『  りぼん  』  

 

 

 

 

 

 

「 博士! 早く、早く〜〜 急がないと新幹線に接続できません! 

 ああ〜 ぼく一人なら走っていったほうが早いんですけど・・・ 」

「 だめじゃ! お前、あのいでたちで行ってどうする気かね? 」

「 そりゃまあ。 それなら 早く〜〜! 」

「 ・・・ ふう・・・ふうふう・・・ 待っておくれ。 ああ・・・やれやれ。 」

「 シ−ト・ベルト、ちゃんと装着しましたか!? それじゃ・・・ 出します。 」

「 ・・・おお。 ジョ−よ、ワシに構わず ぶっ飛ばせ。

 なに、この田舎道じゃて、多少のオ−バ−なんぞ、だ〜れも気にかけやせんわい。 」

「 いや〜〜 博士、それはちょっと・・・ 」

「 いや! ワシらには使命があるのじゃぞ、ジョ−! 」

「 使命 ・・・ ねえ。 そりゃまあ・・・ 」

「 使命じゃ! フランソワ−ズを一人きりで、他国の空港で待たせるわけには行かんよ! 」

「 他国 ・・・って、同じ国内じゃないですか。 」

「 いいや。 お前にはわからんじゃろうがな。 ワシら ガイジン には箱根より向こうは

 <他国>じゃ! みな・・・ワシが学んだのとは違った日本語をしゃべりよるからに・・・ 」

「 ああ、確かにね。 違う日本語、かあ。 ふふふ・・・ そうかもしれないよなあ。

 そう言えば ・・・ フラン、携帯の声がちょっと変だったかな。 」

「 長旅で疲れたのかもしれんぞ。 」

「 ええ・・・ それにしても最後に帰国の便がダブル・ブッキングだったなんて・・・

 ついてないですね。 < 関空に着くのよ。 > って妙な声、だしてましたよ。

「 ははは・・・ あのお転婆でも心細いのかもしれん。 なにせ < 違う日本語> の地、じゃからな。 」

「 そうですね・・・・ あ、博士。 さっき届いていた荷物ですけど・・? 

 ナンです? 誰からだったのですか。 怪しいモノじゃ・・・? 」

「 ああ、アレはな、差出人も宛名もフランソワ−ズ本人じゃったで、彼女が先に土産でも

 送ってよこしたのじゃないかな。 

「 あ〜 そうですよね・ ふふふ・・・きっとトランクがぱんぱんになっちゃったんでしょう。 」

「 そうじゃろうな。 女の子は買い物とか好きじゃし・・・・ あの荷物はとりあえずリビングの

 ソファに置いてきたよ。 」

「 そうですか。 それじゃ・・・ 出ます! 」

「 うむ。 ・・・ うわ ・・・! 」

 

ジョ−の車は とても単なるクルマとは見えない速度とコ−ナ−リングで 海辺の町を駆け抜けた。

真冬のお日様がのんびりと彼らのクルマを追いかけていった。

 

 

 

 

 

どの国にもそれぞれ特有の香があるのだという。

国全体に漂っているものでは 勿論ないのだが、空路帰国し母国の空の下にたった時、

ふ・・・と感じる匂い。 それはいわば慣れ親しんだ故郷の香なのかもしれない。

 

   街だって。 そうよ、街だって同じだわ。 

   この街だけの香 ・・・ この香で ああ・・・帰ってきたんだわって思うの

 

フランソワ−ズはその駅に降り立ったとき、思わずぽつり・・・・と呟いた。

平日の真昼間、 幹線からはずれた支線のロ-カル駅に乗り降りする人は数えるほどで、

彼女がのんびりと改札を出た頃には 駅前ロ−タリ−はすでに閑散としていた。

少し離れた国道沿いになら大型ショッピング・モ−ルがあり 少しは賑わっているのだが、

駅付近にはまさに <なにもなく> タクシ−乗り場にも行列は見られず

地域の循環バスがぽつねんと発車待ちをしていた。

冬の陽射しだけが華やかに辺りを照らしている。 

 

   ・・・・ただいま!  あ〜ああ・・・ やっと帰ってきたわぁ〜〜

   

両手に大荷物を抱えた金髪碧眼の美女は大口を開けて深呼吸し、ぼんやりと辺りを見回す。

 

   ふ〜ん ・・・ 相変わらず、ねえ。 季節がちょっと移っただけで な〜んにも変わらない・・・

   ・・・ でも、それがこの街なのよね。 ふふふ〜〜ん ・・・ ああ・・・遠くに海の匂い♪

 

しばらく彼女は辺りの空気を味わっていたようだが、やがてのろのろと歩き始めた。

ちら・・・っとバス停の方を眺めたが 足を向けようとはしなかった。

 

   ま。 いっか。 ず〜っと乗り物だったから。 ウチまでちょっと遠いけど 歩こうかな。

 

よいしょ・・・っと両手の荷物を持ち直しフランソワ−ズは真昼の道を歩きだした。

背中に受ける日差しは冬でもぽかぽかで 彼女の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。

 

   それにしても! わざわざわたしが帰る日に皆して出かけなくたっていいじゃない!

   ・・・ そりゃ ・・・ 博士のご用事ならしょうがないけど・・・

 

ふん・・・! と少し、美女の頬が膨らんだ。

こころなしか 大股な足取りから響く靴音が高くなった・・・のかもしれない。

 

 

 

 

「 モシモシ〜〜。 ・・・アロ−? ・・・ あら? ヘンねえ? これって壊れちゃったのかしら。 」

 

フランソワ−ズは思わず携帯を持ち直した。

一月弱にも及んだ海外公演をやっと打ち上げ、彼女が所属しているバレエ・カンパニ−は

明日、帰国の途につく。

打ち上げも終わり、最後のパッキングも済ませて、彼女はいそいそと日本の <家 > へ

電話を入れたのだ。

 

温暖な気候の地域の崖っぷちに、一軒の洋館が建っている。

そこにはご当主の老人とまだ年若い夫婦・・・と思われるカップルと赤ん坊が住んでいた。

全員、見かけはこの国の人間とは思えないのだが みな流暢な日本語を話し、

特に茶髪の若い夫は日本の姓を名乗り、首都にある出版社で働いているようだった。

地元の商店街にも彼らはしばしば仲睦まじい姿を見せており、人々の微笑みを誘っている。

 

