『 雪祭にて ― (1) ― 』
ゴ −−−−−−−−− ・・・・ !
吹雪はますます激しくなってきた。
凍てついた細かい物体は集団となり 牙を剥き暴れまわる。
それはたちまち大きな厚い壁となり 辺りに立ちはだかるのだ。
白い壁は ― 犠牲者を探して唸りを上げている ・・・
自然界の住むものたちも ひっそりとアタマを垂れこの白い凶暴な来訪者に
埋もれ やり過ごしていた。
もちろん 脆弱で貧弱なニンゲンは己の苫屋 ( とまや ) に
引きこもりじっと息を潜めている。
― そう ・・・ < ニンゲン > は。
シュ −−−−− ザザザザ −−−
その吹雪の中を 無謀なスキーヤーの姿が二つ。
ゲレンデ とはとても思えない急斜面を 抜きつ抜かれつ・・・
雪まみれで滑り下りている。
傍目には 転がり落ちている風に見えるが 本人達は楽しんでいる。
ぶわ〜〜〜〜 ・・・ 吹雪は雪煙になってきた。
ザ ・・・ ! 先に行っていた黒っぽいウェアが 立ち止まった。
シュ ・・・ 。 ブルーのウェアがすかさずその脇に滑り込む。
「 フラン ・・・ 大丈夫か 」
「 ジョー もちろん! 」
「 よかった・・・ このコース、楽しいだろう? 」
「 ええ ! こんなところ 初めて! 吹雪の中で滑るのも ね 」
「 うん 気持ちいいけど ・・・ ちょっと酷い かな この降り ・・・」
「 ・・・ え そうかしらあ 」
「 うん ・・・ いくらぼくらでも これ以上は危険かもしれないな
周りが雪でよく見えないだろ。 」
「 ああ そうねえ それに・・・ そろそろ日没時刻だし
もっとも太陽なんか見えないけれど 」
「 ウン・・・ 夜になっての吹雪は やはり危ないからね。
近くの山小屋に避難しよう 」
「 わかったわ。 ちょっと待って。 最短コースをナヴィするわ。 」
「 たのむ 」
「 ん ・・・ 」
フランソワーズは 白い闇 に向かってじっと眼を凝らしていた が。
「 !!! あ 危ないっ !!! 」
「 え?? どうした?? 」
ジョーが咄嗟に彼女へ 腕を伸ばした、その瞬間 ―
ゴゴゴ ーーーーー ドオン〜〜〜〜 ズサ 〜〜〜〜〜〜
大音響とともに 突然彼らの足元が崩れ落ちた。
「 !!?? う わああ〜〜〜〜〜 」
「 きゃあ〜〜〜〜〜 」
黒いウェアもブルーのアノラックも 瞬時に雪の中に消えた。
・・・・ゴ ・・・ ザザザザ ・・・
雪煙は次第に収まってきたが 空から落ちてくる方は一向に
止まる気配は ない。
グザグザになっていた雪崩の跡に 新たに白い切片が降り注ぐ・・・
新しい雪原が なにごともなかったかの如く広がってきた。
ズズズ ・・・ ゴソゴソ
平面になりかけていた雪が 突如盛り上がった。
「 〜〜〜〜〜〜 ん ・・・ なんとか 抜けたア! 」
ゴボンッ その小山の中から黒い頭が見えた。
「 ふう〜〜〜〜 ・・・ 外に出たぞ〜〜
フラン? 大丈夫かい? ほら 外だ〜〜 」
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
「 登ってこれるかい? ほら 腕 ひっぱるから 」
黒いウェアのジョーは 再び雪の中に潜りこむ。
「 この雪崩で潰されなかったのは奇跡だよ ・・・
ほら ぼくが通った後を 登ってこいよ 」
「 ・・・ あ
」
「 どうした?? 」
「 え ええ・・・ 足場が すべって・・・・ 」
「 ああ そうだね。 じゃあ ぼくが両腕、掴むから ・・・
せ〜の で持ち上げるよ いいかい? 」
「 あ ちょっと待って ・・・ 」
「 ? どうした? 」
「 うん ・・・ ちょっとひっかかってる・・・ 脚・・・ 」
