『 も〜いくつねると 』
クリスマスの翌朝 ―
こっつん。 ドアにつけたリースを取り外した。
本当は手作りしたかったけど、時間も材料もなくて町の花屋で買ってきた。
でも それじゃつまらないので 庭の常緑樹の葉っぱやら拾ったドングリ、まつぼっくり
なんかも付けたして賑やかにしてみた。
「 ふう ・・・ お役目、ご苦労さま。 あらあ・・・ 葉っぱが少し取れちゃったわね〜
少し修繕しなくちゃ ・・ 」
フランソワーズは 手にしたリースをしげしげと眺めている。
「 結構気に入っていたのよね〜 準備の時間、あんまり取れなかったけど・・・
でも ちゃ〜んとクリスマスの雰囲気 出てたわよね 」
これは来年も使うわ、お気に入りだもん、と彼女は大事そうに持って家に入った。
「 フラン〜〜 ツリー どうする? 賑やかだから正月まで飾っとく? 」
リビングでは ジョーがまだちょっと楽し気にクリスマス・ツリーを眺めている。
「 あら 片づけましょうよ? ツリーも裏山に返してあげたいわ。 」
「 あ そうだね〜 」
ジョーはうんうん・・・・と頷くと 丁寧にオーナメントを外し始めた。
「 ふふふ〜〜 樅の木がウチの裏山に生えているって ステキよねえ 」
「 そうだよね〜〜 ぼくもびっくりさ。 もっとなんかこう〜〜
寒い国の山奥とかに生えているんだと思ってたよ。 」
「 そうねえ そんなイメージだけど ・・・ でもね、パリの公園でも見たことがあるの。」
「 ふうん? あ でもさ パリって札幌くらいの緯度だっていうし 」
「 さっぽろ? 」
「 あ 北海道の都市さ。 雪とかざんざか降って積るトコ。 」
「 まあ そうなの? じゃあ このモミの木さんは ここは暑いなあ〜〜って
思ってるかもね 」
「 あはは そうだねえ〜〜 じゃあ 来年までのんびりしててくださいね 」
「 来年はもっと大きな木になっているかもね 」
「 そうだね。 えへ ・・・ でもさ〜〜 ちゃんと根がついたツリーを
ウチに飾る・・・ってすごいよなあ〜〜 ぼく 憧れてたんだ。 」
「 いいクリスマスだったわね 」
「 うん! 最高さ〜〜 きみのケーキも最高だった!
張大人が焼いてくれたチキンも最高だった!
きみからのプレゼントのマフラー 最高だった!!!
博士からはさ〜 腕時計頂いたし・・・ もうもう最高だよ
ぼく ・・・ こんなクリスマス、ウチですごすの、夢だったんだ 」
「 楽しかったわね。 わたし この国でもちゃんと教会に行けて嬉しかったわ
あ ジョーからのストール、とっても暖かくてオシャレで・・・ ありがとう! 」
「 え えへへへ・・・ ありがと、フラン ・・・
ぼく ・・・ ここに皆と一緒に暮らせて本当にうれしいです。 」
「 わたし も ・・・ ジョー。 このお家、どんどん好きになるわ 」
「 うん ・・・ ぼくも。 どんどん好きになるよ ・・・きみ を さ 」
「 え なあに? 」
「 ! あ う ううん ううん〜〜 なんでもない〜〜
あ ぼく、もみの木、裏山に植えてくるね、それから掃除用の洗剤とか大掃除用品、
買い出しに行ってくるね 」
「 お そうじ? 」
「 そう。 じゃあ行ってきます〜〜 」
「 あ お願いします〜〜 オヤツにオーツ・ビスケット 焼いておくわ 」
「 わい〜〜〜♪ 」
ジョーは 歓声をあげて、モミの木をひょい、と持ち上げ裏庭の柵を越えていった。
「 ふふふ ・・・・ ああ クリスマスも終わったし・・・
静かに新年を迎えましょう ・・・ こんな穏やかな時をすごすことができるなんて・・」
ふう ― フランソワーズは 深くため息を吐いた。
この国に住むことになって ・・・ ちょっと安心したわ
土地の人々は おだやかで優しいし・・・
温かい土地で住みやすいし ― 教会にも行けたわ ・・
「 皆 母国に帰ってしまってちょっと寂しいけど ・・・
博士やイワンや ジョーとゆっくり新しい年を祝うことにしましょう ・・・
― 神様 ・・・ この静かな日々を 心から感謝いたします 」
そっと十字を切ると 彼女はキッチンに戻り 小麦粉を篩いはじめた。
とっころが。
ギルモア邸は静かな年の瀬を迎えること ― には ならなかった!
