『 プリマヴェーラ・・・! 』
小高い丘の中ほどに。 登りきるすこし手前の日だまりに。
一本の桜が ある。
麓には千本の並木が そして頂上の広場には百本の群れが
賑やかに誇らかに 枝を伸ばし 葉を茂らせ 季節には見事な花の海をつくるが
その一本は いつも ひとり。
それでも春には可憐な花を咲かせ ・・・ ひっそりと散ってゆく。
その一本は いつも ひとり。
いつのころからか そこに根をはり ・・・ ひっそりと守っている。
「 わあ・・・ 凄いわ! この辺りってまるで真冬みたい。 」
「 ははは・・・ フランソワ−ズ、 <真冬> はよかったのお。 」
「 ふふふ、そうですねえ。 いくらここいらがウチよりも内陸だからって・・・
もう四月に入っているんだよ。 」
後部座席でギルモア博士が笑い声をあげ、ジョ−の声まで一緒になった。
「 あ・・・ あら。 だって。 ほら、見てごらんなさい?
残雪があんなに・・・ あの岩場にはツララが見えるし・・・ ほら、沼は半分以上凍っていてよ。 」
思わず口にでてしまった感想を笑われて、フランソワ−ズは耳の付け根まで真っ赤にしている。
それでも窓の外を熱心にながめ、さかんに目に映る<真冬>を指差している。
「 そや。 フランソワ−ズはんの言わはるとおりや。 笑ったりしたらあかん! 」
「 ・・・ 張大人 ・・・ 」
博士の隣で張々湖が 団子っ鼻を倍くらいに膨らませていた。
「 <真冬>なんや。 ほんに、や〜っと四月の声、聞いたァ思うとったのに。
ココは真冬なんや。 ・・・ そやから ワテらはここに来たんや。 ・・・ちゃいますか。 」
「 そうじゃのう。 その四月の<真冬>を調べにきたのじゃった。
ふむ・・・・ 立ち枯れている樹もおおいの。 これでは小動物にも被害は及ぶじゃろう・・・ 」
一転、表情を引き締め、ギルモア博士も景色の観察に余念がない。
「 ここからスノ−・タイヤに切り替えます。 少し揺れます。 」
ジョ−が手元のスイッチをいくつか操作する。
ガクン ガクン ・・・ 軽い衝撃で車全体が揺れた。
「 ・・・ 完了。 冬バ−ジョンになりましたからね、どんな <真冬> でも大丈夫です。 」
ジョ−の運転で車は再び滑らかに進み始めた。
湘南の海に近いギルモア邸付近では すでに満開の桜が散り始める季節となった。
張大人の特製弁当をもってくりだす 恒例のお花見もすませ、ギルモア邸には
春のまったりした日々が始まっていた。
そんなある朝。
まだ誰もでかける前に玄関のチャイムが鳴った。
「 は 〜 い ・・・ どちら様? あら、張大人・・・ 」
「 ギルモア博士! 助けておくんなはれ! 」
ぽかぽか陽気のなか、 珍しく張大人が声を荒げて玄関にあらわれた。
「 あら・・・ お早うございます、張さん。 どうなさったの? 」
「 フランソワ−ズはん! 博士は? ご在宅でっしゃろか。 」
「 ええ、ええ。 いらっしゃってよ。 ・・・今、 朝御飯の最中だけど。 」
「 アイヤ〜〜 えろうすんまへんな! な〜んや興奮して起き抜けに店を飛び出してきてしもうた。
そやな。 みなはん、まだ御飯の時間やなあ・・・ 」
「 ふふふ・・・ 誰かさんはまだお休みですけどネ 」
「 おお 大人。 朝から元気じゃのう。 」
「 博士、 お早うさんです。 」
にぎやかにリビングに入ってきた大人にギルモア博士はコ−ヒ−の湯気の向こうから声を掛けた。
「 はい、お早う。 どうしたね? 」
「 そうアル! それがでんな〜 ・・・あ、朝御飯の途中でっしゃろ。
ほな ワテが美味しいデザ−トでもチャチャっと作りますよって。 」
「 まあ、うれしいわ〜〜 朝からデザ−ト? でも ・・・材料がなにもないわ? 」
「 ほいほい・・・ フランソワ−ズはん、ちょいと冷蔵庫 拝見・・・
・・・ ほ。 これだけあれば充分やで。 ほな、キッチンを拝借しまっせえ。 」
「 はい、どうぞ。 ・・・・ あら。 やっと最後の一人がお目覚めのようよ? 」
ぱったん ぱったん ぱったん ・・・ ぱったん
スリッパの音が止まったり 進んだりしながら のんびり聞こえてきた。
どうも・・・ 足音までもが眠そうである。
「 ・・・ふふふ ・・・ 我が家の寝坊大王の登場じゃのう。 」
「 本当に ・・・ こんなに寝起きの悪いヒトだなんて思ってもみませんでしたわ。 」
「 ? イワン坊かいな? 」
「 いいえ。 彼の方がまだ寝起きはいいのよ。
・・・ほら、<最後に来たヒト> は 毎朝やっぱり最後に現れるの。 」
「 最後・・・? 」
・・・・ かた〜ん ・・・
リビングのドアが ― ドアまでもがゆっくり開きぐしゃぐしゃのセピア色の頭が現れた。
「 ・・・ お早う ・・・ ございま〜す ・・・ふぁ〜〜 」
「 お早う、ジョ−。 」
「 おお、やっと起きたかの。 お早うさん。 」
「 あいや〜〜 ジョ−はんかいな。 また、今日はどこかへもうおでかけかア 思うとったアル。 」
ううう〜〜んと大きな伸びをひとつ。
それでもまだ眠そうな目をごしごしこすり やっとジョ−はリビングを見回した。
「 ・・・ お早う・・・ あれ? もしかして張大人・・・ ? ぼく、寝ぼけてるかな・・・ 」
「 ワテあるよ! ジョ−はん! <お早う>じゃないアル時間やで! 」
大人が ばん!とキッチン・テ−ブルを叩いている。
働き者の彼にとって最早 朝とは言いがたい時間なのだ。
「 さあ! ワテが今、あんさんのためにスタミナ中華粥をこしらえますよってに。
はよ、顔洗うて来なはれ。 ほいでとっとと食べて、出かけまひょ! 」
「 ・・・ んん? あれ・・・ 今日 なにか予定、あったっけ?
