『 Sweet  Home 

 

 

 

******   はじめに  ******

このお話は  Eve Green 】様宅の 島村さんち 設定を拝借しています。

ジョ−とフランソワ−ズの双子の子供達、すばるとすぴかが小学二年くらいの頃のこと・・・

 

 

 

「 ・・・ そして 二人は末永く幸せに暮らしました ・・・ おしまい。  ふうう・・・・ 」

ジョ−は絵本を閉じると 大きく息を吐いた。

「 すぴか? ・・・・  ああ、寝たのかな・・・ 」

ジョ−のブルゾンをしっかり握っていた手がいつのまにか離れている。

「 ほうら。 お手々をちゃんと入れておかないと 風邪ひくぞ? 」

低く呟くと ジョ−は娘の小さな手を そっと上掛けの下に戻した。

 

  やれやれ・・・。  ああ ・・・ こうやって眠っているときは

  本当にフランス人形だよな。 ・・・ 可愛い ・・・

 

花模様の枕カヴァ−に亜麻色の髪を散らばせ、すぴかはぐっすり眠っていた。

まあるいほっぺは桜色で 母譲りの碧い瞳は長い睫毛の下に隠れている。

ジョ−はほれぼれと小さな寝顔をながめ、満足の吐息をもらす。

 

「 すぴか ・・・ お休み。 よい夢を ・・・ 」

ジョ−は愛娘の髪を くしゃり、と撫ぜてそうっとそうっと足音を忍ばせ、子供部屋を横切る。

出掛けに覗きこんだ隣のベッドでは 彼の息子がもうぐっすり ・・・ 正体もなく寝入っていた。

薄い蒲団からはみ出た元気な脚を、父親はうんしょ・・・と元にもどしてやる。

「 すばるも ・・・・ お休み。 」

 

寝顔はね、もうジョ−にそっくりよ。 縮小コピ−だわ。

 

彼の奥さんは小さな息子が生まれたときからそんなコトを言うのだが・・・

 

  自分の寝顔を知ってるヤツが いるかって。 

 

ふふん・・・と苦笑しつつも ジョ−は愛しげに息子の頬を撫ぜた。

 

「 お休み ・・・ ぼくの宝モノたち・・・・ 」

ジョ−自身、最高に幸せな気分でつぶやくと ゆったりと子供部屋を出ていった。

 

 

 

「 ・・・ あら。 お疲れ様。 今晩は何冊 ? 」

「 ああ ・・・・ もう ・・・。 えっと・・・ 8冊、かなあ。 」

ジョ−はやっと寝室に戻ってきて、ふわ・・・ っと大あくびをした。

ちょうどお風呂上りのフランソワ−ズはドレッサ−の前で髪を丹念に拭っていた。

「 ふふふ・・・ それも最後のトコだけ、でしょ。 」

「 そ。 始めから読もうとしたら ここから! ここからよんで〜〜 ってご注文だよ。 

 それもさ、主人公が悪い魔女とか 怪物をやっつけるところから、なんだ。 」

「 そうそう、いつもそうなのよ。 それで、もっぱらすぴかが注文するのでしょう? 」

「 あたり。 すばるはもう ・・・ 家来だよ〜〜 姉さんの側でにこにこしてるな・・と

 思ってたら すぐに沈没しちまった。 」

「 気がいいのも ・・・ 良すぎるのもちょっと問題だわ。 今の時代・・・ 」

「 まあ・・・ねえ。 それで・・・弟はもうしっかり夢の国なんだけど。

 姉君は ばっちりあの大きな眼を開けて・・・ お父さん、そこ違うよ? なんて

 ぼくがちょっとでも読み間違えるとすぐにクレ−ムが飛んでくるんだ。 」

ふうう ・・・ ジョ−は盛大に溜息をつき、もう一回 うん・・・と大きく伸びをした。

「 ふふふ・・・すぴからしいわね。  あの子、結構こだわるのよね。

 それに 明日お出掛けするから ・・・ 興奮しているのかもしれないわ。 」

「 ああ、だからか。 森の中ってどんな感じ?って 何回も聞いたよ。 」

「 まあまあ・・・明日、大変だわね〜〜 」

ジョ−達は明日、ちょっと離れた森へ ピクニックに行く予定なのだ。 

「 『 ヘンゼルとグレ−テル 』 でさ。 お菓子の名前を間違えて叱られた。

 お父さん、だめねえ・・・だって。 ふふふ・・・ きみそっくり♪  」

「 まあ・・・ そうそう、あそこに出てくるお菓子ってドイツ名だからちょっと難しいわよね。 」

「 食べたことないからな〜。 すばるはえらく <お菓子のおうち> が気に入っていたけど。

 すぴかは やっぱりラストなのさ。 魔法使いのをやっつけるところ。 」

「 ・・・ あのお話って ・・・ 始まりは結構シリアスよねえ・・・ ? 」

「 始まり? 」

「 そうよ。 あの子供達は親に・・・ 捨てられる ・・・ じゃない。 」

「 あ ・・・ ああ、そうだね。 」

フランソワ−ズの声が急に低くなった。

パジャマに着替えていたジョ−は 手を止めてドレッサ−の方を見た。

拭き終わった髪が 細い肩の上で小刻みに揺れている。

「 ・・・ どうしたんだい。 」

「 あのお話で ・・・ 二人の子供達は置き去りにされるの。 あの親は酷いって思ってたけど。

 ・・・・ わたし ・・・ も同じだわ。 」

「 フランソワ−ズ? 」

「 だって。 いつか・・・ そうなるのよ。  そう・・・しなくちゃいけない ・・・ じゃない ・・・ 」

フランソワ−ズの頬にほろほろと涙がこぼれ落ちる。

 

「 子供達を ・・ 置き去りにする酷い母親だわ、わたし・・・ 」

 

「 ・・・・・ 」

ジョ−は黙って彼の最愛のパ−トナ−の身体に腕を回した。

そう ・・・ いつの日か・・・ それはまだずっと先のことだけれど。

永遠に年をとらない二人は 子供達に追い越される時がやってくるのだ。

今は世間のどこにでもある普通の家庭生活を送っているけれど・・・

それは期限付きの 仮の姿 でしかない。

いつか。 子供達の前から 二人は永久に姿を消さなければならない。

時の流れに置いてゆかれた運命は 愛しいものとの別れをも強要するのだった。

 

