『 Sweet sweet sweet ・・・ Kiss ♪ 』
ふんふんふ〜ん ♪
たったった ・・・ 軽い足取りはハナウタまじりでますます軽く − 本当に宙を舞っていたのかもしれない。
島村ジョーはセピアの髪を揺らしとびきりの上機嫌で坂道をのぼってゆく。
だいたい、彼らの <家> は海に突き出た崖っぷちに建っており、家に帰るにはどうやっても
この坂道を登らなければならないのだ。
― 初め、 彼らの仲間達の間ではかなり不評を買っていた。
「 ハエ ・・・ ヒイ フウ ま 待っとくれェな・・・・ 」
「 おらおら〜〜 大人〜 たかがこれしきの坂道、だらしがないぜ?
我輩を見よ! 身体が資本の役者稼業〜〜 ばっちり鍛えてあるぞ!
ほい、 おいっち にィ〜〜 さっん し!
鍛えた身体は真冬の寒さにも この元気!! 」
「 ・・・・?! グレートはん! あんさん ぱっち、履いてるやないか〜〜 」
「 うォ? ・・・しッ! 大人〜〜 マドモアゼルにゃナイショだぜ! 」
「 ほっほ〜〜 そんならワイのこと、ウチまで運んでや。
大鷲にでん、化けはったら簡単やろ〜〜 」
「 ちぇ〜〜 人使いの荒いヤツ〜〜 」
― バサ −−−− 突如 大ワシが空に舞った。 背中に丸っこい人影をのせて・・・
「 あ〜〜 ダメだってば〜〜ここで飛んだら ベースのレーダ―に引っ掛かるよ! 」
「 へん! んな低空、ヤツらは網 張ってねえよ!
おらおらおら〜〜〜 行くぞ! 」
「 うわっぷ・・・ もう〜〜〜 土ぼこりが・・・ 」
地を這う低さで赤毛のノッポは飛んでいってしまった・・・
「 う〜ん ・・・ ここにリフトを造ったらいいかもしれないなあ。 」
「 ピュンマ。 それはこの風景には馴染まない。 」
「 う〜ん でもなあ ・・・ 博士には ・・・ 」
「 ふん! 馬鹿にせんでくれるかの! この程度の道、ワシには散歩道じゃ!」
「 博士。 無理する、よくない。 」
「 そうですよ〜 リフトが無理なら せめてゆっくり行きましょう ゆっくり 」
「 ・・・ ふ ん・・・! 」
― と まあ あれこれすったもんだがあったのだが。
いつしか皆 この坂道に慣れ、 ギルモア邸名物、 というスタンスに落ち着いた。
しかし その家に住み着いているジョーにとっては この坂道は楽しい我が家への
るんるんなプレリュード、花咲く陽気な小路なのだ。
ふんふんふ〜〜ん♪
ジョーのハナウタはますます陽気になってゆく。
まあ 仕方ないのかもしれないけれど ・・・
「 ふんふん〜〜〜♪ あ〜〜 いい気分〜〜〜 今日のゴハンは何だろな?
ふんふんふ〜〜ん ・・・・ あは こんなに幸せでいいのかな♪ 」
青春真っ只中・・・と見える島村ジョー君、 永遠の18歳 ・・・なのだが
諸事情により世間向けには 20代後半、ということになっている。
なにしろ美人の金髪碧眼の若妻と 可愛い盛り、小学生の娘と息子 ― それも双子 ―がいるのだ。
18歳 ・・・ではちと、無理というものだ。
しかし本人は幸せいっぱい、夢いっぱい・・・ 毎日が大にこにこなのである。
「 しご〜とはとっても厳しいがア〜〜♪ ふんふんふ〜ん♪
ウチに変えれば愛しいオクサンと可愛い子供たちの笑顔が待ってるもんな。 」
よいしょ・・・と彼は両手に下げているスーパーのレジ袋を持ち直す。
中には満杯の食料品やら生活必需品がぎっちり詰まっている。
「 ウチに帰れば温かいゴハンが出来てるんだもんな♪
あ ! そうだそうだ、 風呂場の掃除のついでに排水管の掃除、するかな。
あ ! あとキッチンのレンジ、だな。 今 一回やっておけば年末には楽だな〜 」
あれこれ家事の段取りをシュミレーションしてはますますウキウキしている。
世間のご亭主たちが 敢えて<知らないフリ・見ないフリ> をしたがる家の日常茶飯事、
特に些細な家事などが どうも彼には <楽しいこと> らしいのだ。
いや、 特殊な好みの持ち主、 というわけではなくて・・・
「 ジョー。 すごく嬉しいけれど・・・ あの・・・聞いてもいい? 」
彼の細君は 新婚当時に少しばかり不思議そうな顔で訊ねたものだ。
彼女のご亭主は今 風呂場のタイルの目地を懸命に磨いている。
「 え〜と・・・ ここは古歯ブラシ使えばいいかな〜 ・・・え なにが? 」
「 あの〜〜 ・・・ ジョーってそのう・・・家事が好きなの? 」
「 え?? あ ・・う〜〜ん・・・・?? 好き・・・っていうか ・・・
あ は ・・・ ホント言うとさ〜 あ! これ ナイショだぜ? 」
「 い いいわ ( なに?? なにか重大なヒミツでもあるの?? ごくり・・・ ) 」
「 うん、頼む。 」
「 安心して! つ ・・・妻は夫の不利益になりようなことは他言いたしません! 」
「 うわ・・・ ウン ありがとう〜 」
頬を染める新妻に ジョーもおおいに眼福な想いだったのだが・・・
「 ね! それで ・・・ どうして?? 」