あ・・・ フランソワ−ズゥ、買い物の約束した・・? 」
「 まあ、いいえ。 そうねえ、大人? 出かけるってどこへ。 」
「 助けてくれの、すぐ出かけるの・・・っていったいどうしたのじゃ? 」
「 ・・・ あ ・・・ ふぁ〜〜 春は眠いねェ・・・・ 」
ギルモア邸の住人達は怪訝な表情で 張々湖のまんまる顔を眺めている。
・・・ ばん!
もう一回、 派手にキッチン・テ−ブルが鳴った。
「 山奥村へ! 山神洞のある村へ!! 」
「 ・・・ さんじんどう? どこなの、そこ。 」
「 山奥村アル。 さ! ささささ・・・ 博士もフランソワ−ズはんも!
はよ、支度しはってや。 ジョ−はん! はよ、朝御飯お食べ。 ほいで・・・・出発や! 」
「 ・・・ はあ ・・・??? 」
一同は ?? を飛ばしつつ、大人の勢いに押し捲られともかく準備を、と
自室に引き上げていった。
「 寒いトコやよって! ちゃ〜んとあったかい恰好、しといてや!! 」
二階へ声を張り上げると もう一回、深々と息をすった。
そして
目の前のソファで二度寝の楽しみを貪っている茶髪のワカモノを怒鳴りとばした。
「 ・・・ ジョ−はんッ!!! 寝坊は1000万の損でっせェ〜〜 !! 」
バリバリバリ・・・・
ジョ−の運転する車がアイス・バ−ン状態の道路を登ってゆく。
「 うわ・・・ これ、本当に<真冬>だな。 それも北国の真冬だ。
いくら山間部の奥とはいえ・・・ 四月の本州ではありえないよ。 あ、揺れるよ〜〜 」
「 きゃ・・・! ジョ−、スノ−・タイヤにしてよかったわね。
博士? お寒くありませんか。 もうすこし暖房を強くしますね。 」
「 ・・・・ いやア ・・・ ありがとう。 へ・・・クショイ!! 」
張大人に言われるままに車を走らせ、 一同は目的地の 山奥村付近までやってきていた。
<異変>は 村の手前ですでにもう起こっていた。
ずっと幹線道路を進んでいた頃は花びらが時折舞う、まさに春爛漫の陽気だった。
何回か細い道に外れ北上してゆくにしたがって周囲の様相が変わってきた。
桜がまだ蕾、というのなら当たり前であるが・・・ まだ花芽すらでていない。
ごつごつした裸木や、枯葉が残る木が目に付き始めた。
「 もっと先かい。 」
「 はいな。 このまま進むアルね。 」
「 なんだか・・・ 変じゃない? 春が遅い・・・というカンジじゃないわ。
そう ・・・ まだ春じゃない、このあたりってまだ 冬 ・・・? 」
「 そうじゃなあ。 ちょいとこれは妙だ。 いくら山間の地とはいえ、もう四月じゃぞ。 」
「 そうアル。 ほいで ワテの店に山菜が来いしまへんかった。 」
「 山菜 ? 」
「 はいな。 蕗の薹 やら タラの芽ェ やら。 この国のみなはんが好まれる春の使者や。
毎年、山奥村の農家さんにお願いして送ってもらっていたアル。
それが 今年は一本も、蕗の薹ひとつ、手ェにはいらんかったんや。 」
はあ〜〜 と大人は深く溜息を吐いた。
「 あら。 でも中華料理に山菜って使うの? 」
「 フランソワ−ズはん? ワテはな、その国でその時期に皆はんがよろこびはる食材を使うて
美味しい <張大人の料理> を作る、いうのが夢なんや。
このお国のお人らが春の山菜が好きや〜〜言わはったら・・・ それを使いますがな。 」
「 ほうほう・・・ まさにこれぞ 食文化の王道だな。
いや・・・ 閑話休題。 それで、その山菜が来ない、とは採れなかった、ということかの。 」
「 アイヤ〜〜 さすが博士! その通りアル。
ほいで。 いつかのキノコの事件、覚えてはりますか。 あの<秋>の件と一緒や、と思うたです。 」
「 ・・・ おお! そんなこともあったなあ。 」
「 ああ、そうでしたね。 あの時は確かにキノコだった。 」
「 なあに? キノコだの秋だの・・・・って。 」
うんうん・・・と頷き合う男性陣の間で フランソワ−ズひとり怪訝な顔をしている。
「 そうか。 あの時・・・ きみはパリに帰っていたのじゃないかな。
大人のお店に 契約している農家から全然キノコを送ってこない年があったんだ。 」
「 そうアル。 キノコなしに中華料理は出来へん。 ほいで・・・博士とジョ−はんと一緒に
やっぱりこないな風に調査に行きましてん。 」
「 まあ そんなことがあったの。 それで・・・ 原因はわかったの? 」
「 ・・・ うん。 やっぱり裏でアイツらが絡んでいてね。 都心を破壊してその後の復興事業の利益を
狙っていたのさ。 そのために強力な冷却装置を隠していたんだ。 」
「 そうなの・・・ 相変わらず卑劣ねえ・・・ 」
「 うん。 だから今回の似たようなことじゃないかと睨んでいるのだけどね。 」
