『  主人公  』   

 

 

 

*****   さだまさし氏の 同名のあの懐かしい歌へのオマージュ  *****

 

 

 

 

§ フランソワーズ

 

 

 

  カツン ・・・  階段の最後の一段に足をかけた。

 

顔を上げるのに ほんのちょっと目線を上にするだけの動作に 渾身の勇気を振り絞った。  

足元が震える。 次の一歩が   でない。

メトロの出口で ぼうっと立ち止まっている彼女を 他の乗客たちは無関心に通り過ぎてゆく。

巧みに横をすり抜け、 たまにはちょいと眉根を寄せ ひょいと肩を竦め ― 

せいぜいがその程度の反応を残してゆくだけだ。

 ・・・ いつまでも立ちん坊はできない。

 

   ・・・ っ  ほら。  どうしたの? 

   自分一人で決めて 自分一人で来た のでしょう?

 

   さあ。 勇気を出すの  ― フランソワーズ。

 

「 ・・・ !  ・・・ 」

ほんの一瞬だけ きゅっと目を閉じ ― そしてごく自然に顔を上げた。

 

 

      あ。    空   水色 ね   

 

 

始めに目に映ったのは 白っぽいカンジの空、だった。  丸い柔らかな 空 だった。

真っ青な空は見慣れていた。  ずっと身近に日々眺めている空は 強烈な青だ。

カンカンと音がしそうなくらいに ぴん・・と張り詰めた 青だ。

時に雲がでれば 全体を灰色で覆い尽くすときもあり一幅の水墨画にも見えた。

それはそれで美しく よく飽きずに眺めていたものだ。

 

      でも  この空は ― 知ってるの、この空はね、 シックなのよ。

      透明な青でもないし お星様も見えそうなくらいに高くもないわ

  

      でもね  ―  シックなの。

      ヴェロアの手触りがするわ  深みのあるペイル・ブルーなのよ

 

      ふふふ ・・・ この色がわかるのは やっぱりパリっ子だけ☆

 

ふふん、と微笑がこぼれれば不安で揺れていた気持ちも固まった。

 ― よし。  行こう。  今日は決して逃げない ・・・!

 

・・・ カツ  ン   カツ カツ  カツ ・・・・

 

彼女は 再びしっかりした足取りで街中に消えていった。

「  ・・・ ? あれ??  具合でも悪いのかと思ってたよ? 」

メトロの出入り口付近で タバコやらキャンディ、ガムなんかを売っているスタンドの老婆が

ウリモノの影から首を捻った。

「 ふん ・・・ なあんだ ・・・  考えコトでもしてたんだろ ・・・ へい、まいど。  」

老婆も もう関心を向けなかった。

 

 

 

「 え ・・・・?  ああ わたし、いいわ。  パス。 」

「 パス だって?  おいおい フラン。 折角のチャンスなんだ。 行ってこいよ。 」

「 左様 左様。  研究所のことならご心配ご無用。  大人と我輩が泊り込む。 」

「 そやそや。  イワン坊のことかて、任せてぇな〜〜 」

「 ありがとう 皆。  でも ・・・ 本当にわたし、いいのよ。 」

「 あの ・・・ フラン?  あの ・・・ もしよかったら途中まで送ってゆくよ?

 きみが望む場所で ぼくは待っているから  さ ・・・ 」

 

何回か そんな会話が交わされた。

その度に彼女は やんわりと辞退の旨を ― 故郷には戻らない、と伝えていた。

仲間達のほとんどは 普段は故国で暮している。  

彼らは皆 様々な < 事情 > を抱えているが、 なんとか故郷でごく平凡に生きている・・・らしい。

彼女は ―  あの海辺の崖っぷちに建てた研究所に ずっと住んでいた。

 

 

「 なあ?  本当にいいのかい。 」

「 え なにが。 」

「 なにが・・・ じゃないよ。  きみって故郷に全然帰っていないだろう? 」

「 あら そんなこともないわよ?  ほら あのギリシアの島での事件の後 とか

 え〜〜と ・・・ あ ! そうそう あの奇妙なナントカ・博士と出会う前とか ・・・ 」

「 ほんの短い間じゃないか。 それにそんな前のこと、もう時効だよ?  」

「 ・・・ いいの。  わたし ― 帰りたくないの。

 このお家が在る処が  ジョーと一緒に暮している場所がわたしの故郷なの。

 心配しないで  本当に大丈夫なのよ。 」

「 ・・・ そう かい ・・・? 」

ジョーですら それ以上は強く勧めることはなかった。

 

   故郷の街に帰る ―  彼女は密かに望みつつも自ら避けていた。

 

 

 「  ・・・ だって ・・・ 怖いの   わたし 想い出に潰されてしまいそうで ・・・ 」

故郷の街には もう ・・・ 知人はいないだろう。 

家族 ― たった一人の兄も おそらく ・・・ 存命はしていないはず。

もっと早い時期に 何も考えずに戻って行ったことがある。

兄は 黙って行方不明だった妹を抱き締めてくれた。

兄妹はただただ涙を流し 抱き合っているだけだった。

   ・・・ それでも 結局は。  あの街を 兄の元を去った。

変われない自分は 流れてゆく時間の中では暮せない。

これ以上 兄を哀しませたくない。  出来れば忘れて欲しい、とさえ願った。

 

