ・・・ ふふ ・・・ いいか? 」
ジェロニモ Jr. は 低い声で読みはじめる。
玄関前で ふと立ち止まる。
「 ふんふんふ〜〜ん ・・・ あ ちょっと空気が春っぽいかも?
あ〜〜 わかった! 梅! 白いのはもう満開だけど 紅色のが咲き始めたのかも?
あとで裏山で見てくるわ〜〜 わあ 水仙も! 」
こそ・・・っと近づいてきた春に 彼女は歓声をあげるのだった。
家に入り リビングを突っ切った。
から〜〜ん テラスへのサッシをあけた。
「 ふ〜〜 まだ寒いけど ちょっぴり春 かな〜〜 この国は春が早いのね
パリはまだまだ灰色の空の下、ですもんね 」
ぱたぱた ・・・ 郵便物をテーブルに置いた。
「 え〜〜と 鋏・・・ あ その前にお水、あげなくちゃ 」
彼女は キッチンに行くと、如雨露に水を満たしてきた。
「 うふふ はやく春がくるといいわね〜〜 はい お水ね〜 」
リビングの隅に置いてある鉢に 静かに水を注ぐ。
「 ヒヤシンスさん。 え・・・っとこっちが白でこれがピンク。
それでこれがブルーよねえ 」
ちょっぴり顔を出した若芽に 話しかける。
「 うふふ・・・ 楽しみ〜〜〜 あら? ここにこんなに大きな木、
あったかしら 」
リビングの隅には 鉢植えの大きな木が置いてある。
「 ステキ ! お部屋の中の緑が増えたわ。 森みたい 」
にこにこ・・・眺めている。
カタン。 窓をすこしだけ開けた。
「 ・・・ 寒くはないか? 季節が移りはじめた。 」
ゆるゆるとレースのカーテンに振れ はやい春の空気が入ってきた。
「 ふ ・・・ん ・・・・? すこし花の香がする な ・・・
これは ウメ か。 花壇の水仙もそろそろ咲く。 」
トン ・・・ こそっとノックが聞こえ ドアが細めにあいた。
「 ? ジョー か 」
「 ウン。 あの これ。 庭の水仙、鉢植えにしてきたんだ ・・・
とっても好きって言ってたし。 」
「 ほう ・・・ ああ いい香だ 」
「 でしょ? あ あのね ・・・ ヒヤシンスにはちゃんとお水 あげてるって
言っておいてくれる? きっと心配してる・・・ 」
「 わかった。 ありがとう、ジョー。 」
ちょっと泣きそうな微笑と 鉢植えを残し 茶髪の青年は出ていった。
「 いい香だぞ。 ヒヤシンスは 皆で眺めよう、フランソワーズ、もちろん
一緒に だ。 」
鉢植えは 窓に近いところ、陽の当たる場所に置いた。
「 ― 淋しがっている。 もどってこい 」
サワサワサワ ・・・ 鉢植えに水を注ぐ。
「 皆が咲くころに ― この家もまた賑やかになるといいなあ 」
フランソワーズは如雨露を置くと またテーブルの側に戻った。
「 さて と。 あら? なにも入ってない・・・? 」
次に開けた茶色の封筒を振ると ― カサリ。 なにかが落ちてきた。
「 ? ・・・ あ これ 葉っぱの押し葉だわ ・・・
綺麗な色ねえ ・・・ きっと秋の紅葉を押し葉にしておいたんだわ。
あ ・・・ なにか書いてある? < Be happy > ・・・
うふ ♪ ありがと、ジェロニモ Jr. ・・・ 」
白い指先がそっと持ち上げると、 リビングに置いてあった聖書の間に挟んだ。
「 わ〜〜 長旅、ご苦労さま〜〜 」
ごく普通のエア・メイル封筒を手に労う。
「 暑い地から出発して ・・・ こんな東の果てまで ・・・
うん? ふ〜〜ん ・・・? 」
びっしりと丹精な文字が並ぶレター・ペーパーを 丹念に読んで行く。
「 ふうん ・・・ お仕事、大変なのね ・・・ でも楽しそう・・・
え? 寒さが懐かしいって? ピュンマもこの国の暮らしが気に入ったのね
