『  真夏の昼の   ― (1) ― 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *****  以前の作品と同じ設定ですが ちょこっと視点を変えてみました *****

 

 

 

 

      夏 魔法の季節 

      白い陽射しの 向こうには  なにがある? 

      夏 不思議な季節  

      熱い風はその翼に なにを乗せてくる?  

 

      夏    夏の昼間 には  ご用心☆

 

      夏 魔法の季節   夏の恋 も … ええ 夏は  ね!

      そう  真夏の昼 は ご用心

 

 

 

 み〜〜〜ん みん みん みん みん   じ〜わ じ〜わ じ〜〜わ 

 

蝉の合唱、いや 騒音のトンネルの中を少年がひとりゆっくり歩いている。

別に 蝉の声に聞き入っているわけじゃない。

緑濃い真夏の風景に見とれている・・・わけでもない!  

彼はそんな風流な?趣味もないし そもそもそんな気分になる年齢じゃない。

だけど なぜ?  ― 両手にぎっちり詰め込んだ買い物袋を下げているから!

 

「 クソ〜〜〜〜  あっち〜〜〜〜   うう〜〜〜 」

 

ぶつぶつ悪態をつきつつ ふうふう言いつつ それでも彼は一歩一歩進んでゆく。

普通の少年なんら すぐに放りだすか昨今の甘ったれなら泣き出すかもしれない。

でも 彼は口元を歪めつつも歩みをとめない。

「 クソったれ〜〜〜〜!  ・・・ なんだってオレが当番なんだよ〜〜〜 」

かんかん照りの路が曲がると 左右から大木の枝が伸び日蔭ができていた。

「 ・・・ ふぇ〜〜〜 ・・・ あ ちこっとすずし〜〜〜 

 ここ 曲がるとあのクッソあっち〜〜〜 踏切だもんな〜〜 ちょっち休む・・

 ―  あんのババアに怒られてもいいや 」

 ドサ ・・・っと買い物袋を下に置き歩みを緩めたと途端 −

 

    ふぁさ 〜〜〜〜〜   ざざざざ 〜〜〜〜!

 

一陣の風が梢を鳴らし吹き抜けた。  

ほんの束の間、暑熱を吹き飛ばし・・・ ついでに少年のキャップも飛ばした!

 

「 うぁ ・・・ !  

 

ち! 荷物を片寄慌てて振り返ると ― ちかり。 白い光が彼の目を射た。

「 !!! な なに ・・・ まぶし〜〜 ・・・  やべ!

 オレの 帽子〜〜  あれっきゃね〜んだよ〜〜〜 」

クソ〜〜 っと目を拭い慌ててきょろきょろ辺りを見回した。

 

    ???  へ??  あ   あれ ・・・???

    オレ ・・・ まだ踏切、通ってない ・・・よなあ?

 

ついさっきまで少し先に見えていたはずの踏切が 彼の後ろにあった。

白い真昼間の光に照らされ レールがぴかぴか光っている。

「 ・・・ ゆ  夢でも みてる ・・・ のかナ ・・・? 」

ぼうっと突っ立っていると ― 甲高い声が飛んできた。

 

「 あ  だいちく〜〜ん!  僕 さきにきたよ〜〜〜 」

 

彼の目の前に ほんわか〜ん・・とした笑顔が現れた。

 

    だ 誰だ コイツ??  近所のヤツ・・・じゃ ね〜な

    同じ学校でも ねえな

 

    ふん なんかオメデタイ笑顔だぜ?

    ・・・ あ 山の手の金持ちんちの子か ・・・

 

彼はその笑顔を かなり意地悪くじ〜〜〜っと ― それこそ穴が開くほど見つめてやった。

ところが 笑顔の持ち主はまったく気にしていない。 それどころか・・・

「 だいちくん!  ・・・ あれ?? ちがう人だあ〜 ごめん〜〜〜 」

まん丸なセピアの瞳が  に・・・っと彼に笑いかけた。

 

    ! な なんだ コイツ〜〜〜??

