『 願い ― (1) ― 』
「 星に ・・・ なれたらって思いますわ。 」
― そうあのコは 言ったのよ。
ゴ −−−− ・・・・・
その場所では ずっと腹の底に響く不気味な音が聞こえていた。
それが地鳴りなのか それともヤツらが起こす機械音なのか ― いやその両方が
入り混じっているのか ・・・ < 耳 > を駆使しても聞き分けることはできなかった。
「 ふう ・・・ 」
フランソワーズは 瓦礫の陰に腰をおろすとそっと吐息をついた。
「 フランソワーズさん 大丈夫ですか? 」
一番近くにいたヘレンが声をかけてきた。
「 あ ・・・ ええ 大丈夫。 ちょっと・・・息苦しいなって思っただけ ・・・ 」
「 そうですか ・・・ ああ 地上からいらしたらここは本当に息がつまりそうでしょう?
こんなとこ、人間が住む場所じゃないですよね 」
彼女は顔を上げ 遥か頭上を覆っている岩盤に目をやった。
こんな状況でも その横顔はすっきりと美しい。
・・・ このコ ・・・ 本当に綺麗なのよねえ
大きな瞳が 特にね・・
ふと視線を感じたのだろうか、彼女はフランソワーズの方に向き直った。
ベルベットみたいな濡れ濡れとした糖蜜色の瞳が じっとこちらをみている。
「 ― そんな ・・・ 」
「 私も本当にそう思いますもの。 」
「 え ・・・あ そんな気持ちじゃなくて ・・・ 」
「 いいんです。 私 初めて地上に出た時の あのぱあ〜〜〜〜っとした気持ち ・・・
忘れられませんわ。 」
「 そ う ・・・・ 」
「 ふふ ・・・昼間はもう眩しくて お日様が熱くて ・・・ 夜の方がず〜〜っと好きでした。 」
「 そう ・・・? 」
「 ええ ・・・ 星って なんてきれいなのかしら。
あの星になれたらなあ〜〜 なんて ・・・ 思います。
そして お月様 ・・・ あんなにキレイなもの、見たのって人生で初めてでしたわ 」
「 あら どこでご覧になったの? 」
「 え ・・・ あの ジョーさんと車で 」
「 ああ そうだったわね 」
「 ええ ・・・ キレイだったわ・・・ あの夜 ・・・ 」
ヘレンは 上を見上げたまま目を閉じ、想い出を追っているらしい。
! イヤなわたし・・・!
ちゃんと覚えていることをわざわざ聞いたりして ・・・
フランソワーズは自分自身にこっそり舌打ちをすると さり気なく座を外した。
ああ ・・・ ああ もう ・・・ 最低 ・・・!
頭上に空を仰ぐことができない鬱陶しいこの環境に なんだか滅茶苦茶に腹が立ってきた。
それは自分自身への怒りでもあるのだし、八つ当たりであることは十分にわかっているのだが。
「 あ〜〜〜 もう! ― 皆! イッキに殲滅させるのよ! 」
すっくと立ち上がると フランソワーズは意気高見〜〜堂々と宣言した。
「 ? フランソワーズさん ?? 」
同じ顔が そちこちから驚いた風にみつめかえしてきた。
「 わたし達がやるしかないわ。 いえ わたし達の手で! やるの。 」
「 そうですよね! 」
「 そうよ! ・・・ あのヒトのかたき討ちだわ! 」
「 私達だって 緑のそよ風や青い空が欲しいです。 」
「 ・・・ ごめんなさい 私があんなことを ・・・ 」
「 それはダフネのせいじゃあないわ もう気にしないで 」
同じ声が次々に言い始めた。
う ・・・ ああ〜〜 もうなにがなんだかよくわからないけど
ともかく! やるっきゃないってことね!
