『 星祭の夜には 』
コトコトコト −−− ジュジュジュ ・・・・! がこ〜〜ん ・・・・
その部屋は とてもとても賑やかだった。 そして ものすごくいい匂いでもあった!
「 うわ〜〜〜 ・・・ ここがきっちん ? 」
「 すご〜〜い すご〜〜い おなべがせんめんきみたい! うわ〜〜 」
「 うわ〜〜〜 いいにおい〜〜 でも なんにもみえないよ? 」
「 おんなじおなべがいっぱい ・・・ どうして? 」
部屋の外から ちっちゃな影がふたつ、背伸びして覗き込んでいる。
「 はいはい〜〜 嬢やに坊〜〜 ここがおっちゃんの店のきっちんやで。 」
「「 張伯父さん〜〜〜 」」
陽気な声が 背伸びしている二人の頭の上から降ってきた。
「 どうや? 嬢やのおうちよか、な〜んもかんもおっきいやろ? お鍋はんもお玉はんも ・・・
ええ匂いか? でもどっこにも御馳走は見えへんやろ? 」
「「 うん! ど〜してェ ?? 」」
「 今はな、 仕込み 言いましてな。 御馳走の用意してるんや。
御馳走になる前のもんがな、 あん鍋の中にた〜〜んと入ったァる。 」
「 ふうん ・・・ あれ おなべなの? 僕 バケツかとおもった〜〜 」
「 ほっほ・・・ ウチはなあ、坊? た〜〜〜〜〜〜くさんのお客はんのために
た〜〜〜んとお御馳走を用意しますやろ、あんくらいおっき鍋やないと 間に合わへんのんや。」
「 ふうん ・・・・・ 」
「 へえ〜〜〜 」
子供たちはひたすら感心して 中華飯店 張々湖 の厨房を覗き込んでいた。
「 ほ〜〜い? boys and girls ? 見学はもういいかなあ〜〜? 」
またまた陽気な声が 後ろから響いてきた。
「 あ グレート伯父さん〜〜 」
「 けんがく、したよ〜〜 」
「 店が忙しくなる前に ちょいと手伝ってほしいことがあるのだがなあ〜 」
「 おてつだい?? わ〜〜〜 なになになに〜〜 」
「 僕! きゅうり、きれるよ! じゃがいも むけるよ! 」
「 おっと 〜 二人とも宿題はもう終っているかな? 」
「「 おわった!! 」」
「 グレートはん。 オヤツの前にちゃ〜んと終らせてるで。 」
「 おう そうか。 それじゃ ・・・ このお手伝いを頼めるなあ〜 ほら これだ。 」
「「 ??? なになに〜〜〜 」」
ガサリ ・・・ 二人の前にとりどりの色紙が積まれた。
「「 わあ おりがみだあ〜〜 」」
「 左様。 厚紙もあるぞ〜 金銀ラメ色 も揃ってる。 」
「 あ わかった〜〜 つる つくるの? せんばづる 」
「 ・・・ え。 せんばづるゥ〜?? ・・・ ちょっとなあ〜〜 ・・・」
「 千羽鶴? ははは すばるは得意かい? 」
「 うん! 僕ねえ〜〜 わたなべ君とおりがみ、とくいなんだ〜〜〜 」
「 そうか そうか。 折り紙もいいが 今日はちょっと違うんだ。 」
「 え。 なに〜〜 ?? アタシ ・・・ おりがみじゃない のがいい。 」
「 おう すぴか。 今日はなあ〜 飾りモノ を作ってほしいのだよ。 」
「 かざりもの?? 」
「 左様。 来週の日曜日は なんの日かな? 学校で習っただろう。 」
「 つぎのにちよう? 〜〜〜〜 あ! わかったァ〜〜 」
「 僕も! わかったあ〜〜〜 あのね 」
「 まって! すばる〜〜 いっせ〜〜の〜 」
「「 たなばた !!! 」」
「 ほい、 大当たり。 」
チビっ子混声合唱に グレート伯父さんはつるつるの頭を またつるりん、と拭った。
「 ほな、ワテの店で預かるで。 」
どん、と腹の据わった声が請合った。
「 え ・・・ だって大人〜〜 お店、忙しいでしょう?? 」
「 そうだよ。 商売の邪魔はできないよ。 」
「 な〜〜んの。 ウチとこが忙しいのんは 昼御飯と夜や。
昼は 学校やろ? 夜は 奥にいてもらうワ。
ジョーはん、フランソワーズはん? あんさんらのチビさんらァは よう聞き分けはるし。 」
「 左様 左様。 夜は我輩が面倒を見るぞ。 それに二人の頼みたいこともある。 」
「 グレート・・・ でも そうしたらお店の方が ・・・ 」
「 大丈夫や て! ウチとこやて、よう働きはるバイト君やらバイト嬢やらたんとおるで?
