『 降る雪に ― (4) ― 』
♪♪♪ 〜〜〜 ♪♪ ♪〜〜〜
優しい音が その巧みな指使いから零れ溢れ流れてゆく。
フランソワーズはピアノの近くまで寄って 鍵盤の上を自在に滑る手を
それこそ 穴が開くほど見つめていた。
手袋をした 手を。 長いしなやかな 指を。
「 ・・・ ・・・ 」
言葉をかけるべきではないし、そもそも話しかける言葉がみつからない。
それに 慣れ親しんだ演奏を確かめたい という気持ちを抑えることも
できなかったのだ。
「 フロイライン ? 俺のピアノ お気にめしませんか 」
「 ・・・え 」
「 ずっと側にいるのに ― 楽しい雰囲気がない。
俺の演奏が 原因かと 」
「 そ そんなこと ないです!
わたし すごくすごくファンなんです。 」
「 それはありがとう 」
「 それに ・・・ 」
「 ? 」
フランソワーズは す・・っと息を吸い気持ちを整えた。
「 あの それに。 フィアンセさんとの合奏が すごく・・・
ステキで ・・・ あの 先ほど聞きましたけど 」
「 ・・・ やあ ・・・ ありがとう! 」
ピアニスト氏は ソファに座っている彼女へ低い声で呼びかけた。
「 ・・・ 」
? なんと言ったの・・・?
二人の間の 愛称かしら
あ。 彼女の名前 ― ここでは聞いてないわね
なぜ?
フランソワーズは 自然に耳を欹ててしまうのだが ― なにも解らない。
「 はい? 」
ヴァイオリニスト嬢は 愛器を手にしてしずかに寄ってきた。
「 こちらのフロイラインが 俺達の合奏をご所望だ 」
「 え!! あ そ そんな・・・ 」
フランソワーズは慌てて手を振ったが 笑顔で却下された。
「 なにを弾こうか 」
「 そう ねえ ・・・ あら こちらの方は仏蘭西の方ね?
言葉のアクセントが 」
「 ん ・・・ そうか そうだなあ 失礼しました
マドモアゼル。 」
「 あ・・・ い いえ ・・・ 」
「 マドモアゼル? なにかご希望の曲はおありですの? 」
「 ・・ え あ あのう〜〜 」
「 チャイコフスキー ですか? 『 白鳥〜 』 や 『 眠り〜 』
を 弾きましょうか 」
「 あら マドモアゼルは ・・・ バレリーナさん? 」
「 多分 ― 姿勢と歩き方が な そうでしょう? 」
「 は はい ・・・ よくおわかりですね ・・・
あ あのう あのう〜〜 お二人がお好きな曲を
お願いします 」
フランソワーズは 必死で二人の会話に割り込み、なんとか希望を述べた。
そして そそくさ〜〜〜とソファに退散した。
― 二人の楽しい時間を 邪魔しないように。
「 そうですか? それじゃあ きみのリクエストは 」
「 そう ねえ ・・・ 久々に ベートーベンでも? 」
「 いいな それでは 」
二人は ほんの数分、顔を寄せ合い打合せをしていたが
すぐに 演奏の位置についた。
「 ・・・ いいか? 」
「 いつでも どうぞ 」
「 了解〜 」
トントントン ・・ ピアニスト氏は床を踏み鳴らした。
?? なぜ・・・?
彼に そんなクセ、なかったわよね?
