『 1 + 1 = ?? 』
***** 初めに *****
このSSは 【 Eve Green 】様宅より<島村さんち>の設定を拝借しております。
そして【 2007年ジョ−君お誕生日企画 】 でのお話の続編です。
また、作中、ジョ−君のアイロンがけ云々〜のネタは 【 こもりくの 】(めみ様方)の
<五段活用>よりご了承を得まして使わせて頂きました。
「 お休み。 」
「 ・・・ お休みなさい。 」
ぱふん・・・と夏蒲団に潜り込み、なんとなく身体を捻ってしまった。
どうやらジョ−も同じらしい。
いつもすぐに伸びてくる腕が 珍しく今夜は休業らしかった。
寝返りを打ちたい。
でも。
起きているって、眠れないでいるって知られたくない。
一番リラックスするベッドの中で 身体をかちこちに固めている。
・・・ このヒトと結婚して ・・・ よかったのかな( かしら ) ・・・
背中合わせのベッドの中、
ジョ−もフランソワ-ズも なかなか寝付けなかった。
結婚後の初めて肌を合わせない夜、二人は別々に、でも同じ想いに捕らわれていた。
夏の夜風がレ−スのカ−テンをふわり・・・と揺らした。
「 ・・・ おはよう。 」
「 おはよう、ジョ− 」
まっさらな光が差し込むキッチンで、ジョ−とフランソワ−ズは軽く唇を合わせた。
さっきベッドで初めての朝の挨拶をしたけれど もう一度明るい光の下で見つめ合い微笑みを交わす。
<お早う> って こんなに素敵な言葉だったかしら。
朝の彼女って こんなに綺麗なんだ・・・
言葉にはしなかったけれど、お互いの想いは通じ合いまたまたそれが笑顔のモトとなる。
まさに世界に二人だけ・・・の気分なのだ。
「 すぐにカフェ・オ・レを淹れるわ。 」
「 うん。 手伝うよ。 サラダは冷蔵庫? 」
「 ええ。 オレンジも、もう冷えていると思うわ。 」
「 オッケ−。 ・・・ あ、いい匂い・・・ へへへ味見しちゃお♪ 」
通りすがりにまたジョ−はフランソワ−ズの珊瑚色の唇を盗んだ。
「 ・・・あん ・・・ ジョ−ったら。 わたしは朝御飯じゃないわよ。 」
「 朝から御馳走だな〜〜 」
「 ・・・ もう! さ、朝御飯にしましょ。 」
「 うん。 」
「「 いただきます 」」
五月のある晴れた朝。
昨日町外れの教会で 祝福を受けたほやほやの夫婦は二人きりの朝を存分に楽しんでいた。
まろやかなカフェ・オ・レが香り、焼きたてのフランスパンがぱりぱりといい音をたてる。
眼を上げればジョ−の優しい微笑みがある。
フランソワ−ズは 身体の奥の奥に埋もれた火がぽう---っと燃え上がってしまった。
・・・ もう。 ヤダ、ジョ−ったら。 そんな ・・・ 視線 ・・・ !
でも し ・ あ ・ わ ・ せ ♪
結婚して こんなに気持ちが変わるものなの?
淡く染まった頬を隠したくて カフェ・オ・レのカップを持ち上げる。
「 ・・・ああ、美味しかった。 ごちそうさま。 」
「 もう いいの? バゲット、もう少し切りましょうか。 」
「 いや、 いい。 」
ジョ−はテ−ブルの上の食器をきちんと片寄せた。
「 あのさ。 ちょっとお願いがあるんだ。 」
「 まあ、なあに。 」
「 うん。 今日 ・・・ 結婚第一日目に、いや、一日目だからこそ言うんだけど。 」
「 なにかしら。 」
「 ・・・ お願いっていうか、ぼくのポリシ−なんだ。 聞いてくれる?」
「 ・・・・ ?? 」
「 ほんのちょっとだけど。 宜しくたのむね。 」
「 ・・・ え ・・・ ええ。 」
車とガレ−ジの掃除をしてくるから・・・ と彼は上機嫌でリビングから出て行った。
彼の新婚ほやほやの奥サンは・まだテ−ブルの前に座り込んでいた。
陽気な口笛が やがて玄関から外に出て行った。
な ・・・ なんなの??? あのヒト・・・ 本当にジョ−???
そう。 島村家 のご当主となった島村ジョ−氏は相変わらずの笑顔で
彼の新妻に穏やかに言ったのだ。
「 ひとつだけ、お願いがあるんだ。 朝、ぼくは御飯とお味噌汁にしてくれ。
ああ、きみがカフェ・オ・レを飲むのも、フランス麺麭を食べるのも、全然自由だから。
ただ、ぼくは白い御飯とお味噌汁がいいんだ。 」
「 オムレツにサラダ、おおいに結構だよ、うん。 健康的だ。
ついでに納豆とお新香を頼む。 え? きみは好きなものを食べたまえ、気にしないよ。 」
「 朝はぼくより早く起きてくれよな。 ヨロシク 〜〜 」
??? こんなジョ− ・・・ 初めて !