グレートはんには 要所要所を〆て貰たらそれでよろし。 」
「 でも ・・・ 」
「 グレート、 大人。 本当にお願いしてもいいですか。 」
それまでじっと聞いていたジョーが 静かに口を挟んだ。
「 はいナ。 今回、ワテらは < 子守部隊 > で ミッション参加や。 」
「 左様 左様。 なにも共に轡を並べて戦うだけが戦友ではないはずだ。 」
「 ありがとう ・・・ グレート 張大人。 すぴかとすばるを一晩お願いします。 」
「 ジョー ・・・ 」
「 フラン。 これがベストな選択だよ。 」
「 ・・・ ええ でも ・・・ あの子たち ・・・ 邪魔をしないかしら・・・
二人きりで ・・・大丈夫かしら ・・・ 」
「 それは よ〜〜〜〜く言って聞かせる。 それにそろそろ独立も必要さ。 」
「 左様 左様。 小さな冒険に乗り出して ― 子供は成長するものさ。 」
「 そやそや。 任せたってや〜〜 それよかギルモア先生のこと、たのんまっせ。 」
「 了解。 それでは < 後方支援 > お願いします。 」
ジョーは立ち上がるとぺこり、と頭を下げた。
「 お願いします。 学校からまっすぐお店に帰って ・・・ 夜中には迎えに行けますから。
ちゃんと言って聞かせておくわ 泣いたり騒いだりしてはだめ って・・・ 」
「 いや かまわんよ。 な〜〜に 子供は泣くものさ。 」
「 そやそや。 妙〜〜に大人しゅうされるとな、 ナニかんがえとるんや?? と不安やで。 」
「 そ そう ・・・? まあね、二人とももう小学生だから そんなに泣いたりはしない、と
思うけど ・・・ 」
「 そ〜やから。 余計な心配せんと! 安生、 ギルモア先生をお護りしたってや。 」
「 ありがとう、大人 ありがとう グレート! 」
「 ありがとうございます。 ・・・ 博士のガードは任せてね。 」
「 はいナ。 無事に会議に御案内しはって ・・・ アルベルトはんとジェロニモはんに
引き継いでや。 」
「 左様 左様。 ・・・ っと? ミスター・赤毛 はどうしておるのかな?
今回のミッションはヤツの地元じゃないか。 」
「 ええ ・・・ そうなんだけど ・・・ 」
フランソワーズが少し困った顔で ジョーを振り返った。
「 あ ・・・ うん ・・・ ホントに目立っちゃ困る < ミッション > だろ?
彼には 監視カメラでじっくり追跡してもらうことにしたよ。 」
「 監視カメラァ?? わっはっは ・・・ アイツがそんなモン、悠長に眺めていると
思ってるのか? 」
「 ・・・ それは ・・・ そうなんだけど さ。
それで ・・・ 一応 表だって顔をださない、って取り決めしたんだ。 ・・・ けど。 」
「 ?? けど ?? 」
「 ・・・ うん ・・・ ともかくヤバい状況になったら彼にも応援を頼む。 」
「 ほう〜〜 そんなら安心やで〜〜 」
「 まあ そんなことがない事を祈っているけど。 」
「 ははは ・・・ そりゃ万人の願いであるな。 」
重苦しい雰囲気の話し合いに やっと明るい笑いが見えてきた。
今回のミッション ― いや ミッション とまではいえない規模ではあるが。
NY で開催される ロボット・サイボーグ などの開発に携わる人達の国際シンポジウムに
ギルモア博士が参加することとなり ・・・ その護衛、ということなのだ。
「 護衛? そんなモンは要らんよ。 だいたいワシなんぞ、もう前世紀の遺物・・・
覚えているヒトもほとんどおるまい。 リタイアした老学者が傍聴しているのか、と見られるのが
せいぜいじゃろうて。 心配は不要じゃ。 」
ご本人は至って気楽にからからと笑うのであるが 現実にはアイザック・ギルモアの動向を
鵜の目鷹の目で探っている組織はいくらでもいる。
彼の存在はまだまだ十分に <高価な標的 > なのだ。
「 博士。 でも 万が一のことがあったら大変ですから。 ぼく達が護衛として 」
「 要らん 要らん。 大袈裟にしてくれるな。 」
博士はてんで取り合ってくれなかった。
ジョーとフランソワーズは 困り果て、世界に散る仲間たちに相談した。
「 困ったなあ ・・・ 博士は秘密裏に注目の存在なのに。 」
「 ふふん ・・・ 博士らしいな。 仕方ない、俺達も <秘密裏> にガードするしかない。 」
「 え ・・・ 影からガードするのかい アルベルト。 」
「 おいおい? 子供じゃないんだぞ? ごく自然に助手か秘書・・・って形で
常に俺達の誰かが付き添うんだ。 ご本人もそれなら納得だろう。 」
「 あ ・・・ そうだねえ。 それじゃ ぼくとフランが 」
「 おいおい? そのシンポジウムの期間は二週間なんだろ? 子供たち、どうするんだ。 」
「 あ ・・・ う〜ん ・・・ 」
「 分担しよう。 お前たちでともかく現地までガードしてくれ。 その後 ― 」
「 なるほどね ・・・ じゃあ出入国のあれこれ手続きは 」
「 ああ イワンが喜んで小細工するだろさ。 それで 分担だがな 」
「 うん うん? 」
― たちまち全世界に連絡が飛び ゼロゼロ・ナンバーたちのガード網が成立した。
「 わかったわ。 初日にお供しましょう。 子供たちも一日なら二人だけでもお留守番、出来るはずよ。 」
「 フランソワーズはん? ワテらに任せなはれ。 」
「 ・・・ 大人 ? 」
「 左様 左様。 我らは店があるから <ガード網> に参加できんのだよ。
その代わり・・・と言ってはナンだが。 チビさん達のお守りは引き受けるぞ。 」
「 グレート ・・・だってお店が・・・ 」
「 そやから。 店で嬢と坊をお預かりしまっせ。 安心しなはれ。 」
「 左様 左様。 チビさん達には ちょっとのお留守番 と説明すればよいよ。 」
・・・・ という次第だったのである。
「 ジョー。 ドルフィンを使うのか? 」
「 うん。 他の交通手段じゃ 日帰りは無理だからね。 」
「 ま そりゃそうだ。 ドルフィン号なら朝発てば ― 」
「 うん。 無理のない日程で博士を送れるし その日の夜には帰ってこられる。 」
「 ベスト・チョイスだな。 では現地でジェロニモ Jr. と待っているぞ。 」
「 よろしく 〜〜 アルベルト。 それじゃ ― 」
「 ああ ― じゃ 」
共通回線で <ガード網計画> は詳細が決定し ― たちまち発足した。
そして ― ある朝 ・・・
「 じゃあね、 帰りは張伯父さんのお店の方に帰るのよ? ウチじゃないのよ。 」
「 わか〜〜〜りました! お母さんってば 何回同じこと、いうの〜〜 」
「 ・・・だって 心配なんですもの ・・・ 」
「 お母さん。 僕 ちゃ〜〜んと ヨコハマまで行けるよ。 まずね 〇時〇〇分の各停のね〜
三りょうめの四番どあ からのってね〜 」
「 はいはい それはよ〜くわかりました、すばる君。 」
いわゆる <テツ> 予備軍である息子の講釈を 母は慌ててとめた。
「 お母さ〜ん 大丈夫。 アタシたち、ちゃんと張伯父さんトコでお留守番 してるから。 」
「 まあ さすがにお姉さんね、すぴかさん。 今晩中にちゃんと帰ってくるから・・・
晩御飯頂いて 眠かったら寝ていてね。 」
「 アタシ! 起きてまってる! 」
「 僕も〜〜〜 まってる〜〜 」
「 二人とも〜〜 明日も普通に学校だから ・・・ 夜更かししたらお寝坊しちゃうぞ?