「 今 降りてゆくよ? 」
「 あ 大丈夫・・・・ つっ・・・・! 」
「 どうした?? 」
「 ・・・ あ 脚が ・・・ 抜けない・・・」
「 え!? 」
ガザザザ −−− ジョーは全力で雪の中から彼女を掘りだす。
「 ・・・ん 〜〜 これで どうだい? 脚は 」
「 ・・・ う 動かない ・・・ 」
「 ! おい しっかりするんだ〜〜 フランソワーズ!!! 」
「 ・・・・ 」
碧い瞳がそのチカラを失い すう〜〜っと閉じられてゆく。
彼女の身体は ジョーの腕の中でくったりと力を失ってしまった。
「 フラン? フランソワーズ?? 」
「 ・・・・ 」
知覚機能も落ちてしまったのか 彼女は完全に眼を閉じてしまい
ジョーの呼びかけにも 反応を示さない。
「 ・・・ どうした??! ああ 損傷が激しいので
自動スリープ・モード になったのか?? 」
「 ・・・ ジョー ・・・ だ だいじょう ぶ・・・ 」
「 え? ああ 聞こえたかい? ・・・? 」
「 だ いじょう ・・・ぶ ・・・ 」
「 ああ うわごと なのか ・・・
これは マズいな。 どこか避難できないかな 」
ジョーは 009の視聴覚を最大レベルに引き上げた。
003ほどの精度・範囲には及ばないが 彼とてサイボーグ、
常人を遥かに超えた < 能力 > を搭載している。
「 ・・・ う〜ん ・・・? こう吹雪が酷いと・・・
あ? あれは ・・・ 城壁?? 」
四方八方を探索しているうちに ― 視界に突然 まさに 突如として
高い巨大な城壁が 映った。
「 な なんだ??? この地方にこんな巨大な城壁があるのか??
少なくとも 地図には載っていなかった・・・はず? 」
ジョーは さらに視覚の精度を上げた。
「 ・・・ う〜〜〜ん ・・・ ぼくとしてはこれが限界か・・・
城壁の中 はわからない。 フランソワーズなら < 見える >
はずなんだけど ・・・ フラン? 」
「 ・・・ 」
彼の腕の中の身体は 先ほどよりずっと重くなり もはやうわ言も聞こえない。
「 ・・・ マズいな。 とにかくあの城壁の中へ ・・・ 」
ジョーは彼女をしっかりと抱えなおすと 吹きつける雪の中を進んで行った。
「 ・・・ もうちょっとだから! ガマンしてくれな〜 」
彼は彼女と そして 自分自身を励ましつつ 歩いてゆく。
う わ ・・・・
近寄ると 城壁は見上げるばかりに聳えたっていて
かなりの歳月を経てはいるが 強固なものだということがわかった。
「 これは ・・・ 数世紀にわたって存在してる、というカンジだな。
どこか ・・・ 出入り口はないか・・・ 」
ず〜〜〜っと探索してゆくと 壁に紛れさせた門扉を発見した。
「 ! あった!! ともかく 完全に外来者を拒否してるわけじゃ
ないらしい ・・・ 助かった! 」
ジョーは 腕の中の彼女に話しかける。
「 フラン? もうちょっと頑張ってくれよな ・・・
吹雪のこない処で 休ませてもらおう 」
ザクザクザク ・・・ 彼は雪を掻き分けてゆく。
「 ・・・ ふう ・・ ここ か ・・・ 」
ドンドンドン ! ドンドン!!
城壁の間にみつけた強固な扉を 彼は思いっ切り叩く。
「 すみません !! スキーヤーですが遭難しました、
入れてくださいっ 怪我人がいます 開けてください !! 」
ドンドン ドンドン ・・・ !!!
ギ ・・ ギギギギ 〜〜〜〜〜 ・・・・
鉄の箍が填まった巨大な扉が ― ゆっくりと ほんの少し 動きだした。
「 ― 誰だ?? 」
その隙間から 誰何する声が漏れてきた。
「 ああ ! ヒトがいた・・・!
