『 木曜日 』     

 

 

 

**** はじめに ****

この作品は wren様のサイト【 009であそぼ に掲載された

キリリク絵に纏わるエピソ−ドです。 まずは↑の御宅で イラスト−キリリク−

しろうとしばい  をご覧くださいませ。

あまりに楽しい絵で掲載当時、BBSでも大いに盛り上がったのでした。

その楽しさが忘れられませんでしたので、wrenさまにお許しを頂戴して

ちょこっとお話を付けてみました。 wren様、ありがとうございます〜♪

 

 

 

 

帰宅したら、そういうコトになっていた。

すべてはすっかり出来上がり、みんなが満足そうだった。

 

・・・ そう、島村ジョ−ただひとりを除いて。

 

夕食には大分遅れてバイトから帰宅したジョ−が まだコ−トも脱がないうちに

アルベルトが宣言した。

「 ・・・というコトだ。 お前、大道具。 まずはバルコニ−から頼む。 」

「 ただいま ・・・ は? 」

「 いいな? ・・・そうだな、結構アンティ−クにやってくれ。 重厚な石造り風だ。 」

「 ??? 」

何がなんだか全くわからず、目をぱちくりさせ突っ立っている茶髪ボ−イに

銀髪のうるさ型の男は ぽんぽんと思いつきを投げつける。

「 うん、やはり蔦が絡んだ方がいい。 とりあえず、先に仮台だけも欲しい。

 あの場面は ・・・ 役者の位置が重要だからな。 」

「 ・・・ あのぅ ・・・ 」

「 参考資料は、だな・・・ うん? お前に心当たりがあるのか? 」

おずおずと口を挟んだジョ−に アルベルトはやっと視線を落とした。

 

「 ・・・ なにか、やるの? 」

 

 − この日からジョ−は、大工仕事に追いまくられることになった。

 

 

コトの発端は珍しくも張々湖だった。

定休日のある日、張大人は一日中外出していた。

商売熱心な大人( たいじん )はいつもヒマさえあれば食材やら調理器具を求めて

東奔西走していたから、ギルモア邸の面々は定休日といえども

彼の留守をたいして不思議には思わなかった。

 

「 ・・・ ただいまアル。 」

夕食の時間にかなり遅れて 疲れた大人の声が玄関に響いた。

律儀なこの料理人は 仲間たちの晩餐の下準備はきちんと整え、包丁の持ち方から

鍛えなおした有能な?料理人に指図をしてから外出していたのである。

「 お帰りなさい。 ふふふ・・・お夕食、好評だったわよ〜。

 フカひれシュウマイも翡翠餃子も上手くできました、先生。 」

「 お帰り。 ほんと、フランの腕も随分あがったよね? 

 ま、もっとも下準備は全部大人だろうけど、さ。 」

「 あ・・・ 美味しかったアルか? そりゃなによりアル。 」

まだリビングでTVを眺めていたフランソワ−ズとピュンマが 笑顔で彼を迎えた。

「 ま〜 ピュンマったら、褒めてくれてるのかと思えば〜 」

「 ・・・お疲れサン。 温めるだけでもべちゃべちゃにしてた頃からみれば

 長足の進歩ってもんだ。 大人の味がちゃんと生きてたしな。 」

「 も〜! アルベルトまで〜〜 」

ソファで新聞を広げていたアルベルトも ぼそり、と会話に加わった。

「 イヤイヤ・・・ 皆はんが満足してくれはったらそれだけワテはな。 」

 

ぱふん、とソファに短躯を埋めると張大人は3人の仲間たちをじっと見つめた。

「 時に、あんさん達。 ワテから頼みがあるんやけど・・・ 」

 

 

 

がんがんがん ・・・・

耳をつんざく音が かなり長い間ひびきわたっている。

ときおり、誰かがわざとらしく耳を手でふさぎ、彼の方をふりむくが

クギをくわえ、カナヅチをふりまわすご本人は 気に留めている様子はない。

 

ギルモア邸の地下、がらくた置き場のロフトは演劇スタジオに変身していた。

中央に舞台をとり、あとは所狭しとあり合わせの機材やら作りかけのセットが転がっている。

 

がんがんがん !

