『 お手伝い   −レシピ− 』


「 え? あなた達がつくるの? 」
「 そう〜〜! 今日はね〜 わたしとすばるにオヤツをつくらせて、おかあさん。」
「 いいけど・・・。 なにがつくりたいの? 
 あなた達にできるオヤツって・・・ そうねえ・・・
 ホット・ケーキなら まぜてチンするだけよ、ああ、プリンの素もあるわ、ほら。
 簡単よ、すぐできちゃう。  」
「 うう〜〜ん! そんなんじゃないの〜〜ね、すばる? 」
「 ウン! 」

今日の島村さんちの双子の姉弟はいつにもましてご機嫌である。
「 ??? あ、わかった! おとうさんに手伝ってもらって クッキーを焼くんでしょ? 」
「 ぶ〜〜♪ 残念でした〜 はずれ! 」
「 僕、おとうさんのクッキーでもいいな・・・ 」
「 ちがうでしょ〜、もう、すばるったら! 今日はアタシたちの<はつちょうせん>なの! 」
「 はつちょうせん?? 」

姉娘のおしゃまな口調が可笑しくて フランソワーズは思わず笑みがもれてしまう。

 ー ほんとうに 女の子は口が達者だわ・・・

「 まあ、そうなの? それで すばるとすぴかはナニに初挑戦するのかな? 」
「 あのね・・・・ 」
「 しっ! すばる!  一緒に言いましょ? いい〜? いっ せ〜の〜せっ・・・ 」

 「「 おかあさんのジュエル・ゼリー !! 」」


「 え・・・・ 」
「 だからね、つくり方をおしえて、おかあさん。 」
「 おとうさんにもお手伝いしてもらう約束なんだ〜 」
「 あたし達、おとうさんが帰ってくるまでにちゃんと準備しておかなくちゃ。ね〜すばる。 」
「 うん。 えっと・・・ 」

ボウルに計量カップに 小鍋と泡だて器・・・

おどろいて目をぱちぱちさせ ふたりの顔を交互に見ているフランソワ−ズを尻目に
双子の姉弟はどんどんキッチンの棚から 道具を取り出し始めた。
子供たちが今までやってきたおかあさんの<お手伝い>といえば
粉をふるうとか生地を混ぜるときにボウルをしっかり押さえているとか 
デコレ−ションにフル−ツを飾るとか・・がせいぜいである。

急に おしえてっていわれても、ねえ。
・・・ま、いっか。 包丁や火を使うところは わたしがやればいいんだし。
ゼリ−ならそんなに失敗することもないわね。
フランソワ−ズはこころの隅でそっと溜め息をついてから、娘と息子に微笑みかけた。

「 ようし♪ じゃあ、とっておきのおかあさんのレシピを教えちゃうわね。 」
「「 わあい♪ 」」
可愛い歓声が キッチンにひろがった。

「 じゃあね。 まずは二人ともお手々をよ〜く洗ってきてちょうだい。
 これは お台所をするときの一番だいじな<お約束>よ? いい? 」
「「 はあい 」」



<島村さんち>で フランソワ−ズお得意のジュエル・ゼリ−のレシピをご紹介します。
フランソワ−ズは いろいろなジュエルを入れていましたが、ここでは中にいれるゼリ−は
三種類にしておきました。 お子ちゃまにも出来ますよ〜♪
市販のゼリ−の素やカップに入ったプチ・ゼリ−をそのまま利用すればもっと簡単です。

夏休み、のんびり・まったり、すばる君やすぴかちゃんと一緒にひとつひとつ手作りしてゆくのも
楽しいと思います。

( 実際にコレはふる〜〜〜いレシピなのです。 本当に島村さんちの奥さんが
 娘時代にママンから教わったころのモノ、時代モノです。 現代風とはちょっと違うかもしれません。 )




                 **** ジュエル・ゼリ− ****    

<直径18センチの山型  一個分>


 T=大匙  C=カップ

** 材料 **
*レモンゼリ− (全体をまとめるもの)
粉ゼラチン・・T5  水・・2 1/4C  砂糖・・1/2C  レモン汁・・T2  レモンエッセンス


<中に入れるゼリ−>

*ミルクゼリ−
水・・T2  砂糖・・T4  粉ゼラチン・・T1/2  牛乳・・1/2C  

*ミントゼリ−
水・・1/2C  粉ゼラチン・・T1/2  砂糖・・T4 1/2 ペパミント・・T1

*コ−ヒ−ゼリ−
コ−ヒ−・・1/2 C  粉ゼラチン・・T2  砂糖・・T4


** 作り方 **

*ミントゼリ−
1、粉ゼラチンを 1/8Cの水に浸しておく
2、鍋に残りの水と砂糖を入れ火にかける
3、煮立った時に火を止め、1のゼラチンを入れかき回して溶かす
4、粗熱が取れてからペパミントをいれる
5、型に入れて冷やし固める
6、固まったら1センチ角のキュ−ブ状にカットする