「 そうじゃなあ。 ・・・ しかし、この辺りは大きな水脈もなさそうだぞ。 」
「 ええ・・・ 小さな沼やら池が点在する程度ですね。 フランソワ−ズ、川の源流とか・・
近辺の地下に豊かな湧き水とかあるかい。 」
「 えっと ・・・ ちょっと待ってね。 範囲を広げてみるわ。 」
003が探索機能をフル回転している間に 車の周囲はますます<真冬>になって来ていた。
積雪は深くなり、白一色の世界である。
「 ・・・ と。 これ以上、この車では無理だな。 四駆でも転がしてくればよかった。 」
「 無いわ。 10キロ四方周辺と地下もサ−チしてみたけれど大きな水脈はありません。 」
「 ありがとう。 ふむ・・・ それなら何の目的で・・・? 」
「 根雪を仕舞うといて、夏に独占販売する気ィやろか。 天然雪や、いうて・・・ 」
「 まさか・・・ 少し、車を降りて調査してきます。 博士、寒いですからここで待機していてください。 」
「 ふん! あまり年寄り扱いせんでほしいの。 なんのためにここへ来たというのじゃ。 さあ、行くぞ ! 」
「 あ・・・ はいはい。 それじゃ・・・・ 」
ギルモア博士は勢いよくドアを開け 踏み出そうした。
ゴゴゴゴ ・・・・・・ ・・・・ !
低い唸り声のような音と共に足元がびりびりと揺れ始めた。
「 なんやねん? 地震やろか。 なんや、えらく腹に響く音やな・・・ 」
「 いや。 ・・・地震の揺れとは少し違うな。 」
「 博士、中へ戻ってください。 外は危険です。 」
「 ほい。 そうじゃな。 」
よっこらしょ、と博士が座席に戻ったとたんにフランソワ−ズが声を上げた。
「 ・・・ あ! ヒトが! ジョ−、雪崩にヒトが巻き込まれているわ! 」
「 どこだ? 」
「 この先・・・ 1キロほど登った所。 あれは・・・ 氷河?? 」
「 よし、詳しい位置は後から送ってくれ。 」
「 了解。 」
シュ ・・・ っと独特の音がして ジョ−の姿が消えた。
その青年は 迫田正志 ( さこた ただし )と名乗った。
ジョ−が雪崩の中から危うく救出した人物は この地の活性化事業に従事しているという。
「 迫田さん。 あなたはこの<真冬>現象をどう思われますか。 」
「 ・・・・ どうって ・・・ 異常気象なんじゃないですか。 」
「 そうですけど・・・ 地元では皆さんなんと? 」
「 そや! この村は冬は寒いけど早春の蕗の薹やらヨモギやらツクシやら・・・春の便りは
毎年ちゃ〜〜んと届くトコやった。 それがどないしてん。 」
「 ・・・ さあ ・・・ 僕には・・・ 」
迫田青年はぼつぼつとコトバ少なである。
事業所の建物でようやく人心地ついたのだが、自分を救ってくれた人々に彼はあまり興味はないらしい。
「 どうもありがとうございました。 もう・・・大丈夫ですので・・・ 」
帰ってくれ・・・と言いたいのをなんとかこらえている風なのだ。
日頃は温厚な張大人も機嫌を損ね 眉間に縦ジワをよせている。
「 あ・・・ 迫田さん? いろいろ聞いてすみませんのう。
ワシらは この村がいつまでも雪、それも大雪で覆われているとききまして・・
少々調査に来たのですよ。 このオトコは料理人で・・ こちらの山菜が彼の料理には欠かせんのです。 」
ギルモア博士がおだやかに口を開いた。
「 ・・・ はあ。 そうですか。 それは・・・ 」
「 来て見れば 雪どころかこりゃ・・・小氷河に近いですな。 木々も立ち枯れているし・・・
雪崩までおきた。 あなたは地域の活性化を目指しておられるようですが
なにか ・・・ 変わったことをご存知ありませんか。 」
青年もさすがに博士の問いかけにはイヤな顔はしなかった。
特に熱心、というほどでもないがやっと彼は普通に話し始めた。
「 去年は秋がやってくるのが早かったようです。 村の人々は例年よりも1ヶ月は早く
木々の葉が染まりはじめた、と言っていました。 」
「 ふむ ・・・ ここ数年、日本全体としては平均気温は上昇していますな。 」
「 ・・・ 日本だけではありません! 地球全体の問題でしょう! 」
いきなり、迫田青年は口調を荒げ声を上げた。
「 あ・・・・ いや 失礼しました。 ともかく ・・・ この地域は一足はやく冬になったのです。」
「 ・・・ ほう ・・・? 」
「 失礼します。 コ−ヒ−が入りましたわ。
ああ、すみません、勝手にキッチンを使わせて頂きました。 」
フランソワ−ズが いい香りと共に入ってきた。
「 ありがとう。 あ ポットはぼくが持つよ。 」
「 ジョ−、ありがとう。 」
ジョ−がフランソワ−ズの手からポットを受け取った時 ・・・
・・・ ガタン!!
