『 春を待ちながら 』

 

 

 

 

 

 

少し古びた洋館 ・・・ に見えるギルモア邸。

過去には何回が敵襲に遭い、焼け落ちたり全壊したこともあったが、現在に至るまで

ずっと岬の崖っぷちに建っている。

いつも波の音が聞こえ海風が吹き 目路はるか大海原が広がるその地は温暖な気候に恵まれている。

海は時に大波を打ち上げることもあるが、日々穏やかな顔をみせ、海風も海岸の松並木を揺らす程度だった。

 

そんなこの地は 春が早い。

新しい年を迎え 梅が芳香を漂わせるころから小さな春の使者がそちこちに顔を見せ始める。

 

「 ねえねえ! 水仙が咲いたの。 ええ、岬のね、ちょうど風の当たらない窪地に! 」

「 梅がね・・・ ものすごくキレイ・・・ わたし、白い梅が好きだわ〜 香も素敵だし。」

「 ジョ−! スミレよ! スミレ、見つけたわ。 え? ああ・・・駅のロ−タリ−に植えてあるのは

 パンジ−でしょ。 違うわ、スミレよ。 こんなちっちゃい深紫の花なの。 」

「 タンポポがね、もう咲いていたの。 ううん、道端によ、それが。 すごいわ〜〜 」

 

毎日毎日。 買い物やらレッスンから帰ると、フランソワ−ズは一番に季節の便りを報告した。

息せききって。 バッグも買い物袋も持ったまま・・・ 頬をピンクに染めて。

コ−トのボタンすら外さずに でも満面の笑顔で彼女は熱心に話すのだ。

 

   ・・・ どんな花よりも ・・・ きみのこの笑顔が一番さ・・・!

   この微笑が ぼくに春を告げてくれるよ・・・!

 

ジョ−は大して関心もなさそうに振る舞いつつ こっそりそんな彼女に見ほれていた。

「 へえ・・・ よく気がつくねえ。 毎日通る道だろ、ぼくなんかな〜にも見てないなあ。 」

「 あら! だって毎日通るからこそ、ちょっとでも変わると目が行くのよ。

 毎日 違うお花が姿を見せてくれるんですもの、 もう楽しみで楽しみで ♪ 」

「 やっぱり女の子はちがうなあ。 ・・・ うん、この当たりは暖かいから春もちょっと早いんだよね。  」

「 そうね。 わたし、三月ってまだまだ厚ぼったいオ−バ−を着ていたわ・・・・ ムカシ。 」

彼女の生まれ育った街は この国なら札幌に近い緯度上にある。

春が巡ってくるのも すこしばかりゆっくりなのだろう。

「 空もず〜っと灰色なの。 それで復活祭の頃にやっと花壇に青い芽を見つけるのよ。 」

「 ふうん ・・・ ここはもうすっかり春だよね。 桜もさ、ほらウチの裏山にあるヤツ、そろそろ・・・ 」

「 ええ、枝の先の蕾がね、ちらちら咲き始めていてよ。 」

「 あ〜〜 もうとっくに知っていたかい。 来週の末にはお花見かな ♪ 」

「 そうね、張大人やグレ−トを呼びましょうか。  ・・・ ああ、そうだわ。 はい、お手紙よ。 」

フランソワ−ズはやっと買い物袋を置き、中からエア・メイルを一通 取り出した。

「 ・・・ 手紙??? へえ〜〜 今時、めずらしいね。  あ・・・ DMかなんか? 」

「 ううん。 普通のお手紙みたいよ。 ・・・ あら、 アルベルトからだわ。 」

「 へえ!? そりゃ・・・もっと珍しいよ!  ふ〜ん・・・雪でも降るんじゃないかな〜 ? 」

「 まあ、ジョ−ったら。  はい。  ああ、でも今年、そういえば雪って見なかったわ、ここで。 」

「 うん・・・ なんだ、どうしたのかな・・・・ 」

ジョ−は生返事をしつつ、エア・メイルの封を切った。

 

    あ。 なんだか懐かしい気分だな・・・・

    ずっと前  ・・・ やっぱりこんな風に 手紙を読んだっけ・・・・

    あれは・・・ そう、ドイツの古城に行った時だった。 ・・・なんだ・・・ うわ・・・

    ・・・・ ドイツ語、かあ 〜〜・・・・!

 

カサリ、と軽い音をたてジョ−は便箋を広げ、思いっきり顔を顰めていた。

 

 

 

 

 

「 ほう・・・ ? なになに ・・・ この季節に、か・・? 」

午後のお茶の時間に、ギルモア博士は ジョ−から受け取った手紙にすぐに目を通した。

淡い色の便箋にかっちりした筆跡で書かれたドイツ語を 博士は難なく読んでゆく。

「 ウチの辺はもうずいぶん春ですけど。  ドイツはまだまだ冬ですよね。 」

「 ・・・ いや、ドイツじゃない。 アルベルトが行ったのはチロル地方・・・ オ−ストリアじゃ。 」

「 あ・・・・ そ、そうですか。 ぼく ・・・ ドイツ語は苦手で・・・ 」

「 おい、ジョ−や。 しっかりしてくれ。 フランソワーズは日本語の読み書きも達者じゃぞ。

 お前、仲間達の母国語くらい、ちゃんと習得しておけ。 」

「 ・・・ す、すいません・・・・ それで、あの〜〜 ? 」

「 ああ、横道に逸れてしまったな。うん・・・なんでも、そのチロル地方の山間にある寒村を訪ねたのじゃと。 」

「 へえ・・・珍しいですね〜 スキ−にでも行ったのかな。 」

「 いや・・・ そうでもないらしい。 」

「 博士。 その村って ヒュ−ベン村 じゃないですか? 」

お茶を淹れていた手を止め、フランソワ−ズが ふ・・・っと顔を上げて聞いた。

「 うん? え〜と・・・ そうじゃ、そうじゃ。 ヒュ−ベン村じゃ。 フランソワ−ズ、お前も知っておるのか?」

「 ぼく・・・聞いたこともないよ? ミッションで行った記憶もない。 」

「 ええ、わたしも行ったことはありませんわ。 でも・・・そう、随分前ですけど・・・ アルベルトがチラっと

 話していたことがあって。  その村には彼の恩師にあたる方のお墓があるのですって。 」

「 恩師?? 」

「 はい、なんでも音楽学校時代の・・・ ほら、アルベルトはピアノ科の学生だったでしょう? 」

「 ・・・ おお、そうじゃったな・・・ 」

「 その恩師となにか関係があるのでしょうか。 彼は何て言ってきたのです、博士。 」

ジョ−が すこしばかりぶっきらぼうに口をはさんだ。 

「 ( コイツ、フランソワ−ズのことになると・・・ 本当にヤキモチ妬きじゃのう・・・ ) 