「 あ〜ダメだ、ダメだ! そんな発声じゃぁ誰にも聞こえないぞ? 」

「 ちゃんとお腹から声だしてるわ。 だから その・・・ 」

演出家のダメが飛び、女優がひとりむくれている。

がんがんがん! がんがん ・・・

「 なに? 聞こえんぞ! 文句があるならソノ前にもう一度やってみろ。」

「 ・・・ わかったわよ。 」

「 出だしからやり直しだ。 室内の会話だってこと、忘れるな。 

 ・・・え? なんだって?? 」

セットの陰から女優がなにか言い返したのだが、生憎演出家の耳には届かない。

がんがんがんがん!! がん・・・がががん!

「 ・・・ ちょっと。 ああ、お前じゃなくて。 ・・・なあ、おい! 」

がんがん ・・・  がんが??

「 おい! そう、お前だよ、ジョ−。 そこでそう派手に音をたてられるとな〜

 稽古にならん。 ちょっと音を控えてくれ。 」

演出家は すぐ脇で一心不乱に仕事に励んでいる大道具係りに渋面をみせた。

「 ( だってさ。 急ぐんだろ? ) 」

「 ・・・あ? ・・・ああ、そりゃそうだが。 どうもな〜 ソノ音はどうにかならんのか。 」

がんがん・・・がんがんががが・・・・

全然カナヅチの音は止まず、代わりに脳波通信が飛んできた。

訝しげに発進モトを眺めれば、口いっぱいにクギ銜えている様子で

コレでは音声会話は不可能だろう、とアルベルトは納得した。

「 ( さあね。 ぼくはぼくの役割を果たしているだけだよ? 他に場所ないし〜) 」

「 だがな ・・・ 」

 

「 アイヤ〜 皆はん! 調子は如何アル? さ・・・一息いれなはれ。

 美味しいお茶と点心を持ってきたアルよ〜♪ 」

この企画の大元締め、いや、プロデュ−サ−がにこにこ顔でワゴンを押してきた。

香ばしい中国茶のかおりとなにか蒸し物の湯気がゆらゆらと立ち昇る。

「 お〜♪ 待ってましたっ! 」

照明装置の陰から 赤毛が一番に飛び出してきた。

「 アルベルト、ここに音を入れるとさ・・・ あ、いい匂いだね! 」

台本と首っぴきのピュンマはヘッドフォンを外し 鼻をひくつかせた。

「 さ〜どうぞ。 ほい、演出家はん? 大道具はんもちっとは手ェ休めなはれ。」

相変わらず響くカナヅチの音などてんで無視して、仲間達が寄ってきた。

 

  − ・・・へえ? みんなこういうコトに興味あるんだ?

 

湯のみやらグラスを手に 結構盛り上がっている仲間たちに

ジョ−はちらり、と視線を走らせた。

赤毛の騒ぎ屋はともかく。 理論派のアフリカ青年や、まして気難しい独逸人まで

このお神輿に<乗って>いるのがジョ−には大層不思議で・・・面白かった。

「 ジョ−はん? ほれ点心が冷めるアルよ〜 」

 

・・・ばん!

 

ジョ−が最後の一打、とカナヅチを振り上げたとき、ロフトのドアが大きく開いた。

 

「 やあ、オハヨウ諸君。 遅れて申し訳ない。 」

びんびん響く声で挨拶をし、いかにも俳優然とした男が現れた。

 

  − なんだぁ?? アレ・・・。 

 

光沢のある生地でフリルたっぷりの白ブラウスにぴっちりとしたスパッツのその<青年>を

島村ジョ−は呆然として見つめた。

・・・ ぽろり、と銜えていたクギが手の上に落ちた。

 

「 や〜お待たせ。 おお、我らが姫君、遅参失礼つかまつった。 」

「 あら、まあ・・・いいえぇ。 」

つかつかと中央に歩み出て、ブラウス青年は女優の手を取り慇懃に口付けをした。

 

  − な! ななななんだぁ〜 アイツ!!! 馴れ馴れしい!

 

嬉しそうに微笑んで彼に優雅に手を預けている女優に 腹がたつ。

いまさら目につく胸元が大きく刳れた稽古用の衣装にも 滅茶苦茶腹がたつ。

 

・・・がん!がががががんっ!!