迫田青年が椅子を蹴って立ち上がった
「 ・・・ 香織! ・・・・ あ・・・・ す すみません・・・ 」
「 あの ・・・ なにか? 」
「 い、いや ・・・ ちがう ・・・ しかし・・・! 」
「 迫田さん・・・? 彼女がなにか。 彼女はフランソワ−ズ、ぼく達の仲間です。 」
訝しげに見つめるジョーの視線にも気付かず、青年はフランソワ−ズをじっと見つめている。
「 ・・・ フラ ・・・ ンソワ−ズ ・・・? ・・・あ、 ああ・・・ 」
「 初めまして、フランソワ−ズ・アルヌ−ルといいます。 どうぞ宜しく。
あの、身体が温まりますから・・・ コーヒーを淹れてきました、どうぞ? 」
「 え・・・ あ。 すみません。 ヒト違いです ・・・ どうも ・・・ 」
「 わたし、 お知り合いの方にでも似ていました? 」
「 ・・・・ いや。 忘れてください。 」
ぷつっとコトバをきると 迫田青年は再び俯いて口も噤んでしまった。
「 ・・・ そうですか。 さあ、温かいものでも飲みませんか。 」
「 ぼく達、この一帯を調査したいのですが。 構わないですか。
迫田さんも調査中に雪崩に遭ったのでしょう? 」
「 ・・・ さっきはありがとうございました。 積雪の測定に行って足を滑らせました。
あなた方も ・・・ 調査するのは自由ですが、気をつけてくださいよ。 」
それじゃ・・・と口の中でひくく呟くと青年は 席をたった。
「 あ・・・ 迫田さん。 この事業所、すこし使わせてもらってもいいですか。 」
「 どうぞ。 なにもありませんよ。 」
素っ気なく言い捨て、彼はそのまま出て行ってしまった。
「 ・・・ なんやねん! ヒトの親切を・・・ 」
「 張大人、 いいじゃないの。 あのヒトは無事だったんだし。
わたし達は調査を始めましょうよ。 別に禁止されたわけでもないわ。 」
「 そやな。 ・・・ 博士、ジョ−はん、そうしまっか。 」
「 ・・・ ふ、 む・・・? 」
ジョ−は腕組をしたまま、迫田が出て行ったドアを見つめていた。
「 そやかて。 あのお人、なにやらフランソワ−ズはんのこと、じ〜っと眺めてはったなァ
シツレイおまへんか! なんとのう、こう・・・けったくそワルいお人やなあ。 」
「 ははは・・・ まあ、オトコは皆美人には弱い、ということだ。
どれ、それではワシらは調査を続けよう。 」
「 はい。 あの雪崩のあった地区、あの付近の下に山神洞があるそうです。 」
「 ほっほ。 ほな・・・ いつかの< 秋 >の事件と一緒で そこに冷却装置でも隠して
あるのん、違いますか。 」
「 ああ、あの時は ・・・ そうそう、入り口に大仰なハリボテが仕掛けてあったの。 」
「 ハリボテ? 」
「 そやったそやった。 な〜んや近づくと ぬ〜〜〜っと大蛇が鎌首擡げましてん。 」
「 ・・・ 大蛇? 」
「 そや。 ヤマタノオロチ、いう怪物がこの国の神話におますのんけど・・・ あんなんちゃいますか。
なあ、ジョ−はん。 ・・・ ジョ−はん? 」
「 ・・・ え ・・・あ、ああ。 なんだい大人 ? 」
張大人は黙ったきりのジョ−に声をかけた。
彼は一応話の輪に加わってはいたが、じっと足元の一点をみつめている。
「 ほ! 困りまんな! リ−ダ−のあんさんがぼ〜っとしてはっては。 」
「 ジョ−、なにか気になることがあるの? あのヒト、迫田さんが・・どうかして? 」
「 ・・・ いや。 多分、ぼくの気のせいだろう。
うん。 それじゃ調査を再開しよう。 あの雪崩のあった地区に行ってみよう。 」
「 そうね。 暗くならないうちに ・・・ あら? まだ5時前なのに・・・? 」
フランソワ−ズが指差す窓の外はすでにとっぷりと真冬の夜になっていた。
「 ほう? 妙じゃの。 普通、この季節にこの時間がはまだまだ明るいはずじゃ。
どんなに緯度の高い地域でも これは・・・ おかしいのう。 」
窓の外の闇に 博士も怪訝な顔である。
「 やはりおかしいですね。 なにか人為的に手を加えているのではないかな。 」
「 ほな、前の時みたいなでっかい冷凍装置でもあるのんかな。 」
「 いえ・・・ それらしいメカは見当たらないの。
ず〜っとサ−チしたのだけれど。 それにこの付近には大規模な水脈はないの。
小さな流れとか沼がせいぜいよ。 」
「 とにかく・・・ 行ってきます。 ああ、博士。 外は凄く冷えてきましたから・・・
ここに待機していてください。 フランソワ−ズ、きみもここに居たまえ。 」
「 あら! わたし、ちゃんと防護服、着ているわ。 わたしも行くわよ。 」
「 いや。 ここに残ってぼく達が送るデ−タを博士に開示してくれ。
そして、ぼく達は博士の分析結果をきみから受け取るから。 」
