『 寒〜〜〜い日々 ― (1) ―  』

 

 

 

   タタタタタ  −−−−−

 

とある冬の朝のこと。

 

朝、といっても 普通の・お勤めさんズ よりはちょこっとだけ

遅い・・・・かもしれない時間。

ほぼ都心の街、メトロの駅からの瀟洒な舗道を 全力疾走する姿 あり。

でっかいバッグを抱え 金色の髪を靡かせ 彼女は走る。

少し厚めのジャケットに ショート・ブーツ・・・

その日の朝の気温にしては やや軽い服装だが

とにかく彼女は 必死で走る。

 

    タタタタタ −−−−−

 

比較的広い舗道なのだが 他の通行人たちは遠慮がちに端っこに寄る。

「 ・・・ くうん? 」

のんびりお散歩・わんこ も 恐れをなして飼い主の後ろに隠れている。

 

    ・・・ 遅刻寸前なんだろうなあ〜

 

    だは。 美人だけどすっげ形相・・・ コワ〜〜

 

    あらあら ・・・ ああ あそこのばれり〜なさんね?

    ふふふ がんばれ がんばれ

 

地元由来?の人々は 微笑つつ道を開けてくれていた。

 

「 ・・・ わあ〜〜〜 ごめんなさあ〜〜〜い ・・・・ ! 」

 

      タタタタタタ −−−−−

 

彼女は 走る 走る 走る〜〜〜〜  そして。

 

   タタタタ  ドタドタ ・・・ バタン。 

 

表通りから二筋、入った小路の 角から三軒め。

アイアン・レ−スの瀟洒な門を押し明け ― ナイショだが 多くの

男子たちはここを飛び越している ― 数段降りて ドアをあけた。

 

   「 お ・・・ おはよ〜〜 ございまあすぅ〜〜〜〜 」

 

「 あらあ フランソワーズさん? どうしたの 

 今朝はいつもより早いわねえ  」

事務所の人がなぜか慌てて顔をだした。

「 ・・・ は   はい ・・・ あの ・・・  」

「 ?  はい? どうか したの 」

「 え ええ ・・・ あのう 〜〜  今朝って 

「 はい? 」

「 あの 今朝って ・・・ 寒い ですよねえ? 」

「 え・・・ ああ そうねえ でも もう冬だから ・・・

 こんなもんじゃないの? 」

「 そ そうなんですか? ・・・ なんか わたし ・・・

 日本って ず〜〜っと温かいんだ と思ってて・・・

 今朝も ・・・ そしたら 寒くて! 」

「 ? 

事務のお姉さんは ちら〜〜っと彼女を見たが。

「 ・・・ ああ そのジャケットじゃ もう寒いかもね〜

 でも この季節、パリはもっともっと寒いのでしょう? 」

「 ええ ・・ でもね 日本は温かいから ・・・

 厚いコートとか必要ないんじゃないかって思ってたから ・・・

 地下鉄 降りて寒くて びっくり。 もう 必死で走ってきたの 」

「 あらあ〜〜 それで・・・ いつもより早いのね?

 そっか 日本って温かいって思ってました? 」

「 はい。 特にウチの方は ・・・ 」

「 あ〜 湘南でしょう?  あそこら辺はずっと温かいわね 」

「 はい  この辺りって寒いですよねえ 」

「 う〜ん それは 御宅の方と比べれば ・・・ ね

 あ 稽古場の温度は大丈夫よ マダムのお達しで28℃だからね 

 あら 汗 びっしょり?? 」

「 はい  ・・・ はあ〜〜〜 ずっと走ってきたから ・・・

 ふう ・・・ 」

「 ふふふ 今朝はその汗を拭う時間もあるわよ? 