寝てていいよ、ちゃ〜んとウチまでつれて帰るから さ。 」
「 ね♪ お父さん ・・・ オンブしてくれる〜〜 」
「 おう いいぞ。 あ〜〜でも 寝ぼけて暴れるなよ? もう大きいんだから な。 」
「 えへへへ ・・・ でも! あんしんして。 ね すばる! 」
「 う うん ・・・! ぼ 僕〜〜 泣かないから。 」
「 当ったり前でしょ〜〜 アタシたち、 ようちえん生じゃないよ! 」
「 それでは。 すぴか に すばる? お留守番を頼むね。
これはお父さんとお母さんからの お願い だよ。 」
「 そうよ。 ちゃんとお留守番 が あなた達の < お仕事 > です。 」
「「 はい! 」」
すぴかとすばるは 100点満点のお返事をし、 < いってきま〜〜す > をして。
機嫌よく登校していった。
「 ― よし。 ミッション開始 だ。 」
子供達の姿が視界から消えたとき、ジョーは009の声で言った。
「 了解。 」
フランソワーズはエプロンを外し 003の声で応えた。
短時間のミッションに 二人は集中し ― 間も無く密かにドルフィン号が発進した。
ガサゴソ ガサゴソ ちょきちょき ・・・ 色紙の山が二人の前に出来ている。
< たなばたのお話 > は もう小さな頃から知っていた。
飾りを作るのは幼稚園に行く前から お母さんに教わっていろいろ作っていた。
意外にもお父さんの方が 飾り作り は上手だった。
お父さんは鋏やノリを使わずに するすると星型やら舟やら・・・を折ってくれた。
「 おとうさん すご〜〜い〜〜〜 」
「 じょうず〜〜 おとうさん ・・・ 」
娘も息子も目をまん丸にして 父の手元を見詰めていたものだ・・・
「 たなばたって。 で〜と♪ のおはなし、でしょ。 」
「 で〜と?? 」
「 そ。 ひこぼしクンとおりひめさん。 で もって雨だとあえないんでしょ。 」
母譲りのキレイな金髪をぎっちぎちのおさげに編んだムスメが はっきり言った。
「 あえない〜〜〜って泣くのでしょ? これ ・・ なみだの雨?? 」
「 ほうほう ・・・ よく知っているなあ すぴか。 」
「 ようちえん でならったもん。 ね〜〜 すばる? 」
「 え ・・・ あ〜 そうだっけ? 僕、 わっかとかあみあみとか作りたい〜〜 」
「 さよか〜〜 二人ともよう知ってるアルな。 そんなら話は早い。
七夕はんにな〜 おっちゃんとこでは 特別メニュウ 作るねん。
その飾りをなあ 二人に作ってほしいんや。 」
「 わ〜〜 おしごとだァ〜〜 いいよ〜〜 なに、つくるの? 」
「 まずは 定番でわっかかざり、やな。 嬢や、でけるか? 」
「 でっきる〜〜〜 ♪ 」
「 張おじさん〜 とくべつめにゅう ってなに? ほしのてんぷら? 」
「 ふっふっふ〜〜〜 七つの具ゥがのっかった冷し中華 や。
麺をなあ〜 天の川 にみたてるんやで。 」
「 うわあ〜〜 僕も食べたい〜〜〜 」
「 ええで〜 ほんなら七夕の日にお父はんらと来なはれや。 嬢やも やで。 」
「「 うん♪♪ 」」
それで ・・・ 店の奥の部屋で双子たちは輪飾り やら 網飾り をつくり始めた。
「 ・・・ っと。 切れたよ〜〜〜 すばる〜〜 」
すぴかが ぱさり、と切り分けた細長い色紙を机の上に広げた。
「 ウン ・・・ じゃ これ、つなげるね。 ・・・ すぴか はじっこがぜんぶ ぎざぎざ★だよ〜 」
「 あはは 〜〜 それはね〜〜 イナズマ〜〜〜 ど〜〜ん♪ 」
「 ・・・ わかったよ。 」
「 うふふ〜ん アタシ、切ったから〜すばる、アンタ つなげてね〜〜 」
「 ・・・ わかったよ。 」
すばるはぷっくりした指で 案外器用に細長い紙を輪にしてつなげてゆく。
「 じゃ〜 アタシはアミアミ〜〜 つくろっと。 え〜と? みずいろ がいいかな〜 」
「 なんでみずいろ? 」
「 え。 だって 川 なんでしょ。 あまのがわ。 」
「 お星様の川 だよ? ・・・ みずいろ かなあ〜〜?? 」
「 川 だもん、いいの! 川がどど〜〜ん・・・ってながれてるんだ〜〜 」
「 でもって あっちとこっちにいるんだよね〜 ふたりがね〜 」
「 そ! ひこぼし と おりひめ。 」
ざざざ〜〜〜 っと すぴかは <網飾り> を作ると 並べてびろ〜〜んと伸ばしてみた。
「 ほ〜ら 川 〜〜〜 」
「 そんなにひっぱったら きれるよ。 」
「 い〜の! ・・・ だ〜けど。 どうしてふたりはべつべつなの〜〜 」
「 え なにが。 」
「 だ〜から ひこぼし と おりひめ。 らぶらぶ〜なのにさ〜 別々じゃん。 」
「 ちがう学区にすんでるんだよ〜 きっと 」
「 学区ゥ??? なんで〜〜??? 」
「 なにがですねん。 」
白い厨房用の服をきりり、と着付けた大人が顔を覗かせた。
「 張伯父さん〜〜 あのね、 たなばたさんち はどうしてべつべつにいたの? 」
「 ほえ? ・・・ ああ 牽牛はんと織女はんあるネ。 」
「 ・・・ ぎゅう? 」
「 牽牛はん と 織女はんや。 牽牛は彦星はんで織女は織姫さんのことやで。 」
「 ふう〜〜ん?? それ えいご? 」
「 うんにゃ。 おっちゃんの国の言葉や。 」
「 そうなんだ? あ あのね らぶらぶ〜〜 なのにどして。 べつべつなの?
