『 聖夜 』
とにかく賑やかなのだ ・・・! 活気に溢れている、 なんてもんじゃない。
ここ数日で 少々田舎びた地元の商店街すら もう・・・大騒ぎの最中、にみえた。
12月に入ってすぐに街中に例の < 誰でも知っている > あのメロディー このメロディーが流れ、
コンビニ という超小型のなんでも屋 にはちょこん、とちっこいツリーがお目見えした。
もちろんホンモンじゃない。 組み立て式の オモチャ である。
へえ ・・・ と思っているうちに、商店街はちかちかぴかぴ点滅の連なりで飾られ
< プレゼントに最適 ! > のチラシがごっそり無料配布されたりする。
大売出し、 には必ず < クリスマス > の文字が被せられていたし
その日のために御馳走やらケーキの用意をすることを < まだ間に合います! >
というセリフで煽っていた。
― うそ・・・! だってまだ12月になったばかり よね???
フランソワーズの最初のびっくり だったのである。
「 ・・・ へええ ・・・ ここって。 面白い国ねえ ・・・ 」
この極東の島国に逃げてきて いろいろあったけれど、落ち着いた日々を送るようになり・・・
新年まであと一月 ・・・ という時期に フランソワーズは愕然としたのだ。
たいへん! クリスマスの用意 しなくっちゃ〜〜〜 !!!
8人の仲間たちと老科学者と ― この極東の小さな国に住むことになった。
なんとか辛くも追っ手を振り切り、さらに時期をおいてヤツラの本拠地を殲滅させたので
彼らの当面の安全は確保された。
仲間たちはそれぞれ 故郷に帰るもの、この地に留まるもの、 と様々だったが
皆明るい顔で それぞれの道へと旅立っていった。
「 わたしは ― ここで一緒に暮したいです。 いいでしょうか。 」
フランソワーズは真剣に 老科学者に頼んだ。 もちろん大歓迎された。
そして 間も無く海沿いの家で 老科学者と超能力ベビー、そして 茶髪の青年との
共同生活 がはじまった。
ふんふんふ〜〜〜ん♪ 機嫌のよいハナウタが聞こえてきた。
「 あ ほら。 ジョーのお帰りだわ。 今日はいいこと、あったのかしら。 」
「 ウン。 ケド ふらんそわーず、 ヨクワカルネエ ・・・ 」
「 うふふ・・・ あの足音でね〜 ふふふ 彼は判り易いヒトみたいね♪ さあお茶にしましょ。 」
「 ・・・ みるくダヨ 僕ハ。 」
「 はいはい おいし〜〜いミルクを適温でさしあげます。 」
「 オネガイシマス 」
「 いいコね〜イワン♪ さ〜て・・・ お湯も沸いてきたし・・・ 」
彼女がしゅんしゅんに沸いたお湯を ティー・ポットに注いでいると ご本人がやっと顔をだした。
「 ただいまあ〜〜 くんくん ・・・・いい匂いだなあ〜〜 」
「 お帰りなさい ジョー。 お茶タイムよ〜〜 」
「 ふう〜〜ん ・・・ホントに いい香りだなあ〜〜 わあい お茶 お茶〜〜 ♪ 」
「 あ ・・・ ジョー もお好き? このお茶 ・・・ 」
「 よくわかんないけど ・・・ この匂いだと余計にお腹が空きます〜〜 」
「 うふふ・・・正直な感想でよろしい。 ちゃんとパウンド・ケーキ、焼いていあるわ。 」
「 うわお〜〜 幸せ〜〜 あ ぼく、手を洗ってくる〜〜 」
彼は ぱたぱたと階段を駆け上がってゆく。
「 ね? 超〜〜ご機嫌ちゃんでしょ? きっとなにかいいことがあったのね。 」
「 イヤ? 彼ニトッテハ通常トタイシテ変ワラナイ日ダッタヨウダヨ? 」
「 まあ そうなの? だってあんなににこにこ・・・ご機嫌じゃない? 」
「 アノネ ふらんそわーず ? じょーハ コノ家ニ帰ッテクルノガ 最高ニ楽シミナノサ。 」
「 ・・・ このウチに?? だってここは町中から随分離れているし・・・
同居人は老人と赤ん坊だけ でしょ? 」
「 ふらんそわーず? 自分ノ ・・・ オットイケナイ。 みるく頂戴〜 」
「 え? あ ああ はいはい ・・・ どう? あらら 気に入ったのかな・・・ 」
彼女の腕の中でたった今まで 大人びた発言をしていた赤ん坊は哺乳瓶のミルクに夢中に
なっている。
「 ふふふ ・・・ ほら ゆっくりお飲みなさいね〜 」
「 やあ ・・・ イワンの方が先にお茶をしてるなあ。 」
階段を飛び降りてきたのじゃないか ・・・と思う速さで ジョーは戻ってきた。
「 そうねえ・・・ 新しいミルク、気に入ったみたい・・・ 」
「 ふうん ・・・ ミルクもそれぞれ味が違うのかなあ? 」
「 さあねえ ・・・ でも ほら牛乳でも違うから ・・・ ジョー、ごめんなさい、ちょっと
イワンのこと、お願いできる? 」
「 え いいよ? じゃあ ミルクが終ったらトントンして ケフ・・・ってやって。
それからネンネ・・・かな? 」
「 まあ 〜〜 よく解っているのね? ・・・ あの もしかして経験あり? 」
「 あは〜〜 まさかあ〜〜〜 いっくらなんでも <未婚の父 > じゃないよ〜
育った施設でね、小さい子の面倒をみてたから慣れているんだ。 」
「 そうなの? じゃあ お願いします。 わたし、お茶の準備をしておくから、 」
「 オッケー 〜〜〜 」
ジョーは慣れた手つきで 哺乳瓶ごとイワンを抱きとった。
「 あは ・・・ あったかいねえ〜〜 おい、イワン、ご機嫌だなあ? 」
「 ・・・・・・ 」
「 ふ〜ん 聞こえているクセに・・・ ま いっか。 たまにはフツーの赤ん坊、してろ。 」
やがて赤ん坊は満腹になると 可愛いゲップをさせてもらい、あとは他愛もなく眠ってしまった。
「 寝ちゃったよ〜 ・・・ クーファンに戻すね 」
「 お願いします。 ありがとう〜 さあ どうぞ。 」
「 うわお♪ 」
ジョーは嬉々として お茶のテーブルに着いた。
「 むぐ 〜〜〜 あ 〜〜〜 このケーキ、美味しいねえ〜〜
フランって お料理上手なのだねえ〜〜 すごいなあ〜 」
「 ありがとう、よかった〜〜〜 ケーキ、焼いたの、本当に久し振りなの。
ちょっと自信がなかったんだけど ・・・ 」
「 おいし〜〜〜 お茶もケーキも最高♪ くりすます・けーき とかも作っちゃう?
