『 その日 』 

 

 

 あなたが すべてを失った その日

 わたしが すべてを奪われた その日

 そして

 あなたとわたしが 出会った その日

 いままで 沢山の その日 を迎えてきたけれど。

 

 

  「・・・お時間ですので。そろそろ御願いします。」

 「 はい・・。」

 小さなノックと共にドア越しにかけられた声にそっと応えたわ

 ・・あら・・・すこうし 声がヘン。わたし、揚がってる・・かな・・?

 

 いつものように 鏡の中のわたしにオマジナイの投げキッス・・・

 ・・あら・・・コレがわたし・・? いつもと、ぜんぜん違う顔・・じゃない・・?

 メイクが普通だから? アタマが違うから? お衣装が特別だから?

 ・・・もしかして・・・もしかして・・・わたしって・・こんなに綺麗だったの・・・? 

 ううん、違うわ。 今日が<その日>だから。

 

 「・・・フランソワ−ズ、いいかね? 」

 「 はい・・。」

 博士がやっぱりちょっと緊張気味で入っていらしたわ

 ・・あら・・・ステキ! さすがに貫禄、礼服がとてもよくお似合いネ

 

 「行こうかの・・?」

 「 はい・・。 博士、いえ、お父様。」

 泣き笑いみたいに顔をくしゃくしゃにして・・・泣かないで、おとうさん!

 差し出された腕にそっと手を預けて。 さあ、よろしく御願いしますね!

 

 いつものように 左足をトンっと踏みしめ転ばないオマジナイ・・・

 ・・あら・・・履き慣れないハイヒ−ルがすこうしヘンね、ポアントの方が楽かなあ?

 本番前よりどきどきするわ・・・本番って今日も<本番>だけど。

 そうよね、今日こそたった一度きりの本番なのよ、しっかり!フランソワ−ズ!

 人生で最高のグラン・パ・ド・ドゥを 今日踊りたい、ううん、踊るのよ、わたし。

 

 ジョ−、 あなたと。

 

 

  扉が開いて。・・ああ・・舞台のライトよりずうっとやわらかいやさしい光、ね。

 ・・あら・・・おとうさん、すこうし速すぎるわ、音をよく聴いて、ゆっくり ゆっくり、ね?

 いつもの習慣で目線が上がってしまうわ・・・慎ましやかに俯いてゆくものなんだけど。

 いいの、ただ一度きりのこの舞台をわたしはしっかり見詰めたいもの。

 ただ歩くだけなのに・・ただまっすぐに進むだけなのに・・身体が火照ってきたわ。

 ジョ−、 あなたに一歩一歩・・近付いてゆくのね 

 

 あのね。

 ヴァ−ジン・ロ−ドは何のためにあるか知ってる?

 ココを歩いて 一歩一歩踏みしめて 

 そうして 一足ごとに花嫁はみんな 無垢な天使になるのよ

 そのための 変身のための 道程なのよ

 

 祭壇の前で待つあなた

 うふふ・・・すごく緊張してるわね?

 さあ! 手を出して。 あなたに手を取られ あなたの手を取って

 これから 神様に紹介するんだから 

 

 神様

 この人が わたしが選んだ人です

 この人が わたしが共に歩んでゆく人です

 この人が わたしが全てを分かち合う人です

 

 どうぞ よろしく! そして 祝福してください

 

 ジョ−、

  あなたが わたしを護り わたしが あなたを護ります

 あなたが わたしを愛し わたしが あなたを愛します

 あなたと 巡り合う為に わたしは 生まれてきました

 わたしと 巡り合う為に あなたは 生まれてきました

 

 どうぞ よろしく!

 そして さあ、一緒に踏み出しましょう、

 

 わたしたちの  新しい第一歩を

 わたしたちの  新しい その日 を

 

 すべての その日 はこの瞬間(とき)を迎えるために。

 

 

  「「 はい、誓います! 」」

 

 

 

   *** HAPPY  END ***

 

後書き by ばちるど

 

【霜月の小部屋】(by 霜月さま)様方への<祝!開設半年記念>の献上品です。

ああ・・でも大遅刻でした・・・(霜月さま、申し訳ありません〜〜〜)

ばちるどとしては珍しく!はっぴい・えんどであります。

Last update : 1,18,2003

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