『 すっぱい・あまい ― (1) ― 』
ふわぁ〜〜〜り ふわふわ ・・・・
リビングのレースのカーテンが風と戯れている。
「 あらら ・・・ うん? なんか風が違うわ 」
フランソワーズは 窓を大きく開けた。
ふわあああ〜〜〜〜〜〜 さわさわさわ〜〜〜
厚ぼったい冬のカーテンの前で 白いレースがひらひら・・・舞い踊る。
「 ふふふ ・・・ 上手よ? その調子ね〜〜
ああ 風が変わったのね。 ・・・ 春 になるのかな 」
ちょっと惜しいけど 舞い踊るカーテンを止めて
窓は少しだけ 開けておくことにした。
風はまだ 温かい には程遠いのだから・・・
「 この辺りはあまり寒くないよってジョーは言うけど。
冬の風は やっぱりキツイわあ ・・・ 」
生まれ育った街の冬は もっと厳しく冷え込んだけれど
この地に吹く 乾いた寒風 は何年過ごしても苦手だ。
「 ああ 早くコートを脱ぎたいなあ ・・・
そうねえ お花見 の季節が待ち遠しいわあ
・・・ ん? ああ 帰ってきたわね
」
フランソワーズは窓の外へちょっとばかり耳を澄ませていたが
さっさと白いエプロンを手に取った。
「 さあて と。 腹ペコさん達にオヤツね〜〜
今日はねえ リクエストにお応えして 焼きおにぎり で〜す 」
キッチンにゆき えいやっと炊飯器を開けボウルにごはんを取りだした。
「 え〜と・・・ これはジョーも大好きだから夜食用もいるわね〜
すぴかとすばるは二個づつ ・・・ このくらいかなあ 」
ボウルに移したご飯を ぎゅ ぎゅ ・・・と握ってゆく。
双子のコドモ達は 小学生になってぐ〜んと大きくなり
当然 食欲もぐ〜〜んと増している。
「 ・・・ ふふふ なんかねえ 好きなのよね〜〜
お握り作るのって。 皆の笑顔を ぎゅ ぎゅ ぎゅ って。 」
白い指が 器用にご飯を握ってゆく。
ちょこっとだけ中身を入れるのが 島村さんち の焼きおにぎり。
すぴかは 梅干し。 すばるは 甘い鯛味噌。
ジョーは 中身いらないからしっかり握って欲しい ― が リクエスト。
これはず〜っと変わらないので お母さんは慣れたもの。
たちまち大皿一杯のお握りを作りあげた。 その頃・・・
「 たっだいまあ〜〜〜 おか〜さ〜〜〜ん おやつ〜〜〜 」
元気な声が玄関から 家中に響く。
「 お帰りなさい すぴかさん。 手洗い うがい ね 」
「 おっけ〜〜〜〜 」
カッチャ カッチャ カッチャ ランドセル音がバスルームに向かった。
「 あ〜ら 後続部隊は置いてきぼりかあ ・・・・
ね〜〜 すぴかさ〜〜ん すばるクンは? 」
タタタタタタ −−− !
爽やかな足音と共に 金色のお下げをぴんぴんさせて
すぴかが戻ってきた。
「 オヤツ なに〜〜〜 」
「 焼きお握りよ 」
「 わお〜〜〜 やた〜〜〜〜 アタシ うめぼしいり〜〜 」
「 ちゃんと入っているわ。 今から焼くけど すばるは? 」
「 うわい♪ はにゃ? すばる?