がっちゃん どん。 玄関の外で賑やかな音がした。
「 ただいま〜〜 フランソワーズゥ〜〜〜 ちょっと開けてくれるう?? 」
ドアの外から ジョーがなにやら喚いている。
「 ?? ジョー? お帰りなさい ・・・ ってどうしたの?? 」
フランソワーズは 玄関まで駆けてゆくと慌てたドアを開けた。
「 どうした ・・・ の ??? 」
彼女の目の前には ― 大きな荷物が 現れた。
「 わ〜〜 ・・・ ちょっとさ〜 一番上の荷物、取ってくれる?? 落ちそう〜 」
「 え?? あ ああ はい、これね ・・・・ なあに これ。 」
重くはないけれど なんだか嵩張る包みを手にとりしげしげと眺めている。
「 それ? ああ 雑巾だよ 」
「 ? ぞ ぞうきん??? ジョー・・・ 雑巾、買ってきたの?? 」
「 ウン、ウチにあるのじゃ足りないからね〜〜
えっと〜〜 あと住居用の洗剤だろ〜〜 かびきら〜〜 だろ〜〜
ガラス・くりーなー だろ〜 えっとそれから掃除機用の袋も忘れずにっと 」
「 ― 掃除用具の安売りでもやっていたの? 」
「 あ? まあこの時期は毎年そんな感じだけどね〜
じゃ オヤツを食べたら ― 大掃除、戦闘開始だからね〜〜 」
「 ・・・ おおそうじ?? 」
「 ウン。 ウチはさ〜〜 広いから大変だよ〜〜 あ 窓も拭かないとね〜〜
庭掃除もさ、やっておきたいじゃん? あ! 門松! 注文しとかなくちゃ! 」
「 かど・・・ なに? 」
「 門松。 あ フランスにはないかもな〜 日本のさ、正月用のリースみたいな
もんなんだ。
」
「 ・・・ それを作るの? 」
「 あ〜 ちょっと素人には無理だからね、植木屋さんとかに頼むのさ。
ともかく まずは大掃除開始 ! だよ 」
「 お掃除・・・って。 わたし、 いつもきちんとやってるわ。 」
「 うん 知ってる。 けど
年末の大掃除はさ〜 トクベツなんだ
家族みんなでウチの中も外もぴかぴかにするのさ。
え〜と 燃えないゴミの最終日は・・・っと? うん、やっぱり窓掃除からかな〜 」
ジョーは たったか掃除用具やら洗剤を取りだすとあれこれ算段している。
「 す ごいのね ・・・ 」
「 え? そんなこと、ないよ〜 これはさ〜日本人の習慣ってとこかな。
あ そうだ。 お節料理の準備もしなくちゃな〜 」
「 おせち ・・・ なに?? 」
「 あ〜 正月用の料理なんだ。 」
「 ふうん ・・・ それ ウチで作るの? 」
「 う〜ん 作れるものは ね。 あとは買ってきたりするんだ。
そうだ〜 週末に一緒に買い出しに行こうね 」
「 え ええ ・・・ ニューイヤーには特別のモノを食べるのね、日本では 」
「 うん。 日本のお正月、紹介するね〜
クリスマスにはいろいろオイシイもの、作ってもらったし♪
」
「 うふふ・・・ あれってフランスでは普通の家庭料理よ? 」
「 え〜〜 そうなんだ? あのケーキ!! 薪みたいなチョコの、美味しかった〜〜
ねえ ・・・ また来年作ってくれる? 」
「 ええ 勿論。 よかった〜〜 オイシイっていってもらえてうれしい! 」