  ・・・ 幼子を置いて先に死んでしまう・・・よりももっと酷いわ。

  

フランソワ−ズはそのことを考えると きゅ・・・っと心臓が痛む。

「 わたし ・・・ あの子達を ・・・ 捨て ・・・てゆくのよ・・・ 」

「 フランソワ−ズ! そんなこと・・・! そんな風に思っちゃいけないよ。 」

「 どうして。 だって ・・・ 結果的にはそういうことじゃない。 」

「 ちがうよ。 」

ジョ−は愛しいひとの頬に唇をよせ、流れる涙を吸い取った。

「 別れるだけさ。  どの親だって いつかは子供達を手離すんだよ。 」

「 それは ・・・ そうだけど。 でも ・・・ わたし達は ・・・ 」

「 ・・・ あの子達は きっと。 きっと ・・・ わかってくれるさ。 」

「 こんな ・・・ こんな親の元に生まれたばっかりに ・・・ 

 ああ・・・ あの子達を産まなければよかったのかしら ・・・ 」

「 フランソワ−ズ。 それは違うよ。  どんな状況になっても幸せな日々の記憶は消えない。 

 二人は ・・・ 一生幸せの想い出を持ち続けるよ。 」

「 ・・・ そう思う? あの子達も ・・・ そんな風に思ってくれるかしら。 」

「 うん。 絶対に。 」

「 ・・・ まあ 随分自信があるのね。 」

「 当たり前だろ。 すばるとすぴかは きみとぼくの子供なんだもの。 」

「 ・・・・ ジョ− ・・・ 」

ジョ−はフランソワ−ズのうなじに唇を寄せる。

ふわ・・・と 微かに甘い香りが、ジョ−だけにわかる香りが匂いたつ。

「 きみがぼくにくれた、最高の宝物さ ・・・ すばるとすぴかは・・・ 」

「 幸せに ・・・ 本当に幸せになってほしいの。  二人とも・・・ 」

「 ぼく達みたいな?  ・・・ んんん ・・・・ 」

ジョ−の唇が うなじから胸元へ ・・・ そして露わになった白い胸へと辿ってゆく。

「 ・・・ や ・・・ ねえ・・・ 待って? わたし、髪が ・・・ まだ ・・・ 」

「 待てない・・・・ は・・・はっくしょん! 」

「 あらら。 ねえ、湯冷めした? もう一度お風呂に入ってきたら。 」

「 う〜ん ・・・ 大丈夫さ。 そのかわり ・・・ きみが暖めて♪ 」

「 ・・・ きゃ♪ もう・・・ ジョ−ったら・・・」

「 冷えちゃったんだ・・・・ 凍える孤児に愛の手を・・・ 」

「 またぁ ・・・ もう ・・・! 」

夫婦の寝室に たちまち愛の温気が溢れていった。

 

 

この時。 003は完全にミスをした。

009との 個人的な仕事 に夢中ですっかり探索機能をオフにしたまま・・・

通常の知覚すら 完全にもっとも至近距離にいる仲間にのみに向けられていたのだ。

その結果、周囲の状況への警戒は100% オフになっていた。

 

つまり。 フランソワ−ズにはジョ−のことしか見えて・感じて・いなかったのだ

よって。 小さな足音がドアの向こうでぱったりと止まり、あるひと言に

凍りついてしまったことに ・・・ まったく気がついていなかった。

 

   あの子達を 置き去りにする ・・・ ひどい母親だわ・・・ !

 

「 ( お母さん ・・・ !!) ・・・・・・ 」

すぴかは 抱えていた絵本をきゅ・・・っと抱き締めた。

一緒に お口もきゅ・・・っと閉じた。 だって、そうしなければ泣き声が溢れそうだったから。

 

   お父さん、お母さん ・・・ アタシ達を ・・・ ???

 

 

 

さっき、あ、いけない〜眠っちゃった・・・って慌てて起きたら お父さんの姿はもうみえなかった。

お部屋の電気も、小さなフロア・ランプだけになっていた。

 

  お父さんに お休みなさい を言ってないもん。 

 

すぴかはベッドからすべり降りた。  隣のベッドではすばるがくうくう眠っている。

お父さんとお母さんはまだおきているはずだ。

大急ぎで お休みなさい を言ってこなくちゃ ・・・ ってすぴかはスリッパも履かずお部屋から出た。

それで。 聞いちゃったのだ。

どうしてかわからないけど。  あの子達を置き去りにする って言葉だけがすごくはっきり聞こえた。

その後は もう ・・・ なんにもわからなかった。

 

  置き去りって ・・・ 『 ヘンゼルとグレ−テル 』 みたいに・・・?

  ・・・・ アタシとすばるを ・・・ 捨てるっていうこと?

 

廊下が思っていたよりもずっと冷たいな・・・ なんてたった今、暢気に思っていたのに。

もう ・・・ 全然なんにも感じない。

すぴかは絵本を抱き締めたまま そうっと子供部屋に引き返した。

 

   ・・・ どうして ・・・  ?? 

   お父さんもお母さんも  ・・・ アタシのこと、キライなの・・・?? 

 

いつもはどんなに小さな音でも お母さんはすぐに見つけてくれる。

隠れて泣いている時だって ・・・ こそっと来てくれて ・・・

 

「 どうしたの? すぴか。 」

 

優しい声が降ってきて いい匂いがして ・・・ ほっぺにキスをくれるのに。

お父さんもにこにこしてやってきて・・・・

 

「 なんだ〜 泣いたりして おかしいぞ? 」

 

穏やかな声がして がしっておっきくてあったかい手が アタシの頭をなでてくれるのに。

今夜のお父さんとお母さんは 知らんぷりだ。

 

   ・・・ そうだ! 明日のおでかけ ・・・・ 

   きっと アタシ達・・・ 森の奥に捨てられるんだ・・・!! ヘンゼルとグレ−テルみたいに・・・

 

かくかくと身体がひとりでに震えてしまう。 

歩くのって。 息をするのって。 こんなに考えなくちゃできないんだっけ?