さあ ・・・ 校門とこでおいこしたからな〜〜〜
きっとさ〜 また しんゆう君 と のったりくったりかえってくるんじゃね?」
「 ― 帰ってくるのではありませんか でしょ 」
「 ・・・ あ〜 ではありませんか。 」
「 そう・・・ じゃあ 先に焼こうか 」
「 わっほほ〜〜〜ん ♪ あ アタシ やってもいい? 」
「 いいけど ヤケド気を付けてね。 」
「 りょ〜〜かい♪ ふんふんふ〜〜〜ん♪ 」
島村さんち の 焼きおにぎり は固めに握ったお握りに
ちょこっと味醂を淹れた醤油を刷毛でぬり ホットプレートで焼く。
この方法に落ち着くまで 紆余曲折がありまして☆
最初は オーブン・トースターを使っていたが
「 ガスの直火で網で焼くのが 焼きおにぎりだ〜〜 」
「 ガス台が汚れるわ。 ジョー、掃除してくれるのなら いいけど? 」
「 ― う・・・ じゃ じゃあ ホット・プレート ・・・ 」
「 焦げ付くわ 」
「 焦げないように加工するから〜〜〜 」
「 じゃあ そうしましょ 」
― という夫婦の攻防があったりした・・・
ジュ〜〜〜〜〜 醤油の香ばしい匂いがたちはじめた。
「 うひゃひゃ〜〜 うまそ〜〜(^^♪ 」
「 美味しそう でしょ 」
「 へいへい ね〜 すばるとお父さんのぶんもやく? 」
「 そうねえ ・・・ 後でチンすればいいかな 」
「 よぉし〜〜 やったるで〜〜 」
「 さあ つくりますよ でしょ? 」
「 へいへい ますよ〜 って 」
ただいまあ〜〜〜 玄関での〜〜んびりした声が聞こえる。
「 あ すばる〜〜〜 お帰り〜〜〜 」
「 すばる〜〜〜 やきおにぎり だよぉ〜〜〜 」
わああ〜〜〜 どたどたどた ・・
ランドセルを背負ったまま すばるが駆けこんできた。
「 うあ〜〜〜 いいにおい〜〜〜〜〜 」
「 すばるクン。 手あらい・うがい。 ランドセルはお部屋 」
「 あ ・・・うん 」
「 すばる〜〜〜 はやくゥ〜〜 やきたて だよん 」
「 うん !! 」
「 まってるからさ! あつあつだよ〜〜〜 」
「 うん すぴか〜〜〜〜 まってて〜〜〜 」
すぴかは同じ日に生まれた弟には 専制君主 として君臨しているけれど
その実、外敵から彼をいつも護り庇う < いいおねえちゃん > なのだ。
ふふふ ・・・
いつかは逆転する かしらねえ
母はちょっと面白いな〜と思いつつ 眺めていてる。
はふはふふ〜〜 あちち ・・・ おいし〜〜〜
「 ほら 冷たい麦茶よ 」
「 うん ・・・ あ〜〜〜 おいし 」
「 んぐ んぐ んぐ〜〜 うめ〜〜〜 」
「 おいしい でしょ すぴかさん 」
「 おいし〜 ねえ げきうま だよ〜〜 おか〜さん 」
「 そう? じゃ お母さんも食べよっかな〜〜
・・・ あつっ ・・・ 美味しい♪ 」
オヤツたいむ は今日も賑やか。
フランソワーズも 熱々焼きおにぎりを楽しんだ。
「 あのさ〜〜 今日 あま〜〜いにおい したんだ〜〜 」
二個目を手にして すばるがぼそぼそしゃべる。
「 味醂も入っているからでしょ 」
「 ちが〜〜うよぉ おか〜さん いま じゃなくて
今日のかえり ・・・ しょうてんがい から こっちへ
まがるとこらへん で〜 」
「 ?? あの辺にはお店 ないでしょ? 」
「 なんか 落ちてたんでないの〜〜 ・・・ うま〜〜〜♪ 」
すぴかは すでに二個目を頬張っている。
「 う〜〜ん??? ホントにさ すご〜くねえ あまいにおい なんだ。
ほわ〜〜〜ん・・・ アメとかケーキのにおい とはちがう 」
「 なに それ〜〜 」
「 でもさ でもさ すご〜〜くいいにおいなんだ 」
「 行ってみましょうか これから。 お使いのついでだわ 」
「 うん♪ 」
「 おか〜さんってば すばるにあま〜〜〜い〜〜〜 」
「 すぴかさんも一緒に行きましょ?