 ピアニストさんもまだいらしてないしね 」

「 はあい  ・・・ あ〜〜 スタジオの中 あったか〜〜い♪ 

フランソワーズは軽く会釈をすると 更衣室に向かった。

 

「 おはよ〜ござ〜いまあす〜〜 」

元気に挨拶して ドアを開ければ ―

 

「 おはよう〜〜  え?? もうそんな時間?? 」

「 あら フランソワーズ ・・・ え やば〜〜

 トイレまだいってないわあ 」

のんびり着替えていたダンサー達が 皆慌て始めた。

いつも スタジオに早くやってきて入念にストレッチをしたい人やら

クラス前には余裕を持ちたい人たちなのだが ・・・

「 あ あ〜〜 すいません  まだ早いです〜〜〜

 わたし あの いつもよりずっと早くきたので 」

フランソワーズは 慌てて手を振った。

「 ・・・え?  ああ ・・・ そうなの? 」

「 あ ああ そう・・・ 」

「 ・・・ なにか あったの?  あら 顔 赤いよ? 」

「 え え〜と・・・ そのう 寒くて。

 駅からず〜〜〜っと走ってきたので ・・・ 

 トウキョウって こんな寒い日もあるんですね 」

 

   え?  やあだあ〜   ふふ 可愛いわねえ〜

 

先輩たちは皆笑ってくれた。

「 ・・・ ふう ・・・ びっくりさせちゃった・・・ 」

「 フランソワーズ〜〜 

隅っこから 丸顔の女子が手招きしている。

「 あ みちよ〜〜  えへへ たまに早くくると ね 」

「 ふふふ ・・・ねえ でもそんなに寒い? 」

「 うん 寒い〜〜〜 びっくり 

「 ― あ〜 そのコートじゃもう寒いって。 

 うるとら・らいと・だうん とか着ておいでよ 」

「 ・・・ うるとら・・・ なに? 

「 ダウン・コートだよ〜 軽いんだけど超〜 あったかい 」

「 へえ ・・・ でも ダウン・コ―トって羽毛でしょう?

 ・・・ 高いんじゃないの? 

「 うう〜〜ん  お手軽価格。 私らにちょうどいいって程度かな

 ねえ パリってもっともっと寒いんでしょう? 」

「 そうねえ 雪とかも降るしね 」

「 じゃあ もっと厚いコートとか着てたんでないの?

 ダウンなんて必須だよね 」

「 え  ええ ・・・

 ( ・・・ だって あの頃は。

  ダウン・コート なんてまだ一般的じゃなかったんだもの ) 

 で でもね  トウキョウってもっともっと温かいと思ってて 」

「 ふうん ・・・ 真冬は結構寒いよ〜〜

 まあ 帰りにさ ゆに○ろ 寄ってけば?

 この近くにもあるよぉ 」

「 あ そうなの? 行ってみよっかな〜  ゆに○ろ  ね 」

「 ほら ベストとかならクラスでも着てるひと、いるでしょ 

 ○○さんとか  」

「 ・・・ あ〜 あれ!  そうね そうね 是非 」

「 あれ しゃべってる場合じゃないかも 〜〜 

 あ 時間〜〜〜  着替え、急げ 」

「 え あ  いっけなあい 」

二人は 大急ぎで着替えスタジオに飛び込んだ。

 

 

   ふう〜〜  あ? なんか 身体 楽かも〜〜

 

フランソワーズはクラスが始まり バーの最初で気がついた。

いつもより身体が 楽に動く。 

気が付けば す・・・っと筋肉が働いているのだ。

 

   あらあ 〜〜   走ったから??

   そっか〜〜  上に着込んでもいいのよね

   ・・・後で脱げばいいんだし。

 

   あ あれが うるとら・らいとだうん・べすと ね

   ・・・ ふ〜〜む  いいわねえ

 

バーレッスンの間も ダウン・ベストを着ている先輩に

目が行ってしまう。

ベストだから 腕やウエストから下は出ていて動き易そうだ。

 

   あったかそう・・・

   きめた〜〜 帰りに買ってかえろっと

 

「 ・・・で ピルエット。   ― ちょっと? よそ見しない〜〜

 チビちゃん達じゃないでしょう? 」

ついにマダムに見つかってしまった・・・

 

    ひゃ ・・・ ヤバ〜〜〜

 

フランソワーズは首を竦め 慌ててクラスに集中した。

― でも その日は身体がとても楽に動きレッスンを楽しむことができた。

 

 

