『 夏休みに ― (1) ― 』
み〜〜んみんみんみん ・・・・ み〜〜ん みんみんみん ・・・
じ −−−−−− じ −−−− じーーーーー
今日も朝から蝉たちの大合唱 ― すでに <賑やか> を通り越しているほどだ。
騒音公害とかなんとか苦情がでないのは この地域には人家がほとんどない、
というだけの事情による。
そう ここには ― この町で一番の辺鄙な地域 ・・・ 海ッ端の崖の上。
眼下にはゆったりと大海原がひろがっており、背後は裏山に繋がっている。
風光明媚・・・と言えば聞こえは良いが 要するに風景以外なんにもない!ということだ。
問題の地所は長年荒地の空き地で登記簿上の所有者もその存在を半ば忘れていた ― らしい。
「 ・・・ 崖ッぷちの? ・・・ あ〜〜 ・・・・ あれかぁ ・・・
しっかしあそこは利用価値、ないですよ? 」
ある年、地元に半ば隠遁生活をしてる大学教授に尋ねられた時、地主は呆れ顔をした。
「 あ〜 もしかして例の なんたらしすてむ発電 とかに使うンですかね? 」
崖ッぷちは確かに太陽光利用には相応しいだろうが ― 滅茶苦茶に不便なのだ。
おそろしく急な坂道を登りきって やっと平坦な台地が広がっている ・・・
健脚なワカモノでもうんざりしそうな地理的条件だ。
「 ふぉ ふぉ ふぉ・・・ いや なあ。 私の長年の旧友がの〜 邸を建てたい、というんじゃ。
なに、ちょいと研究施設も兼ねておるので 広い土地が欲しいのじゃと。 」
老教授は白髭を揺らし説明した。 彼は地元では子供会や町内会の顧問をしていて、
長期の休みには < 星を見る夕べ > とか < 簡単工作 > などの市民講座を開催し
町の人々には 親しまれている。
地主も顔見知りで すぐに話に応じてくれた。
「 へえ?? ナンの研究ですかね?? 」
「 工学畑のヤツじゃからなあ 気象観測ロボットとかそんなモンらしい。
ま ・・・ 周囲への音が気にならん場所がいいそうじゃよ。 」
「 音? ははは・・・そんじゃあの土地が一番っスよ〜〜
周りにゃ 他の家は全然ないし、 海の波の音の方がでかいかもしれませんや。 」
「 ほうほう ・・・ それはいいなあ。 それで ― 如何じゃな? 」
「 あっは いいッスよ〜〜 長年ほっぽらかしてある土地が ヒトサマに使ってもらえれば。
・・・ え? そ そんな値で? 」
「 おお ご不満かな? すまんが これ以上はちょっと ・・・ 」
「 いえ! いえいえいえ〜〜 喜んで! あんな荒地にはすぎたお値段ですよ〜 」
「 それじゃ 売却していただけますかな? 」
「 はいはい 喜んで。 いやあ コズミ先生のお知り合いの方なら全然 もう・・・
安心してお売りできますさね。 」
恵比寿顔の地主に、老教授もにこにこ顔 ・・・ 八方円満に岬の荒地は売却された。
そして ― 崖っぷちに少々古風な洋館が建ち、新しい住人たちが移ってきた。
当主となるのはやはり白い髭のご老体で ガイジンさんだが日本語も達者だった。
「 宜しくお願いいたしますぞ。 ― いやあ 静かでよい土地ですなあ。 」
地域の人々に愛想よく挨拶をすると、娘だという金髪美人と
助手の青年 ― 彼は日本人だった― をつれて < 静かなる住民 > となった。
地域の人々は彼らを受け入れ 彼らも少しずつだったけれど地域に馴染んでいった。
時に当主の < 若い友人たち > という外人さん達が訪ねてくることもあるが
別段 大騒ぎをすることもなく土地の人々もあまり関心を示さなかった。
月日はながれ ― 崖の上の洋館もしっくりとこの海沿いの地に合うようになり・・・・
「 おか〜〜さ〜〜ん!!! いってきま〜〜す♪ 」
「 ・・・ ま まって まって すぴか〜〜 」
「 すばる、おそいよっ! 先 ゆくよ〜〜 」
「 まって〜〜 うっく ・・・ すぴか ・・・ 」
「 すぴかさんッ ちょっと待ってやって。 すばる〜〜 ほらほら急いで〜〜 」
「 う うん ・・・ 」
「 はやくゥ〜〜〜 !! 行くよっ! 」
「 うっく ・・・ う うん ・・・ 」
「 いってきまぁす! 」
元気な声と一緒に もっと元気な姿がふたつ、急な坂道を駆け降りてくる。
カッチャ カッチャ カッチャ ・・・ ランドセルの音が小さな駆け足の音とミックスする。
「 おっはよ〜ございまぁすッ 」
「 ・・・ おはよ〜 ますゥ〜 」
「 お、 すぴかちゃん〜〜 お早う! すばるくん、早いね! 」
「 はい お早う、すぴかちゃん すばるくん 」
「 オジサン オバサン おはよ〜〜〜 」
「 おはよ〜〜 」
色違いのちっちゃな頭がふたつ、笑顔をふりまきつつ駆けてゆく。
「 ああ ほらほら ・・・ そんなに駆けたら転ぶよ 」
「 へ〜〜いきだよ〜〜 ばいばぁい オジサン イッテキマス〜〜 」
「 はい 気をつけて行っておいで ・・・ 」
「 いやあ 元気でいいねえ ・・・ 毎朝あの二人の声を聞くのが楽しみでさ・・・ 」