いっしょに住んでないの? 」
「 あの二人はなあ〜 仲良うしすぎて ・・・ いっつも二人で遊んでばっかいてはってな。
お仕事を忘れててん。 ほいで、 天のお父はんにきつ〜〜ゥ 叱られたんや。 」
「 え ・・・ しかられたの? 」
「 そうやで。 お仕事、ほっぽらかして二人でいちゃいちゃデートしてはってん。
ウシの世話やら 機織もせんでなあ。 」
「 ふうん ・・・ 」
「 お父はん、ごっつう〜怒りはって。 一緒にいてたらあかん!
デートできるのんは 一年にいっぺんだけや! て・・・二人をあっちとこっちに別々に住まわせた んや。」
「 あっちとこっち? 」
「 天の川の こっち側とあっち側 や。 」
「 ふ〜〜〜〜ん ・・・? 」
「 ほんでなあ 七月の七日だけ、二人はデートでけるのんや。 」
「 一年に一回だけ なんてかわいそうだね。 」
「 けんど しょうもあらへん。 お仕事、さぼってはった罰やさかいな。 」
「 お仕事って なに。 」
「 二人のお仕事か? 牽牛はんはウシ飼いや。 織女はんは機織がお仕事や。 」
「 うしかい ってなに。 」
「 牛飼いうたら ウシさんのお世話をしはるヒトのことやで。 織女の織姫はんはなあ
機織の名人はんやった。 」
「 ふう〜ん ・・・ ? 」
すぴかとすばるは ちょこっとオデコにシワを寄せて考えた。
牛飼い ― ウシ ・・・って。 ホンモノは見たことがない。
二人が知っているウシさんは・・・ チーズの包装紙についてる <笑いウシ> の絵。
これはお母さんの国のチーズなんだって。 お母さんも 笑いウシのチーズって呼ぶ。
機織 ― ハタ ・・・って。 なんだろ。
ふれ〜ふれ〜!って 運動会で振った・・・ アレ? あ 万国旗 かなあ?
アレをつくるヒトなのかなあ? 一年中赤と白のハタをつくっていたのかなあ・・・
「 どうや。 二人ともわかったか? 」
「 ・・・ふうん ・・・ ねえ ウチのお父さんとお母さんは〜ちゃ〜〜んとお仕事、してるんだよね♪ 」
「 そうやで。 今頃は二人してギルモア先生のお手伝い中や。 」
「 うん♪ だ〜からお父さんとお母さんは〜 らぶらぶでずっといっしょにいちゃいちゃしてるんだね〜 」
「 うん! そっだね〜〜 ちゃんとお仕事 お仕事〜〜 」
「 左様 左様。 ・・・で 諸君のお仕事は如何かな? 」
グレートがひょい、と顔をだした。
「「 できた〜〜〜 みてみて〜〜〜 」」
「 お〜〜 どれどれ ・・・・ 」
「 みてみて グレート伯父さん! このあみあみ がねえ〜 あまのがわ! 」
「 わっかかざり〜〜 いっぱいつくったよ〜 ほら! 」
すぴかとすばるは 色紙の作品をいっぱい手にして見せている。
「 これは これは ・・・ うん、色とりどりでいいねえ〜 じゃ、あとで笹につけるかな。 」
「 あ! そうだね〜〜 ようちえん でもやったよ! 」
「 ふっふっふ〜〜 おいちゃんトコは幼稚園とは違いまっせ〜〜
う〜んとでっかい竹、もろてきて そんで嬢と坊が作ってくれた飾りやら お客さんの短冊やらを
ぎょうさん吊るすのや〜〜 」
大人が食器を乗せたワゴンを押して 部屋に入ってきた。
「 お客はんら 喜びはりまっせ〜〜 うわ〜〜キレイやなあ〜〜て。 」
「 わあ〜〜〜 すごい〜〜〜 」
「 すごい〜〜〜 あ その日に とくべつめにゅう でしょ? 」
「 ほうほう 坊はよく覚えてはってんなあ〜 そやで、 七夕はんの日ぃに特別メニュウの
冷し中華を振る舞うで。 」
「「 わあ〜〜い♪ 」 」
「 さ ほんなら ココ、片して。 そろそろ坊たちは晩御飯やで。 」
「 うわ〜〜お♪ すばる! ほら そのきれっぱし、すてて! 」
「 ・・・ これ、 まだ使えるもん。 あ すぴか その折り紙 すてちゃだめ。 」
「 え〜〜 だって しっぱい〜〜 なのでしょ 」
「 でも すてちゃ だめ。 こうやって ・・・・ こうやって・・・シワシワのばして 〜〜〜
わっかかざり に使えるもん。 」
「 坊 ・・・・ アンタ、ええお嫁はんになるで〜〜 」
「 ?? およめさん? 僕 お母さんがいいな♪ お嫁さんにするなら僕のお母さん♪ 」
「 ・・・ は??? 」
「 ねえ 張おじさん〜〜 ナイショでおしえてあげるね〜 うふふ・・・ 僕ね〜〜
女の子の中ではァ〜〜 お母さん がいっちばん 好き♪ 」
「 ・・・ はあ さよか ・・・ 」
「 うん♪ あ〜〜 すぴか〜〜 それ、すてちゃだめ〜〜 まだつかえるよ〜 」
