『 われてもすえに ― (2) ― 』
やゆ〜〜〜ん ・・ ゆ〜〜ん ・・・
この都の < 空 > は いつもまったりのったり揺蕩っている。
宮殿の窓辺に 若い女性の姿が見える。
金色の髪が肩にこぼれ 碧い瞳にはあまり元気がない。
「 ・・・ ふう ・・・ 」
< 彼女 > は だまって空を見上げていた。
そ ら ・・・ って。 こんな色 だったかしら
そ ら。 こんなに近いトコにあった かしら
カタン ・・・ 帳の向こうから 白い裳裾を引いた女性が現れた。
ふわり と芳香が漂う。
「 あ ・・ ひめきみさま 」
< 彼女 > はゆっくりと振り向き 居住まいを正し会釈をした。
「 リス? なにをしていたの? 」
「 ・・・ ひめきみさま ・・・ 空 をみていました 」
「 空? ふうん? なにか あった? 」
「 いえ なにも。 ・・・ でも 」
「 でも? でも なあに。 」
「 ・・・ あの 空 って。 もっとちがった色だった気がして ・・・ 」
「 あら 空はいつもあの色よ。 」
「 そう ですか 」
「 ええ そうです。 リスは酷い怪我をしたからいろいろ・・・忘れてしまったのよ。
すぐに思い出すわ 」
「 そう ですか ・・・ 」
リス と呼ばれた娘は なおも不安気な瞳を姫君に向ける。
「 リス。 お前はなにも心配せずに私の側にいればいいのよ。
ここでゆっくり休み、怪我を治すこと。 いいこと? 」
「 はい ひめきみさま 」
「 ああ ダユー でいいわ。 」
「 そんな ・・・ わたしを救ってくださった方に・・・ 」
「 いいの〜〜 私ね リスのことを新しい妹だと思っているのよ? 」
姫君は 裳裾を捌き彼女の隣に座った。
白い手で外側に跳ねる金の髪を撫でる。
「 本当に美しい髪ね。 リスの瞳の色も好きよ。 リス の名前にぴったりね。 」
「 リス ・・・ 百合の花 ・・・ 」
「 そうよ。 私だけの美しい百合 ・・・ 早く元気になってね?
一緒にこの都を巡りましょ。 」
「 ・・・ はい 姫様 いえ ・・・ ダユー様 」
「 うふふ・・・ ステキなプレゼントが降ってきたものだわ。
< うえ > から落ちてきた 私の可愛い小鳥さん♪ 」
「 わたし ・・・ 降ってきたのですか 」
「 そうよ。 大変な怪我をしていて ・・・ もうダメかしらって思ったの。 」
「 ・・・ 怪我・・・ この胸 の? 」
リスは すこし不自然に盛り上がった自分の胸に手を当てた。
分厚い布の感触が服の上からでも感じられた。
「 ああ ・・・ まだそっとしておいた方がいいわ。
この城の侍医先生がね、丁寧に手当てをしてくださったの。 名医だから安心して 」
「 ・・・ はい ・・・ ありがとうございます ・・・ でも 」
「 でも? リス には気になることがたくさんあるのねえ 」
「 ・・・ 申し訳ありません 」
「 いいのよ。 ねえ なにが気になっているの? 」
「 ・・・ はい。 わたしは ・・・ どうしてそんな酷い怪我をしたのでしょう?
< うえ > でなにをやっていたのか 思い出せないし 」
「 う〜〜ん? それは私にもわからないわねえ。
でもね リスの怪我はきちんと手当てしてあげたし 生命もとりとめたわ。
だから早く元気になってね? 」
「 ・・・ はい 」
「 元気になれば きっといろいろ思い出すわ。
今はゆっくりのんびり 私の側で過ごしてちょうだい。 」
「 ありがとうございます、 ダユー姫さま。
あの ここは ・・・ 王宮ですよね? 」
「 そうよ。 コルヌアイユの城です。 」
「 ・・・ 私の故郷の国では 王宮はいろいろな地域にあったと思うのですが ・・・
こんなにお大きな王宮って どこにあったかなあ ・・・って 」
「 コルヌアイユの城は ブルターニュの海の側 よ。 」
「 あ ・・・ ああ ブルターニュ・・・明るい海の側の地域ですね 」
「 そうよ。 あら 知っているの? リスはどこの生まれ? 」
「 わたし は ・・
」
「 フランク王国の出身なのはわかるわ。 その肌と髪は私たちの国の乙女だって
いう印ですものね。 本当にキレイな髪ねえ 」
さらり さら さら・・・ ダユー姫はリスの髪を指で梳く。
「 いえ ・・・ 姫君さまの髪が一番美しいですわ。 こんなに長くてさらさら・・・
お美しいです ・・・ 触れてもいいですか? 」
「 ええ 勿論。 どう? 」
「 ・・・ 素敵ですね 」
リスは遠慮がちに姫君の長い髪に手を当てた。
「 え〜 もっと濃い色だったらなあ〜って思うんだけど ・・・
まあ 気に入っているの。 ああ 早く元気になってね?