あ そうだよね もうすぐ クリスマスだよねえ〜〜 」
「 え?? だってまだ12月になったばかりよ? 」
「 そうなんだけどさ、 街はもうクリスマス・モードに突入さ、 」
「 ??? 日本人って そんなにせっかちなのかい?? 」
「 せっかち? う〜〜ん そうかな? だってね、ずっとそんな感じだから・・・
そうだ 今度一緒にヨコハマとか行ってみようよ? 」
「 え ・・・ 」
「 女の子は皆 ヨコハマのクリスマスはろまんちっくでいいわあ〜 ・・・とか言うよ?
古い洋館とかあるし ・・・ お店も飾りつけがキレイなんだ。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ ジョーは 好き? そういうの ・・・ 」
「 ぼく? 」
「 うん。 ろまんちっく なクリスマス とか ・・・ 好き? 」
「 あ ・・・・・? う〜〜ん そりゃキレイだなあ とは思うけど ・・・
ぼくはさあ ずっとふつうの家庭でのクリスマス って 憧れてきたんだ。 」
「 ・・・ ふつうの? 」
「 あ ほら ぼくって施設育ちだろう? だから一般家庭の様子って知らなくて。
きっと お母さんの美味しい手料理とかケーキがいっぱいなんだろうな ・・・ 」
「 ふうん ・・・ 」
「 きみの家では どんな風だった? 」
「 どんな風・・・って ・・・ フランスではクリスマスは家族の行事だもの。
ほとんどのヒトが家族ですごすわ。 お家で御馳走つくったりプレゼント交換したり ね。 」
「 そっか〜〜 家族で、が基本なんだ? 」
「 そうね。 ウチでも ママン、 いえ 母はお料理は上手だったけど ・・・
あんまり覚えてなくて。 やっぱりケーキの方が印象、強いわね。 」
「 え お母さんの手作りケーキ?? 」
「 そ。 普段はシフォン・ケーキとかマドレーヌが多かったけど ・・・
クリスマスにはね、 フランスではやっぱり ブッシュ ド ノエル なの。
ほら・・・樹の幹みたいなケーキ。 」
「 ・・??? 渦巻きのやつ? 年輪みたいな ・・・ 」
「 へ? ああ あれは バーム・クーヘン でしょ。 アルベルトの国のお菓子だわ。 」
「 へええ・・・・ それじゃ ぼく その ぶっしゅ 〜〜 なんとか、しらないや。 」
「 そう? それなら今年のクリスマスには ― 作るわ! 」
「 え!?? ホント??? うわ〜〜〜〜〜〜 夢みたい〜〜〜〜〜 」
ジョーは 目をパチパチさせものすごく嬉しそうだ。
うわ ・・・ この顔 〜〜〜 可愛い〜〜
胸 キュン キュン ♪
「 ぼくが子供の頃はさ、クリスマス ・ ケーキって 毎年大手企業からの寄付とかで
大きなデコレーション ・ ケーキ が施設に来るんだ。
それを皆で分けるから ・・・ こ〜んな欠片になっちゃう・・・
いつかお腹いっぱい〜〜 ケーキがたべたい!って思ってたんだ。 」
彼はくすくす笑いつつ 話してくれる。
「 あ じゃあ デコレーション ・ けーき がいいの? 」
「 う〜〜ん きみが作ってくれるのだったらなんでもいいや♪ 」
「 ま 〜〜 ジョーったら 〜〜 」
「 わあ〜〜 嬉しいなあ。 今年のクリスマスは < おうち・クリスマス > だあ♪
あ なんでも手伝うから! ぼく、ジャガイモの皮むきとか上手いんだよ〜 」
「 あら そうなの? それじゃ ・・・ お願いするかも? 」
「 うん いいよ。 いつでも言ってくれよ。 」
「 それじゃね ・・・ 今日の晩御飯用なんだけど。 ジャガイモを5個 剥いておいてくれる? 」
「 了解です〜〜〜♪ 」
「 わたし、 買い物に行ってくるから。 」
「 それも了解です〜〜 ふんふんふ〜〜ん♪ 今日の晩御飯はな〜にっかな♪
じゃ まずは手を洗ってきま〜す 」
茶髪ボーイは超〜〜〜ご機嫌ちゃんでバスルームに行った。
そのセピアのアタマがキッチンから消えると すぐに彼女はコートを着て勝手口から飛び出した。
「 ― 買い物に行って。 日本のクリスマス料理 を調べてこなくちゃ! 」
ご機嫌な彼と話をしていて 彼女は はた! と気がついた、というか思い出したのだった。
― わたし お料理はあんまし得意じゃない ・・・!