すぴかは ぶるぶる震える腕を反対の腕できゅっと押さえた。

そうっとそうっと。 ぴたぴたぴた・・・ 夜のおうちってこんなに静かなの? 

いつものお家とぜんぜん違うトコみたい。 

子供部屋までってこんなに長いかったっけ?

すぴかはぎくしゃく・ぎくしゃく 子供部屋へ廊下を辿っていった。

 

   すぴかのお家じゃ ・・・ ないみたい。 

 

しゅん ・・・ ちょこっと涙とハナミズが垂れてきてすぴかはパジャマの袖で拭いてしまった。

子供部屋にはいって ちょっと安心した。

そこはいつもと、 そう、 ついさっき。 お父さんがご本を読んでくれた時とちっとも変わらない。

すぴは 隣のベッドに登って弟の肩を揺さぶった。

 

「 すばる? ・・・ す〜ば〜る ・・・? 」

「 ・・・ うう ゥ〜〜ん  ・・・ あ ・・・? もう ・・ お早う ・・・? 」

お父さんと同じ、セピアの瞳がものすごく眠そうに ちょびっと開いた。

「 し! ・・・  ねえ、すばる。 明日のおでかけでね・・・ 」

「 ・・・ あ、すぴか〜〜。 お早う・・・ 」

「 ヤダ。 なに寝ぼけてるの〜 まだ 朝じゃないってば。 」

「 ・・・? なあに ・・・ 僕 ・・・ 眠い〜〜 」

すばるは大きなアクビをして せっかく開いた瞳もまたすぐに閉じてしまいそうだ。

すぴかはあわてて 弟の腕をつかむ。

「 あのね! 明日のお出掛けだけどね! 」

「 ・・・ う ・・・ん? 明日〜〜 」

「 そうよ。 すばる、あんたなにか <めじるし> になるモノを持って行くのよ。 」

「 ・・・ めじるしぃ ・・・? ど〜してぇ ・・・ 」

「 あ ・・・ あの、 え ・・・っと。 そう! 迷子にならないように。

 ず〜〜〜っと道に めじるし を落としてゆくの。 」

「 ・・・ う〜ん ・・・ わかったぁ・・・ 」

「 きっとよ? 忘れないでね。 」

「 ・・・ う 〜 ・・・ ん ・・・ 」

ぱたん ・・・ とすばるはベッドに引っくり返り すぐにすうすう寝てしまった。

 

  もう ・・・ !  でも ・・・いいわ。 

  すばるに本当のコト、言ったら きっと泣くものね。

 

アタシはお姉ちゃんなんだから。

すぴかは ぶん・・・っとアタマを振って真剣な顔で子供部屋をみまわした。

 

  めじるし ・・・ めじるし・・・・ 

  ヘンゼルは おばかさんだから パンくずなんて撒いたのよ。

  アタシは・・・ なにがいいかな?

 

虫の声が賑やかに聞こえる秋の夜、すぴかは随分と遅くまで子供部屋でごそごそやっていた。

 

 

 

「 わ〜〜〜 お父さ〜〜〜ん!  僕、ちょこっとうんてんせきに座らせて! 」

「 こら・・・ ちょっと待て。 すばる、これ、持って行ってくれ。 」

「 うん? これ? いいよ〜〜 先にガレ−ジに行ってるね〜〜 」

玄関のドアが ばた〜〜ん! と音をたてて閉まった。

 

「 すばる!! 乱暴に閉めないの! ・・・ ああ、もう聞こえてやしないわねえ・・・・ 」

フランソワ−ズは両手に荷物を抱え、大きく溜息をついた。

「 ふふふ ・・・ もう楽しくて興奮してるんだよ。 えっと・・・ 荷物はこれだけ? 」

ジョ−がフランソワ−ズの手から荷物を受け取った。

「 ええ。 お弁当とおやつ。 ク−ラ−・ボックスは ・・・ ああ、もう車ね? 」

「 うん。 さっき運んでおいた。 え・・・と。 戸締りはしたし。 そろそろ出発しようか。 」

「 そうね。 ・・・ あら?? 」

「 なに、どうしたの。 」

「 ・・・ すぴか?!  まだお家に居たの??? 

「 ・・・ うん。 」

もうとっくに ― 弟よりも先に ガレ−ジに行っていると思った姉娘がゆっくり階段を下りてきた。

すぴかは なんだかとっても難しい顔をしていた。 

いつもはあっちこっちに向いているお下げも 今朝はきちんと顔の脇の垂れている。

「 すぴか。 どうかしたの? どこか具合が悪いの。 」

「 ・・・ ううん。 」

「 そう? ねえ、気持ちが悪いんじゃないの? 」

フランソワ−ズは慌てて娘の額に手を当てた。

「 お熱は ・・・ ないみたいね。 お腹、痛い? 」

「 なんともないってば。  ・・・ アタシ、車のとこに行ってるね。 」

するり、と母親の手をすり抜け、すぴかはごく普通の足取りで ― いつもは駆け抜けてゆく

玄関から出て行った。  ドアはとても静かに閉まった。

 

「 なんだァ? アイツ。 」

「 やっぱり ・・・ どこか具合が悪いんじゃないかしら。 」

すぴかの両親は 思わず真面目な顔を見合わせてしまった。

いつもの <お出掛け> の日なら、 一番に支度をすませ一番元気にガレ−ジに走ってゆくのだが・・・

「 本人が ああ言うし。 調子が悪いわけじゃあなさそうだよ。 」

「 そうねえ・・・ でも???? ちがうヒトみたいよ? 」

「 確かに。  ・・・ あ、きっと昨夜はしゃぎ過ぎて、くたびれちゃったとか。 」

「 まさか。  でも ・・・ なんかヘンねえ? 」

「 森で 緑いっぱいの空気を吸えば元気になるさ。 」

「 そう ・・・ そうよねえ。 」

「 うん。 さあ、そろそろ行こうか。 」

「 ええ。  あ ・・・ ♪ すばるが怒鳴ってるわよ? おと〜〜さ〜〜〜ん!!って。 」

「 うは。 じゃ、行こうか。 」

「 ええ。 ふふ ・・・ ジョ−とドライブって なんだかすごく久し振りね。 」

「 あ・・・ そうだねえ。 ちょこっと後ろに外野がいるけど・・・ 気にしないで♪ 」

「 森に着けば あの子達は跳ね回っているに決まっているわ。

 もう小学二年ですもの、自分達だけで遊んでいるでいるわよ。 」

「 そうだね。 ・・・ じゃ ・・・ 」

ジョ−は 彼の恋人を抱き寄せキスをした。 ゆっくりと長く ・・・ 深いキス。

彼の手は フランソワ−ズの胸に当てられているだけなのに・・・

 