「 ウン。 あは・・・ぼくってさ、 そのう〜〜〜 家事とかに憧れていたんだ。
家の用事・・・ レンジ・フードの掃除とか風呂場のタイル磨きとか さ・・・ 」
「 憧れ??? どうして?? 面倒だし、皆やりたくないはずよ? 」
「 ・・・ ぼく さ。 このウチに住んで・・・その、きみと一緒になって 初めて・・・
そんな家事がやれたんだ。 当番とかでしょうがなくてするんじゃない。
自分のウチを綺麗にするんだ・・・ 自分の、ね。
ぼくもさ 普通の <ウチ> のヒトになれた・・・ それが 嬉しくってさ・・・ 」
「 ・・・ ジョー ・・・・ 」
「 ふふふ ぼくってたいがいヘンだよね。 笑っていいよ、フラン。 」
「 ・・・ ううん ううん。 ジョー ・・・ あなたってヒトは ・・・
あなたってヒトはなんて素敵なの〜〜 ♪ 愛してるわ! ジョー〜〜〜 !! 」
「 あ わ わわわ 〜〜〜 」
いきなり飛びついて来たたおやかな身体をだきしめつつ ジョーはに〜んまり・・・笑った。
「 ふふふ ・・・ それでこそ 我が最愛の妻、だよ フラン 〜〜 」
ジョーはゴム手袋と古歯ブラシを手にしたまま 細君のあつ〜〜〜いキスを存分に賞味した。
そんなわけで 島村ジョー氏はとて〜〜も充実したハッピーライフを送っているである。
「 ただいまア〜〜〜 買いモノ、済ませてきたよ〜 」
彼は玄関のドアを開けるなり 大声でキッチンにいるはずの奥さんに伝えた。
「 え〜と 冷凍食品の安売りがあってね ・・・ あれ? 」
スニーカーを脱いで玄関上がり、よっこらせ・・・とレジ袋を持ち上げても
まだ彼の奥さんは 顔をみせないのだ。
「 ・・・ あれ。 出かけているのかなあ・・・
あ もしかして急な呼び出しとか ・・・ 教えの代講とかかな・・・ 」
ちょっとがっかり気分 ・・・ まあ仕方ないか・・・彼はリビングのドアを半分だけ開けた。
彼の細君は踊りの世界でも地味だけど頑張っている。 ジョーは誇らしく思っている。
「 ・・・ あ ごめんなさい! 今・・・大丈夫? 」
リビングの奥の方から聞き慣れた声が流れてきた。
「 うん? ・・・ ああ 電話かア な〜んだ・・ ?? 」
ずんずん歩きだそう、としたジョーの脚が ぴたり、と止まった。
「 ・・・なんだ? え ・・・? 」
「 ごめんなさい、こんなこと、お願いして。 でも あの・・・・
貴方にしか 頼めなくて・・・
クッキーでもマシュマロでもいいのよ、 14日に ・・・ 用意してもらえる? 」
・・・・ なんなんだ??
ジョーは目も心も耳も?点になったり真っ白になったりして立ち尽くしている。
14日??? ・・・ なんだ それ??
クッキー ? マシュマロ?? いったいなんだってんだ?
「 そう? そうしてもらえると ・・・ すごく嬉しいわ !
ありがとう〜〜 本当にありがとう!
・・・え? 愛しているかって? うふふふ・・・・当然でしょ♪
それじゃ 14日 お願いしますね、 ええ ええ ・・・
ホント? きゃあ〜〜 メルシ〜〜 cyu♪ 」
あ 愛している?? 当然?? ちゅ だってェ???
それにしても14日って ・・・・ あ! あれか あの・・・
ほわいと ・ で〜 ・・・!
ジョーが棒立ちになっている間に 彼の細君は電話を終えどうやらキッチンに行ったらしい。
「 ・・・ だ 誰と電話してたんだ?? 」
カサリ ・・・ ぶら下げていたレジ袋が音をたててしまった。
これはおおいマズいのである。 なにせ、彼女は 003、 <能力> なんか使わなくても
抜群に耳がいいのだ。
ヤバ ・・・ あ〜〜 もう開き直るか・・・
ジョーは腹を括り ばたん、 とドアを勢い良く開けて 閉めた。
「 ただいま〜〜 フラン〜〜〜 買い物、行ってきたよ〜〜 」
わざとのんびりした声を上げ 彼はどたばたとリビングを突っ切った。
― たったった! カッタカッタカッタ ・・・
「 ただいま〜〜〜 おか〜〜さん おなか すいた〜〜 」
「 おかあさん〜〜 」
バターーーン ・・・ !! ランドセルを鳴らして二人の子供たちが帰ってきた。
「 お。 すぴか〜〜 すばる〜 お帰り! 」
「 うわ〜〜い♪ お父さんってば はや〜〜い 」
「 はや〜〜い 〜〜 」
どたばた どたばた ・・・ 双子の姉弟、すぴか と すばる がリビングに駆け込んできた。
「「 お父さん お帰りなさい!! 」」
「 ただいま。 今日はね、お仕事が早く終ったから帰ってこれたんだ。 」
「 わ〜〜い♪ ねえねえ〜〜 お父さん、アタシのてつぼう、見て 〜 」
「 おとうさん、僕ね 今日ね 図工の時間にね ・・・ 」
「 うんうん すごいな〜 二人とも・・・ 」
ジョーの両側に双子たちは纏わりつく。
ほそっこい腕がつんつん彼のシャツをひっぱり 色違いの瞳がじ〜っと彼を見上げている。
う〜〜〜ん♪ なんて可愛いんだ〜〜 ・・・
ああ もう 胸が苦しいくらい・・・ 可愛い・・・!