フランソワーズは きゅっと唇をかみしめた。
< フランソワーズの独白 >
― そもそも 今回のミッションは最少から気がのらなかった。
「 そうよ ・・・ 本当は 付いて行くつもりなんかじゃ なかったのよ! 」
わたし、あの日 ・・・ 千秋楽の舞台から彼の姿を見つけたの。
うそ ・・・? バレエってよくわからないって言ってたのに・・・
来てくれたのね! ああ うれしいわ〜〜〜
一瞬にして彼の優しい声音とか眼差しを思い出し、ものすごく嬉しくなったわ。
わたし、有終の美を・・・と 楽の日の踊りに一層情熱を籠めたのよ。
「 ・・・ ジョー・・・・! 来てくれたのね ・・・! 」
「 やあ フランソワーズ ・・・ 」
終演後、バレエ団の打ち上げもすっぽかして彼のもとに駆けて行ったわ。
セーヌの川岸の小路、 ― 恋人たちの特等席 ― を 連れ立って歩いたの。
うふ・・・ああ この腕・・・ 頼もしいわ
やっぱりわたし・・・ アナタが ・・・・
ぎこちなく腕を貸してくれた彼に 寄り添ってものすごく幸せだった・・・
「 ・・・元気そうだね。 舞台 とてもきれいだった ・・・・ 」
しばらくの沈黙の後、ジョーはもごもごと口を開いたわ。
「 見てくださったのね うれしい! 」
「 ごめん、ぼくには専門的なことはよくわからないけど ・・・ でも なんていうか・・・
きみの踊りにこう〜・・・元気をもらったよ。 」
「 まあ ・・・ ふふふ ・・・ ジョー、あなたらしいわね 」
「 え そ そうかなあ? 」
「 ええ。 でもね、ジョーらしい感想でとてもうれしいわ。
そうね 観てくださる方に元気を・・・って素敵なことよね。 」
「 そうさ! うん ・・・ きみは本当に美しかった ・・・ 」
「 あら ・・・ 」
ふふふ ・・・ ジョーってば面と向かって言うなんて・・・
でも 嬉しい ・・・!
わたし やっぱりこのヒトのこと ・・・ 好き♪
もう忘れたい ・・・ と無理矢理忘れていた < 世界 > だったもの。
だから実は 彼の姿を見つけたとき 懐かしさと同時におぞましさ に背筋が震えたわ。
でも 今こうして隣を歩くそのヒトは ― やはり心惹かれる存在なのよ。
ところが ね! 彼ったらとんでもないことを言いだしたの。
「 ― え ? なんですって・・・? 」
わたし、自分の耳を疑ったわ。
「 どういうことなの ジョー 」
思わず足を止めたわたしに ジョーも立ち止まり向き直ったの。
「 ― だから ・・・ 」
「 ・・・・・ 」
もう一度、同じことを繰り返す彼を わたしはただ ただ その顔だけをじっと見つめてた。
このヒト ・・・ なに 言ってるの ・・・??
そして。 わたし きっぱり言ったわ。
「 いやよ。 もう ・・・ あんなコトはもう沢山。
わたしは 絶対に行かないわ ・・・! 」
「 ― そう 言うと思っていたよ ・・・ 」
わたしの激しい拒絶を ジョーは穏やかな表情で受け止めた。
「 ・・・ え ・・・ ? 」
「 ウン、来る前からわかってたんだ。 それで さっききみの踊りを見て確信したよ。 」
「 な なにを ・・・? 」
わたしは拍子抜けしてしまった。
ジョーはきっと熱心に説得するだろう、と思っていたから。
彼はちょっと先の森に視線をとばしたけど ごく普通の口調で続けたの。
「 なに って・・・ ウン、きみは 戦場を駆けているよりも舞台で踊っている方が
全然似合ってる。 」
「 ・・・ そ う ・・・? 」
「 そうさ。 本当にぼくは今日 感動したんだもの。 」
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
「 だからあのまま帰ろうって思った。 けど ・・・ やっぱり一応は知らせておこうって
思ってね。 きみはぼく達の大切な仲間だから。 」
「 なかま ・・・ 」
「 安心したまえ。 もう二度ときみの前には現れないよ。
存分にバレエを踊って ― 幸せな人生を送ってくれ。 」
「 ・・・・・・ 」
「 ほ ほんと 言うと ― 防護服来て闘っているきみより 踊っているフランソワーズが
・・・ 好き さ。 じゃ ・・・ サヨナラ ・・・ 」
「 ― ジョー ・・・ 」
彼は にっこり笑うと ― 握手もせずに ― くるり、と背を向けた。
! え ・・・ 本気なの ・・・?