ともかく後片付けをしなくっちゃ、とフランソワ−ズはトレイに食器を乗せた。
さっきと同じ朝日でぴかぴかのキッチンが 幾分違った場所に感じるのは気のせいだろうか。
あれ。 ・・・ ジョ−ったら。
シンクの中でふと、スポンジを持つ手が止まった。
今まで、ほんのつい昨日まで。 ジョ−は後片付けを手伝ってくれた。
フランソワ−ズはほとんど毎朝レッスンに出かけるので、ごく自然に彼はお皿洗いを担当していた。
「 ありがとう、ジョ−。 ごめんなさいね。 」
「 いいよ、いいよ。 ぼくの方が出かける時間、遅いから。
今日のお弁当、楽しみにしてるね。 」
「 ふふふ ・・・ 乞う・ご期待よ♪ じゃ ・・・ 行って来ます。 」
「 うん、気をつけて。 」
慌しい朝でも ごくスム−ズに家事は分担して行われていた。
きゅ。
フランソワ−ズは洗い上げたお皿を 強く拭った。
そうよね。 今日はわたし、お休みだし。
ジョ−はガレ−ジの掃除をするって言ってるもの・・・
お揃いのマグ・カップ、お気に入りペアをそっと食器戸棚にしまった。
並んだ色違いのカップは 幸せの象徴みたいだ。
ちょっと別のヒトみたいって思ったけど。
でも ・・・ 頼もしいじゃない?
ふふふ ・・・ 島村家の主として意識してるのね、きっと。
妙な気分はだんだんと微笑のモトになってゆき、
ぴかぴかのキッチンを後にするころには 島村さんの奥さんは朝と同じ笑顔になっていた。
こうして <島村さんち> の新婚第一日目は幕を開けた。
「 〜〜 でね。 ・・・ あれ、どうしたの〜 フランソワ−ズ。 」
「 ・・・ え ? あ、ううん。 なんでも・・・ 」
「 そう? 何でもって顔じゃないよ。 」
「 うん ・・・ 実は、ね。 」
朝のクラスが終って、バレエ団員たちは着替えの真っ最中である。
ほっとした解放感から おしゃべりの方も盛んに花を咲かせている。
フランソワ−ズもシャワ−の順番を待って 仲良しのみちよと話し込んでいた。
「 あ、お茶してく? それとも時間ないかな〜 オクサン? 新婚さ〜ん♪ 」
「 もう、ヤだってばみちよ。 ううん、大丈夫。 ジョ−は今日遅いから。 」
「 きゃ♪ ねえ、お家でも ジョ− って呼ぶの。 」
「 ええ、そうよ。 」
なんで?という顔のフランソワ−ズに みちよはきゅきゅ・・・っと笑った。
「 フランソワ−ズって相変わらずか〜わいいのねえ。
ウチの姉のトコなんか去年結婚したばっかだけどもう名前なんか呼んでないよ。
私らにも ダンナ とか テイシュ とか言ってるし。 」
「 え・・・ そ、そういうものなの? ・・・あの・・・ 日本では・・・ 」
「 あ、う〜ん。 フランスではいつまでも甘あ〜〜く ジョ−♪ とか
モン・シェリ〜♪ とか 呼ぶのかな。 」
「 甘い、かどうかはわからないけど。 わたしの母も父のことはずっと名前で呼んでたわ。
父もそうよ。 へえ・・・ そうなの。 ダンナ に テイシュ、って言うの。 」
「 そんなトコが多いみたいよ〜 ま、でもまだほやほや新婚サンだもの、
やさ〜〜しく ジョ〜♪ って呼んであげなよ。 」
「 ・・・ もう ・・・ 」
一人で真っ赤になっているフランソワ−ズを 更衣室中の仲間達が笑顔で振り返る。
「 さ。 じゃあいろいろ ・・・ ノロケも聞くよん、島村サンの奥さん♪ 」
「 ヤだってば・・・ もう ・・・ 」
首まで赤くなったフランソワ−ズにまたまた、皆が笑い声をたてた。
「 ふうん・・・ 朝は和食にしろ、か。 」
「 ・・・ うん。 今までそんなコト、全然言ったことないのよ。
そりゃ、たまに和食を作ると美味しそうに食べてたけど。 」
「 納豆にお新香、ねえ。 シブいでない、島村さんって。 」
「 ・・・ それだけじゃないの。 ソレが一番初めだったのだけど。 」
「 え、まだあるの?! 」
「 ・・・ ええ。 」
ふう〜〜〜 とフランソワ−ズは大きく溜息を吐いた。
そろそろ梅雨も明けるのか、最近は強い雨の日が増えた。
フランソワ−ズとみちよは 雨をさけてお気に入りのカフェに飛び込んでいた。
表通りから引っ込んだところにあるその店は二人の <秘密の場所> で
打ち明け話などしてのんびりした時間をすごすことが多い。
「 もうね。 ちょっとだけお願いがあるんだ、って言って。
次々にリクエストが出てくるのよ。 ・・・ 細かいコトばっかり。 」
「 へえええ?? 島村サンってそんなに 拘るタイプ には見えないけど。 」
「 わたしだってずっとそう思っていたわ。
それが ・・・ ズボンの折り山はピシっと、とかYシャツのアイロンはウチで、とか。 」
「 ふうん?? 」
「 今までス−ツなんてろくに着なかったのに。
それにね〜 アイロンとかは自分でやってて、ついでにわたしのブラウスなんかも
かけてくれてたの。 それなのに ・・・ もう〜〜 信じらんないわ。」
「 そういうのさ、日本ではなんていうか知ってる? 」
「 日本では? ううん? 」
「 亭主関白って言うの。 島村さんってそ〜だったんだ〜
へええ ・・・ やっぱ日本男児なのかなあ。 」
みちよは完全に野次馬根性で、くすくす笑ってアイス・コ−ヒ−をずず・・っと飲んだ。
フランソワ−ズは溜息も忘れ 眼を見張っている。
「 ・・・ ね。 日本の男のヒトって ・・・ 結婚するとみんなそうなの?