きゅう〜〜っと二人を抱き締めたい衝動に駆られてしまう。
「 あ〜 まずは手を洗ってウガイ。 それから ― 」
「 オヤツ、出してありますよ、二人とも. 」
きゃわ〜い・・・ どたばた どたばた アタシが先! 僕 僕ぅ〜〜〜
二人は騒音と共にでてゆき 騒音とすこししめっぽい手で戻ってきた。
「「 洗ってきた〜〜 ウガイもした! 」」
「 は〜い ほら オヤツよ、二人とも〜 」
「「 ウワ〜〜イ ♪♪ 」」
どたばた どたばた ・・・・ 母の声は鶴の一声? 子供たちはあっという間にキッチンに消えた。
「 あ ・・・ は ・・・ 食欲には負けた、か 」
ジョーはちょっと苦笑い、 でもまあ あの年頃はやたらと腹が減っていたっけ・・・と思い出す。
あの年頃 ― いつも満たされない想いに 餓えていた ・・・ 身体ではない、心が。
食事も十分、 オヤツだって <普通>、衣服も冬にはちゃんと暖かいモノ ― 善意の寄付 ― を着ていた。
学用品だって不自由はなかった。
・・・けど。 抱きとめてくれる逞しい腕はなく 甘えられる温かい膝も なかった。
授業中が一番好きだった ― 一生懸命勉強すれば教師はこっちと向いてくれたから。
懐かしくもないし 思い出したくもない思い出なのだが、 こうして鮮明に浮きあがってくる。
「 ・・・ ふん ・・・まあ いいさ。 ― 終ったことだ・・・ 」
「 ジョー? なにが終ったの? 」
「 え!!?? ふ ふ フラン〜〜〜 」
いきなりの声に ジョーは飛び上がるほどにびっくりしてしまった。
「 ? なに どうしたの。 なにをそんなに驚いているの? 」
「 あ ・・・ え ・・・い いや なんでも ・・・ 」
「 そう? ああ ジョーもお茶にする? カリントウと海苔煎餅があるわ。 チビ達のオヤツだけど。」
「 あ ・・・ぅうん・・・ チビ達は? 」
「 つめこみ中。 」
「 あ は ・・・そっか。 ま〜いつだって腹ペコな年頃だからな〜 」
「 そうね。 あれだけ食べても晩御飯もぺろり、ですものね。 」
「 ウン、 晩御飯までにはしっかり消化しちゃっているのさ。 」
「 うふふ ・・・ あ お買い物、ありがとう! ごめんなさいね、折角早く帰ってきたのに
家事ばっかり手伝わせてしまって・・・ 」
「 い〜いんだってば。 ぼくにはきみと子供たちといられるのが最高なんだから さ。 」
す・・・っとジョーは細君を抱き寄せる。
「 この姿のきみって。 ものすごく綺麗だ・・・ 」
「 いやだわ、ジョー もう・・・髪はぼさぼさだし 口紅だって引いてないのよ? 」
「 そんなもの、きみにはいらないもの。 ・・・・んん 〜〜 」
「 ・・・あ ・・・・ んんん ・・・・・ 」
二人は真昼間のリビングで 新婚カップルみたいに濃厚なキスを交わしたのだった。
ふんふんふ〜〜〜ん♪ ジョーはますます上機嫌だ。
― ぴゅう〜〜・・・ 冷たい海風が吹きぬける。
「 うわ・・・ お〜〜い すぴか〜〜 どこだい〜〜 」
ジョーはテラスからツッカケを履いて庭に出てきた。
裏庭にきてね! ね! おとうさん! オヤツのお煎餅をばりばり食べつつ、彼の娘が
熱心に頼んでいたのだ。
「 なにかみつけたのかな。 あ ・・・ チューリップの芽 とか 梅のつぼみ とかかな〜
ねえ お父さん。 すぴか 小さな春を見つけたのよ? ・・・ なあ〜んてなあ〜〜
ふんふんふ〜〜ん♪ やっぱりオンナノコはいいよなあ〜〜 」
この親ばか親父は楽しいぷち・妄想ににこにこしている。
「 それにしても ・・・ どこだ? お〜い すぴかア〜〜 」
「 ― こっち!!! おとうさ〜〜ん こっちだよ! 」
「 ?? こっち ・・・ってどっちだい〜〜 」
響いてきたキンキン声に ジョーがキョロキョロしていると ・・・
≪ ・・・ ジョー? すぴかは温室の裏にいるわ。 鉄棒のとこ。 ≫
≪ あ♪ メルシ〜〜 003♪ ≫
≪ ど〜いたしまして・・・ ≫
細君から脳波通信の援護を受け ぐる〜〜っと温室を回ってみれば ― いた。
彼の大事な一人娘が 鉄棒の上に座ってぶんぶん手を振っている。
「 あ ・・・ そこかあ〜 すぴか・・・ 」
「 ね〜〜〜 おとうさんッ 見てて〜〜 ね! 」
「 ああ ちゃんと見てるよ、 すぴか。 」
「 じゃ すぴか いきま〜〜す♪ あしかけまえまわり〜〜〜 」
ジョーの娘は甲高い声で叫ぶと 鉄棒に脚をかけ くりんくりんくりん ・・・と回りはじめた。
「 いち ・・・ に ・・・ 」
「 お・・・ すごいな〜〜 すぴか・・・ 」
「 ・・・さん し ご ろく なな はっち〜〜 」
「 お おいおい・・・ 」
「 ぅ〜〜 きゅう !!! ・・・ああ ダメだあ 〜〜 」
びろん〜 ・・・ すぴかは力尽きて? 鉄棒に脚だけでぶらさがっている。
「 すぴか! 大丈夫かい!? 」
「 ・・・あ〜〜ん れんぞく10回 のきろく たっせいできない〜〜 」
ぽん! 亜麻色のお下げをぴんぴん揺らせて すぴかは飛び降りた。
「 ・・・ 凄いな〜〜 すぴか・・・ 」
「 そっかな〜 でもね はやてクンとか かいとクンなんかは平気で10回くりあ なんだ〜 」
「 ・・・はやてくん? かいとクン? ・・・ 男 か・・・ 」
「 え? うん、男子だよ〜 二人とも鉄棒のたつじんなんだ。 」