ミカンとかリンゴ、買ってきたいし。 」
「 わお♪ アタシ〜〜 みかん すき〜〜〜〜 」
「 僕も〜〜 あ りんごもすき 」
「 はいはい それじゃ 食べ終わったら
宿題 しちゃいましょ。 ここにもってきていいから。 」
「「 え〜〜〜 」」
「 甘いにおい・さがし 行きたいでしょ?
だったら宿題が 先。 」
「「 へ〜〜〜い 」」
「 よろしい。 どうぞゆっくり焼きおにぎり 召しあがれ 」
相変らず、 最強 なお母さんは に〜んまりしている。
カササササ ゴトンコトン
焼きお握りの香が残るキッチンで チビ達は宿題を広げた。
「 漢プリ とぉ あ あと おんどく 〜〜 」
すぴかは ちゃっちゃとプリントに書き込み始めている。
「 ん〜〜〜っと ・・・ 漢プリ 漢プリ〜〜 はどこかなあ 」
すばるは ごそごそランドセルの中を探している。
「 すばるクン ・・・ プリント ないの? 」
「 ん〜〜〜 いれた けど どこだっけかぁ〜〜〜
あ あったあ〜〜〜 」
ランドセルの底から シワシワのプリントが救出された。
「 ・・・ あらら ・・・
ねえ すばるクン。 プリントは教科書とかの間に
挟んできたら どう? 」
「 あ 〜〜 うん そっかぁ〜〜〜
あ。 すぴかぁ〜〜 計ド もあるよぉ 」
「 あ そか! 計ド 計ド〜〜 っと ・・・ 」
「 ?? けいど ってなあに 」
「 あ? けいさんどりる だよ おか〜さん 」
「 けいさんどりる? ・・・ ああ それで けいど ねえ ・・・ 」
母はちょっとばかり感心している。
生まれ育った国とは違う教育システムなのだから 当然だけれど
コドモ達から聞くのは < 知らないコトバ > ばかりだ。
ふうん ・・・ 計算ドリル が けいど かあ
そうそう 漢プリ は 漢字プリント だもんねえ
日本語ってやたらと省略するのが得意なのね
チビ達の宿題をちらちら眺めつつ 母は晩御飯の下ごしらえをする。
キッチンの中は ほわほわ温かくなんとな〜〜くいい雰囲気だ。
「 お〜わった! おか〜さん アタシ 宿題 かんりょう〜
おつかい ゆこ! 」
「 ん〜〜〜っと ・・・ たてたて よこよこ〜〜 」
「 すぴかさん 待ってて。 すばるクン まだ途中 」
「 え〜〜〜〜 も〜〜 すばるってばあ〜〜 」
すぴかはすばるの後ろで とんとん飛び跳ねる。
「 あ 静かにしなさい。 そうだわ すぴかさん、ダウンジャケット
持ってきて。 すばるクンの分も
」
「 え〜〜 アタシ 寒くないよ〜う 」
「 今はね。 でも夕方になるとまだ気温さがるから。
暑かったら脱いでいればいいでしょう? 」
「 わ〜〜ったあ すばるの分もとってくる 」
「 はいはい お願いね。 ― すばるクン 終わりそう? 」
母は 娘に指示をし息子の手元を覗きこむ。
「 ん〜〜〜 よこよこ ちょん ちょん ちょん でおわり! 」
( ・・・ すばるクン。 書き順 ちがうんでね? )
「 よかったわ。 あ 計ド は?