本気で このまま 行ってしまう つもり ・・・?
「 ・・・・・! 」
ジョー −−−−−! わたし、心の中で絶叫したのだけど実際は。
わたし。 脚が凍り付いてしまってどうしても振り向くことができなかったの。
コツ コツ コツ ― 少し重い足音が遠ざかって行った。
「 ・・・ ・・・ 」
もう普通には 見えない距離になってからわたしはようやく彼の去っていった方向に
顔を向けることができたの。
「 ― ・・・ ジョー ・・・! 」
< 眼 > で追ったその姿は。
一人
去ってゆく彼の背中は … 淋しすぎた。
わたしだけがこんな淋しい彼を知っている んだ って 心が きゅん ・・と痛んだの。
でも でも。 その時はわたし、どうしても どうしても足が動かなかった。
それで。 … 翌朝 わたしは稽古場へは行かず
エア ターミナル に向かったのよ。
心に決めたの ― あのヒトと一緒に。 闘うわって。
「 失礼します。 ・・・ Bonjour ? 」
「 ・・・ え ・・?? あ !? 」
飛行機の中で 彼は目をまん丸にして追ってきたわたしをみつめたの。
「 フ フランソワーズ ・・・ き きみ ・・・ 」
「 わたし ― わたしだって 003よ。 009? 」
「 ・・・・! 」
に・・・っと笑って差し出したわたしの手に 彼はおずおず・・・手をだして
「 ― ありがとう ・・・! 」
きゅ。 しっかりと握ってくれたわ。
「 うふ ・・・ 」
すとん、と彼の隣の席に座ったら ― ぽろん。 突然涙が飛び出したの。
「 ・・・ ! フラン ・・・ 」
ゴソゴソと 彼はハンカチを差し出してくれたわ。
「 ・・・ メルシ ・・・ 」
「 本当に いいのかい? 」
「 もう聞かないで。 わたし 決めたの。 」
「 ありがとう。 」
大きな手が ふわり・・・とわたしの手に重なった。
ああ やっぱりわたし。 このヒトが 好き・・・!
わたし あの時にははっきりそう思っていたの。
ゴ −−−− ・・・・ エール・フランスは故郷の空を離れていった。
途中、民間空港から移動して密かにドルフィン号に乗り替えた。
仲間たちは 笑顔で迎えてくれた。
フランソワーズは久しぶりのドルフィン号に なんだかとても懐かしい気分がした。
「 よう〜〜〜 フラン〜〜 いっつも美人だな〜〜 」
赤毛のアメリカンは相変わらずオープンなんだか無礼なんだか・・・ ともかく
陽気な声を上げた。
「 マドモアゼル。 宜しゅう。 」
俳優の英国紳士は慇懃に会釈をした。 彼の舞台での活躍は彼女も耳にしていた。
「 フランソワーズは〜〜ん また桃饅 たんとつくりまっせ〜〜 」
「 むう ・・・ 元気そうでなによりだ。 」
「 ― おう。 」
「 皆〜〜 遅れてごめんなさい・・・ あら。 ピュンマは? 」
「 ああ ジョーが迎えに行ったよ。 」
「 あ そうだったわね。 なんでも奥地に入っているらしくてコンタクトがとれないって
言ってたっけ。 」
「 ま ジョーならすぐに合流できるさ。 」
「 そうね。 ― うふ ・・・ やっぱり皆に会えてうれしいわ。 」
「 ・・・ おお おお よく来てくれたなあ・・・ 」
「 博士 ・・・ 」
奥からギルモア博士が転がるように出てきた。
「 遅れまして申し訳ありません… 」
「 いや いや とんでもない ・・・ 無理強いしてしまったのではないか・・・
舞台で成功していたのに ・・・ すまんなあ ・・・ 」
博士はフランソワーズに手を合わさんばかりで 身を縮めている。
「 どうぞお気になさらないで ・・・ わたし わたし自身の意志でここにきましたわ。
これが ― わたしの決めた道なんです。 」
すまん ・・・ ぽつり、と博士は重ねて言うと目を伏せてしまった。
「 さあさ 博士〜〜〜 元気ださはってや〜〜〜
ジョーはんとピュンマはんが来やはったら 宴会やで〜〜〜〜♪ 」
