『 降る雪に ― (1) ― 』
ビュウウ −−−−−−− ・・・・
風というものは 時には怪獣の咆哮みたいに呻ったりするものだ。
季節や地域によっては 癒しになり 慰めになり ・・・
灼熱の地では 命をまもることもあるだろう。
今 二重窓の外では 白い嵐が吹き荒れている。
ビビビビビ・・・ ビビビ ・・・・
分厚いはずの、それも二重になっているガラスが 小刻みに震えているのだ。
「 ・・・・ うひゃ 〜〜 」
そっと 指で触れてみれば その表面は感覚がなくなるほどに冷え切っていた。
「 すっげ〜〜〜 」
「 ? 気をつけて ジョー。 窓に触ってはダメよ。
指がくっついてしまうわ 」
部屋の奥、 暖炉の前から柔らかい声がとんできた。
「 ・・・ あ ・・・ うん ・・・
くっつかないけど めっちゃ冷えてる ・・・ 」
「 あ? ああ ・・・ そうねえ 人工皮膚ならくっつかない かも 」
「 いやあ〜 ちょっとはくっついた・・・ いてて・・・
・・・ うん 破けてないよ 」
「 − お前さん。 本格的な北国は初めてか 」
やはり部屋の奥から 不愛想な声が届く。
「 うん。 チビの頃ね 一回だけ慈善団体の企画でスキーに
連れていってもらったこと、あるけど ・・・ 」
「 ふん。 日本のスキー場の比じゃあねえからな ここいらの寒さは 」
「 そうねえ 北ドイツの冬は ― ああ 炎も氷りそうよ 」
「 ふふん 上手いこと、言うな 」
「 だって ・・・ わたし シャモニーでスキーしたことあるけど
ここの寒さの比じゃあなかったわ 」
すご ・・・い ・・・
彼女は窓辺にまで寄ってきて カーテンの隙間から外を眺めた。
「 ・・・ 白いカーテンねえ なにも見えない・・・ 」
「 ウン ・・・ 」
「 あ ジョーは南極に行ったこと、あるのでしょう? 」
「 ああ ・・・でもこんな風に吹雪いてなかったんだ 」
「 そうなの ・・・ ふふふ〜〜 でもね〜〜? アルベルト? 」
「 ふふん こんな中だから こそ スキーを楽しもうじゃないか。
< 普通のニンゲン > は無理でも俺達なら な 」
「 うふふふ 〜〜 わたし ちゃ〜〜〜んと 日本の ほかろん
い〜〜〜っぱい貼ってきたし?
それにね 一番下に防護服を着ておけば 全然平気よね 」
「 まあ 油断は禁物だ。 上に一応 ウィンド・ブレーカーを
羽織ってゆこう。 」
「 博士、特製の ね? ねえ いつ出発する? 」
「 もう少し ― この嵐が止んでからにしよう。
いくら 我々でも 自然の脅威には敬意を表するほうがいい 」
「 そうね ・・・ ジョー? どうかしたの 」
「 いやあ ・・・ ぼく 初めてだから なんか ドキドキ 」
「 ふふふ きっと夢中になるわよ 」
「 ゲレンデ・スキーじゃ 味わえないぞ。 」
「 へえ・・・ アルベルト すごく乗り気だね 」
「 ふふん ・・・ やはりなあ 欧州の冬は いい 」
「 ・・・ 湘南育ちには さむいよ〜〜〜〜 」
「 あらあ 一番下に防護服、着てるでしょう? 」
「 もちろん〜〜 でも さむい ・・・
フラン〜〜〜 ほかろん、余分なの持ってない? 」
「 あら 町のドラッグ・ストアに売っているわよ? このホテルの中にも
売店 あるし 」
「 − 性能 ワルイんだもん。 12時間高温き〜ぷ は
やっぱり日本製にかぎる〜〜 」
「 なあんだあ? そんなモン、 滑りだせば不要になるさ。
吹雪が止んだら 早速出発するぞ〜〜 」
「 了解〜〜♪ 」
「 ・・・ わ かったデス ・・・ ひえ〜〜〜 」
ここは北ドイツ。 森を間近に控えた老舗のホテルの一室。
外は猛吹雪が呻り声をあげているが 堅牢な石造りのこの建物の中は
実に心地よい。
部屋の隅には建物と同様に年期の入ったヒーターが しかしがっつりと働き
快適な暖気を提供している。
「 ・・・ ああ あったかいなあ〜〜 」
ジョーは またすこし椅子をその古色蒼然たるヒーターに近づけた。
「 おい。 近寄りすぎてお前に前髪、焦がすなよ 」
「 うふふ 〜〜 ジョーってば 猫さんみたいねえ 」
「 ― いいじゃん〜〜 だってぼく、寒いんだもん 」
欧州人の仲間にからかわれつつ じゃぱにーず・ぼ〜いは 背を丸める。
だってさ ―
ほ・・・っんと 寒い ・・・
なんていうのかなあ
日本と寒さの質が違うってか ?