  それが  今。  あの懐かしい街に 立つ。

「 ・・・ なにも残っていない ・・・  それを知るのが怖かったのかも ・・・ 」

 

   カツ カツ カツ ― 石畳を鳴らしてちょっと意識して歩幅を大きくしてゆく。

 

「 ん 〜〜〜 ・・・・ ああ この空気 ・・・ ちっとも変わっていないわ 」

メトロの駅から地上に出、 やがてバス・ターミナルの横をぬけてゆく。

 

   ブ −− ・・・!   軽く警笛をならし、古びた市街地循環バスが追い越してゆく。

 

「 あ ・・・  64番のバス ・・・  あれに乗って4つ目の停留所で降りて ・・・ 」

気がつけば 今でたばかりのバス路線を歩いていた。

「 歩けるわ。  ・・・ええ よく歩いたじゃない? 終バスを逃して ・・・ 

 ええ。  そうよ。  あの日もいつも通りに起きていれば  バスに間に合ったわ。

 バス停は ―  反対側だから ・・・ わたし は ・・・ 」

  く ・・・っと咽喉が詰まった。

「 ・・・ 今 ここには居なかったでしょうね ・・・ 」

そんなことは考えても仕方ないこと、と思うけれど。  ありえない現在、かもしれないけれど。

湧き上がる想いを 止めることはできなかった。

「 兄さん・・・ もしも ・・・って考えるの、 キライだったわよね。 」

道の敷石まで馴染みのある道を辿って行く。 敷石の数だけ思い出もある。

二人きりの生活になって でも兄も妹もそれぞれ忙しくゆっくり話をするヒマはあまりなかった。

だから ほんの少しの会話でも記憶の底に残っていたりする。

 

「 だからさ。  俺はその < もしも > ってのはキライなんだ。 」

兄は珍しく妹のおしゃべりを遮った。

「 ・・・ え なに? 」

「 < もしも 〜〜だったら  > って発想はさ 好きじゃないんだよ。 」

「 え  どうして 」

「 過ぎちまったことをひっくり返すなんて無駄だろ?  

 どうせなら未来 ( さき ) のことに思考を飛ばす方が建設的だろ。 」

「 ・・・ それは  そうだけど 」

「 後ろ、みてうじうじするな。  前を見ろよ、ファン。  その方がずっと楽しいぞ。 」

「 楽しい? 」

「 ああ。  だって未来はどうなるか なにが起きるか 100%可能なんだからな。

 変えられない過去をウジウジ思ってもどうにもならんだろ。 」

「 あ  そうね。  ふふふ お兄ちゃんらしいわ〜 」

「 ふ ふん ・・・ ともかく。 俺の妹なら未来 ( さき ) を見ろ。 」

「 りょ〜かい! 」

「 ふん いい返事だ! 」

 

  ・・・ そんな会話が その時の兄の表情まで思い出せた。

「 そう よね。   ― ああ でも ・・・ こんな処に来てしまうと ・・・ 」

道沿いの店は 変わっていた。  新しいビルが増え道路も広がっている。

洒落たカフェが店を広げ 人々はゆったりと行き交っていた。

  でも ・・・ ひとつ ふたつ。  表通から折れて入れば。

 

    ―  カツ カツ ・・・ カツン。   足がとまった。

 

「 ・・・ ああ ちっとも変わっていない ・・・ みたい。 」

裏通りはごちゃごちゃと入り組んでいた建物はちっとも変わっておらず、見覚えのあるものばかりだ。

この街に < 帰る > つもりはなかった。  < 来る > 意志もなかった。

できれば永遠に心の底に封印しておくつもりだった。

 

  でも。   ・・・ 最後のわがまま ・・・ もいいかも ・・・

 

古いビルの角を曲がると 道が少し広くなっていて小さなカフェやらタバコ屋が店を出していた。

その間を 学生たちが 杖を曳いた老人が 犬をつれた婦人が 歩いてゆく。

「 ああ  ああ ・・・ ほんとうにちっとも変わっていないわ ・・・ 」

フランソワーズの歩みはどんどん緩やかになってゆき ついに カフェのテラスで止まった。

 

「 ― マドモアゼル? 」

いつの間にかギャルソンが側に来てイスを引いてくれた。

「 ・・・あ   メルシ。  え〜と ・・・ オ・レ を。 」

「 ウィ  マドモアゼル 〜〜 」

彼は軽くウィンクを残すと軽い身のこなしで店内に戻っていった。

  ストン ・・・ 引かれたイスに腰を落とした。

あの ・・・ 向こうの角から 今にも兄が現れそうだ。

 

    ああ  ・・・ ああ  ・・・・ あの頃 のまま・・・

 