「 ふんふんふ〜〜〜ん♪  大収穫〜〜〜〜 」

その日の午後 ― でっかい紙袋を二つも抱え ご機嫌ちゃんの

金髪美女がメトロから降りた。

「 ふふふ〜〜〜  しんしゅんだいとっか  なんだって♪

 ・・・ よくわからないけど とにかく セール だったのよね〜〜

 欲しかったもの、み〜〜んな買えたわぁ 」

荷物の多さの割に 彼女は超〜〜〜 にこにこ顔なのだ。

膨れあがった紙袋は やたら嵩張ってはいるが重そうではない。

「 目的のベストは < はかくね > だったし。 

 ・・・ なんだろ、 はかくね  って・・・ まあ いいわ 安いから。

 全体に半額っぽかったから わたしとジョーと 博士の分も

 うるとら・らいと・だうん 買っちゃった〜〜〜

 でもねえ これだけ買っても・・・ パリで冬物の分厚いコートを

 買うより 安いのよ? 信じられない〜〜〜 ふふふん♪ 

荷物に手足、みたいな状態で 彼女はもう超〜〜〜ご機嫌で家路についた。

 ・・・ 周囲の人々は 慌てて避けてくれたけど。

「 あ〜 ぱるどん・・・いえ ごめんなさあ〜〜い 

帰りも陽が傾いてくれば 深々と冷え込んでくるが ・・・

彼女は うすく汗までかいてにこにこ・・・帰宅したのだった。

 

 

           *****************

 

  

   ヒュウ −−−−−−  ・・・・・

 

「 ・・ ひえ〜〜  さむ〜〜〜〜 」

ジョーはパーカーのジッパーを襟元まできっちりと上げた。

年末に近くなると この比較的温暖な地域でも寒風が吹き抜ける。

彼は ― 本来ならその必要もない身体なのであるが ― 

毛糸のマフラーをしっかりと巻き直し、ポケットから手袋を出した。

「 ・・・ ひえ〜るなあ ・・・ これ もってきて大正解☆

 へへへ〜〜〜 フランが編んでくれたんだ〜 」

紺地にグレーで雪模様を編みこんだ手袋を 彼はとて〜もとても

大切そうに手に取って眺めている。

「 ・・・  なんか さ。 使うの、勿体ない・・・かなあ 

 ああ 持ってるだけでもあったかい〜〜 」

こそ・・っと 手を入れてみる。

「 ・・・ あったか ・・ い ・・・ 

  へへへ  へへへ ・・・さいこ〜〜〜 」

もちろん009は この程度の気温ではTシャツ一枚であっても

全然平気で過ごせる。

 でも。 彼は 島村ジョー であることに拘っていた ― というより

ジョーは < 島村ジョー > であった時期が仲間達の誰よりも

身近であり ( つまり つい最近 ) 普通の感覚の方が馴染みやすいのだ。

パッと見には どこにでもいる若モノ、なかなかキレイな茶髪だが

ほんのり笑顔が印象的 だけど まあ平凡。

彼に気付かず行き過ぎる人がほとんどだし 彼に負の感情を持つ輩は

ほぼ いないだろう ・・・ 存在感 薄いし。

 

つまり ― ごくふつ〜のワカモノ だから その服装も ごくふつ〜  で

通している。

 

「 ふふふ・・・ いいなあ〜〜 手編み だぜ??

 やっぱ冬になるとここいら辺りでも寒いし〜

 あの家って全体的にあったかいけど ・・・ イマイチ だなあ 

 こう〜〜 芯からあったまらないっていうか 」

彼は 手袋をはめた両手をぽんぽん・・・しつつ駅前のロータリーに出た。

「 う〜〜ん ・・・? なんだろ? なにが原因かなあ ・・・

 そうだ フランってば ず〜〜っともこもこのソックス、履いてるし。

 彼女も寒いのかも・・・ なにも言わないけど さ ・・・ 

 う〜〜〜ん   なんだろうなあ〜

 ヒーター ・・・ は完備だし。 リビングにある暖炉は飾りだろ?

 え〜と ・・・ スト―ブ ? いやいや もっとこう〜〜

 じんわ〜〜〜っと芯までのほほ〜〜んとあったまるヤツ・・・? 」

ロータリーの端、岬方面への循環バス停で 彼はしばし考え込む。

「 ・・・ う〜〜ん ・・・ ココまで出てきてるんだけど・・・

 あ !  そうだ!  アレだよ アレ! 