すばるはとんでいってゴミ箱の中から 新聞紙を回収した。
「 え〜〜 だってェ ノリだられけじゃん〜〜 ふるしんぶん だし〜 」
「 けど まだつかえるもん。 ねえ 張おじさん? 」
「 あ は ・・・ そやなあ〜 ほんなら ソレ、おっちゃんが預かっとくワ。 」
「 うん! はい、 どうぞ? 」
「 へェ おおきに ・・・ さ さあ〜〜 御飯やでェ〜〜 」
「「 わあ〜〜い♪ 」」
「 ほ〜〜い♪ まずは諸君らの大好物〜〜 たまごスープ〜〜 」
ほわ〜ん・・・といい匂いと一緒に グレート伯父さんが大きな鍋を持って入ってきた。
― カチャ ・・・・
客用寝室のドアがそう〜〜っと開いた。
「 ・・・ 嬢やと坊は どないアル? 」
「 うん? ああ 二人ともぐ〜〜っすり ・・・ 白河夜船ってヤツさ。 」
「 さよか〜 」
「 ふふふ ・・・ お父さん達を待ってる! なんてすぴかは頑張っていたけどな、
なに、ベッドに入る前から もう眠くてふらふらしてたしなあ・・・ 」
「 まあ コドモたら、そないなモンやろ 」
「 すばるもなあ 持ってきたお気に入りの電車の本とか広げる前に寝てしまったよ。 」
「 ほっほ ・・・ 二人とも機嫌ようしてくれはってて ええ子ぉやなあ・・・ 」
「 左様 左様 ・・・ ミッション組ももう帰路に着いたころだろ? 」
「 ハイな。 さっき定時連絡、入ったで。 万事順調 やて。 」
「 そりゃよかった。 そんじゃ 我輩らは ― 戦場の仕上げ だな。 」
「 ほっほっほ。 もう一山〜〜やで。 気張ってやァ〜〜 」
「 ・・・ やれやれ 相変わらず人使いが荒いなあ〜〜 」
― コトン。 ・・・ 静かにドアが閉まって 伯父さん達は <戦場> に戻っていった。
ゴ −−−−−− ・・・・・・ ゴ −−− ゴ −−− ・・・
いつもとエンジン音がちがう。 これは気のせいではない。
フランソワーズは 数分間能力のレンジを最大限し調査・観察していた。
・・・ これはヘンね。 メカ関係の故障でも、制御関係でもない・・・
と いうことは ― 人為的なミス ? いえ パイロットの問題 ってこと?
一瞬 躊躇したが、彼女はすぐにレーダー手席を立ち、メインパイロット席の側に立った。
「 ― ジョー 。 」
そのひと言で十分だった。
「 ・・・ わかってる。 だが このままオートで突っ込むと ・・・ レーダー網に引っ掛かる。 」
「 レーダー網? だっていつもと同じ侵入ルートでしょう? 」
「 ああ。 だけど 最近 ・・・ あの辺りの事情がややこしくなってきたのさ。 」
「 事情? ややこしい? 」
「 うん。 」
ジョーは ぼそっと呟くと 目指す地域の詳細な地図 ― あらゆるレーダー、ソナー網を
網羅してある特殊地図を 画面にアップした。
「 ・・・ まあ? こんなに ? 随分と密になっているわ ・・・ 」
「 ・・・ うん。 」
「 わたし達 ・・・ 日常に埋もれ過ぎていたわね。 」
「 だ ね。 自分達の住んでいる地域の < 事情 > にも疎くなっていたんだ。 」
「 ともかく ― なんとかここを掻い潜らないと ・・・ 約束どおりに今夜中にお迎えに行けないわ。 」
「 うん。 それで、提案があるんだけど。 」
「 ― 提案? 」
009は 淡々と説明を展開した。
< ミッション > の担当部分は無事に終了した。
朝方、 博士とともにドルフィン号で出発し 垂直上昇 の超ショート・カットをして
アメリカでのシンポジウム会場に到着。
博士は 余裕をもって会議に参加していった。
地元組のジェロニモ Jr. と 応援隊の アルベルトにもスムーズに護衛をタッチ交代できた。
久々にイワンとも短時間だったけれど話をし ― ジョーとフランソワーズは直ちに帰路についた。
「 ・・・ ふう 〜〜〜 慌しかったけど なんとか予定通り 作戦終了、だね。 」
「 そうね。 あ ・・っと? 時間通りに帰国したら 作戦完了 よ。 」
「 あは そうだ そうだ。 張々湖飯店でチビ達をオンブして連れて帰って ・・ 」
「 ふふふ 明日の朝、 < おはよう > と < ただいま > を一緒に言って 」
「 それをもって 当ミッションの完了とする ってことだね。 」
「 了解〜〜 」
二人は 父と母の顔になって微笑みあった。
「 イワンも元気そうだったし ・・・ もう少しゆっくりできるのだったら一緒に公園とか行って・・・
お喋りを聞いてあげられたのに ・・・ 」
「 また チャンスはあるさ。 もっとのんびりした < チャンス > がね。 」