そりゃ ぼくは湘南育ちだから仕方ないけど・・・
こう〜〜 ずし〜〜んと重いんだ
このホテルみたいに さ
ちょこっと着込んだくらいじゃ
・・・ 勝てない って気分★
ジョーは その必要などないのに、着こんでいるフリースのブルゾンの
襟元をしっかりと掻き合わせる。
ああ ダウン・ジャケットを着た方がいいかも・・と思い始めていた。
「 ふふふ あのね じっとしていると余計に寒いわよ。
大丈夫 滑り始めれば楽しくて ― もう汗びっしょりになるわ 」
「 フラン〜〜 そんなにスキー 上手なんだ? 」
「 ううん わたしは 普通 かなあ 巧いのはアルベルトよ 」
「 ・・・ へえ 」
「 だからね ジョーを誘ったの。
本格的な 山スキ― 楽しみましょうよ 」
「 ・・・ ぼく そんなに経験もないし〜〜〜 」
「 ま 習うより慣れろってことだ。 この辺りの地形には
詳しいから安心しろ 」
「 きゃ〜〜 ステキ♪ あのね あのね〜〜
真っ白なスキー・ウェア 持ってきたのぉ〜〜 」
「 雪の精霊になっちまうぞ 」
「 うふふふ ・・・ メルシ〜〜〜 お世辞でも嬉しいわ 」
「 ・・・・ 」
ふう ・・・ ジョーはかなり不安なため息だ。
冬季休暇に 三人はスキー旅行に来ているのだ。
生憎の吹雪 ・・・ 彼らは小康状態になるまで ホテルで快適ライフを
楽しんでいる。
「 ・・・ なんかさ なんでも < 重い > よね 」
「 重い?? なにが 」
「 あ〜〜 寒さとか 雰囲気とか。 そうそう 食器もさあ 」
「 あらあ 上等な陶器は 本当に薄くて軽いわ? 」
「 え ・・・ そうなの? 」
「 ははは お前さんがいじれるのは 大衆向きのモノだからさ。 」
「 そうねえ チビの頃は 普通のお家で使う食器は
分厚くて重かったわ 」
「 ふうん ・・・ でも いい感じだよね 手触りとか・・・
ぼく プラスチックのとかよりずっと好きさ 」
「 それはそうね 」
コトン。 彼女は どっしりしたカップを置いた。
「 さあ 今日のコースを説明しておくぞ 」
「 はあい 」
「 お〜っと 」
三人は 暖炉の側に集まった。
ご〜〜〜〜 ぱちぱちぱち ・・・
ホンモノの炎がおどり ホンモノの暖気が三人の頬を照らす。
「 ・・・で ここを直進 ― おい? 聞いてるか ジョー! 」
「 ・・・ え? あ〜〜〜 ごめ・・・ 」
「 やだあ ジョー。 寝てたの? 」
「 ごめ〜〜ん だってさあ 暖炉の火って ・・・ 良すぎ(^^♪
ぼくさ こう・・・ ホンモノの火で温まるって初めてで 」
「 おいおい 戦闘中の野営では焚火しただろうが 」
「 あ〜 でもさ ああいう時は 温まる って感じじゃないよね? 」
「 そうかもしれないわね 日本のお家の暖炉は ストーブ用の
装飾品だしね 」
「 あそこで火を焚いたら ・・・ 通報される 」
「 あはは そうだよねえ〜〜
ああ でも・・・ 火ってこんなに暖かくて ほっこり気分だよね
こう〜〜 見てるだけど癒されるなあ 」
「 ふふふ ・・・ ジョー あとでランプを使ってみる?