「 ・・・ いいわ。 本当なら一緒に行きたいけど・・・ 」
「 ほっほ。 わるいアルな、フランソワ−ズはん。
大丈夫、あんさん大事なお人は ワテがこの炎でばっちり守りますさかい。 」
ドン!と大人は胸を叩き一瞬 紅蓮の炎を吹き出してみせた。
「 ははは、そういうこと! <真冬>に勝てるのは炎だからね。 それじゃ・・・ 」
009と006は もうすっかり暗くなってしまった<真冬>の中に出て行った。
「 この村だけ真冬・・・なんてこと、有り得るのですか? 」
「 いや。 自然には考えられん。 温泉の地熱でその地域だけ温かい・・・などということはあるが、
逆はのう。 それも今年急に・・というのはますます作為的な<なにか>が原因だろうな。 」
「 ・・・ まあ・・・ ここだけ冬を閉じ込めて どうするつもりなのかしら。 」
「 う〜ん・・・ それが謎なんだが・・・ なにか装置のようなものは無いのだな? 」
「 本当に・・・・ なんにも見当たらないですわ。
山神洞の上は厚い積雪だし。 さっきの雪崩で倒れたのかしら・・・なにかアンテナがあるけれど。 」
「 ・・・ アンテナ? それはどんなカタチのものだね。 」
「 え? ・・・・あ、ジョ−? いいわよ、デ−タを送って。 」
009たちから観測デ−タが届いたのだろう、フランソワ−ズは傍受と出力に集中し始めた。
「 ・・・ と、これが今とどいたデ−タです。 」
「 どれ・・・ ふむ・・・? 」
博士は小さなモバイルの画面にじっと見入っている。
フランソワ−ズがインプットしたデ−タを読み取っているのだ。
「 ・・・ なるほど ・・・ ふむ ・・・・ 」
「 あら? はい、どうぞ〜〜 」
事務所のドアが半分開き、先般の迫田青年が顔を覗かせている。
「 迫田さん? あの、なにか? 」
「 いえ・・・ あのう。 すみません、ちょっと来て見ていただけませんか。
裏の崖下からなにか・・・見慣れない装置がでてきたのです。 」
「 え?! まあ・・・ さっきの雪崩で現れたのかしら。 はい、今行きますわ。 」
「 お願いします。 ・・・ あの、島村さん達は? 」
「 ジョ−・・・いえ、彼らは山神洞の方へ調査に行きました。 」
「 そうですか。 ・・・あの、こっちなんですが・・・ 」
「 はい。 博士? ちょっと行ってみてきます。 すぐに戻りますから・・・ 」
「 ・・・・ うん ・・・? ・・・・ ああ ・・・ 」
フランソワ−ズはモニタ−に集中している博士に ともかく断って急いで出ていった。
「 こっちです! ・・・ フランソワ−ズさん 」
「 はい。 あら? どこですか、崖の下・・・? 」
「 そう、あの ・・・ 大きな松が折れていますよね、あの下です。 」
「 ? なにもありませんけど・・・? ・・・ アッ ・・・ ゥ ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
振り向きざま フランソワ−ズの口が布で覆われた。
・・・ く! こ・・・これは・・・クロロ ・・・フォルム・・・
・・・ ジョ ・・・ − ・・・・ !
きつい薬品の匂いの中で フランソワ−ズは全身全霊をこめてジョ−を呼んだ。
「 ・・・ 悪いな。 もう・・・どうでもいいんだ・・・
せめて ・・・ 最後の道連れになってもらうよ。 香織とよく似た声のお嬢さん・・・ 」
迫田青年はぐったりしたフランソワ−ズを抱き上げ呟いた。
「 一回だけ ・・・・ 香織 ・・・ 君の唇にはもう 触れることもできないんだね・・・ 」
青年は身を屈め 腕の中の女性の唇に口付けをした。
「 ・・・ ちがう。 やっぱり君はもう・・・ いないんだ・・・ 」
ザザザ・・・・
裏山でまた雪が崩れる音がしてきた。
「 もう ・・・ いい。 誘いの乗ったオレが愚かだったんだ・・・ 行こう・・・! 」
迫田青年の姿はあっという間に闇と雪に紛れてしまった。
ゴゴゴ ・・・ ザザザザ ・・・・
再び裏山全体が 不気味に軋み始めていた。
「 ・・・ フランソワ−ズッ!!! 」
ドアを蹴破る勢いで ジョ−が飛び込んできた。
「 な?? なななんじゃね?? ジョ−?? どうしたね??? 」
相変わらずモニタ−に張り付いていたギルモア博士は飛び上がった。
「 博士っ!! フランソワ−ズは?? フランソワ−ズはどこです?? 」
「 ど・・・どこってついさっきまでここに・・・ あれ? 」
博士は初めて彼女の不在に気がついたようだ。
「 どこです?! 」
「 どこ・・・ ジョ−、お前こそどうした? 加速して来たのじゃろう。 」
「 聞こえたんです! ほんの一瞬、かなり弱い声でぼくを呼んだんです!