「 そうね。 ・・・ では 帰還作戦に入ります。 航路チェック、ステルス・チェック 開始します。」
「 よろしく。 これより ドルフィンは <垂直上昇 >、 後、 音速を超えます。 」
「 了解。 」
すぐに 009 と 003の顔のもどり、二人は淡々と仕事をこなしていった。
― あと少し。 目的地 ・・・ というか懐かしい我が家のある地域 は目前なのだ。
その時になって ― 問題が発生したのだ。
「 ぼくが事前調査を怠ったのが原因なんだけど ・・・ 」
「 ジョー。 それはあなたの責任ではないわ。 索敵はわたしの担当領域よ? 」
「 索敵・・って ぼくらの居住地域だぜ? 」
「 それでも。 障害となるなら 索敵 と同じだわ。 ともかくこの失策は結果的に
わたし達自身に返ってきたのよ。 」
「 だ ね。 おっともう時間がない。 急いで説明するよ。 」
「 ・・・・・・ 」
彼らの居住地域近くに S・・・原市があり、宇宙航空関係産業の特区に制定されていた。
以前からある宇宙科学開発機構のキャンパスを始めとして 関係施設が数多く進出してきた。
その結果 ・・・ レーダー等のサーチ網がぐんと精密になってきていた。
「 異星からの侵略者〜〜 じゃあないけど。 無用の騒ぎは避けたいからね。 」
「 ・・・ そう ね ・・・ 」
「 それで だな。 ぼくが飛び出して加速する。 あちこちにある <目> を引きつけておく。
きみはその間にドルフィンを海に降ろしてくれ。 通常のコースでいい。」
「 !? ひきつけておくって ・・・ 標的になるってこと? 」
「 大丈夫だよ。 少なくともこの国では狙撃されたりはしないから。 」
「 でも ・・・ ジョー。 009には飛行能力はないわ。 いくら跳躍力があっても ・・・ 」
「 大丈夫だって。 レーザーも実弾も飛んでこないんだ、なんとか する。 」
「 なんとかって・・・ 万が一の事があったらどうするの?!
・・・ 誰も助けてくれないのよ?? 損傷しても 博士はお留守なのよ? 」
「 わかってる。 もう時間がない。 それじゃドルフィンを頼む。 」
ジョーはパイロット席から立ち上がった。
「 ジョー! そんなの ダメよ ! 」
フランソワーズは彼の腕をきゅっと掴んだ。
「 離してくれ。 時間がない。 」
「 いや。 もしものことがあったら ・・・ わたし、生きていられないわ。 」
「 フランソワーズ。 」
がし・・・っと大きな手が彼の腕を捉えている彼女の手を包んだ。
セピアの瞳が まっすぐに見詰めてくる。 微笑の影などどこにも ない。
「 いいかい。 ぼくは。 ぼくの子供たちを決して親ナシっ子にはしない。 」
「 ・・・ ジョー ・・・・ 」
「 ぼく達は絶対に子供たちとの約束を守る。 その為に 行くんだ。 」
そして・・・と彼は穏やかな口調で続ける。
「 これはすぴかとすばるの父親としての命令だ。 ドルフィンを操縦し生還するんだ。 いいな。 」
「 ― 了解。 ジョー、あなたも。 」
「 ふふん? ぼくを誰だと思っているんだい? 最強のサイボーグ戦士 009 だよ?
きっちり任務をこなして きっちり予定通り帰還する。 」
「 では 009? 003の目と耳でしっかりフォローします。 」
「 ヨロシク。 じゃ ― ドルフィンの上部ハッチを開けておいてくれ。 」
「 了解。 」
「 ・・・・・・ 」
ちょっと手を上げて ちょっとだけ笑みをみせ ― 009はコクピットから出ていった。
ゴ −−−−− ・・・・・ !!
ジョーの耳元を いや全身の周りで大気が音をたてて流れてゆく。
「 ・・・ っ ・・・と ・・・! これは かなり ・・・! 」
体勢を変え なるべく落下速度を緩くするようにする。 それでも速度はなかなか落ちない。
さすがの防護服も 完全に熱を遮断できない。 じわじわと体温が上がってゆく。
「 ふ・・・ん ・・・ 大気圏内でもかなりの摩擦熱があるんだな っつ 〜〜 」
ちょいとこれはヤバい かも ・・・ と背筋に冷や汗が落ち始めた 時 ―
お父さんッ !! がんばれ〜〜!!
不意に ― この世で最も大切な声がひとつ、 聞こえた。
「 え?? すぴか??? いや ・・・ そんなはずない・・・ 」
お父さんッ ! アタシ お父さんがアタシのお父さんじゃなくちゃ
イヤなんだからねッ !!
「 あ は?? なんだ すぴか〜〜 ? 」
おと〜〜さん〜〜〜 !
僕、 おと〜さんとおか〜さんが 僕のおと〜さんとおか〜さん なのが いい!