  ・・・ やだ・・・ !  わたし ・・・ ったら ・・・

 

ジョ−の手の部分だけ フランソワ−ズは胸がきゅ・・・っと熱くなり身体の奥にちかり、と

埋み火が頭を擡げてしまう。

 

「 ・・・ 行こう。 」

「 ・・・ ええ ・・・ 」

 

二人はしっかりと互いの身体に腕を絡めあい、玄関を出て行った。

 

 

 

「 さあ! 出発するわよ。 二人とも忘れ物はないわね。 」

ジョ−がガレ−ジから車を出す間、フランソワ−ズは子供達と荷物を並べ点検していた。

すばるはそんな母親の周りをちょんちょん飛びまわっている。

「 は〜〜い♪ 僕、ちゃんと めじるし も持ってきたよ! 」

「 めじるし?? 」

「 ・・・ ( って! ) あ、 ううん。 なんでもな〜い。 」

すばるは突然ケンケンをした。

すぐ脇にいるすぴかは 知らん振りのおすましである。

「 ?? すぴかは。 」

「 なんでもない。 」

「 ???  ヘンねえ・・・ふたりとも。  あら。 すぴか、パ−カ−のポッケに何か入れてる? 」

「 え・・・!  あ、 ううん、ううん。 なにも。 」

すぴかは慌てて ぶんぶん首を振った。

でもお母さんは ぱっと手を伸ばしてごろごろ膨らんでいるポッケを触っている。

「 なにもって・・・・ あ〜〜 らら・・・・ 」

「 ・・・ あ ・・・ 」

すぴかのポケットから フランソワ−ズの手にちゃらちゃら小さなものが沢山滑り落ちる。

ガラスが秋の日に当たり、ちかちかと光る。

「 まあ・・・! おはじきはお家の中で遊ぶものでしょう? 

 お外では使えないわ。 さ、落として無くさないように、車に置いてゆきなさい。 」

「 ・・・・ ちょっとだけ。 持って行くだけだから。 いいでしょう? 」

「 持って行ってどうするの。 これ・・・ すぴかの大事でしょう?

 無くしても もう買ってあげませんよ。 」

「 ・・・・・・・・ 」

すぴかはだまって 秘蔵のおはじきを全部お母さんに渡した。

 

  ・・・ あ〜あ・・・ コレなら小鳥さんにも食べられないし。

  いいめじるしになると思ったんだけど・・・

 

「 忘れないように お父さんにダッシュボ−ドにいれておいて頂きましょう。 」

ね?とフランソワ−ズは娘の顔を覗き込んだ。

「 ・・・・・・ 」

「 なあに?  ムスっとして・・・ おかしなすぴかねえ。 」

「 お母さ〜〜ん!  すぴか〜〜 早く、早くゥ〜〜〜

 お父さんの車、 もう じゅんびかんりょう、だよぉ〜〜〜 」

ガレ−ジの前で すばるがぶんぶん手を振っている。

「 はァいィ〜〜〜〜  さ、すぴか、行きましょ。 」

「 ・・・ うん。 」

 

  あらら・・・なんだか随分ご機嫌ナナメねえ。

  ま、ドライブに出れば たちまち大はしゃぎよね・・・・

 

フランソワ−ズは娘の仏頂面が かえって可愛いな・・・なんて思っていた。

 

 

「 いいお天気だね。  ほら ・・・ 海のむこう ・・・ 島がぼんやり見えるだろ? 」

「 どれどれ〜〜〜 ?? あ・・・! 本当だ!!  ・・・ ハワイ? 」

後ろの座席からすばるが乗り出して父親にくっついている。

「 ぷ・・・ッ! ちがうちがう。 ハワイはねもっともっともっとず〜〜〜〜〜〜っと遠くさ。

 あれは S島。 」

「 ふうん ・・・・ ねえ、お父さん! 今度あの島へ連れてって〜〜〜 」

「 ああ、そうだね。 いつか、お船に乗ろう。 」

「 わ〜〜い♪♪ お船〜〜 お船だ〜 ちゃっぽん・ちゃっぽん〜〜♪♪ 」

「 まあ、すばる。 それじゃ、プ−ル頑張らなくちゃ。 25m泳げるようになりましょ。 」

「 ・・・ あ ・・・・ う、うん。 」

まだ面被りクロ−ルでばしゃばしゃやっているすばるは ちょっと情けない顔をした。

「 ねえ? すぴか。 すぴかはもうとっくに50mは平気よねえ? 」

「 ・・・・ え ・・・・? 」

母の声に すぴかはびっくりして窓から顔を離した。

 

   あら。 どうしたのかしら。

   いつも賑やかなのに すぴかったら今日はず〜〜っと黙って窓に張り付いていたわね?

 

「 すぴか? 気持ち、悪いの? 」

「 え・・・ う、ううん、ううん。 全然・・・・ 」

「 なんだあ? いつもはいろんなおしゃべりをしてくれるのに・・・」

「 あ ・・・ アタシ。 お外、見てたの。 」

「 外? まだあまり面白くないよ。 」

「 ・・・ うん ・・・・ 」

 

   なあ? すぴか、どうかしたのかい。

 

   さあ・・・ よくわからないんだけど。 なんだか朝からず〜〜っとご機嫌ナナメなのよ。

 

   ふうん・・・・ ドライブがイヤなのかな。

 

   そんなこと。 だって昨日まで、森にはリスさんがいるかな〜とか木登りいっぱいするんだ〜とか

   すごく今日のお出掛けを楽しみにしてたわよ?