一緒に この王宮とお庭を散歩しましょう? どんなドレスがいいかしら〜〜 」
ダユー姫は ウキウキしている。
「 ・・・ わたし。 パリ で生まれ育ったんですわ 」
ぽつん、と リスが口を開く。
「 え? ・・・ パリ? あの・・・野蛮な北の地で?? 」
「 は い ・・・ その後は ・・・ どうしていたのか 覚えていません。 」
「 ふうん ・・・ 家族は? いたのでしょう? 」
「 はい・・・でも 両親は 亡くなって ・・・ 兄 が いました・・・
兄は ・・・ 金色の髪 ・・・ いえ 茶色 だったかしら・・・? 」
「 お兄さまがいたの? いいわねえ〜 羨ましいわあ
私は一人娘なの。 兄弟が欲しかったわ。
今は リスがいるからいいけど うふふ ・・・ 」
姫君はす・・・っとリスの頬に唇を寄せる。
「 まあ 姫君さま ・・・ 」
「 優しいお兄さまだったのでしょうねえ 」
「 はい ・・・ 兄は 空を飛ぶのが仕事・・・ そして走るのがとても速かった・・
あ・・・? 違ったかしら ・・・ わからないんです いろいろ
ごっちゃになってしまって ・・・ わからない・・・ 」
リスと呼ばれている娘は アタマを抱えて蹲ってしまった。
「 リス! 大丈夫?? 今 侍医先生を呼ぶわ! ちょっとの間、我慢してね。
ばあや〜〜 ・・・ あら いない。 いいわ 私が呼びに行きます 」
「 ・・・ あ 姫さま ・・・ 」
震えている娘を軽く抱きしめると 姫君は部屋から駆けだしていった。
白いリネンの中で 夜具よりも白く沈んだ顔で娘は滾々と眠っている。
「 もう大丈夫なのですか 侍医先生 」
姫きみは 心配そうに見つめている。
「 姫さま。 なんとか落ち着きました。 」
「 まあ よかった・・・・ でも どうして?? 命の真珠を飲んだのに 」
「 左様でございます。 このイスの都の輝石、命の真珠 を服用すれば
息絶えたモノでも 新たな生命を得ることができるのです。 」
「 ええ ええ そうね。 だからリス・・・ この娘も もう息は止まっていたけれど
真珠を飲ませたんだわ。 」
「 はい、左様でございます。 この娘は死の淵から戻って参りました。
しかし ・・・ 」
「 しかし・・・ ? 」
「 はい。 この娘は身体に機械が入っていました。 それも壊れていました。」
「 まあ ・・・ 」
「 生命の真珠 の飲むことで普通の身体の部分は蘇りました。
しかし 機械の部分は壊れたままなのです。 」
「 機械? ・・・ 身体の中に ? 」
「 はい 左様でございます。 どうしてなのかはわかりませんが。
その機械の壊れた部分が この娘の蘇った部分を苛んでいるのです。 」
「 可哀想に ・・・! ねえ その機械の部分 を直すことはできないの? 」
「 私は人間の身体を治すのが仕事でありまして・・ 機械は ・・・ 」
「 ああ そうねえ・・・ 工房の細工師に頼んでみようかしら ・・・
ねえ 侍医先生、まさかこのコ このまま・・・ 」
「 いえ いえ 姫君さま。 今は落ち着いておりますので
横になって静かにしていれば 大丈夫でございます。 」
「 まあ よかったこと ! 」
「 あとは ・・・ この都の滋養がある食べ物で身体に力をつけることです。
そして ― 彼女はこの都の人間になれます。 」
「 そうね。 それじゃさっそく 美味しいモノをたくさん用意しましょう。
それでリスが少しでも元気になれるのならばそれでいいわ。 」
「 この娘も イスの都の住人なれば平穏な人生を送ることができるでありましょう。 」
「 そうね そうね。 この王宮で私の妹として暮らすの。
そしていつか 再びイスがフランク王国の首都になった時には 」
「 はい 左様でございます、ダユー姫君さま。
姫君さまが 女王陛下にご即位なさる日であります。」
侍医先生は 慇懃に会釈をした。
「 先生 これからもよろしくお願いね 」
「 御意 」
もう一度 彼はお辞儀をするとゆっくりと退出していった。
