『 白い翼 』

 

 

 

 

 

・・・ なんて暗い瞳をしているのかしら。

 

初めて < 彼 > に逢ったとき、フランソワ−ズはそっと呟いていた。

その時、誰もが平静ではなかった。 

自分が自分でなくなり、まったく別の存在となり目覚めたあの時・・・

出会った < 仲間 > 達は皆動転したり驚愕したり、尋常な精神状態だったのはいない。

彼女自身も、 ひどい状態だった、と思う。

 

しかし、

その最後の番号を持つ青年の瞳の奥底は 果てしない闇が見えた。

困惑と驚愕 ・・・ 疑念とそして 絶望。

彼の瞳はとても澄んでいたけれど、ひやりと一抹の冷たささえ感じられた。

「 あなたもいらっしゃい。 」

「 ・・・・・・・ 」

呼びかける彼女を仰ぎ見た瞳、その暗さにフランソワ−ズは胸がつぶれた。

新しい仲間、最後のメンバ−は < 日本人 > だ、と聞いていたのだが・・・

 

  ああ、そうね。 日本人なら濃い色の瞳ですものね。

  ・・・ でも ・・・?

 

目を凝らせば < 彼 > は濃い色の瞳も髪も 持っていなかった。

整った顔立ちを隠すように揺れる長めの髪は明るいセピア色であり じっとこちらを見つめている瞳は

陽にも透ける薄い茶色だった。

 

「 わたし達と一緒に。 あなたもこちらにいらっしゃい。 」

「 ・・・・・・ 」

 

・・・ギシ ・・・ ギシ ギシ ・・・

 

相変わらずひと言も発しなかったが < 彼 > の脚は一歩ずつ赤い服の集団に近づいてきた。

 

   ・・・ このヒト。 ずいぶん若いのね。

   わたしとあまり 変わらない・・・? でも ・・・・

 

その日から、< 彼 > は 009 として彼らの一員となった。

黙って自分達に加わった最後の < 仲間 > は不思議と醒めた雰囲気をもっていた。

 

 

 

 

「 ・・・ え〜っと。 地下のロフトには機材だけしか入らないのかしら・・・ 」

フランソワ−ズは荷物を抱え、うろうろと廊下を行き来していた。

「 博士 ・・・ はダメね。 書斎で本の虫だわ。 イワンは夜の時間だし・・・う〜ん・・・そうだわ!

 ジョ−はどこかしら。  出かけちゃったかな・・・ 」

ぱたぱたぱた ・・・・

がらんとした邸内に彼女の足音がやけに大きく響いてゆく。

「 ・・・ あ。 みつけた・・・! 」

リビングの外、海に面したテラスの一番隅に人影があった。

こちらに背を向け のんびりと空を眺めているらしい。

「 ジョ ・・・・ ? 」

 

   ・・・ あら ・・・?

 

開け放ったテラスから 低い声が、歌声がかすかに流れてきていた。

 

   ジョ−・・・? 彼が歌っているの?

   初めて聞くわ・・・  あら ・・・ 素敵な歌 ・・・

 

フランソワ−ズは思わず足を止め 切れ切れのメロディ−に耳を澄ませていた。

 

 

 

ブラック・ゴ−ストの度重なる刺客の手から逃れ、なんとか彼らは安住の地を見つけた。

仲間達のある者は祖国に戻り、 ある者は新天地で生活を始め・・・

結局 ギルモア博士とイワンとフランソワ−ズはこの極東の島国に居を構えたのだ。

 

「 ぼくも一緒に住んでもいいですか。 」

茶色の瞳の青年は相変わらず控えめに申し出た。

「 おお、勿論じゃ。 ここはきみの祖国じゃもの、わしらも心強いわい。

 ・・・ しかし、いいのか? 身内の方々や友達もおるだろう? 」

「 ・・・ 誰もいません。 ぼくは ・・・ ひとりきりです。 」

「 そうか・・・。 君さえよければわしらは大歓迎だ。 いや、宜しく頼むよ。 」

「 あ・・・はい。 ぼくの方こそ・・・ 」

「 嬉しいわ〜 お買い物とか、いろいろ教えてね。 」

「 ・・・ あんまり役に立たないと思うけど・・・ どうぞ宜しく、003 ・・・じゃなくて、えっと ・・・? 」

「 フランソワ−ズ。 フランソワ−ズ・アルヌ−ル、よ。 ムッシュウ・シマムラ。 」

「 え ・・・ あは、 ジョ−、です。 」

相変わらず長めの前髪の間から、 <彼> ははにかんだ笑みをみせた。

 

   やっと普通に笑ってくれたわ・・・

   でも。  なんて淋しい ・・・ 笑顔なの。

 

あの島で出合ってからずっと、滅茶苦茶な日々だった。

ともかくここを出る・・・! なんとしてもヤツらの手から逃れるんだ!