「 ・・・だ い こ ん ・・・なんだか美味しそうねえ。 あの〜〜これってどうやって食べるのですか? 」

八百屋の店先で岬の洋館の若オクサンは青い瞳を見張っている。

側にはベビ−カ−、ぷっくりした頬の赤ん坊がすやすやと眠っていた。

「 え? ああ・・・岬の若オクサン。 これはね〜 うん、煮たりおろしたりするのが普通だね。 」

「 煮る?? あの・・・ どんな味付けをするのですか? 」

ラディッシュと似た味ですよ、と同じく店先を覗いていた若い人が助け舟を出してくれた。

「 まあ、そうですか。 ありがとうございます。 それじゃ・・・ 辛いのかしら。

 煮ても・・・辛いのかなあ・・・ 」

「 あはは・・・ 煮たら辛味は飛んじゃうよ。 そうだ、ちょっと待ってな。 ウチのかあちゃんに

 簡単な料理方、書いてもらうからよ! あんたんち、油揚げとかシメジは食うだろう? 」

「 油揚げ・・・あ、こんな・・・平べったいのですね? ええ、皆大好きです。 

 しめじ・・・は日本のマッシュル−ムでしょ。 」

「 おう、そんじゃいい煮物を教えてやるよ! あ、向かいの豆腐屋ね、あそこの油揚げは

 あの店手作りの絶品だぜ! 」

「 まあ〜〜 ありがとうございます! ふふふ・・・ 今晩のおかず、き〜まり♪ 」

「 ははは・・・若旦那にはまあ、焼肉でもつけてやんな。 」

「 ええ。 今日は商店街のワリビキだってきいて。 おいしいお肉、買って帰ります。 」

ぽ・・・っと頬を染める若オクサンはたいそう初々しく 誰もが微笑ましい視線を送ってしまうのだ。

 

そんな会話を交わすお店も増え、彼らは自然と地元の社会に溶け込んでいた。

日々の当たり前な生活を続け、 フランソワ−ズは同時に踊りの世界にも再び脚を踏み入れていた。

ひょんなきっかけで都心にある中規模なバレエ・カンパニ−のレッスンに通うようになり、

舞台に出るチャンスにも恵まれた。

 

「 へええ?? 海外公演? すごいな〜〜 やったね! フランソワ−ズ!! 」

「 なんじゃ、なんじゃ。 ジョ−、どうしたね? 」

ジョ−の声に ギルモア博士はテラスからひょいと顔を覗かせた。

博士は最近 盆栽に凝っていて日々剪定だの水遣りだのに精を出しているのである。

「 あ〜 博士! 聞いてくださいよ〜 凄いんだから! 

「 ジョ−ったら。 そんな大声で・・・ 恥ずかしいわ。 」

「 なんでさ? いいじゃん、これは家族の一大事件だもの。 」

「 ・・・ 事件? 」

「 あ、すいません、博士。 ぼくの言い方、ヘンですよね。

 事件・・・じゃなくてイベントかな。 フランソワ−ズがね、今度バレエ団の海外公演に

 参加するそうですよ! 」

「 ジョ−・・・! わたし、まだ決めてないのよ。 そんな・・・ 」

「 なんで? 行きなよ〜 是非是非 行っておいでってば。 ねえ、博士。 」

「 ほう・・・ それは凄いなあ。 フランソワ−ズ、それで何処へ行くのだね。 」

「 あ・・・ ぼく、聞いてなかったよ。 ねえ、どこ。 」

「 もう・・・二人とも。 勝手に決めないで頂戴。  わたし・・・迷っているの。

 ううん ・・・ 断ろうかなって思って。 でもちょっとだけ報告はしておきたかったの。 」

リビングのテ-ブルには お茶の支度が広がっている。

あとは お湯と熱々のパイをオ-ブンから持ってくるだけなのだが・・・

フランソワ−ズは真っ白なエプロンの端を握りしめ モジモジしている。

「 え!? 断るって、どうして!?  」

「 なになに・・・ おい、ゆっくり話してごらん、フランソワ−ズ。 」

ジョ−は珍しく頓狂な声をあげ、博士は剪定鋏を手にしたままテラスから戻ってきた。

「 ええ・・・ だって・・・ 3週間もウチを空けられないわ。 

 イワンだって昼の時間になるでしょうし。  とてもわたしには・・・無理よ。 」

「 どうして? イワンの世話くらい、ぼく、できるよ。 家のことだって・・・

 う・・・そのゥ・・・・激しく手抜きになる・・・と思うけど。 最低ラインは・・・なんとか。 ねえ、博士。 」

「 そうじゃよ! フランソワ−ズ。 いざとなったら張大人を頼るさ。

 なによりお前はお前のやりたいことを ― お前の夢を追ったらいい。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ 博士 ・・・  でも・・・迷惑じゃ・・・ 」

「 いっつも家のこと、引き受けてくれて。 ぼくの弁当まで作ってくれてるじゃないか。

 今度はぼく達がきみの応援、するよ。 」

「 ああ。 ワシが応援団長を買ってでよう! さ、明日にでもちゃんと返事をしておいで。

 留守のことは ・・・ なんとかなる。 いや。 なんとかする! 」

「 ・・・・・・・・ 」

フランソワ−ズは俯いたまま・・・顔をあげない。 

やがて 彼女の膝の上に 熱い雫が落ち始めた。

「 あれれ・・・・ 

「 おやおや ・・・ ほい、ジョ−? ここはお前の役目じゃ、任せるぞ。

 ワシが手を洗って着替えてくるまでに、フランソワ−ズの笑顔と熱々のお茶を用意しておけよ。 」

「 あ・・・ 博士ったら・・・ 」

ギルモア博士はいささか調子ハズレなハナウタと一緒にバス・ル−ムに出ていってしまった。

ジョ−は こそ・・・っとフランソワ−ズの肩に手を伸ばす。

「 ・・・ 泣くなってば。 何で泣くのさ。 ・・・ おかしなフランだなあ。 」

「 だって ・・・ ジョ− も ・・・博士も ・・・ 」

俯いたきりの彼女の口からもごもごと言葉が聞こえてくる。

「 ・・・なに、なに ?  よく・・・わかんないよ。 」

「 ・・・ わたし 嬉しくて ・・・ あ・・・ありが・・と ・・・ 

「 ほら・・・泣かなくていいよ、嬉しくて泣くなんて本当にヘンだよ、フランソワ−ズ。 」

「 ・・・ だって ・・・ 涙が ・・・ 止まらな・・・ 」

「 ・・・・・・・・ 」

ジョ−は笑って彼女の肩を引き寄せた。  とん・・・・と細い身体が彼の腕の中にはまり込む。

 

   ・・・ ああ。  彼女って。 こんなに華奢な人だったっけか・・・・

   いつだって弱々しい感じなんか全然ないから 気が付かなかった・・・・

 

「 ま、いいさ。 たまにはさ・・・ 思いっ切り気が済むまで泣いてみれば・・・ 

 ぼくの胸でいいのなら いつだって。 ね? 