その ・・・ テイシュなんとか になるの? 」
「 え〜 ? さあ・・・みんな、かどうかは知らないけど。
でも多分、男の子の密かな夢かもね。 < 黙ってオレについて来い! >って。
そんな歌があったみたいよ。 」
「 ・・・ 黙ってオレに、 ・・・ ねえ。 」
カラン・・・とアイスティ−の氷が溶け落ちた。
外は雨、湿度も温度も上がってきたようだ。
「 でもさ。 フランソワ−ズも意外だよね〜 」
「 ?? 」
「 パリジェンヌなのに。 フランスのヒトってちゃんと自分の言いたいことははっきり
主張するんでしょう? そんな風に聞くよ。 」
「 え・・・ ええ・・・ そうだけど。 」
「 あなたのご両親はどうだったの。 」
「 ・・・ う〜ん ・・・ そういえば。 よくいろいろ言い合ってたっけ。
喧嘩っていうのじゃないけど。 それで君はどう思うんだ?ってよく父が言ってたわ。 」
「 だったらさ。 フランソワ−ズも言ったら。 」
「 え・・・ お皿を洗ってくれって? 」
「 ってか、あなたの <ポリシ−> をさ。 こうやって欲しいの!って。
ウチの姉が言ってるけどね〜 最初が肝心、なんだって。 」
「 最初が、か・・・ 」
「 そうよ〜〜 頑張って♪ 奥さん! 」
「 う、 うん ・・・ 」
「 ね〜 ココの抹茶ラテ、美味しいのよ。 熱いのも飲んでみない。 」
「 わ、いいわね。 あ・・・・ 今日はもう、な〜んにもしたくない〜〜 」
ジョ−のことは勿論大好きだけど。
こうやって自由なひと時を仲良しと過すのも 同じくらい好きなんだもの。
ず〜っとウチのことに追われてたし。
たまには わたしだって息抜きが必要よね。
フランソワ−ズは久し振りにのんびりした気分を満喫していた。
そうか、そうよね! ・・・ わたしも言うわ。
島村家の半分は わたし! なんだもの。
フランソワ−ズには外の雨音もエ−ルに聞こえていた。
「 ・・・ キスゥ??? 」
「 そうよ。 お早うのキスとお帰りなさいのキス。 」
島村さんちのご主人は奥さんの言葉に目を白黒させ・・・絶句してしまった。
そろそろ西の地からは梅雨明けの便りが届き始め、 この地方でも強い雨の日が増えてきた。
今日も上機嫌で帰宅した島村ジョ−氏をマダム・島村は極上の笑顔で迎えた。
「 ただいま。 」
「 お帰りなさい、ジョ−。 」
すこし雨に濡れたYシャツなど気にも留めずに、フランソワ−ズは伸び上がってキスをした。
「 ・・・ んん。 」
ぽん、と渡された上着を手に彼女はますます魅惑の笑みを浮かべ、
彼女の新婚の夫に話しかけたのだ。
「 ねえ、ジョ−。 聞いて欲しいことがあるの。 」
「 うん、なんだい。 」
「 あのね。 キスして欲しいの。 」
そして。 島村氏は妙にどぎまぎと顔を赤らめてさえいるのだ。
「 それ・・・ ちゃんとしてるじゃないか。 今も・・・そうさ、それに
今朝だって キッチンでお早う・・・ってさ。 」
「 ええ、でもああいう子供のキスじゃなくて。 ちゃんと恋人のキスが欲しいの、わたし。
お帰りなさいの時も同じよ。 一日離れていたんですもの、ちゃんとキスして。 」
「 ・・・ う ・・・ ぼく達、もう夫婦なんだよ。 恋人同士なんかじゃなくてさ。 」
ジョ−は自然と俯いてしまった。
・・・ やだ。 赤くなってるって ・・・ どういうこと??