彼女は声にならない声を漏らしほろほろと涙を流し続けた。

そう ― 空気すら あの頃のまま・・・ の様な気がするのに。  それなのに。

ただ自分だけが  いない。  自分の居場所が  ない。  自分はもう いない。

 

    < もしも > は キライだったわよね   ジャン兄さん ・・・

    ええ わたしも よ。

    だから こうして < もしも > じゃない現実を確かめにきたの

 

    フランソワーズ ・ アルヌール は  もう存在していないの。 

 

 ― そろそろ限界が来る。  じきに単独行動はできなくなるだろう。

それで いい。  もう ・・・ 十分に生きた。  サイボーグは不死身ではない。

 

    ― これが  最後。 最後のワガママ ・・・

    わたしの人生 という舞台の主人公は そろそろリタイアなの。

    ・・・ ねえ? 充分 頑張ったと思わない?

 

    最後の 思い出行き。   

    兄さん ・・・ じきにまた会える わね ?

 

彼女は 水色の空に向かって淡い微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

§ ジャン

 

 

 

  パタパタパタ ・・・   軽い足音が階段を登ってくる。

「  ・・・っとに 相変わらずガキみたいに駆けて来るんだから ・・・    あ。 」

口癖

になっていた小言に気がつき 苦笑した。

階段を駆け上がってくるのは ―  < 彼女 > ではないのだ。

白い頬をほんのり染め 亜麻色の巻き毛を跳ねかせて 駆けてきた妹 ・・・

ドアにぶつかるみたいに駆け登ってきて ― 勢い良く飛び込んで

 

   ただいま !  お兄ちゃんっ !

 

息をはずませそう言って とびついてきた俺の妹 ・・・

もう子供ではないのだから、 と口を酸っぱくして小言を言っても全く効果なし。

リセを卒業してもあのクセは一向に治らなかった。  いや 治す気などなかったのだろう。

 

    あの声 ・・・ はっきり覚えているさ  ああ 今だって

 

  そう ・・・ もうすぐこの戸口に現れるのは  彼女では ない。

ジャンは わざと戸口に背を向け窓を開けた。

トン トン ・・・ ? トン  ・・・  足音が止まり 躊躇い勝ちなノックが聞こえた。

 

    ふ ・・・ ノック なんて殊勝なこと、したことなんかあったか アイツ ・・・

 

彼はますます苦笑して でも戸口を振り返えろうとはしない。

「 ― 開けて?  ジャン ・・・ 

「 ・・・ ああ マリー。 今 行くよ。 

ドアの向こうからの声を聞いてから 妹はいないのだ、という事実を噛み締め彼はようやく窓辺を離れた。

 

 

彼女が持ち込んだ荷物は 多くはなかった。

かえってジャンの方が気を使い、 あれこれ ・・・ 新しい家具などを買ってきた。

あれをここに。  これを移動してあっちのはもう捨てる。

ドタバタと二人で汗を流しホコリ塗れになり  ― 笑い合った。

「 ・・・ う〜ん ・・・ まあ なんとか ・・・ カッコついたか? 」

「 ええ  そうね。  ・・・ お掃除の方が大変でしたけど? 」

「 あ ・・・ いやあ〜〜 へへへ ・・・ 」

オトコの一人暮らし、隅っこにホコリが溜まりまくっているのは ― 当然だった。

「 すまん〜〜   君のおかげでぴかぴかさ。  あ〜〜 休憩しようぜ。 」

「 ええ。  お茶、入れるわ〜〜 」

「 えっと ・・・ 食器類はよかったらあるものを使ってくれ。  たいしたモノはないが ・・・

 あ  やっぱり全部新しくするか? 」

ジャンは食器棚を開けて やはりこれは ・・・と思ってしまった。

かなりの期間付き合ってきた仲だけれど。  今日からはずっと共に暮すのだ。

はやりケジメをつけた方がいいだろう。

「 そうだよな。 古いのは捨てよう。 」

「 ―  やめて。 」

白い手が 食器を掴んだ彼の手を押さえた。

「 そんなこと やめて。  ねえ? 私のカップならもうず〜〜〜っと前からここにあるでしょ?

 あなたのカップと私のカップはほら、ここに並んでいるわ。 今日までも 今日からも ・・・

 そうよ、な〜〜んにも変わることなんかないのよ。 」

温かい笑顔がジャンをみつめている。

「 ・・・ そうだ な。   ありがとう ・・・ 」

「 さ。  お茶にしましょう。  ・・・ ねえ ドロップ・クッキー、作ってきたの。 食べる? 」

「 おう〜〜〜 勿論!  君のアレは最高さ。 」

「 じゃ ・・・ もう一回温めるわ。  オーブン、使っていい? 」

「 どうぞ。 ってか キッチンは今日から君の管轄だぞ。 」

「 うふ ・・・ うれしいわ。 期待してて♪ 」

 

   カチン カチン ・・・   古い部屋に 温かい香りが満ちている。

 

紅茶の香り  温めたバター・クッキーの香り  ミルクの、砂糖の香り 

  ― そしてなによりも  自分以外のヒトがいる暖かいにおい ・・・

 