*ミルクゼリ−
1、ミント・ゼリ−と同じ要領で作る。 2、の時に牛乳と砂糖を火にかけるが
  あまり煮立てないようにする。

普通のミルク・ゼリ−よりも固めにできます。

*コ−ヒ−ゼリ−
1、ミント・ゼリ−と要領は同じ。

*レモン・ゼリ−
1、粉ゼラチンを水1/4Cにつけておき 水2Cに砂糖を加え煮溶かし
 ゼラチンを加えて溶かし冷ましてレモンエッセンス少々とレモン汁を加えて混ぜる。
 少しとろりとするまで冷やして 用意しておいたキュ−ブ状の3色のゼリ−を混ぜて
 内側を水でぬらしておいた型に流し込み冷やし固める。




「 あら・・・ すばる、そんなに何度も冷蔵庫を開けてはダメでしょう? 
 温度が上がってしまって ゼリ−だってなかなか固まらないわよ。 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
先ほどから 5分おきくらいにキッチンに出没しては冷蔵庫のドアをばたばたやっている息子を
フランソワ−ズはかるく咎めた。

「 すぴかは? 」
「 お外に遊びにいっちゃった。 お友達と蝉採りだって・・・ 」
「 ・・・ 蝉?! ・・・・そ、そう・・・ ( 採れないと・・いいんだけどな・・ ) すばるは?
 一緒に行かないの? 」
「 僕・・・・ ゼリ−見てたいんだもん。  おとうさん もうすぐ帰ってくるよね? 
 一緒におやつ作ろうねって指きりしたのに・・・ 」
「 お仕事、忙しいのよ、きっと。 でも すばる達だけでできちゃった、なんて
 知ったらおとうさん、きっとびっくりよ? すごいな〜って おとうさんより上手かな〜って。 」
「 そっかな・・・ ?  おとうさん、びっくりするかな。 」
「 ええ、ええ、 きっとね。  そうだ、じゃあ、すばるにお願いしようかな。
 みんなのオヤツの用意を手伝って? お皿とスプ−ン。 あと・・・ ティ-カップをみんなの分、
 出してくれる? 」
「 はい! おかあさん 」

かちゃかちゃ・・・
案外手際よく すばるはガラスの器やテイ−セットを並べてゆく。

ふうん・・・・? 
よくジョ−にくっついてキッチンにいるけど、この子って結構器用なのかも・・・?

「 ただいま・・・ 」
「 あ! おとうさんだ!  おとうさ〜〜ん、おかえりなさ〜い!! 」

玄関でジョ−の声が聞こえるや、お父さん子のすばるはすっ飛んでいってしまった。

・・あらあら・・・。 やっぱりまだまだおチビさんってことね・・・
ちょっと感心して息子を眺めていたフランソワ−ズは苦笑して 
すばるが放り出していったランチョン・マットを拾い上げた。


「 おかあさん、おかあさん、見てみて〜〜〜! 」
玄関で何やら歓声があがっているな、と思っているとたちまちその声の主が
キッチンに飛び込んできた。
なにやら包みを小さな胸にしっかりと抱え、ほっぺを真っ赤にして、茶色の瞳がこぼれ落ちそう。

「 ただいま。 フランソワ−ズ・・・ 」
「 お帰りなさい。 お疲れ様、ジョ− 」
ここ、島村さんちですべての事柄に優先する<お帰りなさいのキス>、
もう子供たちは慣れっこで しっかり抱き合っている両親の回りで すばるはご機嫌で
ぴょんぴょん跳びはねている。 

「 ごめんね、すばる。 おやつ、一緒に作るって約束したのに・・・・ 」
「 え、うん・・・ ううん! おとうさん、僕たちだけでちゃ〜んと作ったんだよ!
 ね? おかあさん、僕とすぴかで作ったんだよね。 」
「 へえ? 凄いじゃないか。 楽しみだな〜 早く食べたいなあ。 覗いてもいいかな?」
「 だめだめ。 おとうさん。 冷蔵庫はちゃんと閉めて。 ゼリ−が固まらないよ。 」
「 は〜い・・・ 」