「 あはは そうだなあ ・・・ こっちも思わず元気になっちまう・・・ 」
ご多分にもれず当地も少子高齢化、小さい子供の姿はあまり見かけない。
そんな中 ・・・岬の家の家族に生まれた双子 ― すぴか と すばる は
いつしか地元の人々の微笑みのモト ・・・ ちょっとしたアイドルになっていた。
「 こんにちは ・・・ 暑いですね〜 」
「 へい らっしゃい! あれ すぴかちゃん達のお母さん、 こんちわ〜 暑いね! 」
「 本当にねえ ・・・ あの、トマトください。 こちらのは本当に美味しくて・・・ 」
「 はいよっ! うれしいこと、言ってくれるねえ〜 これはね 地元の産だよ〜 」
「 まあ そうなんですか? あ その箱、一段全部くださいな。
ウチの子供たち、オヤツにトマト、齧るんです。 」
「 まいど♪ ほえ〜〜 そりゃいいねえ〜 ほい、このレモンはオマケ♪ 」
「 わあ ありがとうございます〜 」
岬の家の若奥さんは美人で気さくで ・・・ 地元商店街の常連さん。
異国の食材にもすっかり慣れた様子だ。
「 あれ 岬の若旦那さん。 ご隠居さんは元気かね。 」
「 タバコ屋のおじいさん。 こんにちは〜 はい、お蔭様で元気にしてますよ〜
あれ? ・・・ ここの街灯、壊れてますねえ 町内会のですよねえ? 」
「 うん? ああ それねえ・・・ 場所が悪いのか、年中車が擦っていってさ
すぐに切れちまうんだよ〜 困ったもんだ・・・ 」
「 ふうん ・・・ あの〜 よければぼくが直しますけど?
ちょうどウチに使わない資材があるんで ・・・ いいですか? 」
「 え。 やってくれるのかい?? 」
「 ご迷惑でなければ ・・・ 」
「 迷惑もなにも ・・・ 本当にいいのかい、若だんなさん 」
「 ええ すぐに出来ますよ〜 ちょっと待っててください〜
ここ、暗くなってからは街灯がないと危ないですからねえ。 」
「 すまないねえ・・・ありがとうなあ。 あれ もう走っていっちまったよ ・・・ 」
いいねえ ・・・若いヒトは さ 」
気のいい若旦那さんは 町内会の年寄りたちにも受けがいい。
ワカモノが少ない地域なので、 いろいろ力仕事も気軽にやってくれる。
岬の洋館に住む家族は しっかりとこの地の一員になっていた。
み〜〜ん みんみんみん ・・・・ み〜〜〜ん みんみんみん ・・・・・
ジ −−−−−−− ジ −−−−− ジ −−−−−
そして今日も 蝉の声も賑やかな朝を迎えていたのだ。
陽射しは強烈だけれど、海風が幾分かその激しい暑熱を吹き払ってくれている。
お蔭で洗濯物の類は あっと言う間に乾くのだが・・・はやり昼間は暑い。
「 ふう ・・・ やれやれ・・・ これでいいかしら。 」
フランソワーズは 干し場いっぱいにはためく洗濯物をながめ、溜息をつく。
どちらかといえば 満足の吐息 に近いけれど、つよい光にちょっと顔を顰める。
「 あっつ〜い ・・・ こんなじゃ日焼けして真っ黒になっちゃわね ・・・
博士に 日焼け止めクリーム をお願いしようかしら・・・ 」
ひろい裏庭の一角、洗濯モノ干し場には ― 老若男女ありとあらゆる衣類がはためいていた。
あ〜あ ・・・ と言いつつも物干し場の風景になかなか満足した様子だ。
「 う〜〜ん やっぱりいい気持ちね♪
さて と。 腹ペコ青虫 達のお昼の準備をしなくっちゃ・・・
あああ〜〜 もう! 夏休みなんていい加減で終らないかしらあ〜〜 よし! 」
彼女は大きく伸びをすると 軽い足取りで戻っていった。
― 夏休み なのだ。 暑さと共に歓声も倍増・・・
岬の洋館には 朝から晩まで子供達の声がきゃわきゃわと響く。
小学生もそろそろ上級生になるのだけれど、 岬の家の双子は相変わらず賑やかだ。
「 あ お母さ〜〜ん ねえねえ〜〜 麦茶がもうないよ〜〜 」
「 お母さん 〜〜 僕のマーカーがない〜〜 」
裏庭から戻った母を待っていたのは いつもの < ねえねえ おかあさん > の声だった。
「「 ねえ ねえ お母さんってばあ〜〜〜 」」
「 はいはい ・・・ ちょっと待ってちょうだい。 お母さん、今お洗濯を干してきたばかりなの。
ああ すぴかさん? このカゴ、洗濯機の棚に置いてきて ・・・
すばるクン、テラスのおじいちゃまの植木用のお水 ・・・ 用意してあるの? 」
「 ・・・ わかった お母さん。 」
「 あ ・・・ いま やる・・・ 」
母の指図でチビ達はやっとソファの上から降りてきた。
「 ・・・っとにもう ・・・ あらまたTV 付けっ放し・・・
あらら ・・・ 朝からまた散らかして もう〜〜 」
汗と拭う間もなく、 フランソワーズはTVを消してリビングの中を歩きまわる。
なぜかあちこちに落ちている雑誌だの新聞だのを集め、 テーブルの上に並ぶカップやら
グラスの類をまとめ、落ちている紙くずなんかも拾う。
「 ・・・ 今朝 整頓したばっかりなのに・・・! 」
ドタドタバタ ・・・・ ドドド ・・・!
