『  手鏡  − 乙女の祈り − 』

 

 

「 ・・・あ、いっけない・・! お稽古場においてきちゃった・・・ 」

あたしは大通りに出て なんとなくいつもより軽い気がするお稽古バッグの中を覗いてみたんだけど。

やっぱり。 軽いわけだわ・・・

乾かそうと思って お稽古場に干しておいて・・・ そのままだ。

「 ごめ〜ん、みちよちゃん 先に行ってて・・。 ポアント、取ってくるから。 」

「 待ってるわよ? いっしょに帰ろうよ。 」

「 え、そう? じゃ、大急ぎで行ってくるね!」

 

あたしは全速力で道を引き返した。 

次の お勤めのお姉さんたちのクラスが始まる前に取ってこなっくちゃ・・・!

 

「 ああ、よかった・・! 」

ちゃんとお稽古場の隅っこに置いてあったポアントをあたしは しっかりと胸に抱えた。

 

( ・・・あれ・・? )

この時間、いつもは空いている3スタから音楽がきこえくる。

( 先生がたのリハ−サルかな。 ・・・ちょっとだけ・・・♪ )

あたしは そお〜っと爪先だって廊下側の窓から3スタを覗き込んだ。

 

 − わあ・・・・・

 

初め、あたしはホンモノの妖精かと思った・・・!

白いレオタ−ドに淡いブル−のジョ−ゼットのスカ−トの人、ものすごく綺麗な人が踊ってた。

あたしの大好きな 『 ジゼル 』 一幕のヴァリエ−ション。

( ・・・すごい! めぐみ先生や ううん、昔のえり先生のビデオよりも上手・・・かも・・?)

ぼ〜っと見ているうちに その人は髪をきらきら靡かせて最後のピケタ−ンでのマネ−ジュを終え

アンディオ−ル・ピルエットのダブルを綺麗にまわった。

 

「 久し振りだっていうけど、素適なジゼルだね、フランソワ−ズ・・・ 」

「 ・・・・ ジョ− ・・・・ あ・・・りがと・・う・・ ♪ 」

 

あたしは全然気が付かなかったけれど MDプレ−ヤ−の側にいた男の人が立ち上がった。

( 日本語だ・・・ このひとも茶色の髪と目だし、ふたりとも外国の人じゃないのかなあ? )

流れる汗を拭っているその人に お兄さんは歩み寄り きゅっと抱きしめて。 

・・・・ キス、した・・・!

( わ・・! え〜外国の映画みたい〜〜♪♪ )

あたしは 妙にどきどきして、ほっぺたが熱くて。 

急いで でも、そうっと窓から離れてなるったけ音を立てないように廊下を走った。

 

どきどきどきどき・・・・・

はあはあ言うのは 全速力で走ってきたからだけじゃないな、多分。

ほんとのキス・シ−ンって初めてみたけど。

・・・・すごく  綺麗だった・・・・

 

うんと待たせちゃったけど みちよちゃんはちゃ〜んと待っててくれた♪

 

 

お稽古の帰り、おばあちゃまのウチに行く。 

今日はパパもママもお仕事で遅いから、おばあちゃまの所でゴハンを食べる。

あたしのおばあちゃまは とっても面白い人。

バレエを習わせてくれて応援してくれてるのも おばあちゃまなの。 

ママはあんまりいい顔をしない。

「 小学生のうちはいいけれど。 中等部へいったら止めたら・・? 」

なんで中学生になったらいけないの。 あたしはやめないからね、バレリ−ナになるんだもん。

そう、おばあちゃまみたいな・・・。

おばあちゃまは 若い頃バレリ−ナで今は小さい子達を教えている。

お背中は今でもいつもぴん・・っと真っ直ぐでかっこイイけど、杖を突かなければちゃんとは歩けない。

 

「 おばあちゃま〜 」

いい匂いのするお台所に あばあちゃまがいないのであたしはお座敷の方へ捜しにいった。

「 おばあちゃま・・・  わあ・・・なあに、綺麗なものがいっぱい! 」

「 ああ、お帰り。 ご飯にしようね。  これはねちょっと整理しようと思ってたら

 昔のモノがいろいろ出てきて。 ついつい懐かしくてね、かえって片付かなくなっちゃった。 」

「 ふうん・・? 」

 

白鳥の羽やきらきら光るティアラなんかがお座敷の奥のお部屋いっぱいに拡がっている。

きっと おばあちゃまが現役のころ舞台で使ったものなんじゃないのかな・・・

あたし、はふと可愛い手鏡をみつけ、手にとってみた。 

長いあいだ使ってましたってカンジのその鏡の裏には。

 

「 それはね。 ト−ルペイントっていって。 おばあちゃまが若いころお友達に頂いたのよ。

 その可愛い絵もお友達が描いたの。   ・・・どうしたの? 」

あたしがあんまり じ・・・っとその絵を見てるので あばあちゃまは不思議そうに聞いた。

「 ね!あたし、この女の子とすご〜〜く似てるひとに会ったの! つい、ついさっき。

 バレエ学校の、あの、お稽古場で! もっと金色みたいなクリ−ム色みたいな髪だったけど。 」

「 ・・・・・亜麻色・・・? 」

「 ?なに、それ? そういう名前の色なの?  もっと大きな人、お姉さんだったけど。

 この女の子そっくりでね。 栗色の髪の男の子が一緒だったんだけど・・・ 」

「 ・・・・・ 栗色の・・・髪・・・ 」

「 それでね、 ものすご〜〜く上手に ジゼルのヴァリエ−ションを踊ってたの! 」

「 その子、女の子の瞳は・・・・綺麗な蒼で。 男の子は、茶色、でしょ? 」

「 ・・・・! おばあちゃま、どうしてわかるの。 おばあちゃまの知ってる人たち? あれ・・どうしたの?」

急に ぽろぽろ涙を零し始めたおばあちゃまに今度はあたしがびっくりしてしまった。

 

「 ええ、ええ。 よ〜く知ってるのよ、二人ともね。 ジョ−とフランソワ−ズ っていうの。

 そうそ、この手鏡の絵を描いてっくださったお友達も ようくその二人をしっていたわ・・・ 」

おばあちゃまは とてもとても愛しそうに・大事そうに そう・・・っと手鏡の絵を撫でた。

 

あなたが中学にはいったら。 あげるわね、この手鏡。

そうして。

一緒にすばらしい物語を教えてあげる。

おばあちゃまが、 おばあちゃまとたくさんのお友達が ずっとずっと話してきた、

それはそれは 素晴らしい愛の物語を・・・・・。

 

まだ涙をながしながら、でも楽しそうに微笑んでいるおばあちゃま。

あたしは。

そんなおばあちゃまが <おばあちゃま>じゃなくて 乙女ってカンジで

なんかとってもカワイイなって思った。

 

 

******  Fin.  ******

Last updated: 12,14,2003.              index   /     photo

 

 

*****  後書き by ばちるど *****

めぼうき様のサイト『 Eve Green 』様で<10009>のキリ番をふみまして♪

なんと、<カウンタ−・プレゼント>という素晴らしい趣向でそれはそれは可愛らしい 手鏡 を

頂戴いたしました。(>_<) ⇒ヘボ写真ですが↑の photo へ飛んで御覧ください。

めぼうき様!! ほんとうにありがとうございました♪♪♪  

え〜SSの設定は・・・30年ぐらい後!デス(^_^;) <あたし>が通っているバレエ学校は

拙作『プレパラシオン!』に登場いたします。 <乙女の祈り>はイメ−ジ・B...としてお聴きください。