「 ふう・・・ もうずっと ・・・ずっと待っているわ わたし・・・ 」
薄青い吐息が 天井に昇る。
「 女王には別にならなくてもいいの。 リスが側にいてくれて・・・
今 仕えてくれている皆がシアワセになってくれれば それでいいわ。 」
「 皆が しあわせ ・・・? 」
横たわっていた娘が うっすらと目を開いた。
「 まあリス! 気がついたの? え なあに? 」
「 ・・・ しあわせ を 皆のシアワセを 望んでいらっしゃいます か ・・・ 」
「 ええ ええ。 その日を迎えるために この・・イスの都で過ごしているの。
ねえ リス。 わたくしの妹 ・・・ 目が覚めた? 」
「 ・・・ 姫さま ・・・ わたしは わたしの名は ・・・? 」
「 そなたは リス・ブラン。 ( 白い百合 ) わたくしの妹になるために
< 空 > から降ってきたのよ。 」
「 妹 ・・・? ああ でもどうしてこんなになにもかもぼんやりしているのでしょう? 」
「 そなたは大変な怪我をしていたの。 忘れてしまった? 」
「 すみません ・・・ アタマの中でわたしではない声が響く時があって・・・
いろいろわからなくなってしまうのです 」
「 まあ ・・・ でもね 生命 ( いのち ) の真珠 を飲んだのだから
大丈夫。 きっと元気になってよ。 」
「 そう でしょうか ・・・ 」
「 そうよ。 さあ ゆっくりお休みなさい。 」
「 はい ありがとうございます。 」
娘は 大きな瞳を閉じるとす・・・っと穏やかな寝息を立て始めた。
「 ああ よかった・・・ そうだわ、 目覚めた時に温かい食事を用意して
おきましょう。 この都の食べ物で身体も心も ― 癒すといいわ ・・・ 」
温かい眼差しを残し 姫君はそっと寝床の側を離れた。
こんこん こん ・・・ 遠慮がちに 入口の帳が鳴った。
「 なあに? ・・・ ばあや。 」
「 姫さま! 近衛の兵の長が ・・・
」
「 ?? なにか あったの? 海は ・・・ 静かだけれど? 」
「 ともかくおでましくださいまし。 」
「 わかったわ。 ああ だれか召使いをリスの側に・・・ お願いね 」
「 はい 姫さま。 ばあやが手配いたします、ご安心くださいませ 」
「 ありがとう。 じゃ 参ります。 」
「 どうぞ。 」
カツ カツ カツ ― 靴音高く ダユー姫は執務室へ向かった。
「 隊長。 なにかありましたか。 」
「 は。 」
近衛兵の長は さっと片膝を突き 頭を下げた。
「 < うえ > から侵入したモノが。 水流が捕まえました。 」
「 この都に 入った? 」
「 はい。 姫さま。 なにものかが侵入してまいりました。 」
「 ソレは この都に害をなすもの かしら 」
「 わかりませぬ。 今のところは悪しき行いはしておりませぬ。 」
「 そう・・・ そのモノも水流に巻き込まれただけなのかもしれないわね 」
「 その可能性もあります。 」
「 他の可能性もある、ということ? アナタの意見を教えて。 」
「 は。 ― そのモノは 赤い服を纏ったオトコ なのです。 」
長はさっと顔を上げ 言い切った。
赤い服のオトコ。 ― 姫君の顔がさっと強張る。
「 ! 今 行くわ! 」
「 は。 お供いたします。 城壁の ネズミ返し に閉じ込めてあります。 」
姫君は無言でうなずくと 長を連れて執務室を出ていった。
ズサ −−−−ッ ! ゴンっ ・・・・ ズズ ・・・
「 う ・・・ くそ〜〜〜〜 ! 」
もう何回 石壁に跳ね返されただろう。 ジョーは回廊に落下したまま歯噛みをした。
「 な なんでこの位の壁が・・・ 破壊できないんだっ ! 」
トッ ・・・・! 跳ね起きて跳躍を試みたが ― 足はほとんど上がらない。
「 う ・・・ ぼくの身体は ― こんなに重かったか???
どうして腕に 脚に チカラがはいらない?? なぜ 跳べない?? 」
かち かち かち !!!
先ほどから飽きるほどスイッチを噛んではいるが ジョーの身体は一向に加速しない。
「 ダメだ・・・ 加速装置は全然稼働しない。 故障か?