 えっと・・・ ちょっと寄ってこうっと。 」

岬への循環バスには乗らず 駅の反対側に回った。

「 ここなら きっとあるさ! 」

ジョ―は かる〜〜い足取りで家電量販店の大きな店舗に入っていった。

 

 ― 30分後。

 

「 お客さま あのう・・・持てますか? 配達しますよ〜〜 」

「 あ 大丈夫です〜〜 ども〜〜〜 」

「 え でも・・・ そんなに軽くないですよ?? 」

「 あ ぼく 案外チカラ持ちなんで〜〜 ど〜も〜〜 」

キャッシャーで 店員さんにさんざん勧められたのだが

ジョーは かなり大きな包を自分でひょい、と持った。

「 ホント 大丈夫ですから〜〜  値引き サンキュ〜でしたあ 」

「 ・・・ はあ〜 ありがと〜ございましたァ ・・・ 大丈夫かなあ

 大型セット なんだぜ ・・・? 知らね〜ぞ・・・ 

量販店の店員さんは 気の毒そう〜に首を振り、引っ込んだ。

 ・・・ 当の < 御客さん > は 上機嫌♪

 

「 ふんふんふ〜〜ん♪ コレだよ これ! 

 リビングの真ん中に どど〜〜ん と置いてさ。 

 上には 籠にみかん♪ そうだ〜〜 お餅、焼いたの、食べてもいいよなあ 」

 

そう ― 彼は コタツ を買ったのだ。 初売り価格で安かった!

 

「 よ・・・っと。 重くないけど持ちにくいなあ ・・・

 ま しょうがないよね。 バスに乗ってゆけばすぐだし 」

かな〜り大きな包を抱え 彼はまたバス停まで戻ってきた。

「 ふんふんふ〜〜ん   うわあ 風、強いなあ ・・・

 さむ ・・・ フランや博士、寒いだろうなあ 

 そうだ! 今晩は  うどん! 煮込みうどん つくろ! 

 あれならぼくにもつくれる! 

 ・・・ うどん 買ってかえろ! あ みかんも!!

 スーパー よってこ。  うん まだ 持てるもんな〜〜 

 へへ  へ ・・・ あは サイボーグで よ〜かった♪ 

 

   ひゅるるるる  −−−−−

 

吹き抜ける北風の中で 茶髪の青年は独り、にこにこ。

荷物に手足 の状態で 楽々と大型スーパーの方向に歩いていった。

 

 

          *****************

 

 

 

     ヒュウ −−−−− ・・・・・

 

この辺りは温暖な気候のはずであるが。

年末年始の頃には やはりぐん・・・と冷え込む日々もある。

 

「 おう・・・ 冷えるのう 〜〜 」

 

ギルモア博士はコズミ研究所を出て 大通りに出て首を竦めた。

「 ・・・ 駅前まで出て本屋に寄るつもりじゃったが ・・・

 これはかなわんなあ。 まっすぐ帰宅することにするか ・・・ 

 やはりコズミ君に車を呼んでもらえばよかったか 」

大丈夫、歩いて帰る、と言い張ってしまった。

「 ・・・ 商店街で少し休むか ・・・

 確か ・・・ コーヒーショップがあったはずじゃ 」

博士は風を避けつつ そそくさ〜〜と道を降りていった。

「 うう 冷えるのう・・・ そうだ コズミ君ちにあったアレ!

 こたつ を調達じゃ。 なに 電源はロフトにころがっている部品を

 ちょいと改造しあとは ローテーブルに 羽根布団じゃ! 

 うん それがいい! 帰ったらすぐに取り掛かろう

 ・・・ うう それにしても この地域はこんなに寒いのか ・・・ 」

襟を立てマフラーを引き上げ ― 博士は背を屈めて歩いていった。

 

 

 ― さて 件のコーヒーショップは すぐに見つかった。

 

    ふう ・・・ まずは温かさが御馳走、というところかな

 

博士は 某チェーン店の高い椅子によじ登り吐息をついた。

商店街には確かに コーヒーショップ は あった。

しかし そこは全国統一?メニュウで やたらと長ったらしい名前が

並んでいる例の店 だった。

 

    う〜〜〜 要するに 単なるコーヒーが欲しいんじゃ!

 

やたら明朗な店員に誘導?してもらい、なんとか普通サイズの

ごく当たり前の コーヒーを買うことができた。

 

「 ふう ・・・ 手がじんわり〜〜 温まるのう・・・

 ?? これはフタを取って飲む・・・ のではないのか?

 ・・・え。 ここから 吸うのか?  飲み難いのう〜〜」

高い椅子で博士は ぶつくさ言いつつコーヒーを啜る。

まあ しかし 味はそんなに悪くもなく、とにかくお腹の中から

温まってきた。

 

「 ふむ?  ま これはこれで 悪くない か・・・ 

 しかしここにこんな店があったかなのあ ?