ぜ〜んぜん暗いけど 雰囲気あるわよ〜〜 」
「 ランプ?? ・・・ アルコール・ランプなら理科の実験で
使ったことあるよ 」
「 そのランプじゃない。 照明器具としてのランプさ。
コドモの頃、常夜灯の代わりに小さなランプが点いていたな・・ 」
「 へえ ・・・ 火を灯にするのかあ ・・・
うん ・・・ なんかさ、 考えてみると 冬って ― 凄いよねえ 」
「 冬を有効利用するニンゲンの知恵 とでもいうかな
スキーは 冬を楽しむ一つの素晴らしい方法さ 」
「 そうね そうね〜〜 」
「 フラン ・・・ バレリーナさんが スキー していいの? 」
「 ・・・ ナイショ。 絶対怪我しないわ! 」
え〜 あはは ふふふ ・・・・
彼女の真剣な顔が可愛いくて ― アルベルトとジョーは 声を上げて笑った。
― 三人のスキー旅行、そもそものきっかけは。
話はすこし前のニッポン・ギルモア邸に戻る。
ぴゅ〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・・・・
温暖な気候のこの地でも 北風が吹く時期がある。
関東平野ほどではないけれど 海からの風が そして
背後の山を越えてくる風がとてもキツイ日々が 短い期間だがやってくる。
ガタガタガタ −−−− 窓が小刻みにゆれる。
「 あら ・・・ 今日は風が強いのねえ ・・・
いけない! 雑巾を乾したままだわ 」
フランソワーズは キッチンの出口から裏庭に出た。
カッタカッタ カタカタ ・・・ 庭サンダルを鳴らしてゆく。
「 うわ・・・ 凄い風〜〜〜 うわお〜〜〜 」
金色の髪が逆巻く風に 沸き上がる。
「 もう〜〜〜 あ やだあ カチューシャが ・・・ 」
髪から外れ 風に転がるそれを追って駆けだした。
「 あ〜〜〜 もう〜〜〜〜 こらあ〜〜 」
カラカラ ・・・ 風に乗っかりもう宙を飛び始め ―
「 ・・・ あ〜 ダメかも〜〜〜 お気に入りなんだけどなあ 」
しょんぼり見送っていた時 ―
きったか〜〜〜ぜ こぞうの かんたろ〜〜〜〜〜♪
のんびりした歌声が響いてきた。
「 あら ジョー 帰ってきた・・・?
ああ そろそろお茶タイムね 熱いお茶、いれよっかなあ 」
「 お? なんだ??? あ。 きゃっち♪
フラン〜〜〜 きみの相棒を捕まえたよぉ 」
ジョーは赤いカチューシャを ぶんぶん振り回している。
「 え??? ホント?? うわ〜〜〜 嬉しい♪ 」
彼女は 玄関前まで駆けていった。
「 ほい。 なんか 風に乗ってきたよ? 」
「 ありがとう〜〜〜 そうなのよ、 さっきね 裏庭で
ぶわ〜〜〜っと・・・ 飛ばされちゃったの 」
「 そっか〜〜 冬はさあ この辺でも季節風が強いんだ
ひゅるる〜〜ん るんるんるん(^^♪ ってね 」
ジョーはなんだか少し楽しそうだ。
「 この辺りは温かいって聞いてたけど ―
やっぱり冬には寒くなるのねえ ・・・ わたし 寒いの キライ 」
カチューシャで髪を直すと 彼女は両手を擦り合わせた。
「 え〜〜 ぼく 冬って好きだよ〜〜
こう〜〜 さ 空気が引き締まって キリっとするじゃん?