 

カナヅチが最大級の音で連打された。

 

「 へえ〜 どっから連れてきたんだ? この国のTVスタ−か? 」

「 ふん? ・・・ああ、まあな。 」

騒音などまるで耳にはいらず、ジェットは舞台の俳優たちを顎でしゃくった。

「 ( 実はな・・・あの王子サマは・・・ ) 」

「 ( ? ・・・あん?) 」

一瞬の間が空き、なにやら意味ありげな空気が漂ったのだが

カナヅチに集中しているジョ−にはてんで目にも耳にもはいらなかった。

「 なかなかええセンいってはるな。 ウチのお姫さんとええコンビアルね。」

・・・ がんっ!

「 そうだね。 ・・・でもさ〜 」

湯のみを置いてピュンマがぷっと吹き出した。

「 そうとうに大根だね、あの女優サンは。 彼氏が頑張ってカバ−しないと・・・ 」

・・・ がんがん!! ががん!

「 あの情熱が愛に変る時が来る・・・ 」

がん・・・っ!!!  −  ぐに。

「 !! いってぇ〜〜〜!!! 」

 

「「「 ・・・おい、ジョ−? お前 なにやってんだ?? 」」」

指を押さえて飛び跳ねている茶髪青年に 仲間たちは冷たい視線を浴びせていた。

 

 

 

「 もっと普通に歩けないのか? なんだって・・・そう、妙な足取りをするんだ! 」

「 だって! ココは 6/8でカウントしないと! 」

「 八分の六ぅ? なんだ、そりゃ。 」

「 だから、 そのカウントを取らないと次が音に遅れるでしょ。 」

「 ・・・ あのなあ。 コレはバレエじゃないんだ。 演劇、芝居なんだぞ?? 」

 

外野の騒ぎを他所に 舞台では俳優たちが言い争っている。

人数とセットの関係上、名場面だけをピック・アップした形の台本なのだが、

まずは初っ端の<有名シ−ン>で躓いていた。

 

「 ここは! いわば<燃えるような愛の確認>の場なんだぞ?

 お互いが片思い同士だってコトがわかって・・・相思相愛になる。 そんな重要な場なんだ。 」

だから・・・と、男優は大きく溜息をついた。

「 もっと、こう・・・自然にできないか? 」

「 自然にやってます。 でも音は無視したくないの。 」

「 ・・・ったく、この強情っぱりが! ・・・まあ、いいさ。 

 もう一回アタマっからだ。 ・・・なあ、相手がジョ−だと思ってみろよ? 」

「 ! どういう意味よっ!! 」

 

  − がっしゃ〜ん・・・! 

 

「 ・・・っ!! いってぇ〜〜〜〜 !! 」

自分の作りかけの大道具に躓いて、今後はジョ−は脚を抱えて飛び跳ねていた。

 

「「「 うるさいっ!!! 」」」

 

四方八方から容赦のない罵声が サイボ−グ009 めがけて飛んできた。

 

 

 

戦い済んで日が暮れて・・・。

にわか劇団員一同は ギルモア邸のリビングに寛いでいた。

「 いや〜 みなはん、なかなかの滑り出しアルね。」

食後のお茶の御代わりを用意して、張大人はいつにも増してご機嫌である。

「 お。 ジャスミン・ティ−じゃん。 ・・・ うめぇ〜 」

「 何でも喜んでもらえて嬉しいアルよ。」

「 俺様は口に入るモノならなんでも一応歓迎ってコトで。 あれ?ジョ−のヤツは? 

 あ〜 フランの部屋かぁ? ・・・わっ!! 」

言葉が終わる前にクッションが彼の顔面に直撃した。

「 ちょっと!! わたしはちゃんとココにいます! 」

「 ・・・ってぇ〜 」

「 ジョ−はメンテナンス・ル−ム。 」

「 メンテって・・・ ああ、昼間の指と足、か? 」

「 ほう? しからば申し訳ないが、好都合であるな。 諸君、ちょいと全体会議だ。 」

隅のソファで アルベルトとぼしょぼしょ語りあっていたグレ−トが立ち上がった。

「 あ〜 今後のスケジュ−ルもあるが。 演出家どのよりダメ出しだ。 」

「 手っ取り早く言うぞ? 音響、音の選び直しだ。 プロコフィエフでもチャイコでもないのに

 してくれ。 」

「 え。 なんで? 」

 