すみません〜〜 遭難しました、少し休ませてください。
怪我人がいます 」
「 ・・・ 少し待ってくれ 」
声は一旦遠のいていったが すぐに戻ってきた。
「 ご領主さまの仰せです、どうぞ 入って ! 」
「 ! ありがとう !! 」
ギギギ −−−− どお〜〜〜ん ・・・
門扉はゆっくりと、だが確実に開いてゆき ジョー達を入れてくれた。
「 ああ 助かりました! ありがとうございます 」
「 礼ならご領主さまに。 さあ 入ってくれ すぐに門を閉める。
白い悪魔が入り込まないように な 」
「 ・・・ 白い悪魔?? 」
ギギギ ・・・ ガッタン。
ジョーがフランソワーズを抱いて門をくぐると それは再び閉じてゆき
すぐに城壁の一部となった。
「 ・・・ ああ 助かった・・・ フラン? フラン〜〜
もう大丈夫だよ ・・・ 」
「 ・・・・ 」
彼は腕の中の彼女にひっそりと話かけたが 反応はない。
「 フラン?? ・・・ ああ 呼吸がしっかりしてきた・・・
よかった ・・・ 」
「 ・・・ 」
眼は閉じられたままだが 蒼白だった頬にわずかだが血色が戻ってきた。
「 よおし ・・・ このまま身体を温めれば ・・・
??? ここ ・・・ 城壁のすぐ内側 だよな ・・・?
え??? 」
ピッチョン。 ジョーの足元には水溜りができている。
彼らのウェアを凍てつかせていた雪が こびりついていた氷が 溶けだしている。
「 あんなに吹雪いていたのに ・・・ 全然 降ってない?? 」
ジョーは フランソワーズを抱いてまま 今 初めて周囲を見回す。
な ・・・ なんだ ・・・?
城壁の中は ウソのように穏やかな空気で ・・・ 温かい。
しっとりと潤いのある大気は ほんのり花の香すら含んでいるのだ。
「 ・・・ え?? 外は 吹雪なのに ・・・ 」
コツン。 靴音と共にヒトの気配が近寄ってきた。
ジョーは 失礼にならないよう気を配りつつも しっかりと彼女を抱き
そして 身構えた。
それは ― すこし古風な身なりをした中年の紳士だった。
「 失礼。 旅の御方? 怪我人の方は ? 」
格調高く品のよいフランス語が 彼の口から聞こえた。
うわ ・・・ フランス語 かあ〜〜
・・・ ううう
ああ フランからちゃんと習っておけばよかった!
ジョーは密かに後悔の臍を噛んだのであるが・・
彼はもう腹をくくって とつとつとフランス語で応え始めた。
― くそう〜〜〜っ
自動翻訳機のアホンダラ〜〜〜
肝心の時に 使えねぇ〜〜〜
さんざん心の中で毒づいたが・・・
これはひたすら ジョーの不勉強の報い だろう。
自動翻訳機 は 相手の言葉を 翻訳 してはくれるが
本人の言葉を 翻訳して音声にして はくれないのだ。
発音は ― う〜〜 勘弁!
通じればいいんだ 通じれば!
「 あ す すみません ・・・ スキーしてて・・・吹雪と雪崩に巻き込まれ
あの 彼女が ・・・ 脚を傷めたらしく 」
「 ああ これは・・・ すぐに身体を温めなければ ・・・ 」
紳士は パンパン と手を叩いた。
「 ・・・ 誰か。 このマドモアゼルを客用寝室へ 」
「 ・・・! 」
ささ・・・っと 召使い風のヒト達が駆け寄ってきた。
「 ええと ・・・ ドクトルにご足労を願ってくれ。 」
「 はい 旦那様 」
中年のがっしりした体型の女性が さっとアタマを下げてから
ジョーにも 会釈をした。
「 あ ・・・ ああ あの お願いシマス ・・・
あの ぼくも一緒に 」
「 ご婦人ですから。 私共にお任せくださいまし 」
彼女は 低くつぶやくと きびきびと指示をし
召使い達がフランソワーズをブランケットに包むと 館の中に運んでいった。
「 ご心配なく。 我々にお任せなさい 」
中年の紳士は 鷹揚にそして自信あり気に頷いた。
「 ・・・ ありがとうございます・・・
ご迷惑をおかけして ・・・ 」
「 いやいや 外の様子は酷いですからな。
この城に辿りつけてよかったですね 」
「 はい ・・・ 」
「 さあ 貴方も どうぞ、館へ。 かなり濡れていますよ、
そのままでは ・・・ 」
「 あ は はい ・・・ ありがとうございます 」
ジョーは きっちりとアタマを下げて礼を述べた。
ぽたぽたぽた ・・・
彼のウェアからも 雪が溶けて滴りおちた。
ああ よかった ・・・・
フラン ・・・ ああ なんとか なるよ
ドクトル と言っていたな 医者がいるんだ?