全員の固い意志に <彼> は引き摺られ そして 無言で付いて来ていた。

そして 今。

あんなに焦がれていた世界、 ごく当たり前の日々が廻ってきたときに、

<彼> は戸惑っていた。

彼、 いや、 シマムラ・ジョ− の顔には

戦闘中には決してみせなかった曖昧な 揺らめく影があった。

 

   ・・・ なんて暗い瞳をしているのかしら。

 

穏やかな日の中で、フランソワ−ズはまた呟いていた。

 

 

四人の生活はごく平凡に穏やかな日々を重ねていった。

余所目には若い夫婦とどちらかの親、そして赤ん坊 の家族、と映るらしく、

地域の社会にも自然と馴染んでいけた。

初めは多少奇異な目でみられることもあったが フランソワ−ズの明るい笑顔が

周囲の人々を和ませていったようだ。

 

「 ねえ、ジョ−。 もし・・・よかったらお買い物、 付き合ってくれる。 」

「 いいよ。 荷物持ちかい。 」

「 それもあるけど・・・ ほら、地元の商店街にいろいろお店があるでしょう。

 あそこを覗いてみたいの。 」

「 ちょっと先に大型のス−パ−があるだろ。 あそこなら買い物は一度ですむよ。

 英語の表示もあるし ・・・ 」

「 そうなんだけど。 小さなお店も面白そうじゃない?

 わたし ・・・ お魚屋さんやら八百屋さんに行ってみたいの。 」

「 いいけど。 ぼくもあまり寄ったことがないから・・・ 」

「 それなら丁度いいじゃない? ・・・あ、イワンも連れて行きましょ。 たまにはお外に出なくちゃ。」

「 今、 夜の時間だろう。 」

「 ええ。 それでもお日様と仲良くしたいでしょう。 

 じゃあ・・・ ちょっと支度してくるから。 ジョ−、ベビ−カ−の準備をお願い。 」

「 はいはい・・・ 」

ジョ−は少々引き篭もりの傾向があったが否応なしに彼女に引っ張り出され ・・・

そして彼も次第に地域の社会に馴染んでいった。

  

   ・・・ 明るいヒトなんだな。  

   あの笑顔に みんなもにこにこしてしまう・・・ いいなあ・・・

 

両手に荷物をもち、ベビ−・カ−を押す彼女の後に従い、ジョ−自身も外出を楽しむようになっていた。

 

「 あれ・・・ 相変わらず仲がいいねえ。 」

「 うん? ああ、あの岬のガイジンさん夫婦ね。 」

「 随分若いけど・・・ 頑張っているようだね。 あの赤ん坊も丸々ふとって元気そうだこと。 」

「 この町にも若いヒトが増えてくれるといいねえ・・・ 」

「 そうだね。 あのご老人は奥サンの親御さんのようだよ・・・ 」

「 ふうん ・・・ いい家族だなあ・・・ 」

 

そんな声を知ってか知らずか、4人は仲良く平穏な毎日を送っていた。

 

   こんな日が続くと 本当に今までのコトは悪い夢だったんじゃないか・・・って

   思ったりもしてしまうな。

   ・・・ このヒト達と出会わなかったら ぼくはどうしていたんだろう・・・

 

赤い特殊な服を纏い硝煙たなびく地域を駆け抜けていた日々、あれは現実だったのか・・・

もしかしたら寝苦しい夜が見せた悪夢だったのか・・・ 

ジョ−はぼんやりと空を見上げる。

そこには以前と少しも変わらない空間が広がっていた。

しかし、現実にこの身体の中にはぎっしりと精密機械が詰め込まれており、

滑らかな肌は一枚めくれば 縦横にコ−ドやらチュ−ブが走っているのだ。

 

   ・・・ ぼくは 本当に生きているのだろうか ・・・

 

日に翳せばほんのり血の色さえ透けてみえる精巧なツクリモノの手に

ジョ−はぞくり、と戦慄を覚えたりもするのだった。

 

   ぼくは どこへ行けばいいのか・・・

 

見上げる早春の空は どこまでも淡い青が広がっている。

 

   ・・・ このまま ・・・ 吸い込まれて溶けてしまえたら・・・

 

 

「 ・・・ キレイなメロディ−の歌ね。 

不意に後ろから声が降ってきた。

ジョ−は慌てて振り返ると、空の色とも見紛う瞳がじっと見つめていた。

「 ごめんなさい。 ・・・ なんだか気持ちよさそうだったから・・・

 ちょっと黙って聞いていたの。 」

「 え・・・? あ・・・ いけない、また・・・。 クセになっちゃってるんだな〜 」

ジョ−は自分でも気づかないで歌を口ずさんでいたらしい。

他でもない、彼女に聞かれるとは・・・ ジョ−は前髪の影で自分に舌打ちしたい気分だった。

「 あら、いいじゃない。 素敵は歌だわ。

 メロディ−も歌詞も・・・ 少ししか聞き取れなかったけど・・・ 」

「 ・・・ なんだか照れるな。 自分でも歌ってたなんて気が付かなかった・・・ 」

「 ふふふ・・・ でも素敵だわ。 日本の歌ね、歌詞を教えてくださる。 」

「 あ・・ いいけど。 これ・・・さ。 ぼくが小学生のころ音楽の教科書に載ってたんだ。

 ああ ・・・ そうだな〜 合唱コンク−ルとかでも歌ったよ。 」

「 へえ・・・? 学校で? コンク−ル? 」

「 うん、日本の学校ってそういう行事があるんだ。 」

「 面白いわね。 ・・・ ねえ、教えて? 」

「 うん ・・・ 」

ジョ−は小さな声で歌い始めた。

彼はたっぷりした低めの声を持っていた。 

まだ春も浅い、冷たさの方が多い空に歌声が流れてゆく。

 