 ( 注 : バレエ『ロミ・ジュリ』の音楽はプロコフィエフかチャイコフスキ− )

 

「 コイツが。 頭を切り替えてもらわんとな。 コレは演劇なんだ。

 そうだな・・・ 思い切ってツィゴイネルワイゼンなんかどうだ? 」

アルベルトに視線をたばされ、フランソワーズは少々むっとした様子で応えた。

「 わかってます。 ・・・あんまり変った音にしないでね、ピュンマ 」

「 いいけど。 う〜ん・・・ ちょっと時間を貰うよ? 」

「 ああ。 照明とも相談して・・・ 既成概念に捕らわれなくてかまわん。 」

「 ふうん・・・ アブストラクト風とか? 装置も変えるのかい。 」

「 いや。 全体像はあくまで古典でゆく。 そこまで凝るほどの時間も技量もないからな、

 俺達には。 」

「 オッケ−。 ジェット、なにか君のイメ−ジはあるかい? 」

「 ・・・ってなあ〜 う〜ん・・・」

音響と照明担当者は早速頭を寄せて検討しはじめた。

 

・・・ほう? これは結構いいコンビだったのかもな。

そうだな。 緻密なヤツと雑駁男、ま、正反対の者同士かえって旨く行くってことか。

 

アルベルトは満足気な視線をグレ−トと交し合った。

 

「 ねえ、もういいかしら。 ちょっとわたし・・・ 」

フランソワ−ズが遠慮がちに声をかけた。

「 あ? ああ、ジョ−のことが気になるんだろ。 さっさと行ってやれ。

 それで次回は、アタマを切り替えて頼む。」

「 我らが花形女優どの。 おぬしは決してスジは悪くないぞ。

 ただ・・・ お忘れめさるな、コレは・・・ 」

グレ−トが相変わらず芝居がかった所作で会釈をした。

「 芝居だって言いたいんでしょ。 はいはい、よ〜くわかりました。 」

ぱん、とスカ−トの裾を払ってフランソワ−ズは勢い良く立ち上がった。

「 あの、張さん? デザ−トの桃饅、まだある? ジョ−に持っていきたいの。 」

「 あいや〜 どうぞ。 ほな、も一度温めまひょ。 」

「 わあ、ありがとう♪ 」

 

軽い足取りでキッチンに向かうフランソワ−ズを見やり、

グレ−トはぼそり、と呟いた。

「 ま・・・ これで女優はなんとか・・・なる、な。 」

「 おい? もう一人の主役は大丈夫なんだろうな? 」

「 万事お任せあれ。 」

グレ−トはアルベルトに向かってばちん、と妙なウィンクをしてみせた。

 

「 ・・・ あのな。 大人から聞いたよ。 ありがとうな、引き受けてくれて・・・ 」

「 ふん? たまには変ったコトも面白と思ってさ。 」

に・・・っと口の片端を持ち上げ、アルベルトもいささか妙な笑みを返した。

「 ・・・いやぁ・・・ 持つべきモノは友。 我輩は一生忘れんよ。 」

「 ・・・・ 」

ぽん、と老友の肩を叩きアルベルトは立ち上がった。

「 さて。 もう少し考察をいれてみるかな。 ・・・そうだ、大道具は大丈夫か? 」

「 多分、な。 姫君が乗ると知ればヤツは念には念を入れるだろうよ。 」

「 ・・・違いねえ。 」

静かな夜の帳が穏やかにこの邸を包んでいった。

 

 