 

 

 

 

  カタカタカタ  ・・・ 

 

玄関でサンダルをつっかけると フランソワーズはリビングへ声を張り上げた。

「 ちょっと出かけてきます〜〜 すぐに戻りますから〜〜〜 」

「 ・・・ 暑いから気をつけてな ・・・ 」

中からは 博士ののんびりした声が応えた。

「 はい〜〜〜  

彼女は玄関を飛び出した。 小さな帽子を手にして・・・

 

     まったく す〜ぐ忘れるんだから〜 〜〜

     あれほど 何回も 何回も言ったのに!

 

フランソワーズは 小さな帽子を手にして、家の前の急坂を駆け下りた!

 

夏休み真っ盛りの日・・・

ラジオ体操をし、朝ご飯を食べなんとか宿題タイムを終えると

すぴか はセミ捕りに飛び出していった 。 すでに蝉捕り仲間は集結しているらしい。

金色のお下げを でっかい麦わら帽子に押し込み、水筒と < セミ捕りセット >を

肩にかけ ・・・

「 いってきま〜〜〜〜す!!!  」  飛び出していった・・・。

 

「 はい いってらっしゃい。 暑いから気をつけて・・・ ああ もう聞いてないわね 」

彼女の姿はあっという間に 坂道を駆け下り ― 消えた。

「 真っ黒になったって知りませんよ〜〜 ・・・ あ〜あ 女の子なのに・・・ 」

母は もうお手上げ・・ といった顔でぶつぶつ呟いた。

 

「 おか〜さん。 僕も水筒。 つめたいむぎちゃ いれて〜 」

「 はいはい ・・・ すばる君も蝉取り? 」

「 ウウン。 せみとりには行かない。 

彼女のちっちゃな息子は 父親そっくりの瞳でに・・・っと笑う。

「 ぼく達 JR見るんだ〜    写生もする!  」

「 まあ 写生? 夏休みの宿題? 」

「 じゆうけんきゅう。  え〜〜と もってゆくのはあ 〜 」

 水筒 と ノート と  画板 筆箱 ・・・ 彼はひとつひとつ

とても慎重に 恐竜がついているリュックにしまった。

< ぼく達 > ってことは 例のあの親友君と一緒 ってことだ。

「 そう・・・ 踏切で遊んではだめよ ?  

「 遊ばない。 僕たち JRの観察に行くんだ〜 遊びにゆくんじゃないもん。」

「 それなら いいけど・・・ でも気をつけて。

 そして 帽子! 暑いから忘れないでね! 

「 ウン! 

とて〜もいいお返事をし 彼は < イッテキマス > をしてから

ゆうゆうと玄関を出ていった。

彼はたいていゆっくりと歩く。 ゆっくり、というよりも一歩一歩着実に歩くのだ。

年がら年中 宙を飛んでいるよ〜な姉とは大違い・・

神サマは 天然の加速装置 を009の娘にお与えになった らしい。

 

    やれやれ ・・・ ま 元気ならいいわ・・・

    だいちクンが一緒なら もっと安心だし・・・

 

すばるの < しんゆう >クンは 落ち着いた性格なのだ。

フランソワーズは 中庭へ回り花壇に水をやり ― リビングに戻り・・・

「 ふう ・・・ あ〜〜〜〜 ぼうし!!!  もう〜〜〜〜 

 あんなに言ったのにぃ〜〜〜 」

リビングのソファには すばるの帽子がぽつん、と置き忘れられている。

「 もう〜〜〜 !  この暑さでそれも真昼間、線路の側にゆくのでしょう???