「 ・・・ いい曲ね。 歌詞も ・・・ すてき。 」

「 あは・・・ 気に入った? 」

「 ええ。 ・・・ いま ・・・ わたしの ・・・ 」

フランソワ−ズはすぐに細い声で歌い始めた。

「 へえ〜〜 すごいな。 初めて聞いて、もうすぐに歌えるんだ? 」

「 キレイなメロディ−だから・・・ 覚えやすいわ。 」

ジョ−は黙って 彼女の歌声に耳を傾けていた。

 

「 ジョ−って歌が好き? 」

「 え・・・ いや、特に好きってほどでもないけど。 どうして。 」

「 だってクセになるほど歌っていたのでしょう? 」

「 ・・・ああ ・・・ それは ・・・

 ぼく、施設で育ったからね。 一人ぼっちのことが多かったんだ。

 学校でも帰ってからも。 皆が遊んでいるのを眺めてこの歌、こっそり歌ってたりしたよ。 」

「 そうなの ・・・ 」

「 なんかさ・・・ 歌ってるとちょっとでも賑やかだろ。 

 自分で自分を慰めていたのかもしれないな・・・ ふふふ ・・・ 暗いコだよね。 」

「 ・・・ そんなこと、ないわ。 この歌 ・・・ いい歌ね。 」

「 うん ・・・ 」

「 きれいで 哀しい歌だわ。 」

「 ・・・ そう思う? 」

「 ええ。 自由になりたい ・・・ 柵 ( しがらみ ) から逃れ どこかへ飛んでいってしまいたい・・・

 って。 なんだか ・・・ あら、変ね。 涙が出てきちゃった。 

「 ごめん ・・・ 」

「 どうしてあなたが謝るの。 ・・・可笑しなジョ− ・・・ 」

「 あ・・・ ごめ ・・・・ あは。 」

「 またぁ〜 ・・・ ふふふ ・・・ 」

「 ・・・ ははは ・・・ ヘンだよね、ぼく ・・・ 」

二人は顔を見合わせ 涙の滲む目を見合わせ 笑った。

 

「 あ ・・・ なにか用? 」

「 ・・・! いけない〜〜 あのね、地下のロフトの事で相談したかったの。 」

「 ロフト? 博士に聞いたほうがいいんじゃないかな。 あそこに置いてあるのは

 ほとんど博士の研究機材だろ。 」

「 だめ、博士はだめよ。 書斎に閉じ篭って本に首を突っ込みだしたら 

 もう何をきいても だめ。  ああ、 とか うん  しか言わないもの。 」

「 あはは・・・ そうだねえ。 ロフトをどうしたいのかい、何かに使いたいの? 」

「 ううん ・・・ 普段使わないモノを入れておきたいなあって思っただけ。 」

「 それなら 別にいいんじゃない。 ・・・あ、 それ? 運ぼうか。 」

ジョ−はフランソワ−ズが置いた荷物に目を留めるとひょいと持ち上げた。

「 あら・・・ ありがとう! じゃ、入れさせてもらっちゃおうかしら。 ジョ−、地下までいい? 」

「 うん。 このくらい、軽いって。 」

二人は肩を並べて地下へ向かった。

 