だけど 海に潜ったくらいで ?? こんなこと、初めてだぞ? 」
彼はもう苛立ちを隠せない。
「 この中にフランがいるかもしれないんだ! あの不思議な流れに捕まっていれば
そうさ 最悪の事態は避けられる。 くそ〜〜〜〜 こんな石壁〜〜〜
いつもぼくなら一撃なのにッ ! 」
ガツンッ !! 殴っても蹴っても 石壁はびくともしない。
それどころか ジョーの拳は、 脚は、 どんどん重くなってきて時折
痛みまで感じるのだ。
「 ・・・ い ・・・ たい ?? ・・・ ぼくは こんな感覚すら
忘れていた ・・・ しかし なぜ?? 痛覚を遮断することもできない ・・ 」
ゴ ッ ・・・ その場に座り込んでしまった。
いや 倒れ込んだというべきかもしれない。
彼は彼自身の身体の鈍さ、 そして重さに耐えきれなくなったのだ。
「 ふ ・・・・ ああ ・・・ どうしたらいいんだ ・・・ 」
≪ フラン! フランソワーズ〜〜〜〜! 返事して くれ ・・! ≫
思いっ切り脳波通信を飛ばした。
「 ・・・ ああ ・・・ ダメか ・・・ そもそもぼくは今 通信を送れたのか? 」
≪ ・・・ だ ・・・ れ ・・・? ≫
「 え??? ふ フラン??? 」
一瞬、 彼の心の中に懐かしい、愛しい女性 ( ひと ) の声が響いた。
≪ フラン! どこにいるんだ〜〜 応えてくれ ≫
ジョーは必死に呼びかける。
・・・・・ 返事はない。
「 フラン フランソワーズ〜〜〜 あ い し て る 〜〜〜〜 ! 」
ジョーは絶叫した。 すると ―
ジョー ? わたしも わたしも 愛してるわ !
彼の心の中に彼女の声が飛び込んできた。
「 フラン 〜〜〜 ! 」
カタン。 城壁の一部がぽかり、と開き白い裳裾を引いた女性が現れた。
「 ! 誰だっ ! 」
ジョーは 瞬間的にスーパーガンを構えた。
「 お前 無駄よ、そんなモノは引っ込めなさい。 」
「 !! 」
彼はその女性の足元を狙いトリガーを引き威嚇する ・・・ はずだった。 が。
カス ・・・! スーパーガンはなんの反応も示さない。
「 な! なんなんだ??? 」
「 ふん ・・・ 私の王都、イスの都では < 存在しえないモノ > は
決して動くことはないのよ。 そのようなモノは引っ込めよ。 」
女性はぴくり、とも動かず堂々としている。
「 貴女は ・・・ ここのヒトなのですか 」
「 私は ダユー王女。 イスの都の城主です。 お前は < 上 > から
来たの。 赤い服のオトコよ 」
「 ぼくは ― 島村ジョー といいます。 この上の崖から落ちた彼女を・・・
フランソワーズを探してここまできました。 」
「 ふん ・・・ 巧みな言い訳をしてこの都に害をなそうというのではないか 」
「 え! そんなこと、ありません。 ぼくは ― フランソワーズさえ
無事に戻ってくれれば それで十分です 」
「 フランソワーズ? 」
「 ぼくと同じ赤い服を着た女性です。 大怪我をして海に落ちました。
ぼくは彼女を探して ― ここまで来たのです。 」
「 その娘は ― 王宮に拾われた時には すでに息絶えていたのよ。 」
「 ! な なんだって ・・・? 」
ジョーの顔色がさっと変わった。
「 息 ・・・ 絶えて ?? 」
「 安心なさい。 彼女は蘇ったわ。 このイスの都でね。 」
「 そ そうですか!! ああ ありがとうございます ・・・! 」
ジョーは思わず片膝を突き ぽたり、と安堵の涙を落とした。
「 でも お前が来た理由はそれだけなの? 」
「 彼女を探していただけです。 」
「 本当かしら。 赤い服のオトコは ― 信用ならないわ。 」
「 ?? なぜです? これは ・・・ ぼく達のユニフォーム、 ああ そのう
一種の軍服のようなものです。 」
「 軍服?? お前は兵士なの? 」
「 ― そう です。 」
「 この悪魔! またやってきたというの!? またこの都に害をなそうというのっ 」
「 ?? なにを言っているのですか? ぼくにはさっぱり ・・・ 」
「 とぼけるのもいい加減にしなさい!