この寒さって 気持ちいいなあ〜って思わない? 」
「 え。 あらあ ココの冬は ― 秋の終わり って感じよ 」
「 ― 今 もう冬だけど? 」
「 あら そろそろ冬の入口が見えるかなあ〜 って思ってたけど 」
「 あのさ。 ここいら辺は 温暖なんだ。 きみの故郷は
もっとずっと北の街だろう パリってさ。 」
「 そうね。 あら じゃあ もしかして ― ここだと
雪 ・・・ 降らない?? 」
「 雪?? ああ そりゃ無理〜〜〜 ってこと。
たまあに ちらっと風に混じったり う〜〜〜んと寒い日に
ミゾレになったりはするけど ね 」
「 そうなの?? あら じゃあ ジョー スキー したこと ある? 。
「 は??? す すきー ??? 」
「 そ♪ この辺は ・・・ 無理そうだけど・・・・
日本には スキーのゲレンデ ってあるの? 」
「 あ ああ ・・・ うん あるよ
北海道とか ぱうだ〜〜すの〜〜 って人気だし。
あと ・・・ 東北とか長野とか北陸とか 」
「 あらあ ショウナン地方 にはないの 」
「 それは む〜〜り〜〜〜〜〜 ってことデス 」
「 ざんねん〜〜〜〜〜 」
「 あ でもね 一度だけ行ったこと あるんだ。
なんか慈善団体の企画で 施設の子、みんな行ったよ。 」
「 そうなの? 」
「 うん。 多分二泊三日くらいだったと思うけど・・・ 長野の方 かな。
雪 なんて触るのも初めてだったから 覚えてるよ。 」
「 スキー した? 」
「 いや。 チビだったし ソリ遊びで大喜び って程度 」
「 ふうん〜〜
・・・ ああ お茶たいむ にしましょ 」
「 うん あ これ 手紙類きてたよ。 」
ジョーはポストから取ってきた郵便物を両手に持っている。
「 メルシ〜〜 リビングまで持っていってね〜 」
「 おっけ〜〜〜 あ 今日のオヤツ なに 」
「 さっき オーツ・ビスケット 焼いたわ 」
「 やた〜〜〜♪ ぼく 大好き〜〜〜♪
ふんふんふ〜〜〜ん 今日のオヤツは お〜つ・びすけ(^^♪
らりらりら〜〜〜ん♪ あ ぼく お茶 いれるね〜〜 」
ジョーは もうご機嫌ちゃんでずんずんリビングに入っていった。
「 ・・・ あらら ・・・ もう ホント子供みたいね ・・・
こんな日には オーツ・ビスケットは最高だけど 」
「 フラン〜〜〜 カフェ・オ・レ だよねえ? 」
「 はあい お願い〜〜 」
「 おっけ〜〜 あ 手紙とかテーブルに置いたから 」
「 了解〜〜 あ いけない 雑巾! 」
彼女は 裏庭に周ってから戻ってきた。
「 ふう ・・・ 温暖っていっても風はキツいわ〜〜 」
カタン。 リビングのドアを開ければ コーヒーの香りが流れる。
「 ・・・ ふう〜〜ん いいわね、こういうのも・・・
ああ 手紙 ・・・ あ アルベルトからだわ ! 」
テーブルの上に置かれた郵便のなかに ドイツからのエア・メイルがあった。
カチャ カチャ ・・・ カチン。
「 〜〜〜〜っと。 カフェ・オ・レ どうぞ〜 」
ジョーが慎重〜〜な手つきで カップをソーサーに置く。
「 はい 上手に置けました(^^♪ では〜 オーツ・ビスケットで〜す 」
ほわん。 カゴに入ったビスケットが置かれた。
「 もう一回 温めなおしたの。 どうぞ〜〜 」
「 わい♪ いっただっきまあす〜〜 あ 博士は? 」
「 夕食までには戻る って 」
「 そっか〜〜 あ ウマ〜〜〜〜 ( はぐはぐ ) 」
「 ふふふ ・・ ねえ アルベルトからよ。 」
フランソワーズは レターパッドを見せる。
「 ああ? へえ ・・・ 彼って紙の手紙、好きだよねえ
読んで 読んで〜〜 」
「 うん ・・・ 今ね ・・・ ちょっと旅行してるみたいよ?
え〜と・・・ あ いいわね! ねえ これ 行きましょうよ!! 」
「 フラン〜〜〜 ひとりでのってないで説明して〜 」
「 あ ごめんなさい。 ジョー ほら 」
「 フラン 読んで。 ぼく これ食べたいんだ 〜 」
「 まあ ・・・ もう〜〜 でも いいわ。 わたしのビスケット、
そんなに気に入ってくれるなんて 嬉しいわ 」
「 だって〜〜 激ウマだよう〜〜 ( はぐはぐ )
ね この す〜〜っとする葉っぱ なに? 」
「 あ それはウチの温室で育てたミントよ。 」
「 そうなんだ〜〜 すご ウマ ・・・・ あ で アルベルトは 」
「 はいはい あのね スキーにきませんか って 」
「 す すき〜〜 ・・・? 」
