『 その理由 ― (2) ― 』
「 ねえ どうして? 」
碧い瞳が じ・・・っとジョーの顔を見つめている。
心底 わからない といった視線なのだ。
うっひゃあ〜〜〜〜 ・・・
こ こ この瞳 〜〜〜
た た たまらないぜぇ!
彼はもどぎまぎの極致、あまりの眩しさについつい視線は
足元に落ちてしまう。
・・・ ホントは いつまでも彼女を眺めていたいのに。
「 ねえ どうして? あの よかったら・・・
その理由 ( わけ ) を 教えてくださる? 」
彼女は 落ち着いた声で訊ね続ける。
うっは ・・・ !
や やめてくれぇ〜〜
・・・ 熱くなっちまう〜〜〜
湧き上がる激情を持て余しつつ 身体をかちかちにして
ジョーは ようやっと声を絞りだした。
「 あ あのう〜〜 か か かぞく ・・・ 」
「 ? 家族?? 」
「 あ ごめん 家族 なんて 勝手に言って・・・
あのあのあの でも 同じ家に住んでいるだから
そのう〜〜 あ やっぱ怪我とかしたら
あ〜〜 その〜〜〜 き 気になって ・・・ 」
「 まあ そうなの? ありがとう ジョー。
とっても嬉しいわ 」
彼女は 本当に本当に明るい笑顔になった。
「 そ そ そう・・・? 」
「 はい。 とても嬉しいです。 ありがとう!
でもね 本当に大丈夫なの。 心配させてごめんなさいね 」
「 あ う ううん ・・・ 」
「 そりゃ 怪我なんかしない方がいいし ・・・
上手な先輩方は怪我したりしないわ。
わたし まだまだ・・・だから もっと練習しないとダメなの。 」
「 そ そうなんだ ? 」
「 うん ・・・ あんまり怪我しないように気をつけます。 」
「 そ そう ? 」
「 うん。 でも嬉しいわ。 ジョーがわたしの仕事について
関心をもってくれて 」
「 え ・・・ 」
「 だって 全然興味ない、って感じだったから ジョーって。 」
「 そ そんなこと ないよ。
あ でもね 本当になんにも知らないんだ。
・・・ あ〜〜 そのう 教えてくれるかなあ 」
「 あら なあに 」
うん、 と ジョーはちょっと言葉を切った。
「 ・・・ そのう〜〜 なんで回ってるわけ? 」
「 ? どういう意味? 」
「 あ〜〜 そのう その回転力のモトはなにかなって。
なにか特別な装置が入ってる・・・? その靴の中に さ 」
「 え え〜〜〜 ??? 装置??? この中に?
え〜〜〜〜〜 なんで そう思うわけぇ ? きゃあ〜〜 」
フランソワーズは声を上げて笑い転げている。
え・・・ フランって
こんな風にも笑うんだ?
・・・ そこらへんのJK達と
たいして変わんないじゃん?
そっか ― 普通の 19歳 なんだよねえ
「 え あの そのう・・・ ち ちがうの? 」
彼は おずおず そ・・・っと口を開いた。
「 きゃはは 〜〜 ちがうわよぉ〜〜〜〜
あのね あのね まず軸脚がね 」
彼女は ジョーの前に立ち 脚をまくり上げて説明を始めた。
「 こう〜〜 やってねえ 」
「 う うん ・・・ 」
目の前に すんなり形のいい脚、タイツに包まれてはいたけれど
それを惜し気もなく出されジョーはもう それだけでくらくらしているのだが。
「 でしょ? それでね〜〜 よおく見てて?
あ ちょっと下がってね〜〜 」
「 あ う うん 」
「 えっと これどけて・・・っと 」
肘掛椅子とテーブルをずらし ジョーに端っこに寄ってもらった。
「 まずね〜〜 あ この時は 下と上、そして横にもチカラの
ベクトルが向くでしょう? それで 実際に動いてみると
・・ こうなるわけ。 」
フランソワーズは くるくる回って一旦止まった。
「 ちゃんと説明するわね 」
「 あ うん ・・・ 」
「 あ なにか 紙 あるかしら? ああ これでいいわ 」
彼女は新聞紙を持ってくると なにやら矢印を書き始めた。
「 ね これがグラン・フェッテの チカラのベクトルよ。
いい こうなってね・・・ 」
こと細かく理論的に力学上の観点から < グラン・フェッテ > を
解説してくれた けど・・・
ち ちからのベクトル?