 熱中症になっても知りません! ・・・ ってそれじゃすまないわ! 」

 

  ― それで。  彼女はサンダルを鳴らしつつ家を飛び出した、というわけなのだ。

 

 

 

  み〜んみんみんみん ・・・・ じ〜〜わじ〜〜わじ〜〜わ・・・・

 

真昼間だから蝉も一大合唱団〜〜〜 である。

「 あ〜〜〜 もう! 朝から晩までウルサイわね!  すぴかってば

 ど〜してあんなにウルサイ虫を捕まえたいのかしら?  理解に苦しむわ〜〜〜 」

小走りに坂を降り 国道を渡りつつ彼女はぶつぶつ・・・ 宣う。

確かに蝉どもはウルサイが ・・・ 島村夫人は < 西洋人 > であるから

蝉の声は ただの騒音 として認識する。  

ミンミン蝉の初鳴きに 夏 を感じ ヒグラシの声にしんみりする・・・感性は

持ち合わせていない。

「 え〜〜と ・・・ 次の角を右・・・だったはずよね〜〜 」

この辺りは町外れなので 放置された雑木林が多い。  伸び放題の緑の影の下をくぐり

角を曲がった 時 ・・・

 

  ちかり。   真夏の光が一瞬 彼女の目を射た。

 

「 わ・・・ まぶし〜〜〜  ・・・?? あら  なにか蹴飛ばした?? 」

慌てて目を拭い 足元付近を見回せば ― 

 

   少し先に 子供用のキャップ が落ちている。

 

「 あら  誰かの帽子だったの?? 蹴飛ばしてしまってごめんなさいね〜〜 」

彼女は屈んで拾いあげる。

「 ? ふうん ・・・? 」

それは少年用のキャップ それもかなり使い古され でも 丁寧に縫い直してあったりする。

「 きっと大切な帽子なのね? それじゃますます交番にでも届けなくちゃ。 」

え〜と・・・  名前は あるかな〜 ・・・ と 彼女はそのキャップを裏返してみた。

 

      え?    ― フランソワーズの顔色が 変わった。 

 

汗滲みがあるキャップのフチに滲んでいた名前は   しまむら じょー

「 うそ!  ・・・ でも  ジョー?? どこか近くにいるの???

 これ・・・子供用だわねえ  でも でも  ジョー??  」

彼女は足を速め ふみきりに近づいた。

「 うわ ・・・ なんて眩しいの〜〜 」

雑木林の影を抜けると 踏切は目の前 ― 炎天下にレールがぴかぴか光っている。

「 ・・・ ここは ウチの近所の踏切 よね? すばるがちっちゃい頃から

 お気に入りのあの踏切 よね? 」

フランソワーズはあまりの眩しさに 目を細めつつ足を速めた。

 

 

踏切の脇では 少し年嵩の少年とにこにこ笑顔のすばるがいる。

かんかん照りの中、二人は線路の柵に腰かけている。

「 ふ〜ん ・・・ 友達 まってるんだ? 」

「 うん!  ともだち じゃなくて〜 しんゆう なんだ〜 だいちクンは 」

「 へ〜〜〜 親友ねえ?  」

「 うん! 僕たち ず〜〜〜っと仲良しで これからもず〜〜っと仲良しなんだ♪ 」

「 ず〜っと仲良し なんてありえねえよ。 怠惰と欺瞞の連続さ 」

「 ???  たい?? ぎん? 」

「 へ・・ おこちゃまにはわかんね〜よな〜〜 」

「 ??? あ ねえ むぎちゃ のむ? まだ冷たいよ〜〜 」

少しぽっちゃりした少年は にこにこ・・・水筒を指しだした。

「 オマエのだろ?  いいよ ・・・・ 」

荷物を側においた少し年嵩の少年は ふん・・・と横を向く。

その横顔は ― 本人たちは全く気づいていないが ― 驚くほど似ていた。

「 僕のだから〜 飲んでいいよ? ウチの麦茶ね〜〜 おいしいよ? 」

「 いいのか? ホントに。 俺 教会のコだぜ? 