 

   そうか・・・ なら、いいけど。 きっと眠いのかもな。

 

   ああ、そうね! 昨夜も遅くまでご本読んで〜 ・・・ だったものね。

 

   ふふふ・・・ あっちに着けば いつもみたく大はしゃぎだよ、きっと。

 

双子の両親はこっそりこっそり会話を交わし、 弟息子は座席越しにカ−ナビを夢中になってみていた。

そして。

後部座席では。   姉娘が真剣な顔で窓に張り付いていた。

 

  アタシ。 道順、覚えておかなくちゃ!

  すばると二人でも お家まで帰れるように・・・ !

  え〜と ・・・え〜と。 

  雑貨屋さんの角を右にまがって。 広い道をず〜〜〜っと行って・・・・

  えっと ・・・ 5,6, ・・・ 7個めの信号をまた右にはいって・・・

 

  ああ・・・ ! わからなくなっちゃった・・・!

 

すぴかは可愛い眉毛を八の字に寄せて、外の景色を必死で暗記していたのだった。

 

 

 

「 さあ、着いたよ。 ここが <おとぎの森> の入り口さ 」

「 わあ〜〜〜♪ すご〜〜い木がいっぱい・・・・ 」

「 さ・・・ すばる、自分のリュックを背負って。  すぴか? す〜ぴ〜か! 」

「 ・・・ えっと ・・・ < ステ−キ・ハウス > の看板を右に見て ・・・ え〜と・・・ 」

「 すぴか。 ・・・ねえ、本当にどうしたの? 」

フランソワ−ズは後ろのドアから半身を入れて娘の肩に手をのせた。

 

「 ・・・ え・・それから・・・  あ! お母さん・・・ ! 」

「 着いたわよ? ほら・・・楽しみにしてた <おとぎの森>よ? 」

「 あ ・・・ そう ・・・ なんだ。 」

すぴかはなおさら緊張した面持ちで 母の顔をじ〜〜〜っと見つめた。

 

  ・・・ 着いちゃった・・・ !  とうとう ・・・来ちゃった.

  

「 さ、降りて・・・・ ねえ、森の奥には素敵なものが沢山あるそうよ。

 こんなに大きな森なら りすさんもうさぎさんもいるわよ、きっと。 」

「 ・・・ お母さん ・・・ あの ・・・ 」

「 え? なあに。  」

「 あの、ね。  もし ・・・ これからず〜〜っと アタシがイイコだったら ・・・ 

 ちゃんとスカ−トはいて、木登りも虫採りもしなかったら ・・・・ あの・・・ 」

「 お母さんっ! すぴか〜〜 早く早くぅ〜〜〜 !! 

 森のたんけん に出発しようよ! 」

「 はいはい、わかりましたよ〜〜  さ、行きましょ、すぴか。 ほらこんなにいいお天気よ? 」

「 ・・・・ うん ・・・ お母さん 」

「 あらら・・・ 本当にどうしたの? 急に甘えっこになっちゃった? 」

フランソワ−ズは突然 ぴと・・・・っと抱きついてきた娘にちょっとびっくりしてしまった。

「 す〜ぴ〜か〜 ・・・・ 」

「 すばるが呼んでるわ。 お弁当はすぴかの大好きな明太子のお握りもちゃんとあるわよ。 」

「 ・・・ うん ・・・・ 」

すぴかはしかたなく お母さんから離れた。

 

  いいもん。 すばるが置いてきた めじるし でちゃんと戻ってこれるわ!

 

 

 

 

<おとぎの森> で親子4人、すばるの言う たんけん に入った。

沢山の巨木やら 足元に茂る低木の花々やら そろそろ爆ぜはじめた気の早い栗をひろったり・・・・

すばるは 歓声をあげてとびまわり、すぴかもつられてはしゃぎ始めた。

 

  ほうら・・・ね?

 

  ああ。 いつものお転婆・すぴかだ。 

 

ジョ−とフランソワ−ズは にこにこと双子達を眺めていた。

中ほどのすこし開けた場所で お弁当を拡げる。

多分、家族連れ用として整地されたのだろう、木々の合間に平らな空間があった。

「 おべんと、おべんと、嬉しいな〜〜 ♪♪ 

 ねえねえ お母さ〜〜ん、 今日のお弁当はなになに〜〜 」

「 こら、すばる。 ほら、レジャ−シ−トを敷くの、お手伝いしなさい。 そっちの端を持って。 」

「 は〜〜い。 お父さん、これでいい? 」

「 うん ・・・ ちょっと引っ張るからな・・・ ああ、ありがとう、すばる。 」

「 すぴか。 そっちの包みも開けてちょうだい。 ああ ひっくり返さないように気をつけて! 」

「 は〜い。  わ♪♪ お握りだあ〜〜 ねえねえ、明太子、ある? 」

「 うわ♪ 美味しそうだなあ〜〜 あの、さ。 フラン・・・ 」

「 はいはい、勿論♪ ジョ−の好きな おかか もちゃんとあるわよ〜 」

「 サンキュ♪  さあ ・・・ お手々は拭いたかな。 それじゃ・・・ 」

「「「「 いただきま〜す 」」」」

 

島村さんちの賑やかなお弁当タイムが始まった。

 

「 ・・・ なんかさ。 こういうの ・・・ ずっと夢 ・・・ いや、憧れだった・・・ 」

「 こういうのって? 」

ジョ−は食べかけのお握りを持ったまま、ぽつん・・・と呟いた。

子供達はお弁当に夢中で両親の会話なんか まったく聞こえていないようだ。

「 こんな風にさ。 家族で ・・・ ピクニックに行って ・・・ 手作りのお握りのお弁当食べて・・・ 

 ほんとに ・・・ 夢みたいだ。 」

「 ジョ−。 夢なんかじゃないわ。 これが ジョ−の家族よ。 ジョ−だけの家族なのよ。 」

「 ・・・ うん。  こんな日が来るって ・・・ 思ってもみなかったよ。  」

「 あなたが築いてきたモノよ。 ジョ−、あなたがわたしにくれた宝物・・・ 」

「 フランソワ−ズ ・・・ あ? きみが泣くの・・・? 」

「 ・・・ だって ・・・ 」

ぽろん・・・と伝い落ちる透明な雫を ジョ−は空いている手で受け止めた。

 

  ・・・ あ! お母さん ・・・ 泣いてる???