ちらっと共演奏者さんと視線 合わせて
すぐに始めていたわ ・・・
フランソワーズは少し怪訝に思いつつも 演奏の開始にわくわくしていた。
コンコン。 オープンなドアをノックするヒトがいる。
「 お? ちょいとストップだ。 ヴィオラ氏もやってきたぞ 」
「 そうなの? あら素敵〜〜〜 」
「 やあ ・・・ まぜてくれるかい 」
くしゃくしゃした金髪の男性が 愛器を抱えてやってきた。
「 まあ ミスター〜〜 どうぞ どうぞ。
今から始めるところでしたのよ? ね ? 」
「 ああ ようこそ 」
「 よろしくお願いします 」
ヴィオラ氏は ピアニスト氏と握手をし ヴァイオリニスト嬢の手をとり
軽くキスをした。
「 さて なにを・・・? 」
「 ベートーベンの 〜〜〜 」
二言 三言の会話の後 三人はそれぞれのポジションについた。
「 では ― 」
トントントン −−−
ピアニスト氏の靴音を合図に饗宴は 始まった。
カチャ ・・・・ カチャン。
香高いお茶のワゴンが やってきた。
「 皆さま どうぞ ・・・ 」
演奏を堪能した後 城の音楽室に集まった人々は 奏者も観客も
供にティー ・ テーブルを囲んだ。
「 ・・・ いい香ですね 」
「 このスコーンは マーサさんのですね 美味しいわ 」
「 ん〜〜 いつもながら美味しいですな 」
フランソワーズは ここでは何気ない世間話をする習慣なのかと感じた。
演奏者たちは とてもリラックスし明るい雰囲気だったから。
そりゃそうよね ・・・
ここは 社交の場 だし。
それにこんなに気持ちいい時間なんですもの
暗い話題は 持ち出すべきじゃないわ
心地よい調べ を満喫した後には 美味しいお茶やスウィーツが
微笑の会話がよく似合う。
ただの聴衆である自分は 少なくともこの雰囲気を壊してはならない。
しかし ― 穏やかな表情で ごく普通の口調で
彼らは < 自分に起こったこと > を語り始めた。
「 俺の祖国は 二つに分断されていて ―
彼女と共に亡命しようとして 失敗したのです。
事故で 大破した車の中から瀕死の我々を助けてくれたのが ―
ここの城主様の使いでした。 」
ピアニスト氏は 自分からそんなハナシを切り出した。
・・・ へえ ・・・?
アルベルト、こんな風に話すの?
あまり聞かれたくはないでしょうに
それとも ここでは
< 思い出したくない過去 > ではないの?
フランソワーズは不思議に思いつつも 耳を傾ける。
ヴァイオリニスト嬢が ごく自然に続ける。
「 彼は ― その事故で左手を失ったのですが ―
城主様が 代わりの手 を作ってくださって ・・・・
こうして また演奏できることになりました。
どんなアクシデントも この手から音楽を奪うことはできません。
この魔法の指は どんな時でも易々と音を生み出すのです 」
短い金髪が黄金のティアラにも見え、彼女は柔らかく微笑む。
「 ・・・・ 」
フランソワーズもつられて 唇に笑みがのぼってくる。
「 私には 見えませんけれど ― ちゃんとわかります
彼の指は ― 神様からの贈り物ですわ 」
「 ― え ・・・? 」
彼女は まじまじとその女性の顔を見てしまった。
大きな瞳が 優しく微笑んでいる。
きらきら光る瞳は いつだって愛するヒトに向けられているのだ。
見えて ない・・・?
― あ。
すこし焦点がズレているな、と感じていた。
彼女のハシバミ色の瞳は 確かにこちらに向けられてはいるのだが。
カチャン。 カップを置くとピアニスト氏は淡々と語る。
「 見えていますよ、ちゃんと。 彼女はいつも側にいてくれます。
それに 音を奏でるには 」
「 そうです、生命と引き換えに 彼女は視力を失いました。
しかし ― この天才ヴァイオリニストには なんの障害でもありません 」
ヴィオラ氏が 確信に満ちた声で言う。
「 僕も 禁じられていた亡命を試み ― 見つかって 蜂の巣 です。
遺棄されていた虫の息の僕を 城主様が拾ってくれた ・・・ 」
す ・・・ 彼は袖を腕まくり 造りモノの腕を見せた。
! これは ・・・ すごいわ!