「 教会?? あ 僕も行くよ〜〜〜 日曜のごミサにはね!  」

「 へえ・・・ オマエのことみたことね〜けど・・・ あ 違う地区かあ 」

「 ??? そう? 」

「 ま いっけど。 ホントに飲んでもいいのか? 」

「 いいよ〜〜 まだつめたいよ〜 」

「 ・・・ あのな 俺・・・ ハーフだぜ? 」

「 は〜ふ?? 」

「 そ。 この髪と目、見な。 俺の父親は日本人じゃない。 」

「 あ 僕も〜〜〜♪ 僕のお母さんね〜 ふらんす人 なんだよ〜 」

「 え???  ・・・ そういや オマエも・・・茶色の髪と目 だ ・・・ 」

「 うん♪  僕のおか〜さんね〜 金いろのかみとあおいめ なんだ〜 

「 へ ・・・え ・・・ 」

「 むぎちゃ〜〜 のんで? はい。 」

ぽん、 と すばるは少年に水筒を渡した。

「 ・・・ ん  ありがとう ・・・ 」

彼はおずおずと受け取ると ― 素直に水筒のお茶を飲んだ。

「 〜〜〜〜 ・・・ うめ〜〜〜〜 ! 

「 でしょ? ウチのむぎ茶 オイシイよ〜〜 」

「 ・・・ ありがと。 マジ 美味かった  どっかの坊っちゃんだから

 ジュースでも入ってるのかなって思ってたけど ・・・  」

「 ジュース?  ・・・ ダメって。 お母さんが。 」

「 へ〜 ・・・ おい < しんゆう >クン、 今日は休みなんじゃね〜のか? 」

年嵩の少年は ぽん、と柵から降りた。

「 え・・・ そんなことない よ 

「 わかんね〜ぜ  さ 俺はとっとと帰らんと〜〜  ババアに怒られる 

「 あ おば〜ちゃん いるの? 僕んち はおじ〜ちゃんがいるんだ〜 」

「 ふ〜ん ババアって口うるさい婆さんさ ・・・ 俺のコレ・・・ 待ってる。 」

彼は足元の袋を指した。

「 あ お買いもの??  」

「 ・・・ 買い出し当番なのさ。  じゃ な。 あ 麦茶 サンキュ。 

「 あは ど〜いたしまして〜〜〜  」

「 じゃ ・・・ 

彼は両手に買い物袋を下げると しっかりした足取りで歩きだした。

すばるはじっと 彼の姿を見つめている。

「 ばいばあ〜〜い ・・・  あ お母さん〜〜〜 

すばるの前に ぱぱっとフランソワーズが駆け寄ってきた。

「 すばる ―  ほら 帽子。 」

「 うわお? 」

ぱふん! 彼女は息子に帽子をかぶせると ― 去ってゆく少年の後ろ姿に声をかけた。

 

「 ― ね〜〜 きみ!!  忘れものよ〜〜〜 」

「 ・・・ へ?? 」

彼は 振り返り立ち止まった。

セピアの瞳が かっきりフランソワーズを捉える。

 

  ―  どっき〜〜〜ん ・・・   フランソワーズの心臓が跳びあがった!

 

     ・・・・!  な なに??  

     なんだってわたし・・・ こんなにドキドキしてるわけ?

    

     ああ でも ・・・ あの子から視線を動かせないわ・・・!

 

ひょろり とした少年、手足がながく、セピアのクセッ毛があちこちを向いている。

すばるより 少しだけ年嵩らしいが  ― きゅっと口元を引き締め暗い表情だ。

そして かなりキツイ視線を彼女になげかけてくる。

 

     ・・・ 知ってる。 わたし この瞳を 視線を 知ってる・・・?

 

フランソワーズは懸命に目を見開き 少年の視線を受け止めた。

「 ・・・ オレに用っすか 」

彼はちょっとばかり尖った声をだす。

「 え いえ・・・ ごめんなさい そうじゃないのよ。

  ・・・   ほ〜〜ら ぼうし〜〜〜〜 ! 」

彼女は ずっと手にしていたキャップを勢いをつけて  ぽ〜〜〜〜〜〜ん ・・ と放った。

 

     すぽ。    それは両手に買い物袋をさげた少年のアタマに はまった!