フランソワ−ズはすう〜っと息を吸い込んで極上の笑みを浮かべた。
「 あら。 夫婦でもなんでも、わたし達はず〜〜っと恋人同士だわ。 」
「 ・・・う ・・・ うん ・・・ 」
「 結果として夫婦というカタチになったけど。
ジョ−、あなたはいつだって、これからもいつまでもわたしの恋人よ。 」
「 ・・・ぁ〜 う、うん ・・・ 」
「 ジョ−。 あなたは? あなただってわたしこと ・・・ 」
「 あ、うん。 ちゃんときみはぼくの奥さんだし。 好きだよ〜 」
「 だったら。 キスして。 ね? 」
「 ・・・ わかった。 」
「 これ、わたしの < ちょっとだけお願い > したいことなの。 」
「 ・・・ うん、わかった。 」
「 だったら。 ・・・ ねえ? 」
「 ・・・ わかったよ。 」
じっと見つめている碧い瞳に根負けし、 ジョ−は彼の愛妻を抱き締め
玄関で熱く・長いキスをした。
「 ・・・ 淋しかったわ、ジョ−。 お帰りなさい♪
さあ、今晩はジョ−の好きな肉ジャガよ。 」
「 そうか・・・ うん、楽しみだな。 」
「 ね。 ワインが飲みたいわ。 地下のセラ−から持ってきてくださる? 」
「 あ、ああ。 わかった。 」
ジョ−はまだなんだかちょっとぼうっとしたまま、ワイン・セラ−へ降りていった。
・・・ なんだかなあ。 フランソワ−ズって・・・ あんなに積極的だったっけ・・・?
夜に入って雨脚はだんだんと強くなったようだ。
そんな雨音など、全く気にならず夕食も終わり二人でリビングのソファに寛いだ時、
フランソワ−ズはごく自然な調子で切り出した。
「 ねえ、ジョ−。 ちょっとだけお願いがあるの。 」
ジョ−は手にとっていたグラフ誌を置いて顔をあげた。
「 なんだい。 」
「 あのね。 戸締りなんだけど。 最後の点検をお願いね。 」
「 ・・・ あ、うん。 いいよ。 」
岬の一軒家、ギルモア邸は実は見かけによらず最新式のセキュリティで
ばっちり固めてあるのだ。
勿論、全てのコントロ−ルは邸内で行う。
「 セキュリティ−・システムの点検だろ。 オッケ−さ。 」
ものの5分と罹らない作業なので、ジョ−は気軽に引き受けた。
うん。 やっぱり一家の主の仕事だよな。
信頼を得てなんだか嬉しい。 えへん、と咳払いのひとつもしたい気分だ。
ところが。
「 えっと ・・・ それもあるけど。 郵便ポストを確かめてね。
お手紙とかの他にも配達されるものがあるし。 夕方、一応わたしがみるけど、
最後にもう一度、点検をお願い。 」
「 ・・・ あ ・・・ ああ、 うん。 」
「 やっぱりジョ−にきちんと確かめてもらえれば安心だもの。 」
「 そ、そっかな〜 」
「 そうよ。 うふふ・・・ 愛してる♪ジョ−・・・ 」
「 ・・・ あ、うん ・・・ 」
ぴたりと身体を寄せて、フランソワ−ズはジョ−にキスをする。
「 ねえ? 」
「 ・・・ え。 」
「 ・・・ねえってば。 」
「 なんだい。 」
なぜか抱きついたままのフランソワ−ズの身体にジョ−はぎこちなく腕をまわした。
・・・ なんなんだ?? 急にどうしちゃったんだ?
「 愛してる、って言ったの。 Je t'aime って言ったのよ。 」
「 あ ・・・ うん。 」
「 ・・・ もう・・・! あのね、 ジョ−も言って。ちゃんと言って。 」
「 あの ・・・ な、なにを・・? 」
フランソワ−ズはぱっと腕を離し 急に不機嫌な顔になった。
ジョ−はますますワケがわからず、おずおずと彼女の顔を覗き込む。。
「 愛してるって。 ジョ−も。 ジョ−も言ってちょうだい。 」
「 え・・・ ぁ・・・ そんな、今更・・・ わかってるだろ? 」
「 勿論、わかってるわ。 でも。 言って欲しいの。 ちゃんと、言葉にして。 」
「 言ってるじゃないか。 その ・・・ ベッドの中とか ・・・ 」
「 ええ、ええ。 何回もね。 」
でも、 とジョ−の大切な奥さんはきりり!とその美しい瞳でじっと見つめている。