「 ぷぷぷ・・・ すばる〜 ますます意味不明だぞ? 」
少々呆れて苦笑して ― 冷静になれた。 気持ちが切り替わったのかもしれない。
「 よ し ! 再度加速して落下コースを変えるぞ! 」
― カチッ。 009は奥歯のスイッチをオンにした。
「 ふ ふん ! こんなトコで燃えてたまるかって ! 」
「 フラン〜〜 すぴか 〜〜 すばるッ!! 今、 帰るからなっ 〜〜〜 !! 」
ふわ〜ん ― 涼しい風がほっぺたを撫でていった。 いい気持ちだ ・・・
「 ・・・ あれ ・・・? ここ ・・・ 張伯父さんのお店 ・・・ じゃない よね? 」
すぴかは 起き上がるときょろきょろ辺りを見回した。
さわさわさわ ・・・・・
風にのって葉擦れの音と 小さいけれど水の音が聞こえる。
「 え ・・・ここ、 外 ・・・ なんだ・・? 」
知らない場所なのだけれど 怖い とは思わなかった。 初めての場所なのに、知っている気がした。
「 あれえ・・・ 川があるのかなあ? でもウチの近所に川、ないよねえ? 」
すぴかはそろそろ暗闇の中を歩き出した。
暗闇 といっても真っ暗ではなく、夜の帳は濃い藍色をしていた。
どこからから淡い光が足下を照らしてくれるので、 すぴかは難なく川の方に進んでゆく。
水音がだんだん大きくなってきて ― 潅木の茂みをくぐると 目の前に川があった。
「 へえ〜〜 なんか明るいよ? あ?? 川がひかってる?? 」
さわさわ ・・・ さわさわ ・・・・
「 うわあ・・・ キレイなお水だあ〜〜 ?? あれ。 みずいろのお水 ? 」
川岸は狭いけれど石ころがごろごろしていて 水のすぐ側まで行けた。
川は ― 澄んだ水がたくたくたく ・・・ と流れ時々水色の網が伸びたり縮んだりしていた。
「 ・・・ アタシが作った 天の川 みたいだよ? ここ ・・・ 天の川?? 」
すぴかはしばらくぼ〜〜っと川面をながめていた。
初めてきたトコだけど。 なんか知ってる場所 みたいな気がするし・・・
「 ! あ。 すばる!? すばる〜〜〜〜ゥ?? どこ〜〜〜〜 」
すぴかは特別におっきな声で呼んで 辺りを見回した。
すぴか 〜〜〜〜 ・・・・ 僕 ここ !
「 あ! すばるだっ ね〜〜〜! すばる〜〜 こっち来て! 川のそば ! 」
「 僕も〜〜 川のそばにいるう〜〜〜 」
「 アタシも川のそばにいるよ〜〜〜 」
「 ・・・ すぴか いないよぉ〜〜?? 」
「 すばるこそ いないじゃん〜〜〜 ?? ・・・ あ もしかして。 」
「 もしかして? あっちとこっち? 」
「 みたい。 ねえ おうだんほどう ない? 渡してくれるヒト、 さがそ! 」
「 ・・・ わかったよ・・・ 」
すばる ( すぴか ) の 声が聞こえるだけで ずいぶんと安心できる。
「 だ〜れか いないかなあ・・・ 大人のヒト〜〜 う〜〜ん ?? 」
すぴかは川岸を歩いてゆくと 今度は草地になってきた。
も 〜〜〜〜 ・・・・
突然 とっても大きな声が ― でも なんかの〜んびりした声が聞こえた。
「 ?! うわ??? な なんの声?? 」
すぴかはびっくり仰天 ・・・ でも ぱっと声がしたほうに駆けていった。
「 だれか いる〜〜 ?? 」
「 おい こら〜〜 こっちこいよ。 ・・・ あ 脅かしてごめんな。 」
草地の中におっきな 動物をつれた ・・・ 茶髪のオトコのヒトがいた。
「 !? おとうさんっ !? 」
き〜りばったん すっとんとん ! き〜りばったん ・・・
突然 とっても変わった音が ― でもなんか楽しそう〜〜な音が聞こえた。
「 ・・・ な なに〜〜 」
すばるはびっくりしたけど おそるおそるその音の方に歩いていった。
川からは少し離れたけれど 草地がひろがっていて気持ちがいい。 なにか大きなモノが見えた。
「 だれ?? だれか いる? 」
「 あら? だあれ? こんな時間に ・・・? 」
草地の中におっきな機械みたいな 機械じゃないみたいなモノあって ・・・
その前には金髪のオンナのヒトがすわっていた。
「 あ〜〜〜 おかあさんっ !! 」
「 へえ ・・・ すぴかちゃん っていうんだ? 可愛い名前だねえ。 」
「 えへ♪ すぴかってね、星の名前なんだよ〜 」
「 星の? それはステキだなあ。 ぼくはね 牽牛・ひこぼし。 牛飼いさ。 」
「 ・・・ お父さん と違うのかなあ〜〜 」
すぴかはじ〜〜〜〜っと。 <けんぎゅう>さんの顔を見詰めた。
「 お・とう さん ってヒトは知らないけど ・・・ そんなに似てるのかい。 」
「 うん! そっくり〜〜 」
そう ・・・ けんぎゅうさん は セピアのクセッ毛で やっぱり赤っぽいセピアの目だった。
にこにこ優しそう〜に笑ってて ・・・ すぴかをおっきな動物の背中に座らせてくれた。
「 わあ〜〜 これが ウシさん? 」
「 そうだよ。 ぼくの大事な相棒さ。 」
― も〜〜〜〜〜 ・・・! ウシさんはまた鳴いて すぴかの方を見上げて・・・ 笑った。
あ ! やっぱり 笑いウシ さんだ! チーズの絵と同じだもん。
「 ねえ おとうさ・・・じゃなくて けんぎゅ〜さん。 ここで何してるの〜 」
「 え ・・・ うん ・・・ 迷ってるんだ。 」
「 ?? まいご? 」
「 あ いや そうじゃなくて。 今夜 ・・・この川を渡るべきか・・・って。 」
「 わたってどうするの? 」
「 え ・・・ うん。 向こう岸に恋人が待ってるんだ。 」
「 え〜〜〜 じゃあ 渡ればァ?? 」
「 ・・・ うん ・・・ でも。 そんなこと、彼女には迷惑かもしれないし ・・・
一年、会ってないから ・・・ その間に別の恋人がいるかもしれないし ・・・ 」
「 え〜〜〜 そんなの、聞いてみなくちゃ わかんないじゃん?? 」
「 ・・・ うん ・・・ でも。 そんなこと、聞いてもいいのかな・・・