「 そ。 素敵よぉ〜〜〜 本当の冬が楽しめるわ 」
「 え きみ 寒いの、苦手なんだろ? 」
「 ええ。 でもね スキーは別よ! スキー場では ち〜〜っとも
寒くないの。 」
「 へ え ・・・ それで 場所はどこ? ドイツにスキー場、
あるの? 」
「 あるわよぉ〜〜〜 ドイツはフランスよりももっと寒いし。
冬はね しっかり雪が降るの。 ステキよ〜〜〜
ね 行きましょうよ 」
「 ・・・ ぼく できません けど ・・・ 」
「 だあいじょうぶ! ちゃ〜んと教えるわ。
それにね アルベルト、上手よ〜〜〜 教えてもらえばいいわ。」
「 な なんか 怖いんですけど ・・・ 」
「 あ〜ら どうして? じゃ おっけ〜の返信するわ。
ああ そうそう 多分すごく冷えるから 防護服を忘れずに って。 」
「 え・・・ アレ もってくの? 」
「 そうよ。 軽くて防寒機能に優れているって ダウンとかよりも
防護服が最高よ。 」
「 そりゃ ね ・・・ 」
「 じゃ 決まりね〜〜 エア・チケット、取っておくわ。
きゃ〜〜〜 楽しみ〜〜〜〜〜 雪って久し振りだわ 」
「 ― ぼく ちゃんと積もった雪って 初めてかも 」
「 そう? あら 南極とか行ったじゃない? 」
「 あそこにあったのは 氷ばっか ・・・ 」
「 ふうん? じゃ 最高の冬にしましょ♪ 」
「 ・・・ そう なるかなあ 」
カチン。
カフェ・オ・レ ボウル と マグ・カップはちょっぴり複雑な
乾杯をしたのだった。
― そして 彼らは 今 ここにいる。
ビュウ −−−−−−− ヒュウ 〜〜〜〜
雪たちはまだまだ吹き荒れている。
「 これが 今回のコース ・・・ 予定だがな。
そして こっちはこの地域の地図だ。 」
アルベルトは 大理石のテーブルの上にデータを置いた。
「 これを 記憶データボックスに転送しておけ 」
彼は つんつん・・・自分のアタマを突く。
「「 了解 」」
戦闘時の作戦会議 ― に見えなくもない が 彼らの表情が違う。
フランソワーズは もう笑みが零れ続けだし 珍しくも アルベルトも
苦い顔をしていない。
・・・ ジョーだけが なんとな〜く不安な顔をしているが・・・
「 ふうん ・・・ このホテルはもう森の中なんだね 」
「 そうだな。 森の中だから吹雪からも護られている。 」
「 あ なるほどねえ ・・・ 」
「 それに な。 この地方にはずっと昔から伝わっている伝説の城 が
あるのさ。 」
「 え。 なあに なあに それ?? わたし 知らないわ 」
フランソワーズは もう声のボルテージが自然にアップしてしまっている。
「 フラン ってば ・・・ 」
「 あらあ だってロマンチックじゃない? ねえ ねえ 教えて〜〜 」
「 これは ― この地域だけに 代々伝承してきたハナシでな
当然 文献にはなっていないし語れる古老たちも減ってゆき
もう 詳しく知っているモノは ほとんどいないのだそうだ。 」
「 ふうん ・・・ それで それで??
アルベルトはその伝説 どうして知っているの 」
「 俺は チビのころ ばあさんに聞いたのさ 」
「 それで それで?? 」
「 まあ 今 話すから 」
彼は 冷えてしまったコーヒーの残りを 一口、飲んだ。
「 むかし むかし ・・・ お決まりの口上だが ―
パチパチパチ −−−
薪の燃える音にきっちりした言葉が重なってゆく。
ヨツンヘイムを統べる王は 別荘としての城をこの地域にもっていた。
小さい城だが堅牢な石垣に護られ、 中は緑あふれ快適な地になっていた。
城主の家族、 召使い そして 城内に畑をつくる農民や
牛や羊を飼うもの達も一緒に暮らしていた。
その美しい城は 一年で一番寒い日に 石造りの扉を開く。
そして 吹雪に寄せ集められたヒトが ― この城に招かれる。
城主は その中から共に永遠の時を生きる仲間を選び < 連れてゆく >
城の民になれば 永遠に若く美しく ・・・ 冬の城で生きてゆけるのだ。
この村でも ほら 川むこうでも行方不明の者がいるだろう?
彼らは 川に落ちたのでも 山で遭難したのでもない ―
あの美しい城に招かれ ― 帰ってこなかっただけ なのだ ・・・
そう ― 冬の城は 一年で一番寒い日に 扉を開く ―
ごとん。 ― 太い薪が焼け落ちた。
「 わ! びっくりした・・・ ああ 暖炉かあ 」
ジョーは一瞬 跳びあがり ― 新しい薪をくべた。
「 ・・・ ふうん ・・・ ねえ 一番寒い日 って いつ?