「 ・・・ あ ・・・ ありが ・・・と ・・・・ 」

 

こうして本格的な冬が訪れる前に フランソワ−ズは生まれ故郷のある大陸へ旅立つことになったのだ。

 

 

 

その長旅も。 やっと千秋楽を終えた。

なかなか好評な旅公演だったが やはり帰国は嬉しい。 楽日には仲間達は皆、飛び切りの笑顔だ。

やっと戻ってきたホテルの部屋で フランソワ−ズはいそいそと携帯を取り出した。

旅の間中、ず〜っと我慢していた。 メ−ルも電話も・・・・

 

   これはね。 報告なの、そう、帰国の報告。

   これって・・・ 家族だったら当然よね・・・ ふふふ・・・ ジョ−・・・起きてるかなあ・・・

   え〜っと ・・・ 日本の国番号は・・・・っと ・・・ ん んん んん  よし!

 

珍しく何回も鳴っている呼び出し音を聞き流しつつ、フランソワ−ズは一人で微笑んでいた。

 

「 ・・・ はい。 」

にぶい機械音と一瞬の空白 そして 若い男の声がぼそり、と応えた。

「 ・・・ あ、 ジョ−?? ごめんなさい、寝てたかしら。 」

「 ・・・ フランソワ−ズ? 」

「 そうよ! ごめんなさい、こんな時間に。 ふふふ・・・わたしは今から寝るのだけど。

 あ、えっと。 報告です。 明日、帰ります。 元気です! 」

「 そうかい、 それはよかった。 」

「 うん、さすがにちょっと疲れたかなあ〜  こっちね、寒いのよ〜〜 ウチの暖かさに慣れてしまった

 みたいね〜〜 ヨ-ロッパの冬を忘れていたわ。 」

「 ・・・ ああ。 」

「 ジョ−? アロ−? 聞こえてる? 」

「 ああ。 ちゃんと聞こえているよ。 」

「 ・・・ どうかしたの? なにかあったの? 」

「 いや。 なにも。 ・・・ 起きたばかりなんだ。 」

「 あら! ごめんなさいね。 わたし、一人でおしゃべりしてしまって。 もう切るわね。

 それじゃ 予定通りに帰りますから。 博士やイワンにもよろしくね。 」

「 ・・・ああ。 時間を教えてくれないか。 」

「 え? あら、いやだわ。 予定表、置いてきたでしょう? 変更なしよ。

 ちゃんと AF 303便で ・・・えっとナリタが 〇時〇〇分 くらいのはずね。 」

「 了解。 」

「 それじゃ。 ・・・ ふふふ ・・・ 愛してるわ、ジョ−♪ 」

「 ・・・ あ、ああ。 ぼ、ボクも・・・ 」

「 じゃ、ね。 baiser ・・・! 」

「 あ・・・ うん。 それじゃ・・・ 」

カチャ・・・っと無粋もに通話は切れてしまった。

 

「 ・・・? ああ・・・あ。 ジョ−ってば。 本当に相変わらずねえ・・・ キス!くらい返してくれれば

 楽しいのに・・・  ま、ジョ−には無理かしら。 」

クスクスわらいをしつつ、彼女は携帯を置いた。

ほほがちょっぴり熱い。 久々に恋人の声を聞きそれだけで心が温かくなってきた。

「 ふふふ〜ん♪ ・・・あら。 いつもならナリタで迎に行くからね!とか言ってくれるのに。

 ああ、時間、聞いてたから・・・ そのつもりなのかな。 」

あ〜ああ・・・! と大アクビがひとつ。

フランソワ−ズはくしゃくしゃと髪をかき上げると ぼすん、とベッドに引っくり返った。

「 う〜〜ん・・・! あとは 帰るだけ! 明日の晩はウチだわ・・・・ 」

枕元のスタンドを消す ・・・ 間もなく 彼女の瞳は閉じてしまった。

心地よい睡魔に引きこまれる寸前・・・

なにか チリリ ・・・ と小さなアラ−ムが彼女の中で鳴った。

・・・ ジョ−の声。 ・・・ ちょっとヘンじゃなかった・・・?

 

ぼんやりと瞳を開いたのだが。 ベ−ジュの天井が薄暗い常夜灯の中に浮かび上がった。

ここは・・・静かなホテルのシングル・ル−ム。 時計の音が聞こえるだけだ。

 

   ・・・ でも携帯だし。 わたしも疲れているから ちょっと耳がヘンかも・・・

   考えすぎ、よ・・・・ さあ・・・ もう ・・・寝る・・・・わ・・・

 

フランソワ−ズは ゆっくりと寝返りを打った。

亜麻色の頭を羽毛枕に埋め、彼女はたちまち眠りに底に落ちていった。

 

 

 

 

「 ・・・え? なあに。 出掛けるって ・・・ どこへ?? アロ−? ジョ−・・?? 」

声のト−ンが 自然と高くなってしまった。

やっと税関をぬけ、送迎ロビ−まで出てきたところで フランソワ−ズの携帯が鳴った。

一緒に参加したバレエ団の仲間達は 到着後順次解散なので 手を振りあって散ってゆく。

フランソワ−ズはス−ツ・ケ−スをひっぱりあわてて壁際に移動した。

 

「 ・・・ アロ−、ジョ−? え・・・今、どこなの。 」

どうも電波の具合が悪いらしく ジョ−の声はかなり不鮮明だった。

「 え?? ・・・ ああ、もう途中なのね。 ・・・ 博士も? え?なに?? ああ、博士のご用事なの・・・ 

 うん ・・・ うん・・・ あ、いいのよ、気にしないで・・・ 」

フランソワ−ズはしっかりと携帯を耳に押し付けた。

 

   もう〜〜 なんて精度が悪いの! いっそ・・・ <耳> 使っちゃおうかな・・

   あ・・・っと。 ダメだわ。 ここだと わたしの耳も <圏外>だわねえ・・・

 

ふう・・・と溜息をもらし、彼女は再び携帯に集中した。

「 ・・・ え? なんでもないわ。 ・・・ うん、うん・・・わかったわ。 ・・・ 気をつけてね!