彼女に迷惑かも ・・・ 」
「 え〜〜〜 彼女って おりひめ さん? 」
「 うん。 織女・おりひめ さん、 さ。 」
「 な〜んだ! そんならめいわくじゃないよ! おりひめさん、まってるよ〜 」
「 そ ・・・ そうかな・・・? 」
「 そう! だから〜〜 はやく行ってあげなってば〜〜〜 」
ぐい・・・っとすぴかは けんぎゅうさん の背中を押した。
「 ・・・ よ よし ・・・! すぴかちゃん ありがとう〜〜 あ あとは ゆ ゆうき ・・・ 」
けんぎゅうさん は とととと・・・っと川岸に下りていった。
「 まあ すばる君っていうの? ステキな名前ね。 まあ〜〜かわいい ・・・
わたしが好きなヒトに似てるわ ・・・ 」
そのオンナのヒトは白いキレイな手で すばるの髪を丁寧に撫でてくれた。
すばるはう〜っとり・・・いい気分になってきた。
「 ・・・ おか〜さん ・・・ 」
「 ? おか・さん ってヒトは知らないけど ・・・ わたしと似てるの? 」
「 うん、 そっくり。 おか〜さ・・・ あ お姉さんは? 」
「 わたし? 織女・おりひめ よ。 」
「 あ〜〜 おりひめさん なんだあ〜〜 あ! じゃ それ ・・・ < はたおり > ? 」
すばるはおりひめさんが座っている 機械じゃない機械 をじ〜〜っと見た。
「 そうよ。 これでね、機 ( はた ) を織るのがわたしのお仕事なの。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ 川のそばでおるの? 」
「 え ・・・ ええ ・・・ あのね すばる君。 わたし ・・・迷っているの。 」
「 おうち、かえれないの? 」
「 え ・・・ そうじゃなくて。 ここで待ってていいのかしら・・・って。 」
「 だれか くるの? 」
「 ええ ・・・ 向こう岸に恋人がいて 来てくれる・・・と思うんだけど 」
「 まだこないの? 」
「 ・・・ そうなの。 」
「 ふ〜ん じゃあ おか〜さ・・・じゃなくて おりひめさんが行けば? 」
「 行ってもいいと思う? すばる君・・・ 」
「 うん。 おむかえにゆけば? おそ〜〜い!! って よくすぴかがむかえにくるもん。 」
「 すぴか? 」
「 僕とすぴか ふたごなの。 」
「 まあ〜〜 ステキ♪ わたしも可愛い双子の子供が欲しいなあ〜〜 」
「 大丈夫。 かわいいふたごのこども、生まれるから。 」
「 え・・・ そ そう?? それなら ・・・ わたし、 行くわ! 」
「 うん。 いってらっしゃ〜〜い! 」
「 ・・・ っ あとは! 勇気だけッ !! 」
おりひめさん はふわふわした綺麗ななが〜いスカートをひょい、とたくし上げた。
「 ひこぼしさ〜ん がんばってよ!
アタシ! おとうさんとおかあさんがアタシたちのおとうさんとおかあさん じゃなくちゃイヤなんだから! 」
すぴかのきんきん声が聞こえる。
「 へ??? お父さん が お母さん ?? 」
「 うん! 僕も! お父さんとお母さんは! 僕たちのお父さんとお母さんなんだもん!
おりひめのおねえさ〜〜〜ん がんばれ〜〜 」
楽しそうなすばるの声も聞こえてきた。
「 ・・・・?? よく わからない けど ・・・ 」
ざぶざぶざぶ ・・・ ざぶざぶざぶ・・・
「 あ 織女・おりひめ さん〜〜 」
「 ・・・! 牽牛・ひこぼしさんっ ! 」
二人は川の真ん中で 出会った。
「 迎えにきてくださったのね・・・・ 」
「 ここまで ・・・ 来てくれたのですね ・・・ 失礼! 」
「 きゃ ・・・ うふふ ・・・ ステキ〜〜 」
ひこぼしさん はするり、とおりひめさんを抱き上げた。
「 すぴかちゃ〜〜ん すばるく〜〜〜ん 会えたよ〜〜 ありがとう〜〜〜 」
双子たちの耳に ひこぼしさんとおりひめさんの声が聞こえてきた ・・・
「 ・・・ 〜〜〜 ん〜〜〜 よかった ね ・・・・ 」
「 ん〜〜〜 ・・・ よかった ァ ・・・・ 」
父と母の、それぞれの背中で 子供たちがむにゃむにゃ・・・言っている。
「 ?? なんだァ? 寝言なのかな ・・・ 」
ジョーは微笑んで 眠っている娘をゆすりあげる。
「 うふふ ・・・ 二人して同じ夢でも見ているのかも・・・ね? 」
フランソワーズもにっこりして ずん・・と重くなった息子を背負いなおした。
コツコツコツ ・・・ カツカツカツ ・・・
夜道の二人の足音が 潮騒の合間に響いている。
あの角を曲がって 坂道を登れば ― もうすぐ もうすぐ 楽しい我が家なのだ。
「 あは ・・・ ミッション完了 だな。 」
「 ええ ・・・ 完了 ね。 ご苦労様でした ジョー ・・・ 」
「 きみも ・・・ なんとか間に合いました。 チビたちの声援のおかげ・・・かな。 」
「 そうかも ・・・ 大人とグレートにもちゃんとお礼できたし。 」
「 うん。 なあ ・・・ 七夕には皆で 大人スペシャル を食べに行こうよ。 」
「 いいわね。 ― あ ・・・ ほら。 流れ星 ・・・! 」
「 うん? あ ・・・・ キレイだね ・・・ 」
「 ・・・ ええ ・・・ 」
七夕の夜は きっと晴れるにちがいない ― ジョーとフランソワーズはそう思った。
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Last updated
: 07,02,2013. index
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ひと言 ************
七夕も近いので ・・・ 【 島村さんち 】 というより おとぎ話?
あの屋敷からの星空は 本当に素晴しいでしょうねえ・・・
笑い牛 ・・・ la vache qui lit っていうチーズについている笑顔の牝牛さんの絵デス。