・・・ そんなん理科でやった・・・?
お〜〜 さすが 理系女子〜〜
細かいなあ ・・・
けど。 ぜんぜんわかんね〜〜〜
「 だから ほら〜〜 こういう風に回れるのよ 」
シュ・・・ シュ ・・・
彼女はスカートの裾を翻しつつ回りはじめた。
「 う ・・・ わあ〜〜〜 」
ジョーは もうまさに文字通り 目が点 状態だ。
くらくらする なんて感覚、久しぶりで味わった。
・・だ は 〜〜〜〜
な なんか 目 まわる・・・
「 ってね? わかったかしら 」
「 あ・・・ う〜〜ん なんとか・・・ 」
「 そうねえ 見てるだけじゃわかんないわよねえ 」
彼女も 彼の怪訝な顔に気づかないわけはない。
「 あ〜〜 じゃあ ・・・ ね? やってみる? 」
「 え? ぼ ぼくが?? 」
「 そうよ。 やってみる方がよくわかるわ 」
「 え え〜〜〜〜 無理だよぉ〜〜〜
まったくやったこと ないんだよ? 」
「 ちょこっとだけ・・・よ。 ほら 」
「 ちょこっと・・・? 」
「 ええ 」
「 う う〜ん ・・・ 」
ぼくだって もともと結構運動神経 よかったし?
この身体になって いろいろ・・・最強だし
脚だって強化されてるし ・・・
もしかして〜〜 ちょろい かも
「 じゃ じゃあ・・・ やって みよっかなあ
あ 教えてください。 」
「 うん うん ほら ここに来て立ってみて 」
「 おっけ〜〜 ( 案外うまくゆく かも〜 ) 」
ジョーは なんでもない風に彼女の横に立った。
よ〜〜し まず 片脚で立ってたな〜
できる かも〜〜〜
へへへ ・・・ フラン、驚くぞぉ〜
― とんでもなかった。
まず 立ち方 から違うのだ。
「 まっすぐ立って。 まっすぐ 」
「 ・・・ 立ってる けど。 まっすぐ。 」
「 反ってるわ。 お腹 引っ込めて。
あ オシリださない〜〜〜 膝! のばして ! 」
「 う? う う??? 」
「 いちいち脚 見ない! 視線はまっすぐ前 よ 」
「 あ ああ 」
「 そして まっすぐ上 よ。 天から引き上げられる気分で。
それから 脚 アンディオール ! 」
「 あん・・・? なに?? ブランド物?? 」
「 ちがうの。
脚の付け根から〜〜 ま わ す ! ほら 」
ぐぎ。 ジョーの股関節が悲鳴を上げた。
「 ぐぅ 」
「 ? どうか した? 」
「 う ううん な なんでも ・・ 」
ひえ〜〜〜〜〜〜〜〜
・・・ ウソだろぉ〜〜〜〜
「 いい? これが基本のキ。 この姿勢で全て、やるの。 」
「 ひえ〜〜〜 ぼく 一歩も動けない〜 」
「 回ってみない? ジョーは普通に右利きよね 」
「 ?? そうだけど・・・ 」
「 じゃ 普通に左脚を軸にして〜〜〜 まず片脚で立ってみて 」
「 こ こう・・・ あ?? あ うわあ〜〜〜 」
どってん ・・・ !