「 ふうん ・・・ でも女子なのにすぴかは凄いぞ〜〜 」
「 そオ? だってさ 10回くりあ できないんだよ? 」
「 そりゃ・・・男子と女子は違うから 」
「 あ〜〜 おとうさん〜 い〜けないんだ いけないんだ〜〜
そ〜ゆ〜の せくはら っていうんだよ! しらないの? 」
「 え。 だ だって ・・・ 女の子は女の子らしくしていたほうがいいと ・・・ 」
「 ぶっぶ〜〜〜 それも せくはら です〜〜
アタシは! しまむら すぴか という一人のにんげんとして生きてゆきたいと思いま〜す。 」
「 はいはい ・・・ 申し訳ありませんでした。 」
ジョーは娘の言葉だけおとなびた <発言>に 笑いを噛み殺しつつ大真面目に答えた。
「 よろしい。 でもってェ〜〜 ねえ おとうさん。 」
すぴかはお下げを跳ね飛ばしつつ 今度はジョーの背中に飛びついた。
「 おわ? おい・・・落ちるなよ〜 え なんだあ? 」
ジョーはあわてて腕を後ろに回す。
「 うふふふ〜ん あのさあ アタシ、ばれんたいんにチョコあげたじゃん? 」
「 え ・・・ そ そうなのか?? 」
「 ウン。 本命サンと ともチョコとぎりチョコ。 お父さんにもあげたでしょ〜 」
「 あ ああ うん。 すぴかの ( いや・・・アレはすばるの・・・ ) 手作りだろ?
ものすご〜〜く美味しかったよ? お父さん、あんなに美味しいチョコ 初めて食べた・・・ 」
「 あ そう? アタシ、あじみ、してないからわかんないんだ〜 」
「 ( げ・・・ ほんとかよ? ) い いや 美味しかったよ、うん。 それで? 」
「 ウン それでさあ 〜 」
ぴと。 細っこいけど元気いっぱいな腕がジョーの首に巻き付いてきた。
「 なんだい、すぴか。 ・・・ こら く くるしいよ・・・ 」
「 あ ごめん、おとうさん ・・・ うん あの〜 それでさ、14日にさあ おかえし くるかな。 」
「 お返し? あ! ああ ホワイト・デーか! 」
「 ウン。 アタシとしてはァ〜 おせんべい とかほしいんだ〜
でも ね♪ ホンメイさん、からなら キャンデイでもくっきーでもいいんだ〜♪ 」
「 そ そっか・・・ な? ホンメイさんって ・・・ 誰かい? 」
「 んふふ〜〜 ひ み つ ♪ 」
こつん・・・ 娘の額がジョーの背中にくっついた。
「 あれえ 〜 いいじゃないか、教えてくれても。 誰にも言わないからさ 」
「 ひ み つ ♪ すぴかさァ〜 そのヒトから くっき〜 とかもらったらさ
もう〜〜 死んでもいい〜〜〜 」
「 ・・・ すぴか〜 」
ジョーの胸が ツキン・・・と痛む。
大事な大事な一人娘 ― 母親生き写しの容貌を持ち 中身は自分にそっくりなこの娘に
ジョーはとことん弱い。
できればず〜〜っと今のままで自分の側にいてほしい、と願っていたり もする。
「 その ・・・ うん・・・ きっとクッキーとか・・・くれるよ、そのホンメイさんは さ。 」
「 そっかな〜〜♪ それだったらウレシイなあ〜 」
「 うん ・・・ あ すぴか? 」
「 なあに。 」
「 そのう〜 ・・・ すぴかは ホンメイさんの他にも・・・ 好きなコがいるんだ? 」
「 うん! アタシが好きなのはァ はやてクン でしょ かいとクンでしょ。
ひろりんもいいなあ〜 隣のクラスのやっし〜も好きなんだ〜 」
ぱらぱら男のコの名前を言っているけれど どうやらオトモダチとして <好き> らしいのだが
そんな細かいニャアンスは 朴念仁の父親は気がつきっこない。
ジョーはひたすら ― くらくらしていた。
え ・・・ ! そ そんなにボーイフレンドがいるのか??
こ このトシで ・・・ ああ そうだよなあ すぴかは可愛いもの・・・
モテモテで当然 ・・・ いや! まだ早いぞ〜〜
「 ・・・ そっか ・・・ 」
「 あ! あはは ・・・ ごめ〜〜ん お父さんやすばるだって好きだよ〜ん 」
「 ・・・ ありがとう ・・・ 」
「 ねえねえ だからさ お父さん。 アタシのこいがじょうじゅすることを祈ってね♪ 」
「 ( こ こいのじょうじゅ? ・・・ ああ 恋の成就、かァ ) そ っか ・・・ 」
ジョーは背中にくっついている娘を揺すりあげた。
こんなに可愛い娘が ・・・ 他のオトコのことを ・・・
こんな風に 甘えてくれるのも そんなに長い間じゃないんだな・・・・
― いつか 他のヤツの元に飛んでいってしまう、んだよなあ・・・
少しばかりセンチメンタルな気分になってきた。
「 ・・・ あ そうだ。 なあ すぴか。 お母さん だけど・・・ 」
「 なに〜 」
「 お母さんもさ ・・・ そのう〜 チョコ、贈ったんだろ?その・・・バレンタインにさ。 」
「 おと〜さん !」
「 はい? 」
「 おとうさん だいじょうぶ?? にんちしょう? 」
「 ― え?? 」
思いもしていなかった言葉が娘の口から飛び出してきて、 ジョーはぎくり、とした。
「 な なんだって? 」
「 だ〜から〜〜 にんちしょうなの? おとうさんってば〜 」
「 そ! そんなこと、ないぞ! お父さんはまだまだ若いんだからな! 」
・・・ 永遠の18歳なんだから・・・ とジョーはこっそり付け加える。
「 だってさあ お母さんがチョコ贈ったのなんて知ってるでしょ?