「 ねえ。 ジョ−は ・・・ どうするの。 」

「 どうするって?  あ、電気はそこの壁際だよ。 」

「 え ・・・ ああ、これね。 ありがとう ・・・ 」

地下に降り、ひんやりとした空間に二人は立っていた。

だだっ広い場所なので ごちゃごちゃした機材が放り込んであっても狭苦しいカンジはしない。

「 ここにちょっとくらい不要のもの、置いてもいいわよね。 」

「 うん、別に構わないんじゃないかな。 向かい側の部屋も空いているみたいだし。 」

「 そうね。 向かいのお部屋ね ・・・ わたし、出来たら使いたわ。 」

「 何に? だってなんにもないよ? 」

「 ええ。 何もないから、ね。 もし、よかったらわたし、使ってもいいかしら。 練習したいの。 」

「 練習・・・? ・・・ ああ! きみ、またバレエを始めたんだっけ。 」

「 ええ。 ほんの趣味程度だけど。 」

「 いいんじゃない? やりたいこと、やったらいいよ。 

 あ・・・ 床とかあのままでいいのかい。 そうそう、鏡もいるんだろ。 」

「 よく知っているのね〜〜 」

「 ふふふ ・・・ 昔ね、中坊の頃、気になる女の子がいてさ。 彼女、バレエ習ってて・・・

 わざわざバレエ教室を覗きにいったことがあるんだ。 」

「 ・・・ まあ。 」

「 昔の事だってば。 ガキンチョの頃のイタズラさ。 」

「 その子とは ・・・ どうなったの。 」

「 別に。 ただの憧れっていうか・・・ 興味があっただけだもの。

 あ、それでその時に バレエのレッスン場ってのを初めて見たのさ。 」

「 そう ・・・。 」

「 手伝うよ? 大きな鏡の替わりに・・・博士がなにか装置を作ってくれるかもしれない。 」

「 まあ・・・ そんな。 じゃあ、今度とりあえずお掃除を手伝ってくれる? 」

「 オッケ−。 」

「 それで ジョ−はどうするの。 」

「 え・・・ ああ、なにが? 」

「 これからのこと。 皆、それぞれの生活をしているでしょ。 ジョ−は? 」

「 ・・・ぼく ・・・ 」

「 わたしは帰る所もないからここに居させてもらってるけど。 

 ジョ−は・・・ その ・・・ 以前は何をしていたの。 」

「 何って ・・・ 何も。 」

「 じゃあ ・・・ 何をしたかったの。 」

「 夢なんてなかったな。 まあ、ヤバい方向に行きかけてたし・・・ 」

「 そうなの・・・? 」

「 そうだな〜 ・・・ 夢っていうか、出来れば車関係の仕事がしてみたかったんだ。

 作るほうじゃなくて、乗る方さ。 ガキの頃には F1レ−サ−なんて言ってたな。 」

「 やってみれば。 」

「 ・・・ え? 」

「 やってみれば。 チャレンジしてみればいいじゃない。 

 ダメもとってことで・・・・ < 翼はためかせ > 飛んでゆけるかどうか、よ。 

「 フランソワ−ズ ・・・ 」

「 黙って空を眺めているだけじゃ ダメよ。 ・・・ね? 」

「 ・・・ きみ ・・・ 」

ジョ−はまじまじと彼女の顔を見つめた。

まったくの運命の悪戯でめぐり合い、結構長い間一緒に過してきたこの少女。

芯が強いのはわかっていたが、表面はいたって大人しく控えめな性格だと思っていた。

 

  フランソワ−ズって ・・・ ?

 

<ヤマトナデシコ> そんな古風なコトバがジョ−の頭に浮かんでいた。

亜麻色の髪に空の色の瞳、白皙の肌にサクランボの唇・・・どこから見てもお人形サンみたいな

パリジェンヌの彼女に、ジョ−はそんな印象を持っていた。

 

闘いの日々が終わり、この地に、一つ屋根の下に暮らすようになり、その印象はますます

強くなっていたのだ。

 

「 お似合いのご夫婦ですね。 」

「 美人で淑やかで ・・・ 素敵な奥さんですね〜 羨ましい ! 」

ジョ−はそんな声を周囲で聞くたびに 満更でもない思いをしていた。

 

  ・・・ このまま、彼女と一緒になってもいいよな ・・・・

 

そんな願望が見え隠れするようになっていたし

彼女もきっと穏やかな家庭人としてこれから過してゆきたいのだろう、と思っていた。

 

それが。

 

「 ・・・ < 翼はためかせ > か。 そう・・・そうだよな・・・ 」

「 ジョ−なら 出来るんじゃない? 」

「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・! 」

「 ヒトは皆、望んでいる道をゆくべきよ。 眺めているだけでは なにも起こらないわ。 」

「 ・・・・・・・・ 」

にっこり笑いかける瞳に、ジョ−は自分自身の秘めていた想いを見つけていた。

「 そうよ、ジョ−。 」

「 ・・・・ !  」

ひんやりと澱んだ空気、ホコリっぽくさえある地下のロフトの片隅で

二人は 熱く深く・・・ 唇を重ね合わせた。

 

 

 

 

 

「 おや。 ジョ−はどうしたね。 帰ってきたはずじゃろう? 」

「 博士 ・・・ ええ、お昼前に・・・ 」

「 ふん、 ガレ−ジのドアが開いたものなあ・・・  また出かけたのか? 」

リビングに降りてきて、ギルモア博士はきょろきょろしている。

久々に海外遠征から戻ったはずなのに、肝心の本人の姿が見あたらない。

ティ−・テ−ブルの上のカップからは 香りたかい湯気が立ち昇っているのだが・・・

ソファには フランソワ−ズはぽつり、と座っているだけだ。

「 博士、どうぞ? お好きなダージリンですわ。 これ・・・ ジョ−のオミヤゲです。 」

「 ほう ・・・ ああ、いい香りじゃな。 時に ヤツは? 」

ギルモア博士は どっかと専用の肘掛椅子に腰を落とした。

「 なんだか ・・・ 以前のお友達、と仰る方から連絡が入って・・・ 出かけました。 」

「 ふうん? トモダチ・・・って女友達か。 」

「 ・・・ 多分 ・・・ 」

カチリ ・・・ とフランソワ−ズのカップがソ−サ−を鳴らす。

「 そうか。 まあ・・・ヤツにもいろいろあるのだろうな。 」

「 ええ・・・ ジョ−も望んでいた道を進めてよかったと思います。

 まさか あんなに人気モノになるとは思ってなかったですけど・・・ 」

クス・・・っと小さくフランソワ−ズは笑みをこぼした。

「 あはは・・・ そうだな。 レ−スに賭けるヤツの様子は案外違和感がないがの、

 マスコミに囲まれて騒がれている姿は なんだか可笑しいのう。 」

「 本当に ・・・ 」

・・・ ほ ・・・っと小さな吐息が紅茶の湯気を揺らす。

「 お前もどんどん活躍したらよいよ。 せっかくレッスンも始めたのじゃから・・・ 」

「 ええ。 そう ・・・ ですね。 」

「 ・・・・・・ 」

「 ああ、今日もいいお天気 ・・・ ここの空は本当にキレイですね・・・ 」

フランソワ−ズはつ・・・っと立ち上がるとテラスへのフレンチ・ドアを開けた。

早い春を迎え、陽射しは日ごとに華やかさが加わってゆく。

水色の空には ぽかり ぽかり とふわふわの雲が浮かんでいる。

・・・ そろそろ 空気に甘い香りがまじってくる季節なのだ。

 

   ・・・ ジョ− ・・・ 一緒に眺めたかったわ・・・

 

なにを見ているの?  なにを眺めているのかい?