最初の最初 で ジョーは見事に?床にひっくり返った。
「 ・・・ って〜〜〜 シリがああ〜〜 」
「 あらら 大丈夫? 」
「 う ・・・ な なんと か ・・・ いてえ 」
「 オシリから転ぶと 案外痛いでしょう? 」
「 ううう ・・ うん そうだねえ いて〜〜〜 」
「 わたしは 自分自身で自分を投げちゃった・・・って感じ。
そしてやっぱりオシリから着地しちゃったのよ 」
「 ・・・いって・・・ あ そうなんだ? 」
「 そうです。 この衝撃はねえ サイボーグだって同じよぉ
・・・ 歩けて感謝 って気分 」
「 だよねえ ・・・ いててて 」
「 シップ、 貼っておいたら 」
「 ん ・・・
フラン、きみはこんなスゴイことをやってるんだ?? 」
「 すごくなんかないわ もうちっちゃい時からず〜〜っとやってるから
慣れちゃったし 」
「 ひえ・・・ 慣れる? すっげ 」
ふう〜〜〜〜〜〜 ・・・
ジョーは 激しく深いため息を吐いた。
「 なあに どうかした? 」
「 いや ・・・ そのう さあ。
フランソワーズは ものすごいコトを仕事にしてるんだなって
なんか もう・・・ 感動だよ これは。 」
「 あらあ まだ < 仕事 > にはなってないの。
仕事になるように 訓練中よ 」
「 そうなんだ? ああ でも なあ ・・・
・・・ ニンゲンの身体って スゴイね 」
「 ジョーもそう思う? 」
「 ん。 ものすご〜〜〜〜く マジ そう思う 」
「 なんの推進剤ないのに 回る! それも 32回 !
しんじらんない〜〜〜
」
「 そう? でも力学的には十分可能なのよ 」
「 そ〜れはわかったけど ・・・ でもさ 実際に
目の前でみちゃうと やっぱすご〜〜〜く不思議なわけ ・・・
なあ 回ってる間って なにかんがえてるの 」
「 え なに って ・・・ う〜〜〜ん???
あ 回数 数えてる かな 」
「 ふう〜〜ん でもさ かなりの勢いが付いてるだろ? 」
「 そうねえ そのチカラを上下に使ってるんだけど 」
「 なんかさあ〜〜 すっげメカニックだよなあ
あ でも あの勢いで吹っ飛んだら ・・ 危ないよ!
脚! 本当になんともない? 」
「 あははは 少々擦り傷〜〜 で。
オデコの打撲も 博士に修復して頂きました♪ 」
「 そうなんだ ・・・ よかった ・・・
あ ごめん、脚 痛いのにいろいろ 説明してくれて 」
「 だ〜から 平気なのよ。 チビの頃から何回も何十回も
ころんだり 吹っ飛んだりしてたから 」
「 そっか ・・・ 」
「 うふ でもねとっても嬉しいわ、真剣に心配してくれて。
それに何よりわたしの仕事に興味を持ってくれて
ありがとう♪ 」
「 いやあ ・・・ ぼくはさ ニンゲンの凄さ に
なんか感動だよぉ 」
「 それは そうねえ 」
「 だろ? サイボーグ なんてなんにも発展しないじゃん?
ニンゲンは 訓練によって変化するんだもんなあ 」
「 そう ね ・・・
わたし、サイボーグのくせに無理矢理 変化を求めている かも 」
「 そ そんな こと ない!
きみは 一番ニンゲンに近いんだ だから一番可能性があるってことさ 」
「 ・・・ ジョー ありがとう。
そう言ってもらえると 明日も踊る勇気がでるわ 」
「 え へへ・・・ ぼくも ( きみの笑顔がみれて )
ウレシイよう〜〜 」
ジョーは相変らず 口の中でもごもごと言った。
― さて その夜、晩御飯の後
チクチクチック ・・ しゅ。
白い指が巧みに動き 針を進めてゆく。
「 ・・・ 」
ソファの隣では ジョーがTVにくぎ付けになっている・・・
風をみせ その実、視線の集中先は彼女の指先だ。
すげ〜〜〜
< 縫う > ってすげ〜仕事だよなあ
なんでこんなに細かく 動くんだろ・・・
白い指先が ほんのりピンクになってて
うひゃあ〜〜〜 食べちゃいたい・・!