 わたし? 大丈夫よ〜〜 ウチに帰るだけですもの。  え? なに? リビングに ?

 ええ、了解よ。 ・・・ それじゃ・・・  あ、・・・ねえ・・・ 早く帰ってきてね・・・ うん・・・ 

不鮮明な音声のまま、ジョ−からの通話は切れてしまった。

 

   あ・・・ もう。 なによ なによ〜〜  アイシテル、くらい言ってくれてもいいじゃない?

 

ちょびっとだけ、ほっぺたが膨らんだ。 

「 ・・・ な〜んだか・・・ ちょっと ・・・ がっかり。

 ま、いっか。 わたし一人ならのんびりしようっと。 それじゃ・・・ス−ツケ−スは宅配に頼も。 」

ぶん・・・!と頭を振ると、フランソワ−ズは出口目指して歩き出した。

 

 

そして。

今、やっと。 彼女のウチ ― ギルモア邸 ― の最寄駅まで辿りついたのである。

通行量の少ない国道沿いに歩いてゆくと やがて大きなカ−ブを切って道は海沿いに出る。

この地域の人々が 海岸通り と呼んでいる部分に入るのだ。

 

「 ・・・ あ〜〜 う〜〜ん・・・・ !  この香り・・・ 潮のにおいね〜〜

 そうよね、これがわたしの <ウチに帰ってきた!> においかな。 」

目の前に広がる大海原は 冬の日ざしを集めゆっくりと金のウロコをうねらせていた。

温暖なこの地域、冬になっても海が荒れることは滅多になく

吹き渡る海風も 今日は冷たさを含んではいない。

ぽくぽく 元気な足取りで フランソワ−ズはずっと前方に見えてきた <我が家> を目指す。

 

   ・・・ ふふふ・・・ 可笑しいわよね。

   わたしの生まれ育った街は海からずっと遠くて。 

   もし ・・・ あのままの <わたし> だったら。 こんな場所、歩くことなんてきっと一生・・・

 

ふふふ ・・・ 

ちょっと苦味のある笑みだったけれど、最早それは彼女の悲しみのモトではなくなっている。

時間と今の幸せが辛い思い出の角をすこしづつ 丸めて行ってくれた・・・のかもしれない。

とおい海の向こうからやってきた乙女は 元気に<我が家>へ歩いてゆく

 

 

 

「 ・・・ ただいまぁ〜〜〜 ! 」

オ−ト・ロックの玄関を通り、 リビングのドアを開けた時フランソワ−ズは大声で挨拶をした。

誰もいないのはわかっている。 応えがないのも充分承知の上だ。

「 ・・・・ おかえり、フランソワ−ズ・・・っと ・・・  」

ぶつぶつつぶやいてみたけど、あまり面白くはなかった。

ばたん・・・といささか勢いが良すぎたドアが壁にぶつかって揺れている。

しかし 聞こえる音はドアのギイギイいう音だけで 広々としたリビングは静まりかえっている。

いつもなら。

「 ジョ−ってば。 見ないならTV、消してちょうだい。 」

「 あ・・・ うん ・・・ でも、見てるんだ・・・ 」

「 あら そうなの? だって雑誌、読んでいるのでしょう? 」

「 ・・・ 今だけ! もうすぐ見たい番組、始まるんだ。 」

「 あらそう? ・・・ あ、電話だわ。  もしもし。 ギルモア研究所で・・・あら、コズミ博士( せんせい ) 

 はい、お待ちくださいませ。 博士〜〜〜 コズミ博士からお電話ですわよ? 」

「 博士はテラスだよ、 ぼく、呼んでくる。 」

「 お願いね〜  あ・・・すみません、もう少々お待ち下さいね〜 」

≪ ふらんそわ−ず ? ≫

「 ・・・え? あら、イワン。 なあに。 お腹、空いたの? 」

≪ ウウン。 ソロソロ おーぶん ノたいまー ガ鳴ルヨ? ≫

「 あら! ありがとう〜〜♪ 今日のオヤツはシフォン・ケ−キ、なの。 上手く焼けたかしら。 」

「 うお〜〜い・・・ おお、コズミ君! 待たせた申し訳ない! ああ? ・・・うん、それがな〜 」

「 博士〜 ジョウロ、持ったままですよォ〜 あ・・・水が・・・ 雑巾、雑巾は〜〜 

 あ〜〜 番組、始まってるよ〜〜 !! 」

つまりは 生活感に溢れた音が満ち溢れているのだが。

 

今は。 

テラスの下、崖の下に打ち寄せる波の音だけが やけにはっきりと聞こえていた。

 

「 ・・・ ふ〜ん ・・・ ここってこんなに広かったっけ? 

 あ〜〜〜〜 ともかく。  帰ってきたわ〜〜〜 」

ボスン・・・! フランソワ−ズはリビングのソファに勢いよく身体を投げた。

「 ・・・・ふふふ ・・・ あ・・・ いい気分 ・・・ やっぱり駅から歩きってのはちょっと無謀だったかしら。

 さすがに脚がぱつんぱつんだわ〜〜〜 ・・・あら? 

寝そべったまま、彼女はテ−ブルの上を見つめた。  紙切れが一枚、おいてある。

「 なにこれ。 ・・・ あ、ジョ−が言ってた<手紙>かしら・・・ 」

よいしょ・・・っといいさかお行儀が悪いが そのままの姿勢で手を伸ばす。

「 え・・・っと? 