 いや・・・それが、だな。単なる墓参りではすまんかったらしい。 その村で妙なことが起きていたのだと。 」

博士は苦笑を噛み殺しつつ 手紙の内容を説明し始めた。

 

「 ・・・ へえ?? だってこの時期、その・・・なんとか村はまだ真冬に近いはずですよね。 」

「 そうねえ・・・チロル地方ならパリよりもっと寒いのじゃないかしら。 しかも山間でしょう? 」

「 そうじゃ。 本来ならまだまだ厚く雪が積もっている時期なんじゃが・・・

 アルベルトもザルツブルグからスキ−で現地入りしたそうだ。 そころが、な。 

「 博士。アルベルトの手紙・・・、ちょっと拝見しても構いません? 」

フランソワ−ズが遠慮がちに口を挟んだ。 

「 おお、勿論。 お前も一緒に確認してくれ。 あ・・・ ジョ−、いいかな。 」

「 ええ。 フラン、頼むよ。 」

「 はい。 ・・・・ ・・・・・ まあ?? この時期に??  だってウチの近所だって・・・ まだ・・・ 」

「 ふむ。 やはり明らかに不自然じゃな。 」

「 ・・・ わ〜〜 ぼくにも教えてくれよ。 そうだ、読み上げてくれる? そうしたら自動翻訳機、使えば 」

「 あら、ごめんなさい、ジョ−。 あのね。 本当ならまだまだ雪深い季節のはずなのに・・・

 もうほとんど雪は消えていて・・・ 村では畑の作業が始まっていたのですって。 」

「 ・・・ へえ??? それはまた・・・  ああ、地球温暖化の影響とか・・・ ? 」

「 いや。 ・・・ これはあまりに急激すぎる。 それでアルベルトもな・・・ 」

「 そうなのよ。 村の人々は今年は春が早いって単純に喜んで・・・農作やら放牧の準備を始めているの

 ですって。  」

「 ふうん ・・・ なんだか以前・・・ 似たような事件があったね。 あの時は ・・・ 今回とは反対で

 <早い冬> だったけど・・・・ 」

「 おお! そうじゃったな! 張大人と一緒に山奥の村を訪ねたな。  」

「 ええ。 あの時は人為的な冬・・・・ 強力な冷却装置が原因でした。 」

「 ・・・ やはり裏にNBGがいたのでしょ。  今回は・・・ まさか・・・?! 今度も・・? 」

「 いや、まだわからん。 ヤツらが裏におるのなら、必ずどこかで金が絡んでくる。

 しかしなあ。 今回はアルベルトも言っておるが・・・ この山里の人々が多少潤うだけじゃ。 」

「 う〜〜ん ・・・ それでは単なる自然現象ですか。 」

「 いや。 北半球全体、とか欧州北部、とかの規模ならまだしも・・・あまりにピンポイントすぎる。 」

「 そうですわよね。  ・・・ それに、もう一つ。 謎があるのですって。 」

「 謎〜〜 ?? 」

ジョ−は思わず頓狂な声を上げてしまった。

午後になっても早春の日が きらきらと差し込むこのリビングにはまったく不似合いな言葉だった・・・

 

「 これはね。 アルベルトだから気づいたようなものなんだけど。

 < 甦った楽聖 >  とか  < ピアノを弾く幽霊 > とか言われているらしいわ。 」

「 ??? なんだって・・・? 」

「 ははは・・・ そうなんじゃ。 アルベルトの恩師の墓碑が山の中腹にあってな。

 山小屋が記念館として側に建っておるそうじゃ。 そこから・・・ 」

「 そうなの! そこから、ね ・・・・ 」

  ― ごくり ・・・!

ジョ−は思わず生唾を飲み込み、膝を乗りだしていた・・・

「 そ・・・ そこから・・・?? 」

「 そこから、な。  夜になると、な・・・ 不思議な現象が・・・ 」

「 そう・・・  窓から覗いても誰もいないのに・・・ 日ごと・夜毎に ・・・ 記念館から

 ピアノの音が聞こえてくるのですって! 」

 

  ―  ガタ −−− ン !!

 

ジョ−は腰掛けていたスツ−ルから見事に落っこちていた・・・

「 ・・・ それが ・・・ 事件、ですか・・・ 」

「 あははは・・・悪い、悪い。 いや <謎のピアノ> ではなくてな、その急激な温度変化の原因を

 調査して欲しい、というのじゃよ。 」

「 ・・・はあ・・・ 」

ちょっぴり恨めしい気に。 ジョ−はくすくす笑ってるフランソワ−ズに視線を送っていた。

 

 

 

 

 

「 ・・・ ねえ? 今日の苺さ、まだ残ってるかなあ。 」

ジョ−はベッドに腹這いになると 読み止しの雑誌を閉じた。

目の前では フランソワ−ズがドレッサ−の前で熱心に亜麻色の髪を梳いている。

コズミ博士に頂いた黄楊 ( つげ ) の櫛が最近彼女のお気に入りらしい。

きらり、と輝く幾筋もの髪が 白い頬にかかる。

ジョ−はベッドからそんな彼女をほれぼれと見つめていた。

 

 