「 ・・・ なんか 久し振りだな  こんなの。 」

ジャンは ほう 〜〜 ・・・っと長い吐息をはいた。

「 え そう?  先週も一緒にお茶したじゃない?  ねえ もう一杯 いかが? 」

「 いや そうなだけど さ。  そのう ・・・ここに俺以外の人間がいる ってことが さ。

 あの ・・・ずっと 。 

「 ・・・ ジャン ・・・ 」

彼女は はっとした顔でお茶を入れ替える手を止めた。

「 ・・・ 俺はここで ―  長い長い間 幻を相手に暮していたのかもしれない ・・・ 」

「 ジャン  幻 だなんて ・・・ 」

「 いや。  ― いい加減、ケリをつけなきゃいかんな。 」

「 ・・・・・・・ 」

彼女はポットを置くと ジャンと正面から向き合った。  何も言わずにすとん、と座っている。

「 ・・・ うん? 」

「 ねえ   本当にいいの? 

「 え なにが。 」

彼女はジャンの顔を覗き込み聞いた。  

「 だから ―  あの。  私がここに来ても ・・・ 」

「 ・・・ え? なに言ってんだ、お前。  俺が言い出したんだぞ。 」

「 でも ・・・ 」

見詰める瞳が ゆらゆら ・・・ 少し哀しい光をたたえている。

「 俺が ここで一緒に暮そうって言ったんだぜ。 」

「 それは そうなんだけど  ―  でも 」

「 でも なんだ。 」

「 ・・・ ううん ・・・ でも なんだか ・・・ ジャンってば 」

「 お前こそ ・・・ イヤか?  こんな古いアパルトマンでごめん ・・・ 」

ジャンは静かに彼女を抱き寄せた。

「 ううん ううん ・・・・ 私はジャンと一緒ならどこだっていいの。

 ジャンが呼んでくれたのが嬉しいわ。  だから 余計に 」

「 余計に?  なんだ、お前が拘っていること、言っちまえよ。 」

「 ・・・ だから  あの。 余計にジャンがイヤなことはしたくないの。 」

 

    ・・・ お前ってヤツは ・・・

 

ジャンは彼女の頭を抱きくしゃくしゃとその豊かな濃い髪を撫でる。

「 ば〜か。  何、余計な気を回しているんだよ?  俺はお前とここで暮らしたいんだ。

 ここで ・・・ お前と年齢 ( とし ) を重ねてゆきたい。 」

「 ・・・  ジャン。  愛してるわ 」

「 ああ 俺も ・・・ 愛してるよ、マリー 」

すこしばかり年齢を重ねた恋人たちは 熱くて深くて ・・・ 想いに満ちた口づけを交わした。

 

 

新しい家具類はすぐに この古い部屋に馴染んだ。

付き合っていた期間が長かったから 彼女もすぐに当たり前のようにこの部屋の住人となった。

気がつけば 彼女はこの部屋に自然に溶け込みその一部にもなっていた。

それでいて部屋の雰囲気はほとんど変わっていない。

勿論彼女が持ってきた新しいモノやら < 空気 >はあるのだが それらはたちまち ・・・

この部屋としっくりと溶け合っていったのだ。

「 ・・・ マリー ・・・ 君ってヒトは ほんとに ・・・ 」

ジャンはよく恋人の穏やかな笑顔を感心してながめることもある。

「 あは  ―  やはり君はぼくにとって運命の女性 ( ひと ) なんだな。 」

「 え なあに?  ねえ 教えてもらったパン屋さん〜 本当に美味しいわね! 

 えへへ ・・・ ちょっとお腹すいて端っこ齧っちゃったんだけど。 」

「 あ ・・・ ああ あのパン屋な。  うんうん 美味いだろう?  

 遅くなってスマンな〜〜 待ってなくていいのに・・・ 」

「 あら 一緒の方が美味しいもの。 さあさあ〜〜 早く手を洗ってきてちょうだい。 」

「 あ  うん ・・・ 」

 

     なんか ・・・ アイツがいるみたい だ   

     どうしてこう雰囲気が似てるのかね ・・・?

 

ジャンは時折苦笑しつつ ― でもそれはイヤではなかった。

 

     ふん ・・・ 出会ってからもうかれこれ ・・・ 何年になるか・・・

 

ふと数えてみてまた溜息が出る。   ああ もうそんなになるんだ ・・・ と。

妹を探して 探して 探し疲れて  そんな頃に彼女と出会った。

それは家の近所にオープンしたカフェで。  懐かしいような いや 蚤の市で買ってきたのか? 