< 隣 > で フランソワーズはなにをしているのか といえば
― 針仕事をしているのだ。
彼女は ほぼ毎日、なにかを縫っている。
ジョーが 破いてきたシャツを繕ってくれる日もあるし とれたボタンを
縫い付けている時もある。
博士の白衣がぼろぼろだ、と怒って縫い直していた日もあった。
しかし ほとんどの場合は ― 今夜と同じ だ。
ピンク色の布でできた室内履きみたいな物体に
ひらひら・・リボンを縫い付けている。
「 なあ・・・ それ なに? ・・・ くつ? 」
「 え? ああこれ ポアントにリボンをつけてるの 」
「 ぽ ぽ?? 」
「 ポアント、 あ トウ・シューズのことよ 」
「 とうしゅ〜ず? ・・・ あ あの爪先でたつ靴のこと? 」
「 あ〜 まあ そうね。 わたし達の商売道具 デス 」
「 へ え・・・ なんか硬そう・・・だね? 」
「 最初は ね。 ちょっと触ってみる? 」
「 いいの ? 」
「 どうぞ〜〜 このリボンで足に・・・ そうねえ
縛りつけるの。 」
「 ・・・ わあ 」
ジョーは おそるおそる艶々ひかるその靴の表面に 触った。
「 かっちかちじゃん? これ ・・・ 履けるの? 」
「 ええ。 履いてみましょうか? 」
「 うん!! ・・ それ なに? 」
「 これ? ああ トウ・パッドよ。 足指のクッション かな 」
「 ふうん ・・・ 」
フランソワーズは 小型のクラゲみたない半透明のモノを
足先にかぶせ その カチカチの靴 に足をいれた。
「 ・・・ 痛くない・・? 」
「 痛いわよ 」
「 え それで ・・・ 踊るんだろ? 」
「 うん。 こうやってリボンで結んでねえ ・・・ 」
「 うん ・・・ 」
きゅ。 きゅ きゅ ・・・
彼女は蝶結びにしたリボンの先を足首に巻いたリボンの下に押し込んだ。
「 ・・・ おわ ・・・ 」
「 脱げないように カカトにゴムをつける時もあるわ。
長持ちさせるために 先っぽを糸でかがったりするけど ね 」
「 ・・・ そ それ ・・・ 布製? 」
「 ほぼ ね。 ソール、 あ 底ね そこは革だけど 」
カンカンカン 暖炉の縁で少し馴らす。
「 なんか〜〜 滅茶苦茶硬そうな音だけど ・・・ 」
「 硬いわよぉ〜〜 新品のポアントで殴ったら 失神するか
怪我するか だわね 」
「 ひえ〜〜〜〜 それを 履く? 」
「 そ。 レッスンで馴らすのよ だんだん足にフィットしてくるわ。
足指が剥けたりするのは 日常茶飯事 」
「 げ。 ・・・ でも 布なんだろ?
あんましもたないんじゃない? 」
「 そうねえ〜 だいたい一週間に一足は消費するわねえ
リハ―サルが入ると もっと潰しちゃうけどね 」
「 へ え ・・・ あ それで きみ、いっつも
縫ってるのかあ 」
「 ぴんぽん☆ 」
「 ふうん ・・・ ぼくにはやっぱり魔法の靴 に見える〜〜 」
「 うふふ そうかも ね〜〜
わたし達はチビのころ み〜〜〜んなこの靴に憧れて
ポアントでくるくる回ったり 踊ったりしたくて
レッスンを重ねてきたのよ 」
「 へ え ・・・ なるほどえね ・・・ 」
「 だから わたし。 やっぱりどうしても どうしても
踊りたくて ・・・ ワガママね 」
「 そんな こと! そんなこと ないよ!
すごいよ フラン。 ホント、すごい と思う。 」
「 ・・・ありがとう ジョー 」
「 あ ううん ぼくこそものすご〜〜く勉強になったよ!