「 お母さん お母さん 置いてきた! ねえねえ 麦茶がね〜〜 」
「 お母ささ〜〜ん お水、用意した! ねえねえ 僕のまーかー どこ。 」
「「 ねえねえ ねえ〜〜〜 おかあさん〜〜〜 」」」
・・・・ くぅ 〜〜〜〜〜 ・・・・ ( う うるさい ・・・ ! )
怒鳴ってはいけない、と思いつつも ぷつ。 フランソワーズの中で何かがキレた。
「 ― わかりました。 」
低い声、迫力のある声に わいわい言っていた子供たちが ぴたっと黙った。
「 すぴかさん。 麦茶は自分で作れるでしょう? ティーバッグはキッチンの棚にあります。
最後だな〜って気が付いたヒトが新しくつくること。 」
「 ・・・ はい お母さん 」
「 すばるクン。 マーカーには足はありませんよ? 昨夜出しっぱなしにしていたのはだあれ。
リビングを探してごらんなさい。 ・・・ お水は? よろしい、ご苦労様。 」
「 おかあさん ・・・ はい。 」
子供たちはぶ〜たれ顔をしたけれど ともかく母の言いつけに従った。
もう〜 ・・・ いちいちわたしが言わないとな〜んにもしないんですもの!
母はぷりぷりしつつ、リビングの整頓状況を確認し、エプロンをつけた。
「 やれやれ ・・・ もうゴハンの仕度 か。 え〜と・・・ お昼は ・・・
お素麺にしましょ。 博士、お好きだし、お中元に沢山頂いて重宝しているものね。 」
野菜室を開け キュウリだのネギだのみょうがだのトマトだのをとりだした。
「 お母さん ! 麦茶〜〜 完了。 冷蔵庫に入れていい?? 」
すぴかが満杯の水入れを両手で捧げ持ってきた。
「 はい お願いします。 」
「 りょうか〜〜い ・・・・ えい! ・・・っと。
あ! ねえねえ お昼ごはん なに〜〜?? アタシ、お握りがいいな〜〜 」
「 おか〜さ〜〜ん !! 僕のまーか〜 ・・・ ソファの下にある〜〜
もぐってもいい?? 」
すばるが駆け込んできた。
「 もぐってもいいけど。 頭 ぶつけないようにね! 」
「 あったり前〜〜 あ! お昼ごはん? 僕! サンドイッチがいいな〜〜
ジャムとマーマレードにね チーズを挟んで〜 」
「 ・・・ お昼はお素麺です。 」
「「 え〜〜〜〜〜!? お握り・さんどいっち がいい〜〜〜〜 」
混声合唱が キッチンの中にぎんぎんとひびく。
・・・ もう〜〜〜〜 ・・・!! 勝手なことばっかり言ってェ〜〜〜
トン ・・・ まな板を出すと 調理台に置いた。
「 お素麺です。 二人とも手伝って頂戴。 すぴかさん、お野菜を洗って。
すばるクン、 千切りをお願い。 」
「 は〜いぃ〜 ・・・ じゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! どひゃ・・・
・・・ ねえ お母さん〜〜 アタシ、ふりかけ結び でもいいけどぉ? 」
「 は〜い ・・・ すぴか、野菜ちょうだい。 え〜とぉ キュウリから切るね〜
・・・ ねえ お母さ〜ん 僕ゥ ・・・ ジャムサンド でもいいけど? 」
言われた通りにお手伝いしつつ 子供達は抵抗を諦めない。
ったく〜〜〜 お素麺の方がずっと美味しいし栄養価も考えて
具を沢山作ってるのに 〜〜
素麺を茹でる準備をしつつ ・・・ フランソワーズはイライラ度がアップし始めた。
いかにサイボーグといえど、真夏にお湯を沸かすのは あまり愉快なことじゃないのだ。
「「 ねえねえ お母さ〜〜ん ってば? 」」
― ぷちぷちぷち。 お母さんの堪忍袋がまた少しキレ始めた。
「 わかりました。 それじゃ フリカケ結び と じゃむサンド にしなさい。
ただし 自分達でつくること。 そして あなた達はお素麺は なし です。 」
「「 きゃっほ〜〜〜♪ 」」
「 ただし! お手伝いはちゃんと完了すること! すぴかさん、 トマトしか洗ってないわよ?