   フランソワ−ズへ

   お帰り、お疲れ様でした。  旅は楽しかったかい。

   さて 突然出掛けることになりました。 

   博士の用事で どうしても今日中に九州に行かねばならない。

   ブリテン、張々湖も一緒に潜水艇ででかけます。

   明日には戻るから。 心配ないよ。

   ・・・・ アイシテル ・・・ ジョ−より

 

 ふ〜ん・・・だ。 そうなんだ・・・  へえ・・・九州、ねえ・・・  」

ぱさり・・・  彼女の手から紙が離れ、ソファの下に落ちた。

「 ふうん。  皆一緒なのね。 博士のご用事なら仕方ないけど。 でも・・・ 

 わたしの日程、知ってるクセに。 なにも・・・ 帰国の日にわざわざ皆で行っちゃうなんて・・・さ・・・ 」

フランソワ−ズのご機嫌は 最大限に斜めになってきていた。

「 ・・・いいわ。 今日はもう、な〜〜んにもしない! わたしだって休息が必要ですものね。

 午後中 のんびり・・・ あ〜〜ああ・・・時差ボケで眠いわぁ〜〜   」

いささかわざとらしく伸びをしてみたけれど。

この広いリビングに満ちている静けさが どん・・・と圧し掛かって来た・・・気がした。

「 ・・・ ちょっと・・・ お昼寝しちゃおうかな。  そうよ、ほんの少しだけ眠って。

 そうすればすっきりするわよね、それからいろいろ・・・片付ける・・・わ ・・・ あ〜ああ・・・ 」

アクビをしたまま。  紙切れをソファの下に落としたまま。 

彼女はクッションに顔を埋め、たちまち寝入ってしまった。

差し込む冬のお日様が上掛けになって フランソワ−ズのお昼寝を見守っていたのかもしれない。

 

 

「 う ・・・ ん ・・・?  ああ・・・ 寝ちゃったのね・・・  え? 」

 

ふ・・・っと何かが動いた・・・気がして目が覚めた。

・・・ あれ・・・? ここ、どこ・・・・

昨日まで見慣れていた天井とは ちがう。 

ゆっくり起き上がると フランソワ−ズはしばらく周囲を眺めていた。

 

   ・・・ なんでこんなに薄暗いの・・・? それにこの音・・・遠くからず〜っと聞こえてる・・・

   でも わたし、とてもよく知ってるわ・・・ 

 

「 あ。 そうよね。 帰ってきたのよ、ね。 ヤダわ、わたしったら・・・・ 」

カチャン・・・・

彼女がソファから立ち上がった時に、 足元の方から何かが床に落ちた。

「 あら。 なにかしら。  またジョ−がなにか置きっぱなしなのかな・・・ 」

電気、点けなくちゃ・・・と思いつつも 彼女は手探りで床に落ちたものを拾い上げた。

「 ?? なに、これ。 ・・・ お人形?? 初めて見るわ・・・ これって、木製なのかしら。 」

彼女の手の中には 手脚が別々に動く人形があった。

とんがったハナにまん丸な目、服装もメルヘンっぽくベストに半ズボン、ちょこんと帽子を被っている。

「 ふ〜ん・・・ なんだか見覚えがあるわね? ちっちゃい頃絵本で見たような・・・

 あ! そうよ、思い出したわ! ・・・ピノキオ。 木の操り人形で そう、そんな名前だったわ。 」

多分博士のお土産なのかな、とフランソワ−ズは人形をソファの上に戻した。

「 確か・・・糸が付いてるのよね。 自由になりたい・・・って逃げ出すの。

 あら・・・ なんだかわたし達みたい。  ねえ、ピノキオ君? ここはキミの仲間達の家よ? 

 さあてっと。 お腹、空いたな〜 なにか作ろうかしら。  ・・・・ あ・・・れ・・・? 」

フランソワ−ズの足が止まった。

薄暗いリビングの真ん中で 彼女はじ・・・っと立ち尽くしていた。

 

   あら・・・・? なんだか ・・・ 静かね。 静か過ぎる・・・のじゃない?

   だって ウチはいつだって ず〜っと・・・潮騒の音が聞こえている はずなのに

 

そう、<いつもの>リビング、慣れ親しんでいる場所に居るはずなのに、なにかがちがう。

皮膚で感じ取った<ちがい>は 音なのだ。

確かに広いこの邸にたった一人でいるのだけれど、玄関もリビングもキッチンも・・・

し〜ん・・・と静まり返っていて当然なのだが。  

 

波の音が なかった。

 

「 まさ・・・か・・・? 博士がなにか消音装置を開発なさったのかしら?

 ううん・・・ だって博士ご自身も・・・わたし達、みんな波の音が好きで。大好きなはず・・・ 」

 

   ― あそこの角を曲がってさ、波の音が聞こえるとあ〜 帰ってきた〜って気がするんだ。

 

   ― このリズムがな。 うむ、適度な刺激になって思わぬ方向に思考が発展することもある。

 

   ― 僕ノ子守リ歌カナ。 アノ単調サハ眠気ヲ誘ニハ一番サ。

 

この邸の住人達は 絶えず聞こえる潮騒がもう生活の一部になっていのだ。

それをわざわざ遮断する工夫など、博士が行うはずはなかった。

 

「 もしかしたら。 ヘンなのは・・・ わたし、の方?  ・・・ちょっとだけ・・・・ 

次第に夕闇が濃くなってゆくリビングの真ん中で 彼女は慎重に <耳> を稼働させた。

ヴォリュ−ムをできるだけコントロ−ルし、レンジも最小にした。

フランソワ−ズの顔がすっと蒼ざめた。

「 ・・・ ! ・・・ そんな ・・・バカな。 それじゃ ・・・ 」

見開いた瞳には真剣な光が浮かび額にはじんわりと汗が浮かんでいる。

「 ・・・ !  眼! 眼は・・・!? ・・・・・ 」

きゅ・・・っと唇を噛み締め 彼女はますます厳しい表情を浮かべる。

「 ・・・ そんな ・・・  だってわたし。 ほら、見えるし。 わたしの声も聞こえるわ?! 

 それなのに。 どうして・・?? いったいわたしになにが起こったの! 」

 

   耳 も 眼 も。 全く稼働しなかったのだ。

   

「 うそ! だってだって・・・ あ! 電気を点けて・・・ 」

慌てて壁際にとんでゆき、こころ覚えの位置をさぐりスイッチを入れた。  しかし。

リビングの中は 夕闇と静けさ だけが満ちていた。

「 なぜ!? だって・・・ウチに帰ってくるまで、ううん、ちょっと転寝する時まで

 わたし、ちゃんと聞こえたわ! 波の音も国道を通る車の音も!

 そうよ、ちゃんと見えたもの、ジョ−の手紙、読んだじゃない!  どうして・・・? 」

フランソワ−ズは頭を抱え、床にしゃがみ込んでしまった。

 

「 ・・・ どこか・・・壊れてしまった・・・のかしら。 

 博士がお帰りになる予定は・・・ 明日・・? でも・・・・ああ、でも・・・

≪ ・・・ ジョ−・・・ ! 助けて・・・・! ≫

 

必死で飛ばした脳波通信に返信はなかった。 いや・・・ 彼女は発信することができなかったのだ。

「 ・・・わたし・・・ 壊れてきているのね・・・どんどん壊れてゆく・・・のかしら・・・ 

ぞくり・・・と 恐ろしく冷たい悪寒が背筋を這い登ってきた。

「 生きているのに。 ・・・ こうやって生きながら 壊れて・・・ゆくの・・・?