きみって ・・・ ホントにすごい世界で生きてるんだね 」
「 あらあ そんなこと、ないわよ〜〜
そりゃ 足が痛いこともあるけど 踊れるってことは
最高に幸せなのよ 」
「 ふうん ・・・ いいね そんなに夢中になれることがあるって 」
「 そうねえ そうかもしれないわ。
ジョーは? ジョーの < 夢中になれること > って
なあに。 」
「 あ う〜〜〜ん ・・・ 現在 模索中 ってとこかな 」
「 そっか。 きっと見つかるわ! 」
「 ・・・だといいけど 」
「 Good luck ! よかったら・・・ 見つかったら教えてね 」
「 あ〜 そうだなあ うん 」
ホントは さ。
ぼく もう見つけてるんですけど。
ジョーは心の中で こそ・・・っと呟いていた。
取り合えず 彼は彼の意中のヒト の 世界 を
垣間見、すこしは 理解の手掛かりを得た・・・と自覚している
手掛かりを探すべきエリアは わかったぞ
どう攻めるか〜〜 ってトコかなあ
あれ。 じゃあ ぼくは。
どうして彼女が好き なのかな。
美人だ とか 仲間だ とか そんな単純で浅薄な理由ではない。
と 信じている。 しかし。
「 ・・・ う〜〜ん ??? 」
改めて 彼は考え込んでしまうのだ。
「 明確な理由がなけりゃ コクれないじゃん〜〜
ただ ただ 好きなんですぅ〜 じゃ 中坊だよ 」
「 え ちゅうぼう? ああ キッチンのことでしょう? 」
「 へ??? 」
「 ジョー なにかお料理したいの? ちゃんと片すのなら
どうぞ自由に使ってね。 」
「 あ いやあ ・・・ そういうことじゃ ・・・ 」
「 ??? 」
「 あ うん。 あのう ちょっと小腹が空いたから
そのう ・・・ カップ麺 作ってくる・・・ 」
「 まあ 〜〜 もうお腹 減ったの?
あ 晩御飯 足りなかったかしら 」
「 え いい いやいやいや〜〜〜 そんなコトは 」
「 わかったわ。 明日からもう一品 増やすわね。
なにがいいかしら・・・ あ ナットウ とか? 」
「 ・・・それは 朝ご飯 ・・・ 」
「 そう? それなら〜〜 あ オツケモノ。
この前 スーパーで売ってたあの黄色いの、買っておくわね 」
「 ・・・ あ ・・・・ あ アリガトウ ・・・ 」
翌日の晩御飯から ジョーの前には沢庵がまるまる一本
しっかりお皿の上に寝ころんでいるのだった・・・
ぱふん。 もぞもぞもぞ。 ごろん。 もぞもぞもぞ。
その夜 ジョーはなかなか寝付けなかった。
ベッドの中で輾転反側 ― 洗いたてのリネンがぐしゃぐしゃになってゆく。
それでも 眠れない。
「 ぁ・・・ は ・・
でもでもでも ― 彼女が好き なんだあ〜〜〜
理由 ・・なんてないよ 見つからないよぉ〜〜 」
灯を消した天井に浮かぶのも 彼女の白い顔。 輝く微笑み なのだ。
「 だってなあ・・・ 最初の印象、強烈すぎ、だし。
あんな真摯な眼差しって ― 見たこと、なかったんだ。 」
はあ 〜〜〜〜 ・・・ 熱い吐息が降り積もる。
「 厳しい表情ばっかりでさ ・・・ キツい子なのかなあ〜〜 なんて
勝手に思ってたけど。 あの笑顔〜〜〜 ああ 」
― つまり 彼は彼女の微笑に ずきゅん! とハートを射貫かれた と
いうわけなのだが。
「 ぼくだってさ オトコ なんだぜ? そんな笑顔してくれたら〜
思わず押し倒しちゃう・・・ ぜ?
はあ〜〜〜 ・・・ 夢の中とは 勝手が違うぜ ・・・ 」
・・・ 自己嫌悪だよ ・・・
ぼくって ホント 卑しいヤツだったんだ
う〜〜〜〜〜〜〜 ・・・ あ〜〜〜
文字通りアタマを抱え じたばたじたばた。
悶々として暗闇の中で天井を見つめ ・・・
こんな時 最新型であるはずの人工脳は な〜〜〜〜んの回答も
弾きだしてこない のだ。
ふん ・・・ このポンコツめえ〜〜
なんとか言ったらどうなんだよぉ
ふん! ツクリモノには こんな微妙〜〜で
ムズカシイ問題なんぞ 扱えねえんだな〜〜
自分自身の < 人工的な中身 > に 毒づいてみたり。
でも 事態は ま〜〜ったく進展しない。
・・・ は ・・・ あ ・・・・
もう 〜〜〜 なんだってそんなに魅力的なんだよ
フラン〜〜〜〜 好きなんだよぉ
「 だからさ〜〜〜 ああ この笑顔を護るは ぼく だけなんだ!