何回目かにこの地に邸を建て替えたときに、 博士はとうとう業を煮やして <二人> を

広い一室に <押し込んだ> のだ。

< 二人 > はそれまでお互いの部屋をこっそりと行き来していた・・・つもりだったらしいが、

博士や仲間達の間ではとっくに了解済み ― 周囲のオトナたちは見て見ぬ振りをしてくれていた・・・

「 ・・・ ジョ−よ。 きちんとケジメをつけろ。 それがオトコというものだ。 」

例の砂漠の都市から帰ったとき、博士は徐に宣言し。 どんどん新築計画を進め。

笑いを噛み殺している仲間たち、そして 呆然としている本人達を尻目に

新築されたギルモア邸の二階の東南角には 若夫婦用の広い寝室が出現した。

< 二人 > は照れまくりつつもしっぽりと 通称・新婚部屋 に収まった・・・

しかし。

・・・・ ジョ−がちゃんとプロポ−ズをしたかどうか・・・は未だに不明である。

 

 

仲間からの手紙が遠い地から届いた日、 二人はいつもと同じ穏やかな夜を迎えていた。

春まだ浅いころ、いかに温暖な地とはいえ夜気はまだ冷たさを含んでいる・・・

「 え? 今晩のデザ−トに食べたの? ・・・ええ、あれはス−パ−で買ってきたのだけど、まだあるわよ。 」

「 わい♪ 美味しかったよ、明日も食べたいなって思ってさ。 」

「 ジョ−はイチゴ、好きねえ。 あと一月くらいすればウチのビニ−ル・ハウスの苺が収穫できるわ。

 ジェロニモの丹精した 自然の宝玉 が本当の季節に実るわ。 」

「 うん・・・ あれも美味しいけどさ。 今日のは大きくて甘くて・・・お菓子みたいだった♪ 」

「 ・・・ そう、確かに・・・ お菓子よね、あれは。 」

フランソワ−ズは髪を梳いていた手を止めた。

「 あれ。 ああいうの、キライかい。 」

「 ううん、嫌いじゃないわ。 日本の果物は本当にどれも甘くて美味しいなあ・・って思うわ。

 でも ・・・ 本当の季節に味わう、ちょっと酸味のある小粒なのも好きなのよ、わたし。 

 ときどき ・・・ パリでよく齧ってた、こ〜んな小さな青林檎が食べたいな・・・って思ったりするわ。 」

「 ああ、あれ! うん、ぼくも好きさ。  ・・・ でも 一番スキなのは・・・コレだけど♪ 」

ジョ−はベッドから身を乗り出し 彼女の腕を引いた。

「 ・・・ あん ・・・! 待って・・・ まだ化粧水、つけてないの・・・ 」

「 そんな化粧なんかいらないよ! きみはそのままで充分きれいじゃないか・・・  」

「 もう〜〜〜 わたし、オバサンなんだもの、ちゃんとお手入れしなくちゃ。 」

「 ・・・ ぼくがやってやる。  こうやって・・・ これが若さの一番の秘訣だろう? ほら・・・ 」

「 きゃ ・・・ ジョ−ってば 本当に・・・ や ・・・ やだ・・・ ああ・・・ん ・・・ 」

「 春なんだもの。 二人で二人の春を楽しもうよ。 ああ・・・ きみは・・・温かい・・・! 」

「 く ゥ ・・・・  」

早春の夜気はたちまち熱い吐息に占領されていった。

 

 

 

    ・・・ ふう ・・・・ ああ〜〜 ふは〜〜〜!

   

    はあ ・・・ はァ   ・・・・ あッ ・・・!  は・・・あ・・・

 

 

言葉のない世界から 二人はようよう・・・ こちら側の岸に戻ってきた。

汗ばんだ身体を寄せ合えば 相手の鼓動さえ皮膚を通して感じられる・・・

時々まだ ぴくん・・!と小さく痙攣する白い肢体に ジョ−はゆるやかに腕をまわした。

 