「 え きみのご飯はいつでもオイシイよ〜〜 」
「 ありがと、ジョー。 明日の朝ご飯はジョーの好きなチーズ・オムレツにするわね 」
「 やた〜〜♪ あ ケチャップたくさんかけてね〜〜 」
「 りょうか〜〜い よ。 」
「 じゃ! まず! オヤツにしよ〜〜よ? 」
セピアの瞳がイタズラっぽく笑いかける。
「 は〜いはい 実はね〜〜 オーツ・ビスケットがそろそろ焼き上がります 」
「 うわ〜〜お♪ じゃ ぼく、お茶 淹れるね〜〜
博士はきっと あの・・・なんだっけ ジャム入りのヤツ。 」
「 ロシアン・ティ よ。 苺ジャムがお気に入りなのよ。
わたしはマーマレードが 好きよ。 」
「 よ〜し 両方とも用意しよう。 へへへ〜〜〜 お腹いっぱい食べて
大掃除〜〜 がんばるよ〜〜 」
「 わたしは ― 」
「 えっと 基本、ぼくが外回りを引き受けるから〜 きみはキッチンとかを頼む。
あと・・・風呂場とかトイレ、ガレージはぼくがやる。 」
「 わかったわ。 リビングも引き受けます。 」
「 サンキュ♪ それじゃ〜〜 まず オヤツ♪ 」
「 はいはい あ 博士をお呼びしてね〜 」
「 りょうか〜〜い 」
明るい笑い声が リビングに響く。 お日様きらきら〜〜 いい冬日和である。
コトコトコト ・・・ 鍋がいい音を立てている
ふわ〜〜ん ・・・ ふっくら甘い香りも漂い始めた。
「 ふんふ〜〜ん ・・・ いい匂いねえ ・・・ 豆を甘く煮るって
どんな味?? と思ったけど ・・・ 案外おいしそう・・ 」
フランソワーズは包丁を止め レンジの上から流れてくる温かい香を楽しむ。
「 ふ〜〜〜 こうやって切るの、ムズカシイなあ〜〜
・・・けど こんな風なモノを食べるのねえ・・・ 日本人って ・・・ 」
彼女は まな板の上の細いひも状の大根と人参をながめ ちょびっとため息を漏らした。
お茶タイムを楽しんでから なんだかみょう〜〜にウキウキしているジョーに
先導?されて 地元の商店街に買い物にいった。
「 あら いつもの大型スーパーじゃないの? 」
「 あ〜〜 うん ・・・ こういうお店の方がさ 正月らしくていいかな〜って 」
「 ふうん? あ ら? いつもの八百屋さん ・・・ なにかあったのかしら 」
「 え? ― なにかッて・・・・? いつもと同じ だよね? 」
「 ううん〜〜 あんな白と赤のカーテン、ないわよ?いつも ・・・ 」
「 カーテン??? ・・・ あ あ〜〜 アレはさあ ・・・ なんつ〜か・・・
イイコトがあるよ〜〜って時に使うんだ。 」
「 ふうん? イイコトってなあに。
」
「 え あ ・・・ もうすぐ正月だろ? 」
「 そうだけど ・・・ それがイイコトなの? 」
「 ウン、 こんな歌があってさ〜 〜〜 」
ジョーは案外上手に < も〜いくつねると > を小声で歌った。
「 ・・・ へえ ・・・ 」
「 だからさいろいろ準備するんだ。 え〜と? 大根と京人参、だろ〜
あとはぁ 煮しめ! ごぼう に 人参 に タケノコ レンコンもいるな!