そんな会話を交わした場所に今、ひとりきりで佇む。

「 おっつけヤツも戻ってくるじゃろうよ・・・ 」

テラスに寄りかかる細い後ろ姿に 博士は声をかけずにはいられなかった。

「 ・・・ はい ・・・ ・・・・・・ 」

「 ・・・ ん ?  ああ、彼女が歌っているのか。  ・・・ キレイな声じゃの。 」

細く流れてくる歌声に 博士はしばし耳を傾けていた。

 

結局。

また海外に出かけることになり、ジョ−は挙句の果てにぼろぼろに − 身も心も − なって戻ってきた。

「 ・・・・ どうして こんな ・・・ 」

「 ぼくが ・・・ ぼくのせいなんだ。 あのヒトに 罪はない・・・ 」

「 ・・・・・・ 」

それ以上語らないジョ−の側で、 フランソワ−ズもまた根問いせずだまって彼のメンテナンスに

手を貸していた。

「 ジョ−。 お前、少しは自分自身のことも考えろ。 お前達だとて不死身ではないのだぞ。 」

「 ・・・ すみません、博士。 」

渋面の博士にも ジョ−は言葉少なく謝るだけだった。

短いオフの大半をそんなこんなで潰し、ジョ−はまた海外遠征へと出発していった。

 

「 なかなか忙しいものなんじゃなあ・・・ あの商売は。 」

「 ええ・・・ レ−スの時だけ、じゃないそうですわ。 」

博士の 商売、という言い草にフランソワ−ズはくすり、と笑った。

「 アイツ ・・・ ろくろくここに居らんかったじゃないか。 折角お前がいろいろと・・・・ 」

「 いいんです。 ジョ−が・・・ 彼が望んでいる道を進んでいるのなら。 」

「 しかしなあ・・・ 」

「 また次のオフを待ちますわ。  ああ・・・ 今日もいいお天気! 

 お洗濯ものがぱりっと乾いて気持ちいいですね。  そろそろ取り込もうかな・・・ 」

明るい声をあげ、フランソワ−ズは庭に出ていった。

 

・・・ ああ またあの歌を ・・・  なあ ・・・

 

さわさわと吹きぬける薫風にのって 切れ切れな歌声が流れていった。

 

 

 

「 心配なら 行ってみるか? そのダンス・パ−ティとやらに。 」

「 ・・・ 心配なんかしていないわ! 」

「 そうかな。 ここで気を揉んでいるよりも実際に自分の眼で見たほうがよかろう?

 なんなら・・・我輩がエスコ−トいたしますぞ、マドモアゼル? 」

「 グレ−ト ! 」

慇懃にお辞儀をするや、禿頭の中年男はタキシ−ド姿の青年に変身した。

ご丁寧に < 記者証 > までもが胸に留めてある。

「 どこぞでドレスを調達すれば・・・ ほれ、合法的に晩餐会にお邪魔できるぞ。

 マドモアゼルの美貌なら注目の的は必至、二人でヤツの前を練り歩き焦らせてやろう。 」

「 ・・・ いいの、いいのよ。  わたし ・・・ そんな・・・・ 」

「 しかしヤツばかりが鼻の下を伸ばしてふらふらしているのを

 放っておくのはなあ。 もっと ガツン!と言ってやれ。 」

「 ふらふら・・・だなんて。 ジョ−は <仕事> なのよ。 そう ・・・ きっと。 」

「 ほう・・・ 可愛いどこぞのお姫様を守るお仕事ってか。 」

「 ・・・ ええ。 だから ・・・ わたしは・・・ 

ほろり ・・・ と水色の瞳から涙が零れそのまま水面に落ちてゆく。

「 マドモアゼル ・・・ 」

「 ジョ−がやりたいように見守っているだけだわ。 」

「 ・・・・・ 」

グレ−トはそっと亜麻色の髪を撫でた。

「 お主は ・・・ 本当にヤツには勿体無い女性 ( ひと ) だなあ・・・ 」

「 ・・・・・・ 」

洋上遥かに豪華なヨットの灯りが不夜城のごとく揺れていた。

 

 