「 ・・・ なんか ・・・さ。 きみって。 ますます・・・ 素敵だ・・・! 」

「 ・・・ え ・・・ や、やだわ・・・ジョ−って・・・ はァ・・・ 」

「 ふふふ・・・ ぼくの春は ここ・・・さ。 」

「 きゃ・・・・! ・・・ や・・・ もう〜〜 ジョ−ってば・・・ 」

「 ・・・ さっきの話だけど。 」

「 ? ・・・いちごのこと? 」

「 ! ちがうよ〜〜 !  アルベルトの手紙さ ほら・・・なんとか言う村に行った・・・って・・・ 」

「 ああ ・・・ ヒュ−ベン村のこと・・・・ 」

「 うん、それそれ。  なあ? どうしてきみは知っていたの。 その・・・ 村をさ。 」

くい、とジョ−の腕に力が ほんの少しだけ入った。

「 ・・・? なあに・・・・急に。  あの村のことはアルベルト自身に聞いたの。

 いつだったか・・・リビングのピアノ、弾いてて・・・ 知らない曲だったのだけど ・・・

 素敵な曲を弾いているのね、 なんの曲?ってきいたら 『 雪割草 』  って。 」

「 ゆきわりそう・・・? 」

「 ええ。 なんでも・・・ アルベルトの恩師だった方が作曲なさったシンフォニ−の一部なんですって。

 とてもいい曲だったわ。  春を待って・・・ 雪の中に見つけた雪割草・・・ そんな温かい曲だった・・・ 」

「 ふうん?  ・・・ だけどなんだってその村で。 ・・・ なあ? 」

「 ・・・ そうね。 彼の話では雪深い寒村のようだし。 博士もそんなことを言ってらしたわよね。 」

「 そうさ。 その辺鄙な山間の村がなんだって突然春になったんだろうなあ? 」

「 ・・・ 地球温暖化の影響でもなさそうだし。 やはり人為的なことが原因なのかしら。 」

「 う〜ん・・・ともかく、調査してからだ。  今回はきみとぼくだけで行こう。

 ・・・ 今年は二回花見が楽しめるかな〜〜♪  欧州と日本と・・・ ああ、楽しみだよな。 」

「 わ♪ 嬉しいわ〜〜  」

ようやっと赤味の引いた白皙のほほが 再びぽ・・・っと染まる。

ジョ−はそんな彼女の横顔に 唇を寄せた。

「 それじゃ。 明日、早速出発さ。 ・・・ ぼくの春の女神さん♪  だから・・・ なあ、いいだろ? 」

「 あん・・・ もう〜〜  あ、今夜はもうだめ。 明日から忙しくなるし。 もう休みましょう。 」

「 え〜〜 だってさ〜〜 しばらく二人っきりの夜はオアズケじゃないか〜〜 」

「 たまにはいいでしょ。 」

「 ・・・ よくない。  春になったし・・・ なあ? ・・・ アイシテルってば〜〜 」

「 きゃ・・・ もう〜〜 本当にわがままさんねえ・・・ 」

「 ふふふ〜〜ん♪ また寒い場所に行くんだから・・・ しっかりエネルギ−・チャ−ジ、しておかなくちゃ。 」

「 まあ・・・可笑しなジョ−・・・  あ ・・・ あああ ・・・ そこ・・・ ダメ・・・ 」

「 ・・・ きみって ・・・ 本当にいつもいつも・・・ 新鮮な感動だよ・・・ ああ ・・・ 温かい ・・・ 」

「 う ・・・ あぁぁ ・・・・ ジョ ・・・ ー ・・・・! 」

引きかけた潮が再び満ちてきた。 

彼女の内なる海は熱く萌え、ジョ−はその情熱の潮流に彼自身を踊りこませるのだった。

 

一足先に、 二人の寝室には熱い季節が訪れていた・・・

 

 

 

 

 

ジョ−とフランソワ−ズは早速オ−ストリアに飛び、アルベルトと合流した。

今回はドルフィン号を使わなかったので、現地へはアルベルトが用意してくれた四駆で入った。

宿泊所などありそうもないので、おそらく車内泊になるはずである。

雪深い道は 目的地に近づくにつれただのどろんこ道に変わって行った・・・

 

 

「 ここが・・・ 記念館だ。  ストリンドナ−記念館だ。 」

「 まあ・・・ 素敵ねえ。 本当の山小屋みたい・・・ 」

「 ははは・・・本当もなにも・・・ ここはもともとのストリンドナ−先生のヒュッテがあった場所でな。

 そこに以前の先生の家を復元したのさ。 」

「 そうなの・・・ たしか、その方。 雪崩に巻き込まれて・・・って聞いたわ。 」

「 ・・・ ああ。 ちょうどこの時期だった。 そろそろ雪が緩んでくる頃で ・・・ どうしようもなかった・・・ 」

アルベルトは相変わらずぶっきら棒に、そっけなく言った。

しかしフランソワ−ズはその声音が微かに陰を帯びたことにすぐに気がついた。

 

   ・・・ アルベルト。 なにがそんなに気がかりなの?

 

ちら・・・っと彼をみやったが、薄い色に瞳は恩師の遺品のピアノに注がれているだけで、

それ以上の反応をさぐることはできなかった。

「 ふうん・・・ その時、アルベルトは現場に居合わせたんだろ。 」

ジョ−はきょろきょろと部屋中を見回し、さらりと言ってのけた。

 

   ジョ−! それを言ってはだめ・・・!

 

フランソワ−ズは慌ててジョ−のダウン・ジャケットを引っ張ろうとしたがその前に当のアルベルトが

すぐに返事をした。

「 そうだ。 オレは所用でザルブルグから先生を訪ねたところだった。

 先生の作品がコンク−ルでグラン・プリを受けた知らせを持ってきたのさ。  」

「 そうか、残念だったねえ・・・ その先生も待っていただろうに・・・ 」

「 いや・・・ ストリンドナ−先生はそういう世俗のコトにはとんと関心がなかった。 

 この地に隠遁していたのも聖なる自然の響きを聴いていたい、ということだったからな。 」

「 へえ・・・?! 随分と変人 ・・・  !! ( いて!) 」

フランソワ−ズのブ−ツが思いっきりジョ−の脛を蹴飛ばした。

「 あ、あの! それで・・・ その先生の偉業を讃えてこの記念館を作ったのね? 」

 

≪ ・・・って〜〜〜! フラン〜〜〜 力いっぱい、蹴飛ばすなよ〜〜 ≫

≪ だって! ジョ−が間の悪い質問なんかするからよ! ≫

≪ ・・・ う〜〜〜・・・・ ごめん・・・! ≫

 

「 ああ、そうだ。 ・・・・ もうかれこれ30年以上ムカシになっちまったがな 」

こころなしか苦い笑みの片鱗を浮かべて アルベルトは恩師の遺品を見回している。

「 思い出が静かに眠っている場所なのね。  ・・・でも、それがどうして? 

「 うん。 まあ・・・ ちょっと外に出て裏の斜面の方に行こう。 百聞は一見に・・・ということだ。 」

「 わかったわ。  ジョ−、行きましょう。 あら、ジャケット、着たほうがいいわよ。 」

「 う〜ん・・・ ちょっと暑くないかい。 ここは暖房が効いているのかな。 」

ジョ−はダウン・ジャケットを脱いだまま手に持ち、セ−タ−の裾も引っ張っている。

「 暖房? ・・・いいえ。 あら。 そういえば、そんなに寒くないわね? 」

「 だろ? これが・・・例のアレなのかな。 」

「 さあ・・・? あ、ほら。アルベルトが呼んでいるわ。 急ぎましょう。 」

「 ああ・・・ うん。  あれが例のピアノか・・・ あれ? 」

部屋に隅にある年代モノのピアノを ジョ−はちらりと振り返り立ち止まった。

 

   ・・・ あれ。 観光客・・・ってカンジじゃないよなあ・・? 