・・・ ぼくらの身体のことは
普通の医者には見抜けない と博士が言っていた・・・
特にフランは 生身に近いし ・・・
ああ 本当に助かった
ジョーは心底ほっとしていた。
いかにサイボーグとはいえ 防護服なし でのあの状況はかなり
危険な状態だったのだ。
「 どうぞ こちらです 」
「 ・・・・ 」
ジョーは この城の主 とおぼしき紳士の後について
ゆっくりと石畳の階段を上っていった。
パチパチパチ ・・・ 炎が勢いよく上がる。
案内してもらったのは城の居間だった。
大きな暖炉には薪が赤々と燃え 広い室内はほっこりと温かい。
カチャ カチャ ・・・ カチン。
召使いが湯気の上がる飲み物を 運んできた。
「 さあ どうぞ、薔薇のお茶です 身体が温まる 」
「 バラ ??? ああ この香は 花の香りなのですね? 」
「 そうです。 香のエッセンスが入っています。 」
「 ・・・ ああ 本当に・・・ 」
ほわああ〜〜〜ん ・・・ 湯気にも花の香を含んでいた。
ジョーは十分に香を楽しみ 熱い茶を口に含んだ。
「 ・・・ うわぁ ・・・ 身体に沁み込みます ・・・
この香は・・・この部屋、というか この城全体にただよっていますね 」
紳士、いや 城主は笑みと絶やさず、頷く。
「 お楽しみ頂けましたか。
この香は薔薇です。 ― ここは代々薔薇を育てて 生きているのです。 」
「 バラ ですか ・・・ 」
「 そうです。 ああ 私はここの城主で アッシャア伯爵といいます 」
「 伯爵さま ですか これは失礼しました。
ぼくは ジョー・シマムラ。 スキーに来ていて・・・ 」
「 この荒天で ・・・ この季節の雪遊びは危ないですなあ
ああ お連れの方は大丈夫のようですよ 」
お茶を運んでいた召使いが こそ・・・っとなにか告げていた。
「 ああ ・・・ よかった ・・・!
本当に助かりました ありがとうございます 」
「 失礼ですが・・・あの方は 貴方の奥様ですか 」
「 ! え い いえ ・・・ あ あ〜〜 はい そうです。
彼女は ぼくのフィアンセです 」
「 そうですか。 実にお美しい方ですね ・・・
ご無事でなによりです 今晩はここで御休みになることを
ドクトルも勧めています 」
「 そ そですか ・・・ でも ご迷惑では ・・・ 」
「 いやいや 遭難者に救助の手を差し伸べるのは
城主としては 当然の務めです。
まあ お若い方に忠告させていただければ
この季節での 雪遊びは控えた方が安全でしょうな 」
「 はい。 本当に軽率でした。
あの ・・・ 伺ってもいいですか? 」
ジョーは 少し躊躇ったが 率直に尋ねた。
「 ここに入れて頂いたときから 感じていたのですが ― 」
城主は 穏やかな笑みを絶やさずに耳を傾けてくれた。
「 この温かさ? ・・・ ああ 地熱を利用しているだけですよ 」
「 地熱 ですか?? 」
「 そう・・・ この地域の下には熱い間歇泉を吹きだす地層があります。
中庭に引きこんでいますが・・・
城は その恩恵を十分に利用しているのですよ 」
「 なるほど ・・・ 雪も溶けていて驚きました 」
「 ― それだけ ですか 」
「 は はい?
」
「 貴方は もっと不思議に思っていることがおありでしょう?
顔に書いてあります 」
「 え あ ・・・ はあ〜〜〜 」
「 お若い方が 好奇心満々なのは当然です。
お話しましょう 」
城主は ソファに座りなおし ゆっくりと話を始めた。
「 我々は 少し変わった・・・ 古風な生活をしています。
ここの風習 そう しきたり なのです。
ご理解ください そして 十分身体を癒してください 」
「 はい ・・・ 」
そう ずっと気づいていたのだが ―
遠目で見えた床に付く長い優雅なドレスの婦人たち、
城主の紳士は襟の高いカラーにふんわりとネクタイを結んでいる。
召使いたちも 古風なメイドと従僕 という服装なのだ。
部屋には 暖炉以外に暖房はなく 照明は天井から下がる豪華な
シャンデリア と そこかしこに灯るランプなのだ。
それなのに ― 天井の高いこの部屋は 暖かく明るい。
ここは ・・・ どこ なんだ??