 あ・・・ 向かいはあの呉服屋か ・・・ ということは

 ああ ・・・ ずっと空き店舗じゃったか ・・・ 」

 

博士の視線は 自然に向かいの古い呉服屋に伸びていった。

そこは昔ながらの店なので 日頃は派手派手しい装飾などはしていない。

ところが ―  今日はなにやらほこほこしたモノが店先に並んでいる。

 

「 はて?  なんだか暖かそうな上着があるなあ 

 キモノとかハオリとは ちょいと違うが・・・

 カジュアルな感じだが 温かそうじゃな 」

 

熱い液体を啜りつつ 博士は凝視してしまう。

「 う〜〜む・・・ あの邸を建てる時には 自然条件を

 ふんだんに取り入れたんじゃが ・・・

 だいたいこの辺りは 冬温か温暖な気候 と聞いておったぞ! 」

 

   ずずず −−−−  慣れたので カップの吸い口から啜る。

 

「 それが なぜなんだ??  こう〜 新年からこっち日中でも一ケタ気温

 じゃないか・・・  やれやれ・・・・  なんという寒さじゃ 」

博士の視線は 反対側の店にまだ釘付けだ。

「 あの邸を建てるとき冷暖房完備 としたんじゃが。

 ここまで冷えるのは想定外 じゃった! 」

熱い液体は この天才科学者の < 発明オタク > の意識を

しっかりと誘導してくれた  らしい。

「 ふ〜〜む ・・・ 現在のヒーターの設定温度を替える か?

 いやいや それでは 北国 じゃ。 

 単純に温度を上げればよい、というものでもあるまい。

 中に居るモノの改革からゆくか ・・・

 ・・・ ふうむ? それにしても アレは温かそうじゃな ! 」

 

博士は珈琲の容器を捨てると すたすた・・・向かいの店へ

進んでいった。

 

「 こんにちは ・・・ 」

遠慮がちに店の中へ声をかけておく。

この店のご隠居さんとは 碁会所トモダチ なのだ。

博士はそのまま店頭に並ぶふかふかした衣類の検分を始めた。

 

 色とりどり 模様もとりどりな 和服っぽいものがならんでいる。

どれも普通の羽織りよりも厚ぼったい。 どうも中に綿がはいっているらしい。

そ・・・っと触れてみた表地は 木綿のものらしい温か味を感じた。

 

     これは ・・・ 防寒着 か?

     いや その割には大きめだなあ

 

     ダウン・・・とも違うぞ

 

気密性はあまりなく、羽織りのように前はヒモを結ぶだけだ。

しかし なんとも温かそうなのだ。

「 おお  これはなんと可愛らしいなあ ・・・

 うんうん アイツらにぴったりじゃな。

 もうし。  この青いのと 赤いの、くださりませんか 」

店の中にもう一度声をかけると すぐに店主が出てきてくれた。

「 おや 岬のご隠居さん。 いらっしゃいまし。 

 おや 半纏がお気にめしましたか 」 

「 やあ こんにちは。  はんてん というのですな?

 はいな ・・・ この季節にはぴったり ですねえ 

「 そうですねえ  昔からあるモノですけどなかなか重宝しますよ

ああ 息子さんと娘さんに ですか 」

「 ええ ・・・ ウチのワカモノもなんとなく寒そうにしていますのでねえ 」

「 ぜひぜひお勧めしますよ?  ご隠居さんも如何ですか

 ほら ・・・ 温かいでしょう ? 」

お店の人は 博士にも着せてくれた。

「 ・・・ おお〜〜 これはいい! 軽くて腕も楽に動かせるし・・

 ああ ワシの分も一枚 頂きましょう 」

「 へい どうも〜〜 こちらの黄八丈柄はどうです? 

「 お いいですなあ・・・ ほうほう 温かい・・・ 」

「 じゃ こっちの赤い花柄と 青の縞模様、 そして

 こちらの黄八丈柄 ・・・ で如何でしょう? 」

「 はい それでお願いします。 こ〜れは楽しみだなあ 」

「 ふふふ  ではまとめてお包みしますね 」

「 お願いします 」

 

半纏を三着 ― 流石に もこもこ大荷物 になってしまった。

 

「 お持ちになれますか?  かなり大きくなっちまった・・・

 後からお届けしますよ? 」

「 あ〜 いや。 軽いですからなあ 大丈夫。

 いやいや・・・ 持ち帰っての、コドモ達に見せたいのですじゃ 」

「 そりゃいい  あ あの息子さんを呼ばれては?