 − まあ。 すばるったら・・・。

吹き出したいのを必死でこらえて フランソワ−ズは息子の握り締めている包みに手を伸ばした。
「 あら〜 おとうさんのお土産? いいな〜  なあに? おかあさんにも見せて? 」
「 うん! ・・・・ ほら見て! 僕、ずう〜〜〜っと欲しかったんだ♪ 」
「 ・・・ なにかな〜〜 ・・・・ あら。 」

意気揚々とすばるが取り出したのは 小型のハンド・ミキサ−。 所謂自動泡だて器、である。
ブル−のボディに可愛らしい泡だて器が付いていて スイッチを入れると軽やかに回る。
電池式なのであまり威力はなさそうだが すばるの手には丁度いい大きさだ。

「 仕事が長引いちゃって。 オヤツ作りには間に合わないな〜って思ったから、
 ごめんねのシルシに買ってきたんだ。 すばるには家の泡だて器は 大きすぎるもんな。  」
「 ・・・へえ・・・ 泡だて器、ねえ・・・・ 」
「 すぴかはどこ?  すぴかには・・・・ これ。 」
ジョ−は 小脇に抱えていた細長い包みを差し出した。
「 ・・・ なあに? 日傘・・・? 」
「 ぶ〜〜〜♪ これはね、 虫取り網、さ。 」 ( 注: 捕虫網のこと )
「 虫取り!? 」

フランソワ−ズが小さな悲鳴を上げた。

「 すぴかはお外だよ、おとうさん。 蝉採りにいっちゃった。 」
「 お! じゃあ丁度いいね。 一緒に持ってゆこうよ、すばる。 」
「 うん! あ、おかあさん、これ、 三段目の引き出しに仕舞っておいて・・・
 あ、 おかあさんなら・・・ さわってもいいや。 ちょっとだけ、だよ? 」
「 はいはい。 」
「 あっと・・・。 これは おかあさんに。 フランソワ−ズ、きみのお気に入りのアップル・ティ−さ。 」
「 まあ、ありがとう! ちょうど切らしてしまって、ちょっとがっかりしていたの。 嬉しいわ〜 
 もう、ジョ−って何でもお見通しね。 」
「 きみのことなら なんでもわかるよ。 」

「 お ・ と ・ う ・ さ〜ん ・・・ 」

たちまち二人きりの世界に浸ってしまう両親の脇で
すばるがつんつんとジョ−のシャツの裾をひっぱった。

「 ああ、ごめん、ごめん・・・。 ちょっとすぴかを捜してくるね。 」
「 ええ、お願い。 帰ってくるころには ゼリ−がいい感じに冷えてるはずよ。 」

大小の良く似た後ろ姿を見送って フランソワ−ズはほ・・・っと吐息をついた。




  



「 ・・・なに? 思い出し笑いなんかして。 」
「 え? ・・・ふふ すばるのこと。 」

無事に完成した二人の<はつちょうせん>を みんなで心行くまで味わって
もう姉弟はとっくに外へ飛び出して行った。
どうしても 蝉を捕まえるのだと姉娘は大張り切りで 弟をひっぱって行った。

にぎやかな嵐のあと、これからがジョ−とフランソワ−ズの午後のティ−タイムである。

「 すばる? どうかしたの、元気だよね? 」
「 ええ、ええ。 そうじゃなくて・・・  案外あの子、器用なんだなってね。
 ジョ−、あなたに似てるのは見かけだけじゃないのねえ。 」
「 え、すばるはなかなか器用に包丁も使うよ? 」
「 包丁って・・・ ジョ−、だめよ、危ないわ! ちいさな子に刃物なんて・・・」

かちゃん・・・
びっくりして傾けてしまったカップを フランソワ−ズは慌ててソ−サ−に戻した。

「 そうかな。  確かに刃物は危ないけど。 ちょっと位指を切ってもいいんだよ。 
 そうすれば刃物の危なさを実感できるし。
 火傷してもね。 火ってこんなに熱いんだってわかれば無用心に手を出すこともなくなるよ。 」
「 ・・・ それは ・・・ そうだけど ・・・ 」
「 僕ら、教会に居た頃はけっこう小さな子でも炊事当番があってさ。
 まあ、たいした事は出来ないけど、大怪我した子もいなかったよ。 」
「 ・・・ そうなの ・・・・ 」