パリのアパルトマンで兄と暮していたころは 簡単なもので済ませていた。
軍人の兄は長期で家を空ける事が多かったし、彼女自身も忙しく食事の用意は面倒だった。
レッスンやリハーサルの帰りにサンドイッチを買ってきたり、クラッカーにチーズとハム、そして
オレンジ ・・・ あとはカフェ・オ・レ か ビール ・・・ そんな献立がほとんどだった。
「 そうなのよ〜〜 それにこの国は チン!で とっても美味しいものができるでしょう?
だから ・・・ そんなに作ったこととかないし〜〜 」
つまり フランソワーズの<調理能力>はこの国の同世代・女子と似たり寄ったり・・・なだけなのだが。
「 ・・・ だって。 あんなに嬉しそうな顔 するんだもの〜〜
いいわ! わたし ・・・ 頑張って 日本の < クリスマスのお料理 > 作る!
レシピ本とか調べれば ・・・ きっと大丈夫! 」
午後の寒風に ほっぺをまっかにしつつ、 彼女は地元のスーパーへと駆けていった。
駅の反対側にあるスーパーは 結構混んでいた。
いつもは地元の商店街で夕食も買い物をすませるのだが ― 今日は遠征した。
「 かんたん・くっきんぐ ・・・って雑誌も置いてあったし。 きっとあるはずよ ・・・
え〜と・・? 」
ざっと店内を回ってからレジの側までやってきた。 カートの中はまだ空。
雑誌をみてから買い物をしよう! と決心していたのだ。
「 ん〜〜〜〜 ・・・・ あった!! 」
レジの側のクーポン券やら大安売りのお知らせ、なんかが置いてあるコーナーに
きらきらしたケーキの写真が表紙になっている冊子が並んでいた。
「 これよ これ これ。 え〜と ・・・ く り す ま す! これは読めるのよ。
ふう〜〜ん ・・・ 」
フランソワーズはぱらぱらその冊子を捲ってみた。
「 あら ・・・ これ レシピ本じゃあないのね? ケーキのカタログ?
でも みんな美味しそうねえ ・・・ ふうん ・・・ 」
どんどん捲ってゆくと オードブルなんかのページもあり その後は。
「 あ これこれ! これが日本の クリスマス料理 なのよね? 」
やはりキレイな料理がばば〜〜んと並んでいた。
「 この本でいいわ。 買って帰ろっと。 えっと 値段は何処に書いてあるのかなあ・・・? 」
あちこち探していると 人々がぱっぱとその冊子を持ってゆく。
「 あら ・・・ 無料 なのかしら。 でも・・・ ちょっと聞いてみようかな。
・・・ あのう〜〜 これ もってかえっていいのですか? 」
「 はい? ああ それは無料です。 はい どうぞ。 ぷり〜〜ず 」
レジに忙しい店員さんは それでも笑顔で応えてくれた。
「 まあ そうなんですか。 メルシ・・・ よかった〜〜 」
フランソワーズは早速その冊子をひとつ、カートに入れた。
「 ふうん ・・・ これはしっかり準備が必要ね。 帰ってから研究しなくちゃ。
え〜と それじゃ今晩は そうねえ、ジョーの好きなクリーム・シチュウでいっか・・・ 」
ふんふんふ〜〜ん♪ ハナウタまじりに彼女はカートを野菜売り場に向けた。
「 ごちそうさまでした。 あ〜〜〜美味しかった・・・・! 」
「 うふふ・・・ いっぱい食べてくれてありがとう、ジョー。 」
その晩 ― バイトで遅く帰ってきたジョーは クリーム・シチュウの鍋をほぼ空にした。
市販のルウを使ったので少々後ろめたい気分だったフランソワーズとしては嬉しいびっくりで、
ちょっと心配でもあった。
「 あの・・・ごめんなさい、本当に美味しかった・・・? 」
「 え〜〜? なに? 美味しかったよォ〜〜 ぼく、この味、大好きでさあ〜
それにチキンとか野菜もごろごろ入ってて感激だよ♪ 」
「 あ よかったわあ〜〜 えへへへ ・・・ 実はね、あんまり自信がなくて ・・・ 」
「 え〜 そうなんだ? 物凄く美味しかったよ〜 さすがフラン〜〜 お料理上手だなあ〜って
ぼく、感心して感激して食べてたもの。 」
「 ・・・あ あら。 わたし そんなに上手じゃないわ ・・・
それに実はね〜 今日のシチュウは <クリーム・シチュウの素>を使っちゃったのよ。 」
「 ??? だって普通みんなそうだろ? でもね〜〜 きみみたいに上手なヒトが作ると
全然味がちがうよ〜〜 ぼく 最高〜〜〜に満足♪ 」
「 まあ うれしいわ 」
「 ね? クリスマス料理ってうちで作るんでしょ? ぼく、買出しとか手伝うから。
なんでも言ってくれよね。 」
「 え ええ ・・・ お願いします。 」
「 うわ〜〜い♪ も〜〜い〜くつねると〜〜 くりすます〜〜♪ 」
「 あ ・・・ は ・・・ 」
滅茶苦茶に上機嫌の彼に < 実は料理は苦手 > < あんまり好きじゃない > とは
口が裂けても言えなくなってしまった。
・・・ い いいわ! あのメニュウ表を見ればいいのよね!