あ きっとさあ おかあさんってば ホワイト・デーにいっぱい貰うんだろうな〜 いいな〜 」
「 ・・・ いっぱい ・・・? 」
「 うん。 おかあさん、モテるも〜ん♪ ふぁ〜〜 ・・・ 」
「 ・・・・? すぴか・・・? 」
「 ・・・・・・ 」
ジョーの背中が急に重くなった。
「 ・・・ ははあ ・・すぴか、沈没したのか・・・ 鉄棒で頑張りすぎ だよ。 」
父は よいしょ・・っと背中の娘を揺すりあげた。
< おかあさん モテるも〜ん > ・・・ 娘の声が耳の奥でがんがんこだまする。
・・・ そうだよ! フランってば フランってば・・・
― モテるんだよ・・・! 当然だけど さ。
方々にファンがいるんだよな・・・ 誕生日とか花束 いっぱい持って帰ったし・・・
う〜〜〜ん ・・・ アイツ! あのパートナなヤツだって さ!
それにしても ・・・ アノ電話の相手は 誰だ??
ジョーの足取りはどんどんおも〜〜くなり 裏庭から彼はとぼとぼと勝手口まで戻ってきた。
「 ・・・ もどったよ。 」
「 あら? ジョー、今まですぴかの鉄棒に付き合っていたの? 」
キッチンではフランソワーズが晩御飯の下ごしらえをしていた。
「 いや ・・・ お姫様は ほら・・・ 沈没さ。 」
ジョーは背中で眠っている娘を見せた。
「 まあまあ・・・赤ちゃんみたいねえ すぴかさん? ほら〜〜 起きて? 」
「 ・・・ う〜〜〜ん ・・・? 」
「 ほらほら・・・ 鉄棒したのなら手を洗っていらっしゃい。 宿題は済んだの? 」
「 ・・・ あ う うん ・・・・ 」
すぴかは目をこすり こすり ジョーの背中から降りる。
「 すぴか、いい気持ちだったかい? ほら、手を洗っておいで〜 」
「 ウン お父さん! ねえねえ おかあさん、アタシね、9回連続足掛け前回り〜 」
「 うわあ・・・すごいわね、すぴか。 あ・・・もしかして またGパンに穴、あけた? 」
「 ・・・あ〜 ・・・ どうかなああ〜 」
すぴかはお母さんといっしょにGパンの膝の後ろを見ている。
「 ― あ。 やっぱり擦り切れてる! それ脱いで。 すぐに縫っておくわ。 いらっしゃい。 」
「 ふぇ〜〜い ・・・ 」
フランソワーズは すぴかを連れて居間へと出ていった。
ジョーは なんとなく娘と妻を見送っていた。
「 ねえ ねえ ・・・ おとうさん 」
「 ・・・・・・ 」
「 おとうさん お父さんってば! 」
「 ・・・ え ・・・ ? 」
ぼんやり視線を戻すと 彼に良く似たセピアの瞳が真剣に彼を見上げている。
「 おとうさん! おとうさんってば〜〜」
気がつけば 彼の小さな息子がセーターを引っ張っていた。
「 ・・・ あ ごめん ごめん。 なんだい、すばる。 なにかおねだりかな〜 」
「 おねだり、じゃない・・・ あ おねだり かなあ〜 」
「 うん? なんなんだ? それともすぴかと相談するのかい。 」
「 ううん! コレはね〜 オトコ同志のハナシなんだ、お父さん。 」
「 お。 ほう〜〜 いいこと言うなあ よし、なんでも言ってごらん。 」
「 う うん。 あの さ お父さん 」
「 うん? 」
「 僕 ・・・ クッキー、作りたいんだ。 ほわいと・で〜 に贈るやつ! 」
「 ・・・ え 」
「 僕さ、チョコ いっぱいもらっちゃったからさ〜 おかえし、しないとだめなんだ。
だから クッキ−、作りたいんだ。 」
「 ・・・・ そんなにいっぱいもらったのか ・・・ バレンタインに 」
「 うん。 お母さん でしょ すぴか でしょ。 サアちゃんにマリちゃんに ・・・
えっと うららちゃん に みっちゃん、 リリーちゃん ・・・ う〜ん あとはわかんなくなっちゃった・・・ 」
「 へえ ・・・ すごいなァ すばる・・・ 」
「 そっかなあ? だからね〜 クッキー、つくって贈るんだ 僕。 」
「 へえええ・・・ 手作りかあ〜 ますますすばるのファンが増えるぞ。 」
「 お父さんは? お父さんだって い〜〜〜っぱいチョコ、もらったじゃん。 」
「 え ・・・ あ あ〜〜 アレはなァ そのう・・・ 義理チョコなんだ。
皆会社のヒトや お仕事で知り合ったヒトたちからだから・・・ 」
「 ギリってなに? 」
「 え〜と・・・う〜〜ん ・・・ あ! いつもお世話になっています って意味!」
「 ふうん ・・・ お世話になっています・ちょこ がいっぱいなんだ、お父さん。 」
「 そ そう!! だからね あのチョコは 」
「 うん。 お母さんがさ〜 教会のおばさんたちに寄付してたよ。 」
「 そ そう!! 毎年 そうしましょう、ってお母さんときめたんだ。 」
「 ふうん ・・・ でもお父さん、 おかえし は? もうすぐほわいと・で〜だよ。 」
「 あ ・・・ うん ・・・ それはお母さんが用意してくれるからね 」
「 ふうん ・・・ お母さんが用意したのをお父さんが おかえし するの? 」
「 ・・・あ う うん ・・・ 」
「 ふうん ・・・ なんかさ〜 ヘンじゃない? 」
自分と同じ瞳が かっきりと見つめている。
ジョーは 人知れずたらたらと冷や汗をながした。
彼の小さな息子は なかなか論理的な思考の持ち主なのだ。
直感的で感受性の鋭い姉とは かなりちがった性格らしい。
う・・・ なかなかイタイ所を突いてくれるなあ〜〜
しかし 確かにちょいと ヘン だけど な
う〜む・・・と思いつつも そこは大人で何くわぬ顔で息子に笑いかける。
「 お母さんはお父さんのこと、なんだってわかっていてくれるからね。 」
「 うん! そうだね〜〜 お母さんってば僕のこと、み〜〜んな知ってるもんね♪ 」
「 そうさ その通りさ。 」
「 うん♪ そだね〜〜 お母さんもさ、きっとい〜〜〜っぱい おかえし もらうよね。 」
無邪気な子供の問いが ズキ・・・っとジョーの胸に突き刺さった。
・・・ いっぱい おかえし もらう、 だって!??