見かけもホンモノにとても近いし・・・・
筋も筋肉も 生身 と同じに作られているわ
サイボーグとは少し違うのかしら
でも これは ― この腕は
もう完全にこのヒトのものになっている !
フランソワーズは失礼とは思いつつも 彼の腕を < 視た >
そんな彼女の視線を感じてかヴィオラ氏は それは明るい声音で
穏やかに話す。
「 新しい腕です、 城主さまが与えてくれました。
そしてまた 僕は ― 音を紡ぎ出すことができるのです。 」
三人の音楽家たちは 穏やかな笑みを交わしあう。
「 ― そう なんですか ・・・
ああ 皆さまの演奏は本当に素晴らしかったです 」
フランソワーズは 心からの感想を述べた。
亡命時の事故で アルベルトは手を 彼女は視力を 失った。
やはり 腕を失った音楽家もいる。
城主さまが ― 彼らの命を救ってくれた。
そして 再び 音を奏でるチャンスを 与えてくれたのだ。
孤独に生きてきた若者には 違う人生 を用意した 城主さま。
茶髪の彼は 平凡だが彼が焦がれていた日々を 幸せに生きている。
そう ― 彼らは ここの住人となり生きているのだ
幸せに。 とても。
ここに居れば 望みが適う の?
ここに居ると 夢見た人生 を送れるの?
ここに居たほうが
ここで生きる方が
誰もが 幸せ ・・・ なの?
「 ・・・ どうぞ 」
メイドさんが 新しいお茶ポットを持ってきてくれた。
「 あ ありがとうございます。 こちらのお茶は
本当に美味しいですね 」
「 ありがとうございます 皆さま どうぞ ・・・ 」
「 あら 嬉しいわ とても咽喉が乾いていましたの。 」
「 ふふふ 珍しくおしゃべりをたくさんしたからな
あ 俺がやりますよ 」
アルベルトは ポットを受け取ると 慎重に皆のカップに
注いで回る。
「 サンキュ ・・・ うん ここのお茶はいいね 」
「 英吉利人にお茶を褒められたぞ? これは名誉なことだなあ 」
「 あは どんな名誉だか 〜〜 」
「 まあ うふふふ 」
明るい笑い声が あがる ・・・ 皆 笑顔 なのだ。
「 ・・・・ 」
フランソワーズも カップの向うの景色に笑みを誘われている。
先ほどから < 視力 > と < 聴力 > を on にしてみるのだが
断続的にしか 作動しない。
彼らの 楽しそうな表情や笑い声 は たしかに本物だ。
そして −
〜〜〜〜 あ 視えた!
・・・ アルベルトの手は ・・・
ちゃんと 004の手 だわ。
マシンガンだって 今すぐに撃てる。
ただ 気付いていないんだわ ・・・
自分の手が マシンガンだ、ということに。
ミスタ・ヴィオラ の腕は ・・・
ああ 本当に普通の医療用の義腕だわ。
・・・ うわあ ものすごく精巧・・・
この腕だからこそ あの演奏が可能なのね
ヴァイオリニスト嬢・・・
眼 ・・・
あら どこにも異常はない・・・わ
見よう としていない だけかも
いい香の湯気の間から 彼女は彼らをじっくりと観察していた。
わんわんわん 〜〜〜 あははは〜〜 こっちだよぉ
開け放たれた窓から 陽気な声が流れてくる。 わんこの吠え声も楽しそうだ。
「 ・・・あ ジョーの声・・・? 」
思わず 眼と耳 を 外に向けた。
「 くびくろ〜〜 行くぞぉ〜〜 さあ 西の原っぱへ出発〜 」
わんわん わん〜〜〜 元気な声と笑顔が 二つ、 戯れている。
「 ジョーぉ〜〜 お弁当はちゃんと持ったかい〜〜 」
「 うん 母さん。 しっかりリュックに詰めた〜 」
「 クビクロの分も入ってるからね〜〜 分けておやり 」
「 もっちろ〜〜ん ありがと 母さん 」
「 仕事、 しっかりね! 晩ご飯はジョーの好きなシチューだからね〜 」
「 わあい♪ そんじゃ いってきまあす〜〜 」
「 いっておいで! ああ 水車小屋のネリーによろしく 」
「 え! 母さんってば〜〜 どうして知ってるのさ 」
「 どうしてって ・・・ ジョー お前、寝言で言ってたよう 」
「 え・・・ やっべ〜〜〜〜〜 」
「 ま オンナノコには優しくしておやりよ 」
「 ・・・う うん ・・・ イッテキマス 」
え・・・ 水車小屋のネリー って 誰??