 次は 何 ? どこが なにが 使えなく・・・なるの・・・ 」

あまりの恐怖に身体中がしゃちこばり、恐い・・・! と泣き叫ぶこともできない。

 ・・・・ あああ ・・・・ !

フランソワ−ズは低く悲鳴を上げ、その場に崩折れ蹲ってしまった。

 

「 ・・・ ファンション。 」

 

「 ・・?! ・・・ 誰?! 」

暗がりから突然 聞き覚えのある声が 響いてきた。

「 俺だよ。 ファンション・・・! さあ、一緒に帰ろう。 こんなところに居てはいけないよ。 」

「 ・・・ お ・・・ お兄さん・・・? ジャンお兄さんなの・・・ 」

「 そうだ、お前を迎に来た。 さあ、兄さんと一緒にパリに戻ろう。 」

「 ・・・ どうしてここにいるの。 どうして・・・わたしがこのウチに居るって知っているの。 」

「 あるヒトから情報が入ったんだ。 さあ、帰ろう!

 これ以上 ここにいたら、 アイツらと一緒にいたら。 お前は死んでしまうよ! 」

「 ・・・ ジャンお兄さん・・・ わたし ・・・ 」

「 さあ、 ファンション!  ああ、そんな涙だらけの顔で・・・ おいで! 」

す・・・っとそのオトコはフランソワ−ズに向かって手を差し伸べてきた。

 

   ・・・ お兄さんの 手 ・・・ ちっちゃい頃から いつだってわたしを護ってっくれた 手

   この手にぎゅ・・・っと握ってもらえれば 恐いモノなんかなんにもなかったわ ・・・

 

「 おいで。 おいで ファンション・・・! 

「 ・・・ お兄さん・・・ でも・・・でも。 わたし・・・。 今、このウチが・・・あの・・・ジョ−が・・・

 好きなの・・・ 」

「 ファンション? だってお前。 これ以上ここにいたら どんどん壊れてゆくだけだぞ。 」

「 ・・・ 壊れて・・・?  どうして、そんなコト、言うの。 どうして知っているの? 」

 

「 ファンション! まあ、お前ったら・・・ どうしたの?? 」

「 ファンション。 どうして兄さんの言うことが聞けないのかい。 」

 

「 ・・・え?? ・・・ あ! 」

部屋の片隅から また違った声がきこえてきた。  落ち着いた、中年をすぎた男女の声だった。

「 パパ!  ママン! ・・・・ どうして?? どうして ココへ?? 」

「 なにを言っているの、アナタが呼んだからでしょう? ・・・ あらあら、なんて顔しているの。

 ちっちゃなファン、のまんまなのねえ。 ちょっとこっちへいらっしゃい。 」

「 おやおや・・・美人が台無しだぞ? ああ、髪もぐしゃぐしゃじゃないか。 パリジェンヌ失格だぞ。 」

「 ・・・ ママン ・・・ わたし ・・・ わたし、ね・・・! 

「 ええ、ええ。 ちゃんと聞いてあげますから。 こっちにいらっしゃいな。 」

「 さあ、おいで、ファン。 皆で帰ろうじゃないか。 久し振りに家族全員そろうなあ。 」

「 ・・・ パパ・・・ わたし・・・ とんでもないコトに巻き込まれて ・・・ それで・・・ 」

「 ああ、ああ。 言わなくていい。 パパはお前の元気な顔が見られただけで嬉しいよ。 」

暗がりなので顔形は判然としない。

しかし 響いてくる声は そして差し伸べられた手は 懐かしい父母のものなのだ。

 

「 ・・・ あ・・・ わ、わたし ・・・ 」

 

フランソワ−ズは思わず一歩、家族のいる闇へ足を踏み出した。

 

   ・・・ う ・・・ でも。 待って! ちゃんと確認しなくちゃ。 

   せめて・・・ 眼 と 耳 で。  サ−チ ・・・ しなくちゃ・・・!

   そうよ! もしかしたら直っているかも・・・!

 

「 フランソワ−ズ ! 

彼女が 眼と耳のスイッチを入れようとした瞬間、 新たな声が聞こえてきた。

「 ・・・ 誰? わたしを呼ぶのは 誰?! 」

「 私よ。 忘れちゃったの? ・・・ ずっと、デビュウ・クラス から一緒だったじゃない。 」

「 ・・・? ・・・・!  この声は・・・ カトリ−ヌ・・・! 」

「 当たり! ねえ、どうしちゃったの?? 突然いなくなってしまって・・・

 私たち、どんなに心配したか知れやしない。 」

「 カトリ−ヌ ・・・ ごめんなさい ・・・・ 」

「 いいよ〜 またこうして会えたんだもの。 ね? また一緒にレッスンしようよ。

 フランソワ−ズだってこっちで頑張っているのでしょう? 」

「 ・・・ え、ええ・・・ まあまあね。 」

「 ね、帰ろう。 私達の街へ。 こんな淋しいトコに居ちゃ、だめよ。 」

「 あ・・・あのね。 ここ・・・わたしのウチなのよ。 それにそんなに淋しくないわ。 」

「 え〜〜 ウソ〜〜 だって誰もいないわよ?  フランソワ−ズ、一人じゃない。

 こんな広いトコに一人で ・・・ そんなの<ウチ>じゃないわ。 」

「 あの・・・ いつもは か、家族がいるの。 今日はたまたま皆留守なだけで・・・ 」

「 ね。 フランソワ−ズ。 あなた、泣いてたでしょう?