」
「 さきにやった〜〜 」
「 じゃあ 全部お終いね。 あ トイレ行ってきなさいね 」
「 あ う〜〜ん 」
すばるはどたどた ・・・ キッチンから出ていった。
「 おか〜さん! はい! だうん! 」
「 まあ ありがとう すぴかさん
あのね お願いがあるの。 」
「 なに おか〜さん 」
「 すばると一緒にさきに行って みかんとリンゴ
2キロづつ買っておいてくれる? 」
「 やおやさん ? 」
「 そうです。 いつもの って言えば八百藤さん、わかるわ 」
「 ん〜〜 お母さんは 」
「 洗濯モノ、取り込んでからゆくから。
待ち合わせしましょ。 あ すぴかさん達はリュック背負ってね
みかんとりんご 入れてもらって 」
「 へ〜〜い 」
「 そして はい お代。 ポッケに仕舞って行ってね 」
「 へ〜い あ すばる〜〜 りゅっく だって 」
「 わかった〜〜 すぴかのもとってくるね〜〜 」
「 たのむ 」
ドタドタドタ −−− すばるは子供部屋へ駆けあがってゆく。
へえ ・・・
このコ、ヒトを動かすの、上手いなあ
弟だから?
― どうかしらねえ
「 おか〜さん まちあわせ どこ? 」
「 商店街の入口。 ほら ライトがあるでしょう? 」
「 あ〜 かどっこ・らいと? 」
「 ああ そう言うの? うん そこに居てね 」
「 おっけ〜〜 すばる〜〜〜 行くよぉ〜〜 」
「 わ〜〜〜 りゅっくゥ〜〜 」
すばるが 二人分のリュックを抱えて階段を降りてきた。
「 さんきゅ☆ ・・・ いってきま〜〜す 」
「 んと んと〜〜〜 イッテキマス 」
「 はい 行ってらっしゃい。 一緒に行くのよ? いい? 」
「「 へ〜〜い
」」
チビっこ二人は肩を並べて玄関を出ていった。
島村さんち のチビ達はキッズ・携帯とかは持たされていない。
チビ達のピンチ には 父親はマジでマッハで駆け付けるし
母親はいち早く現場を発見するから。
まだ低学年のチビ達は ゲームやネットよりも
周囲に山ほどある大自然に < 遊んでもらう > ことに
夢中なのだ。
海があり 山があり 空き地があり 雑木林があるのだから。
― さてそろそろ夕方っぽくなってきた頃。
「 おか〜さ〜〜〜ん 」
フランソワーズが 商店街の外れで待っていると
すぴかが 弟の手を引っ張って駆けてきた。
「 みかん と りんご 買ったよう〜〜 」
「 いっつものみかん(^^♪ いっつものりんご〜〜 」
膨らんだリュックを背負い すばるはご機嫌ちゃんだ。
すぴかは 空いた手でポッケをしっかり押さえている。
「 はい ありがとう、ご苦労さま。 」
「 ん〜〜と ・・・ これ おつり 」
「 はい ありがとう〜 」
「 おか〜さん りんご〜〜 おいしいよね 」
「 そうね お蜜柑もね 」
「 ね〜〜 あれつくって〜 りんごのはいったおかし! 」
「 アップル・パイのこと? すばるクン 」
「 そ!! あっぷる〜〜♪ 」
「 アタシは! おにくといっしょにやくのがいい! 」
「 豚肉とりんごにソテーね いいわ すぴかさん。
二人のリクエストに お応えします 」
「「 わあ〜〜い 」」
よいしょ よいしょ・・・ 膨らんだリュックはちび達には結構重たいはずだが
二人とも頑張っている。
ふわ〜〜〜ん ・・・ 夕方の風が吹いてきた。
「 ・・・ あ 」
すばるが立ち止まった。
「 なあに どうしたの? 」
「 ん 〜〜〜 」
彼は くんくん・・・ 空に向かって鼻を鳴らしている。
「 あれぇ〜 ねえ ねえ ほら・・・ いいにおい〜〜 あまい〜〜 」