 

「 !!??  うわお・・・?? 」

「 落としたでしょ〜〜〜?  君のでしょ〜〜〜 ! 」

フランソワーズは敢えてそれ以上近づかない。 ただ声を張り上げた。

少年は そんな彼女をじ〜〜っと見つめ、帽子を触り ―  に・・・っと笑った。

「  あ  ありがと〜〜〜  ・・・・ オバサン 〜〜 」

 

     え!  ・・・ お オバサン ・・・?

 

「 ・・・・ 」

「 ど〜も〜〜〜  そんじゃ! 」

彼はくるり、と向きを替えると 両手の荷物をきっちり持ち足早に去っていった。

 

     ・・・ オバサン ・・・って ・・・

     あ あんまりじゃない〜〜〜〜 ジョー〜〜〜

     わたし アナタの !

 

     ・・・ あ そっか・・・

     すばるのお母さんなら < すばる君のオバサン > だものね

  

     でも なんでこんなにショックなの???

     

 

憤懣と愛しさとがごっちゃになった妙〜〜〜な気分で 彼女はどこか見覚えがある

気もしないではない後ろ姿を じっと見つめていた。

 

     ジョー ・・・ !  やっぱりアナタなのよね・・・

     どうして 会えたのかわかならいけど・・・

 

     ああ ああ ・・・ できれば抱きしめてあげたい・・・!

     ジョー・・・  ジョー ・・・!

 

「 おか〜さん ・・ ね〜〜 おか〜さんってば〜〜〜 」

ツン ツン ・・・ デニムのスカートをすばるがひっぱっている。

「 ・・・ あ ・・・ え ? 」

やっと視線を戻せば 茶色の瞳がじ〜〜〜っと彼女を見上げている。

「 ね〜〜〜 おか〜さん〜〜  だいちクン さ〜〜〜 こないんだ〜〜 」

「 え・・・? 」

「 ねえ おか〜さん だいちクンちにでんわして? 」

「 え ・・・ ああ  そうね ・・・ 」

「 ね〜ってばあ〜〜 」

「 あ ごめんね。  ねえ すばる。 さっきのお友達・・・同じ学校の子? 」

「 え? ううん〜〜 ちがうって。 きょうかいのこ なんだって。

 でもね〜〜〜 僕たちがゆくきょうかいとはちがうんだって ・・・ 」

「 きょうかいのこ?? 」

「 そ〜いってた ・・・ そんでもって は〜ふ なんだって。

 オウチにね ババア・・・じゃない おば〜ちゃん がいるんだって 」

「 ・・・ そう言ったの? あのお友達 ・・・ 」

「 ウン。 ババアが待ってるから 急いでかえらなくちゃって。

 お買い物い〜〜っぱい もってた。 僕 あんなにもてないよ〜 すごいね〜 」

「 ・・・ そう  そう なの ・・・ 」

「 僕のむぎちゃ あげたんだ〜〜 うまい〜〜って。

 ウチのむぎちゃ オイシイもんね〜〜〜  サンキュ って 」

「 そ そう ・・・ ウマイ〜・・・って ・・・ そうよ ね ・・・ 」

 

島村家の麦茶は 毎朝大きなヤカンに煮だしてつくり、冷蔵庫に入れておく。

香ばしい味がたまらく美味しいのだ。

これは この家に皆で住み始めた時から作っている。 珍しくもジョーのリクエストだった。

「 ぼく ・・・ ウチで作る麦茶って憧れだったんだ。

 毎朝 作ってさ、冷蔵庫で冷やしてる・・・って いいよなあ〜〜〜 」

「 ティーパックのじゃなくて?  カンタンでオイシイってきくわ?  」

「 う〜ん。  あのね 煮だして淹れるとすご〜〜くオイシイよ? 」

「 そう・・・? 