「 お いいねえ 大人〜〜 久々に大人の料理が食える〜〜〜 」
「 その前にミーティングだ。 自分の守備範囲を固めておけ。 」
「 左様 左様。 今回はなかなか容易ならん敵のようであるからな。 」
「 むう ・・・ 」
オトコたちは一様に ムズカシイ顔で頷き合う。
「 丁度いいわ。 今回のミッションについて詳しく説明してください。
ジョーの説明だと ・・・ なんか全体像がつかめなくて 」
「 ははは ・・・ ボーイらしいな。 彼はちと論理性に欠ける趣がある。 」
「 東洋人の性癖か・・・ジョーの本質か 」
「 ・・・ あの。 コーヒーを淹れましたわ。 」
カタン。 ドルフィン号の厨房から若い女性がお盆をささげて現れた。
― え? ・・・ 誰 このコ。
「 アイヤ〜〜〜 ヘレンはん〜〜 気がきくアルね〜〜 」
「 お〜っと オレが持つって 」
張大人とジェットが すぐに立ち上がった。
「 あ ・・・ 大丈夫です。 あの それよりもどこに置いたらいいでしょう? 」
女性は大きなお盆を上手に保ちつつ 周囲を見回している。
「 ここでいいって! ちょっちどけるからよ 」
ジェットは コンソールの上に広げてあった資料類をざざっと片寄せた。
「 おい! 乱雑に扱うな! ・・・ っとに粗暴なヤツだな! 」
「 へ! ただの紙切れじゃんか〜 ガタガタ言うなって 〜 」
「 なんだと? 大切な資料だ。 ・・・ 他人の目に触れていいものでもない。 」
アルベルトは じろり、と女性を見た。
「 あ・・・ごめんなさい。 これを置いたらすぐに ・・・ 」
彼女は 手際よくコーヒーを配った。
「 おお〜〜 すまんな、 ミス・ヘレン〜〜 」
「 ありがとうよ ・・・ そんなに気を使わくていいんじゃよ 」
「 ・・・ こちら側 俺が配る。 」
「 あ ありがとうございます。 うふ ・・・ コーヒーの淹れ方はちょっとは
自信 ありますの。 父が大のコーヒー党ですので 」
はい どうぞ・・・ 彼女は屈託のない笑顔でフランソワーズの前にもカップを置いた。
「 あ ・・・ メルシ。 あの? 」
キレイな子 ・・・ それに随分若いわ ・・・
ヘレン? 白人ね、イギリス人? アメリカって雰囲気じゃないし・・・
「 お。 紹介がまだだったな マドモアゼル。
こちら ・・・ ミス・ヘレン・ウィッシュボン。 あ〜〜 その・・・
ボーイが連れてきたお嬢さん さ。 」
グレートにしては語尾の歯切れが悪かった。
「 ・・・ 親父さんが BGに連れ去られた・・・とか言ってるけどな。 」
「 おい! そんな言い方 ね〜だろ! ジョーが助けたんだぜ? 」
アルベルトのシニカルな言い方に さっそくジェットが噛みついた。
「 俺は事実を言っただけだ。 」
「 けど! 」
「 まあまあ〜〜 コーヒーをいただこうじゃないか 」
グレートが割って入ってくれた。
ジョーが ねえ? やっぱり ・・・・
ふうん ・・・ そうね、彼が心を惹かれるタイプだわ
フランソワーズは コーヒーを受け取りつつしっかりと少女を観察した。
「 まあ そうなの? 大変でしたわね。 」
「 ・・・ いえ ・・・ でも ジョーさんに助けていただいて・・・
こうしてここにいさせていただいています。 あの ・・・ ジョーさんは? 」
「 ・・・ さあ ? まだ戻ってきていないわ。 」
抜けるように 透き通った白い肌ね キレイな子 …
はちみつ色の瞳 吸い込まれそうよ ブロンドとはちょっと違う髪 ・・・
でも 綺麗だわねえ・・・ なぜ伸ばさないのかしら
ふ〜〜ん ・・・ これはジョーの好みだわ ・・・
それで このコも。
ええ 一目で 彼のこと好きなんだってわかるわね
「 そう ですか・・・ じゃ 私、厨房にいますから 」
彼女は足早にコクピットから去った。
「 フラン〜〜 あんまし気にするなよ〜〜 ヤツのクセさ、その〜 」
「 あら。 わたし、気になんかしていません?