全部 千切りって言いましたよ、すばるクン? 」
「「 はぁ〜〜い ・・・ 」」
ふん。 ・・・ あ〜あ ・・・ こんなに茹でちゃって・・・どうしよう・・・・
あ。 ジョーの夜食に取っておこうかしら。
茹で上がった素麺を 小分けにしつつ・・・ 母はまたまた大きく溜息をついた。
「 あはは・・・ それで結局、どうしたんだい? 」
ジョーは大笑いしつつ 素麺を器に取り分けた。
「 ・・・ フリカケだらけにした特大ご飯ボール と 食パンにべたべたにジャム塗って
折り曲げたサンド で大満足してたわ。 」
「 ははは ・・・ 自分達で作ったんだろ、美味かっただろうなあ 」
「 ジョー。 だって栄養価なんて滅茶苦茶よ? お素麺の方がず〜〜っと美味しいわ! 」
「 そりゃそうだけど さ。 ・・・ わ〜〜 冷え冷えで美味いなあ〜〜 」
「 ・・・・ ( そりゃそうよ。 お昼からず〜っと冷蔵庫 だもの ) 」
フランソワーズは憮然として夫の食卓を眺めている。
その日の深夜、 ジョーはいつもの如く日付が変わる寸前に帰宅した。
そしてやっと・・・遅い夜食のテーブルについていた。
目の前には沢山の具を盛った皿としっかり芯まで冷え切った素麺を入れたガラスの大皿がある。
「 ひょう〜〜♪ こりゃ豪華な夜食だね? 」
ジョーはにこにこ顔で箸を取り上げた。
「 あの ・・・ ね。 お昼に茹でたのよ、このお素麺。 だから その・・・ 」
「 あは ・・・ ちょっとぐにゃぐにゃだけど ・・・ いやでもよ〜く冷えててウマイ! 」
かなり微妙な口当たりになってしまったモノを でもジョーは美味しそうに食べている。
「 ごめんなさい、ジョー。 あの・・・ イヤだったら残して・・・? 」
「 え〜〜 なんで? これ、しっかり冷えてて美味いよ〜〜 具も豪華だし♪ 」
「 あ ・・・ それね、すぴかが洗ってすばるが刻んだの。
だから かなり不ぞろいでしょ? ネギとかは めちゃくちゃミジン〜〜って言ってたから・・・ 」
「 へえ これ、あいつらの作品かあ。 それじゃ余計に全部食べなくちゃな。 」
「 え。 これ 全部? 」
「 うん、 このくらいカルイ カルイ〜〜 ああ ウマイ♪ 」
ちゅるちゅる もぐもぐ ・・・ あっと言う間にジョーは残り物・素麺を平らげてしまった。
・・・ 男のヒトって。 よくわかんないわあ・・・
どんどんカラになってゆく食器を眺めつつ フランソワーズはこっそり溜息をついた、
「 あ〜 美味かったぁ〜 ・・・ アイツら、相変わらず賑やかなんだろ?
夏休みだもんなあ ・・・ 」
「 え〜え。 今はプールもお休みの時期なのね もう ・・・ 一日中大騒ぎよ。 」
「 だろうなあ・・・ ああ どっか連れて行ってやりたいんだけど・・・
どうにもこうにも まとまって休めなくてさ。
そうだ、 週末にどこか行こうよ? 近場でもいいなら ・・・ 」
「 あら いいのよ ジョー。 編集部って季節には関係ないものね。
無理しないでね? 週末ウチでゆっくり休んでちょうだい。 」
「 ありがとう フラン。 ぼくとしてはアイツらを一緒にいられればそれが一番の休暇
なんだけどなあ・・・ 」
ジョーは雑誌の編集部勤務、 最近は所謂 <油が乗ってきた> 時期になり、
超多忙な日々が続いている。
本人は非常い充実しているらしいが、家族は少々<つまんない> ・・・・。
それに妻としては夫の健康状態も気にかかる ・・・ たとえサイボーグであろうとも。
大丈夫かしら。 ・・・いくら ジョーでも ・・・
しっかし! この国のヒト達って どうしてこんなに働くの??