 

すぴかは 目の端っこで見ちゃった光景 どきん! とした。

やっぱり。  アレは夢なんかじゃないんだ・・・ お母さん、泣いてる・・・

胸がなんだかぎゅ・・・って 詰まるみたい。

大好物な明太子のお握りを すぴかは無理矢理飲み込んだ。

 

「 お母さん、 僕〜お咽喉渇いた〜 」

「 あ、ぼくも。 お茶、くれる? フランソワ−ズ。 」

「 シャケが塩辛かったかしらね。  すばる、お茶でいい? すぴかは? 」

「 アタシもお茶、欲しい。 」

「 ちょっと待ってね。 ・・・ あら? 」

「 どうしたの、フランソワ−ズ? 」

「 やだ・・・ ペットボトル、もう2本ともほとんど空だわ。 もっと持ってくればよかったわ。 」

「 ああ 今日はお天気がいいから 皆咽喉が渇いたんだね。 

 うん、じゃあ、車に戻ってク−ラ−・ボックス、持ってくる。 」

「 一人で大丈夫?  氷も入っているから結構重いわよ? 」

「 平気、平気。 皆がデザ−ト、食べている間に行ってくるよ。 」

「 そう?  ・・・・ あ!!  やっぱりわたしも一緒に戻るわ。 

 果物、置いてきちゃった・・・・ 失敗、失敗・・・ 」

「 じゃあ、行こうか。  すぴか〜 すばる? ちょっと ・・・ ここで遊んでいなさい。

 お父さんとお母さん、車まで戻ってくるから。 

「 ここにいるのよ? 二人で勝手に たんけん に行っちゃだめよ、いいわね。 」

フランソワ−ズは 皆で座っていたレジャ−・シ−トをとんとん叩いてみせた。

「 うん♪ お父さ〜ん、僕 やっぱりジュ−スがいいな♪ 

 お母さん、デザ−ト、なあに? スイカかなあ〜〜 」

「 さあね♪ 持ってきてからのお楽しみよ。

 すぴか? 二人でここにいるのよ、わかったわね。 」

「 ・・・・ うん ・・・・ 」

 

   ・・・ やっぱり、だ・・・! アタシ達 ・・・ ヘンゼルとグレ−テル なんだ・・・

 

たった今まで すぴかはお握りを頬張ったりすばると捕まえた虫を見せあったりご機嫌だったのだが。

急に きゅ・・・っとお口を閉じて 真剣な顔になった。

 

「 すぐ、戻るよ。 」

「 ええ、だから ・・・ あらら。 そんな怖いお顔しなくても大丈夫よ。 」

「 うん♪ 僕達 ちゃ〜〜んと待ってるよ〜 ね、すぴか! 」

「 ・・・・ うん ・・・・ 」

「 じゃ、大急ぎで行ってくるからね。 」

「 行ってらっしゃ〜〜い♪ 」

 

   お父さん、お母さん・・・・!  どうして・・・??

 

わさわさ手を振っている弟の隣で すぴかはじ〜〜〜っとお父さんとお母さんの後姿を

見つめていた。

 

 

「 ・・・すばる。 めじるし、撒いてきた? 」

「 うん! ず〜〜っと。 迷子にならないよ、大丈夫さ。 」

「 ・・・ どれよ・・・? どこに落としたの?? 」

すぴかはたたた・・・っと走って一番近くの角まで行った。

「 そこだよ〜 曲がってきたとこ。 」

「 ないわよ! なんにも・・・!!  すばる、あんた、なにを撒いたの! まさか ・・・ パン?? 」

「 ちがうよ〜! 僕、ヘンゼルみたくじゃないもん。 僕、ビスケットをまいたの! 」

「 ・・・・ すばる ・・・ 」

すぴかは はあ〜〜〜 っと溜息をついてにこにこ顔の弟を見つめた。

 

 

「 ・・・ ねえ、すぴか。 この道 ・・・ くる時と違う・・・かも。 」

「 ・・・ う ・・・ そうか ・・・ なあ ・・・ 」

「 ねえねえ。 あそこに居なさいってお母さん、言ってたよ? 戻ろうよ・・・ 」

「 ・・・ どっちから来たのか、あんた、わかる? 」

「 う ・・・ わかんない・・・ 」

「 ・・・・・ 」

すぴかは黙って弟の手を引っ張り、また歩き始めた。 きゅっとお口は閉じておいた。

なにかしゃべったら・・・ 涙がこぼれそうだったから。

 

一生懸命、暗記しておいたつもりだったけど、道はすぐにわからなくなってしまった。

「 すぴか・・・ さっき、ここ、通った・・・かも。 」

「 え、 そう?? 」

「 うん。 この石、さっきも見た・・・ 」

「 ・・・ 木の枝ってみんな同じに見える・・・ 」

「 お弁当広場に戻ろうよぉ・・・ お父さん、あそこで待っていなさいって言ったよぉ〜 」

「 だから・・・ もどる道、わかんないんだってば! 」

「 ・・・ う ・・・ 僕たち ・・・ まいご・・・? 」

「 すばる。 」

くぅ・・・って変な声がして すばるの茶色の目からぽたぽた涙が溢れてきた。

「 すばる・・・ 泣かないでよ〜〜 アタシまで・・・  あ? 」

「 ・・・うっく ・・・ ??? なに ・・・? 」

「 あっち! お家が見えた! 」

「 どこ?! あ・・・ ほんとだ! 」

双子達はきゅ・・・・っと手を繋いだまま 駆け出した。  そうして・・・

 

「「  ・・・・ お菓子のお家、だあ〜〜 」」

 

 

目の前に現れたのは ・・・ ホントにお菓子の家だった!

壁は遠くからでもビスケットに見えたし、屋根はチョコレ−トだ。 

ぐるりと廻っている垣根は ・・・・

 

「 これ〜〜〜 棒チョコだよ♪ すぴか!! ・・・ おいし〜〜〜♪ 

「 すばる! ダメだってば! よそのオウチなのに! 」

「 え・・・ でもでも 美味しいよ! すぴかも齧ってごらんよ。 」

すばるは垣根に取り付いて もうお口の周りをチョコだらけにしている。

「 だめだよ〜〜 中から 悪い魔女が出てくるよ!