「 ・・・ ジョ− ・・・! お帰りなさい ・・・ 」

「 あ・・・ああ? フランソワ−ズ。 まだ起きていたのかい。 」

「 ええ・・・。 あの、ミッション、ご苦労様・・・ 」

「 うん? ・・・ ああ。 あんまり巧くゆかなかったけどね。 」

「 そんな。 皆様、ご無事と聞いたわ。 」

「 うん ・・・ それは、ね。 でも ・・・ 彼女はあれで幸せなのだろか・・・ 」

「 ・・・ え? 」

「 ああ・・・ ごめん、なんでもないんだ。 ・・・ なんでも ・・・・ 」

深い溜息が ジョ−の口から漏れた。

「 あら ・・・ 」

「 ・・・ あ ・・・ヤバいね・・・ 」

静まり返った廊下に それはかなりの音を撒き散らし、ジョ−本人も苦笑している。

「 疲れているのね。 ああ、何か召し上がる? 軽く夜食でも作りましょうか。 」

「 ・・・ いや、いい。 もう ・・・ 寝るよ。 きみも早く休みたまえ。

 睡眠不足は美容に悪いんだろ。  ・・・ お休み ・・・ 」

ぎこちない軽口を 無理矢理捻りだし、ジョ−はくるり、と背を向けた。

「 ・・・ お休みなさい、 ジョ−。 」

「 ・・・・・・ 」

ふらり、と片手だけあげ、そのままジョ−は寝室に歩いていった。

 

  ・・・・ あら ・・・?

 

フランソワ−ズの耳が微かなメロディ−を拾い上げる。 そして彼の呟きも・・・

「 あのヒトも 自由に ・・・ 飛んでゆきたかっただろうに・・・ 」

ジョ−はほんのすこしだけ片脚をひきずっていた。

見慣れたはずの彼の背は。 広いはずのその背は なぜか寒そうに窄んで見えた。

 

   ・・・ ジョ−。 あなたも・・・?

   そう ・・・ そうね。 わたしも飛んでゆけたら・・・

   ・・・ ううん !  やっぱり ジョ−、あなたの側がいいわ。

 

やがて 彼の姿は寝室に消えた。

ポ−−−−− ・・・・!

どこか洋上に浮かぶ船からか ・・・ 微かな汽笛が深夜の時刻を知らせていた。

 

 

 

 

状況はかなり、いや、非常に不利だった。

ジョ−自身、かなりのダメ−ジを受けていたし戦況全体も芳しくなく、仲間達は散開して闘っていた。

 

  くそっ ! ・・・・ 引くもんかッ!

 

瓦礫の影から敵影を狙い ジョ−はじりじりと移動していた。

なんとしても ここを突破しなければならない。

ここのセキュリティを破壊すれば 一気に中枢部へと突入できるのだ。

仲間達を集結できるし、攻勢にも弾みがつく。

 

  もう少し ・・・ 細部まで探知できればな。

  003がいてくれたら・・・!

 

ジョ−自身も常人を遥かに超える視力と聴力を備えているが フランソワ−ズのそれには

とても及ばない。 的確な情報の把握と分析では彼女の右にでる仲間はいないのだ。

003は今、要塞を挟み反対の位置にいる。

 

探知装置のだいたいの位置は確認できるのだが精度がよくわからない。

しかし いつまでもここにぐずぐずしているワケにはゆかない。

こちらが敵の<網> にひっかかるのは時間の問題だろう。

 

  よし・・・! 運を天に任せて 行くぞ!

  加速してゆけば ほとんどの<網>はクリアできるはず ・・・

 

ジョ−はス−パ−ガンを持ち直すと、また少し場所を変えた。

ずるり、と手が滑る。

気が付けばかなりの人工血液が流れだしていた。

くそ・・・! こんな時に・・・!

ジョ−は舌打ちし 片手でマフラ−を外した。

完全な止血は無理としても一時押さえに、と上膊部にぐるぐると巻きつけた。

しばらくは 保つだろう。

 

  ・・・ ゆくぞ ・・・! ここを突破する・・・・!

 

建物の残骸から移動し、飛び出した途端に敵のレ−ザ−が探知し自動追尾の攻撃が始まった。

よし・・・ ! 抜けるぞ!

巧みにかわしつつ ジョ−は加速装置を稼働させようとした その瞬間 ― 

「 ・・・ ジョ ・・・ 右 ・・・の  マフラ ・・・ 」

切れ切れな音声をジョ−の耳が拾った。

 

  ・・・ え ・・?

 

右を向くと同時にがくん、と身体が傾いだ。

ジョ−は気づかなかったのだが、右腕に巻いたマフラ−が半分解けて瓦礫に絡まっていた。

不本意に動きを制限されジョ−は失速しかかった。

足元にはトラップが口をあけている。

 

  まずい・・・!

 

  危ないッ!!!! ジョー −−−−−− !!!!

 

カツン・・・! とブ−ツの先が金属片に触れ ・・・ 次の瞬間、柔らかいものが体当たりしてきた。

声と同時に足元の地面が爆発し 彼は宙に放り出された。 

「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・!!? 」

咄嗟に加速装置を噛んだジョ−の目の前を 赤い服に包まれた細い身体が飛ばされてゆく。

 

   く ・・・・ッ ・・・・!!!

 

彼はもう一度スイッチを噛み、加速のレベルを上げ吹き跳んでゆく姿に辛うじて追いついた。

腕を伸ばし 引き寄せそのまま胸に抱きこみ ・・・ あとはもろともに転がり落ちた。

 

「 ・・・ウッ ・・・! 」

ぐしゃり、と地面に叩きつけられ、流石のジョ−も呻き声をあげた。

ビ ・・・・!! ビ −−−− ! 