と 見て取れる調度品がしょぼしょぼと飾ってある店だった。

「 ―  オ・レ。 」

ギャルソンに注文を投げ、がたん、と乱暴にイスを引き落ちこむみたいに腰をかけた。

目の前で連れ去られた妹を探し 探し 探し ― あらゆる手段を使い果たし疲れ果て ・・・・

 世間の関心はとっくに消え、同情から憐れみ、そして侮蔑から無関心へと変わりつつあった。

「 ・・・ くそ ・・・っ!  だれが諦めるものか・・・! 」

目の前で浚われた妹の姿は 顔は 声は 何年経っても鮮明に目の裏に焼きついている。

「 俺が!  俺が諦めてしまったら ・・・!  アイツは ・・・  」

 

  ―  どん。   年季モノのテーブルを叩いていた。

 

 カチャン  ・・・  カフェ・オ・レ が飛び散った。  隣のテーブルにまで飛んだ。

「 ・・・ あ  ・・・ ! 

彼は慌てて立ち上がった。

「 す すまんです! あの ・・・ 服を汚しちまいましたか。 」

「 ・・・ いえ。 大丈夫ですわ。  あの。 アナタこそ、服 ・・・ カフェが 」

「 ・・・ あ   いやこれは俺自身のせいだから 」

「 あの よかったら ・・・ どうぞ? 」

ジャンと同じくらいの年の女性だったが 静かにハンカチを差し出した。

「 ―  ありがとうございます  ・・・ 」

なぜか 素直にそれを受け取った。  なぜか 滅茶苦茶に嬉しかった。

 

  ― 切っ掛け なんてそんなものだ。  

 

あれからさらに数年が経ち ・・・ 二人はやっと一緒住むことになった。

 

奥の部屋は ― あの部屋だけはどうしても手をつけられなかった。

ほんの短い期間だったが 彼女が戻ってきていたあの部屋・・・

「 すまん。  ここはアイツの 妹の部屋なんだ  ・・・ その ・・・ 片付けるのは 」

正直に言って彼女にはアタマを下げた。

ずっとジャンの側にいた彼女は だまって頷いた。   

「 ― 一緒に待ちましょう。  きっと帰ってくるわ。 あなたの妹なんだもの。

 ここは 彼女の家なんだもの。  またいつか帰ってくるわ。 きっとよ。 」

「 ・・・ ありがとう ・・・! 」

「 だって家族でしょう?  ジャン、あなたが信じなくちゃ 誰が信じるの?

 大丈夫、一緒に待ちましょうよ。  ね ・・・? 」

「 ・・・ ・・・・・・ 」

ジャンは言葉が見つからず ただじっと ― ずっと側にいてくれた手を握った。

「 ね?  もっともっと話して。 教えて?  妹さんのこと・・・ 」

「 え? ・・・だって興味ないだろう? 」

「 どうして?  ジャン、あなたの、そして私の妹なのよ? 詳しく教えてくれなくちゃ。

 私、仲良しになりたいんだもの。 」

マリーは 満面の笑みをうかべると立ち上がった。

「 嬉しいのよ。  私 親も兄弟もいないから。  新しく妹ができるなんて最高!

 だから ね、 教えて。 話して、妹さんのこと。 」

「 ・・・ マリー ・・・ 

「 ジャン。  私 ね。 自分以外の人間の為に全てを捧げるヒトって 初めてみたの。

 ええ たとえ肉親であっても よ。  ― そんなアナタを尊敬し愛しているわ。 」

「 ・・・ マリー  それは過大評価だ。  」

「 いいの、これは私の評価なんだから。   私 ・・・ もうずっと一人だったから ・・・

 これからも一人きりで生きてゆけばいい・・・って思ってたの。 」

「 ・・・・・・・ 」

「 他人と拘ることもなく 自分だけを相手に ね。 死ぬまでそうして生きて行くんだ・・・って。

 人生の傍観者で終えるんだって ね。  」

「 マリー ・・・ !  そんな淋しいことを! 」

「 本当よ。  でも  ジャン、あなたを知って ― 私、傍観者をやめたわ。 」

「 え?? 」

「 私だって ― 主人公よ、って。  私の<人生>の主演女優なのよって思ったの。 」

「 俺は ・・・ ただ諦めの悪いヤツなだけかもしれない。 」

「 そんなこと、ないわ。  あ ・・・ そうでもいいわ? 私も一緒に諦めの悪い人生を送るから。」

「 ・・・ マリー ・・・ ありがとう ・・・! 」

「 お礼なんか言わないで。  それより話して? あなたの、私達の妹のことを・・・

 いつか ―  私達の子供達に話してやれるように。  叔母様のことを。 」

「 ・・・ わかった。  そうだよ な。  お前も俺も ・・・アイツも。 

 人生の主役、なんだから な。 」

二人は温かい眼差しを交わしゆったりと抱き合った。

 

リビングに飾ってある写真はどれも古びていた。 そこに少しづつだけれど新しいものが

加わるようになった。  

ジャンは写真を増やすたびに 語りかける。 曇ってしまった銀のフレームを取り上げ、

ガラスに積もったホコリを払いつつ ― 亜麻色の髪の少女に話す。

 