フランソワーズは思わず 視力をアップしてしまったが・・・
見えるのは 彼の穏やかな笑顔 だけだった。
わんわんわん〜〜 ザザザ −−− めえ〜めえめえ〜〜
羊小屋のジョー は 茶色毛の犬と羊の群れを動かし始めている。
彼の背では リュックから母親の焼いたパンが顔をのぞかせる。
頑丈そうなリュックはおそらく 手縫い。
彼の着ているごろごろしたベストも 母の手編み なのだろう。
傍らに従うわんこも 濃い臙脂色の毛糸の首輪をしている。
ジョーの そして 変わった毛色のわんこの 得意気な顔が
もうその声から想像できる。
もう一度彼の笑顔が見たくて 必死に透視の精度を上げた。
茶髪の少年が 笑っている 朗かに笑っている
茶色毛の犬も もう全身で笑っている
「 ・・・ ジョー 笑ってる ・・・
まあ ジョーって あんなにシアワセそう〜に 楽しそうに笑うの ?
こんなアナタを 初めて見る ・・・ 」
ぽろ ぽろぽろ ・・・
003の眼で観察しつつ フランソワーズの瞳からは涙がこぼれ落ちる。
「 ・・・ いけないわ ・・・ 皆 楽しんでいるのに 」
テイータイムなのだ。 俯いてそっとハンカチを使う。
三人の音楽家たちの 音楽談義は 盛り上がっているらしい。
愛する人と 気の合う友人と 生き甲斐にしているコトについて
語り合うのは なんという至福の時なのだろうか ・・・
「 ・・・ 羨ましいな ・・・
きっと こんな時間がずっと続いてほしい・・と願っているでしょうね 」
コトン。 そう・・・っ とカップをテーブルに置く。
「 ここは − ここに居るひとにとっては 最高の場所 なのね 」
皆 みんな 笑っているのだ 幸せそうに 嬉しそうに。
ジョーも アルベルトも 夢みていた世界 望んでいた世界 に
引きこまれ 幸せなひと時を堪能しているのだ。
なんの疑いも持たずに。 サイボーグであることも全く忘れて。
わたし ・・・ は ?
・・・ わたしは どうしたらいいの
わたしだけ どうして 003 なの??
― ここに居れば 会える って言われたわ
わたしも 望んでいた世界 に
わたしも 会いたいヒト に
わたしも ― 幸せ ・・・ ほしい !