自動追尾のレ−ザ−がしつこく彼らを追ってくる。

フランソワ−ズを抱えたまま、ジョ−は地を転げレ−ザ−を避けた。 

損傷していた右腕は ス−パ−ガンを持ちきれず彼女を抱えているのが精一杯だ。

 

  ・・・ ダメかな。 

  でもフラン? 安心しろよ。 大丈夫、ぼくの身体がきみを守るから・・・!

 

ジョ−は不敵にもにやり、と笑い、腕の中の身体をしっかりと抱えなおした。

 

  死なせやしない ・・・ ! 絶対にきみを守る!!

 

・・・ バシュ ・・・!!  バリバリバリ ・・・・!!

「 あ・・・ あれ? 」

突然 レ−ザ−が火を吹いた。

「 お〜っと! お前ばっかにイイカッコさせるかよ。 」

シュ ・・・・っと聞きなれた音と共にやなり聞き馴染んだ声が聞こえ

赤い旋風がしつこいレ−ザ−攻撃を完全に沈黙させた。

「 ・・・ ジェット ・・・! 」

「 はん! ジョ−、まだオツトメは終ってねえぜ。 」

「 ありがとう! しかしどうしてぼくの位置がわかった? 脳波通信はブロックされてただろ。 」

「 ああ。 そいつが ・・・ 」

ジェットは手をのばし、ジョ−の腕の中の身体にそっと触れた。

「 いきなりオレをつかんでよ、早く! 加速してっ!って怒鳴ったんだ。 」

「 あ・・・ それで・・・ しかし ・・・ 」

「 フラン、さ。 ずっと・・・ずっと自分の守備範囲とは別にお前のこと、サ−チしてたらしい。 」

「 なんだって。 」

「 おい! 彼女、大丈夫かよ? 」

「 あ・・・ああ。  フラン・・・? フランソワ−ズ ・・・ 」

ジョ−は慌ててずっと抱き締めていた彼女の顔を覗き込んだ。

「  ・・・う ・・・ ん ・・・・ あ ・・・ ジョ− ・・・ 」

「 フランソワ−ズ! 大丈夫か? 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ ああ、無事なのね。  よかった ・・・ 」

細い指がジョ−の頬をさぐる。 

「 ああ、ああ! きみのおかげでね! どこだ、どこをやられた? 」

「 ・・・ わから ・・・ ない。 よく みえ ・・・ ないの。 」

「 ・・・ ! すぐにドルフィン号に運ぶよ。 しばらくのガマンだ。 」

「 だめ・・・ だめよ。  今 ここを突破するチャスなのよ ・・・ 引いてしまってどうするの・・・ 」

「 しかし、 きみの傷が ・・・ 」

ジョ−は解けたマフラ−でそっとフランソワ−ズの額を、頬を拭った。

どうも彼女は頭部に傷を負っているらしい。

「 最後にサ−チしたデ−タを送るわ ・・・ だ・・・から そこを避けて ・・・ 」

「 了解! ただし、この後はドルフィンに直行だぞ。 」

「 ・・・・・・ 」

フランソワ−ズは 目を閉じたまま・・・ ほんのりと頬を綻ばせた。

「 <目> なら少し ・・・ 使えるわ。 いい? よく聞いておいてね。 

 ここは ・・・ まず五時の方向と ・・・ 」

切れ切れの声で フランソワ−ズはトラップの正確な位置を告げ始めた。

 

「 ・・・ 了解。 ジェット? 」

「 ん? スタンバってるぜ。 」

「 よし、加速前ぎりぎりでフランソワ−ズをドルフィンに運んでくれ。 」

「 な・・・! オレがここをクリ−ンにしてやる。 」

「 今はきみの方が機動力がある。 彼女の治療が最優先だ。 」

それに、 とジョ−は言葉を切り再びマフラ−を手に取った。

「 ここはぼくがやる。 」

「 だってジョ−、お前も右手が 」

「 こうしておけば ・・・ 吹っ飛んでも一緒さ。 」

「 ジョ−。 」

ジョ−はに・・・っと笑うとマフラ−で我が右手にス−パ−ガンを括り付けた。

「 行くぞ。 」

「 あ・・・ ああ。 ほんじゃ、フランはオレに任せろ。 」

「 Good luck ・・・! 」

「 ちぇ! それはオレのセリフだって!  くっそ〜〜〜 」

フランソワ−ズの頬にさっと唇を掠め 次の瞬間ジョ−の姿は消えた。

 

「 ・・・ ジェット? 」

「 おうよ。 ほんじゃドルフィンへ行くぜ。 しっかりつかまってろ。 」

「 ・・・ d'accord ! 」

 

 

 

 