ああ・・・ フランソワ−ズッ?? なにがあったんだ! 」
「 え・・・しかしなんだって彼女が・・・ ? 」
「 それは! ぼくが聞きたいです〜〜 ・・・え? なんだい、大人?
・・・・ 了解! すぐに行く。 」
「 今度はなんじゃ?? どうしたんじゃ? 」
「 なんだかこの辺り一帯の雪山がぼろぼろ崩れ始めているそうです。
博士、出ましょう。 大雪崩になったらこの建物も危険です。 」
「 そうじゃな。 お前達が送ってくれたデ−タを分析したが ・・・
これはやはり人為的な現象だな。 なにか・・・ ピンポイントで気象状態を操作したのだ。 」
「 やっぱり・・・! さあ、博士。 急いで! 」
「 う、うむ・・・ しかし フランソワ−ズはどこへ・・・ うわ! 」
ジョ−はギルモア博士を引っつかみそのまま窓を蹴破り外へと大きくジャンプした。
ゴゴゴゴ ・・・・ ザザザザ ・・・
裏山どころか山奥村全体が不気味に揺れ動いている。
「 ジョ−はん! こっちやで〜〜 ! 」
山神洞の手前の岩場で 大人が手を振っていた。
「 大人! 村の人々は? 」
「 ハイナ。 もうとっくに避難しはったで。 沢を渡ってこの地域から出てもらったアル。 」
「 そうか・・・よかった・・・・ 」
「 ジョ−はん! フランソワ−ズはんは?! 」
「 それが・・・ 」
「 え! きっとあのオトコや! アイツやで。 」
「 アイツ? 」
「 そや。 あの ・・・ 迫田、いうやっちゃ。 村の婆様に聞いたんやけど・・・・
な〜んなアイツが地域の活性化〜いうて事務所を構えてから気象 ( てんき ) が
妙〜〜な具合になった、言うてはったで。 」
「 迫田氏は村の人々と一緒にいたかい。 」
「 うんにゃ。 影も形もみえへんかったアル! 」
「 うむ・・・! あ、まただ・・・ 」
ドーーーーーン ・・・ !!
山の上から篭った音と鈍い振動が伝わってきた。
ぱらぱらと雪の欠片が空中に飛び散り始めた。
「 ・・・ う ・・・ うん ・・・・ ここは・・・ 」
「 やあ。 最後にアンタの声が聞けて感激だな。 」
「 ・・・? あなた ・・・ 迫田さん? どうしてこんなところに・・・ う・・・・ 」
強張った身体を動かした途端に酷い頭痛に襲われフランソワ−ズは顔をゆがめた。
ここ・・・ 洞窟・・・? あ・・! そうよ、このオトコにいきなり・・・
そろそろと身を起こしつつフランソワ−ズは油断なく身構える。
手脚が拘束されている。 しかしその他には特に危害を加えられてはいないようだ。
この拘束具 ・・・ 多分破壊できると思うけど・・・
「 乱暴なことして悪かったな。 なに、もうすぐ終わりさ・・・ 」
「 終わり ・・? 」
「 ああ。 もうなにもかも。 一気に終わりにしてしまうんだ。 これで、な。 」
迫田は携帯よりも少し大型の機械をしっかりと手に握っている。
「 やはり ・・・ あなたが人為的にこの・・・<真冬> を作り出していたのね。 」
「 ふうん、さすがだね。 君たちがどういう機関の人間かしらないが、 雪崩から救ってくれた
あのカレシといい、あんたといい・・・ かなり専門的な訓練を受けているな。 」
「 ・・・・・・ 」
「 別に聞きほじる気はない。 ・・・ もうどうでもいいんだ。 終末はもうすぐさ・・・ 」
フランソワ−ズに話しかけているのか 独り言なのか ・・・ 迫田はぼそり、と呟くと
雪雲に覆われた空を見上げた。
そこは小高い丘の中腹で崖が張り出しバルコニ−のようになっていた。
「 ・・・ どうして。 」
「 ・・・ ? 」
「 どうして、あなたはそんなに悲しい目をしているの。 」
「 ・・・え・・・ 」
「 気象を操作して ・・・ なにかが目的だったのでしょ。 それが叶うのに。
あなたの目には悲しみしか みえない。 どうして。 」
「 ふふん ・・・ 地球温暖化の防止とかいう触れ込みで妙な組織がばら撒いてた。
怪しいな、と思ったが、ヤツラの誘いに乗ってみたのさ。 」
迫田は手にした装置をぽん・・・とフランソワ−ズの前に放った。
「 GPSを利用した簡易気象コントロ−ル装置らしい。 ふん、こんなモノを作るなんて
後ろ暗い組織に決まってる。 いや、そんなことはオレには関係ない。
そうさ、世界が全部・・・ 真冬になってすべてが凍って・・・ 滅びてしまえばいいんだ ! 」
「 なぜ? どうしてそんな。 」
「 ああ。 あんた、似てるなあ・・・ いや、姿形じゃない。 声さ。 その・・声・・・
まるで香織と話しているみたいだ・・・ 」
「 香織さん・・・って恋人なの。 」
「 香織は ・・・ もういない。 オレの春の女神は・・・どこにいいるのかもわからない・・・
一緒に行った南の海で突然の津波に浚われたんだ。 遺体は・・・上がらなかった。