ジョーは 半ば呆然として室内を眺めてしまう。
「 不思議に思われるでしょうが ・・・
この地域では ずっと − もうずっとこうやって暮らしているのです。 」
「 この城の中は 穏やかですね ずいぶんと広大な地域のようですが 」
「 そうですねえ ・・・ 先祖代々の城でして ・・・
領民たちの家も 畑も あります。
ああ こんど よい季節にまたお訪ねください。
丘陵いちめんに 若草が生えてとても気持ちがいいのです
牧草地になっていて 家畜もいます。 」
「 ・・・ そんなに・・・・ 」
「 今は この季節は閉じこもっていますけれど ・・・
春には家畜たちも放牧します。
まあ のんびりと昔風に暮らしています 」
「 そうなんですか ・・・ ああ この灯り、ほっとしますね 」
ジョーは サイド・テーブルに置かれたランプを眺めている。
ガラスに 花の絵が描かれていて飴色の明かりがほんわり・・・
こぼれている。
そんな情景なのだが 室内は不思議に明るいのだ。
ぼくは ・・・ 夢でも見てるのだろうか ・・・
「 あの ― 吹雪が少しでも収まったら ・・・
ぼくは 宿泊しているホテルに戻りたいのです。 」
「 お急ぎの旅なのですか? 」
「 いえ ・・・ 冬の休暇に来ているのですが・・・・
こちらのホテルで欧州在住の身内と 落ち合う約束なのです 」
「 ああ それでは ―
すこしお待ちなさい、外の様子を見にやりますから 」
「 あ ぼくが ・・・ 」
「 城の従僕の仕事ですから。 」
彼は 部屋の隅にいた従僕に 軽く合図をした。
「 ああ それから あのマドモアゼルはしばらくご滞在させて
あげることをお勧めしますね 」
「 え ご迷惑では 」
「 ・・・・・ 」
城主は 微笑して首を振る。
「 今の状態でまた外に出るのは 感心しませんね 」
「 そう ですか ・・・ では 申し訳ないですが
お願いします。
あ 彼女は フランソワーズ といいます。
フランソワーズ・アルヌール 」
「 マドモアゼル・フランソワーズ?
確かに お預かりします。 」
「 ありがとうございます! 」
ススス ・・・ 従僕がひとり、静かにドアを開け入ってきた。
「 ・・・ ああ そうか。 ご苦労。
ムッシュウ・シマムラ? 外の吹雪は とりあえず止んでいる、との
ことです 」
「 そうですか! よかった! 」
「 ここの北門を出たら ― 」
城主は 方向を指示してくれた。
「 はい ・・・ はい わかりました。 ありがとうございます! 」
「 お戻りをお待ちしていますよ 」
「 ・・・・ 」
ジョーは 立ち上がり深々とアタマを下げた。
ガタン ― ジョーの後ろで出入り口用のドアが閉まった。
「 ・・・ う・・・ 寒 ・・・ ! 」
城壁の外は ― 雪は止んでいたが 圧倒的な寒気がたちまち襲ってきた。
「 う〜〜〜 温かい思いをした分 キツいなあ・・・
えっと ・・ こっちの方角だったな 」
あ? ・・・ 位置情報が わかる!
ジョーは 自分自身に搭載されているGPSが 起動していることに
気付いた。
城の中じゃ 全然起動しなくて・・・
ああ でもこれで 方角がわかるぞ!
さあ 急ぐんだ!
ザクザクザク ・・・・ 彼は雪を掻き分け歩き始めた。
不思議な < 城 > に避難でき フランソワーズは
なんとか無事に保護してもらうことができた。
とりあえず 地元のホテルに連絡をしてくる、と ジョーは
吹雪が止むのを待って 城壁から出たのだ。
二人は そのホテルでアルベルトと落ち合う約束だった。
先についた二人は スキーを楽しみに出て ― 遭難したのだった。
― 少し時間は遡る。
がっちりした作りの少し古めかしいホテルの前に 車が止まった。
バン ・・・
「 わあ〜〜 素敵なホテルねえ〜〜 」
車から降りると フランソワーズは歓声を上げた。
「 ふふ ・・・ 気に入ってくれたかい 」
「 ええ ジョー♪ とっても・・・・
こんな素敵なホテルで冬の休暇を過ごせるなんて〜〜 最高! 」
ぴょん、と 彼女は雪の上でジャンプしている。
「 ふふふ そんなに嬉しい?