「 ・・・ フラン? 入るよ。 」

「 ジョ−。 どうぞ・・・・ 」

ジョ−は小さなノックをして、彼女の部屋のドアを細目にあけた。

うす暗い中から 明るい声がすぐに返ってきた。

「 大人がね。 オヤツだって ・・・ ほら、杏仁豆腐をつくってくれたんだ。 」

ちろろ・・・とガラスの器がジョ−の捧げるトレイの上で鳴った。

「 まあ、嬉しいわ・・・ ああ、キレイな音 ・・・ 」

「 オヤツの前に ・・・ もうひとつ。 ちょっと待ってくれる。 」

「 あら ・・・ なにかしら。 」

ベッドから彼女が起き上がる気配がする。 

「 さっきね、博士に伺って・・・ お許しがでたんだ。 ・・・ ほら ・・・ ! 」

「 ・・・ あ  ああ・・・・ 窓 ・・・ 」

軽い音と共に ジョ−は病室を覆っていたカ−テンを一気に引いた。

南向きの部屋に さ・・・っと淡い黄金色の光が満ちる。

「 もういいだろうって。  それに ・・・ 来週にはきみの目、アイ・マスクが取れそうだって。 

 ほら、ちゃんと羽織ってないと 寒いだろ。 」

ジョ−は窓からベッド・サイドに戻り、フランソワ−ズの肩にガウンをかけた。

「 あ・・・ ありがとう。 ああ お日様 ・・・ 暖かいわねえ ・・・ 」

「 うん。 今日もいい天気なんだ。 」

「 ・・・ そう ・・・ 早く、コレ外したいわ。 」

「 もうちょっとの辛抱だよ。 」

「 ええ・・・ 」

フランソワ−ズは顔の半分を覆っているアイ・マスクに手を触れている。

「 ジョ−。 お願いがあるの。 」

「 なに。 あ、ごめん、ごめん。 せっかくのオヤツ・・・ 」

「 あら、ちがうわ。 ね。 窓を、ほんのちょっとでいいの、開けてくださる。 」

「 え・・・ 大丈夫かい。 」

「 平気。 ほら・・・こうやってちゃんとガウンを羽織っているから。 」

「 ・・・ じゃあ すこしだけ、だよ。 」

ジョ−は立って窓辺にゆくと、テラスへ開けるサッシをすこしだけ引いた。

 

 

「 いい気持ち・・・・ 風が 甘いわ・・・ 」

「 甘い、か。 面白いコト、いうね。 」

「 だって ・・・ ほら・・・・風の匂い ・・・ 海の香り ・・・ 」

「 うん。 桜もそろそろ散るかなあ。 」

「 まあ ・・・ もうそんな時期 ・・・? ねえ、もう少し開けて。 」

ジョ−はそのまま、サッシをまた少し引いた。」

フランソワ−ズは半身を起こしたまま、深呼吸をしている。

「 ・・・ねえ、 ジョ−。 鳥は飛んでいる? 」

「 うん ・・・?  ああ・・・ あれは カモメかなあ。 気持ちよさそうに旋回してるよ。

 ほら、向がわに見える海岸があるだろ、 あっちの方からずっと何羽も ・・・・ 」

「 そう ・・・ 海もきっときらきら・・・綺麗でしょうね。 」

「 うん。 金のうろこが浮いているみたいだ。 」

ジョ−もテラスから乗り出し、芳しい春の大気を胸いっぱいに吸い込んだ。

「 空を ・・・ 自由な空を 鳥は飛んでいるのね。 翼を広げて どこまでも・・・ 」

「 ・・・・?   あ ・・・・? 」

ふと ・・・ 細い声が、歌声が聞こえてきた。

 

  ・・・・ え。 この歌・・・ 誰が?  フランソワ−ズ?

 

「 ・・・ フランソワ−ズ ? 」

「 ふふふ ・・・ わたしも口癖になっちゃった。

 この歌を歌っているとね、 ジョ−と一緒にいるみたいな気がして・・・ 一人でも淋しくないわ。 」

「 ・・・・・・ ! 」

「 わたしは 闘うあなたを見ていることしかできないから。 せめて同じ想いを持てればって思って」

 

   あ・・・ 白い鳥が 飛んでいったわ・・・ そうでしょう?

 

   ・・・ ああ ・・・ そうだね。  空に ・・・ 自由な空に ・・・

 

   ええ。 わたしも ・・・ あなたと一緒に飛んでゆきたいわ。

 

「 ・・・ごめんよ! ぼくは ・・・ ぼくはもうひとりぼっちで歌う必要、ないんだね・・・

 ちゃんと ここに。 きみがいつも一緒にいてくれる ・・・ 」

「 つばさ、はためかせ ・・・ 行きましょう。 」

「 フランソワ−ズ ・・・ 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ 」

 

今、二人の想いが 重なって

二人の愛は 白い翼を得、  そして 大空に飛翔している。

 

 

 

*************    Fin.    **************

 

Last updated : 02,05,2008.                              index

 

 

******  ひと言  ******

新ゼロって ゼロナイ的時間軸 ではどの辺りのことなのでしょうね?

ヨミ編後? どこ落ち の後あたりからスタ−トなのでしょうか???

珍しくも新ゼロ風味なお二人さんの出会いから やっと朴念仁がタカラモノを

意識するあたり・・・ を書いてみました(^_^;)

はい、BGM は あの・なつかしの・合唱曲〜〜〜♪♪

朝ドラの中で久々に聞きまして ・・・ イッキに妄想してしまいました。

こんな二人もたまには いかがですか・・・ (#^.^#)