「 いつでも言って欲しいの。 ただいま、のキスの時も。
おはようのキスの時もね。 」
「 ・・・ う ・・・ 二人だけの時に言えばいいだろう。 」
「 ・・・ わたし、いや。 」
「 え・・・?? 」
「 そんなの、イヤだわ。 」
ジョ−はびっくりしてフランソワ−ズの顔をしげしげと眺めた。
初めて、あの島で出会ってから。
闘いの日々やら束の間の平和な時、また別れ別れに暮らしていた時期もある。
・・・ その後この岬の洋館に共に住み、やがて寝起きも共にするようになった。
そして。
この五月に晴れて神の御前で夫婦の誓いをして・・・ 今日まで。
フランソワ−ズが 明確にきっぱりとジョ−の言葉を否定したことはただの一度もなかったのだ。
それが いま。
碧い瞳にしっかりと意志の光をたたえ、このフランス人女性はきっぱりと自己主張する。
「 わたし。 ジョ−に愛してるって言って欲しいの。 ええ、いつだってよ。 」
「 ・・・ わかったよ。 」
気圧され、ジョ−はもごもごと呟いた。
日本男児としては結婚した以上、<愛してる>のは当然でありそれを殊更人前で
べらべら言い立てるのは ・・・ どうも性に合わない・・・のだが。
・・・ まあ ・・・ いいか。 どうせ今のうちだけだろうし。
普段、この家に一緒なのは博士とイワンだけだものな・・・
「 きみのお望みの通りにするさ。 」
ジョ−はなんとか立ち直り、余裕の素振りで大きく頷いた。
「 まあ、嬉しいわ。 さすがにジョ−ね。 愛してる♪ 」
細い腕がくるり、とジョ−の首に絡まってきた。
「 ・・・ う ・・・ うん。 」
「 ・・・ ねえ ? 」
「 ( ・・・ ち。 ) あ、 愛してるよ ・・・ 」
んんん・・・・ っと求めてきた唇は やっぱり愛しくて。
ジョ−はかなり本気で深いキスを返したのだが。
でもな。 島村家の主はぼくなんだし。
やっぱりココは ぼくの主張を飲み込んでもらわないとな。
可愛い奥さんを離して、えへん、とひとつ咳払い。
「 ・・・ っと。 ぼくからもひとつ、頼みがあるんだ。 」
「 なあに。 」
寄り添う細い身体は相変わらずしなやかで 襟元からは甘い香りがにおい発つ。
「 近所づきあいもあるから。 きみも住所と名前は漢字で書けるようにしてくれ。 」
「 あら。 住所はもうずっと ・・・ 漢字で書いてるわよ、わたし。 」
「 ・・・ え ・・・あ。 そ、そうだっけ?
あ、あの、名前! そうだよ、名前。 これじゃ 島 の字じゃないぞ。
横棒が一本多いんだ。 」
ジョ−は先日、彼女が受け取ったジョ−宛の宅急便の受け取りを示した。
ハンコが見つからずに、フランソワ−ズが日本語でサインをしている。
「 ほら。 宅急便屋さん、これじゃ読めないよ。 」
「 ・・・ あなたの苗字って ・・・ 難しいんですもの。 」
「 きみの苗字でもあるんだよ? 奥さん。 」
「 ・・・ あ ・・・ 」
「 頼むね。 家の中の細かいコト、しっかりやってくれよな。 」
「 ・・・ わかったわ。 」
「 あ〜ああ・・・ もう寝ようか。 この調子じゃ明日も雨かな。
博士を成田まで迎えに行った方がいいかもしれないね。 」
「 ・・・ ええ。 」
スイスに滞在していたギルモア博士が 明日帰国予定なのだ。
まあ、しばらく二人きりの生活を楽しむんだな・・・、と博士は学会に参加かたがた
スイスの友人の研究所を訪れていた。
いつもなら フランソワ−ズは明日の晩御飯は何にしようか、とか
デザ−トには博士の好物のパイを焼こうかとか一頻り楽し気に話すのだが。
なぜか むっつりと口を閉じている。
「 ( なんだよ? ) じゃあ ・・・ お休み。 」
ジョ−はちら・・・っとフランソワ−ズの顔を覗きこんだが すぐに朗かな声で言った。
「 ・・・ お休みなさい。 」
パタンパタン ・・・
フランソワ−ズは遠ざかるジョ−のスリッパの音をしばらく聞いていたが、
やがて盛大に溜息をつき、ソファから立ち上がった。
・・・ これが結婚生活ってものなの ・・・?