・・・ あとはあ〜 シイタケだろ あ ・・・ 鳥肉もいれたいな〜
そうだ、雑煮用に三つ葉と ユズ・・・ えっと栗きんとんはやっぱ外せないよな〜〜
黒豆は縁起物ですって神父様が言ってたな〜〜 甘いの、オイシイよなあ
ウチで煮てみようか ・・・ あ 裏に 調理方法が書いてある♪ やた♪
それから紅白かまぼこ に〜 あ! 伊達巻!!・・・っと練り製品は魚屋さんかな〜 」
ジョーはごそごそポケットからメモを取りだした。
「 じゃあ さ〜 ぼく 魚屋さんで下見してるから ・・・ 野菜、受け取ってくれる? 」
「 え ええ いいわ。 」
「 それでさ、魚屋で一緒にかまぼこ、選ぼうよ 」
「 かま ぼこ? 」
「 うんこれもさ〜 縁起物だからね〜〜 はずせないな〜〜 あ わさび漬けもいるな〜
あ! 数の子! ゼイタクかなあ・・・ ねえ どう思う? 」
「 え?? あ あの・・・? 」
「 数の子。 勝手に買ったらマズいかなあ 」
「 そんなこと ない と思うけど ・・・? ( かずのこってなに?? ) 」
「 う〜〜ん ・・・ 博士にお願いしみよう、やっぱその方がいいよね?
そうだ 最後に お餅! お供えも買ってこ〜〜〜 あ ぼくが持つからね〜 」
「 え? あ ああ そう? 」
うわ〜〜〜〜〜 ・・・ 009ってこんなにしゃべるわけ??
いっつも皆の後ろで ニコニコしているヒトだと思ってたのよね
それに ・・・ なんでこんなにいろいろ買うわけ???
これ ・・・ 全部 食べるの?
八百屋さんにこんなにいろんな種類のお野菜、 あったのね〜〜
フランソワーズは店頭の賑わいから少し離れ、目を丸くしている。
くわい ゆりね きんときいも ちょろぎ
読めるけれどさっぱり意味の分からない字が あちこちに張ってある。
「 え〜〜〜っとお?? これは あ ! そこの金髪美人!
これで全部だよ〜〜〜 それとおつり 」
少しは顔なじみになった八百屋の主人が 荷物とおつりを渡してくれた。
「 あ ありがとうございます 」
「 まいど♪ あんたら 若いヒト達がさ〜 日本の正月、楽しんでくれると
うれしいよ〜〜 」
「 あ はい ・・・ ありがとうございます 」
フランソワーズは 大きな袋を受け取ると、慌ててジョーの後を追った。
「 え〜〜と・・・? 魚屋さんって言ってたわね〜〜 あ! いた! 」
魚屋の前で 茶色のアタマが動いている。
「 ― ジョー ! 」
「 あ フラン〜〜 八百屋は完了だね? 」
「 ええ これでいいのでしょ。
」
「 ウン、サンキュ。 あ〜とはねえ ここで蒲鉾とか〜 練り製品買って
あとは米屋さんで お供え と 切り餅だな〜 」
「 まだ 買うの??? 」
「 う〜んと・・・? よっし。 これで基礎セットはできるな〜〜 多分。
は〜〜り切っちゃうもんな〜〜〜 」
ジョーは大層ご満悦 … というか 日頃の彼とは別人のようによくしゃべり
どんどん買い物をし、満載になった買い物カートをがらがら引っ張ってゆく。
「 ねえ ・・・ ジョー。 < つくり方 > 知ってるの? 」
彼女はず〜〜っと聞きたかったことを 意を決して尋ねた。
「 あとは〜〜〜 え?? なに? 」