日頃はしっかり働くけど、夏には大半がしっかりバカンスを取る ・・・ そんな国に生まれ育った
元・乙女には 夫の仕事ぶりはいまだに不可思議に思えた。
「 ん〜〜 ごちそうさま。 美味しかったよ〜〜 」
ジョーはやっと箸を置き、満足の溜息を漏らしている。
「 ・・・ お粗末様でした。 食べてくれて ・・・ アリガトウ、ジョー。 」
「 いや ホントに美味かったってば。 」
「 そう・・? 」
「 そう。 ・・・ なあ それできみの夏休み は? 」
「 ― え? 」
ジョーは熱い玄米茶を手に まっすぐフランソワーズを見つめた。
「 きみの、 お母さんの夏休み はどうなってるの? 」
「 え ・・・ わたしの? ・・・ そんなの、ないわよ。
教えの仕事とレッスンは夏休みとか関係ないもの。 」
「 あ そっちの仕事じゃなくて。 < おかあさん業 > の方さ。
夏休み、 しろよ? 」
「 お母さん業?? ・・・・ う〜〜ん ・・・ それは無理だわねえ。
休み中はね、 お母さん業 はフル稼働なの。 特にあの子達が家にいるとね・・・
もう一日中 キッチンでゴハン作りをしている気分よ。 」
「 そっか・・・ まあなあ あいつら食べ盛りの始まり、だもんなあ・・・ 」
「 ええ。 これからもっと食べる年頃になるのよねえ・・・ 」
「 そ。 すばるなんてさ〜 あっと言う間に 食欲魔人に変身するぞ〜 」
「 え。 すばるが?? すぴかじゃなくて? 」
「 いやあ アイツ、すぴかの倍くらい食うようになるさ。 オトコなんてそんなもんさ。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ 」
「 で さ。 夏休み、しろよ? < お母さん業 > もたまには休めよ。 」
「 でも・・・ 」
「 大丈夫。 ぼくがアイツらに通告するから。 」
「 ・・・ つうこく?? 」
「 ああ。 こりゃ・・・業務命令 かな。 」
ジョーは 自分の思いつきに、面白そうに笑った。
― それで。 お母さん業 夏休みのお知らせ となった。
その週末のこと。 ジョーは珍しく早起きをしてきた。
「 おはよう 〜〜 」
「 あ ! お父さん〜〜〜 ♪ お早う〜〜 わあ〜〜い、ゴハン一緒だね〜〜
おじいちゃまはねえ もうお散歩なんだよ〜 」
「 うん、おじいちゃまは一番早起きだもん。
ね〜〜 お父さん〜〜 ねえねえ あのさあ〜〜 」
いつも週末は寝坊するので 子供達と一緒に朝御飯を食べることができないのだ。
平日は一応一緒にテーブルに着くこともあるが ゆっくり食べる時間はない。
従って お父さんと一緒にのんびり朝御飯 は島村家ではかなり <レアな> こととなる。
「 わあ〜〜い♪ お父さん お父さん〜〜 お父さん、こーひー?
アタシ、作ってあげるね〜〜 インスタントのでしょ? 」
「 お父さん〜〜 トースト、何ぬる? ジャム? マーマレード? はちみつ?
あのね〜〜 みんな一緒くたにぬるとおいしいよぉ〜〜 」
「 あ〜 いいよ いいよ お父さん、自分で やる ・・・ 」
「「 お父さんはゆっくりしてて! 」」
「 ・・・ ハイ。 」
かくしてジョーはその日の朝食は どろどろに濃いコーヒーと頭痛がしそうなくらい甘い
トーストですませることとなった。
・・・ うっく。 サイボーグでよかった ・・・ かも。
「 ・・・ 淹れなおす? 」
愛妻がこそ・・・っと申し出てくれたけれど、きっぱりと首を横に振った。
「 いや、 いい。 」
「 そう? ・・・ 胃、大丈夫・・・ 」
「 ああ 多分。 死ぬことはあるまい。 しかし万が一の時には ― 子供達を頼む。 」
「 了解。 」
ジョーはまったくいつもと同じ顔で 淡々と朝ごはんを食べた。
「 ― ごちそうさま。 」
「 わ〜〜〜〜 お父さん お父さん〜〜〜 ねえ ねえ セミ取り、行こう? 」
「 え〜〜 お父さ〜〜ん 電車のグラフ誌、見せてくれる約束だよねえ〜〜 」
子供たちが わ・・・っとジョーの側にひっついた。
「 ほらほら・・・ お父さんが動けないでしょう? 」
「 あ ・・・ うん ・・・ 」
「 おとうさ〜ん♪ 」
「 二人とも? ちょっと・・・リビングに来てくれるかい。 」
「「 うん! 」」
「 それじゃ 先に行ってなさい。 」
「「 は〜い ・・ 」」
ジョーはようやっと食事の席を立つことができた。
「 あ ・・・ フラン、きみも来てくれ。 」
「 あら わたしも? ちょっと待ってね、食器を洗ってしまうわ。 」
「 あ〜 ぼくが後でやるから。 そのままでいいよ。 」
「 ??? そう? それじゃ ・・・ 」