 

いつの間に入ってきたのか ・・・ 6〜7歳の小さな女の子がピアノ側に立っていた。

蓋を開けると鍵盤と同じくらいの高さ、やっと手が届く程度だ。

 

  ポーーン  ポン ポン ・・・

 

小さな指が懸命にそして案外達者に鍵盤を叩いている。

「 ・・・ あ・・・ 君? それは触っては ・・・ 」

「 お兄さん? 」

女の子は声をかけたジョ−に振り返ると にこっと笑った。

「 え・・・あ、ああ・・・ぼくのこと? 」

「 そうよ。 お兄さんは・・・ これが弾ける? 」

「 ・・・え!? い、いや・・・ぼくは全然。 」

「 そうなの・・・ ワタシも。 ちっちゃいから手が届かないの。 ねえ、お兄さんはあの曲を弾けるひとを

 知っている?  ここのオジイチャマが作った曲 ・・・・  」

「 え?? あ、ぼ、ぼくはダメだけど。 一緒の仲間なら弾けるよ。きっと! うん、ちょっと待っててくれるかい。 」

「 ・・・ お兄さんも弾けないんだ? 

 あの曲が聞こえたら ・・・ きっとお花も目を醒ます、と思ったんだけどなあ ・・・ 」

「 ちょ、ちょっと待ってて!  今・・・ いま、ピアノを弾ける仲間をつれてくるから! 」

ジョ−はその子の肩にちょっと触れるとぱっと駆け出して、仲間達の後を追った。

 

 

 

「 ・・・ 足元、気をつけろ。 かなりぬかるんでいるぞ。 」

「 ええ ・・・ きゃ・・!も〜〜 どろどろだわ〜〜〜 」

「 うわ・・・! ぬかるみに思いっきり突っ込んじゃったよ・・・ アルベルト? さっき、女の子がね・・・ 」

「 ジョ−! 足元を見ろ。 すべるぞ! 」

「 ・・・ わ! ・・・それで、ちいさな女の子がピアノ、弾けるかって・・・ 記念館で・・・ 」

「 ああ? あのピアノは多分もう音程が狂っているだろう。  フラン、その手前の岩に足を掛けろ。 」

「 あ・・・ありがとう!  雪が全然・・・ もうこの辺りでは見当たらないわ? こんなものなの? 」

3人は記念館の裏手の斜面をしばらく登っていった。

そこは ― いつもの年ならば まだまだ深い雪に覆われていたに違いない。

しかし、今はただのぐじゃぐじゃにぬかるんだ土の道になり隅にはちょろちょろと雪融けの流れすら見られた。

 

そう ・・・ この地の冬はもう終っていた。

 

「 ここに立ってみろ。 ここから、村全体が見渡せる。 」

先に立って登っていたアルベルトは 振り向いて2人を手招きした。

そこはちょうど棚のように山肌に開けた場所だった。 冬には完全に雪の下に埋もれているのだろう。

「 村全体? ・・・わあ・・・・ すごいね。 随分と広い村なんだね〜 」

「 ・・・ でも、おかしいわ。 ・・・ なんだってこの時期に畑仕事ができるの?

 いえ、もっと短刀直入にいえば。 雪がない、なんてヘンよ。 まだ2月なのに。 」

「 あ・・・ そうだね! う〜ん・・・ ここから下の地には完全に雪は見えない・・・よ?? 」

「 そうだ。 村の人たちはこんな早い時期に畑作を開始できるなんて・・・と大喜びなのだが。

 どう見ても不自然だ。 周囲の村にも聞き合わせてみたが、他は普通に ・・・

 雪雲に覆われた陰気な天気だ、というのだ。 」

「 アルベルト。 君は疑っているんだね、裏になにかって・・・ 」

「 いや、はっきりとはわからんが。 どうも臭う。 ジョ−、お前はいつかヤツらの冷却装置を006と

 一緒に破壊しただろ。 」

「 うん。 実は僕も同じことを考えたよ。 」

「 ああ。 しっかしな、このヒューベン村には、ヤツラの陰もカタチも見当たらない。

 もっとも、オレが調べただけだから。あとは <専門家> に頼もうと思ってな。 」

アルベルトは後ろにいたフランソワ−ズにに・・・っと口に端を捻じ曲げ挨拶をした。

「 了解、004。 それじゃ・・・わたし達は一度麓のホテルの戻って細かく打ち合わせをしましょう。 」

「 そうだね。 夜になったほうが動きやすいし。 服装もね・・・ 」

「 ああ、そのつもりだ。 ここからの景色。 これはもう ― 春だ。 」

「 ・・・ そうね。 早春 ・・・ 生き物が活動を開始する目覚めの季節ね。 空には・・・

 あら・・・ でも。 なにかちょっと・・・ヘンじゃない? ほら・・・ 」

「 え。 なにが。 」

ジョ−はフランソワ−ズの視線を追って ず〜っと目の前にひろがる景色を眺めた。

山間の寒村は。 萌え出た稚い緑の絨毯に覆われ始めていた。

斜面の麓から続くなだらかな丘には 白い綿アメみたいな羊やら白黒斑模様の牛の姿が見える。

彼らはいつもよりも格段に早い春を満喫しているのか、のんびりと草を食べていた。

ぽつぽつと家がある付近には畑が広がっている。

緑の中に真っ黒な土が掘り返され、畝が広がってゆく・・・

農村にはあまり縁のないジョ−にも 典型的な春の風景、と思えたのだが。

「 ・・・別に ・・・ 普通の農村、だと思うけどなあ。 」

「 ええ、普通の農村よ。  牛やら羊がいて畑があって・・・ でもね。 ほら・・・ ? 」

フランソワ−ズはす・・・っと頭上に広がる空を指した。

「 空が。 春の空とはすこし違うと思うの。  灰色で雲が厚いわ。  だから ・・・ 小鳥がいない。 」

「 ・・・え ああ・・・ そういえば。 」

「 ね? 本当に春なら。 緑がこんな風にひろがって畑の準備をする季節なら。

 小鳥の歌が聞こえてくるはずよね。 雲雀がたかく囀って ・・・ 空につい・・・って昇ってゆくはず・・・ 」

「 そうだ。 さすがだな、フランソワ−ズ。  ここの <春> は奇妙だ。

 鳥もいなければ小さな昆虫の姿も見当たらない。 つまり、空は春にはなってないのさ。 」

「 ・・・ そうか! なにかちぐはぐな雰囲気だったけど。 この空気だね?