使ってある材料 とか ・・・ 書いてあったし。
あ! ケーキ ・・・! ケーキ ・・・ も あんな凄いのがいいのかしら・・・
「 あの ・・・ ジョー? 」
「 なに。 」
「 そのう・・・ ケーキもこう〜〜 大きくて生クリームたっぷり・・のが食べたい? 」
「 あ ・・・うん あの さ。 ケーキについては ・・・ お願いがあるんだ。 」
「 ( どき ) あ あら なにかしら ・・・ 」
「 うん あの ・・・ フランのバナナ・シフォン・ケーキ ・・・ リクエストしてもいい?
あ ・・・ クリスマスにヘンかなあ〜〜 」
「 ううん ううん ううん !!! 」
フランソワーズはぶんぶんと 首を振った。
ジョーの言う バナナ ・ シフォン ・ケーキ とは フランソワーズの母直伝で、
彼女は子供の頃に作り方を覚えていた。
シフォン ・ ケーキの生地にフォークの背で潰したバナナをた〜っぷり入れて焼く・・・ という
わりとお手軽なつくりだ。
「 いい、 いい!! 全然 オッケ〜よ! あのケーキ、博士もお好きなの。
ジョーも好きって知らなかったわ〜 」
「 あは ・・・ そう? ぼく ・・・ きみの作ってくれたものなら ・・・
その ・・・ なんだって あ〜 ・・・ きみが < 大好き > だよ。 」
「 ま〜あ 嬉しい♪ 」
ジョーは前髪の影で頬をそめつつもごもご言っているが、 フランソワーズはてんで
気がついていない。 彼女はさささ・・・・っと食器を洗うと 例の薄い冊子を取り出した。
「 さ〜あ ! これからお勉強です。 あの ジョー ・・・ 読めない字が出てきたら
教えてくださる? 」
「 いいよ〜〜 え〜 それ なに? 」
ジョーはお皿を拭きつつ振り返る。
「 え ・・・? あの ・・・ クリスマス料理 の メニュウでしょ?
この国のクリスマスのお料理ってすごくキレイなのねえ ・・・ 何種類もあって・・・
それでこうやってお弁当箱につめるのね。 」
「 ??? おべんとうばこ ?? 」
「 あ 違うの? なにか特別な呼び方があるのかしら。
でも ・・・ こんなに何種類も作るの、たいへんじゃないの? 」
「 ・・・ なんかよくわからないんだけど ・・・ それ 見てもいい? 」
ジョーは 彼女の手元の冊子を指した。
「 ええ ええ。 スーパーでもらったの。 皆 これ見てたわよ?
・・・ ね、わたしの知らない食材ばっかりなの。 く ろま め とか き んと ん? 」
「 ・・・ フラン 〜〜 これってさあ 」
「 え?? 」
半時間後 ― キッチンのスツールにまだフランソワーズが座り込んでいた。
目の前には 薄い冊子が広げられたままだ。
ものすごく多種のオカズばっかり・・・みたいな < お弁当 > は クリスマスに作る必要はなかった。
「 あの ね。 これって ― 正月料理 なんだ。 」
ジョーはカタログを見て にこにこしつつ言ったのだ。
「 え? しょうがつ料理? だって ・・・ これ、クリスマス料理のレシピ・カタログ でしょ? 」
フランソワーズは表紙をもう一回確かめる。
「 ほら ・・・ くりすます けーき くりすます ぱーてぃ りょうり って! 」
「 うん ・・・ そうなんだけど。 ねえ フラン。 それ ・・・ ひっくりかえしてみて? 」
「 ?? ひっくりかえす? 」
「 そ。 反対側から開いてごらんよ。 」
「 え・・・ こっち? あ。 お せち りょうり ?? 」
「 そうなんだ。 これってさ〜 クリスマス・ケーキと御節料理の予約用カタログなんだ。
クリスマスの方は左から見て お節料理は右側から見るようになってるのさ。 」
「 お せち りょうり ってなあに。 」
「 あ ・・・その・・・豪華なお弁当箱詰めみたいなヤツのこと。
日本の伝統的な正月用の料理なんだ。 」
「 ふうん ・・・ そうなの ・・・ わたし、 左側からどんどんめくっていったから・・・
お せちりょうり の方まで行ってしまったのね? 」
「 そうらしいね。 」
「 な〜んだ 〜〜 あ でも ・・・ そうしたら ・・・ う〜〜ん? 」
「 どうしたんだい。 」
「 あの ね。 日本のクリスマス料理って ・・・ どんなの? 」
「 え ・・・ どんなの・・・って う〜〜ん チキンとかサラダとか ・・・ オードブルとか??
う〜〜〜ん ・・・ごめん、家庭料理ってぼく、知らないからよくわかんないや。 」
「 あ ごめんなさい ・・・ 」
「 いいって いいって。 気にするなよ〜 きみがきみの家で食べてたみたいな晩御飯、
作ってくれればいいから さ♪ 」
「 ・・・ それで いいの? 」
「 ウン♪ 言ったろ〜〜 きみが作ってくれたものなら なんだって最高♪ って。 」
ジョーは またまたに〜〜っこり笑い ― 拭き終えた皿を全部食器棚にしまった。
「 後片付け 完了〜〜〜 」
彼はコークを一本、冷蔵庫から取り出すと おやすみ〜〜 と 相変わらず
にこにこしつつ 寝室へ引き上げた。
わたしもお茶を淹れたら寝るわ・・・とフランソワーズも笑顔で応えた が。
そして フランソワーズは。 座り込んだ。
「 ママンの作ってくれたクリスマス・料理〜〜 う〜〜ん ・・・ その時によって違ったような・・・
チキンの時もあったわね。 ・・・ あのスタッフド・チキン、つくるの?? う〜〜ん???