巧みに取りいってきて赤い服のオトコに 騙された私もいけないのだけれど・・
この都は 赤い服のオトコに沈められてしまったのよ! 」
「 え ・・・ でもぼく達は 」
「 いいえ。 さあ 海の中に放りだされてたくなかったら さっさと出ておゆき! 」
「 しかし フランソワーズを 」
「 リス ― 彼女はもうこの都の住人よ。 ここで暮らすの。 」
「 そんな ! 」
カタン コツ コツ ・・・
二人の後ろで微かな音がし 白い服を纏った女性が現れた。
「 ・・・ ジョー ! 姫さま ・・・! 」
「 ! フラン !! 」
「 リス! 」
「 どこにいたんだ〜〜〜 」
「 まあ 勝手に起き出してはだめよ 」
ジョーも姫も 同時に彼女へ駆け寄った。
「 ジョー・・・ あなたの声が 聞こえたと思ったの 」
「 え? 脳波通信、届いたのかい?? 」
「 ・・・ わからない ・・・ でも 聞こえたのよ 」
「 ! そうか! ぼくもさっききみの声が届いたんだ! ほんのちょっとだけど 」
「 わたし アタマの中にジョーの声が 聞こえたわ。 」
「 脳波通信は 通じないと思っていたんだけど ・・・ 回復したのかな 」
す・・・っと姫君が二人の前に立った。
「 それは ― リス、あなたが聞いたのは どんな言葉だったのかしら。 」
「 ・・・ あの ・・・ あ い し て る ・・・って 」
「 それは 心と心の会話よ。 想い合う同士なら ― 出来るわ 」
「 そうかもしれません。 その他のコトバはよく聞こえませんでした。 」
「 ダユー王女様。 ぼくは彼女を、フランソワーズを連れてゆきます。 」
ジョーは 彼女の手をしっかりと握った。
「 この娘は 返さぬ。 この都で煮炊きしたものを口にしてしまったから。
この都の住人になったのだから。 」
「 ! そ そんな ! 」
「 ふふん。 彼女はもう ・・・ < 上 > では生きてゆけぬ。
お前はここから去りなさい。 」
「 ・・・ く ・・・! 」
「 姫さま ・・・ わたしはまだ なにも ― 」
金の髪の娘は 静かに言った。
「 なに??? 」
「 まだ なにもいただいてはおりません。 」
「 ・・・ ! ・・・ そ そう なの ・・・。 」
ダユー王女の頬に あゑかに透き通った笑みが浮かんだ。
「 では リス。 ― お帰り。 」
「 姫君さま!! 」
「 姫さま〜〜〜 」
近衛の長と ばあやが同時に声を上げた。
「 愛し合うモノ同士を ― 引き裂くことはできません。 」
「 ありがとうございます、姫さま 」
「 リス。 お前の住んでいる都 は 栄えている? 」
「 はい。 わたしの故郷 パリでは ― 皆が愛し合って生きています。 」
「 そう ・・・ それならわたしの都・イス は まだ眠っていられるのね。 」
「 はい ・・・ 」
「 私も ― 愛するヒトが 欲しいわ 」
「 姫様。 必ずその方はいらっしゃいますわ。
そして たとえ別々になってしまっても 必ず再び巡り逢えます。 」
「 そう? 」
「 はい。 わたし達のように ― 」
さよなら ― ・・・ 白い手がそっとフランソワーズの頬に触れた。
ザザザザ −−−−− ザザザ −−−−
穏やかな波が 寄せては返し、そしてまた寄せてくる。
ジョーとフランソワーズは その海を崖の上から眺めていた。
気がつけば二人は そこに立っていたのだ。
「 ぼくは ― あの時 初めて加速装置を呪ったよ。 」
「 まあ なぜ? 」
「 きみを救えないのなら どんな能力だって無意味だからさ。 」
「 ― ジョー ・・・! 」
「 愛してる よ フラン 」
二人はひっそりと口づけを交わした。
≪ お〜〜い お二人さ〜〜ん いい加減して戻ってこ〜〜い ≫
「 あ ・・・ ピュンマからよ? 」
「 ! 忘れてた! さあ 帰ろう。 」
「 ええ。 ねえ ジョー? 」
「 うん なに 」
「 いつだって 一緒よ ジョー 」
われてもすえに あはむとぞおもふ
ふと 耳を澄ませれば海底から鐘の音が響いてくる
・・・・ 不思議なイスの都 淋しい王女
彼らは明日も明日も 復活の時を待っているのだろうか
***************************** Fin. ***************************
Last updated : 12,06,2016.
back / index
*********** ひと言 *********
黄泉比良坂 ( よもつひらさか ) は ありませんし〜
ジョー君も 桃を投げたりしませんのです はい。
( わかるヒト、わかって〜〜〜〜 (+_+) )