 ・・・ 帰りましょ。 皆、待ってるよ。 街も稽古場も。先生も友達も。 」

「 カトリ−ヌ・・・ わたし。 わたし ・・・ 」

「 ほら! あなたのパパやママンも。 お兄さんもよ? あなたのウチはパリのはずでしょ。 」

「 ・・・え ・・・ ええ ・・・・ 」

 

 

「 帰ってこい、ファン! 兄さんが連れて帰ってやるから! 」

 

「 さあ。 パパとママンと・・・ 一緒に戻ろう。 」

「 ファンション。 帰っていらっしゃいな。 ・・・ ね? 」

 

「 また一緒に踊りましょ。 フランソワ−ズがいないと張り合いがないわ。 」

 

「「「  おいで フランソワ−ズ  」」」

 

 

  ・・・・ みんな ・・・ 懐かしい皆 ・・・

 

フランソワ−ズはよろめく脚を踏みしめ、ゆらりと立ち上がった。

「 ・・・ 帰る・・・ でも。 これから? エア・チケットは・・・いつのフライト・・・ ? 」

「 そんなこと簡単さ。  ほら、そこの窓から一緒に飛び出せばいいのさ。 」

妙に達者な、コドモの声が聞こえた。

「 ・・・ 誰?! 」

「 僕さ。 ピノキオ。 」

「 ・・・ ピノキオ・・・? 」

「 そう。 さっきキミが床に落として、拾い上げた人形さ。 」

「 ・・・あ!? 」

フランソワ−ズの目の前に 小さな影がギクシャクと立ち上がった。

「 あの・・・木製の?!  だって・・・ 博士が作ったおもちゃ・・・かなにかだと思って・・・ 」

「 まあ、見かけはこの通り不恰好だけどね。

 ねえ、フランソワ−ズ。 僕と一緒にゆこうよ。 」

キクン・・・と その人形は手を伸ばしてきた。

「 ・・・どこへ? 」

「 キミが本当は帰りたい・本当の<家>へ。 キミが幸せだったころの世界に案内するよ。 」

「 ・・・ そんなこと・・・ 不可能だわ。

 わたし。 今のわたしの<家>はここなの。 わたし・・・ここで幸せよ。」

「 そうかな〜 ウソつきなフランソワ−ズ。 本心は泣いているくせに。

 本当は パリに帰りたい、生まれた街で普通の女の子として生きてゆきたいくせに。 」

ケラケラケラ・・・

甲高い声があがり ピノキオはゆらゆらと近づいてきた。

「 やめて! 寄らないで! ・・・ どうしても来るなら・・・! あ! バッグが! 」

「 おっと。 飛び道具はオアズケさ。 」

音をたて彼女のバッグがリビングの隅に飛んでいった。

「 へへへ・・・ キミをあんな風に弾き飛ばすのなんて簡単なんだよ? ほ〜ら・・・ 」

「 ・・・え?? あ、 きゃあ〜〜  ・・・ ウッ!! 」

突然 フランソワ−ズの身体が天井近くまでもちあがりすぐさま床に叩き付けれらた。

彼女は受身を取るヒマもなく、あまりの衝撃に声すらだせない。

「 へへへ・・・ 壊れかけの サイボ−グ 003! 眼も耳も・・・ 脳波通信も効かないよね。

 フフフ・・・ さあ、このまま。 まっすぐに飛び込むんだ! 」

「 ・・・ く ・・・・! そんなコト さ・・・せない・・・わ・・・ 」

必死で起き上がると 彼女は手にふれたスリッパを力いっぱいピノキオに投げつけた。

「 お〜っとっと。 ふうん? さすがサイボ−グだねえ? そう簡単には参らないってわけか。 」

「 ・・・ そうよ! そんな木偶人形に・・・・負けてたまるものですか・・・! 」

フランソワ−ズはじりじりとピノキオに這いよってゆく。

手の中にはテ−ブルから転げ落ちた卓上ライタ−を握りしめている。

 

   ・・・ アレはもしかしたら火に弱いかもしれないわ。 

   勝ち目はなくても やられっ放しなんて冗談じゃないわ・・・!

 

「 木製の 操り人形のくせに生意気ね・・・! 」

「 ふん。 操り人形はキミのことだろ? 全員でまんまと逃げ出したつもりらしいけどさあ? 

「 ・・・あ?! 」

突然 フランソワ−ズの腕が持ち上がった。 

「 ほ〜ら。 腕だけじゃないよ? 脚だって身体だって。 へへへ・・・ もう一回? 」

「 ・・・ きゃあ 〜〜〜  く・・・・!! 」

今度は両脚を掬われ 彼女は頭から床に落ちる。

しかし今回は不意打ちではなかったので身体を丸めた姿勢をとる余裕があった。

「 ・・・う ・・・・ 」

「 へえ? ちょっとはかわすんだねえ。 感心 感心・・・ でもさ、 キミは逃げられないんだヨ!

 キミの腕には 脚にはネ、そう、身体中は見えない糸でがんじがらめさ。 」

「 見えない ・・・ 糸 ・・・? 」

「 そうサ。 ふふふ フフフ・・・・ そう簡単に我々の手から逃れられるものか! 

 この糸をちょっと強く手繰れば ・・・ 帰りたいんだろう? モトに暮らしにさ。 」

ピノキオは相変わらずギクシャクしつつ、腕をあげる。

「 あ・・・ な、なに?? 息が ・・・ 息ができ・・・な・・・ く・・・苦しい・・・! 」

フランソワ−ズは急に首を圧迫され呼吸ができない。

 

   ・・・なに?? なにも ・・ ないのに!  まさか 本当に・・・糸が??

 

夢中で首の回りを手で掃うのだが、 手ごたえは無く徒に皮膚を引っ掻くだけだ。

「 ほうら。 無駄なことはやめてさ。 ボクと一緒にゆこうヨ。 」

「 く ゥ・・・ ! 冗談じゃないわ! わたしは今のわたしが 好き! 」

 

≪ ・・・ソワ・・・ズ・・・?  返事 ・・・ ジョ・・・ ≫

突然フランソワ−ズの頭の中に 切れ切れの通信が飛び込んできた。

≪ ・・・ ジョ−?! ジョ−なの? ≫

≪ ・・・ こえ ・・・ない。 返事 ・・・ろ! どこ ・・ る? ≫

 

   直った? いえ、きっと頭を打った拍子に偶然繋がったのね! 

 

「 強がりはよしなってば。 さ、もう行くよ〜 」

カタカタ・・・カタ・・・・

木製の腕が乾いた音とともに伸びてくる。

 

   うんと近づいたら・・・・ 火を・・・! ライタ−と一緒に・・・

 

カタリ。  無骨な木の手が彼女の髪を掴んだ ― その瞬間。

フランソワ−ズは火を点けたライタ−ごと逆に人形に抱きついた。 そして。

 

  ≪  ジョ− −−−−−− !!!! ≫

 

 

「 ・・・ぎゃ・・・なにを! バカな・・・この出来損ないめが〜〜 離せ 離せ〜〜 」

たちまち衣服の焦げる匂いと煙が立ち昇る。

 

  ・・・ シュ ・・・!!