最初、フランソワーズは半信半疑だったけれど 初めての日本の夏をすごすと、

完全に 麦茶ファン になっていた。

以来、 ギルモア邸の冷蔵庫にはでっかい水差しに香ばしい麦茶が冷え冷え〜〜なのだ。

 

「 僕もおと〜さんも大好きだもんね〜〜 」

「 そ そうね ・・・ おかあさんも すぴかも おじいちゃまも 皆好きよ 」

「 ウン!  ね〜〜 おか〜さん だいちクンちにでんわ〜〜〜 」

「 ああ はいはい ・・・ 」

すばるのお母さんは慌てて ポケットから携帯を取りだした。

 

 

 

  チリン チリ チリ ・・・

 

グラスの中で氷が涼し気な音をたてている。

「 〜〜〜〜〜 ん  ま〜〜〜〜  」

ジョーは 大きなグラスをほとんどイッキ飲み ― 麦茶だけど ― した。

「 ふ〜〜〜〜 ・・・・ あ〜〜〜 冷えたァ〜〜 」

「 うふふ・・・ ねえ ビールとかじゃなくていいの? 」

フランソワーズは水差しを横に くすくす笑っている。

「 ビールじゃ飲んだ後 暑くなるし ・・・ 夏にはぼくはウチの麦茶が一番さ! 」

「 うふふ・・・ あ  ねえ ジョーの夏の思い出ってなあに? 」

「 え?   夏の思い出?  う〜ん   旅行とか行けなかったしなあ  

 教会の手伝いばっかで  あんまし思い出なんてモノは ・・・ 」

「 あ〜〜  なにか出会い とか・・? 」

「 出会い?? そんなモノは ・・・     なんか夢みたいなヒトに会った  かも  」

「 え! ど どんな人?? その人・・・ キレイなヒトだった? 」

「 う〜〜ん ・・・ ずいぶん前だからなあ ・・・  はっきり覚えて・・・

 あ そうだ   おかあさん  って  あんな感じなのかなあ  って 」

「 お母さん!?    ち! 違うわよ! 」

「 ??? 

「 あ・・・ いえ なんでもないわ ・・・ そ そう・・・ おかあさん ねえ 」

「 うん。  顔かたちとかも覚えてないけど 優しい感じだったなあ〜 」

「 ・・・ 覚えてない の ・・・ あ  そ ・・・ 」

「 まあ もしかしたら夏の夢だったかもしれないしなあ〜  麦茶みたいにさ・・・

 あ〜 美味かった。 ねえ もう一杯もらえる? 」

「 え・・・ あ  はい どうぞ。 」

 

      ・・・ わたし ジョーにとっては 麦茶 なのかしら ・・・

 

トク トク トク ― 彼女は夫のグラスになみなみと麦茶を注いだ。

 

 

 

 

   

み〜〜〜ん みん みん みん みん   じ〜わ じ〜わ じ〜〜わ 

 

蝉の合唱、いや 騒音のトンネルの中を少女がひとり駆けてきた。

大きな麦藁帽子が ばふばふ揺れている。

「 あれ〜〜〜〜 ???  たっちゃ〜〜〜ん?  カケルぅ〜〜〜??

 こうく〜〜ん??  皆 どこ〜〜〜〜 」

補虫網を肩に 水筒と虫籠をバッテンに掛けて彼女はあちこち探しまわる。

「 じんじゃのもり でまちあわせ〜〜っていったのにぃ〜〜〜 」

時間、間違ったのかなあ・・・と 少女はお日様を見上げる。

 

「 おい チビ? 仲間はあっちへ行ったぜ  」

 

突然 彼女の頭上 ― 樹の中から声がした。

「 はにゃ???  だれ〜〜〜 」

「 さあな ・・・ ただ オレは30分くらいココにいたからな〜 」

ズサ ・・・ !  頭上の枝が揺れ ・・・ 中学生くらいの少年が飛び降りてきた。

「 わ! あ〜 びっくり したあ 〜〜 」

「 ― ここに虫捕り仲間は いないぜ 」

長めの茶色の前髪の間から茶色の目が に・・・っと笑った。

 

 

 

Last updated : 08,09,2016.               index      /     next

 

 

 

**********  途中ですが

あんまり暑いので ・・・ 真夏の昼の夢 ものがたり?

真っ白な光って ちょっと魔法みたい かも?