わたしは ・・・暑い乾いた風もいいなあ〜〜って思っているのよ 」
ふふふ・・・レター・ペーパーをきっちり折り、微笑つつ丁寧に封筒に仕舞う。
「 これは〜〜 あ〜あ・・・ 郵便屋さん泣かせねえ・・・
ちょっとぉ〜 よくこれ・・・判読できたわねえ ・・・ もう〜〜〜 」
摘みあげたカードには 辛うじて国名と都市名が読み取れる。
宛名は ― ミミズで 郵便番号が記されていたのでなんとか届いた らしい。
表はなにやらシュールな絵画らしきものが印刷されている。
「 ??? これ ・・・ なにかしら? ミュージアムにでも行ったのかなあ
・・・ う〜〜ん? ニンゲン語? ・・・ ま 元気ってことね 」
赤毛のニューヨーカーは 都会の喧騒には負けてなんかいない、と見える。
「 あ これはね、もう宛名でわかるわ〜〜 なんかオイシソウ(^^♪ 」
丸まっちい漢字が ころころ・・・ これは国内便だ。
「 ・・・ はいはい 元気ですよ。 またオイシイお土産、 待ってま〜〜す
ああ 大人のお料理、食べたいなあ ちょっとくらい太ってもいいわ うふふ 」
トントン ・・・ と 封筒を揃えると 彼女は束にした。
「 皆〜〜 ありがとうございます。 ・・・ ねえ 筆不精さん?
絵葉書でもいいから ください〜〜〜 まってます。 ジョー ・・・・
あら? 今までに彼から手紙って もらったこと あるかしら?
メールは ・・・ 用件のみ、みたいなのばっかりだし。
便りのないのがよい便り って言葉があるって聞いたこと、あるけど ・・・ 」
ねえ? リビングの隅にある大木に話かけてみた。
「 ― この木 ・・・ なんだかとても温かい わ 」
カン カン。 高いノックの音がする。
「 ! 静かにしろ 」
「 あいや〜〜 えろうすんまへんなあ〜 手ぇ、いっぱいやさかい開けられへんのや 」
「 大人? 」
ジェロニモ Jr. は すぐに立ってドアをあける。
「 おおきに〜〜〜 差し入れと ちょいとスープ、つくてきたで。 」
丸まっちい料理人は オイシソウな香りと一緒に入ってきた。
「 大人、 すまん 」
「 な〜んのなんの。 ほれ これは ジェロニモはんに。 豚まんやで。
こっちのスープはなあ 鶏を丸ごと、ことことこと・・・煮込んだで。
ニンニク、クコの実、セロリ もぎょ〜さん入れてなあ〜〜
しっかり濾してきたで、 お口にいれたってや ・・・ 」
「 むう。 博士は? 」
「 ギルモア先生からはお許し もろたで 」
「 そうか。 ありがとう 」
「 うんにゃ ・・・ ウチにはお日様 いてくれへんと なあ? 」
「 ああ 」
「 このお嬢は ワテらのお日様やさかいなあ 」
頼むで、と彼はつぶやく。
コトン。 料理人は黄金色に澄んだスープの皿をそっと置いた。
もう一度 手紙の束を手に取ってみる。 形も大きさも全部ちがう。
「 そうよねえ これがわたし達なのよ。 ええ そうよね 」
ふふふ っと低く笑う。
「 皆 元気でよかったわ。 そうそう お返事 書くわね〜〜
メールの方が早いけど ・・ わたしはやっぱり手紙が好き。 」
サイド・ボードの引き出しから 薄い水色のレター・パッドを取りだす。
「 これ、気に入ってるのよね。 パリの空の色みたい・・・って思って。
この国の文房具はとてもキレイでステキなものが多いのよね 」
え〜〜と・・・ 引き出しをさらに掻きまわし 万年筆を探しだす。
「 ひえ〜〜〜ってジョーはびっくりしてたけど。
わたし、このペンが好きなの。 ず〜〜っとこれ、使ってきたんですもの。
えっと ― ぼんじゅ〜る みなさん。 お手紙、ありがとうございます。