 

「  ・・・ あ ・・・ ジョ− ・・・・ 

耳慣れた音と 独特の空気の匂いに フランソワ−ズは全身の力が抜けてしまった。

「 フラン! 大丈夫か! む・・・ 火か? 」

ジョ−が ドアを蹴破って飛び込んできた。

彼はすぐにフランソワ−ズをピノキオから引き離した。

「 やあ。 お前もやって来たのか。  009。 丁度いいや、道連れだ! 」

人形の腕がカタリと鳴る。

「 ジョ−! 気をつけて! なにか・・・サイコキネシスかしら、超能力を使うみたい! 」

「 大丈夫さ。 きみさえこっちにいれば! 行くぞ! 」

バン・・・! 

ジョ−の脚が掬われたが 倒れながらも彼のス−パ−ガンが人形を狙った。

「 フン。 そんなモノ当たるもんか。 さあ〜〜 お前も見えない糸で雁字搦めサ。

 戻りたいのだろう? ふふふ・・・以前の自分に。 ほら・・・ ボクが糸を引けば〜 」

「 お前こそ! ・・・ 喰らえ・・・! 」

「 だから〜 キミは自由には動けないってば。 ボクの手のまま・・・ んん? あ??? そんなバカな!

 き、効かない?? なぜだ・・・・?? 」

ジョ−は懸命に起き上がると 両脚を踏みしめ、一気にトリガ−を引いた。

 

「 悪夢よ、消えろ! ・・・ ぼくは 今 を一番愛しているんだ。 」

 

  バ −−−−−−− !!!!

 

ジョ−のス−パ−ガンがホルスタ−に収まったとき、 床には木製の人形が落ちているだけだった。

不恰好にひしゃげたその顔は なぜか泣いている・・・みたいに見えた。 

 

 

 

「 え・・・ じゃあ、あの電話が? ニセ電話だったの? 」

「 うん、どうもそうらしい。 ぼくはてっきりきみからだと思って・・・ 」

「 わたしもよ!  ナリタでもらった電話も・・・ あ! ちょっとヘンだなあ、って思ったけど・・・

でも置手紙まであったし。 全然疑わなかったの。  」

「 ぼくだってさ。  博士と大慌てで関西に飛んでいったんだよ。 」

「 ・・・ その <仕上げ> がこの人形だったのね。 メカ部分のコントロ−ルを狂わせる装置が

 仕組まれていたのですって。 博士が仰っていたわ。 」

ジョ−はテ−ブルの上に くたり、と横たわった木偶を 掴み上げた。

「 ふん。 ・・・ この人形か! 」

「 あ! ジョ−・・・ 壊さないで! 

「 なんだって? だって コレに仕掛けられた装置できみはすんでのところで・・・! 」

「 ええ・・・ でも、もう装置は除去したし。 この人形自体に害はないわ。 」

「 そうだけど・・・ しかし! 

「 ・・・ ね、海に・・・ 海に還してあげましょうか。 糸はつけないで・・・ 永遠に自由になるために 」

「 糸、か・・・・ そうだね。 」

「 わたし・・・ 縛られていたわ。 思い出っていう糸に・・・ 」

「 え・・・? 」

「 あの時、 ジョ−はきっぱり言ったでしょう? 今が一番好きだ、って。 」

「 あ・・・? ああ、そうだったかな。 」

「 ええ。 だから・・・ アイツの力が効かなかったのよ。 

 きっと ・・・ 昔に還りたい、今はイヤだ・・・って気持ちを巧みに利用していたのじゃないかしら。 」

「 ・・・ 現在の自分の否定、か。 」

「 そうかもしれないわ。 逃げたい・・・ってどこかで思うスキを狙ったのね、きっと。 」

「 ・・・・・・・ 」

「 ・・・ごめんなさい。 」

「 え。 なんで。 なんできみが謝るのさ。 ・・・ああ、ここ・・・首のとこ。 火傷しているよ?

 ちゃんと治療してもらわなくちゃ。 」

「 わたし。 今、こんなに幸せなのに。  こころのどこかで思っていたのね。

 昔に還りたい・・・ 普通の女の子だった頃に戻りたい・・・って・・・ 」

「 ・・・ フランソワ−ズ。 」

「 ジョ−がいるのに。 こうして・・・・ わたしにはジョ−がいてくれるのに・・・   こんなに幸せなのに。  」

「 ・・・ いいんだよ、フランソワ−ズ。 誰だって楽しい思い出は大事だもの。 当然だよ。

 ぼくは持ってないから。  だから、今が一番なのさ。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・・! 」

フランソワ−ズは ぱっとジョ−の首にかじりついた。

「 わ・・・! ど、どうしたんだい? フラン・・・ああ、おでこにも火傷が・・・ 」

「 ジョ−・・・ ジョ−・・・・! わたし達の < 今 > を最高にしましょう!! 

 見えない糸で、 ううん、愛のリボンで しっかりとわたしをあなたに縛りつけて・・・ 」

「 ・・・・・ おいで。 」

ジョ−は静かに微笑むと 彼の恋人を抱き上げた。

 

 

 

*****************************    Fin.   *********************************

 

Last updated : 12,16,2008.                                           index

 

 

 

*************    ひと言   ************

え〜〜〜 一応原作・あのオハナシのシチュエ−ションの基本設定は使わせて頂いたのですが・・・

例によって <フランちゃん版> そ〜して実に全く・全然違ったハナシになりました(^_^;)

サイボ−グさん同士でも携帯の声でころりと騙される? いえいえ、振り込め詐欺防止キャンペ−ン

じゃないですよ〜〜〜 ( 泣 ) 

こんな日常があってもいいかな? そ〜して二人はやっぱりらぶらぶなんだよ〜〜って

書いてみたかったのです〜〜 ま、これもアリかな?って寛大に読み飛ばしてくださいませ<(_ _)>

タイトルは ! 昔・なつかし・少女雑誌・・・じゃ〜ないです★

糸じゃなくて・・・ りぼんの方がいいでしょ♪  それだけの理由です。

あ!もうひとつ。 カトリ−ヌさん は新ゼロ・キャラでした、原作には登場しませんです。

尚、 箱根より向こうは〜云々 につきましては他意は全くありません〜〜 <(_ _)>