 御宅にいらっしゃいますかな 

「 いやあ〜  昼すぎには戻る、と言っておったのですが

 今 多分電車か ・・・ 大丈夫 このくらい持てますぞ 

「 まいどありがとうございます〜〜  本当に大丈夫ですかあ〜〜 」

呉服屋さんの心配そう〜〜な視線に送られ 博士はえっちらおっちら

歩き始めた。

 

「 うむ  ・・・ うむ ・・・・ ほ〜〜〜 なんだか身体中が

 ほかほかしてきた ぞ?  ・・・ うむ? 

嵩張る荷物を持って歩き始めれば < 寒い > どころでは

なくなるのは 自明の理。

「 ・・・ う〜〜む ・・・ ちょいと休む か 」

とうとう 博士は商店街の入口でギブアップをしてしまった。

「 ・・・ 実はここから先が問題なんじゃが ・・・

 う〜〜〜  諦めてジョーを呼ぶ かなあ 

 ・・・ ああ スマホ・・・ どこに入れたか 」

荷物を道路脇に置き 博士は外套のポケットをごそごそと

探り始めた。

 

     ピュウゥ −−−−−  

 

木枯らしが脇を吹き抜けてゆく。

 

    「 博士! 」

 

「 うわ?? 」

突如 ギルモア老人の眼の前に 茶髪の青年が出現した!

 ・・・  ように思えただけで 

彼も大荷物を持ちぽこぽこ歩いてきたのだが。

博士は スマホ捜索に熱中していたので周囲の状況には

とんとお留守になっていたのだ。

 

「 ジョ ジョー ・・・ お前 いつからテレパスになった? 」

「 ??  ぼく クレパスは持ってませんけど ・・・ 」

「 え ・・・ あ いや そのう〜〜〜〜

 今 お前に電話しようと思っててなあ 

「 え〜〜 そうなんですかあ??  ちょうどよかったです!

 で 用件はなんですか??  あのう お急ぎでなかったら

 ぼく この荷物をウチに置いてきたいのですが 」

「 へ?  あ  ああ お前もすごい荷物じゃなあ 」

ジョーも 荷物の山を道の脇に置いている。

「 ええ ちょっと買い物を ・・・ 

 博士 それでなにをすれば ? 」

「 あ  ああ ・・・ そのう すまんがこの荷物を ・・・

 ウチまで持っていってくれんかのう 」

「 ?  ああ はい。 あれえ 軽いですねえ  」

青年は かる〜〜くひょいっと持ち上げた。

「 ああ ・・・若者はいいのう〜〜  

 ん?  ジョーや お前さんもえらい荷物じゃないか 」

「 え? ああ そうなんですよ〜〜〜 

 駅向こうの家電量販店で  えへへ こたつ 買っちゃいました! 」

「 ―  は?  コタツ ・・・ 」

偶然の一致に博士は ぽかん とした顔でジョーを見てしまった。

「 あ〜  コタツ って。 わかります?

 日本の冬の暖房設備なんですけど〜〜  これ いいんですよぉ〜〜 

「 あ  ああ ・・・ 売っていたのかい 」

「 はい。 なんかセールで・・・ 

ウチ、3人にちょうどいい大きさかな〜って 」

ジョーは 自分の荷物を掲げてみせた。 

 ・・・ 拍子に みかん がころころ・・・

「 あ〜〜っと ・・・ このみかんをね〜〜 コタツに入りつつ

 食べるんですよ  これ超ウマくて♪ 」

「 ふむ?  よしよし・・・ それではワシが そのコタツを

 伸縮自在に加工してみようか  大勢の時は広げたらいい 

 ちょいと改造して ・・・ 大型超はいぱーこたつ にしてみよう!