ただ どうして一般の方がドルフィン号に乗っているのかな〜って不思議だっただけよ。 」
「 ふん。 ジョーは女の子に甘すぎるんだ。
あの娘のハナシを無条件で信じて ― 連れてきちまった。 」
「 アルベルト。 しかしまあ〜 あの場合置き去りにすることもできまいよ? 」
「 いや。 地元の警察かしかるべき方面に頼めばよかったんだ。 」
「 しかしな 」
「 過ぎてしまったことは仕方ないわ。 わたし達の現状とこれからの展開について
わたしに教えてください。 わたし 着いたばかりだし今回のミッションに関しては
全くのノーデータなのよ? 」
「 ふん ・・・ そうだったな。 悪かった、フランソワーズ。 」
アルベルトは彼女に対してはいつも率直だ。
「 お〜〜 さすが我らが003〜〜 全くその通りであるな。
では 博士 ― 概要を頼みます。 」
グレートが巧みに座を取り持った。
「 ― そうじゃったな・・・ それでは ・・・ 」
よっこらしょ・・・と博士はコンソール盤の横の席まで移動してきた。
「 コトの起こりは じゃな ― 」
― バタンッ !
「 !! ジョーさんが! 帰ってきましたわっ とても急いで! 」
突然 厨房からあの娘 ― ヘレンが飛び出してきた。
「 ! なんだと?? どうしてそれがアンタにわかる??
・・・ やはり お前はサイボーグかアンドロイドだな!
内蔵するメカでキャッチしたんだ! 」
アルベルトが ヘレンを睨みつけた。
「 ち ちがいます! 音が ・・・ 」
「 音?? ・・・ あ。 加速装置の稼働音が ・・・ これは最高レベルだわ! 」
フランソワーズはさっと立ち上がり 目 と 耳 を 一気にMAXにした。
「 なにか ・・・ 抱えているわ! あ! あれは ・・・ ピュンマの頭部 !?