って 思っちゃうじゃないかあ〜〜 ・・・ だから ・・・ 」
あ。
突如 彼の脳裏を一陣の風が吹き抜けた。
がさ。 飛び起きて ベッドの上に座り込んだ。
「 そ そうだ ・・・よ! あの笑顔を見たいんだよ。
だから 彼女がいつも微笑んでいられるよ〜にする!
それがぼくの幸せなのさ ― 生き甲斐なんだ。
だから。 好き。 それがぼくの理由 さ。
「 そうさ そうなんだ。
それた ぼくが < 夢中になれること > さ! 」
ざ。 ベッドの上、 くちゃくちゃの夜具の上に 正座した。
「 ぼくが。 ぼくが護る! それがぼくの使命なんだ 」
よし やるぞ! ( なにを・・・? ) と ジョーは勇気もりもり
堂々とベッドから降りた。
「 ふ ん・・・ まあ ちょっと水でも飲んでこよう。
あ コークとかあったはずだよね
ぼくの宣言記念日だあ〜〜〜〜 景気付けしよっと ♪ 」
とんとんとん♪ ふんふんふん 〜〜〜
彼は超〜〜ご機嫌ちゃんでキッチンへ降りていった。
ふんふ〜〜ん ♪ ・・・ あれ。
真っ暗なはずのキッチンには 灯が点いていた。
「 ?? ど 泥棒・・・ のはず、ないよな。
あ 誰か ・・・ 博士とか? 」
キシ。 こそっとドアを開けた。
「 ・・・ あの ・・・? 」
「 ! あ あら ジョー 」
「 フランソワーズぅ 〜〜〜 どうしたの ! 」
「 え あ あの 」
フランソワーズは パジャマの上にカーデイガンを羽織り
テーブルの前で 椅子に足を乗せていた。
「 あ ごめん〜〜 ぼく 咽喉 乾いてさ・・・
あ お茶、淹れようか 」
「 あ ・・・ う〜ん いいわ。 今ね 冷やしているから 」
「 冷やして?? 熱でもあるのかい 」
「 ・・・ うふ やっぱりね〜 ちょっと痛くて 」
彼女は ちょっと顔を赤らめ腰の辺りを指した。
「 あ! 昼間 転んだとこ? 」
「 そ。 オシリだからそんなに影響ないかな〜〜 って思ってたんだけど
夜になったら やっぱり痛くて 」
「 それで冷やしてるんだ? あ シップとかは 」
「 う〜ん 打撲には 氷 が一番なのよね
でも ふふふ さすがに冷たくて 寒いわ ハックション ! 」
「 そりゃ 冷えるよ〜〜 夜だし ・・・
あ ヒーター いれるよ 」
「 いいの いいの。 もう 戻るから ・・・ 」
「 だって・・・ 痛いんだろ 眠れるかい
そうだ ちょっと待ってて 」
「 え ええ? 」
ジョーは 冷蔵庫を開けるとミルクのパックを取りだした。
「 これ。 案外効くって。 リラックスもできるしね〜
ああ 座って待っててくれる 」
「 ・・・ ありがとう ジョー ・・・ 」
コトコト コトコト。 カチャ カチャ・・・
ジョーはガス台の前でしばらくもぞもぞ〜 やっていたが
やがて ―
シュン! お。。。 とぉ
・・・ う〜〜ん ちょっち温めすぎ かなあ 〜
「 ジョー ・・・? 」
「 よ・・・・っと ・・ さあ 温まったよぉ〜 」
「 わあ・・・ ふふふ いい匂いの湯気ねえ〜
なにか 入れた? 」
「 ウン。 シナモンと砂糖。 ちょこっとづつだけど
いいでしょ? 」
「 すてき。 〜〜〜〜 ふうん 〜〜〜 」
「 さ 一緒に飲もうよ〜 」
「 わあ いいわね 」
カタン カタ。 深夜のキッチンで椅子を並べた。
「 〜〜〜〜 ん ・・・ ああ いい香ねえ 」
「 ふわ〜〜〜ん って鼻に抜けるだろ?