 上に登ってくると 空気が全然ちがう。 ぼく達には影響はないけど、この差は激しすぎるね。 」

「 そうでしょ? ・・・ その辺り、しっかり調査しましょう。 」

「 うん! ・・・ なにも妙なたくらみがなければいいなあ。 この平和な風景に・・・ ヤツらの手が 」

「 し! ・・・ 誰か 後ろから来るわ。  あら・・・ なんだか・・・? 」

「 よし。 フランソワ−ズ、きみはそのままゆっくり進め。 アルベルト・・・? 」

「 ・・・ ここだ。 岩の陰にいる。 」

「 了解。 ぼくはここから。 ・・・ ああ、来たな。 」

ジョ−はす・・・っと内ポケットに細工したホルスタ−からス−パ−ガンを抜いた。

「 !?  ストップよ! 女の子だわ、小さな子・・・ あら・・・滑ったのかしら、泥だらけ・・・ 」

「 ええ?? 」

ガサリ・・・・ 芽生えだした茂みが揺れて人影が見え隠れしている。

 

「 ・・・ お兄ちゃん達 ・・・ ピアノ ・・・・? 」

 

頬にまで泥をとばして 小さな女の子が転げでてきた。

「 ・・・あ・・・! 君、さっき記念館で・・・ 」

「 あら〜〜 どうしたの? 滑っちゃったのかな。  」

「 ウン。 こんなにどろんこだって思わなかった・・・ だってまだ雪割草が・・・ 」

「 こっち、いらっしゃい。 お顔を拭いてあげるわ。 あらあら・・・怪我、しなかった? 」

フランソワ−ズは屈みこんで女の子を抱き寄せている。

 

≪ 大丈夫よ。 ただの ・・・ 普通の女の子よ。どうしてわたし達の後をつけてきたかわからないけど ≫

≪ なんだ。 旅行者が珍しかったのじゃないか。 ≫

≪ このコだよ。 さっき記念館で ピアノが弾けるか、ってぼくに聞いてきたんだ。 ≫

≪ なんだって?? ≫

≪ だからさ。 皆が外に出たとき、入ってきて・・・ あの曲が弾ける?って聞いたんだ。 ≫

≪ あの曲? 

≪ うん。 それしか言わなかったけど。 ≫

≪ ・・・ ふうん? 多分村の子供だな。 つれて帰ろう。 ≫

≪ そうね。 別に怪我もしていないわ。 ≫

 

「 わたし達ね、この村がとっても綺麗だから・・・ ちょっと景色を眺めていたの。

 ここだけなんですもの、こんなにはやい春は。  あなたはこの村に住んでいるの? 」

「 うん。 でも ・・・ これは違うの。 違うって思うの、あたし。 」

少女はフランソワ−ズに懸命に訴えているがどうもうまく言い表すことができない。

「 違うってなにが? 春が来たこと? 」

「 そうよ。 皆は神様のプレゼントだ・・・って喜んでいるけど。 でも ・・・違うもの。 」

「 ねえ、君。 お家はどこかな。 送ってゆくよ。 服も泥だらけだし・・・ここは寒いだろ。 」

「 ・・・ あ、さっきのお兄ちゃん!  ねえ、ピアノ、弾けるヒトは? 」

「 え・・・ ああ、え〜と ・・・ その前に。 どうして、君はここまで来たのかな。 」

「 あたし・・・ 雪割草を捜してたの。 ヘンだもの。 いつもなら今頃・・・雪がやっと溶けるころにね

 雪割草が顔をだすの。 それが ・・・ 今年はどこにもないの。 」

「 まあ・・・ 雪割草?? 」

「 そうよ。 雪割草よ。 あのお花が咲いて春がくるのに・・・ 今の春はウソだわ! 

 本当の春じゃない。 ヒバリの歌も聞こえないし。 」

「 ・・・ きみ、それを誰かに話した? お家の・・・お父さんとかお母さんに。 」

「 うん。 でも。 雪が解けて牧草が生えてきたから春だ、って・・・ 

 だからあたし。 雪割草を探しに山に登ってきたの。 あの曲が弾ければきっと雪割草も

 お目々を覚ますと思うの。 自分の名前の曲だもの。  」

「 ・・・ 雪割草と同じ名前の曲・・?? 」

アルベルトが一瞬顔を強張らせ低く呟いた。

「 そう ・・・ でも、今日はもうお家にかえりましょう。 わたし達が一緒に行くわ? ね。 」

フランソワ−ズは彼の呟きに言葉を被せ、少女を抱き上げた。

 

≪ し・・・・! この子を怯えさせてはダメよ。 後は夜の調査の時に・・・! ≫

≪ ・・・ 了解 ≫

≪ ・・・ うん? なんとなく雲行きが怪しいなあ・・・・ そろそろ引き上げようよ。 そのコもさ。 ≫

≪ そうね。 やっぱりこの < 春 > は どこか違うわ。 ≫

≪ ・・・ ああ。 ≫

≪ ・・・ あ・・・れ・・? アルベルト、きみかい。 ≫

≪ あら・・・ この曲 ・・・? ねえ、いつか弾いてくれた・・・? ≫

≪ 『 雪割草交響曲 』  ・・・ ピアノ・ソロの部分だ。 ≫

 

サイボ−グ達の脳内に穏やかなメロディ−が響いていった。

 

 