フランソワーズはとりあえず朝食のテーブルを片付け食器をシンクに放り込む。
「 ジョーってば ・・・ 何をするつもりなのかしら ね? 」
「 え〜と? いいかな〜皆いるね。 」
「「 いる〜〜〜 」」
リビングで子供達はわくわくしながら待っていた。
あは ・・ もうすぐ < 二人しかいないのに決まってるじゃん > とか
言うようになるんだろうなぁ ・・・
ジョーはちょっと可笑しかったが さりげな〜く咳払いなんかして誤魔化した。
「 ねえ お父さん、 はやく〜〜 セミ捕りさあ〜〜 」
「 お父さ〜〜ん あの雑誌がさあ〜〜 」
「 ちょっと待ちなさい。 え〜と ね。 お父さんから < 発表 > があります。 」
「「 ・・・・・・ 」」
色違いの瞳が じ〜〜っとジョーを見つめている。
「 おっほん。 今日の午後からお母さんは < 夏休み > です。
御飯はお父さんが作りますが あとのウチの用事は二人で分担です。 」
「「 ・・・ えェ 〜〜〜〜〜〜〜 」 」
「 え〜 ・・・じゃないだろ。 お母さんにだって夏休みがなくちゃ。
ず〜〜〜っと毎日 おうちの仕事、やってくれているんだもの、当たり前だろ? 」
「 ・・・ う ん ・・・ 」
「 一切、 ご用を頼まないこと。 それでは引き続き二人の仕事を発表します。
洗濯物が乾いたら取り込む。 きれいに畳む。 リビングに掃除機をかける。
御飯の仕度の手伝い。 いいかな〜〜 」
「 ・・・ わかったよ ・・・ 」
「 ・・・ わかった ・・・ 」
子供達はツンツン・・・隣を肘で突きあっている。
「 はい。 それでは〜〜 まずは掃除です、掃除機を運んできて! 」
「「 ・・・ は〜い ・・ 」」
二人がのろくさリビングを出ていった後、 ジョーは後ろで傍聴していた細君に声をかけた。
振り返ってはいないが 彼女が笑いを堪えているのがはっきりわかる。
「 あ〜〜 そこの方? 笑わないでくださいね〜 」
「 ・・・ くくく ・・・ だって だって ・・・ まあ あの子たちの顔ったら・・・ くくく ・・・ 」
「 いいクスリだよ〜 もう・・・ 宿題すれば後は遊び呆けていていいって訳じゃ
ないんだぜ? あの子達だってもう上級生になるんだから さ。 」
「 くすくす ・・・ それじゃお手伝い作戦 の監督、お願いね? 」
「 任せとけって。 え〜と それで きみは さ。 どこかに退避していてくれるかい。
そうだ、美術館とか映画とか ・・・ 行ってくるか? 」
「 う〜〜ん ・・・ 夏休みはどこのすごく混むのね。
それにわたし ・・・ 出来ればジョーと一緒に行きたいわ。 」
「 あは・・・ そうだねえ。 それじゃ ・・・っと あ そうだ。
例の屋根裏のあの部屋はどうかい。 一応クーラーも付けたから居心地はいいと思う。 」
「 あら そうだったわねえ。 あそこなら静かだしいいかも ・・・
それじゃとりあえず 今日はそこに退避しています、監督さん。 」
「 了解〜〜 あとでこっそり仲間に入りにゆくかもしれませ〜〜ん。 」
「 はい どうぞ? それじゃ・・・ お昼を作ってから 」
「 お〜〜っと、 それはぼくがやるよ。 きみは今から < 夏休み > さ。 」
「 ありがとう ジョー ♪ 」
フランソワーズは 夫の首に抱きついて熱いキスを贈る。
「 わぉ♪♪ ・・・・ んんん 〜〜〜 へへへ・・・朝から御馳走様〜〜 」
「 あ ・・・ 戻ってきたわよ? 」
「 おっと ・・・ あ 博士の秘蔵の花瓶 は寝室に持っていってくれ。 」
「 了解。 ジョー、大事な写真類はしまって置いたほうが懸命ね。 」
「 了解〜〜。 じゃ・・・ これも一緒に避難させといて。 」
「 はいはい ・・・ふふふふ ・・・ 」
ゴトゴト ガタガタ ズ〜〜〜・・・ 子供たちが掃除機を引き摺ってきた。
「 ・・・ もって きた ・・・ 」
「 おう、ご苦労。 それじゃ リビングの掃除、頼むぞ。
お父さんは食事の後片付け、してくるからな。 じゃあな〜 」
ジョーは ナイショで細君にウィンクを残し、さっさとキッチンに消えた。
「 え〜〜〜〜〜 ・・・ あ お母さん あのさ〜 これさ〜 」
「 どこでスイッチだっけ?? お母さん〜〜 ? 」
「 さあ〜て と。 < 夏休み > 中ですので〜 お仕事はお休みです。
じゃあ すぴかさん すばるクン? あとは宜しくお願いしますね〜 」
フランソワーズはにっこり笑顔、 ひらひら手を振ってリビングから出て行ってしまった。
「「 ・・・ え〜〜〜〜 なんでェ 〜〜〜 」」
掃除機を前に 双子たちは顔を見合わせていた。
・・・まあ ・・・ 掃除くらいならなんとか ・・・なる ・・・ かな??