シナモンのにおいって なんか安心する ・・・ 」
「 そうね ・・・ ん〜〜 おいし♪ 」
「 身体 温かくして さ。 傷めたトコだけ 冷やせばいいよ
自然にねむくなる 」
「 ふうん ・・・ 詳しいのね 」
「 あは ガキの頃、怪我した時にね 神父さまに教わったんだ。
・・・ 怪我した日の夜は 昼間よか痛いよって 」
「 ・・・ そうね ・・・ 」
「 そんな時には心を緩めるのがいいんだって。
ぼく 神父さまの部屋でホット・ミルクが飲みたくて
わざわざケンカしたり したんだ 」
「 まあ ・・・ でも 心を緩める っていいわね 」
「 ね? ホット・ミルク いいだろ 」
「 ん。 ありがと、ジョー・・・ 」
マグ・カップを持ったまま 彼女はほんのりと笑った。
「 あ もう 大丈夫だよお いい笑顔だね 」
「 え あ そう? 」
「 ん。 ゆっくり眠れるよ きっと 」
「 うん ・・・ ジョーって すごいわあ 」
「 えへ そっかな〜〜 そうなりたいな ・・・ 」
「 ステキよ ジョー♪ お や す み なさい♪ 」
ぱあ〜〜〜 っと 笑顔が花開く。
「 あ う あ ・・・ おやすみ・・・ 」
う〜〜〜〜〜 キスしたい したい〜〜〜
カワイイよう〜〜〜
― この笑顔 !
ジョーは夜更けのキッチンで 心の底から湧きあがる熱い 熱い想いを
しっかりと 噛み締めた。
ぼくは。 きみの笑顔、 きみ自身を 護る。
― きみが 好き だから !
それが ぼくがきみを護る理由!
その日から ジョー君の一生を掛けた < 闘い > が
始まったのであった ・・・!
****** ちょっと オマケ *****
ずっと後 − 子の二人がなんとか結婚に漕ぎ付け、 剰え 可愛い双子に恵まれ。
どこにでもいる・ありふれた夫婦になってからのこと・・
ジョーは一家の主として 仕事に精をだし家庭を大切に生きている。
フランソワーズはバレエ団の中堅になり
次のステージのためのリハーサルを重ねていた。
そんなある日 ・・
スタジオで 次の作品でパートナーを組む タクヤと自習に励んでいる。
「 ねえ タクヤ。 ちょっと聞いてもいい 」
「 ああ? なに 」
「 あのねえ これ わたしが聞かれたのよ 随分 前なんだけど・・・
そのう〜〜 < 普通のヒト > から ・・・ 」
「 ?? 」
「 どうして踊るのか って。
その時 わたし 答えが見つからなくて。 タクヤは どう? 」
「 どうして 踊るのかってか? う〜〜ん・・・? 」
「 理由 言える? 」
「 ・・・ わかんねえ 」
「 でしょ。 ただ言えるのは 好きだから かしら 」
「 あ〜 たしかに。 好き だよなあ 」
「 ね? 」
「 うん ・・・それだけ かも 」
「 そうよねえ そんなもんよねえ・・・
あ ! 」
「 な なに? 」
「 ・・・ う ううん なんでもない の 」
あ。 ジョー ってば・・・
わたしのこと、いろいろ気にしてくれたのは
もしか して・・・。
わたしのこと 好き ・・・ だったの?
え〜〜〜〜〜〜〜
あんな 出会ってほとんど経っていない頃から??
うっそ〜〜〜〜〜〜
わたし。 ただの坊やだと思ってたわよ?
・・・ きゃあ どうしよう??
「 ??? フラン どした???
なに 真っ赤になってんだ?? 熱・・・? 」
「 え・・・ 」
「 おい〜〜〜 大丈夫かよ〜〜〜 」
・・・ 大丈夫・・・じゃないわあ〜
やだやだ〜〜〜〜 ジョーってば・・
あの頃から ・・・?
きゃ〜〜〜 全然 気が付いてなかった・・・
************************** Fin. ************************
Last updated : 02,09,2021.
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*************** ひと言 *************
つまり この二人は 似たモノ同士の似たもの夫婦(^^♪
どうぞお幸せに・・・・ってか (*´▽`*)
ポアントはねえ きちんと < 立てる > ようにならないと
回れないし 踊れないのですよん☆
シナモン・ミルク、美味しいよ! やってみて〜〜