泥だらけになった女の子を家まで送り届け、サイボ−グ達は村外れに止めた大型の四駆に戻り夜を待った。

「 ・・・さて。 なにが出るか。 」

「 うう〜ん・・・ でもさ、ぼくはひとつ、わかった気がするんだ。 」

「 まあ、なにがわかったの、ジョ−。 」

「 うん ・・・ その、アレさ。 <ピアノを弾く幽霊>のことさ。  

 幽霊の正体はあの女の子なんじゃないかなあ。  」

「 ほう? なぜそう思う。 」

「 さっき、あの子がピアノを弾いているのをちらっと見たけど。 

 椅子がなくて立ったまま弾くいててね、やっと鍵盤に手が届くくらいなんだ。 だから、さ。 」

「 ああ・・・なるほどな。  正体みたり、枯れ尾花・・・ってヤツか。 」

「 まあ・・・ でもあの子・・・ とても感受性が鋭いわ。 ちゃんと ここの春がヘンだって

 気がついているもの。 」

「 そうだな。 そろそろ出てみるか。 この辺りは都会と違うから夜に出歩くヤツなんざ、いない。 」

「 オッケ−。 フラン・・・ 一応、サーチしてくれる。 」

「 了解。 ・・・・・・・・  異常なし。 まさに人っ子一人いないってこのことね。 」

「 そうか。  実地調査も兼ねて、それじゃ一回りすることにしよう。 」

「 了解。  なにか原因がわかるかもしれないしね。 自然現象とは思えないよ。 」

防護服を闇に隠し、 3人は昼間登った丘に再び足を向けた。

 

 

「 確かに ・・・ 温かいね。 こう・・・もわ〜っとするカンジだ。 」

「 上の方の雪も相当、緩んでいるだろう。  003、気をつけていてくれ。 」

「 ええ ・・・  あら? 今、灯が見えなかった? 」

「 ・・・ いや。 ぼくの目ではわからないな。 」

「 う〜ん・・・ どの辺りだ。 昼間の岩場の辺りか。 」

「 いいえ。 もっと上・・・ ほらまだ雪が融けていない辺りよ ・・・ あ! あの子よ、昼間のあの子!! 」

「 なんだと?? あの〜〜お転婆娘が〜〜 おい、詳しい場所を教えてくれ。 

 連れ戻して ギュウっと説教してやる。  003・・・座標を・・・ お・・?? 」

「 あ。 なにか音が ・・・・ 地鳴り?? 地震でもくるのかな? 」

「 ・・・ ちがうわ !! 見て! 雪崩よ −−−−!! 」

「 なだって?!   あッ !! 」

003が指差すはるか山頂の方向にはすでに不気味な雪煙が上がり始めていた。

 

   ゴゴゴゴゴ −−−−  ゴゴゴ −−−−− !

 

闇なかから大地の低い唸り声が聞こえてきた。

「 マズイ・・・! この温かさで山頂あたりの雪が緩んでいたんだ!  」

「 あの子! あの女の子〜〜〜 巻き込まれてしまうわ! 」

「 よし ・・・ 。 」

アルベルトは右腕を宙に向けて構えた。

「 だめよ! あの子に当たるわ! それに・・・ ここからでは距離が遠すぎるわ・・・ 」

「 ・・・くそ〜 まさかミサイルを撃つわけにはいかん! 」

「 ぼくが行く。 」

「 ジョ−! だって・・・だめよ、あの子、普通の ・・・ 生身なのよ! 加速しちゃ、ダメ。 」

「 うん、わかってる。 大丈夫・・・多分 なんとか。  行ってくる。 」

「 ・・・ あ!? 」

シュ・・・!  独特の小さな音を残し ジョ−の姿は闇の中に消えた。

 

 

 

≪ ・・・ ジョ−?! どこにいるの? ジョ−〜〜! ≫

≪ あは・・・ 無事だよ、あの子も一緒だ。 ≫

≪ 雪の中? ・・・ 見えない・・・ 見えないわよ・・! ≫

≪ ・・・ ごめん。 大丈夫だ、フラン〜〜 ≫

≪ 心配させやがって〜〜! お前ら、どこにいるんだ! ≫

アルベルトとフランソワ−ズは 押し寄せてきた雪崩を前に顔色を変えていた。

≪ ごめ〜ん・・・ ここさ。 大木の枝にいるよ・・ ≫

≪ ・・・ 枝 ??? ≫

≪ うん。 加速してこの子の前まで行って。 あとは彼女を抱えて木の枝にジャンプしたんだ。

 すごい雪崩だったねえ・・・ ≫

≪ ・・・ ジョ− ・・・・ よかったわねえ・・・ ≫

のんびりした声が 二人の頭の中に返って来た・・・

 

 

 

「 ・・・ お兄さん ・・・ お姉さん ・・・ 」

「 あ。 気がついた? もう大丈夫よ。 」

「 ・・・ あたし ・・・ 雪崩に・・流されて・・・ 」

「 ええ、このお兄さんが助けてくれたの。 一緒に大きな木につかまっていて、助かったのよ。

 ねえ? もう夜中に山に入ってはだめよ? 」

「 ・・・ ごめんなさい・・・ あたし、どうしても雪割草をみつけたくて・・・ 」

「 雪割草か。  あの花は野の花だ。 人為的な気候には適応しない。

 自然を騙すことはできないということだ。 」

「 ・・・ そうね・・・ 自然が一番よく知っているのかもしれないわ。 」

「 お兄さん ・・・ ここ、足が温かいのね。 」

「 え・・・ ? 」

ジョ−は慌てて地面に手を当てた。

 

  ・・・ 地面が暖かい・・?  地熱だ・・・! 