日本でいうなら 冬至 かしら 」
フランソワーズは興味深々の様子だ。
「 − あら お茶が冷えてしまったわね 淹れかえるわ 」
「 ありがとう 頼む 」
「 アルベルト。 なんか ちょっと思い出すよね?
ほら あの ・・・ 姉妹のこと ・・・ 」
「 − ああ あの冬のカーニバルか ・・・
あ? お前さん あの時はスキー 滑ってたよな? 」
「 ・・・ 実はさ。 転げ落ちてただけ だったんだ・・・」
「 なんだあ?? それであの山荘のとこに落っこちたのか? 」
「 そ。 ― あそこの山荘も城みたいだったし 」
「 うむ ・・・ 最終的には崩壊したが な 」
「 ・・・ そうだったね ・・・
ああ 伝説の方がずっといいね! 救いがあるよ 」
「 伝説は ある意味ハッピーエンドだからな 」
「 え ハッピーエンド?? 」
「 誰も死なないだろ 城の招かれたモノはこちらでは行方不明だが
本人は シアワセになる 」
「 ・・・ あ そう そうだねえ 」
「 ― いっそ 城の中で暮らした方がいいか ・・・ 俺たち 」
カチン カチャ ・・・ いい香の湯気が漂ってきた。
「 はい お茶のおかわり 〜〜〜 え なあに 」
「 わ〜〜 ありがとう! 僕は ・・・ こちら側に居たい 」
「 おう ダンケ。 お前は な 」
彼は に・・・・っと笑った。
「 ・・・ さあ 吹雪の具合はどうかな 」
アルベルトは カップを受け取るとそのまま窓辺へ寄った。
繊細なレースのカーテンを開け 緞子のドレープを繰る。
「 え どう?? そろそろ 止みそうかしら 」
フランソワーズも 彼の背後に駆け寄っていった。
・・・ アルベルト ・・・
君は ― 還りたい のかな
本当の君が 生きていた世界へ
フラン ・・・ きみ も ?
ジョーは 銀髪と金髪の仲間の背中をしばらく見つめていた。
「 う〜〜ん もう少し様子をみよう 」
「 え〜〜〜 大丈夫じゃない? わたし達なら 」
「 おいおい お嬢さん? 俺たちは 普通のヒト だぞ?
吹雪をついて出掛けていったら ― 捜索されちまうぞ
いや その前にこのホテルからは 出してはくれまいよ 」
「 ・・・ ああ〜〜 滑りたいのぉ〜〜〜
ねえ? 伝説の城 に巡りあえたら素敵ね! 」
「 ― フラン ・・・ き きみも・・・? 」
「 だって城の中は 快適な空間なのでしょう?
見てみたいじゃない? ― 異空間 なのかなあ
ね もしかして ヨツンヘイムの王は 宇宙人かしら 」
「 こらこら 不用意なウワサをすると ― 連れて行かれるぞ 」
「 聞いてるってこと? 盗聴してるのならますます宇宙人ね 」
「 ロマンがないよ フラン 」
「 ふふふ〜〜 21世紀に生きてますもんでね ・・・ 」
「 ・・・ぼくは 19世紀とか好きだけど 」
「 あ〜ら 意外ね 」
「 なんかさ ゆっくりゆったり ・・・ってもの
いいなあ〜って このごろ思うんだ 暖炉 とか ・・・ 」
「 ― お前さんもちっとはオトナの入り口に立ったってことだ。
そろそろ片づけて準備するか 」
「「 了解 〜〜〜 」」
カチャカチャ −−−
お茶道具をこの部屋の備え付けの簡易キッチンに運ぶ。
シンクで食器を洗い 周辺を片づける。
「 ふんふ〜〜ん ・・・ あれ ここに植木があるよ?
いいね 」
簡易キッチンの隅には 鉢植えが置いてあり青々した葉を茂らせている。
厳冬期でも 室温で育っているのだろう。
「 あ。 これ ミントだ ウチの温室でフランが育ててるヤツ・・・
ああ いい香だなあ〜〜 一枚 もらお 」
ジョーは 何気なく、その香草の葉を一枚 ポケットに入れた。
「 ジョー 〜〜〜〜 吹雪が止んできたわよ〜〜〜〜 」
さあ 真冬の冒険が 始まる
Last updated : 09.13.2022.
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*********** 途中ですが
季節外れもいいトコですが ・・・・
原作あのお話 をちょこっと引用 〜〜〜
三人の 楽しい?冬の冒険 (^◇^)