その夜。 雨の音を幸いに島村さんちのご主人と奥さんはてんでに溜息を吐きあっていた。
コイツ ・・・ フランス人だったんだよな。
やっぱり。 このヒトってばジャポネなのね〜〜
背中合わせのベッドの中は 妙に広々していた。
夏の訪れも近い夜、ジョ−もフランソワ−ズも。 ちょっぴり肌寒さを持て余していた。
「 なんじゃ。 喧嘩でもしておるのかね。 」
邸の玄関に入るなり、博士は頓狂な声を上げた。
翌日、一緒に来日したピュンマが博士と共にギルモア邸に帰ってきた。
「 ・・・ 博士。 」
「 あん? 新婚ほやほや・・・ 湯気がたっとるだろう、邪魔して悪いな、と
道々これでも気にしてきたのだぞ。 」
そっと袖を引いたピュンマに ギルモア博士はいいんだよ、とこっそりウィンクしてみせた。
「 お帰りなさい、博士。 ピュンマ。 お疲れ様でした。
フランソワ−ズはにこやかに博士とピュンマの頬にキスをする。
「 あら、喧嘩なんかしていませんわ。 ねえ、ジョ−? 」
「 う、うん。 ・・・ ちょっとその。 意見交換ってか ・・・ まあ、そんなトコ ・・・ 」
「 ふうん? それならいいけど。 」
「 さあさ。 荷物を置いて。 博士、よろしければお風呂、沸いてますわ。
ピュンマ、今晩は活きのイイお魚料理よ。 」
「 ほい、それはありがたい。 日本の風呂は世界一じゃよ。 どれ、お先に頂くとしよう。 」
「 はい、どうぞごゆっくり。 」
博士はとんとん腰を叩きつつ、バスル−ムに直行した。
そのちょっと丸くなった背を見送り、 ピュンマが低く呼びかけた。
「 ジョ−。 」
「 なんだい。 」
「 もしかして。 ちょっとしたミッションになるかもしれない。 」
「 ・・・ そうか。 こっちは万事オッケ−だよ。 」
「 新婚気分に水を差して 悪いね。 」
「 ミッションには関係ないよ。 皆を招集するかい。 」
「 いや・・・ ああ、グレ−トと大人には声をかけておいた。 多分僕等だけで大丈夫だろう。 」
「 そうか。 ドルフィンの整備は万端だ。 あとでもう一度、チェックしておく。 」
「 さすがだな、009。 」
「 ・・・・ 」
に・・・っと交わしあった笑みは最上の信頼の証しだった。
「 ・・・ ひょえ〜〜 なんつう泥地だ! 」
「 カエルに変身しても難儀やったアルか。 」
防護服を泥まみれにしてグレ−トがコクピットに飛び込んできた。
大人はちっこい目を精一杯見開いてモニタ−を睨んでいる。
「 ああ、ひでえ湿地帯だ。 こりゃ・・・ 土地勘のある方の勝ちだな。 」
「 あ〜 そんな泥だらけで・・・ フランソワ−ズはんに叱られるアルよ。 」
「 いかん、いかん。 ・・・ お? 若いモンらはどうした?
マドモアゼルもまだか。 」
「 みなはん、難儀しはってるアル。 どうもバリア−が強くてうまく連絡がとれへんのや。 」
「 う〜む。 こりゃ・・・ 鷲にでもなって空からもう一回行って来た方がいいかもしれんな。 」
「 あと少しで定時連絡が入るやろ。 ちい〜と待ってなはれ。
熱々の点心でも持ってきまひょ。 」
「 おう、忝い。 わが同胞よ、感謝いたす。 」
グレ−トは深々と頭を下げると、大人に代わってモニタ−の前の席を占めた。
ピュンマが齎した情報により、小さなミッションの発動となった。
東南アジアの多国境地帯に 怪しげな動きがあるという。
相当規模の施設で<新しい麻薬>と称されるものが製造され
テロリストの資金源に流れているらしい。
収拾した情報から裏で糸を引く影がチラチラ見えてきた。
「 まったく。 懲りない面々だなあ。 」
「 ふん、世の中そうそうすぐには変わらないということさ。 」
「 それで。 ・・・ 行くだろう? 」
「 ああ、勿論。 」
「 それじゃ、もっと正確な位置と規模をサ−チしておくよ。 」
「 頼む。 来日早々で悪いけど、出来れば今晩出撃したい。 」
「 了解。 そのつもりだったよ。 ・・・ あ ・・・ 」
「 うん、なに? 」
「 フランソワ−ズに 悪いね? 折角穏やかな日々なのに・・・ 」
「 ピュンマ。 わたしならもうスタンバイ オッケ−よ? 」
コンソ−ル盤の後ろから 涼やかな声が響いてきた。
「 あ・・・ や、やあ。 フランソワ−ズ。 」
「 お気使いありがとう、ピュンマ。 でも ・・・ 」
「 < わたしだって003なのよ?> だろ。 」
「 まあ ・・・ ふふふ ・・・ その通りよ。 こちらも準備完了よ。 」
「 さすがだね〜 奥さん。 」
「 フランソワ−ズ。 博士とイワンは? 留守をお願いするから・・・ 」
「 大丈夫よ。 そちらもオッケ−。 」
「 そうか。 」
スクリ−ンを切り替えると、ジョ−はぷいとコクピットから出て行った。
「 ・・・ どうかしたのかい。 その・・・ 喧嘩でもしてるの。 」
「 え? ううん。 ・・・ ただね、わたしが彼の言い分を聞かなかったから。 」
「 言い分? 」
「 残っていろって。 博士とイワンを護れって言ったのよ。
ミッションはぼく達に任せろってね。 」
「 それで。 NO, って言った? 」
「 ええ、勿論。 それで・・・ ご機嫌ナナメなわけ。 まあその他のも生活面でもね・・・
<黙ってオレについて来い> じゃないから。 」
「 ??? なに、なに?? 」
ピュンマは目を白黒させていている。