あ 久し振りに アルベルトに会えるからかあ 」
ジョーはちょっとばかり彼女をからかってみる。
「 ま! 意地悪なジョー。 そりゃ 彼に会えるのも嬉しいけど 」
彼女は ちょっと唇を尖らせてみせたがすぐに
やわやわと笑みが広がってくる。
だって。
そうよ、はやく彼にも教えたいの。
ふふふ ・・・ コ レ。
その視線は どうしても手元に落ちてしまう。
― 薬指の 赤い石を頂くぴかぴかの指輪に。
この休暇に来る前 ― 彼から もらった。
約束の証し と思ってほしい、と言ってくれた。
「 うふふふ ・・・ そうね〜 やっぱりアルベルトに会えるから、
かなあ〜〜 次のコンサートの予定とか聞きたいし? 」
「 ふ〜〜〜ん 」
「 ねえ 今度一緒にリサイタル 行きましょうよ?
たしか ・・・ 有名なバリトン歌手の伴奏するって 」
「 ・・・ クラシックは よくわかんない ・・・ 」
「 あら まずは聞いてみてよ? いいわよう〜〜 」
「 ふ〜〜〜ん 」
「 もう〜 ちょっとわたしも意地悪言ってみただけ。
ねえねえ アルベルトが着いたらスキーツアーね! 」
「 ああ 三人で思いっ切り滑ろうよ 」
「 きゃあ〜〜〜 素敵! 」
「 きみがスキーが得意って 知らなかった 」
「 そう? 一応 上級者コース 降りてこられまあす♪ 」
「 お 頼もしいなあ〜〜 あ。 アルベルトからだ? 」
ジョーは ごそごそ・・・スマホを取りだした。
「 ね〜〜 なんて? 」
「 うん ・・・ あ〜〜〜 そうかあ〜〜〜 」
「 ? 」
「 あのね 仕事の都合で 二三日遅れるって 」
「 え 〜〜〜 そうなの?
う〜〜ん ・・・ ねぇ ミニツアーしましょうよ 彼を待っている間に 」
「 ・・・ なんか 吹雪になりそうだよ? 」
「 あらあ 009 なら大丈夫でしょう? 」
「 そうでした そうでした。 ぼくらは〜〜〜 」
「 ふふふ ・・・ せいぎのみかた♪ ですから〜〜 」
「 じゃ 早速 準備しよう! 」
「 おっけ〜〜 ♪ 」
二人は はしゃぎつつホテルの中に入っていった。
「 お客さん方 ・・・ 雪遊びに出かけるのかね 」
「 はい? ええ ちょっと滑ってこようか・・・って 」
二人が スキー・ウェアに身を包み 部屋から降りてくると
フロントの前で現地のヒトとおぼしき老人に声を掛けられた。
「 吹雪になりそうだよ 」
「 ・・・ ちょこっとだけ・・・すぐ もどります 」
「 ほら 少し先に広いゲレンデみたいな所 ありますでしょ? 」
フランソワーズも にこやかに答える。
パキ。 老人は手にしていた小枝を 暖炉に放り込んだ。
「 あ〜 あそこは ・・・ 気を付けなさいやあ
・・・< 出る > から 」
「 え?? 出る? 」
「 ?? なんですの? 」
「 ・・・ だから < 出る > のさ。
あの地域一帯は ず〜〜っとある貴族様の領地で ・・・
もう何世紀も前から ・・・ なんだけれどね 」
「 ・・・ 城 があるのですね? 遺跡かな 」
「 うんにゃあ とんでもない! 豪壮な城だよ!
代々大金持ちな貴族様の館さ 」
「 へえ ・・・ 」
「 ああ ・・・ で さ。 出る のさ。
こんな季節には 特に吹雪の夜 ・・・ ムスメっこが 浚われる
雪祭も近い・・・ 用心するこった ・・・ 」
え ・・・・?
ヴュウ −−−−−− 白いケモノが唸りだしていた。
Last updated : 08.03.2021.
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*********** 途中ですが
季節外れもイイとこ・・・ な 話で すみません〜〜 (・.・;)
どうしても どうしても書きたくなりまして ・・・
あ 原作あのお話 とはちょいと違いますです。
酷暑の折り、 吹雪の季節を満喫してくださいませ☆