ゴト ・・・ ドアを開けると もわっと熱気と埃っぽさが流れでてきた。
「 うわ・・・ これは凄いわね。 まずはクーラー・・・と。 」
フランソワーズは壁のスイッチを探って エアコンを作動させた。
「 電気は ・・・ ああ 天窓の下だったらいらない ・・・か 」
ゆっくりドアを閉めると、 彼女は部屋の中央のソファに持ち込んだアレコレを運んだ。
ギルモア邸の屋根裏部屋 ― 二階の端にある急な階段を登った先にある部屋で
通常はもっぱら納戸というか物置になっている。
使わなくなった家具やら季節モノの家具、季節ごとのカーテンやら寝具が仕舞ってある。
隅っこには本棚もあり、子供たちの衣類、絵本やら古くなった本類も置いてあった。
入り口付近に置いてある大きな衣裳箪笥を回ると部屋の中央に出る。
天窓の真下になっていて 昼間ならかなり明るい。
そこには色褪せたソファと書棚、 低いテーブル が置いてあり、ここに来たものは
大抵 ちょっと休憩したり寝っ転がって昼寝したりするのだ。
「 ・・・ アタシさあ ・・・ 屋根裏、好きだな ・・・ 」
<ひみつ基地> にしたら、とジョーが教えてやったら すぴかは気に入った模様だ。
いや ・・・ 気に入った、というより 大切に思っている のかもしれない。
「 そうかい、それはよかった。 あそこはお父さんも好きだな。 星がよく見えるし。
あ そうだ。 今度 エアコンをつけておこうね。 」
「 え。 寒くても平気だよ、アタシ。 」
「 そりゃ冬はね、着込んでゆけばいいけど・・・ 夏はすごく暑いと思うよ?
なにせウチ中でいちばん天辺にあるし 屋根のすぐ下だし。 」
「 あ そっか〜〜 そうだよね〜
流れ星 見たときは夜だったから・・・ あんまし暑いって気がつかなかった。 」
「 うん そうだね。 お母さんも一緒に屋根に出たっけ。 」
「 うん。 ・・・ 屋根の上も好きだけど。 アタシ ・・・ あの部屋、好きだな〜 」
「 ふうん? すぴかは何をするのかい、屋根裏で さ。 」
「 アタシ? ・・・ う〜ん ・・・ ナイショ! 」
「 あ は ・・・ ナイショ かあ〜〜 オンナノコの秘密かあ。 」
「 うん。 ナイショ。 」
「 そっか。 残念だなあ〜〜 」
ジョーは笑って受け流したが 内心かな〜〜りショックだった。
お父さん子でいつでも何でも一番先に自分に話してくれたすぴか。
ジョーの大切な大切なタカラモノなオンナノコ。
彼女が生まれて ジョーは実感として < 目の中に入れても痛くない > という表現に
大いに納得した。
勿論すばるは大切な息子だけれど、彼はジョーにとっては分身であり、
愛する妻は何物にも換え難い彼の < 半身 > ・・・ でも娘はちがう。
― すぴかは、 娘は ジョーにとっては特別な存在だった。
そんなが娘が 初めて父である自分を拒否した ・・・
<拒否> といほどのことでもないのだが ジョーには娘に背を向けられた気分だったのだ。
・・・ ああ ・・・ 来るべき日が来た、のかなあ・・・
そのうち お父さん キライ! とか ・・・ 言われちゃうのかなあ・・・
「 そっか ・・・ あ お母さんも屋根裏部屋 好きって言ってたな。 」
「 え。 ほんと?? うわ〜〜 ・・・ そうなんだ? うわ〜〜〜
そっか 〜〜 お母さんも・・・! うわ〜〜 ・・・ 」
「 ??? すぴか。 なにが うわ〜〜 なんだい? 」
「 え? あ ・・・ えへへへ ・・・ これもナイショ♪
ねえねえ お父さん。 クーラー、付けたら教えて? アタシ、また秘密基地に行きたい。 」
「 そ そうか? それじゃ急いで作業しような。 」
「 うん お願い〜〜 えへ ・・・ また 会える かな〜♪ 」
「 え なんだって? 」
「 あ ううん ううん なんでもなぁ〜い♪っと〜 アタシ〜 遊びに行ってくるね〜 」
すぴかはちょんちょん跳ねつつ 出て行ってしまった。
「 ・・・ な なんだか急にどっと ・・・ こう ・・・ 疲労感が ・・・ 」
一人 取り残されたジョーは ふか〜〜〜い溜息をついた。
「 ・・・ せめて ・・・ クーラー設置をとっととやる、か ・・・ 」
もう一つ、溜息をオマケしてジョーはのろのろと立ち上がった ・・・
― 父と娘の経緯について 母は何も知らなかった。
「 え〜と? 少しお掃除したほうがいいかしら ・・・・
う〜ん でもねえ ・・・ このまま、がいいのかも ・・・ ねえ ちっちゃなファン? 」
くす・・・っと 誰もいない、埃っぽい空間に笑みをなげる。
あの日 ・・・ ここで出会った <自分>。 まだ幸せしか知らない・ちっちゃなファンション。
幻なのか 白昼夢なのか ・・・ 今となっては全くわからない。
ただ一つ確信できるのは あの少女が自分自身だ、ということだけ。
「 いつかまた会える、かな? 楽しみにしているわね?