 それに、アタシは、さ。 甘いのってね〜 ・・・ お煎餅はないかなあ。 」

 

「 ほい。 ここにありまっせ。 可愛い嬢ちゃん。 」

 

( わ・・・・!!! )

お家のドア ( これはチョコレ−ト・ウエファ−スだった!) が開いて、

家から出てきたのは ・・・・ ふっくらアンマンにみたいなオバサン?だった。

 

「 嬢ちゃん、坊ちゃん、いらっしゃいアル。 

 道に迷いはったんか? ちょっとお休みしておやつでも食べなはれ。 」

「 あ ・・・ あの。 ごめんなさい・・・! すばるが・・・勝手に垣根を・・・ 」

「 あ? かまへん、かまへん。 それより一緒にオヤツにしまひょ。 咽喉、かわいてはるやろ。

 ジュ−スやろか、ミルク・ティ−がええか? 」

オバサンは まんまるなおハナでにこにこして、二人をお家に入れてくれた。

 

「 ・・・ なんだか張伯父さんに似てる、ね? 」

「 そっくり! きっと・・・悪い魔女じゃないよ。 ・・・ そんな気がするもん。 」

「 そうよね・・・ ! 」

双子は張伯父さんみたいなオバサンの後ろで こっそりナイショ話をした。

オバサンの出してくれたかっちりしたお煎餅にすぴかは感激し、すばるは掌にのっからないくらい

大きな月餅に夢中になっていた。

 

「 嬢ちゃんや。 コレ、食べはったらお帰りなはれや。 」

「 ・・・・・・・・ 」

「 おやおや・・・・ どないしはったん? そ〜んなお顔・・・ 」

俯いてしまったすぴかに オバサンはにこにこ話しかける。

「 お家が一番でっしゃろ。 一番のお父はん、お母はんがいてはるよって。 」

「 ・・・ 一番の・・・? 」

そうや! とオバサンはまん丸なおハナをもっと大きく膨らませた。

 

「 嬢ちゃんのお父はん、お母はんは世界一やで。 坊のお父はん、お母はんもそうや。 」

「 ( アタシたち、双子なのにね ) 世界一がいっぱいいる? 」

「 そうアル。 だれのお父はん・お母はんも み〜〜んな世界でイチバンやで。 」

「 どうして。 」

「 たった一人しかいてはらへんからや。 だ〜れのお父はんんもお母はんも

 この世でたった一人やろ。 皆大好きやろ? そやから・・・世界で一番。 」

「 ・・・ う ・・・ ん ・・・? 」

「 こんなええ子ぉを 生んで育ててくれたアル。 み〜んな世界一、や。 」

「 ・・・ そうだね・・・ そうだよね! 」

すぴかは ふわ・・・っと身体が軽くなってじんわ〜〜り温かい気持ちになってきた。

「 おやおや ・・・ おねむやろか  ・・・ ほんなら ・・・ 」

こっくり こっくり ・・・

色違いの頭が揺れだした。 やがて・・・

テ−ブルの上に突っ伏した双子達の肩に ふわり・・・とタオルケットが掛けられた。

 

  ・・・ お父さん ・・・ お母さん ・・・・ 大好き・・・ !!

 

 

「 すぴか・・・!  すばる〜〜〜 ! 」

 

「 ・・・ あ ・・・?? 」

お父さんの声に ・・・ すぴかは飛び起きた。

ほとんど一緒に すばるももぞもぞ起き上がる。

お菓子のおうち も アンマンみたいなオバサンも ― どこにも見えなかった。

背中がごちごちするな〜って思ったら・・・

 

  ・・・ やだ・・・! 大きな樹の根元だったんだ・・・!! 

 

「 すばる〜〜 すぴか?? どこなの?! 」

「 お母さ〜〜ん !! 」

すぴかはすばるの手を引っ張って お母さんの声が聞こえるほうへ駆け出した。

 

「 まあ・・!二人とも ・・・ どこへ行ってたの!?? 心配したわ・・・ 」

「 こら。 ちゃんとお弁当のとこで待ってなさいって言っただろう? 」

「 ・・・ お父さん ・・・ お母さん ・・・ アタシ ・・・ 」

すぴかはお母さんにかじりついて わあわあ泣き出した。

すばるはお父さんに飛びついてしっかりだっこしてもらっている。

 

「 あらら・・・ どうしたの? 」

「 お母さん、お母さん 〜〜〜 イヤだ〜〜 イヤだ! すぴか達を捨てちゃ、いやだ〜〜ぁ〜〜 」

「 ??? なにを言うの??? どうして あなた達を捨てるのよ?? 」

「 ・・・ だって ・・・ 昨夜 ・・・ お父さんに・・・   アタシ達、 ヘンゼルとグレ−テルだって ・・・ 」

「 昨夜 ??? 」

「 ・・・ うん ・・・ 」

すぴかの涙はまだ止まらない。

フランソワ−ズは きゅ・・・・っと娘を抱っこしたまま、涙でべたべたのほっぺにキスをした。

「 ほ〜〜〜ら ・・・ 涙さん、と〜まれ・・・ 」

「 ・・・ お母さん ・・・ ! 」

すぴかは思いっきりお母さんのブラウスに顔を擦りつけた。  

でも ・・・ お母さんはちっとも叱らなかった。

「 ね? 教えて。 どうして ・・・ すぴかとすばるがヘンゼルとグレ−テルなの? 」

「 ・・・ あの ・・・ ね ・・・ 」

すぴかはお鼻をくしゅくしゅしてから 話し始めた。

 

 

 