みなさん、お元気そうでよかったです。 わたしも元気です。
・・・ そろそろ皆に 会いたいです ・・・ っと。 」
フランソワーズはペンを握ったまま 視線を宙に浮かせていた。
「 う〜〜ん・・・ どうしようかしら。
あ そうだわ〜〜 ジェロニモ Jr.みたいにわたしもお庭のお花を
押し花にでもしてみようかな なんの花がいいかしら 」
からり、とサッシをあけて 庭を見渡す。
コンコン。 ゆっくしたノックと共に博士が入ってきた。
すぐにデータをチェックする。
「 おお ありがとうよ。 ・・・ うむ ・・・ 」
「 博士 ? 」
「 安定している。 ただ ・・・どうもな。 あとは彼女自身の 」
「 むう。 我々は待つ。 それだけだ 」
「 ・・・ すまんなあ 」
「 謝る、必要ない。 」
「 ・・・ ありがとうよ。 ああ 窓を開けよう。 今日は海が凪いでいて
美しい日じゃよ 」
博士は 部屋を横切ると テラスに面した窓を全部開けた。
「 ・・・ 潮の香りだ 」
「 潮騒も聞こえる なあ 穏やかでいい音だ 」
「 ― ここは 我らの故郷。 喜んでいる 」
「 そう か ・・・ 頼む。 」
「 むう 」
博士は もう一度、手筈を見直すと再び静かに出ていった。
「 ・・・ いい日だ。 」
ジェロニモ Jr. も 窓越しに視線を飛ばし ― 再び元に戻した。
ふう 〜〜〜〜 ・・・・
大きく深呼吸をしてみた。 清澄な水みたいな空気を思いっ切り吸いこむ。
「 ・・・ あ ああ オイシイ ・・・ あ ら? 」
冷たい風の中にも ほんのり春が・・・と思うのは自分だけだろうか。
「 そうねえ・・・ 春になりそう〜〜ってころが好きかな〜〜
えっと なんていうのだっけ・・・この国のコトバで・・・
あ そうしゅん! ねえ なんか いい感じじゃない?
もちろん ホンモノの春は大好き! いろんなお花がわんわん咲いて・・・
桜って ジョーは大好きだっていうけど ・・・ ええ 勿論キレイだな〜って
おもうわ。 でも ― ちょっと淋しいの。 あの 散り際が ・・・ 」
ふう ・・・ もう一度ため息をはき、ちょっと背伸びをしてみた。
「 ん〜〜〜 ? 見える かな 〜〜〜 」
カカトを上げて、 そう ドゥミ・ポアント くらいの高さまで背伸びをすれば
「 あ 見えた! 」
遠く目を凝らせば きらきら光る筋が ― 水平線だ。
「・・・ 海 綺麗だわ ・・・ 真冬の頃とは色が違うのね 」
特殊な < 眼 > を使わなくても この邸からは 大海原が臨めるのだ。
海 ・・・ 久し振りに行ってみたいな ・・・
まだ水は冷たいかしら ・・・ 砂浜は寒いかしら ・・・
ああ 潮風をう〜〜んと深呼吸 したいわ
表面が水色にみえる ・・・ あ 空が映っているのかなあ
「 海 ゆきたいな。 砂浜、歩いてみたいな。 」
そ・・・っとテラスに足を出したみたが ・・・
「 行けない わ ・・・ わからないけど でも 行っちゃいけないみたい・・・
遠くから見てるだけ かも ・・・ 」
ひた。 素足にテラスのコンクリートがまだ冷たい。
「 ここから見ればもうちょっと広くみえるかもしれないわ。
あ ・・・ ? 海が近くなってるみたい ・・・ あ そうか。
今 満潮なのね 」
早春の海は その嵩をまし水色の水面をゆらゆらと寄せてきている。
「 ・・・・ 」
満ち潮 ・・・ これも好きな言葉だわ
ああ 潮が満ちてくる
― わたし、 今 しあわせ。 しあわせの潮が満ちてきているの。
・・・ でも。 いつかまた 引き潮になる
引き潮 に ね ・・・。
ズキン ッ !!!