フランソワ−ズは涼しい顔をして、自分の席につき計器類をチェックし始めた。
「 日本の男のヒトってね。 それが夢なんですって。
結婚すると テイシュなんとか・・・ になりたいそうよ。 」
「 テイシュなんとか??? 」
「 そう。 で・も。 わたしはフランス人ですから。 わたしはわたしの意志で行動するのよ。 」
「 ・・・ いいけど。 ミッションに私情を挟むなよ。 」
「 勿論。 これでも わたしは 」
「 わかってるって。 003、君は百戦錬磨のサイボ−グ戦士、だものな。 」
「 ふふふ ・・・ メルシ♪ 」
フランソワ−ズはさっとピュンマの頬にキスをした。
誰の気持ちにも若干の楽観気分があったのだろう。
小さなミッション ― そんなつもりが意外な苦戦を強いられてしまった。
なによりも地形、この地方独特の湿地帯に文字通り脚を取られた。
基地の破壊と同時に拉致され労働させられていた地元の人々の救出もしなければならない。
少人数での出撃に若干の悔いを感じつつも全員が散開して闘った。
敵方の巧みなバリア−敷設で連絡があまり密に取れなかった。
最後にジョ−が中枢部を撃破した時にはメンバ−の現在地はお互いにかなり不明瞭になっていた。
( ・・・ 009 ・・・ だ。 コア・コンピュ−タ− を 破壊 ・・・ 完了 ・・た。 )
( 了解。 こちらも ・・・ 終了 ・・・ 救出を ・・ ける )
( 空中から ・・・ 完了。 ・・・ 006と ・・・ 合流 ・・・た。 )
( 了解。 あと 10分で ・・・ 全に破壊 ・・・ 退避を 優先 ・・・ )
( 009 ? 003 ・・・ 連絡が ・・・ よ? )
( 最後の ・・・ しているはずだ。 ぼくは ・・ 地元の人々 ・・・ 退避を誘導 ・・・ )
( 了解。 おい! お ・・・奥方を ・・・るなよ! )
( ・・・ ラジャ ・・・ )
切れ切れの通信の結果、サイボ−グ達は辛くもミッションをほぼ完了させた。
泥だらけの防護服姿が ドルフィン号に帰還してくる。
「 ひゃあ・・・ もう、すごいね。 あれ。 003は? 」
「 それが ・・・ まだ連絡が取れへんのや。 」
「 え ・・・ そろそろジョ−の最終爆破時刻じゃないのかい。 」
ピュンマはモニタ−に駆け寄った。
( おい! 009?? 003がまだ帰還しない。 連絡が取れないんだ。 )
( わかった。 あと少しで人々の退避が完了する。 こちらが優先だ。 )
( そうだけど・・・ 最終時刻まであといくらもないよ! )
( わかってる。 003も了解していると思う。 )
( でも! 連絡が・・・ あ! )
「 なに、どうしたアルね。 」
「 009のやつ、脳波通信を閉じちゃったんだ。
あと3分か。 もう一度、003を呼び出してみるよ。 」
「 もう一回上空を旋回してくる。 ピュンマ、ドルフィンも発進体制に入っておけよ。 」
「 うん、もうスタンバってる。 」
「 おう。 じゃ、行って来る。 」
「 頼む。 」
・・・ ド -------- ン ・・・ !!
空気が烈しく振動し、腹の底に響く音が聞こえてきた。
ピュンマと大人はモニタ−に張り付いたままだ。
「 ・・・ 大丈夫かな。 」
「 飛ばして見るアルか。 ・・・ あ 」
グレ−トの姿がモニタ−に映る。 多少羽先は焦げているようだがとりあえず無事らしい。
「 あとは ジョ−達だけど。 」
「 ハッチを開けるアルよ。 」
「 うん、お願いする。 ・・・ わ !!! 」
シュ・・・!っと聞き慣れた音と共に、009がコクピットに忽然と現れた。
「 あ・・・ 驚いた。 ・・・ !! 」
ピュンマの言葉が息を呑む音で途切れてしまった
― 009の腕には 003がしっかりと抱かれていた。
しかし。
彼は細心の注意を払って彼女をシ−トに横たえた。
目を閉じたまま、泥がこびりついた頬に 血の気はない。
「 ピュンマ。 すぐに博士に連絡を頼む。 ぼくはこのままドルフィンをぶっ飛ばす。 」
「 了解。 あ、グレ−トは・・・ 」
ばさり、と大鷲が床に舞い降り、次の瞬間禿頭が立ち上がった。
「 ここに帰還せり。 おお、マドモアゼルも戻ったか。 うん、どうした? うわ ・・・! 」
「 グレ−ト! 早くシ−トに着け。 」
「 ・・・ 了解 !! 」
急上昇してゆくドルフィンに脚をとられつつ、グレ−トは自分の席に転がり込んだ。
「 ・・・ おい。 マドモアゼルは! 大丈夫なのか!! 」
「 止血はしてある。 自動操縦に切り替えたら ・・・ 」
ジョ−はそれきり、口を閉ざし操縦に専念した。
( ・・・ おい。 大丈夫なのか。 )
( 君とほとんど同時に帰還したからね。 僕らにはわからない。 )
( 可哀想に・・・! 早くちゃんとベッドに寝かせてあげたいアル。 )
ガクン・・・!
小さな衝撃がコクピットをゆらし、ドルフィンはマッハ飛行を始めた。
「 ・・・ フラン。 フランソワ−ズ・・・・ 」
ジョ−は医療ベッドに付ききりで絶えず低く呼びかけている。
汚れたレ−ベンを着替えることにすら 気が回らないらしい。
「 確かにお前が加速する前に止血をしたのは上出来だったがな。 」
ギルモア博士は大息を吐き、医療用の手袋をはぎとった。
「 もっと早く救出に向かうべきだ。 彼女の気質はよくわかっておるじゃろう?