す すばるも知っているのか ・・・!?
「 ねえねえ おとうさん おとうさんってば! 」
「 ・・・あ うん、ごめん。 なんだい。 」
ジョーは再び 小さな手でゆさゆさ揺らされてしまった。
「 だ〜から。 クッキー。 おいし〜〜の、作り方、おしえて。
いつものよか ぱわ〜あっぷした おいし〜〜の! 」
「 お おう! それじゃ・・・え〜と 明日、材料を買ってくるから教えてやるよ。 」
「 うわい♪ ふんふんふ〜〜ん♪ くっき〜 くっき〜 おいしいくっき〜〜♪ 」
すばるは妙ちきりんなハナウタを歌いだした。
「 ふんふんふ〜〜ん♪ あ 僕 しゅくだい、やんなくちゃ。
すぴか〜〜〜 しゅくだい〜 はんぶんコ しよ〜〜 」
「 ・・・ おいおい 半分コって ・・・ お前たち ・・・ 」
父親の声なんか何処吹く風・・・ すばるは双子の片割れを捜しに行ってしまった。
はあ ・・・ アイツもなかなかモテるんだなあ・・・
やれやれ・・・と ジョーはキッチンを見回し ― とりあえずシンクの中の食器類を洗い始めた。
「 もう〜〜すぴかったら またGパン、破いて〜〜 」
フランソワーズがぶつぶつ言いつつ キッチンに戻ってきた。
「 ・・・ あら ジョー。 まあ ありがとう〜〜 」
彼女はジョーの駆け寄ると ちゅ・・・っとほっぺにキスを落としてくれた。
「 うふ・・・ いやなに・・・ちょっと手が空いたからね。
今晩はなににするんだい。 手伝うよ。 」
「 まあ 嬉しいわ〜〜 あ もしよかったら ・・・ 」
「 うん? ジャガイモとか剥こうか? キャベツの千切りとかも引き受けるよ? 」
「 あのねえ ・・・ 子供たち、見ててくれる?
宿題、やってるんだけど。 あのコ達 いっつも手分してやっちゃうのよ! 」
「 ああ さっきすばるがそんなこと言ってたな・・・ 」
「 もう〜〜・・・! ちゃんと一人で全部やるように言ってやって。
わたしの言うことなんか もう全然聞かないのよ。 」
「 わかった わかった ・・・ ま 双子だからなあ ・・・ 」
「 だけど! 一生 なんでも半分コして行く訳には行かないのよ! 」
「 ま そりゃそうだ ・・・ ま〜だけど仲良くやってゆけばいいさ。 双子なんだからな〜
すぴか〜 すばる ・・・ お〜い ・・・ 」
ジョーはハナウタ気分で リビングに行った。
「 ・・・・ まったく ・・・ 暢気なんだから。 」
こんなに子煩悩なヒトだとは思わなかったし 同時に こんなに暢気なヒトだとも思わなかった。
・・・ ふうう 〜〜〜〜 フランソワーズは溜息を派手にもらす
この調子じゃ 子供たちの教育問題はわたしが頑張らないと ・・・
リビングからは 父子の楽しそう〜〜〜な笑い声が流れてきている。
楽しいのは大いに結構 ・・・ けど とても勉強、なんて雰囲気じゃない。
― しょうがない か・・・
教育熱心な母はもういっこ特大の溜息をついてから 水の栓を押した・・・
「 はい、 それじゃその線で はい。 では 」
「 ・・・ あ〜〜 はい 今! いま送りました〜〜 はい! 」
「 っとに〜〜いちいち電話するなよ〜〜 メールで済むじゃんか〜 」
「 ! ヤッベ〜〜 バイク便、頼まなくちゃ!! 」
ガヤガヤ ・・・ ぶつぶつ ・・・ ごたごた ・・・ がさごそ ・・・
ジョーの勤める出版社の雑誌編集部 ― 相変わらず賑やかすぎる。
そろそろ定時をすぎようという時間なのだが 大半の人間がまだごたごたやっている。
「 う〜ん? お〜〜い 皆 ! いい加減で切り上げる!!