あ!! それにプレゼント〜〜〜 !! どうしよう?? 」
しんしん冷えてきたキッチンで フランソワーズはアタマを抱えてしまった。
絢爛豪華なお弁当 は作らなくてもいい。 これは正直 ほっとした。
けど。 日本の家庭料理@クリスマス には どうやら スタッフド ・ チキン が定番らしい。
「 ・・・ 大人に相談してみよ ・・・ それに プレゼント は ・・・ う〜〜ん ・・・ 」
日々の生活費用に、として彼女はこの屋敷の財布を預かっていた。
博士が毎月、かなりの額を渡してくれている。 そしてカードも使える。
日々の生活で経済的に不自由を感じることは 全くない。
余ったお金はちゃんと貯蓄して 屋敷のカーテンを変えたり庭の手入れに使ったりしている。
服装に無頓着な博士とジョーの 着替えにも気を配っている。
「 でも ・・・ アレはわたしのお金じゃないもの。
わたしがわたし自身のために自由に使えるお金じゃないわ。 」
高価なモノは買えるわけがない。 そして 時間も ない。
「 う〜〜ん ・・・ もうちょっと < 観察 > してみようかな。
そうよ! スーパーとかで どんなお料理があるか見てもいいし。
プレゼントは ・・・ わたしが出来るのは編み物くらいよねえ ・・・ 今からセーターは
ちょっと無理だし ・・・ 」
カタン ― キッチンのドアが開いた。
「 ?! あれ。 まだ起きてたの?? 」
ひょっこりジョーが顔をだした。
「 フラン ・・・ 眠れないのかい。 」
「 え ・・・ い いえ そんなこと ないわ。 あ あ〜〜 今ね なにか温かい飲み物
でも ・・・って思ってて ・・・ ジョーは? 」
「 うん? あ 〜 ぼくもさ、 もうちょっと熱いコーヒーが欲しくて。 」
「 あら それなら一緒に淹れるわ。 あ でも豆があったかしら ・・・ 」
「 あ〜 インスタントのでいいんだ。 ほら その棚に入ってる。 」
「 え そ そうなの? 」
「 ウン。 ぼくがやるよ。 きみは? ブラックは好きじゃないんだろ ? 」
「 ・・・ ええ 」
「 じゃあ カフェ ・ オ ・ レ にするね〜 いい? 」
「 お願いします。 ジョーってなんでもできるのね。 」
「 なんでも・・・って ぼくができることって。 インスタント物の チン! だけさ。 」
「 そうなの? あ あの ・・・ ジョー、教えてくれる? 」
「 なに〜 ? 」
「 あの ね。 ほら いつか言ってたでしょう、なんでも100円で売ってる店って。 」
「 ? ・・・ あ〜〜 100均のこと? 」
「 ひゃっきん っていうお店なの? それ どこにあるのかしら。 」
「 あは 100均って名前じゃないけどね。 え〜と ・・・ この町だったら ・・・
う?? ない かも ・・・ 」
「 え ないの? 」
「 う〜ん ・・・?? 思いつかないなあ ・・・ 都心の方とか ヨコハマとかカワサキとか
なら すぐみつかるけど ・・・う〜ん?? 」
ジョーは真剣に考えこんでいる。
「 あ いいわ いいわ。 ヨコハマに出て探してみるわ。 」
「 なにか欲しいものがあるの? 」
「 え ・・・ ちょっと興味を覚えたの。 ほら ・・・ この国はいろいろなモノがあるでしょ? 」
「 まあね ・・・ ぼく、ブランド品とか高級品は知らないけど。 安いトコなら任せてよ。 」
「 そ そう? じゃ ・・・ この町では そういうお店 ある? 」
「 う〜ん? ここはさあ 昔ながらの商店街とかあるから100均はないんだよね。
でも 雑貨屋さんとかリサイクルショップとか ・・・ 専門の店があって面白いよ。
ほら・・・ 博士が買った碁石と碁盤 あるだろ? 」
「 ああ ・・・ アルベルトが喜んでいたわよね、腕を磨けるって ・・・・」
「 そうだったね〜 アレもさ、リサイクルの店で見つけたんだって。 」
「 へええ ・・・ そうなの・・・ それじゃわたしも探検してみようかな。 」
「 うん 楽しいよ〜〜 実はね〜〜ぼくのチャリ用のバッグもリサイクル・ショップ発。
なかなか使いやすいくて気に入ってるよ〜 」
「 ふうん ・・・ 蚤の市 みたいなお店があるのね。 」
「 のみのいち?? なに それ。 」
「 え・・・知らないの? う〜〜ん パリのねえ・・・ そうねえ、日本で言ったら
フリマみたいなカンジ? ものすごくいろいろなモノがでるの。
掘り出し物も沢山あるのよ。 」
「 へえ〜〜 行ってみたいなあ〜 」
「 楽しいわよ〜〜 わたしもお兄さんといろいろと欲しいものを探し出したわ。 」