「 ジョ−? もう戻ってる? 」

「 ・・・ うん、開いてるよ〜 」

こんこんと軽いノックと一緒に フランソワ−ズが顔を覗かせた。

「 博士のお部屋に電気が点いてたから・・・ もうメンテは終わったかなって思って。 」

被いのかかった小振りの蒸篭を フランソワ−ズは差し出した。

「 ほら、これ。 ジョ−の好きな桃饅よ。 ねえ、手と足はどう? 」

「 わ〜 サンキュ。 ・・・うん、ちょっと爪がね。 明日、博士が張り替えてくれるって。

 あは・・・結構痛いよね、ジンジンするし・・・。 」

ジョ−は包帯でぐるぐる巻きの左手指を上げてみせた。

「 あら〜・・・ 思いっきりカナヅチで叩いちゃったものね・・・。 」

「 ・・・ うん。 」

フランソワ−ズはジョ−の左手を両手で包み込み、自分の胸に当てた。

「 あなたの痛みは わたくしの痛み。 

 − ただ愛してくださる? ほんとうに ・・・ 」

「 ・・・は?! 」

「 ・・・・・・ 」

ジョ−の手を抱いたまま、フランソワ−ズはつ・・・っと身を寄せると彼の胸に頬を当てた。

「 なななな・・・なに、どうしたの?! あの、あ・・・ 」

「 − さぞかし軽薄な女と思っているでしょうね 」

「 え? そんなコトないよ! 全然、ちっとも、まったく!!! 」

ぶんぶん首を振るジョ−に フランソワ−ズはますます身体を預けてくる。

「 あ・・・わわわ ・・・ 」

慌てて抱きとめ後退りして ・・・ ジョ−はベッドに倒れ込んだ。

・・・ 彼女の下敷きとなって。

 

「 − 愛してくださるのなら こころの底から言って。 」

「 あ、あ・・・・・あ〜 愛してます〜〜 」

半ばヤケクソ気味で叫ぶと ジョ−はがばと起き上がり、今度は正式に?

フランソワ−ズを組み敷いた。

「 ・・・愛してるよ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」

のぼせあがっているので なかなか彼女のブラウスのボタンを外すことができない。

まして、左指は包帯のぐるぐる巻きである。

 

 − くっ・・・ くそう ・・・ !

 

焦るジョ−の首に肩にフランソワ−ズの腕が絡まりほぐれ ・・・ ぴたり、と止まった。

 

「 あ! わかったわ! こうすれば・・・うまく行くのね。 」

「 ・・・??? 」

「 どうもね、腕の位置がわからなかったんだけど・・・

 <ジュリエットの寝室>の場面、難しいのよ〜。 ちゃんと研究して来いって

 宿題になっちゃって・・・ 」

そうか、そうよね・・・と一人で納得し、フランソワ−ズはするりとジョ−の腕から逃れた。

「 ・・・あ、あのぅ〜〜 」

「 バレエだとね、この場面は低いリフトから・・・ あ、だめね。これはお芝居ですものね。」

くすくす笑って フランソワ−ズは髪を直し、ジョ−が外せなかったブラウスの襟元を整えた。

「 あら、ジョ−? どうしたの? 桃饅、冷めてしまうわよ。 

 手、お大事にね〜。 あまり痛むようだったら氷で冷やすと楽よ。 」

じゃあ、お休みなさい・・・

満面の笑顔で 彼の恋人はさっさと出ていってしまった。

 

「 ・・・・ なんなんだよ・・・ 」

 

ぐるぐる巻きの包帯と桃饅をながめ・・・ 最強の戦士・009は呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

「 博士! ギルモア博士〜〜! 」

「 ? なんだね、どうした?? 」

ばたばたと駆けてくる足音に ギルモア博士は慌てて自室から顔を突き出した。

「 ジョ−が! ジョ−のヤツが〜 」

「 また、ジョ−かね? 今度はどうした、クギで手の平でもぶち抜いたか・・・ 」

「 クギで ・・・いや、釘を呑んじまったんです! 」

「 呑んだぁ?? 」

 

「 ( なんだか声が出ません〜 ) 」

ピュンマに引っ張られて博士が彼らの<劇場>に降りてゆくと、ジョ−が神妙な顔をして

ちょこんと椅子に座っていた。

「 ・・・ なんだってまぁ クギなんぞ呑んだんだね?! 