もう 涙が止まらない。 絹のハンカチはびしょびしょになっている。
「 ・・・ あ ちょっと失礼します ・・・ 」
できるだけ自然な声音で 伝えた。
彼女はそっとお茶の席から 離れた。
「 ・・・? 」
「 ・・・ 」
アルベルトは 怪訝な視線を向けたが 婚約者嬢がそっと彼の腕に
手を置いて かすかに首を振った。
「 ・・・ 」
彼も すぐに朗かな様子に戻り 音楽談義を続けるのだった。
トン トントン −−− 階段をそうっと降りて庭園に出た。
掃除を終えた庭には 白だの茶色だのの鶏たちがのんびりと
青草やらエサをついばんでいる。
「 ・・・ ジョーは もう出発したのかしら 」
温かい日差しが満ちあふれ 全てのものが温かい。
「 ・・・・ 」
必死に隠していた涙が また堰を切って溢れてきた。
・・・ あ ああ ・・・
淋しい ・・・ 淋しいわ ・・・
ジョー ・・・ あなたに会いたい
ジョー ジョー 〜〜〜
裏庭の隅に屈みこみ 彼女は両手で顔を覆っていた。
「 ― あのう ・・・ 」
とつぜん アタマの上から声が降ってきた。
「 ・・・? 」
「 御客人のお嬢さん? あのう 大丈夫ですか? 」
そうっと顔をあげれば 茶色の瞳が覗きこんでいた。
「 ・・・あ ・・・ ジョー ・・・さん 」
「 まだ気分 ワルイですか 」
「 ・・・ あ いえ もう大丈夫 ・・・
さっきお母様のプディング、いただきましたから 」
「 あは そりゃよかった〜〜〜
ぼく なんか さ ・・・ お嬢さん とても淋しそうで
気になって ・・・ 」
「 ・・・ え ・・・ あの あなたの お仕事は 」
「 あ 羊の群れはクビクロが見ているから大丈夫さ 」
「 そ そう・・・ 」
「 あの ― お嬢さん。 ディナーにはぼくの母さんのプディングが
でますよ〜 それ食べて元気になってください 」
「 まあ そうなの? 」
「 ウン。 この城の御客さんたちが集まるから
いろ〜んなヒトに会えるよ〜〜 じゃあ ね 」
「 ・・・あ いってらっしゃい ・・・ 」
笑って〜〜〜 お嬢さん〜〜〜〜 !!
羊小屋のジョー は ぶんぶん手を振って駆けていってしまった。
ジョー ・・・・
フランソワーズは 愛しいはずのヒトを見送るしかなかった。
バサ −−−−
フラソソワーズは あの豪華な寝台に倒れ込むみたいに 飛び込んだ。
デイナーの誘いはちゃんとあったけれど 辞退してしまった。
お会いになりたい方に 会えますよ?
客室付きの婦人はそんな風に言ってくれた。
「 どうぞ お気が向かれましたら・・・
いつでも 一階の 大ダイニング・ルームにお越しくださいませ
皆さま いらっしゃいますので ・・・ 」
彼女は丁寧に会釈をすると 戻っていった。
「 ・・・ 行きたい わ 行けば ― 会える?
行けば 幸せの世界 に入れる ・・・?
でも。 それは ― 出来ないって思うの 」
揺れる心を忘れるために 彼女はベッドに倒れ込み無理矢理 目を瞑った。
そして たちまち眠りに落ち込んでいった。
わんわんわん〜〜〜〜〜 わん!
どのくらい眠ったのだろう ― 犬の声で目が覚めた。
「 ・・・ う ・・・ もう 朝 ・・・?
あ あの声は クビクロ ? そうね! 」
窓のすぐ下まで犬がやってきたらしい。
「 お〜い どうしたんだい? そこは客用寝室だから騒いだらだめだよぉ
お客さんを 起こしてしまうよ 」
あ ジョーの声だわ !!
ガタン! 彼女はもう夢中で窓に駆け寄った。
片手で鎧戸を押し空け ― 身を乗り出した。
「 ジョー 〜〜〜〜〜〜!!! わたし ここにいるわ! 」
「 へ?? あ ・・・ う わあ〜〜〜〜 あの その ・・・ 」
なにやら牧歌的な服装の茶髪ボーイは ひどく顔を赤らめ・・・
前髪で顔を隠してしまった。
「 ジョー おはよう〜〜 あのねえ 」
「 ・・・ あ あのう お客様〜〜 わんこが騒いでごめんなさい。
あの その 起こすつもり、なかったんですう 」
「 え? ああ わんちゃんのせいではなくってよ?