「 なあ ・・・ ファン。  結婚したよ。  お前に姉さんができたんだ。 」

「 ・・・ なかなか美人だろう?  仲良くしてくれよ〜 」

「 待っている。 ずっと ・・・ 俺は命がある限りお前を待っている。

 そして 俺が居なくなった後は俺の家族に託す。

 お前のことを伝えなければ・・・  お前という人間が生きていた証を残すよ。 」

「 いつまでここに住んでいるんだ って?  ああ いつまでも。

 この街に この部屋に居るさ。 お前が帰ってくるところだから。 今でもお前を感じるよ。 」

「 なあ ・・・ ファン。 

 お前はきっと お前の人生という舞台で最高の主演女優を務めているんだろうな。

 ―  そうさ。  お前はこの俺の妹だもの。  なあ ・・・ フランソワーズ ・・・ 」

 

ジャンは水色の空へ 精一杯の笑みを送った。

  

 

 

 

 

  § ジョー

 

 

 

  カツカツカツ ・・・・!   コッ コッ コッ ・・・

 

人々は足早に石畳の道を歩いてゆく。  大股で。 高いヒールで。 どの足音も皆軽快だ。

慣れ親しんだ道、 窪みがどこにあり、小石が転がっている場所まで知っているのかもしれない。

  ―  そんな 中。   よれよれ足元も覚束ないのが 一人 ・・・

そもそも行く先がよくわかっていないらしく うろうろ・どたばたの連続だ。

「 あ・・・ すいません ・・・  あ あれ??  こっちには角のはず?? 」

大きなバッグを肩から掛けて ジーンズに腰までのダウン・ジャケットを着ているが 額には汗が光る。

青年は茶色の髪の間から 周囲をきょろきょろ見回し行きつ戻りつしている。

「 あれえ・・・  ヘンだなあ・・・  ここがメトロの駅の出口 だろう? 

 そこを登って 〜〜 まっすぐ歩いて それで 」

彼は 地図を片手にさかんに首を捻っている。

 

    へえ ・・・・?  地図? それも紙の?

 

    え。 なんでナビ使ってないわけ?? 

 

チラチラと同年輩の者達は視線を投げるが 無関心に通り過ぎてゆく。

勿論 彼が尋ねてくれば親切に教えてやるだろうけれど ・・・

 

  ―  パタン。  肩からバッグを下ろし、彼は通行人を避けとうとう道端に退避してしまった。

 

「 う〜〜〜ん ・・・・?  ちゃんとわかっているつもりだったんだけどなあ・・・・

 地図の上ではもう着いているはずなんだけど ・・・ 」

もう一回地図を広げてみる。  使い慣れたものなのか、折り山は擦れているし端は捲くれている。

「 メトロのこの線、だろ。 それでこの駅で降りて ・・・ 出口は二つって言ってたよな。

 それで東口にでると 右側に銀行があって ・・・ あれ? 

彼はぶつぶつ ・・・ 独り言を言いつつ地図を辿り 改めて周囲を眺めている。

「 ・・・ う〜〜ん やっぱり建物とかは変わっている  か ・・・ 

 基本的にはこっちの方向だもんな。  よし 行ってみよう。 」

よいしょ・・・っとバッグを肩にかけると 彼は歩き始めた。

 

    「  来たよ ・・・!  きみの故郷の街に。   フラン ・・・! 

 

 

 

「 それでね。  今ごろはマロニエの葉がとてもきれいなの ・・・ 」

「 メトロの駅を出るとね、 ちょっと広場があるの。  そうねえ・・・ トウキョウと比べたら

 全然 < 広場 > じゃないけど ・・・  バスの乗り場もあってね。 

 新聞売り場のスタンドとか 小さな花屋さんや野菜売りの屋台が並んだりもしていたわ。

 レッスンの帰りに林檎やオレンジを買ったりしたの。 」

「 リセに行くバスもあったから ・・・ 朝とかは学生が多かったわ。

 おしゃベリしたり 恋人同志くっついていたり ―  賑やかだったの ・・・ 」

「 バスはね ・・・ 64番。  端っこの乗り場なのよ。  大きなビルの北側だったから

 石壁によりかかってバスを待っていたわ。  冬は・・・とっても寒かったっけ 」

 

  彼女はある次期を境に 盛んに故郷の話をするようになった。

 

「 ふうん ・・・ マロニエってどんな色なんだい。  黄色? イチョウみたいなのかな。 」

「 あ そういう店っていいよね。  うん、今度商店街の八百屋に林檎とか買いにゆこうよ。 」

「 賑やかなんだろうな〜  バスの中で宿題やるやつもいたりして〜 」

「 ああ バスの番号ってさ、ずっと覚えているよな。  ふうん ・・・寒いのか ・・・ 」

ジョーはその度に ― 何回も同じ話を聞かされていたけれど ― 楽しそうに相槌を打った。

彼女は 聞いているのか聞こえていないのか ・・・ それでも陽気にお喋りを続けるのだった。

 