上席にいた女性が 一際大きな声を張り上げた。
「 残業はァ〜 美徳じゃな〜〜い・・・ よ! 」
「 は〜い〜〜 アンドウ・ちーふ ・・・ 」
「 あちゃあ ・・・ もうそんな時間〜〜 」
「 だはは〜〜 ヤバ・・・ 」
「 え〜と ・・・ コレは明日に回せる、か・・・ それと ・・・ 」
チーフの鶴の一声? を期に 編集部全体が <ともかく終息> へ向かい始めた。
「 ・・・ じゃあ これは明日の ・・・ あ。 いけね〜 」
ジョーは机の上でがさがさやっていたが、置きっ放しにしてた紙袋に気がつき声をあげた。
「 しまった〜 忘れてた〜〜 」
彼は慌てて何かを掴みだした。
ほわ〜ん・・・と バニラとバターの香りが広がった。
「 あ あの〜〜 これ! 受け取ってください〜 」
「 え?? なに、島ちゃん ・・・ クッキー? 」
「 なになに〜〜 え アタシにも? わあ クッキーだあ〜 」
ジョーは周囲の女性陣に小さな透明の包みを配っている。
「 わあ〜〜 俺らにはナシっすかあ〜〜 」
「 女性陣だけかあ〜〜 ・・・ サベツだぞオ〜〜 」
当然男性陣からブーイングが湧き上がる。
「 あ ・・・ すんません〜 これ・・・ ホワイト・デーなんです。 」
「 ほわいと・でー ?? ああ 3月14日ね。 きゃあ ジョー君から? 」
「 いえ あの! これ・・・ すばる・・・いえ ウチのムスコからで・・・
そのぅ〜〜 バレンタインにチョコをくれたお姐さん達に渡せ・・って。 」
「 まあああ〜〜 」
「 これ・・・ アイツの手作りなんで。 あ ちゃんと食えますからご安心を・・・ 」
「「「 きゃあああ〜〜〜〜 かっわいい〜〜〜〜♪ 」」」
編集部は黄色い歓声で一杯になり ジョーは思わず机の下にもぐり込みたくなってしまった。
「 ― な なんです ?? 」
「 可愛いわねえ〜〜 もうもう ちゅ・・・っとしたい♪ 」
「 あのクセッ毛がたまんないのよねえ〜〜 もふもふしたいィィ〜〜 」
「 これ・・・たべれない〜〜 飾っておくわ! 」
ジョーはおそるおそる女性陣の前に出た。
「 あの ・・・ 感想を聞いてきて〜って言われてて・・・ その ・・・ すばるから 」
「 「「 あいしてるッ!!!! って伝えて〜〜〜 」」」
「 ・・・ は はい〜〜〜 」
大合唱に ジョーはまたもや机に陰に身を潜めたのだった。
「 いやあ〜〜 モテモテですね〜〜 すばるクン ・・・ 」
「 え? いやあ ・・・ 参ったな。 」
隣の席のタカハシ青年がにまにま笑っている。
「 すばるクンだけじゃないっすよねえ〜 14日には 奥さんもたっくさん貰うっしょ? 」
「 ― え? 」
「 だ〜〜から。 バレンタインのお返し♪ いや 義理返しを装うホンメイかなあ? 」
「 な なんだってェ〜〜〜〜 」
「 え? 知らないんスかあ? 」
「 ・・・・・・ 」
― 10分後 ジョーは資料のデカバッグを抱えて編集部を飛び出していた。
そして 運命の3月14日 ―
朝、 島村氏は 細君が準備してくれたでっか〜〜い紙袋をもって出社し ・・・
「 ふう〜ん さすが島ちゃんの奥方! センスいいねえ〜 」
「 あらあ〜 奥様、ナイス・チョイス〜〜 」
「 島村さ〜〜ん なんか・・・コレってのろけですかァ〜 」
・・・・ などなど ホメ言葉なのかよくわからないコメントを沢山頂戴した。
そして 島村氏は一心不乱に仕事に集中しまくり ― 定時退社をした。
「 ― お先に失礼します。 」
「 ・・・ あ お お疲れさま〜〜 」
「 ・・・ あ〜 恐かったァ・・・ なんかすげ〜迫力だったよねえ 島村さん ・・・ 」
「 ふっふ〜〜 島ちゃん、 奥方の元に一目散〜〜♪ 」
「 ああもはっきり行動されると ― なんにも言えねえ〜〜 だわね。 」
「 うん ウン・・・ 」
編集部の女性陣は溜息つきつき島村夫人お手製の プチ・マドレーヌ を美味しく頂いた。
「 た ただいまッ ・・・! 」
例の ギルモア邸名物・急坂をイッキ登りしていきたので さすがのジョーも若干息が切れていた。
「 ・・・ ふ フラン ・・・ た だ いま ・・・・ 」
ジョーはでっかい荷物とでっかい花束を玄関に置き どさ・・・っと上り框に腰を下ろした。
ふは〜〜・・・・・ か 加速装置使わないと やっぱ・・・ キツ・・・
「 あら ジョー! お帰りなさい♪ 早かったのね、嬉しいわ。 」
「 ・・・ フラン〜〜〜♪ 」
細君の満面の笑みを見て、 ジョーはふらふら立ち上がり抱き寄せようと ―
「 グッド・タイミングよ、ジョー。 今からだらから・・・リビングに来て。 」
フランソワーズは ぐい、と彼の手を引っ張る。
「 ・・・ 今から??? なんだい? 」
「 博士もいらっしゃるし・・・ ほら 皆で・・・ね! 」
「 ???? 」
ジョーは荷物をひきずりつつ リビングにとっとっと・・・と引き摺られていった。
「 おか〜さん すぴか。 ちょこのおかえしデス。 あいしているよ、すばる。 」
すばるがこの家の男性陣を代表して ごあいさつ をした。
「 これ・・・ 僕から。 てづくりくっき〜デス。 いつものよかぱわ〜あっぷしました。
おかあさん はい ・・・ すぴか はい。 」
「 まあ〜〜〜 ありがとう〜〜 すばる♪ ちゅ♪ 」