ねえ そこへ出ていっていい? 昨日の羊さんたちはどうしたの? 」
「 あ あの ・・・ お嬢さん ・・・
あのう〜〜 外に出るなら ちゃんと ・・ そのう 服を着たほうが 」
彼は 俯いたきり全然こちらを見てくれないのだ。
ただ 彼の足元では茶色毛の犬が ( 首の周りだけ黒い変わった毛色だ )
こちらを見上げ、尻尾をぱたぱた振っている。
「 ?? ― え 服 ・・・? 」
フランソワーズは 初めて自分自身を 眺めた
! や だ 〜〜〜〜〜〜 !
そうよ 昨夜 とにかく下着を洗って
シルクのシーツを巻きつけて 寝たのよね
・・・ なんとか胸元は 隠れてた わ
「 し シツレイしました。 あの! すぐに行くから 〜〜
ちゃんと服 着て。 だから そこで待ってて ジョー ! 」
彼は ずっと俯いたままだ。
「 あ あのう〜〜〜 聞いても いいですか 」
「 ?? なあに 」
「 お嬢さん ・・・ なんで ぼくの名前 知ってるのですか 」
え ・・・?
あ れ。 これって。 この場面って。
昨日の朝 と同じじゃない?
カタカタカタ −−− 底知れない恐怖で身体が震えてきた。
こんなに明るい朝 なのに。
!!! ううん この朝は
昨日の朝 と同じ・・・ 昨日の朝のリピート ??
青ざめている彼女にはまったくお構いなしに
なんの屈託もない、明るい茶色の瞳が やっとこちらを見上げてきた。
・・・ そう 昨日の朝と同じに。 そして・・・
「 お嬢さ〜〜ん 」
「 あの あなた ― ジョー でしょう? 」
「 はい。 御客さま ぼくの名前は 羊小屋のジョー ですが・・・」
「 え なあに?? ひつじ・・・? 」
「 はい。 羊小屋のジョー です。 この、相棒のクビクロと一緒に
羊小屋で暮らしてます。 あ 百匹くらいの羊も一緒です〜〜 」
「 そ そうなの ≪ ジョー? 芝居 してるの? ≫ 」
窓辺に立ち ごく普通の表情で脳波通信を飛ばしてみたが ―
返信は 無かった。
? どうしたの・・??
受信済み も返ってこない・・・
! そもそも 通信を開いてない わ
「 − 今 そこにゆくから! 待ってて! 」
シルクのシーツを巻き直し 振り向いた途端に ―
「 お 御客様〜〜 お嬢様〜〜〜 そ その恰好で・・・
さあ こちらへ 」
ばさっ! 甲高い声とともにシルクの上掛けがアタマに飛んできた。
「 窓辺になど ・・・ お庭に居る人たちに見えてしまいます〜〜
どうぞ どうぞ こちらへ!! 」
「 え ・・・あ あ〜〜〜 」
フランソワーズは 部屋の奥へ引き戻され ― 隣室に引っ張って
行かれた。
「 あ あのう〜〜〜 」
「 どうぞ お召し替えを。 」
中年の婦人がアタマを下げている。
裾の長い服装で どうやら ・・・ この邸の使用人と思われる。
「 あの ・・・ わたし ・・・ 」
「 ええと ・・・ こちらのドレスを御召しくださいますか ? 」
目の前のドレスは 確かに昨日、着ていたもの・・・
でも どう見ても 仕立て降ろしの新品なのだ。
やっぱり。
これって 昨日の朝のリピート だわ。
羊小屋のジョー も この使用人さん も
わたしに 今朝 初めて会っている???
とにかくちゃんと身仕舞をして 現在の状況を確かめなければ ―
フランソワーズは ゆっくりと使用人の婦人に向き合った。
「 わかりました。 着替えますので手伝ってくださいますか 」
「 はい どうぞこちらへ・・・ 」
調べなくちゃ。
003 しっかりするのよ!
アルベルトは??
彼もまた 同じ一日を繰り返す の・・・?
いったい ここは なんなの???
Last updated : 10.04.2022.
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********* 途中ですが
短くて ごめんなさい ・・・・
くたばっていて 終われませんでした <m(__)m>