ギルモア博士が亡くなり、仲間達も次第に疎遠になっていった。

岬の崖っ淵の邸には メンテナンスの設備は整っていたが 彼らはそれすらも利用しなくなっていった。

「 ・・・ まあね いざって時にはイワンがアメリカにいるから。 」

「 そう? ・・・わたしは ・・・ いいわ ・・・ 」

「 いいって どういうことさ。 」

「 いいの。 わたしは  ・・・ 自然に逆らいたくないの。 」

ジョーとフランソワーズの間でも そんな会話が交わされるようになっていた。

「 だけど! メンテナンスは必須だよ。 ぼく達は その・・・ 自然治癒とかは望めないんだから。」

「 ・・・ いいの。  もう 十分、でしょ? 」

白い手が そっと・・・ ジョーの大きな手に重ねられる。

「 ・・・ フランソワーズ ・・・ 」

彼女の瞳は相変わらず澄み切っていて その微笑みは柔らかく温かい。

「 でも ぼくは・・・! 」

「 わたし達 ・・・ 十分生きたでしょう?  神様ももう ・・・ いいよって言ってくださる わ 」

「 ・・・・・・・・ 」

実際 彼女はしばしば不調を起こし、一時的に機能停止をすることが増えていった。

そんな中 ・・・ 珍しく彼女ははっきりと主張した。

 

「 ジョー。 お願いがあるの。 」

「 なんだい、改まって。 」

「 あのね。   ― パリに行きたい。  あの街に行ってみたいの。 」

「 ・・・ え ・・・  いいのかい? 」

ジョーは驚いた。  彼女は今まで故郷の街に帰ったことはなかった。

ある時期 ― ほんの短い期間、あの街で家族の元で暮していたことがあった。

しかし ミッションの為に彼女はそこを去り  ―  再び戻ることはなかった。

その後 何回も仲間達に、そして ジョーに薦められても あの街を訪ねようとはしなかったのだ。

それが 今になって・・・と ジョーは訝しげに思った。

「 ええ。 行ってきてもいいかしら。 」

「 ・・・ きみが行きたいのなら。  うん 一緒に行こうよ。 」

「 あ ・・・ あのね。  一人で行きたいのよ。 」

「 え ・・・ でも。  じゃあ 送ってゆく。 それならいいだろう? 」

「 やぁだ、大丈夫よ〜〜  故郷の街に行くのよ? 道を間違えたりしないわ。 」

「 ・・・ いや ・・・そういうことじゃなくて ・・・ 」

実際 一人旅に出られる状態ではないはずだ。

 

空港まで一緒に行く、という条件着きでジョーはやっと彼女の < 一人旅 > を認めた。

全部一人で大丈夫! と言い張る彼女を懸命に宥めたのだ。

「 子供じゃないのよ。  普通の旅客機に乗って ・・・ ちょっと海を越えて。

 それでよ〜く知っている街に行くだけよ。 

「 そりゃそうだけど ―  ほら、 途中でなにかあっても困るし・・・

 ほら また熱が出たり具合が悪くなったら ・・・ ぼく、心配なんだ。 」

「 まあ ジョーったら。 心配性ねえ・・・・ 」

フランソワーズはあっけらかんと明るい声でころころと笑う。

 

 ・・・ しかし 部分的な記憶喪失を起こしたり、急な発熱を繰り返す彼女を

一人で行かせることはできない。 

ジョーはアタマを抱えた。

 

     ・・・ グレートがいてくれればなあ ・・・ 

     ハツカネズミとかに化けて 彼女のポケットの中で同行してくれるだろうに

 

     う〜〜ん 同じ欧州大陸だぞ?  アルベルトに護衛を頼めれば ・・・

     ・・・ ちぇ。  肝心な時に 〜〜〜

 

     おい〜〜〜!!  二人とも〜〜〜ズルいぞ〜〜 

 

珍しくジョーは 空に向かってグチを吐いた。 

あちらの住人になった仲間達に おおいに悪態をついた。

 

     へ へへへ ・・・ 申し訳ない〜〜

     

     お? すまんな〜  こっちは快適だぞ〜

 

彼の耳には仲間たちの陽気は声すら 聞こえてきそうだ。

「 ・・・ったくなあ・・・ 気楽でいいよなあ ・・・ もう ・・・ 」

独りでグチってみても 応えてくれる声もチャチャ入れをしてくる声もない。

「 ねえ ねえ ジョー。 いいでしょう? 

「 ・・・ う〜〜〜ん ・・・・  じゃあ ・・・ 」

渋るジョーが捻りだしたのが  ― 

「 じゃあ。  オルリー空港まで送ってゆく。  それでぼくは空港で待っている。

 それで ― どうかな。 」

「 そうねえ・・・ ジョーがどうしても一緒に来たい! って言うのなら仕方ないわ。

 あ そうだわ? ちょっと足をのばしてロンドンまで行ってみれば?