突然 心の奥が痛んだ。
「 え な ・・・ に ・・・? 」
彼女は胸に手を当て しばらくテラスに佇んでいた。
「 調子はどうかね。 痛むところはないか 気分はどうかな 」
聞きなれた声が脳裏にひびく。 目と閉じると 声 はいっそうはっきり聞こえる。
「 ? ・・・ ああ 博士。 はい ・・ 元気です。 」
「 そうか。 それはよかった・・・ もう少し休むかね? 」
「 え? あの ・・・ 皆は元気ですか? あの ・・・ ジョーは 」
「 待っておるよ。 ジョー? ああ とても元気さ。 」
「 そう ですか ・・・ あの ・・・ 会いたいって伝えてください。 」
「 わかっておる。 気が向いたら ― おいで。 もどっておいで 」
「 はい。 」
目を開けば ― 見慣れた庭の木々が ゆるゆる・・揺れている。
「 ・・・ 皆 帰ってくるのね。 お茶の準備 しておかなくちゃ・・・
ジョー ・・・ 早くかえってきて ね ・・・ 」
ふ・・・っと 甘い香りが流れる。
「 あ 梅の香り! ・・・ 海はどうしたかしら・・・
ううん、 引き潮になっても 大丈夫。
だって仲間がいるもの。 皆の手紙はタカラモノだわ ・・・
ジョー ・・・・ あなたがいてくれるもの。 」
潮・・・? ふ・・っと なにかとても不快な感情がわきあがる。
「 引き潮 を 見たのよ。 足元の海が引いてゆくの ・・・
でも 次の瞬間に ―
」
ず ぅ −−−−−− ん ・・・
底知れない、身体の中心を引き裂くみたいな痛みが 突然襲ってきた。
「 ・・・ う ぅ 〜〜〜 ・・・ い 息が ・・・ で きない 」
身体を 楽にしなさい! ほら ゆっくり・・・息を吐いて
なにも怖いことはない。 チカラを抜け
温かい声が降ってきた。
「 ・・・ え ・・・ あ ふぅ〜〜〜 」
ほんの少し、 痛みが和らいだ ・・・ と感じた。
「 ふ ・・・ ふぅ・・・ 」
その調子じゃ。 息を 吸って 吐いて ゆっくり
恐れるな みな まっている。
大きな温かい手が 背中を押している ― そんな風に感じた。
≪ フラン! フランソワーズ ・・・ ! 還ってきて ! ≫
とてもとても ― 涙がこぼれそうなくらい懐かしい声が耳に届いた。
「 え ・・・? まさ か ・・・ ジョー ・・? 」
≪ ジョーだよっ フラン 〜〜 戻ってこい ≫
「 ・・・ ジョー ・・・ 夢でしょう?
だって ジョーは。 あの時、わたしの上で ― 逝ってしまった ・・・ 」
≪ おい 009を見縊るなよ? ぼくと一緒に生きるんだっ ≫
「 ・・・ う そ ・・・ え? 」
ぽと ぽと ぽと ぽと ・・・・
なにか熱いモノが 彼女の頬に落ちた。
「 ・・・ また 血 ・・・? ジョーの 血 ・・・ ? 」
「 フラン。 目を開けてくれ。 ぼくのフラン〜〜〜 」
懐かしい声が 耳から聞こえてくる。
頬に触れてみれば 指先は温かい水に濡れる。
「 ・・・ え ・・・ あ これ なみだ ・・・? 」
「 フラン フランソワーズ −−−− ! 」
・・・ あ ・・・・?