 皆が集まった時にも 使えるように な 」

 「 あ そうですよねえ〜〜 普段でも広ければ ゴハンに食べれるし〜

 ふんふん♪  あ  博士のコレは? 」

 

   ぽん。  彼は博士の包を ひょい、と宙に投げ上げた。

 

「 あはは  いやあ ・・・ それはウチについてのお楽しみじゃ。

 荷物が増えてすまんが ・・・ 」

「 これっくらいなんてことないですよ〜〜 ちょい嵩張るから 

 よ〜し  ! 」

彼は自分の荷物を背中に括りつけると ( なぜか博士は懐中にヒモを

 いれていた ) 博士の包を両手で持った。

 

  ― そして。

 

「 んじゃ。  ふんふんふ〜〜〜ん♪

    これっくらいの おべんとばこに♪ おっにぎり〜〜 」

ハナウタを歌いつつ 包をぽ〜〜〜ん っと空中散歩?させつつ

歩き始めた。

 

     ・・・ 変わったコじゃのう ・・・

 

博士はこっそりため息をつき このおめでたい?彼の後から

ゆっくりと家路を辿っていった。

 

 

        ************************

 

 

 ― そして その日の夕方に近い午後。

 

「 ただいまあ〜〜〜  ああ ウチに入るとほっとするわ 」

フランソワーズは 大きなバッグと一緒に抱えてきた嵩張る包を

玄関に置いた。

「 ふう ・・・ 軽いけど やっぱり疲れたァ・・・

 あ 肩 凝ってるかも ・・・ 」

こきこきこき ―  肩を上げ下げ腕をふりまわす。

 

「 あ フラン〜〜 お帰り〜〜 ねえねえ はやく入っておいでよ 」

ジョーが顔をだした。

「 ただいま ジョー。 ?? なあに? 」

「 ウン あのね ・・・ あれ きみもすごい荷物だねえ 

「 あ これ? あのね あのね いいもの!

 皆の外出があったか〜〜くなるの! ちょうどね セールだったのよ 」

「 え?? きみも なにか温かくなるもの 買ってきたの? 」

「 ええ。  きみも・・・って ジョーも? 」

「 そ! ぼくも そして 博士も さ。 さあ 上がって〜〜 

 あ 今晩はねえ ぼくがつくるよ!  やっぱり温かくなるごはん! 」

「 え〜〜〜 なになに?? 温かくなるごはん って ・・・ ? 

「 そ〜れはヒミツ(^^♪  お腹の底からあったまること、保証つき! 」

「 きゃあ 楽しみ〜〜〜 」

 

「 フランソワーズかい? お帰り〜〜  手を洗ってウガイしたら

リビングにおいで 」

 

中から博士の声が飛んできた。

「 はあい〜  あ ・・・?  」

「 このでっかい包、リビングでいい? 」

「 ええ お願いシマス。 ふふふ〜〜 わたしもね 

 皆があったか〜〜くなるモノをゲットしたのよ。

 わたしは 外出担当 かな〜〜 あ 手、洗ってくるわ 」

「 うん 待ってる〜〜 」

 

 トタトタトタ −−− 軽い足音でフランソワーズはすぐに戻ってきた。

 

「 はい 手洗い・うがい 完了。   で ・・・ なあに? 」

リビングに入れば ― 博士とジョーがにこにこ顔で立っていた。

その足元には ・・・

「 ね これ 見てよ、これでリビングは超〜〜 暖かになるよ! 」

「 ? まあ なあに?   ローテーブルに ・・・ 羽根布団? 」

「 こたつ というのじゃよ。 最高にぬくぬくするぞ。

 そしてほれ これをはおってごらん? 」

「 え・・・? 」

 

   ふぁさ。   温かい大きなものが肩から掛かってきた。

 

「 ・・・ わあ〜〜〜  ほかほか・・・

 これ なんですか?  キモノ ともちがうし? 」

「 ふふふ これは はんてん と言ってなあ 

 日本の家庭用のダウン・ジャケットじゃ。 

 ああ お前たち よう似合うよ 」

「 え そ そうですか?   あ  フラン〜〜 可愛い〜〜〜 」

「 あら ジョーも素敵よ。   博士〜 その模様 シックですてき! 」

 

      ふふふ    へへへ     うふふ ・・・・

 

ギルモア邸のリビングは あったか〜い笑い声でいっぱいになった。

 

 

Last updated : 01.04.2022.                 index      /     next

 

*********  途中ですが

原作でも平ゼロでも ・・・ なんてことない日々です。

彼らにはこんな風に生きていてほしいなあ ・・・

なにも起きませんが 続きます ・・・・