え〜と・・・ついでだから奥のチェストからタオルを出して来ようかな・・・ 」
フランソワーズは屋根裏部屋の隅にゆき さらに裏にある梯子を登っていった。
― ザ −−−−− ・・・!
「 お父さん。 水、だしっぱなし。 」
「 あ! いけね〜〜 すばる〜〜 とめてくれッ 」
「 ・・・ ったくゥ〜〜 僕、ジャガイモ、むいてるんですけど? 」
「 た たのむ〜〜 お父さん、今 手が放せないんだ〜〜 」
「 きゅ。 止めたよ、お父さん。 ・・・ ブロッコリー ゆでてるのが ど〜して
<手が放せない> のかなあ〜 」
息子はぶつぶつ言いつつも 水道の栓を捻ってくれた。
「 すまん、助かったよ〜 すばる! 」
「 ど〜いたしまして。 ねえ お父さん。 このジャガイモもゆでるの? 」
「 ああ そうだよ、 ポテト・サラダ、作るんだから。 」
「 ふ〜ん・・・ じゃ ニンジン、たまねぎ キュウリ と マヨネーズがいるよ〜 」
「 あ ・・・ ニンジン ・・・ あったかなあ・・・? 」
ジョーは慌てて冷蔵庫の野菜室を開けようとした。
「 あるよ、全部。 だからお父さん、出して 洗って。 ゆでて切って。 僕 まぜるから。 」
「 あ ・・・ お オッケ〜 ・・・ 」
「 あとは ・・・ 卵とハムと〜ジャムとま〜まれ〜ど ・・・ うん、決まり。 」
すばるはに〜・・っと笑った。
「 えっと・・・ ニンジン、だろ、キュウリ。 え?? たまねぎ〜〜〜 ないぞ、すばる〜 」
ジョーは野菜庫に顔をつっこんだままだ。
「 ― お父さん。 タマネギは冷蔵庫には入れないよ。 」
「 あ ・・・ そ そっか? 」
「 こっちだよ、その箱のなか。 お父さん、切って。 うす〜く ね。 」
「 ・・・あ ・・・ はい。 」
キッチンでは何時の間にやらすばるが主導権をにぎり、とっとと昼御飯の準備を始めた。
トン トン ・・・・? トン ・・・
遠慮がちなノックが 屋根裏部屋のドアからきこえてくる。
「 ・・・ フラン? お昼だよ〜? もしも〜し・・・? 」
しばらく待ったけれど返事は ない。
寝ているのかな・・・と ジョーはそう・・・っとドアを押して中に入った。
「 あれ?? 電気、つけてないのか〜 ・・・っと スイッチは〜〜 」
ジョーはごそごそ壁のスイッチを探ったが なぜか手に当たらない。
「 ?? こっちじゃなかったっけか?? ・・・ まあ いいや ・・・ 」
ドアの前にある大きな衣裳箪笥の横を通り、部屋の中央、天窓の下へ ―
「 ― だあれ? ジャン兄さん? 」
「 ・・・ ???? 」
更紗模様のソファに 女の子が一人、ちょこんと座って本を読んでいた。
そう・・・すぴかと似た年頃だろう。 すんなり伸びた手脚にふんわりしたスカート姿だ。
きらきらクリーム色に近い髪が肩口で 大きくカールしている。
彼女は しばらくまじまじとジョーを見ていたが やがてぽん、とソファから降りた。
ジョーは 脚も動かなければ声もでない。
「 あら ・・・ ああ ジャンお兄さんのお友達ね? 」
「 ・・・・え?? え あ あの ・・・ 」
「 ぼんじゅ〜る ムッシュウ? ご機嫌はいかが? 」
小さなマドモアゼルは スカートに端をちょ・・・っとつまみ ジョーに向かって優雅に会釈をした。
「 あ ・・・ こ コンニチ・・・いや ぼ ぼんじゅ〜る・・? 」
え。 このコ ・・・誰だよ?? なんでウチの屋根裏にいるんだ?
・・・ あ?? ってか・・・ ここ ・・・ どこだ??
ジョーはきょろきょろ周囲を見回す。
そこは 見慣れたウチの屋根裏部屋 とはちょっと違っていた。
どうも ・・・ 納戸っぽい雰囲気は似ているが家具が違うし置いてあるモノも見たことがない。
「 えっと あの〜〜 君 ・・・ ? 」
「 あたし? ファンションよ。 お兄さん。 」
碧い瞳が ― それは彼がよ〜〜く知っている ― じ〜〜っとジョーを見つめ ・・・
にこ・・・っと笑った。
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: 08,28,2012. index / next
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お馴染み 【 島村さんち 】 シリーズです。 ・・・ 続きます!
べつに 春休み でも 冬休み でも構わないのですけど・・・
でもあの岬の洋館には 真夏が一番フィットしている気がするので・・・