「 ふうん〜〜 ねえ いつか案内してくれる? 行きたいな・・・ その ふ、二人で・・・ 」
「 ええ いいわよ♪ ジョーにパリ中を案内しちゃう〜〜 」
「 ぜひぜひ。 あ ・・・ もう寝ようよ? 遅いし寒いし・・・ 」
「 そうね。 お休みなさい、ジョー。 カフェ ・ オ ・ レ 美味しかったわ。 」
― ちゅ。
何気なくジョーの頬にキスをすると フランソワーズは軽い足取りで寝室に行ってしまった。
う そ ・・・・! 彼は ・・・ 深夜のキッチンで固まったまま ・・・
― ガ〜ラ ガ〜ラ −−−− 買い物カートが元気よく坂道を降りてゆく。
翌日、 フランソワーズは大いに期待しつつ ・・・ 地元商店街へと < 出動 > した。
ひゅるる〜〜〜・・・・ と海風が金髪をゆらす。
「 うわ・・・寒 ・・・ お日様は暖かいのに 〜〜 え〜い走って温まるわ! 」
ガラガラガラガ −−−−− カートはほぼ宙に浮いていた・・・
らっしゃ〜〜い!! 安いよ〜 長ネギが安いよ〜〜 鍋モノにどうぞ〜〜
寒ブリだよ〜 脂が乗ってて最高だよ〜 こっちは朝獲りの牡蠣〜〜
わいわい がやがや ― 地元商店街はそれなりに賑わっている。
過疎地域・・・ なんて言われているが 夕刻はさすがに人々が多く行き交う。
フランソワーズも買い物カートを引っ張りあちらこちらの店先で もみくちゃになっていた。
「 え・・・っと 〜〜 あの〜〜 さば ください〜〜 はい それ! 」
「 お? 洋館の若奥さん〜〜 鯖、食べられるかい? 」
「 ハイ。 味噌煮は家族皆大好きなんです。 」
「 お〜〜 そりゃいいや。 ほい それじゃ・・・ コレがいいな、 ほい。 」
「 ありがとうございます。 はい お代。 」
「 まいど〜〜♪ また来てくれよ〜美人な奥さん♪ 」
ふう ・・・ <おくさん> じゃないんだけど なあ・・・
「 お〜〜 岬の美人奥さん〜〜 らっしゃい! なに? ねぎ? たまねぎかい。 」
「 こんにちは! ねぎ、ながねぎ ください! ながねぎ! 」
「 はいよっ! ・・・ で コレ ・・・ 炒めるのかい? 」
「 ?!? 鍋にいれます〜〜 今夜は鶏鍋なの。 」
「 ふうん そりゃいいや。 じゃ こっちの水菜もどう? 」
「 あら美味しそう〜 ください! 」
「 はい まいど♪ 」
はあ ・・・ おくさん じゃないのに ・・・ ふう
ガラガラガラ −−− 満杯の買い物カートをひっぱりその店の前までやってきた。
勿論 どこにも看板などない。 店先には衣類やらバッグ、オモチャなんかも見えた。
どれもなかなか良さそうだが ― 新品ではない。
「 あ ・・・ ココっぽい? だっていろいろなモノが並んでいるもの。 」
こんにちは ・・・とフランソワーズはおそるおそる店に入った。
半時間後 ― 「 またきますね! 」 大きな紙袋を抱えて金髪の美女が店からでてきた。
「 うふふふふ〜〜〜♪ 大収穫〜〜〜♪ 頑張っちゃうわ〜〜 」
フランソワーズは半端モノの毛糸やら布地を山のように! 購入したのだ ― それも安価で。
「 プレゼントはね、 絶対手作りにしたかったのね〜 さあ 今日からがんがん編むわあ〜 」
彼女は大いにご機嫌ちゃんで満杯の買い物カートもなんのその、悠々と崖っぷちの我が家へと
急坂を登っていった。
「 ・・・ いやあ〜 タクマシイねえ〜〜あの若奥さん ・・・ 」
海岸通りの商店街では < 岬の洋館の若奥さん > がちょっとした話題になっていた。
その夜から ― フランソワーズの編み物作戦が始まった。
ささささ〜〜〜と後片付けをして ポットに熱いコーヒーをつめると早々に部屋に引き上げた。
いつもジョーとTVを見たり、博士がまだ居ればのんびりお喋りしたりするのだが ・・・
「 じゃ。 お休みなさい。 ジョー 戸締り お願いね。 」
「 あ ・・・ オヤスミナサイ ・・・ 」
「 ほい お休み。 おや 今晩はフランソワーズは早仕舞い、かな ・・・ 」
トントントン・・・・と自室に戻り、 ベッドにお気に入りのクッションを置いて ― 戦闘開始。
「 ふんふんふ〜〜ん♪ まずは博士ね〜 えっと ・・・ 」
彼女は博士用にと、落ち着いた色を数玉えらび、 編み棒を選ぶと ― 猛然と編み始めた。
― 翌朝
「 やれ おはよう。 ・・・ うん? フランソワーズ ・・・ おらんのかな ・・・・ 」
博士は 習慣になってる早朝の散歩から戻りキッチンを覗いた。
「 まだ起きてない ・・・ワケはないな。 ちゃんと朝食の用意が整っておるのに・・・ はて?