自分のことなどそっちのけ、じゃ。 」
「 はい、ギリギリまでねばって取り残された人がいないか、確認してくれました。 」
「 ふん。 ちょっとでもタイミングがズレればとんでもないことになっておったぞ。 」
「 すみません。 でも、彼女はずっとぼくが行くのを待っていてくれました。 ・・・ わかってたけど。 」
「 ・・・ ま、細君の看病は亭主にまかせよう。 あとは養生しだいだ。 」
「 ありがとうございました・・・・ 」
博士は肩を竦め、メンテナンス・ル−ムを出て行った。
ジョ−はその後ろ姿に深々と頭をさげた。
「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ ごめん、ごめんね。
もっと早くきみを迎えに行っていたら・・・ こんなに酷い怪我・・・ 」
ジョ−はシ−ツになげ出された手をそうっとにぎった。
何本ものチュ−ブやコ−ドが絡みついている。
「 愛してるよ、 愛してる、愛してるよ。 ・・・ ごめん、 どうしてもっと言ってあげなかったのかな。
ねえ ・・・ 聞こえる? 愛してるって言ってるんだ、ああ、何回でも何百回でもいうよ! 」
唇を寄せた白い手は すこし熱く乾いたカンジがした。
「 ああ・・・熱があるのかな。 すこし ・・・ 冷やそうか? ちょっと待ってて・・・
ねえ、愛してる、愛してるから。 聞こえるかな。 聞こえるよね・・・ 」
ジョ−は素早く立ち上がると 隅に設置された冷凍保存庫をあけた。
氷をとりだし、タオルに包みこむ。
・・・ ええ ・・・ ちゃんと ・・・ 聞こえたわ。
「 ・・・ え ・・・? 」
一瞬棒立ちになり、そっと ・・・ そうっと振り向いたとき。
ジョ−の目に 彼の永遠の恋人の笑みが映った。
「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ ! 」
「 ・・・ ええ。 絶対にジョ−が 来てくれるって わかっていた もの。 」
途切れ途切れの言葉が それでも微笑と一緒に零れてきた。
「 ・・・ 愛してるよ ・・・! 」
「 愛してる ・・・ わ ・・・ 」
ジョ−の手を 細い指がしっかりと握り返した。
「 ・・・・・ ・・・・・ ! 」
島村家 がすこしづつ出来上がってきた。
ジョ−だけのものでも、フランソワ−ズだけが作ったのでもない、二人の<島村さんち>・・・
ここが ぼくの ・ わたしの ウチなんだ
見交わす笑みがすべてを語っている。
握り合った手が いま、とてもとても愛しい。
この手は ぼくだけの、ぼくのために存在する唯一無二のもの・・・
護る! 命に換えても ぼくはこの手を ・・・ このひとを護る!
わたしのために わたしだけを待っていてくれた 彼の手。
離さないわ。 絶対に。 この手を受け止め、一生温めてゆくわ。
二人の手に 二人の涙が 零れ落ちた。
これでいい。 これでいいのだ。
二人で怒って 泣いて ・・・ そして また一緒に笑ってゆこう。
だって ぼくたちは わたしたちは 神様の御前に誓った夫婦なんだもの。
いつだって 一緒に。 人生に戦場を歩んでゆこう。
<新婚さん> は 一人前の夫婦へと歩みはじめた。
「 お早う ・・・ んんん ・・・ 」
「 お早う、ジョ−。 ・・・ 愛してる♪ 」
「 ・・・ う ・・・うん、 あ ・・・Je t'aime ・・・ 」
「 うふふふ♪ 」
島村さんちの朝は、キッチンでの熱いキスで始まる。
朝日に煌く亜麻色の髪、島村さんの奥さんは幸せに頬を染める。
セピアの瞳も眩し気に、島村さんのご主人はぼそぼそと奥さんの国の言葉で愛を囁く。
朝御飯は白い御飯に熱々のお味噌汁。 オムレツに納豆にサラダ。
ただし、奥さんは香り高いカフェ・オ・レを楽しみバゲットを齧る。
食卓越しに笑みを交わし、今日も島村さんちの忙しい一日が ― 穏やかに幕を開けるのだった。
・・・ このヒトと 一緒になって ― し ・ あ ・ わ ・ せ ♪♪
ただし。
この小さな平和、穏やかな・安らぎの世界は。
つぎの年にコウノトリが どかん! と愛の荷物を ( それも二つも ) 落として行った時
まことにあっけなく。 あっという間に。 なし崩しに。 雨散霧消するのであるが。
まだ二人はそれを知らない。
*********** Fin. **********
Last
updated : 07,31,2007.
index
***** ひと言 *****
はい、お馴染み・島村さんち、でございます。
めでたく結婚したジョ−君とフランちゃんですが・・・ さて 現実はそんなに甘くない??
この物語は平ゼロ設定なのですが、平ジョ−って案外拘り屋さんかも・・・
<黙ってオレに〜> は あの、例の 『 関白宣言 』 です。