「 ありがと〜〜 ・・・ これ 甘い? 」 ( ← ソレは塩味! の返答アリ。 )
「 ほうほう・・・ これは凄いな、すばる。
では ワシからは ・・・ フランソワーズ、 庭の薔薇の香りを固形化した匂い袋 じゃ。
すぴかや、 これは <すべらない・マツヤニ> と <擦り切れない・Gパン> じゃ、
鉄棒用に いいかと思っての。 」
「 わああああ〜〜〜 おじいちゃま〜〜〜〜 ありがとう〜〜〜 きゃわ〜〜い♪ 」
「 まあ 博士・・・ う〜〜ん ・・・ いい香り・・・ ありがとうございます。
ああ そうだわ、 すぴかさん? ほらこれ・・・ すぴかさんのホンメイさんから。 」
フランソワーズが娘の前に 可愛いブーケと すぴか のネームいりのタオルを並べた。
「 え!? ・・・ こ これ・・・? 」
「 ええ そうよ。 タクヤから。 ありがとう〜〜って。 大好きだよ〜って 」
「 きゃわ〜〜〜〜ん♪ 」
すぴかはブーケとタオルを抱き締めて飛び跳ねている。
「 ・・・ おい フラン・・・ すぴかのホンメイさんって もしかしてアイツか! 」
ジョーはこそこそ・・・細君の耳にささやく。
「 ええ もしかしなくても タクヤよ。 あら 知らなかったの? 」
「 ・・・ 知らなかった!! ったく〜〜 あの野郎〜〜 油断もスキもないヤツだな〜〜 」
「 あら。 わたしが頼んだのよ。 ホワイト・デー、お願いね、って。 」
「 あ ふ ふうん ・・・ ( あ! じゃあ あの電話は・・・ あ そっか〜〜〜 ) 」
「 おとうさん! お父さんの番! 」
すばるが つんつん・・・とジョーのセーターを引っ張った。
「 あ! いっけない・・・ ははは ほら これ! 春の花束さ フラン〜〜愛してるよ〜 」
― バサ。
さんざん振り回してきたのでか〜なりヨレてしまったけれど、まあ綺麗な
花束が フランソワーズに差し出された。
「 ま まあ〜〜 キレイね、 ありがとう〜〜 ジョー♪ 」
「 うんうん ああ よく似合いねえ・・・ 」
ジョーは花束に埋もれた?愛妻をうっとりと眺めている。
「 うわああ〜〜〜〜ん ・・・ 」
突然 大きな泣き声が響く。
「 ど どうした すぴか!? 」
「 おとうさん ・・・ アタシのこと・・・キライなんだあ〜 」
「 え!・ そ そんな ・・・ あ ・・・し しまった・・・ 」
「 すぴか? ほら、 この花束、 すぴかとお母さんにっていう意味なのよ。 ほ〜ら・・・
すぴかも持ってみる? 」
フランソワーズが上手にとりなしているが ・・・ すぴかの泣き声はとまらない。
「 し しまった・・・ え? 」
「 ・・・ ジョー。 これを渡しておやり。 」
「 博士? ・・・ あ は はい・・! 」
こっそり こっそり博士が後ろから < そうかせんべい >の包みを渡してくれた。
「 すぴか〜〜〜 ごめん ごめん。 これ・・・お父さんからのおかえしだよ。
大好きだよ〜〜〜 すぴか♪ 」
「 ・・・・! お おとうさん ・・・・ わ〜〜〜 すぴかも〜〜すぴかも だいすき♪ 」
好きなのは 父親だかお煎餅だかイマイチ不明だが ― ともかく娘も笑顔になった。
島村さんち の ホワイト・デー は皆の笑顔で包まれた・・・
その夜 ・・・ 子供達が沈没した後のこと・・・
ジョーは寛いでいる博士の前でアタマを下げた。
「 博士〜〜〜 ありがとうございました! 」
「 うん? ああ 煎餅のことか?
ふふん ・・・ お前のことだからな〜 こんなこともあろうかと、準備しておいたのじゃ。
これは科学者としての必須精神じゃな。 」
「 は はあ・・・ 」
「 お前なあ ジョー。 もっとオトコを磨け。
そんなことじゃ 息子に負けるぞ? それに 娘は奥方にはフラレルぞ。 」
「 ― え。 」
「 いつまでたっても 朴念仁 じゃなあ。 女性を敵にまわすなよ。 」
「 は 博士 ・・・ ど どうしてそんなコト・・・ 」
焦り捲くりのジョーに 博士はまたもふふん・・・と笑う。
「 ふん ・・・ ワシだって若い頃はちゃ〜〜んとあったんだからな! 」
「 え そ そりゃ そ〜ですが・・・ 」
「 お前の倍以上は生きておるのじゃからな。
それなりに ・・・ まあいろいろとあったのさ。 」
意味ありげ〜に言って博士は ばちん、と片目を瞑ってみせた。
― ひえええええ〜〜〜〜 ・・・・ 博士って 博士ってば〜〜
「 ・・・ ぼく ・・・ が がんばらなくちゃ な・・・
フ フランに ・・・ 振られないよ〜に ・・・! 」
「 え? なあに? 愛しているのはジョーだけよ。 わたしの可愛い天使たちのお父さんだけ。 」
ね? と彼の細君は あまァ〜〜〜いキス をお返ししてくれた。
島村ジョー氏の ホワイト・デーは あまァい あまァい あまァい キス で締め括られたのだった。
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Last updated
: 03,13,2012. index
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ひと言 ************
まあ その〜ナンです・・・明日が丁度 3/14 だったので・・・
例の如く な〜〜〜〜にも起きません、そんな甘い日々 ・・・