朝のお茶が欲しいのだがな ・・・ 」
カタン ― 博士がドアを開けて一歩踏み込んだ途端に
「 おはようございます。 お湯なら今 すぐに沸きますよ〜〜 」
床から声が聞こえた。
「 わ!? ・・・ なんじゃ〜 そんなところに座り込んで・・・ 寒くないのかい。 」
「 ・・・っと 25 26 で 次が細編み ・・・・ はい? 」
「 誰もおらんのかと思っての。 そこで何をやっているのかい。 」
「 あ ・・・ いえ ちょっと掃除してただけですわ。 あ お茶ですよね〜 いますぐ! 」
フランソワーズはぱっと立ち上がると なにやら紙袋を持ってガスレンジに向かった。
「 ??? あ〜 すまんね ・・・ 」
「 いえ わたしも熱いコーヒー 飲みたいなって思ってたところですから ・・・ 」
「 朝方は冷えるな・・・ ジョーはまだ寝とるのか。 」
「 ええ ・・・ 最近バイトで帰りが遅いでしょ、朝はねえギリギリまで寝てますわ。
はい お茶。 熱々です。 」
「 おお ありがとう。 ・・・ フランソワーズ? 」
「 はい? 」
「 なにかわからんが。 お前もあまり根を詰めんほうがいいぞ? 」
「 は あ ・・・ ( こんをつめる ってなんだろ? 何をつめるの?? ) 」
「 ジョーに声をかけておくよ。 」
「 お願いします。 」
博士が出てゆくと 彼女は紙袋をあけ ― 編み物の続きに熱中した。
クリスマスに向かって ジョーの帰りはますます遅くなりフランソワーズの編み物作戦もますます
佳境に入り ― 結果 朝御飯のテーブルでは若者組は ぼ〜〜〜〜っとした顔を並べている。
「 ? おい ジョー? 皿の模様まで食べるつもりか? 」
「 ・・・・ は! あ ・・・ スイマセン〜〜 ちょっと考えごとしてて ・・・ 」
ジョーは 俯いたまま空になった皿にカチカチ箸を当てていた。
「 ふん ・・・? あ ・・・ フランソワーズ? それは塩だぞ〜〜 おい? 」
「 ・・・!? あ ・・・ すみません ・・・ ぼんやりしてて ・・・ 」
カフェ ・ オ ・ レ に塩を振りかけていた手を フランソワーズはやっと止めた。
「 ふん! どうした〜〜 いい若いもんが! お前たち 夜更かししすぎじゃあないのか。 」
「「 すみません ・・・ 」」
「 早寝早起き! 早起きは三文の徳 というではないか。 」
「「 すみません ・・・ 」」
「 しゃきっとしなさい。 そして今晩は二人とも10時就寝じゃ いいな。 」
「「 え ・・・・ 」」
「 いいな。 10時にはウチの電気を消すぞ。 」
博士は重々しく宣言をすると 研究室へと出ていってしまった。
「 あ ・・・ えへへ ごめんね。 ちょっとマズったなあ〜 」
ジョーが照れ臭そうに笑う。
「 わたしこそ ・・・ ぼ〜〜っとして ・・・ ごめんなさい。 」
フランソワーズもちろり、と舌を覗かせた。
「 今晩は早く寝なくちゃ な〜 」
「 そうね〜 ・・・ ふふふ ちっちゃい子みたいね、わたし達。 」
「 ウン。 お父さんに叱られたよ。 」
「 ね? ごめんなさい しなくちゃね。 」
「 あは そうだねえ 」
二人は肩を竦めて てへへへ・・・ と笑い合った。
「 うん? おお さすがに二人とも就寝したようじゃな。 よろしい よろしい ・・・ 」
その夜、 10時にはリビングのTVもキッチンの灯も消えていた。
博士は満足気に頷き、戸締りを確認して自室に引き上げていった が。
「 間に合わない 間に合わない 間に合わない 〜〜〜〜〜 」
ベッドの中では編み棒がカチカチと音を立て ・・・
「 う〜〜〜 もうちょっと欲しいんだけど なあ〜〜 」
スタンドの明かりの下では 細かい作業が続き ・・・
崖っ淵の屋敷に 夜の帳が静かに降りていった。 聖夜までもう数日 ・・・
「 ただいま〜〜 うわ??? 」
キッチンのドアを開け ジョーは目をぱちくり ・・・ 足が止まってしまった。
もうもうと白い湯気で満ちているのだ。 一瞬 火事の煙か!? と焦ったが ・・・
すぐにもわ〜〜〜っとした湿気で湯気だとわかった。
「 ・・・ フランソワーズ? そこにいる? 」
「 え〜〜? ああ ジョー お帰りなさい〜〜 ねえねえ ちょっと手伝って〜〜〜 」
湯気の向こうから声が聞こえてきた。
「 いいけど ・・・ なに してるわけ? 」
「 あのね あのね クリスマスのディナーを作ろうと思って ・・・
今 お野菜を下茹でしているのだけど ・・・ 一番大きなお鍋なので大変 ・・・えい!? 」
「 ちょ・・・ ぼくがやるって。 なにをしたらいい? 」
ジョーはジャンパーを脱ぐと 湯気の中に飛び込んだ。
ぐつぐつぐつ ・・・・ ぼこぼこぼっこん ・・・
大鍋には人参やらジャガイモやらタマネギやらマッシュルームやら が チキンと一緒に
ごとごと煮えている。
ほわ〜〜ん ・・・ と香るのはニンニクとトマトだ。
「 うわ ・・・・ すげ〜〜〜 美味しそう!! 」
ジョーは大鍋を覗き込み感激の声をあげる。
「 あ ジョー 湯気が熱くない? ヤケドしないので・・・ 」
「 ふっふっふ〜〜〜 サイボーグ009 に何を言うのかな〜〜 」
「 あは ・・・ そうね。 ね このオタマでね 全体的にさっくりひっくり返してくれる? 」
「 ひっくりかえす??? な なべを ?? 」
「 え!? ちが〜う ちがう、中身! 量が多くてわたしには 〜〜 えい! 」
バッチャン。 トマトの煮込み汁が飛び散った。
「 あ〜〜 ぼくがよやるよ ちょっとソレ 貸して ・・・ え〜〜〜い ・・・! 」
「 まあ上手ねえ・・・ う〜〜ん いいカンジ ・・・ ねえ ジョー?