 ほら・・・口を開けて。 もっと大きく ・・・ 」

「 ・・・・・・・ 」 

ペンライトを翳す博士の前で ジョ−は素直に<あ〜ん>をしている。

「 アイヤ〜 大丈夫アルか〜。 ワテが余計なコトを言ったから・・・ 」

張大人が博士にお茶を運んできて、心配顔で覗き込んだ。

「 たしかにあの男優はんは男前やけど。 」

「 まったく・・・、ジェットじゃないけどTVスタ−なみだね。」

ピュンマが隣でくっく・・・と肩を震わせている。

「 誰もあのひらひらのブラウスの下は デベソ だ、なんて思わないよな。 」

「 そうアル。 このハナシをしていたら大工仕事の最中のジョ−はんが突然

 釘を呑み込みはったアルよ、博士。 」

「 ( ・・・だって。 だってさ・・・。 なんでフランは知ってるの?

 そのぅ・・・ あの王子サマが デベソ だってコトを、さ・・) 」

大口を開けたまま、ジョ−は泣きそうな脳波通信を飛ばす。

 

・・・ コイツ、まだわかってないのか??

 

居合わせた歴戦のツワモノ共は呆然と顔を見合わせた。

「 は〜ん? じゃが・・・アレはグレ−トだろうが。 ・・・わ! ジョ−!! 」

「 え・・・! ナンだぁ〜 そうなんだ?? 」

ギルモア博士が 驚いて声を上げた。

「 おい、ジョ−! 急に口を閉じるな〜〜 危うくペンライトを喰われるところじゃったわい。」

「 すみません〜〜博士。 」

そうなんだ〜とジョ−は立ち上がってぴょこぴょこ飛び跳ねている。

 

「 そっかそっか♪ そうだよな〜 コレは芝居だものな〜 

 研究熱心で凄いよな〜 さすが・・・フランソワ−ズ♪ 」

 

今までの神妙な顔つきは何処へやら、

ぶつぶつ言う博士やら、呆れ顔の仲間達をヨソにジョ−はやたら楽しそうだった。

 

「 ・・・おい? 大丈夫か ・・・アイツ 」

「 さあねえ・・・。 釘がアタマにまわったのかもしれないよ。 」

「 恋する乙女・・・イヤ、若者はな〜んにも見えないアルよ。 彼女の顔以外はネ 」

「 ・・・違いねぇ。 」

 

 

「 ・・・ 僕は誓います  〜 この美しい月にかけて。 」

「 いけません、月にかけて誓うなんて! 

 

舞台では美男・美女の俳優たちが熱演中であった。

 

 

 

「 そうなのよ。 これはね、張大人の提案なの。 」

「 へえ? 」

ジョ−の脇でフランソワ−ズがくすり、と笑った。

そのいい匂いがする髪にくしゃり、と手を当ててジョ−は軽く吐息をつく。

淡いル−ム・ライトが壁にぼんやりと映す影は寄り添って重なりあう。

甘い情熱の跡が 夜気のそこここに漂っている。

 

「 まだ・・・暑い頃なんだけど。 グレ−トは昔の恋人と良く似た女性( ひと )に

 巡りあって。 その方も演劇を志していらしたんだけど・・・ 」

「 ふうん・・・ 趣味もあって丁度いいね? 」

「 ええ・・・ でも、ね。 その方は病気で亡くなってしまったのですって。

 ・・・彼女がグレ−トと演り( やり )たかったのが あのお芝居なのよ。 」

「 ・・・ そうなんだ、それで・・・ 」

「 ちょっとだけは出来たみたいなんだけど。 グレ−トは ホクト・マサナオ っていう

 俳優さんとして付き合っていて・・・でも、真剣だったし。 忘れられないって。 」

「 ・・・・・ 」

「 その方ね、木曜日に亡くなったんですって。 

 ロミオとジュリエットが死んだ日も 木曜だったのよね・・・ 」

「 ・・・そのひとは ジュリエットとして亡くなったんだね、きっと。 」

「 ええ。 ・・・ ちょ・・・と、 ジョ−・・・? ヤダ ・・・ もう・・・ 」

「 いいじゃないか・・・  それで、張大人のお店関係の<国際フェスティバル>に

 参加ってことになったんだ? 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ そう、なの・・・ あ・・・や・・・ そこ・・・ 」

「 ふふふ・・・。 夜はまだまだ・・・長いよ。 ジュリエット? 」

「 ま・・・。 行かないで。 あれはナイチンゲ−ルよ、まだ・・・夜は深いわ、ロミオ

 ここにいて。 ・・・ こわいの・・・あなたのいない未来が。 」

「 どこにも行かない。 ぼくはここに・・・いるよ。 ずっと・・・ 」

「 ・・・ わたし達に ひばりは朝を告げにはこないわ・・・ あぁ・・・ ジョ− ・・・ 」

 