「 あの ・・・ ジョーは おせちりょうり 作ったこと あるの? 」
「 ううん ない。 」
「 え・・・ だ 大丈夫? わたし、日本のお料理、知らないわよ? 」
「 う〜ん 作ったことはないけど、食べたことはあるし〜〜
ほら 黒豆とかは袋の後ろに作り方、書いてあったし ― なんとかなる さ 」
「 そう? 」
そのてんこ盛りの笑顔は いつもと少しも変わらない。セピアの瞳が思いっ切り優しい。
・・・ ちょっとヤバ ・・・いかも。
卵 と ひき肉、 買っておくわ。
玉ねぎとジャガイモの買い置き あるから
全部 失敗してもなんとか ・・・ なるし。
フランソワーズは密かに 緊急事態 への対応に備えていた。
「 よ〜し これで材料はオッケーだな〜〜 それじゃ早速おせち作戦開始〜〜 」
「 あら ジョー そっちの袋 持つわ〜〜 」
ご機嫌でカートを引いてゆく彼を フランソワーズはあわてて追いかけた。
「 あ〜〜 ありがとう! でも 重くない? 」
「 あらあ〜 わたしだって003ですから。 このくらい、なんでもないわ。 」
「 あは そうだよね〜 それじゃ・・・こっちの三つ葉とか あとしめ飾りなんか
もっていってくれる? 」
「 了解。 ・・・ ねえ この国のヒトって新年を迎えるのに
ずいぶんたくさんの用意をするんのね? 」
「 え? あ〜 ・・・ う〜ん なんていうかなア〜
お正月ってば トクベツなんだ〜 お正月は皆仕事、休みにして家族で集まってさ
お雑煮たべたり おせち食べたりして過ごすんだ。 」
「 ふうん ・・・ わたし達の国のクリスマスと似てるわね 」
「 あ そうかも ・・・ ぼく ・・・ 憧れだったんだ ・・・ 」
「 お正月が??? 」
「 ・・・ その ・・・ 家族でおせち料理とか食べるの・・・ が 」
「 じゃあ 今度のお正月は楽しみね。 わたしも < おせちりょうり > に
ワクワクしているの。 」
「 そっか〜〜〜 いい正月になるよねえ〜〜 」
フランソワーズの笑顔に ジョーはますます嬉しそうに、そして幸せそう〜に
楽しそ〜に笑みを浮かべた。
「 ― ジョーはん ・・・ あんた、チャレンジャーやなあ〜 」
いい匂いでいっぱいのキッチンで 張大人はつくづくとこの茶髪ボーイの顔を眺めた。
「 え ・・・ そ そっかな〜〜 」
「 あのなあ〜 褒めてるんとちゃいまっせ〜〜〜
包丁もよう使えへんのに お節料理、ウチでつくる〜〜いうのんは 〜〜 」
「 えへへ ・・・ 食べたことはあるんだ〜 」
「 食べる と つくる、 はぜ〜〜んぜんちゃいまんがな。
料理を甘く見たら あかん。 」
「 ・・・ すいません。 」
「 わかったら あんさんも 手ぇ 動かしなはれ。 きんとんの餡は
ぎょ〜さん練らんと ええ艶でぇへん。 」
「 ハイ・・・ 」
コト コト タタタタ・・・
説教しつつも 張大人の包丁は華麗に翻り、大根と人参が 膾用に細く長く
刻まれてゆく。
「 わ〜〜〜 ・・・ すげ〜〜〜 」
「 ジョーはん! 手ぇ! 」
見とれているジョーに 鋭い叱責が飛ぶ。
「 すいません! 」
「 フランソワーズはん! あんさんも手ぇ 動いてまっか?