博士! メンテナンスのご準備を! 」
「 お ・・・ おお ! なんということか! 」
ギルモア博士はあたふたと改造室に駆けこんでいった。
「 なんだ なんだ どうした?? 」
グレートやジェットも駆け付ける。
「 アンタ どうしてアイツの走る音を知ってるんだ ? 」
「 あ あの ・・・ わたしを助けてくださった時 ・・・
突然 ジョーさんの姿が消えて ・・・ あの音がして ・・・ 敵のマシンが
一瞬にして破壊されました ・・・・ 」
「 ふん ・・・ そういうことにしておくか 」
「 ・・・ そんな! 」
「 お〜い! 大変だ!!! ピュンマが〜〜 」
― それからは ドルフィン号の中は大騒動となった。
< フランソワーズの独白 >
重症のピュンマは、博士のお蔭でともかく一命をとりとめてドルフィン号は
なんとか日本に辿りついたのよ。
ええ それまでにはいろいろ ・・・ 本当にいろいろあったわけ。
ドルフィン号で 一戦交えたし ― あれは なんだったのかしら。 あの < 敵 > は。
その他にも まあ ・・・ いろいろあったの。
ともかく なんとかわたし達は全員無事に上陸できた。
「 とりあえず ぼくの家で休んでください。 博士、 皆。 」
まずピュンマを休ませたあと、ジョーは先頭に立って皆を案内したわ。
「 あ ・・・ 日本ね〜 懐かしいわあ〜 今度の家もやっぱり海の近くなのね。 」
「 ウン ・・・ なんとなくね、海の側にいたくて・・・
こんな不便な場所に家を建てたんだ。 」
「 そうなの・・・ あ ジョー、 レーサーとして活躍しているのですって? 」
「 あ 活躍なんてほどでもないけど ・・・ 」
「 スゴイわあ〜 まあ 大きなお家ねえ〜 」
彼の家は一人住まいには不似合いなほど大きく、なんというか・・・とてもメカニックな
設備でいっぱいだったわ。
「 えへ・・・なんかね〜 いろいろ凝ってみたんだけど・・・ 」
「 ふうん ・・・ あ でもこんなに広ければ皆でお世話になれるわね。 」
「 皆の家だと思ってくつろいでくれよ。 あ 部屋はたくさんかるから ・・・
二階は皆の個室にしてくれたまえ。 」
ジョーは嬉しそうに皆に言ったわ。
「 ほう〜〜 すごいな、ジョー。 」
「 博士。 地下からはそのまま海に出られます。
研究室も一応整備してありますのでお使いください。 」
「 ほうほう ・・・ それはありがたい・・・ ピュンマのこともあるし
設備が整っているのは本当にありがたいよ ジョー。 どれ 見てこよう 」
「 ああ お供しますよ 博士。 」
「 吾輩も・・・ おっと博士 足元にご用心 」
アルベルトとグレートが博士と一緒に地下に降りていったの。
グレートはイワンのクーファンを持っていってくれたわ。
張大人はさっそく厨房に籠ったし、ジェロニモは機材の運搬を引き受けて・・・
そうね 珍しくジェットも手伝っていたわ。
「 ・・・ あの ・・・ 」
― カサリ。 広い居間のすみっこであの娘がひっそりと座っていた。
そう ね。 わたし、勿論知っていたわ。 目の端っこにず〜〜っと彼女の姿は入っていたもの。
「 あ! ヘレンさん! ごめん! 」
ジョーってば本当に忘れてたらしくて・・・彼女の側にすっとんでいったわ。
「 あ あの ・・・ ジョーさん。 私 帰ります。 」
「 帰るって どこへ?? 」
「 家へ ・・・ ここ、日本でしょう? 湘南の近くですわね 」
「 そうだけど・・・ 君の家っていっても ・・・ 」
「 ええ もう誰もいないけど ・・・ でも家は あるから ・・・ 」
「 そんな! また BGの手先が来るかもしれないし 」
「 でも ここに入る訳には・・・ 皆さんのお邪魔になるだけですもの。 」
「 ! ジャマだなんてそんな! ぼくが あ いや ぼく達でヘレンさんを
護りますよ! 安心してください 」
「 でも ・・・ 」
「 ジョー。 ヘレンさんを案内してあげて? 」
わたし。 二人の会話に割り込んだの。
― だって ・・・ ジョーってばあの娘をずっと見つめているんだもの。
とても とても熱心に ね!
「 え?? あ ああ ・・・・ そうだね え〜と・・・? 」
「 二階でしょう? あら それならわたし達、一緒の部屋でも構わなくてよ。 」
「 あ 大丈夫。 部屋数はちゃんとあるんだ。 」
「 まあ そうなの? 」
「 ウン ・・・ なんとなく ね。 皆の分 ・・・ なんて気持ちがどっかにあってさ
この家を建てた時に個室を多くしておいたんだ。
うん、女性陣は南側の景色のいい部屋を使ってくれたまえ。 どうぞ? 」
ジョーは ちょっと嬉しそうに立ち上がったわ。
「 まあ ・・・ ありがとうございます・・・ 」
あの娘は しおらしく彼の後に着いていったのよ。
わたしもほっとしたわ。 あんなこと、言ったけど ― 同室なんて ねえ?