ぱあ〜〜〜 っと 周囲( まわり ) が 明るくなった。
「 ・・・ ま ぶし ・・・ 」
わあ〜〜〜〜〜〜 こら 静かにせんか よかった ・・・
周りからいろいろな声が聞こえた。 どれも聞き覚えのある声で
彼女は ほ・・・っと安堵している自分に気づいた。
そして 目の上には見慣れた天井が あった。
「 ・・・ こ こ ・・・? ウチ ・・・ ? 」
「 そうだよっ ウチだよ、きみの ぼくたちの 皆のウチだよぉ〜〜 」
「 これこれ 少し静かにせんか。 気分はどうだね? 」
「 ちょっと眩しいけど ― とてもいい気分です 」
「 水。 口を濡らせ 」
ひんやりしたグラスが 唇に当たった。
「 飲めるか 」
「 ええ ・・・ 」 清明な流れが咽喉を落ちてゆく。
「 〜〜〜 ああ おいしい ・・・ ! 」
フラン 〜〜〜〜 ! ああ ああ よかった ・・・ !
温かい手が彼女の頬に触れたと思うと、また熱い水滴が落ちてきた。
「 ジョ ・・・? ジョー !? 」
「 フラン〜〜〜 」
「 わ たし・・・? 」
「 戻ってきてくれたんだね! あぁ ああ・・・ 」
「 わたし ・・・ ずっとここに? 」
そっと首を巡らせてみれば ― 横になっているベッドはリビングに設置してある。
医療機器が所狭しと置かれている。
窓は開け放たれ 浅い春の陽射しと風が入ってきた。
「 ・・・ ああ いい気持ち ・・・ 」
「 ほう それはよかった。 もう 大丈夫だな 」
「 はかせ・・・ わたし・・・? 」
「 ずっと ― あの直撃から意識不明だったんだ。 ああ よかったあ〜〜 」
「 ジョー・・・? あなた 無事なの? 皆は 」
「 皆 もちろん ぼくもピンピンしてるさ! 」
「 そう ・・・ よかった 」
「 うむ。 フランソワーズ、お前だけが意識を回復せずになあ ・・・
こうしてリビングで治療を続けておったのだ。 」
「 ここ で ・・・? 」
「 そうだ。 それになあ ・・・
ジェロニモ Jr. 以外のものには不安定な反応を示したのじゃよ。 」
「 ・・・ まあ ・・・ あの木は? 」
「 木? リビングに木なんかないよ 〜 」
「 ・・・ そう ・・・ そうなのね 」
フランソワーズは 巨躯の仲間をじっと見つめた。
「 ・・・・ 」
彼も黙って微笑を浮かべた。
数日後 ―
彼と彼女は 海を臨む崖の上に立った。
「 ねえ ジョー ・・・ 潮は 」
「 しお?? 白いヤツのことかい 」
「 違うわ。 海の潮。 」
あれよ、と彼女ははるか水平線を指す。
「 ああ ・・・ 海の潮か。 今は ― 満ち潮だな〜 」
「 そう? ― 潮は 引いて 満ちて。 また 引いて。 生きているのと同じね 」
「 え? 」
「 ずっと一緒ね 」
「 うん! 」
愛しい彼の隣で フランソワーズは静かに微笑むのだった。
*************************** Fin. **************************
Last updated : 02,27,2018.
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************ ひと言 ***********
フランちゃんが見た 夢 ・・・ かな。
ジョー君がちょっと平ジョーっぽいけど
一応 原作モード のつもりです。