かまぼこ やら 伊達巻 やら そろえて切らなあかん。 」
「 は はい ・・・! 」
フランソワーズも まな板の前で真剣な顔つきで包丁を使っている。
「 お節料理いうのんはなあ〜 縁起物やで。
お味はもちろん、見た目ぇもきちんとせなあかん。
紅白かまぼこは同じ大きさに。 伊達巻やら錦卵は崩れんように。 ええな? 」
「 は はい! 」
「 ふ〜〜 ギルモア先生に暮れのご挨拶に伺うてよかったワ。
さ 二人とも〜〜〜 気張ってやぁ〜〜 」
「「 は はい!! 」」
結局 たまたま訪れてくれた大人に手伝ってもらって ― なんとかお重詰めを完了した。
「 ふん なんとかなりましたナ 」
「 張大人〜〜〜 ありがとうございました〜〜 」
「 ホント! ありがとうございました。 大人は日本料理にも詳しいのね。 」
「 フランソワーズはん。 ワテはこのお国でこのお国のヒト達相手にご商売
やらしてもろうてるんやで。 このお国のこと、よう知らんとなんもでけへん。 」
「 ・・・ そう ねえ ・・・ ホント、キレイだわあ 」
「 ウン 芸術品だよ〜〜 」
ジョーもフランソワーズも 溜息をつきつつお重を眺めている。
「 おらおら ぼけっとせんと! お屠蘇の器やら お取り皿やら準備してや。
お箸も祝い箸やで。 あと・・・お雑煮のお椀、磨いてな。 」
「「 は はい 〜〜 ! 」」
「 ふん ・・・ 外回りのお飾りさんは間におうてましたナ。
ほんなら お元日はワテはギルモア先生と注しす注されつ・・・楽しみますよって
あんさんらは きっちり初詣、行ってきなはれ。 」
「「 は はい〜〜 」」
ドン ドン ・・・ ガタン。
「 お〜〜っと っと ・・・ 」
リビングのドアが開き 博士がなにやら大荷物を抱えて入ってきた。
「 あれ〜〜 ギルモア先生 どないしはったん? 」
「 あ ぼくが持ちます〜〜 」
ジョーがダッシュで戸口まで行く。
「 いや その ・・・ あ〜 気をつけてもってくれるとうれしいんじゃが 」
「 あ はい え〜と? 」
「 あ あ〜〜 そっと運んでおくれ〜〜 」
「 はい これ ・・・ 博士の盆栽ですよね? 」
「 うむ これはな〜 ワシの苦心の作なんじゃよ〜〜 」
「 えっと ・・・ どこに置きますか? 窓の側とか ・・・ 」
「 ジョーはん。 これはギルモア先生自慢の御作やで?
このお部屋には床の間ちゅうもんがあらしまへんよって 暖炉の上がよろし。 」
「 おお 大人〜〜 ありがとう ・・・ ジョー、そこにそっと置いておくれ。 」
「 はい。 これでいいですか 」
ゴトン。 素焼きの鉢に根を張った松が暖炉の上に登った。
「 わあ すごいなあ〜 これ・・・ ホンモノですよねえ? 」
「 ははは そうじゃよ コズミ君に手ほどきを受けてなぁ すっかりはまってしまったよ 」
「 北のベランダにたくさん鉢が置いてありますわよね。 小さいけど ・・・
これ 海岸通りに生えてるのと同じ樹 ・・・? 」
「 そうなんじゃよ。 盆栽棚を掃除してな、自慢の一品をもってきた。
皆と一緒に迎える新年を飾ろうと思ってな。 」
「 いいですわ〜〜 ステキ! 」
「 ウチの中にも門松があるみたいだな〜〜 すご〜〜い〜〜〜 」
「 先生の御丹精やで、皆で愛でましょなあ〜 」
「 あ! いっけね〜〜 門松〜〜 植木屋さん、行ってくるね! 」
「 まあ まだ必要なものがあるの? 」
「 ウン! あ フラン〜〜〜 黒豆の火加減、頼むね〜〜 」
「 了解 」
「 じゃ ひとっ走り行ってきます! 」
ジョーは マフラーを巻くと玄関から駆けだしていった。
「 ほっほ・・・ ま これで準備万端やな〜〜 安生 新年を迎えまひょ。 」
「 そうじゃなあ 」
「 ギルモア先生、 ええ御酒がありまんのや。 お着き合いお願いしまっせ〜 」