「 え なんにもおちてないじゃん? 」
すぴかが憮然として言う。
「 うう〜〜ん 下じゃなくてぇ〜〜 あ あれ! 」
すばるは ぱっと指さした ― かなり上の方を。
「 え?? なあに どこ ? 」
「 あそこ〜〜〜 白いの、あるよ ほらあ 」
「 え どこどこ〜〜〜 」
お母さんもすぴかも すばるが指さす方向をきょろきょろしている。
「 あそこだってば〜〜〜 あの白いの、 さくら かなあ 」
「 さくらって あまくないよ ・・・ あ いいにおい! 」
すぴかも気が付いた。 お鼻をくんくん・・・させている。
「 ねえ ねえ どこ? ・・・ あ 見つけたわ 」
「 おか〜さ〜〜ん あれ あの白い花 なに 」
「 おか〜さ〜〜ん あまい〜〜 あまいよねえ 」
「 ホントね ・・・ ああ いい匂いだわね〜
あの白い花のところって ・・・ 畑かしら 」
「 山のとちゅう じゃないかなあ ねえ あれ なに、
おか〜さん 」
「 ― あれは 多分 梅 よ 」
「 うめ? ・・・ うめぼし のうめ?? アタシ 大好き! 」
「 ひゃあ〜〜 すっぱあい〜〜〜 」
「 梅干しは あの木の実でね それを塩で漬けるんだと思うわ 」
「「 ふう〜〜ん 」」
フランンソワーズは その白い花のところをこっそり・・・ < 視た >
・・・ ふうん ・・・
白梅が結構たくさんあるわね
雑草だらけだけど
もともとは ちゃんと植えてあったみたいね
山の中腹に小規模だけど梅林があるのだ。
今は あまり手入れをしていないらしく雑草の海に浮かんでいるみたいだ。
「 そうだわ。 八百屋さんに聞いてみましょうか 」
「 やおやさんに ? 」
「 そうよ ほら ・・ の山は八百屋さんのお家の裏でしょ 」
「 あ そか やおやさあ〜〜〜ん 」
「 うわ 〜〜 」
すぴかは 弟の手を握ったまま駆けだした。
「 あらら・・・ 転ばないでね〜〜 」
母も 早足で商店街に戻っていった。
「 らっしゃ〜〜い おや 岬の若奥さん
さっきチビちゃん達が来て ・・・ああ 一緒だね〜〜 」
「「 こんにちは やおやさん 」」
すぴかとすばるは ちゃ〜〜んとお辞儀をしてご挨拶。
「 はい また こんにちわあ〜〜 」
八百屋さんは にこにこ顔で一行を迎えてくれた。
フランソワーズは 双子が赤ちゃんの頃からこの商店街に買い物ついで
一緒に連れて来ていた。
当地も少子化とやらで ちびっこが減っていたので
双子はもうすぐに 地域のアイドル となり今も大人気だ。
「 こんにちは。 トマト、ください。 あのひと箱全部。 」
「 ほい こりゃまいど〜〜 ・・・ 持てますか 」
「 ええ。 今日は他のものは 運び屋さん達がいますから 」
「 ほへ? ああ そうだね〜〜 ウチのみかんとりんごが詰まってるね〜 」
親父さんは もうまゆ毛が下がりっぱなしだ。
「 あのう ちょっと伺ってもいいですか? 」
フランソワーズは < あまくていいにおい > について訊き
双子はめちゃくちゃ熱心に八百屋さんを見ていた。
「 甘い匂い? ・・・ ああ あそこはウチの梅林なんですよ〜
むかあ〜〜し 親父がわざわざ紀州から梅の苗木を送ってもらって 」
「 梅 ・・・ を栽培していらしたのですか ・・・
実をお店で販売するためいに ??? 」
「 ああ 梅干し用ですよ お袋が毎年丹精してね ・・
昔はちゃんと店に並べて売ってました 」
「 うめぼし?? アタシ だいすき〜〜〜〜 」
「 おや すぴかちゃん 好きかい?