・・・ ほら、そこの木。 その桜の元に形見を埋めた・・・ 」
< フラン?! どこだ?? どこにいる?? 応えろーーー! >
< ジョ−・・・!! ここよ! 丘の途中・・・崖の上にいるの。>
< よし、すぐ行く! あ、怪我は? >
< ・・・ 平気。 ジョ−、気をつけて。 もしかしたらもうすぐ大雪崩がおきるかも・・・ >
< 大雪崩?? >
< そうよ! だからジョ−、加速してきては危ないわ。 >
< でも、きみを早く助けださないと! あのオトコだろ!? >
< ええ。 油断していて・・・ でも特に危害を加えられてはいないわ。 >
< だが! >
< 大丈夫よ。 ジョ−、ともかく加速装置はだめよ。 >
ジョ−がすぐにやってくる。
フランソワ−ズは時間を稼ぎ、できれば迫田を止めたかった。
「 悪いが・・・お嬢さん。 たまたまこんな所に来たのが不運だと思って・・・付き合ってもらうよ。
ここの上空をピンポイントで一気に気温を上昇させれば、大雪崩発生さ。
それで・・・すべてが。 なにもかもが押し流され下敷きになって・・・終わりだッ! 」
ゴゴゴゴ ・・・・・ ずずずず・・・・・
雪山の上からまた不気味な音と振動が伝わってきた。
不自然な積雪、そして先ほどの小規模な雪崩が引き金になって山全体の雪が緩んでいるのだろう。
「 は、ははは・・・ オレが手を下さなくても自然が葬ってくれるらしい・・・ ははは ・・・・ 」
「 その方・・・・ 香織さん? 悲しんでいるわ! 」
「 ・・・ 悲しむ? 」
「 そうよ! ここに・・・彼女の形見が埋まっているのでしょう? 彼女の・・・気持ちが、こころが
この木の元に眠っているのに。 あなたのことを・・・見守っていてくれるのに・・・! 」
「 彼女の ・・・ こころ・・・? 」
「 そうよ! 大切にしていたモノには持ち主のこころが移るわ。 それなのに! 」
ゴゴゴ・・・ ゴ〜〜〜〜〜 !!!
地の底からの音と共に雪の欠片が、いや岩くらいの大きさのものがばらばらと落下してきた。
このままここにいては完全に雪崩に巻き込まれてしまう。
フランソワ-ズはじりじりと後退りしつつ 懸命に拘束具を破壊し始めた。
「 ・・・ 香織 ・・・ お前は ・・・ ここに居たのか ・・・・ 」
「 さあ! 逃げましょう! もうすぐ上から雪崩が ・・・ あ !! 」
ドドドドオォォ〜〜〜 ・・・・・
白い波が。 白い津波が白い煙をあげ、山を滑り襲ってきた・・・・!
「 危ないッ・・・!! 」
大きな雪の塊が転がり落ちてきた。
フランソワ−ズは咄嗟に体当たりをして、迫田を突き飛ばし直撃から守った。
「 あ! ・・・ 間に合わない・・・! 」
雪塊の直撃を覚悟した瞬間 ―
シュ ・・・・ッ !!
聞き慣れた音が耳元にひびき 馴染んだ薫りが彼女を包む。
「 ・・・ まったく。 本当にいつも無茶ばかりするお嬢さんだ・・・!」
「 ジョ−・・・! 」
次の瞬間、フランソワ−ズはジョ−の腕の中から白い奔流を見下ろしていた。
「 ふう・・・ 間一髪ってとこだな。 」
「 ジョ−! ああ・・・ ジョ− ・・・・! 」
「 ああ・・・ 手首がこんなになって。 アイツ ・・・ 許せない! 」
「 あのヒトは?? 雪崩に巻き込まれてしまったの? 」
「 多分な。 ふん、自業自得だろう。 」
「 でも・・・! 助けなくちゃ! わたし・・・ サ−チするから。
ジョ−、お願い。 大人に掘り出してもらって。 」
「 ・・・ わかったよ。 」
ジョ−は彼の恋人に口付けをすると、そっと彼女を腕の中から解放した。
人為的に<真冬>を呼んだ張本人はすでに事切れていた。
あの丘の 桜の根方にそのまま埋もれていたのだ。
白い奔流が収まってから、フランソワ−ズが見つけた。
迫田は。
半分倒れかけた若木の根方に引っ掛かっていた。
「 この木が・・・? 香織さんというヒトの形見を埋めた木なのかしら ・・・ あら? 」
花芽のきざしすら見えなかったその木に 一輪の花が咲いていた。
「 ・・・ 雪の欠片? それとも ツララ・・・・? 」
目を凝らし見上げた途端 白い小さな花はほろほろと散り落ちた。
そして ひとひら ふたひら 可憐な花びらはフランソワ−ズの唇をするりと掠め ・・・
雪まみれの迫田の身体に落ちた。
ええ、わかったわ。 あなたが迎えに来てくれたのね。
彼女の視線に応えるかのように花びらは風を受け少し舞い上がったが やがて ふっと消えていった。
これでいい。 もう全て終わったことなのだ。
フランソワ−ズはそっと 自分の唇に手をあてた。
・・・・ さよなら
「 ほう・・・ これがその簡易装置かの。 」
「 なんでも地球温暖化防止のため、とかいう振れ込みだったそうですわ。 」
「 ふむ。 GPSを巧く利用しているな。 お・・・?