「 おお〜〜 喜んで。 実はなあ〜 頂きモノのカラスミがあるんじゃよ 」
「 ほっほ〜〜〜 ええですなあ〜〜 お若い方々は出かけはるのんがええ 」
「 そうじゃなあ 」
年配者はに〜〜んまり ・・・ 新年はもう目の前 だ。
ご〜〜〜ん ご〜〜〜ん ご〜〜〜ん ・・・
夜気を通し いつもより近く、はっきりと鐘の音が聞こえてくる。
「 これが ・・・ じょやのかね なの? 」
「 ウン。 ほら、海岸通りから少し山の方に登ったとこにお寺さんがあるだろ? 」
「 ・・・ あ あそこね? 墓地とかあるとこ 」
「 そうそう あそこのお寺の鐘の音なんだ。 108回 撞くんだ。 」
「 108回も?? 」
「 ウン。 108コの煩悩を祓うんだって。 」
「 ぼんのう?? 」
「 あ〜〜〜 う〜〜〜 悩み ってか そんなモンらしいけど? 」
「 ?? ・・・でも なんか・・・ いい音ね。 じ〜〜んと心に響くわ 」
「 だよね〜〜 あ 夜明け前にさ出かける用意、しておいてね。
寒いからしっかり着込んで さ。 」
「 え どこか ・・・ 行くの?? 」
「 初日の出 拝んでから初詣行こうよ。 ほら 海岸通りの外れに神社があるだろう? 」
「 じんじゃ? ・・・ あ あの おっきな門みたいなのがあるところね 」
「 ウン。 それでさ〜 新年のごミサに出席しよう。 」
「 ??? ジョーってば 宗教めぐり が趣味なの? 」
「 え ・・・ 別に ・・・ 日本人的に普通だけど・・・? 」
「 日本人って ― 皆 宗教が趣味なの?? 」
「 ?? え ・・・ これ 普通だと思うけどなあ ・・・
ね ともかく、日本のお正月、楽しもうよ〜〜 お節料理も さ! 」
「 ええ そうね。 」
― そして。
大晦日には 二人は お寺の除夜の鐘に耳を澄ましてから、
元旦には 地元神社に初詣した。
その帰りにちゃんと新年のミサに出席したのだった。
・・・この国って。 暮らしやすくて楽しいけど ・・・
ほ〜〜〜んと なんでもかんでもあり、なのかしら ・・・?
金髪碧眼のパリジェンヌは 首を傾げつつ セピアの髪の青年と歩き始めるのだった。
― そして 十数年後
「 ほらほらしっかり大掃除しなくちゃだめでしょう?
すぴかさん 窓拭き、お願いね。 すばるくん、キッチン磨いてね。 」
「「 へ〜〜い 」」
「 え〜と? お節料理は ・・・っと 準備オッケーね。 今年は自信作よ♪
お餅もちゃんと搗いてもらったし。 」
「 ・・・ アタシ〜〜 お節料理ってさあ〜〜 あんまし ・・・ 」
「 僕ぅ〜〜 はんばーぐ とか食いたいんだけど〜〜 」
「 お正月はお節料理を家族みんなで頂きましょう。 いいわね? 」
「「 へ〜〜〜い 」」
「 ジョー。 門松、ちゃんと立ってる? 風が強かったから大丈夫かしら。 」
「 あ〜 植木屋さんに頼んだから大丈夫だよ きっと 」
「 確認してきてくださる? 新年は気持ちよく迎えたいわ。 」
「 へいへい ・・・ 」
「 皆 元旦には初日の出、拝んでから初詣ですよ。 帰りに新年のごミサに参加しましょ 」
「「「 へ〜〜い ・・・ フラン ・ おか〜さん って 本当にフランス人? 」」」
あら だって。 お正月は きちんとしなくちゃ
そう ― もういくつ寝なくても お正月 なのだ!
****************************** Fin. ********************************
Last updated : 12,29,2015.
index
*************** ひと言 ************
なんてことないハナシですが・・・・
まあこの時期ですので ― こりゃどう持ても平ゼロ・カプ ですな
どうぞ 皆さま よい御年をお迎えくださいませ <m(__)m>