醒めかけていた夜気が ふたたび熱く燃え上がるのにそんなに時間は掛からないようだった。

 

 

 

師走の声を聞いた、ある木曜日。

平日にもかかわらず、市民ホ−ルはかなりの人出で賑わっていた。

「 お♪ 結構ってか、かなり客席埋まってんじゃん? 」

「 ほら〜ダメだって、そんなに顔だしちゃ。 ・・・うん、チケットは一応完売だしね。」

照明と音響のコンビが袖幕でぼそぼそやっている。

「 ホッホ〜 これでチャリティ−の目標額は軽く突破アルね。 」

今回の女形( おやま )が 物慣れた様子で衣装の裾をさばく。

演出家は眉間の縦ジワを幾分か緩めた。

「 大人・・・ あんた、一番イタについてるな。 」

「 これはこれは。 演出家センセイのお褒めを頂戴できまして、光栄アル。 」

 

ベルが鳴った。

「 ・・・・ 全員スタンバイ、いいか? 」

「 よろしく〜 ! 」

ミッションの時とはまた違った緊張感が サイボ−グ戦士たちの間に流れる。

 

「 おい! 女優さんよ? ・・・そんな格好やめろよ! ジョ−のヤツが真っ赤になるぞ。 」

「 あら。 いいじゃない、これってわたしのウォ−ミング・アップなんですもの。

 ・・・ さて。 コレでよしっと。 ロミオ? どうぞよろしく♪ 」

舞台袖で 脚を高々と耳の横にもちあげていたジュリエットが嫣然と微笑んだ。

「 おお〜 我らが姫君♪ こちらこそ・・・ 」

世紀の美男スタ−は差し伸べられた白い手に 慇懃に身を屈めキスをした。

 

・・・がたっ!

 

「 ジョ−? ・・・・おまえ。何だって防護服なんか着込んでるんだ?

隅っこからの音に振り返った演出家が 目を剥いた。

舞台袖の奥には。

この場にはまったく不似合いな、舞台衣装より派手派手しい赤い服の男が立っていた。

黄色いマフラ−が衝撃的なコントラストを描いている。

 

「 し〜! 始まるよ!

 え? これ? ああ、途中でセットが壊れたらフランを助けに行かなくちゃならないだろ。

 大丈夫、加速装置で・・・ばっちりさ ♪ 」

「 ・・・ おい! ちゃんと釘、打ってあるんだろうな?? 」

屈託のない全開の笑顔に アルベルトは心底心配になってきた。

 

・・・・ 耐震強度を測定しておくべきだった・・・か・・・?

 

 

「 二ベルはいりまーす。 音響スタンバイ願います。 」

「 O.K.」

 

場内にベルが鳴り渡り 客席のざわめきが次第に消えてゆく。

役者もスタッフも ・・・ 一瞬大きく息を吸った。

 

ライト OFF。 そして ・・・ ON。 

音をたてて緞帳がゆるやかに上がり出した。

 

 

 

  − 今、 舞台( ステ−ジ )が はじまる。

 

 

 

 

『 ロミオとジュリエット 』 より

 

 

 

原作 : W。シェイクスピア

 

脚本 : G。ブリテン

演出 : A.ハインリヒ

 

音響・効果 : ピュンマ

照明・記録 : J.リンク

舞台装置  : J.島村

 

企画・構成 : wren

 

 

キャスト

 

ロミオ     : 北人 正直

ジュリエット :   F.アルヌ−ル

 

ロレンス神父 : I.ギルモア

乳母       : 張々湖

 

 

 

 

 

*****    Fin.    *****

Last updated: 11,29,2005.                           index

 

 

 

***   言い訳  by  管理人  ***

え〜 ともかく滅茶苦茶に楽しい絵だったのであります、【 しろうとしばい 】 ♪♪

釘を呑んじゃったジョ−君がどうなったか・・・? ⇒ それはwren様宅の

BBSで 諸姉様がたが解決してくださっております。