「 なあんだ・・・ 捨てるなんて・・・。 違うよ。

 お母さんはね、 いつかは二人ともウチから出てゆくわね、って言ったのさ。 」

「 みんなね。 大きくなったら ・・・ お家を出てゆくのよ。

 遠い学校に行ったり、お勤めをしたり。 そのうちすばるはお嫁さんをもらうでしょ。

 すぴかは ・・・ どんなヒトのとこにお嫁にゆくのかしら。 」

「 み〜んなね、新しい家族を作りにゆくんだ。 

 でも、すぴかやすばるがお父さんとお母さんの子供だってことは

 ず〜〜〜っと変わらない。 お父さん達は ず〜〜〜〜っとず〜〜〜〜っと 二人が大好きさ。 」

「 お母さんもね、フランスのお家を離れてお父さんのとこにお嫁にきたのよ。 

 それで ・・・ ほら。 このオウチをつくったの。 」

「 ・・・ 淋しくない ・・・? お家から出ていって・・・ 」

「 すこしはね。 でもね。 同じくらい大好きな人が側にいてくれるから

 すぐに淋しくなんかなくなるわ。 」

「 ・・・ アタシ ・・・ そんなヒト、いない ・・・ 」

「 そりゃ、今はね。 だから、今はまだお父さんとお母さんに甘えていていいの。

 でも 大きくなったら。 きっと素敵なヒトが現れるわ。 」

「 え〜〜 僕もぉ? 」

「 そうだよ、すばる。 お父さんがお母さんに巡り会ったみたいに ・・・

 う〜〜んと素敵な女の子が すばるの前に現れるさ。 」

「 ふうん ・・・ 」

「 さ。 そろそろ ・・・ ここを片して帰る用意、しましょ。 」

「 ねえ、お母さん、見て〜〜 どんぐり、いっぱいひろったんだ〜 」

「 あらあら・・・すごいじゃない? 今日の絵日記に書けるわね。 」

「 うん♪♪ ど〜んぐり、どんぐり どんどん どんぐり〜〜〜♪♪ 」

「 ・・・お父さん ・・・ お手々 繋いで・・・ 」

「 いいよ、ほら・・・  そうだ、ちょっとお目々を瞑っておいで。 」

「 ・・・ うん。 ・・・ あ?? ひゃあ〜〜 」

よいしょ・・・っとジョ−はすぴかを肩車した。

「 ほうら ・・・ 高いだろ、よ〜くみえるだろ。 」

「 きゃあ〜〜〜 すごいすごい〜〜〜♪ お母さんよりも背が高くなっちゃった・・・

 すばる〜〜〜 ひゃっほ〜〜〜♪♪ 」

「 わあ・・・ ! すぴか、すごい〜〜! お父さんッ 次、僕も〜〜〜 」

 

 

 

 

「 ・・・ 聞かれていたのね。 ちっとも気がつかなかった・・・ わたしって・・・ 」

「 うん、ちょっとヤバかったね。 」

「 ジョ− ・・・ うまく言ってくれて ・・・ ありがとう・・・・ 」

大はしゃぎでオウチに帰り・・・ またまたお腹いっぱい晩御飯を食べると

すばるもすぴかも あっという間に沈没してしまった。

今夜こそしっかりと二人を子供部屋に送り込み、両親はリビングでゆったりと

ティ−・テ−ブルを囲んでいる。

 

「 上手くもなにも ・・・  きみはああいう風に言いたかったんだろ? 」

「 ・・・ そう ・・・ そうだったのよね。 」

「 そうだよ、そうに決まってる。  あの子達を置き去りにするなんて出来るわけ、ないよ。 」

「 ジョ− ・・・・ 」

「 ずっと一緒さ。 たとえ ・・・ 生きる場所は違ってしまっても。

 きみとぼくと ・・・ あの子達。 こころはいつだって一緒だよ。 」

「 ・・・ ええ ・・・ いつもいつも ・・・ ね。 」

フランソワ−ズはことん、とジョ−の肩に頭を預けた。

 

  ・・・ わたしの 居る場所は ここね。 ジョ−の隣・・・

 

 

「 そうだわ。 ねえ、ジョ−。 あなた、森に月餅を持っていった? 」

「 ? いいや? どうして。 」

「 ええ ・・・ すばるのポケットから食べかけがでてきたの。

 わたし、今日のオヤツには入れてないはずなんだけど・・・ 」

「 すばるが自分で持ってきたんじゃないのかい。 」

「 でも ・・・ この前の満月に大人から頂いたのは全部食べてしまったわよ? 」

「 う〜ん ・・ ? あ、アイツだけスペシャルでもらったとか・・・ 」

「 そうねえ・・・ そうとしか思えないわよね。 」

「 ふふふ ・・・ 本当に <お菓子の家> があったりしてね。 」

「 まあ。 そうだったら ・・・ ちょっと素敵じゃない? 」

「 ま、いいさ。 ぼくの <お菓子の家> は ・・・ ココ♪ 」

「 ・・・ きゃ ・・・ 」

「 ほうら ・・・ 齧っちゃうぞ♪ あ、まずはお味見だなあ〜 」

ジョ−はフランソワ−ズの手に指に ちょんちょんキスの雨を降らす。

「 ・・・ もう ・・・ わたしの指はショコラじゃないわよ。 」

「 ショコラより ・・・ 甘い♪ ここも ・・・ ここも ・・・ 」

「 や・・・・ もう ・・・ 」

「 知ってた? ぼくってすごく甘党なんだ。 すばるはぼくに似たのさ。 」

「 ・・・ や ・・・ 」

ショコラよりも ケ−キよりも。 ソルべよりも ボンボンよりも。

甘い甘い夜が更けてゆく・・・

 

 

   ・・・  なあ?  海を渡ってお嫁にきてくれたんだろ? 

 

   ふふふ・・・ 素敵な女の子に巡り会ったんでしょ? 

 

 

Sweet Home の住人はベッドの中で 一番 あまぁ〜〜い時間を過していた。

 

 

 

*************        Fin.      ***********

Last updated :  10,02,2007.                               index

 

 

*****  ひと言  *****

『 ヘンゼルとグレ−テル 』 って真面目に考えると 思いっきり陰惨で暗いハナシなのですよね。

まあ・・・ここでは いわゆる絵本になっていて、<お菓子のお家> に わあ〜〜♪って

思う、そんなメルヘンの方を想像してくださいませ。

本当にすぴかとすばるは <お菓子のおうち> に行ったのでしょうか・・・ね?

その辺は 皆様のご想像に・・・♪  as you like・・・ お気に召すまま・・・というトコロにいたしましょう。