これは・・・ 逆操作で大元を破壊したようだぞ。 確かではないが・・・ 」
博士は迫田が握り締めていた装置をあれこれ試している。
「 まあ・・・ それじゃ・・・ 」
「 最後の最後に良心が目を覚ませたのかもしれませんね。
とりあえず この村の<真冬>は終ったということです。 」
「 そうだな。 大人? もうすぐ春の山菜が採れるぞ。 」
「 アイヤ〜〜 ほいでももう、蕗の薹の季節やあらへんやないか。 」
「 直に筍が顔をだすさ。 」
「 そやった、そやった。 筍は、ワテにとって春の女神〜♪ ワテの料理に大切な野菜や。 」
「 ほほう。 大人のプリマヴェ−ラは筍かい。 」
「 美味しいモノをお腹いっぱい。 それで皆の心にも春がきまっせえ〜
ほな、飛び切りの晩御飯、作りますさかいはよ帰りまひょ! 」
ギルモア邸の面々は 春の地へ、彼らのホ−ムへ帰っていった。
「 あら・・・ 部屋の中にも。 ほら・・・花びらよ? 」
フランソワ−ズが窓辺で 舞い込んできた花びらに手を翳している。
こちらは春もたけなわ・・・ 夜風が汗ばんだ肌には心地よい。
空気の入れ替えに、とベッドから降りたフランソワ−ズはしばし窓辺に佇んでいた。
「 ・・・ フラン・・・? そんな恰好で ・・・まだ冷えるだろ・・・ 」
「 ううん・・・ いい気持ちなの。 」
「 ふふふ・・・ いい眺めだけど。 」
「 ・・・ま。 イヤな・・・ジョ−・・・! 」
ガウンを素肌に引っ掛けたまま、フランソワ−ズはジョ−の隣に戻ってきた。
おりしも桜吹雪・・・ 夜風と一緒に窓から ひとひら・ふたひら ・・・
桜の花びらが二人の愛の時間に闖入してきた。
「 ・・・ ほうら・・・ 」
「 ? ・・・ きゃ ・・・ くすぐった〜い・・・ 」
ジョ−はひょい、と花びらを摘まむと肌蹴たフランソワ−ズの胸に乗せた。
二つの丘の谷間に 白い花が咲く。
「 ・・・ この丘にも 桜だ〜 ♪ ココはまだ蕾だなあ〜 」
「 きゃ・・・! もう・・・ ヤダってば・・・ 」
ジョ−の唇が彼女の二つの蕾を丹念に味わってゆく。
喘ぎ声が再び部屋の温度を上げ 恋人達の夜はますます熱くなってゆく・・・
・・・ いつかぼくが逝くときには。 こんな花散る季節が いいなあ ・・・
ふふふ ・・・ そうしたら・・・わたしはきっと桜になって
ジョ−の上に 沢山の花びらを散らせてあげるわ・・・
・・・ きみに埋もれて逝くなら本望さ・・・
そう ・・・ね いつの日か ・・・ 遠い日に
そうだね。 いつかの春に・・・ 遠い春の日に
ぼくのプリマヴェ−ラ・・・・! ジョ−は一言呟くと 彼の春 の中に熱く爆ぜた。
丘の上に。 小高いなだらかな丘の上に。
一本の桜が ある。
大樹になってもそれは毎年 晴れやかに 華やかに 幾千もの花々をつけ
・・・ そして 散らしてゆく
そう、それは 彼女の涙。
彼女の元に もう朽ち果ててしまったけれど ころがっている機械の骸。
その ・・・ 魂の持ち主を弔う彼女の な み だ ・・・・
*************** Fin. **************
Last
updated : 04,08,2008.
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******* ひと言 *******
原作テイストというか ( あの<秋の話>の春版? ) 旧ゼロテイスト、というか・・・・
春はやはり桜ネタが書きたくて。
できるだけレトロなタッチの <少年まんが風> なお話にしてみました♪
でも〜〜 ココはやっぱり93らぶ領土?ですので♪ 二人の夜も追加♪♪
ミッションにはフランちゃんが参加しないと つまらんのだよ〜〜ん(^_^;)