こっそりため息ついて わたしも二階に上がっていったっけ・・・
まあね、取り合えず 普通の日 を送れたけど・・・ やっぱり 普通 じゃなかったわ。
こうして ともかくなんとか ― 束の間、サイボーグ達の平穏な暮らしが始まった。
「 ほいほい〜〜〜 やっぱこのお国は裕福やなあ〜〜 ぎょ〜さん食材、あるワ 」
「 ひぇ〜〜〜 ・・・ 張々湖〜〜〜 買い過ぎと違うかぁ〜〜 」
「 わてら 全部で何人いる、思うてるんや、 グレートはん?
それにな〜 飯 美味しゅうないと 皆はんの士気にかかわるんやで。 」
「 ま〜 な〜〜 ・・・ やれやれ ・・・ 」
どさどさ・・・ 満杯のレジ袋を下げて 張大人とグレートが買い出しから戻ってきた。
この年長組は相変わらず一緒に行動することが多い。
「 お帰りなさい〜〜 うふふふ・・・ 今晩の晩御飯 楽しみだわあ〜 」
「 フランソワーズは〜ん まっとってや〜〜 あ そやそや・・・
明日の晩飯、ちょいと当番、頼んでええか? 」
「 明日? ええ ええ 勿論。 ・・・ 味はちょっと落ちちゃうけど 」
「 そないなこと、あらへんで〜〜 あんさんのお国にお料理 作ってやあ〜
ワテら ちょいと出かけるさかい 」
うんうん …と グレートも頷いている。
あら 二人でお芝居見物にでも行くのかしらね ?
いいことよ、 皆 少しは息抜きしなくちゃ
「 あ あの ・・・ 私もお手伝いしますわ。 」
「 え? ・・・ あら ヘレンさん。 家にいらしたの? 」
厨房に そっとあの娘が入ってきた。
「 ジョーと出かけたのかと思っていたわ。 」
「 いえ ・・・ ジョーさんはお一人で外出なさいましたわ。 」
「 そうなの? ちっとも知らなかったわ。 」
・・・ ちょっとだけ意地悪なウソ・・・
彼は一人で行くからって わたしに言ったんだもの。
「 なにかお仕事の関係で ヒトに会うんだっておっしゃっていました。 」
「 あら そう? え〜と 大人〜 お皿はどれを使うの? 」
「 アイヤ〜〜 まずはこの茄子を切ってや〜 」
夕食の用意で動き回っているうちに 微妙な雰囲気は自然に消えていった。
「 なあ ・・・ マドモアゼル ? 」
カラン ― 食後、グレートは窓辺でオンザロックのグラスを揺すっている。
「 え なあに 」
「 いや ・・・ まあ その。 気にするな ・・・ 」
「 ・・・ え? 」
「 その なんだ ・・・ ジョーのヤツは 優しいのさ。 それだけだ。 」
「 やだ グレート。 大丈夫、わかっているわ。 安心して 」
「 そうかい それならいいが ・・・ 」
心優しいイギリス紳士は グラス越しに に・・・っと笑った。
ええ そうよ、 わかっているわ。
彼女がいいコ なのはよ〜くわかってるわ
だけど それだけ ジョーが 惹かれてるってことなのよね
ジョーはね あのコに同情してるだけって言ったわ
― けど。
同情って すぐに愛情になるってこと、ちゃんと知ってるのよ
わたし。
ふう ・・・ ・・・
・・・ ふ〜〜〜ん ・・・
はあ 〜〜 ・・・
沢山のため息が 広いリビングに満ちて行った。
Last updated : 08,25,2015.
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*********** 途中ですが
今更の ヨミ編 です 〜〜〜 が
ちょいと視点を変えて 書いてみようと思って・・・
フランちゃん・・・ すごくフクザツだっただろうなあ〜