すとん・・・
ジョ−は ティ−・カップを持ったまま フランソワ−ズの隣りに座りなおした

「 へたっぴだって 失敗したって。
 とにかくやってみる事が大事だと思うよ。
 ほら、きみが大好きなほうれん草のグラタンね、 あれほとんどすばるが作るんだよ。 」

ちょっとしゅんとしてしまったフランソワ−ズの顔を ジョ−は微笑んでのぞきこむ。
どんな時にも温かい光を失わないセピアの瞳が 今日も穏やかに瞬いている。

「 え・・・・ そうなの?! 」
「 ホワイト・ソ−スを煉るのとかは 僕がやるけどね。
 下ごしらえや仕上げは もうほとんど全部すばるにまかせちゃってる。
 アイツって 本当に案外器用だよ? だんだん手早くなってくるし。 」
「 まあ ・・・ 全然知らなかったわ。
 あなたがお料理をするときに そばにくっ付いてるだけかと思ってたもの。
 へえ・・・・ そうなの〜〜  ふうん・・・・
 でも・・・男の子がお料理好きだ、なんて。 ちょっと・・・ね・・・
 もう少し、活発に外で遊んでくれてもいいんだけど。 」

空っぽになったガラスの器を重ねて、フランソワ−ズの想いは複雑である。
ジョ−が料理上手で、正直すごく助かっている。
それに<男の料理>は 女性にはない発想も多くとても美味しい。
 
でも・・・コレは母親の勝手な願望かしら。
息子は 出来れば野球でもサッカ−でも、そう、たとえ虫採りでも。
外で 元気に暴れまわっていてくれたら いいな・・・
勿論、お料理好きでもちっとも構わないけど。 器用な彼が頼もしいって思うけど。

「 それにね、すぴかは女の子だっていうのに 外で跳ね回ってばっかりでしょ。
 どうしても、蝉を捕まえるんですってよ。 」

ふう・・・・
ちょっと憂鬱そうなフランソワ−ズの溜め息に、ジョ−がくすくすと笑う。

「 きみ、昆虫って苦手だもんね。
 大丈夫、まだまだ蝉の方があの子たちよりも上手さ。 」
「 ・・・なら、いいんだけど・・・。 」






座りなおしたソファの隅っこから ピンクのソックスが丸まったまま転がり落ちた。

「 あらあら・・・ すぴかったらまた裸足でいっちゃったのね。
 もう、本当にお転婆さん。 女の子らしいことにちっとも興味がないみたいなのよ。 」
「 いいんじゃない? 二人とも自分が好きなことがあるんだから。
 男だ女だっていうんじゃなくて。 
 僕はあの子たちには 好きなこと、やりたいことを自由に選んでほしいな。 」
「 ・・・ そう思う? ジョ−は、それでいいと思う? 」
「 いいっていうか・・・。 う〜ん・・・ 僕はあの二人が幸せなら それがイチバンって思うんだ。 
 僕らに出来ることって そんなアイツたちを見守ってるだけかもしれないね。 」
「 見守るだけ・・・ ? 」
「 大丈夫、 アイツらは結構たくましいよ? なにせ きみっていう歴戦の戦士が
 おかあさんだし。 僕の血だってソコソコ役にたってると思うよ。 」
「 ・・・・ ソコソコなんて。 最強のヒトは だあれ? 」
「 き ・ み 。 僕の最強の女神・・・  あの二人は最上の天使さ。 」


 − ジョ− ・・・ あなたってひとは・・・


ちょっぴり滲んで来た涙を隠そうと、フランソワ−ズはきゅっと顔をジョ−の肩に押し当てた。

・・・ わたしには あなたがいてくれて 本当によかったわ ・・・

「 え? なに、なに? 聞こえないよ? 」
「 ・・・ うふふ。 ナイショ♪ 」
「 あ、意地悪〜〜 よおし、 じゃあ・・・・ 最後の一口〜♪ 」
「 ・・? ・・・・あ ・・・ きゃ ・・・」

ジョ−は フランソワ−ズの頬に手を当てると すばやくその唇を重ねた。

・・・ アップル・ティ−の最後の一口、ゴチソウサマ♪





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Last updated: 08,22,2004.                      index

illustrated by Ms.めぼうき