それじゃ・・・ まだ残ってるから ちょっと待ってな 」
「 うわ うわ〜〜 」
八百屋さんちに残っていた おばあちゃんの梅干し をもらって
すぴかは おそるおそる口に入れた。
「 !!! めっちゃ すっぱ・おいし〜〜〜〜〜〜〜〜 」
八百屋さんは もう涙を流さんばかりに喜んだ。
「 そうか そうか ・・・ めっちゃおいし か・・・
ううう ウチのばあちゃんの梅干しが ねえ 」
八百屋さんちのおばあちゃん は チビ達が赤ちゃんの頃とてもお世話になった。
慣れない育児でヘトヘトのフランソワーズに だまあ〜って愚痴を聞いてくれたり
おんぶの仕方、 楽々離乳食の作り方 カンの強いすぴかとの付き合い方 などなど
のんびり教えてくれたのだ。
「 ミルクを規定量 飲まないって? イイんだよぉ〜〜〜
赤ん坊は機械じゃないんだ、 飲みたくない日もあるもんさ 」
「 おんぶはいいよぉ? 赤ん坊とおなじ方を見てるからねえ
いろいろ・・・ 話かければ ちゃあんと聞いてるさ
そうだよ、あんたのね お国のコトバでね。
まだわからないって? いやいや ちゃ〜んと聞いているよ 」
「 赤ん坊はね 泣くのが仕事。 泣かない方が心配さ。
泣いたら うん ここまでさんぽにおいで ばあちゃんがみてやるからさ 」
頼れる実家のおばあちゃん といったカンジで
フランソワーズは どんなに救われ ほっとし 笑顔を取り戻せたか・・・
御礼 なんて言葉では言い尽くせない。
「 ありがとう ・・・ なんていいんだよ。
こうして 可愛い顔をみせてくれるのが なにより嬉しいからさ 」
おばあちゃんは いつもにこにこしていた。
チビ達が小学生になった頃から 足を悪くして引きこもりがち だという。
ありがと〜ございました !!!
「 やおやさんのおば〜ちゃあん うめぼし おいしいでしたあ!!! 」
母子三人で声を揃えて御礼を言って ― すぴかの特大メッセージ付き。
皆で手を繋いで ウチまで帰ってきた。
その夜 ―
ジョーは 遅い晩御飯に舌鼓を打っていた。
「 ・・・ はふはふ〜〜 焼きおにぎり・・・さいこ〜〜
はふはふ〜〜 うま〜〜 」
「 ふふふ 我ながら美味しくできたと思うわ 」
「 うんうん・・・ きみの料理はさいこ〜〜さ♪ 」
「 あのねえ 今日ね すばるがねえ 」
「 ウン? アイツがどうかしたかい 」
フランソワーズは 梅の花 の件をぽつぽつ話した。
「 へえ・・・ なんかいいね ちょっと行ってみようか 」
「 そうねえ 明日? 」
「 いや 今から 」
「 え だってもう真っ暗よ 」
「 梅の香りは 楽しめるよ? 」
「 あら いいわねえ でも ・・・ジョー、疲れてない? 」
「 へ〜き へ〜き ぼくを誰だと〜〜 」
「 はいはい 009さん。 それじゃ まだ冷えるからしっかり着て 」
「 あれえ な〜んの為の 防護服かな〜〜 」
「 え・・・ あれ 着るの? 」
「 だ〜れも歩いちゃいないって。 へ〜きさあ ヤバかったら 」
「「 加速そ〜〜〜ち 」」
夫婦は声を上げて笑い合った。
深夜に近い時間 ― 赤い特殊な服のアヤシイ二人・・
ひたひた と 誰もいない商店街の裏にやってきた。
ふわ〜〜〜ん ・・・ 真っ暗な中 甘い香りが漂う
「 ・・・ わあ 〜〜〜 いい香 」
「 うん・・・すごいなあ ・・・あ ほら。
闇夜にも白い花が ぼ〜〜〜っと 見えるよ ・・・ 」
「 そうね ちょっとこう〜〜 ぞくぞくしない? 」
「 ― え 」
「 枝の間から ほうら ・・・ 白いキモノのひとが・・
白梅の精かしら じ〜〜〜っとこっち見てる ・・・」
「 え??? ま マジ・・・? 」
大きな手が きゅ・・・っと彼女の腕を掴んだ。
「 〜〜〜 なあんちゃってね〜〜〜 」
「 あ もう〜〜〜 脅かすなよう〜〜 」
「 ふふふ やあだ もう〜〜 ジョーったらすばるみたい 」
「 ・・・ 意地悪〜〜 なあ もう帰ろうよ 」
「 あらあ 怖いの? 」
「 ! ね 眠くなってきただけ〜〜〜 」
「 そうねえ ・・・ ふぁ〜〜〜 ( あくび ) 」
「 ほうら ・・・ じゃ シツレイして〜〜 」
ジョーは さっと彼の細君を抱き上げた。
「 ではあ〜 このまま ウチのベッド・ルームまで かそくそ〜〜ち 」
「 きゃ ・・・ あ ベッドでの加速装置 は御遠慮しますけど? 」
「 ふふん 言ったなあ〜
ではリクエストにお応えして 今晩は じっくり♪ 」
「 うふふふ ・・・ メルシ(^^♪ 」
カチッ ・・・ !!