温室のトマトってまだある? 」
「 え ・・・ これ 庭の温室のトマトなんだ? 」
「 そうよ〜 取り忘れて熟れているのがいくつか残っていたの。 」
「 ふうん ・・・ 夏はよくサラダにしたよね。 新鮮で美味しかったね。 」
「 うん。 だからコレもきっと ・・・ うん いい味〜〜〜♪ 」
フランソワーズは小皿で味見をし、満足そうに頷いている。
「 あ〜〜〜 ぼくも 〜〜 」
「 あら 晩御飯まで我慢して? あ あのね ・・・ ごめんなさい ジョー ・・・ 」
「 はへ??? なに が? 」
「 え あの・・・ クリスマスには スタッフド・チキン なのでしょう? 日本では・・・ 」
「 すたっふ・・・ なんだって?? 」
「 スタッフド ・ チキン。 中に詰め物をした鶏の丸焼き よ。 」
「 そうなの? 」
「 そうなの・・・って。 広告とかでいっぱい見たわよ? 」
「 それってさあ スーパーとかチキン屋の広告なんじゃないかなあ。
ぼく 別にチキンの丸焼きじゃなくていいよ? 」
「 え ・・・ そ そうなの? 」
「 ウン。 きみが作ってくれるモンなら なんだって! だもん。
この〜〜〜チキンの野菜 ・ トマト煮〜〜 最高に美味しそう♪ 」
「 あ よかった〜〜 あとはケーキ ・・・ なんだけど ・・・ 」
「 ケーキ って きみの国の え〜〜と ・・・ なんとかノエル? 」
「 あれは ちょっと・・・無理っぽいのよ、わたしには ・・・ だから普通のシフォン・ケーキで 」
「 いいよ〜〜 アレ 大好きだから あ。 バナナ入れてくれる? 」
「 了解〜〜 」
「「 あ 博士? 」」
カタン ― ドアが開いて いい匂い充満のキッチンに博士が入ってきた。
「 ふんふん〜〜〜 いい匂いじゃなあ〜〜 」
博士も嬉しそうにハナを鳴らしている。
「 ちょいと聞こえてしまったが の。 ケーキならワシでもすぐに作れるぞ。 」
「「 えええ??? は 博士が?? 」」
「 そんなに驚かんでもよろしい。 調理とは化学反応の一種、だからな。 」
「「 はあ〜〜 」」
え。 ど どんなケーキになるわけ??
二人はちろ〜り・・・と視線を合わせた。
「 さ 始めるぞ。 フランソワーズ、 小麦粉に卵にバター 塩ひとつまみ ・・・を
ボウルに溶いておくれ。 ジョー フライパンを温めておくれ。 それからバナナを薄く
スライスしておけ。 」
「 ??? なんですか 博士 」
「 だから ケーキつくり、 さ。 ほらほら早くせんか。 」
「「 は はい! 」」
ジュワ 〜〜〜 ・・・ ほどなくキッチンの中に またまた食欲をそそる香りが加わった。
「 そうそう そんな感じじゃな。 ジョー、それをなあ このボウルの中身を全部使って
どんどん焼いてくれ。 薄いほうがいいぞ。 」
「 は はい ・・・ うわ ・・・ち ・・・ 」
ジョーは必死でフライパンと格闘している。
「 フランソワーズ! そら 焼きあがったものにこう・・・生クリームとバナナスライス を
のせ つぎにまた焼きあがりを乗せる。 そしてまた生クリームとバナナスライスじゃ。 」
「 あ〜〜 わかりましたわ 博士! ミルフィーユ! でしょう? 」
「 そうじゃよ。 フライパンでもできるお手軽 ・ ミルフィーユ じゃ。 」
「 きゃ〜〜 ステキ♪ ジョー〜〜〜 頑張って焼いてね〜〜 」
「 う うん ・・・ うわ ・・・ いいカンジかも? 」
「 ほれ 生クリームの追加じゃ。 」
「 わあ 博士〜〜 お上手ですのね? 」
キッチンは3人でのケーキ作りに大いに盛り上がった。
「 あ〜〜〜〜 美味しかったあ〜〜 御馳走様でした♪ 」
「 ふむふむ ・・・ トマト煮に生クリームで ボルシチ風が懐かしかったのう〜〜 」
「 ケーキ ・・・ おいしい〜〜♪ 」
果たしてその日の < おうち ・ クリスマス ディナ − > は大成功だった。
プレゼント交換もちゃんと行った。
ジョーのプレゼントは フランソワーズにはどんぐりのブローチとネックレス。
色 ・ カタチのよいものを選びちゃんとニスで上塗りがしてある。
博士には 倒木の一部をつかった灰皿で こちらも磨き込んだ力作だ。
フランソワーズは 配色よく編みこんだマフラー。 博士にはグレーを基調に赤やら黄、橙・・・
など明るい色が散らばる。 ジョーはセピアの中に白や水色の雪模様が編みこんである。
博士から フラソワーズには毛皮のふわふわ襟つきのコート ジョーにはかっこいい革ジャン
「 ふふふ ・・・ ちょいとなあ、イワンに協力してもらって大穴、当ててな。 」
博士はばちん! と ウィンクをしてみせた。
そして 眠っているイワンには皆から < 粉ミルク各種詰め合わせ > が贈られた。
「「「 わ〜〜〜〜 ありがとう 〜〜〜〜 」」」
「 えへ ・・・ クリスマスってさ。 うん、家族で迎えるのが最高だよね ・・・! 」
テーブルに溢れる料理 大きなスタッフド チキン やら デコレーション・ケーキみたいな
クリスマス ・ ケーキ 派手なオーナメント一杯のクリスマス・ツリー ・・・ はないけれど。
雑誌で見た < 日本のクリスマス > とはちょっと違っちゃったけど。
一緒にわいわい御飯を作って < 家族 > でわいわい食べて ちょっとしたプレゼント交換して。
ふふふ ・・・ コレが ウチのクリスマス ・・・ かな。
ジョーは 想い人の笑顔を惚れ惚れとみつめつつ そっと呟いた。
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Last updated
: 24,12,2013. index
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ひと言 **********
せっかくイヴにアップしますので ・・・
定石どおりの クリスマス話 です〜〜
原作ってか これだと 平ジョーっぽい?
まあ ともかく ・・・ Merry Christmas !!