 グレートと会えるわ。  ああ でも彼はリハーサルやら打ち合わせで忙しいかもねえ 」

「 うん そうだね。  大丈夫だよ。 きみが帰ってくるまで待ってる。 」

「 そう? ありがと。  あ ・・・ こっそり後からついてくる ・・・なんて絶対にダメよ? 」

「 はいはい そんなことしないよ。 だって ・・・ 003の後を付ける なんて

 絶対に不可能だろ? 」

「 うふふ・・・わかっていればよろしい。  きゃ〜〜 楽しみだわあ〜〜 」

彼女はどんどんテンションが上がり はしゃぎ始めた。

 

     ・・・・ やっぱり 帰りたかったんだよなあ ・・・・

     ごめん フラン。  もっと前に誘えばよかった・・・

 

フランソワーズは発熱の為だけではなく、 興奮と歓喜のための頬を上気させている。

そんな笑顔を ジョーはひりひりする想いを抱え見守っていた。

 

  ―  やがて 二人はかの地へ赴いた。 

ジョーは いらいらと半日、空港内のカフェを渡りあるき、待っていた。 ひたすら 待った。

 そして ―

≪ ・・・ ジョー?  いま どこ? ≫

≪ フラン!?  ああ 久し振りに脳波通信を使ったんだね! ≫

≪ ・・・ だって。 キライだけど ・・・ 携帯を忘れて来ちゃったんですもの ・・・ ≫

≪ え ・・・  あ  ああ  そうだったね。  今 行くよ。 どこにいるんだい。 ≫

≪ あの ね 今ね メトロの 〜〜 ≫

≪ ・・・ うん  うん  了解。  すぐに迎えにゆくから ! ≫

≪ あ ジョー 加速装置 はダメよお? ≫

≪ わかってる!  なあ 冷えてきただろ、ちゃんとコート着て ・・・ ≫

≪ は〜い♪  マロニエ ってカフェに居ます。 ≫

≪ りょ〜〜うかい! ≫

「 ・・・ スマホをずっとポケットに入れてあるんだけど なあ ・・・

 まあ いいか。 ともかく無事に帰ってきたんだ! 」

ジョーは大急ぎで空港内のカフェから飛び出していった。

 

とても満足した様子で彼女はジョーの元に戻ってきた ― そしてそれが最後の外出だった。

「 どうだった?  ・・・ 旅の感想は。 」

「 え  そうねえ ・・・ とっても楽しかったわ。 」

「 そう ・・・ それはよかったね。 」

「 ええ。 よかったわ。 」

満面の笑みを湛えつつ でもフランソワーズはそれ以上語ることはなかった。

ジョーも それ以上聞くこともなかった。

 

    ちゃんと帰ってきてくれた。  ぼくの側に戻ってきてくれたんだ。

    ・・・ それで 充分 さ。

 

ジョーは白くて温かくてほっそりとした手を握り 心底安堵していた。

その後 しばらくして彼女は花と小鳥と懐かしい夢の世界の住人となり   やがて 地上を去った。

 

 

 

彼がやっとその気になったのは 海に臨む小さな墓碑の周りに青々と草が生い茂る頃だった。

ジョーは ―  あの街を訪れた。

 

「 ・・・ お?  そうだ そうだ。 64番のバスを降りて ・・・ こっちだよね。 」

バス停に立つと ジョーの歩みは途端にしゃきしゃき早くなった。

「 そうそう ・・・ 右に古い銀行の建物があって ・・・・ コレだな。 」

さっきまで地図と首っぴきでうろうろしてた。  新しいビルが増えて迷いに迷っていた。

しかし あのバス停を降りれば ―  懐かしい風景が広がっていた。

「 ・・・ うわあ ・・・ そうだよな〜 こっち側にマロニエの街路樹があって ・・・ ほらこれだ。

 三本目の樹の下に小さなタバコ屋があって  ・・・ お。 キャンディも売ってるな〜

 後で買ってこ。  それでここをまっすぐ ・・・ そうだよね。 」

ジョーはもう地図は見てはいない。  地図などいらなかった。 全部 ・・・ 知っている。

彼は思い出話を頼りに < あの街 > を歩き始めた。

角を曲れば 知っている風景がみえた。  花屋の店先も八百屋の屋台もすぐに見えた。

学生だらけの街は 相変わらず賑やかだ。

 

    きみに聞いたとおりの街。 初めてなのに知っている街    

 

    大丈夫。  今でもきみといっしょだよ・・・  

 

    きみは  この街を この道を歩いたんだね

    ああ ・・・ ぼくには見えるよ  亜麻色の髪を靡かせて颯爽と歩くきみが ・・・

 

    うん  きみのドレスの模様も覚えているさ

    そうさ、 ぼくが誕生日にプレゼントしたピアス、よく似合ってた・・・

 

    きみは  いつだって煌いていたよ  

 

    そんなきみが いつだってとても眩しかった ・・・

    ああ ああ ・・・ 愛しているよ  いつまでもいつまでも ・・

 

    フラン ・・・ ぼくの人生での共演の相手役  そして  ヒロイン。

    

                ぼくの 主人公

 

 

 

 

******************************      Fin.    ******************************

 

Last updated : 07,23,2013.                      index

 

 

 

 

**************    ひと言   ************

ず〜〜〜っと昔。 乙女な時代にあの歌を聞いた時から

 これはフランちゃんの歌だ! 」  と確信していました♪