風が 夜気を震わせたのもほんの一瞬のこと。
まだまだ浅い早春の夜 は 深々と更けてゆくのだった。
ただ 白い花がほんわり 闇夜に浮かんでいるだけ ・・・
― 翌朝 夫婦の寝室で。
「 ・・・ あ ・・・ 」
ジョーは 彼の恋人の寝起きの顔をほれぼれ ・・・ 眺めていた。
うひゃあ 〜〜〜 ・・・
き キレイだなあ〜〜
なんかさ 肌とか輝いているよ?
・・・ うそだろ〜〜
フランってば こんなに美人だったっけ???
「 ?? なあに? 」
「 え あ い いや なんでも・・・ 」
「 ? あ 髪 はねてるんでしょ ? 」
「 いえいえ 大変おキレイですよ ええ とても〜〜 」
「 ?? ヘンなジョー さあ 起きて〜 朝ごはんの用意 」
「 へいへい ・・・あ ちょっとだけ 」
「 え? あ ・・・ んん〜 」
ジョーは彼の細君を抱き寄せ あつ〜〜〜い口づけをした。
・・・ 昨夜の熱い時間 ( とき ) の締めくくり みたいに・・・
トントン トトトト −−− 駆け足が階段を降りてきた。
「 おはよう すぴかさん 」
「 おはよ〜〜 おか〜 ・・・・?? 」
すぴかも まじまじと母を見つめる。
「 ? なあに すぴかさん 」
「 ・・・なんでも な・・・ あ! わかった〜〜〜 」
「 なにが 」
「 おか〜さん ってば 夜食にまた焼きおにぎり 食べたでしょう? 」
「 え??? 」
「 だ〜〜から キレイなんだね〜〜 いいなあ〜〜〜 」
「 ??? 」
「 −−−−−−− 」
すばるは だまあ〜〜って母をみつめると ぴと♪ っと抱き付いてきた。
「 あらら ・・・ どうしたの すばるクン 」
「 ・・・おか〜さ〜〜〜ん ・・・ だあいすきぃ♪ 」
「 まあ 甘えん坊さんねえ 」
「 だあってぇ おか〜さん けさ すご〜〜〜く きれい〜〜
僕 だあいすきぃ〜〜〜 」
「 もう〜〜〜〜 なんなのよう 今朝は 皆〜〜 」
フランソワーズは 瑞々しい笑顔で家族のまん中で笑った。
「 ふふふ いいなあ〜〜〜 」
「 ?? なんなの ジョー 」
「 いやいや ・・・ こっちのコトで。
ああ そうだ。 今朝思いついたんだけどさ 」
「 ?? 」
「 なあ 梅見 しようよ? 」
Last updated : 10.18.2022..
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********* 途中ですが
お馴染み・ 島村さんちシリーズ ・・・・
相変らず な〜〜んにも事件は起きません、
皆 にこにこ・・・ 幸せです (>_<)