 

「 うん、本当だ。 温かいね。  アルベルト、 この山は火山活動でもしているのかい。 」

「 いや。 ここいらには火山はない。 」

「 それじゃ。 コレが原因だよ。  季節ハズレの春 を作り出していたのさ。 」

「 地熱??  でも ・・・ 火山ではないのでしょう? 」

「 <自然>のものじゃない、とすれば。 誰かが多量の熱を地中に逃がしているんだろうね。 」

「 ・・・ ふん。 見えたな。 地形的に調べれば <熱源> の場所はすぐにわかる。 」

「 なにか企んでいるのね。 アイツらだわ、きっと。 」

「 恐らくね。  極秘だろうから・・・破壊も簡単に行きそうだ。 」

「 ああ。 帰りがけの駄賃に叩いてゆくか。  俺たち3人いれば充分だろう。 」

「 そうね。  ふふふ〜〜 久々にわたしも実戦に参加させてね。 」

「 ・・・ お願いします。 」

三人のサイボ−グ戦士たちは不敵な笑みを交わした。

「 お兄さん お姉さん ・・・ ありがとう・・・ ごめんなさい・・・ 」

少女がしょんぼりしている。

「 おい。 どうしてそんなに雪割草に拘るのかい。 」

「 だって・・・ おばあちゃんが好きだったから。 あたしにはまだおばあちゃんの曲 が弾けないでしょ、

 だから おばあちゃんのお墓に雪割草を飾ってあげたかったの。 」

「 おばあちゃんの曲 ? 」

「 うん。 ムカシね、 おばあちゃんがあの記念館のヒトにもらった曲なんだって。 

 あたし ・・・ ピアノ、大好きだけど・・・・ 難しくて弾けないし ・・・ 」

「 ・・・ ピアノ、そんなに好きか。 」

「 うん、大好き。 でも・・・ウチは貧乏でピアノ買えないから・・記念館のピアノ、こっそり弾いてたの。 」

「 よし。 良い学校を紹介してやるよ。 」

「 え・・・! ピアノの学校? 」

「 そうだ。 音楽学校の初等科だ。  そのかわり村から離れなくてはならんぞ。 」

「 ・・・ へ、平気!  あ・・・ でも。 ウチにはあんまりお金 ・・・ 」

「 大丈夫。 奨学金制度ってのがある。 もっともお前の熱意と才能次第だけどな。

 ああ、君の名前は? 」

「 エリザベ−ト、よ。 

「 そうか。  ・・・ エリザベ−ト。 お前があの曲を弾いてくれたら ストリンドナ−先生も喜ぶだろう。 」

「 おばあちゃんもよ。 もう一度あの曲が聞きたいって・・・いつも言ってたの。 」

「 ・・・ そうか。 」

「 ねえ? エリザベ−ト。 ひとつお願いがあるの。 」

「 なあに、 お姉さん。 」

「 雪割草が ちゃんとお顔をだしたらね、一株頂いてもいいかしら。 」

「 うん! ・・・ あ、ちゃんと育ててね? 」

「 ええ。 あまり寒い土地じゃないけど・・・一生懸命世話をするわ。 」

「 お姉ちゃんちのお庭にも 沢山咲くといいね。 」

「 そうねえ ・・・ さ、もうお家帰りましょう?

 お父さんやお母さんが心配してるわ。  大丈夫、一緒にお話してあげるから。 」

「 オレもな。 音楽学校のこと、お前の親御さん達に掛け合うから。 」

「 ・・・ ん。 ありがとう ・・・! 」

少女は おずおずと手を差し伸べた。 

「 ・・・ ん。  音を愛する手になれ。 」

皮手袋の手が そっと小さな手を握り返した。

 

 

 

後年 少女はクララ・シュ−マンの再来、とも言われる女流ピアニストとなった。

彼女のリサイタルの演目にあの曲が含まれているときには 必ず一鉢の雪割草が楽屋に届いた。

そして 送り主の名もメッセ−ジもついていない素朴な花を 彼女は一番に愛でていたという。

 

 

 

「 ・・・ あ〜あ。 ぼくの出る幕はほとんどなかったなあ・・・ 」

「 なあに? なんのこと。  あ・・・ほら、ほら・・・そこ、踏まないでよ〜〜 」

「 あ! ごめん・・・ 」

「 せっかく土を柔らかくしたのに・・・ ねえ、出る幕ってなにが。 」

「 ・・・ うん ・・・ 」

ジョ−とフランソワ−ズが無事に帰還した時、 ギルモア邸付近はすでに春爛漫・・・

楽しみにしていた桜はとうに満開を過ぎていた。

 

とりどりの花や緑に囲まれ フランソワ−ズは庭の手入れに熱中している。

「 雪割草 ・・・ ウチでは地植えは無理ねえ。 山の北側に持ってゆきましょうか・・・ 」

「 うん ・・・ そうだねえ。 自然の地がなによりだものね。 」

「 ええ。  ねえ、ジョ−? さっきのなに。 出る幕がどうの・・・って。 」

「 ・・・ うん ・・・ あの・・・雪山でのミッションさ。 な〜んかな〜・・・ 」

「 あら。 ジョ−のおかげよ、あの子を助けて・・・山を自然に戻したのは。 」

「 ・・・ 自然か。 ま、いいか。 ぼくの春はちゃ〜んとここにあるもんな〜〜 」

「 春??  ・・・ きゃ・・・   んんん ・・・ 」

「 んんん〜〜〜 春の味だよ♪  さあて、それじゃ雪割草を山に植えに行こうか。 」

フランソワ−ズのキスを盗むと、ジョ−はご機嫌で庭に出ていった ― 陽気に口笛をふきつつ・・・

 

  ・・・ もう〜〜〜!  あら?  ふふふ・・・ ジョ−ったら。

  あのメロディ、すっかり覚えてしまったのね。

 

ふわ〜〜〜・・・り。  やさしい風が花盛りの庭を通りすぎていった。

 

 

 

********************************       Fin.        **********************************

 

 

Last updated : 03,31,2009.                                          index

 

 

***************      ひと言     **************

まず! 4氏ファンの方〜〜〜 ごめんなさい〜〜〜<(_ _)>

あのエピソ−ドに勝手に93を参加させてしまいました〜〜 ( っても後日談ですけど・・・ ) 

一応・・・ 原作設定、の雰囲気で読んでくださいませ。

なるべくジョ−君には控えめにしてもらいました ( ごめんね〜〜 ジョ−君 (^_^;) )

雪割草っていろいろな色があるらしいです、日本でも見られるそうな。

あのエピソ−ド、だ〜〜い好きなので・・・ ど〜しても93にあの地を訪ねて欲しかったのです。

春は・・・ いいですね〜〜〜 今ごろギルモア邸のお庭で二人はいちゃいちゃしていることでしょう♪

春待つ小話・・・ひと言でもご感想を頂戴できましたら幸いでございます。